高松地方裁判所丸亀支部 昭和56年(ヨ)9号
申請人
高橋蓉子
右訴訟代理人弁護士
金澤隆樹
同
高村文敏
同
久保和彦
同
臼井満
被申請人
社会福祉法人恵城福祉会
右代表者代表理事
浅野吉治郎
右訴訟代理人弁護士
堀井茂
同
黒田充洽
同
有元実
同
曽田淳夫
同
中吉章一郎
主文
申請人が被申請人の主任保母たる従業員である地位を仮に定める。
被申請人は申請人に対し、昭和五六年二月以降、本案判決確定に至るまで毎月二八日限り金一九万五〇三〇円を仮に支払え。
申請費用は被申請人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 申請人
主文同旨
二 被申請人
申請人の本件申請をいずれも却下する。
第二当事者の主張
一 申請の理由
1 被申請人は、社会福祉事業法に基づき、昭和四三年八月一日保育所の経営を目的として設立された法人であり、保育所恵城保育園(以下園という)を経営している。
2 申請人は、昭和四三年九月一日被申請人の事業開始と同時に主任保母として、期限の定めなく雇用され、以来その業務に従事し、昭和五五年一二月ころには月額金一九万五〇三〇円の賃金を毎月二八日限り受給していた。
3 主任保母は他の保母に対する指導計画作成の指導、運動会等特別行事に関する計画並びに指導、園児の特定の組を担任し、もしくは担任しないで全般的な保育の業務を行う、保母の中でも最も重い任務を有する保母である。
4 被申請人は、申請人に懲戒事由があると称し、昭和五六年一月五日口頭で同年一月一日付で主任保母を解任(以下本件降格という)する旨の、同年二月一〇日到達の内容証明郵便で通常解雇規程である就業規則第一一条四号の事由により同月一〇日付で解雇(以下本件解雇という)する旨の、各意思表示をなした。
5 しかしながら、本件降格及び本件解雇は、次のとおり、懲戒権ないし解雇権の濫用(以下単に解雇権の濫用ともいう)もしくは不当労働行為であるから、いずれも無効である。
(一) 申請人の主任保母としての就業態度は、雇用されて以来一貫して有能かつ勤勉であって、被申請人の就業規則に違反するような事由は一切存在しない。従って、本件降格及び本件解雇は解雇権の濫用というべきである。
(二) 申請人は昭和五二年三月から同年六月まで恵城保育園職員組合の委員長を、同年六月から昭和五五年三月まで同組合監査委員を、同月から日本社会福祉労働組合恵城保育園分会(以下組合という)の執行委員長に就任し、積極的に組合活動に取組んでいた。右活動は、園の園児の保育条件の向上、保母等職員の給与、労働条件等待遇改善を目的とするものであって、その手段も団体交渉、地方労働委員会への斡旋申請、行政機関への要請、陳情等いずれも正当なものである。しかるに被申請人は右組合を敵視し、組合の瓦解ないしは弱体化を図るため、右組合において中心的に活動をなしている申請人に対し、本件降格及び本件解雇をなしたものであるから、不当労働行為というべきである。
6 被申請人は本件降格及び本件解雇を有効として、昭和五六年一月五日以降申請人を主任保母として処遇せず、同年二月一〇日より申請人の就業を拒絶して申請人の主任保母たる職員としての雇用契約上の地位を認めない。
7 申請人の夫は、香川県高等学校教職員組合の専従委員長として月額金二五万円程度の給与を受けているが、子供が二人おり、これら家族の生活のためには申請人の前記給与収入の全額が必要である。
申請人は、本訴提起の予定であるが、その結果を待っているのでは著しい損害を蒙ることは明白である。そこで、申請人は被申請人に対し、主任保母としての雇傭契約上の権利を有する地位を仮に定め、昭和五六年二月以降本案判決確定まで一ケ月一九万五〇三〇円の割合による金員を毎月二八日限り支払うべきことを求めるため本申請に及ぶ。
二 申請の理由に対する認否と被申請人の主張
1 申請の理由1項記載の事実は認め、同2項中主任保母の任命時期を争い、その余の事実は認め、同3項の主任保母の職責の主張は争い、同4項記載の事実は認め、同5項の解雇権の濫用及び不当労働行為との主張は争い、同6項記載の事実は認め、同7項記載の事実及び主張は争う。
2 被申請人が本件解雇をなすに至った事情及び理由は次のとおりである。
(一) 申請外岡田房枝(以下房枝と略称する)は丸亀市において初めての私立保育園を開設するため私財を投じて園舎等を建設し、昭和四三年八月一日社会福祉事業法に基づき被申請人法人を設立し、理事長に就任した。
園は開園当初園児定員九〇名で出発したが、房枝は更に順次私財を投じて園を拡充し、昭和五二年には定員三〇〇名、保母三〇数名を数えるまでに発展させ、園の開設二年後からは園長をも兼任した。
(二) 申請人は被申請人に園が開設されると同時に保母として採用され、間もなく主任保母に任命され、問題もなく主任保母として勤務していた。
(三) 被申請人の会計には次のようなものがあったが、これは被申請人理事会及び理事長の権限下にあった。
(1) 措置費会計
被申請人は、地方公共団体から園児の措置委託を受け、この委託を受けた園児の定員数に応じた保育措置費(以下措置費という)を支給されるが、右措置費の収支に関する会計
なお、右措置費は被申請人の収入の大部分を占め、この中から保母等職員の給与や、園児の給食費等の生活費が支出されることになるが、その支出項目は指定されている。
