高松高等裁判所 平成元年(行コ)2号 判決 1994年4月19日
高知県土佐郡大川村小松四二番地一
控訴人
有限会社岡村組
右代表者代表取締役
岡村直繁
右訴訟代理人弁護士
大坪憲三
同
石川雅康
同県高知市本町五丁目六番一五号
被控訴人
高知税務署長 田邊登
右指定代理人
栗原洋三
右指定代理人
吉原幸昭
同
白石豪
同
大西道臣
同
岡崎山
同
関安喜良
同
小川満
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴人の、被控訴人が昭和五四年一二月二一日付でなした控訴人に対する昭和五一年七月一日から同五二年六月三〇日までの事業年度以後の法人税青色申告承認取消処分の取消請求に係る訴えを却下する。
三 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
一 当事者の求めた裁判
1 控訴人
(一) 原判決を取り消す。
(二) 被控訴人が控訴人に対し昭和五四年一二月二五日付けでなした
(1) 控訴人の昭和五一年七月一日から同五二年六月三〇日までの事業年度の法人税についての更正のうち所得金額五八三万六四二七円、納付すべき税額一五九万二三〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(ただし、いずれも裁決により一部取り消された後のもの)
(2) 控訴人の昭和五二年七月一日から同五三年六月三〇日までの事業年度の法人税についての更正のうち所得金額四二七万〇六六一円、納付すべき税額九二万九〇〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定
(3) 控訴人の昭和五三年七月一日から同五四年六月三〇日までの事業年度の法人税についての更正のうち所得金額五四五万二八〇六円、納付すべき税額一二六万四二〇〇円を超える部分及び重加算税賦課決定(ただし、いずれも裁決により一部取り消された後のもの)
をいずれも取り消す(以下(1)ないし(3)の各事業年度を順次「五二年度」、「五三年度」、「五四年度」、と同各更正を順次「本件更正(一)」、「本件更正(二)」、「本件更正(三)」と、各重加算税賦課決定を順次「本件決定(一)」、「本件決定(二)」、「本件決定(三)」と、本件更正(一)ないし(三)を「本件各更正」と、本件決定(一)ないし(三)を「本件各決定」という。)。
(三) 被控訴人が、昭和五四年一二月二一日付でなした控訴人に対する五二年度以後の法人税青色申告承認取消処分(以下「本件取消処分」という。)を取り消す(当審での新たな請求)。
(四) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
2 被控訴人
(一) 主文第一、二項同旨
(二) (予備的に)当審での新たな請求を棄却する。
(三) 主文第三項同旨
二 当事者の本案前の主張
1 被控訴人
(一) 法人税青色申告承認取消処分は、法人税更正処分とは別個独立の行政処分であり、その取消しに係る請求の追加は新たな訴えの提起にほかならないから、行政事件訴訟法(以下「行訴法」という。)一四条一項、三項各所定の期間内になされなければならない。
(二) 被控訴人は、昭和五四年一二月二一日付で控訴人に対する本件取消処分をなした。控訴人は、被控訴人に対し、昭和五五年二月一八日付で本件取消処分に対する異議申立てをなし、同年五月一七日付でこれを棄却する旨の決定がなされたので、国税不服審判所長に対し、同年六月一八日付で右異議決定に対する審査請求をなし、同年一二月二七日付でこれを棄却する旨の裁決がなされ、昭和五六年二月一三日右裁決書謄本の送達を受けた。
(三) したがって、平成四年一〇月六日に提起された本件取消処分取消請求に係る訴えは、行訴法一四条一項、三項各所定の出訴期間経過後のものであるから、不適法として却下を免れない。
2 控訴人
法人税更正処分取消訴訟の係属中に法人税青色申告承認取消処分取消訴訟が新たに提起された場合、両訴は実質的に同一性を有するから、右新たに提起された訴えについての出訴期間遵守の有無は、従前の訴え提起の時を基準となすべきであって、本件取消処分取消請求に係る訴えにつき、出訴期間遵守の点で欠けるところはない。
三 当事者の本案の主張
左に付加、訂正するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決三枚目表四行目の次に「被控訴人は、昭和五四年一二月二五日付の本件更正(一)に先立ち、同月二一日付で控訴人に対する本件取消処分をなし、これに対して右同様控訴人の不服申立てに対する異議決定、審査裁決がなされ、昭和五六年二月一三日右裁決書謄本が控訴人に送達された。」を加え、同枚目裏五行目の「請求の趣旨」を「前記一、1、(二)、(三)」と改め、同四行目の次に左のとおり加える。
(三) 本件取消処分は、右のとおり、五二年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し、その他当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がないのになされた点において違法である。
2 同一四枚目表九行目の「右金員も」を「この所得金額の増加に伴い、右金員も」と改め、同枚目裏一一行目の次に左のとおり加える。
4 前記1のとおり、控訴人は、五二年度にかかる帳簿書類に架空の経費合計六〇六万円を計上することにより、取引の全部又は一部を隠蔽しまたは仮装して記載し、当該帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があるから、本件取消処分は適法である。