(2) 特別会計
被申請人の特別会計には次のもの以外にも土曜保育料収入に関する会計、協力費収入に関する会計等がある。
(イ) 雑会計(別名リベート会計)園児の制服・本・肝油等につき、園が保護者から代金を徴収し、保護者に代わって購入した際の購入業者からのリベート及び園備付の公衆電話の手数料等雑収入に関する会計
(ロ) 主食会計(別名米食会計)
園児に対する給食のうち、主食については園児持参が原則であるが、被申請人においては便宜上のサービスとして保護者から主食代金を徴収して園児に米食等を提供しているところ、右サービスによる手数料収入に関する会計
(四) 被申請人は昭和五二年二月香川県(以下県という)から特別監査(以下特別監査事件という)を受け、その結果、被申請人は昭和四九年から同五一年にかけて措置費を不正に流用していた行為が発覚し、そのため房枝は理事長及び園長を辞任し、当時園の事務長として勤務していた房枝の夫申請外岡田巌(以下単に巌と略称する)も事務長を辞任して用務員に降格した。そして後任の理事長には申請外浅野吉治郎(以下単に浅野と略称する)が、後任の園長には申請外伊藤文子(以下単に伊藤と略称する)が就任した。
(五) 伊藤は民間保育園の園長としての経験がなく、園の実情も分らず、しかも県全体の保育園の父母の会事務局長を兼任し、毎日園に出勤できなかったため、被申請人は伊藤からの要請により、申請人を昭和五二年四月ころ口頭で園長代行に任命した。
(六) 申請人は、主任保母と園長代行の権限を濫用し、房枝が理事長を辞任した後は浅野が理事長に就任したのであるから、被申請人の一切の会計は同人の管理下に置かれるべきであったのにこれを無視し、会計に関して次のような行為を行った。
(1) 会計管理上の越権行為
措置費会計につき、昭和五二年四月から同五三年六月まで自己において管理するとともに、特別会計の中の雑会計及び主食会計につき、これについて帳簿、預金通帳等を返還せよとの理事会の命令に反し、雑会計については昭和五二年四月から同五三年一〇月まで、主食会計については昭和五二年四月から同五四年三月ころまで管理し、しかも管理の方法は、主食会計についてはその預金名義を申請外菅綾子(以下単に菅と略称する)の、雑会計については申請人の各個人名でなし、雑会計帳簿には公衆電話代収入等定期的に収入のあるものに記載もれがある等収入全てを記帳したか疑わしく、米食会計帳簿・預金通帳には昭和五二年二、三月分の米食手数料の入金が記載されておらず、帳簿と預金通帳の残高経緯も一致しない。
(2) 会計支出上の不正行為等
申請人は措置費会計を管理中、年度途中である昭和五二年一〇月に自己及び菅並びに申請外笠原美智子のみを勝手に昇給させた。又、雑会計の支出中、職員の負担すべきおやつ代(アイスクリーム金二〇五〇円)、送別会負担金(金二万六〇〇〇円)、職員上靴代(金四万四〇〇〇円)、ソフトボール応援代(金一万六二〇〇円)、生活発表会・反省会費用(金一一万四一五〇円)、被申請人が負担すべきでない、あるいは儀礼の範囲を越える県職員及び市職員等の接待費(香川県福祉事務所長金一万円、県庁手土産金三九〇〇円、県職員来客用メロン他金八一七二円、お礼金二万九〇〇〇円、香川先生お礼金五〇〇〇円、県監査ケーキ代、昼食代金一五〇〇円、市監査ケーキ、接待食事代金八〇〇〇円)、不必要あるいは濫費と評すべきタクシー代(昭53・8・21金一万二四一〇円、昭53・9・2金三七〇〇円、昭53・12・20金二二八〇円、昭54・1・17金一九六〇円、昭54・2・16金二八〇円)等不正支出をなした。
更に主食会計においては、職員からの入金の少ない職員の給食費の預入・支出を主食会計の中で一緒に行い、園児の米食費から本来職員の負担すべき米食費及びおかず代を負担させた。
(3) リベートの収受
申請人は昭和五四年二月以降、雑会計が被申請人によって管理されるようになり、かつ被申請人からリベートの収受を厳禁されていたにもかかわらず、同年七月三一日青木写真館からリベートとして金一万五〇〇〇円を受取った。
申請人は、特別監査事件後県からの会計指導を曲解し、被申請人の措置費会計等は伊藤に管理権があるとうそぶき、伊藤にも無断で経理一切をほしいままに管理運営してきたものであって、右行為は就業規則四〇条三号に該当する。
(七) 申請人は主任保母として、次のような職責違反行為をなした。
(1) 申請人は、昭和五二年四月以降伊藤が欠勤がちで出勤時間が遅く、早朝の保育管理者が不在で保育業務に支障をきたすため、被申請人より午前八時出勤を命ぜられたにもかかわらず、これを守らず、右命令直後は八時二〇分ころ、しばらくすると八時四〇分ころにしか出勤しなかった。
(2) 申請人は、昭和五五年五月園長であった申請外吉川弘(以下単に吉川と略称する)が辞任するや、当時副園長に就任していた巌に敵対し、次のような行為をなした。
(イ) 就業時間中職場を離れて外出する際、巌に届ける義務を怠り、しばしば無断外出し、あるいは園内において所在不明となり業務に支障をきたした。
(ロ) 欠勤しようとする保母から欠勤届出を受けながら巌に届出ないなど、保母と副園長及び理事長とのパイプ役を故意に果さなかった。
(ハ) 昭和五五年末ころ、欠勤した保母の代用として保育に従事中であったにもかかわらず、その現場を離れ、巌と恵城保育園父母の会(以下父母の会という)会長との話し合いに同席を強行しようとし、結局巌の指示に従わず保育現場へ戻らなかった。
(ニ) 巌は、園の運動会等特別行事の計画立案の際には自己とも協議すべき旨を伝えていたにもかかわらず、申請人はこれを無視してプログラムを作成し、プログラムに巌の挨拶を抜かしたり、同人より先に来賓挨拶をさせるなどの司会進行をし、副園長及び園の信用を失墜させた。
右(1)の行為は就業規則一八条、四〇条四号に、(2)の行為は就業規則一五条、一六条三号、四号、八号、四〇条三号、四号に該当する。
(八) 虚偽の事実の流布等
組合及び父母の会は、被申請人や理事会及び房枝夫婦に対し、特別監査事件以降も、ことある毎に同事件を歪曲、誇張して取り上げ、理事会の体質が全く変っていない旨流布、宣伝し、更に虚偽の事実を作出し、特別監査事件以降も房枝を含む理事会が被申請人を私物化し、会計管理上数々の不正をなし、そのため給食等の保育環境が著しく劣悪な環境に置かれ、子供が泣いていると宣伝し、あるいは業者に対してリベートを強要している旨宣伝すると共に、理事全員につきこれを不適格者としてその辞任を要求し、そして、県、丸亀市に対しても、団体の威力を背景にして、理事会等に数々の不正事実があるように申告・陳情を繰り返し、監査請求までなし、更には理事全員の辞任を行政指導するように申立てたばかりか、刑事告発を行政当局に要求する等し、
その名誉及び信用を害したが、その中にあって、申請人は組合や父母の会の中核的・主導的な役割を果したのみか、申請人しか知らない被申請人の秘密事項を組合等に漏して宣伝させた。
右行為は就業規則一六条四号、六号に違反していることは明白であり、その違反の程度も重大であって、同規則四〇条三号、四号に該当する。
3 そこで、被申請人は昭和五五年一二月二七日理事会において、申請人に対し反省の機会を与えるため、申請人を主任保母から降格させ、反省の態度がみられないようならば、申請人の利益も考慮したうえ、申請人を懲戒解雇にせずに通常解雇にする旨を決定し、右決定に基づき本件降格をなしたが、申請人に反省の態度が全くみられなかったので、当初の決定どおり、本件解雇をなしたものであって、本件降格は懲戒処分ではなく、申請人が主任保母として不適任・不適格であったことからなした組織運営上の裁量処分であるが、仮に、本件降格が懲戒処分であるとしても、本件解雇は、右処分後における反則行為があり、情状上右処分前の行為が斟酌されたもので、二重処分に当らないことは当然である。従って、いずれにしても本件降格及び本件解雇は有効であり、被申請人と申請人間の雇傭関係は終了した。
三 被申請人の主張に対する認否とその反駁
1 被申請人の主張2項(一)、(三)、(四)記載の事実は認め、同(二)、(六)ないし(八)記載の事実及び主張は争い(但し(八)のうち、申請人が組合活動を積極的にしていたことは認める)、同(五)記載の事実は否認する。
2 会計上の越権ないし不正について
(一) 被申請人は特別監査事件後、県や丸亀市から強力な行政指導を受けて、措置費は勿論雑収入、主食費収入、土曜保育料収入、協力費収入等経理全般の権限を伊藤に集中し、伊藤のもとで措置費の帳簿と預金通帳の作成、収入に応じた特別会計の区分とその帳簿及び預金通帳の作成が行われ、右会計事務は保母である菅が専任として担当することになり、右通帳はすべて園の金庫内に保管された。
右通帳のうち、措置費は伊藤の、雑会計は申請人の、その他の特別会計は菅の各名義になっているが、雑会計については当時理事長であった浅野の依頼により、申請人がたまたま名義を貸しただけである。
従って、伊藤は被申請人の会計すべてを決裁管理し、昭和五二年四月以降同五三年六月まで伊藤あてに給付されていた措置費については、保母らに対する給料の増額等重要事項について浅野の承諾を得て執行し、特別会計については伊藤の指揮のもとに菅が管理していたものであって、申請人には何らの関係もなく、ただ菅の忙しいときだけ、その記帳の手伝をなした程度である。
以上の次第で、申請人は会計一切について何らの管理権限も責任も負っていなかったのであるから、被申請人が主張するように雑会計と米食会計の引渡しの要求を受けたこともなく、ましてやその妨害をなしたこともないし、更に被申請人が主張する不正支出なるものも一切関係がない。
(二) 青木写真館からのリベートの受領は、これを直ちに園長に手渡したものであって、何ら咎めを受ける筋合はない。
(三) 被申請人は、申請人が会計上の実権を握っていたことを印象づけるため、申請人を園長代行に任命していた旨主張するが、そのような事実は全くない。
3 主任保母としての職責違反について
(一) 申請人は、従前より午前八時四〇分ころ出勤し、何ら問題もなく経過していたところ、突如午前八時出勤を命ぜられ、一時はこれに従っていたが、伊藤の必要なしとの指示もあって、その後午前八時二〇分に出勤することになったものである。
(二) 申請人は無断で職場や事務室を離れることはなかったが、そのようなことが客観的に生じたことがあるとしても、巌は副園長として職員会議毎に出席し、そこで討議される保育内容について十分知りえたものであるから、業務連絡に支障はなかった。