3 同一五枚目表五行目の「は否認し、」を「及び」と、同七行目の「したとの」を「したことは否認し、帳簿書類の記載事項の真実性に関する」と改める。
四 証拠関係
原審及び当審記録中の書証、証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は、本件各更正処分のうち修正申告ないしは確定申告に係る所得金額及び納付すべき税額を超える部分の取消し並びに本件各決定取消し各請求に関する原判決の結論を相当であり、控訴人の本件取消処分取消請求に係る訴えを却下すべきものと判断する。その理由は、左に付加、訂正するほか、原判決理由一、二に説示のとおりであるから、これを引用する。
1 原判決一六枚目表四行目の「乙第六号証」の次に「の三のイ、同号証」を、同六行目の「第一三号証」の次に「の一のイ、同号証」を加え、同八行目の「第三三号証、」を削除し、同一〇行目の「七五」を「七六」と改め、同一二行目の「第九五号証、」の次に「第九九ないし第一〇七号証、」を加え、同枚目裏二行目の「第三七号証」から同四行目の「八九号証」までを「第三七号証(添付小切手の成立は争いがない。)、第四二号証(添付領収証書の成立は争いがない。)、第六二号証(添付領収書の成立は争いがない。)、第七七号証、第七八、第七九、第八一号証(添付の領収証の成立は争いがない。)、第八六、第八九号証(添付小切手の成立は争いがない。)」と改め、同五行目末尾の「二、」の次に「五、同号証の三の二、三」を、同六行目の「一、二」の次に「及び四ないし八(第七号証の二の五、第八号証の二の四ないし八については原本の存在とも)」を加え、同七行目の「二」を「一、二」と、同一一行目の「原告代表者の」を「当審証人近藤鶴喜、同岡村義盛、同掛水幸弘の各証言(ただし、後記信用しない部分を除く。)、原審及び当審における控訴人代表者」と改める。
2 同一八枚目表末行目の「4」を「2及び4」と、同一九枚目裏二行目の「一二三万五〇〇〇」を「一二三万〇〇〇〇」と改め、同二〇枚目裏八行目(番号6欄)全部を削除する。
3 同二三枚目表一行目の「又川浩は、」の次に「又川興行の名称で」を加え、同枚目裏一〇行目の「原告代表者」から同一一行目の「第一三号証、」までを「当審証人近藤鶴喜、同岡村義盛、同掛水幸弘の各証言、原審及び当審における控訴人代表者尋問の結果、甲」と改め、同末行目の「部分」の次に「、右認定に反する甲第二、第五、第九、第一〇、第一二、第一三号証」を加え、同二六枚目表二行目の「失業保険」を「失業給付」と改める。
4 同二七枚目裏一、二行目、八行目、末行目、同二八枚目表一二行目の「原告代表者の」いずれも「原審及び当審における控訴人代表者」と改め、同二八枚目表一一、一二行目の「認められる。」の次に「(なお、細川晴源に対する番号3の支払、及び西森従二に対する番号30、31、34、35、52ないし55の各支払が架空のものであることは、前記(一)認定のとおりである。)」を加える。
5 同三一枚目表四行目の「一五八六万〇五一二円」を「一五八五万〇五一二円」と改める。
6 同三一枚目裏四行目の次に左のとおり加える。
三 控訴人の本件取消処分取消しの訴えが行訴法一四条一項所定の出訴期間内に提起されたものであるか否かについて判断する。
1 被控訴人が昭和五四年一二月二一日付で本件取消処分をなし、これに対する異議手続を経て、昭和五五年一二月二七日付で国税不服審判所長による裁決がなされ、右裁決書謄本が昭和五六年二月一三日控訴人に送達されたことは、当事者間に争いがない。
2 青色申告承認取消処分と更正処分とは、前者が、一定の事実が存在する場合に、青色申告の承認を受けた者に認められる実体上及び手続上の特典を剥奪する点で納税者の地位及び納税申告の方法に関するものであるのに対し、後者は、右のような特典を享受しつつ所得金額及び税額の更正を受ける点で課税処分として納税義務及び税額を確定するものであって、それぞれ目的及び効果を異にする別個独立の処分であり、その手続も截然と区別されたものであるから、本件のように、青色申告承認取消処分に引き続いて更正処分がなされた場合に、たまたま右両処分の基礎とされた事実関係が共通であって、これに対する不服の事由も同一であるときでも、それぞれの取消しを求める両訴が実質的に同一性を有するものと解するのは相当ではない。したがって、本件更正(一)処分取消訴訟の係属中に新たに提起された本件取消処分取消しの訴えについての出訴期間は、右更正処分取消訴訟の係属にかかわらず、本件取消処分に係る裁決書が控訴人に送達された昭和五六年二月一三日の翌日をもって、その起算日となすべきである。
3 そうすると、本件取消処分取消しの訴え提起が平成四年一〇月六日であることは、記録上明らかであるから、本件取消処分取消しの訴えは、出訴期間経過後に提起された不適法なものとして却下を免れない。
二 よって、本件各更正処分のうち修正申告ないしは確定申告に係る所得金額及び納付すべき税額を超える部分取消し並びに本件各決定取消し各請求につき、右と同旨の原判決は相当で、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、当審で新たに提起された本件取消処分取消請求に係る訴えは不適法であるからこれを却下し、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 砂山一郎 裁判官 上野利隆 裁判官 一志泰滋)