又、運動会等の特別行事についても、そのプログラムは職員会で討議されており、それに出席した巌は何らの意見も言わず、今になって、職員会で検討されたとおりに作成されたプログラムを非難するのは公正な態度と言い難い。なおプログラムの作成に関しては巌が副園長になる以前と変りはなかった。
(三) 主任保母に保母から副園長及び理事長に対するパイプ役を果す職責はなく、又現実に申請人が保母から預った欠勤届を故意に巌に渡さなかったことはない。
4 虚偽の事実の流布等について
(一) 申請人が園等の秘密事項を組合や父母の会に漏らしたことはない。
(二) 組合や父母の会が被申請人の会計事務処理に危惧の念を抱き、組合活動でこれを取上げた原因は、房枝夫婦らにおいて特別監査事件を心底から反省せず、乳児の食事を悪化させたり、助産施設のガス・水道料金を措置費で賄ったり、園のプール用地の地代を本来支払うべきでない措置費で賄ったり、あるいは助産施設に住み込んで公私混同を繰り返したりしたという事実に基づくものであって、何ら批判に価しない。
以上によって明らかなとおり、申請人は被申請人の主張するような就業規則に違反する行為をなしていないので、本件降格及び本件解雇が解雇権の濫用として無効であることは明らかである。
第三疎明資料(略)
理由
第一 当事者間の雇傭関係及び解雇等について
一 申請の理由1、2(但し、主任保母の任命時期を除く)、4項記載の事実は当事者間に争いがない。
二 (証拠略)によれば、被申請人における主任保母は、他の保母の指導計画作成の指導や運動会等特別行事に関する計画と指導を行い、特定の組を担任し、もしくは担任しないで全般的な保育の業務を行い、本来的には保育現場における第一線の幹部として、保育内容について保母を統轄する職責を有するものであるが、単にこれに止まらず、園長を補佐し、園長と保母の間を調整する等のパイプ役を務めることも期待されていること、そして、被申請人においては主任保母として一名が任命されており、申請人は保母として採用された後一ケ月程で主任保母に任命されたことが一応認められる。
第二 解雇権の濫用について
一 被申請人は、申請人の行動が就業規則で定める服務規律に違反し、あるいは懲戒解雇事由に該当するに至ったので、当然懲戒解雇すべきところを先ず、本件降格をなし、申請人が反省の情を示すか否かを観察したが、その反省がみられなかったので本件解雇(通常解雇)をした旨の主張をするところ、このように懲戒解雇にすべきところを降格にとどめることはもとより通常解雇とすることは、当該労働者の利益にこそなれ、不利益にならないのであるから、懲戒解雇に価する事由が存在する限り、許されるものと解すべきであり、このことは就業規則に降格処分が懲戒の種類として規定されていない場合においても理は同じである。
被申請人は、本件降格は懲戒処分ではなく、団体法上の裁量処分である旨主張するが、被申請人の本件降格及び本件解雇に至る主張自体から降格が申請人に対する不利益処分であり、懲戒処分としてなされたことは明白であり、従って右主張は失当である。
二 会計上の越権等に関する主張について、被申請人の主張2項(一)ないし(四)記載の事実は当事者間に争いがなく(但し、申請人が主任保母に任命された時期を除く)、(証拠略)によれば、
1 房枝は坂出市等において助産所や乳児園を開設していたが、丸亀市において私立保育園を経営するため、市から土地の無償提供を受け、園舎等を建設して園を開設し、被申請人の理事長に就任するとともに、やがて園長をも兼任し、文字通り園のワンマン経営者となったこと
2 特別監査事件の内容は、昭和四九年度から昭和五一年度にかけて、架空の保母の人件費として金一三九〇万六四四九円を不正受給し、定員を越える自由契約児の生活費も全く措置費で賄い、自由契約児から徴収した金七七六万六三八〇円の保育料を他に流用し、給食材料費を金一四二万三八八五円浮かせて他に流用し、これらの流用合計は金二二三二万三〇三四円に及んだこと
3 そのため房枝は理事長及び園長を引責辞職したが、同時に被申請人理事六名中五名が辞職し、唯一人残留した浅野が昭和五二年三月一八日理事長に就任したこと
4 県は新理事会及び浅野に対し、専任の会計担当者を置くこと、保母ら職員の給与が低く、その支給が不明確であったことから給与規程を作成し、これに基づき給与の支給をすること、従前には措置費会計や特別会計又は個人会計が混同して処理され、特別会計については明確な区分もなく、その記帳もメモ程度のものしかなかったので、これらを明確にすること等を指導しようとしたところ、浅野は当時八〇歳に近い高齢であったことから、専任の会計担当者に菅を選任したものの、県の係員に対し、具体的指導は菅や申請人になしてくれるよう依頼し、菅や申請人に対しては県の指導のもとに処理するように指示したこと
5 菅は保母になる前に少し事務経験があったことから、専任の会計担当者にされたが、会計処理には全く不慣れであり、措置費の記帳のため複式簿記を習う等の苦労をしつつ、県の係員に直接又は電話で処理要領を聞きながら、誰れがどの帳簿や預金通帳を見てもすぐに分るよう努力し、これはほぼ成功したこと
6 菅は措置費中の給与関係につき申請人の協力を得て、丸亀市における職員俸給を参照にして給与表を作成したが、これは保母の入園時期、資格取得時期、職歴等を調べて、これを基にして作成したものであること
7 そして、措置費以外の特別収入に関しては項目別に分け、それに対応する帳簿と預金通帳を作成し、雑会計を除く他の特別会計の預金通帳は自己名義にし、雑会計については申請人名義としたが、これらの帳簿はすべて園の事務室ロッカーに、すべての預金通帳は事務室金庫に保管し、自らが管理したこと
8 菅が右のように預金通帳を分けたのは、会計権限を一人に集中させないという県の指導を考慮したものであること
9 申請人は給与表の作成につき菅に協力し、その後菅が多忙であったことから、賃金台帳の記帳もしばしば手伝い、給与台帳については昭和五三年一月から全部記帳するようになったが、これも菅を手伝う域を出なかったこと
10 伊藤は以前に丸亀市立保育所の所長をしたことがあったが、退職後県の嘱託をしていたところ、県の斡旋により、房枝が辞任した後の園長に就任し、昭和五二年四月四日から登園し始めたこと
11 県の指導により、丸亀市は従前理事長である房枝名義に振込んでいた措置費を昭和五二年四月分から伊藤名義で振込むようになり、これに対応する預金通帳は伊藤名義になされたこと
12 伊藤は、特別監査事件に鑑み、ガラス張りの会計処理を心掛けたが、その指導の多くを県に委ね、帳簿の管理や記帳の適・不適、会計収支の決裁制度の確立等について関心を払わず、収支に関する帳簿に十分目を通すことがなかったこと
13 措置費に関する日用品等の購入については、申請人が保母からの要望を伊藤に伝え、伊藤においてそれが少額の場合は直ちに、多額の場合には浅野の許可を得て菅に支出させていたが、給与については、既に作成された給与表に基づき支出が決定され、事後に伊藤に報告されていたが、浅野は給与表及びこれに基づく給与の支給を承諾しており、昭和五二年一〇月に申請人、菅、申請外笠原美智子が昇給したのも給与表に準拠し浅野の決裁に基づくものであり、特に他の場合と異なるものでないこと
14 雑会計については、伊藤はその帳簿の存在や収入項目を明確に認識していなかったものの、その具体的支出に当っては決裁をなし、その支出を菅や申請人に指示していたと推認できること
15 理事会や房枝夫婦は、昭和五三年四月ころから、措置費が伊藤に振込まれて処理されていることに疑問を持ち、県に意向を打診したうえ、会計担当の理事として申請外溝渕義雄(以下単に溝渕と略称する)を就任させ、その下に会計担当事務員として申請外真鍋(以下単に真鍋と略称する)を採用し、昭和五三年七月から浅野名義で措置費を受給するに至ったこと
16 右に先立つ昭和五三年六月ころ、浅野は会計のすべてを溝渕に委ね、菅を保母として保育現場に戻すことにし、この旨を菅に伝えたが、浅野は特別会計の存在を十分に認識していなかったため、溝渕に対する指示も十分でなかったところ、溝渕は、伊藤、菅及び申請人に対して措置費会計に関する帳簿や預金通帳の引渡しを求め、その後、これに関して真鍋を手伝わせて支出及び記帳等の管理を始め、一方菅は、溝渕から特に指示はなかったものの、保育現場に戻るため、措置費会計以外の特別会計に関する帳簿や預金通帳を真鍋に引継いでゆき、同年九月ころまでに雑会計帳簿とその預金通帳、主食会計の預金通帳一通(二通のうちの一通)を除くすべての特別会計の引継ぎをなしたこと
17 伊藤は右のような事情のもとに、理事会が会計管理を問題にし始めたことから、菅において真鍋に引継いでいなかった雑会計帳簿を自己において記帳し始めると共に、主食会計の預金通帳一通を自己において管理したが、昭和五四年三月までには、雑会計の預金通帳も含めて、すべて理事長らに返還されたこと(何故に雑会計帳簿等が真鍋に引継がれなかったか明瞭でないが、これが意図的になされたものでないことは、昭和五四年二月ころ、伊藤において雑会計からの預かり金五万円を浅野に使って欲しいとして渡したことから、理事会側は雑会計の存在を明確に認識し、これ以後厳しく伊藤らを追及したことから明らかである)
18 被申請人の主張するとおり、雑会計からタクシー代等の支出がなされているがこれは前記のとおり伊藤の決裁によって行われたと推認できること
19 申請人は昭和五四年七月三一日ころ、青木写真館から園に村するリベートとして、金一万五〇〇〇円を受け取ったが、これを直ちに当時の園長であった吉川に渡し、その保管及び処分を委ねたこと
以上の事実が一応認められ、前掲証拠のうち、右認定に反する部分は措信できない。
なお、右の点に関し、被申請人は申請人を園長代行に任命していた旨主張し、(人証略)には、園長代行に任命したが故に申請人は組合の委員長を辞任し、園長代行手当六パーセントを受給するに至った旨供述する部分があるが、申請人は組合の委員長を辞任すると同時に組合の監査委員に就任していること、六パーセントの手当も主任手当と考えられなくもないこと、伊藤及び申請人も強くこれを否定すること、昭和五二年当時被申請人においては主任保母の任命や給与の支給にまで辞令を交付していたのに、園長代行任命に辞令を交付していないこと等に照らすと、この点に関する被申請人の主張はにわかに採用し難い。
三 主任保母としての職責違反等の主張について、(証拠略)によれば、
1 申請人は以前に保母をしていたが、出産のため退職し育児に専念していた際、房枝の要請を受け、再び保母として園に勤務を始め、間もなく主任保母に任命されたが、子供の養育のため、出勤時間についてかなりの自由が許されていたものの、子供の成長とともに出勤時間は大体午前八時四〇分ころに固定していたこと
2 巌は事務長当時、早出の保母が出勤する午前七時三〇分以前に開門し、早く登園する園児を集め、保母が急に欠勤ないし遅刻をした場合には直ちに房枝にこれを伝える等して対処していたが、特別監査事件により用務員に降格され、伊藤から申請人の指示に従うようにと言われたり、自宅待機を指示されたりしたため、朝の保育業務が混乱することを心配し、浅野に対し申請人を早く出勤させるよう進言し、浅野はこれを入れて、申請人に対し昭和五二年一〇月三一日付で勤務時間を午前八時から午後五時までとする業務命令を発したこと
3 申請人は右業務命令に驚き、午前八時に出勤するようにしたが、直ちに組合に訴え、組合は浅野と団交した結果、浅野は出勤時間等の保育現場の問題は伊藤に委ねることにしたこと
4 伊藤は朝の混乱の問題よりも夕方の居残り園児の処置の方が問題が大きいとして、申請人に朝の出勤時間は従前通りとして、その替り夕方六時ころまで居残り園児の処置をさせることにし、申請人はこれに従ったこと
5 伊藤は昭和五四年三月理事会で孤立したことから一期限りで園長を退任したが、この後房枝は理事会の決定を得て園長に就任しようとしたところ、県は不適格として承認しなかったこと
6 中学校校長の経験を有する吉川は、昭和五四年七月浅野の要請により園長に就任し、当時理事会(巌は同年四月に理事に就任していた)と組合及び父母の会が事ある毎に対立し、園の運営が正常に出来なかったことから、両者間の調整をなそうと努力したが、同年七月には房枝が理事に就任し、八月には理事会の決定により巌が副園長に就任する等し、両名の対立は更に激化し、改善の見通しもつかなかったことから、職員らの慰留にもかかわらず、任期前の昭和五五年四月退任したこと
7 吉川の時代には、保育に関する重要事項はすべて吉川と申請人が相談のうえ処理して、副園長たる巌に関与させなかったこと
8 その後園長は空白となり、巌が園の実際上の最高責任者となって、県に対して園長代行の承認申請をなしたが、県は不適当としてこれを認めず、却って新園長の選任に努力して欲しいとの指導書を交付したこと
9 巌は、生活発表会等特別行事のプログラムに副園長の挨拶が記載されていないことから、申請人にこれを記載するよう指示したが、申請人がこれを無視したため、今度はプログラムを印刷する以前に原案を見せるよう指示したのに、多くの場合申請人は印刷後にこれを巌に渡したこと
10 昭和五五年一〇月五日の運動会のプログラムに副園長の挨拶が抜けていたため、巌はこれを指摘して、記載させたこと
11 生活発表会において、申請人が司会した際、副園長より先に来賓の社会福祉事務所長に挨拶させたことがあること
12 生活発表会のプログラムは、吉川が園長を辞任する前後を問わずに主催者の挨拶が印刷されていなかったこと
13 特別行事の企画は、申請人が素案を作成した後職員会議でその内容が討議され確定されるが、巌は職員会議に出席したにもかかわらず、これらに対する意見は何も述べなかったこと
14 申請人は、昭和五五年末ころ、巌と父母の会会長との話し合いに同席しようとして、これを退席させようとした巌の指示に従わなかったが、この時申請人は園児を保育中であったこと
15 申請人は吉川が園長を辞任した後、一般的に巌を無視する傾向を示し、あるいは時々激しい言葉で応酬するようなことがあったが、園の保育は正常に行われ、特に混乱が起るようなことはなかったこと
以上の事実が一応認められ、前掲証拠のうち、右認定に反する部分は措信できない。
なお、被申請人の主張2項(七)の(2)の(イ)、(ロ)の各事実については、これを認めるに足る疎明はない。
四 虚偽事実の流布等に関する主張について、申請人が特別監査事件以後本件解雇に至るまで積極的に組合活動をなしていたことは当事者間に争いはなく、(証拠略)によれば、
1 特別監査事件を契機として、園に組合が結成され、活発に活動を始めると同時に、園児の父母らも団結して保育環境問題に積極的に取組み始め、その過程の中で、組合及び父母の会は、ビラ等において特別監査事件以降においてもこれを取り上げて強調し、あるいは未だ真相が明らかでないとし、房枝夫婦において再び園に介入して私物化しようとしているとし、保育環境が悪くて子供が泣いている等種々の批判をなし、又県や丸亀市に対し、理事会が業者にリベートを要求している旨、理事会に種々の不正があるから特別監査等によって監督を強めて欲しい旨、理事全員を不適格者として辞任を指導して欲しい旨等の要望をなし、更に理事会に対しても理事全員が辞任するよう要求したこと
2 県は昭和五三年一月一九日付で浅野に対し、特別監査事件について正式に通知し、これについて所要の措置をとり、その結果について回答を求めたこと
3 特別監査事件後乳児の給食の質が低下したことがあったこと
4 被申請人が併設した助産院の会計と園の会計が混同され、園の所有地の不明朗な売却や賃貸の事実が昭和五五年度の監査により、県から指摘されたこと
5 申請人は父母の会にも積極的に働きかけ、その指導をなしたこと
以上の事実が一応認められる。なお申請人が業務上知りえた被申請人の秘密を他にもらしたと認めるに足る疎明はない。
五 そこで、申請人の会計に関する越権・不正支出・リベートの収受に関する前記認定事実が、懲戒解雇に価する事由であるか否かを検討する。
1 申請人が県の指導のもとに菅に協力し、給与表を作成し、菅が多忙であったため賃金台帳や給与台帳の記帳の手伝いをなしたことは、それ自体何ら非難すべきことではない。
2 申請人が雑会計に関する預金通帳について自己名義にすることを承諾したことは、やや妥当性を欠くものと評価できないではないが、それを私したのではなく、預金通帳は金庫に保管され菅によって管理されていたこと、他意を有していたとは認められないことからすれば、これも特に問題とすべきではない。
3 申請人は昭和五二年一〇月に昇給したが、これは既に作成されていた給与表に基づくものであり、このことは浅野において承諾していたのであるからこの点についても特に問題はない。
4 青木写真館からのリベートの受領については、これを直ちに施設長である吉川に渡し、単なる受渡しの役目をしたに過ぎないものであるから何ら非難に価しない。
5 伊藤は園長に就任した当初不慣れであり、欠勤も多かったこと(<証拠略>)、そして、しかも会計管理自体にさして関心を示さなかったこと、一方申請人は房枝が園長時代に保育面をすべて任されていた実力者であったこと等からすれば、申請人において、被申請人が主張する会計の管理について伊藤や菅に対して大きな影響を与え、又会計の支出についてある場合には菅に指示したこともあるのではないかと考えられないではない。しかしながら、もし仮にそうであるとしても、申請人において伊藤や浅野の会計管理等をことさら排斥していたものではないし、いわば房枝というワンマン経営者の失脚による混乱と非常事態下の事務処理としてある程度やむを得ない行為とも評価できることであって、これを非難するとすれば、このような非常事態に十分対応できなかった新理事会や浅野及び園の事務管理責任を有するのにこの職責を十分果さなかった伊藤らにその責任があり、ひとり申請人のみを責める事由とするにあたらないものというべきである。従って、この点に関しては申請人に懲戒解雇に価する事由はない。
六 申請人の主任保母としての職責違反に関する前記認定事実が、懲戒解雇に価する事由であるか否かを検討する。
1 申請人に対する午前八時に出勤すべしとの業務命令は、その後の団交により結局効力を失ったというべきである。
2 申請人が特別行事に関するプログラムの作成について巌の指示を守らなかったことは一応問題である。しかしながら、プログラム自体は巌が最高責任者となった前後を通じて何ら変化はなかったこと、巌は特別行事に関する職員会議に出席していたのであるから、右の点に関する是非をその場で正すことができたにもかかわらず、何ら発言をしなかったこと、運動会の挨拶については、結局プログラムに記載されたこと等に鑑みると、右の申請人の行為の非難性は低いというべきである。
3 生活発表会において、巌より先に来賓を挨拶させた点については、確にこれは当否の問題は残るであろうが、これが直ちに園の名誉を失墜させたことになるかどうか疑問である。ましてやこれが懲戒解雇に価する事由の一つになるとは認め難い。
4 申請人が巌と父母の会会長との話合いに同席しようとして、巌の指示に従わなかったことは、父母の会及び組合と巌ら理事会が対立していた状況のもとで考えると、申請人に同情しうる余地はあるとしても、保育中であった点を考慮すれば、申請人に対する非難性は強いというべきである。しかしながら、指示に従わなかった際の状況(時間の長短、保育の状況等)は必ずしも明らかではなく、更にこれによって、保育現場が混乱した形跡もないこと、前述のとおり父母の会と理事会が対立した状況下の出来事であることを考えると、これが直ちに懲戒解雇に価するものとは認め難い。
5 申請人が巌を無視する傾向を有し、時々激しく言葉を応酬したことは、かなりの問題である。そこでこの点を更に検討してみると
(一) 園において吉川が園長を辞任した後、園長が空白になったが、園長は被申請人の職務分担表においても施設長として重大な職責を有すること、成立に争いのない(証拠略)の通達(昭和五一年一月三一日付、社会福祉施設を経営する社会福祉法人の経理規程準則の制定についてと題する各都道府県知事、各指定都市市長宛の厚生省社会・児童家庭局長連名の通達)によれば、措置費を主な財源とする施設会計の予算は、適正かつ、円滑な施設運営がなされるために執行されるものであることから、予算の執行及び資金等の管理に関する権限を施設の運営管理責任をもつ施設長に附与することとされ、園長の権限を重視し、これは教育機関とも言える保育所の全国的な質の向上を目指すものであって、その根底には園長に保育又は教育関係に理解を有する有識者を予想しているというべきであって、現に園においても初代園長の長尾ヨシ子は幼稚園の園長、伊藤は公立保育所の所長、吉川は中学校校長の各経験者であり、このような重責を担う園長が長期間空白であることは、申請人に極めて重大な影響を与えたと考えられること
(二) そして、園長空白の責任は被申請人において負うべきであると考えられること
(三) 既に認定のとおり、巌の園における地位、能力又は職務の変遷状況からすれば、施設長としての重責を期待できないこと
(四) 巌においても、申請人に対して、申請人が会計を欲し(ママ)いままにし、組合や父母の会の活動を通じて、ことさら理事会に敵対している等との誤った認識を有していたと推認されること
(五) 巌との対立にもかかわらず、園の保育自体は正常に行われていたこと
(六) (人証略)によれば、申請人は主任保母として一貫して有能であり、保母ら職員や父兄に信頼も厚く、これまでに何ら懲戒処分を受けるようなことはなかったこと
以上のような事情と、被申請人が単なる一私企業ではなく、社会福祉法人として公益性の強い法人であることを併せ考えると、巌との対立について申請人においても反省すべき点があるとしても、申請人の言動が直ちに懲戒解雇に価するものとは認め難い。
七 申請人の虚偽事実の流布等に関する前記認定事実が懲戒解雇に価する事由になるか否かを検討する。
1 申請人が積極的に組合活動をなし、更に父母の会に積極的な働きかけをなしたことをもって、組合執行機関の意思に基づく活動や、父母の会の代表者の意思に基づく活動に申請人自身がすべての責任を持つものとは認め難いが、この点を一応おいたうえで、組合及び父母の会の言動について考える。
2 組合が組合活動として、父母の会が子供の保育環境に関心を持って団体行動をなすに際して、社会福祉法人としての公益性の強い被申請人の労務管理・経理等に対し批判を加え、これを公にすることは当然許されるべきで、その批判が強い非難的語調にわたることもある程度やむを得ず、それが理事等に対する辞任要求の表現をとったとしても、経営権に介入するものとして一概にこれを不当視すべきものとはいえない。しかしながら、何らの事実上の根拠なしに、あるいは相当な理由を示すことなく、いたずらに侮辱的言辞を用いてこれを非難攻撃することは園の名誉や信用を傷つけ争議手段ないしは父母の会の団体活動としても公正を欠き、正当性の限界をこえるというべきである。
そこで、右観点から前記認定の組合や父母の会の言動を検討すると、先ずビラ等による攻撃については、保育条件の良し悪しは多分に主観的なものであるばかりか特別監査事件後も乳児の給食の質が低下したことがあったこと、特別監査事件については内容的にも重大な不正事件であり、その後始末は昭和五三年度まで及んだほか、更に昭和五五年度の県の監査により会計上の疑点が指摘されていること等に徴すると、昭和五二年二月以降においてもこの事件を取り上げることはやむを得ない面があること、リベートの収受については、とかく問題が起り易いものであるから特に慎重にかつ明確に処理する必要があるのに、被申請人においては少なくとも青木写真館からのリベート問題が起るまでこの点の関心を十分に払った形跡がないこと、房枝夫婦に関しては、園長又は園長代行の就任が県により拒否され、吉川園長辞任後は園長が長らく空白となっていた等の事情があったこと等を考えると、そのビラの内容が強い非難的な言調にわたり、その妥当性について疑問な部分もないではないが、それが何ら根拠もなくいたずらに侮辱的な言辞を用いて被申請人や理事会等の名誉を失墜させているものとは認め難い。
そして、更に県等行政機関への陳情や申立・監査請求等についても、特別監査事件の発生及びこれ以後の行政指導の経過や被申請人の社会福祉法人性を考えると、特に被申請人の名誉を失墜させるためになしたものとも認められない。
八 要するに、被申請人が本件降格及び本件解雇の事由として主張するところは、以上それぞれの項で認定した限度において認められるにとどまり、これらを総合してもいまだ申請人に対する本件降格及び本件解雇を適法ならしめる正当な理由とするに足りない。申請人が巌に対し反抗的言動をなしその服従義務に違反した点等も先に認定した各般の事情を総合して考察すれば直ちにこれを正当な懲戒事由と認めることはできないのである。
以上の次第で、申請人の言動が懲戒解雇に価しない以上、本件降格及び本件解雇は、その余の点について検討するまでもなく、被申請人が懲戒権を濫用して行った無効のものといわざるを得ない。
第三 保全の必要性
前述のとおり、本件降格及び本件解雇が無効である以上、申請人は被申請人に対し、なお現に主任保母として雇傭契約上の権利を有する地位にあることは明らかであり、従って、当然に賃金の支払を受ける権利を有するものであるところ、(証拠略)によれば、申請人は昭和五六年一月当時月平均金一九万五〇三〇円の賃金を支給されていたこと、申請人は賃金のみによって生計を維持している労働者であって、右の地位及び権利を有する旨の本案判決の確定を待っていてはその生活に著しい損害を蒙るおそれが認められ(申請人の夫に月額二五万円程度の給与所得があることが認められるが、この事実が直ちに右判断を左右するものとは言い難い)、他に右認定を覆えすに足る疎明はない。従って、本件仮処分申請はその必要性があるものというべきである。
第四 よって、申請人の本件仮処分申請は理由があるから、保証を立てさせないでこれを認容すべきものとし、申請費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 古市清 裁判官 溝淵勝 裁判官 西野佳樹)