大判例

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高松高等裁判所 平成10年(行コ)12号 判決 1998年12月24日

控訴人

子どもと教育を守る高知県連絡会

右代表者代表世話人

西森稔

右訴訟代理人弁護士

谷脇和仁

土田嘉平

被控訴人

高知県教育委員会

右代表者委員長

宮地彌典

右訴訟代理人弁護士

氏原瑞穂

右指定代理人

徳広信也

外三名

主文

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人が控訴人に対し平成六年一〇月一八日付けでした公文書非開示決定処分を取り消す。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

主文と同旨。

第二  事案の概要

次のとおり付加・訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄第二に記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三頁一一行目を「一争いのない事実」に改める。

2  同四頁一行目を削除する。

3  同七頁一行目「のそのまた一部」の次に「である大問2の問題及び解答」を、同二行目の末尾に「なお、本件処分は、非開示決定通知書の文言上、非開示の対象とする文書を本件文書だけでなく一次審査の教職教養筆記審査の問題及び解答の全部としているかのように見えるが、控訴人が本件文書の開示を求めたのに対しこれを非開示とした趣旨の処分である。」をそれぞれ加える。

4  同八頁七行目の「その性質上」の前に「本件条例一条に規定する『県民参加による開かれた県政』自体に関する一般行政文書とは異なり、」を加え、同行目の「性質の」を削り、同一〇行目の「できない」を「になじまない(行政不服審査法四条一項一一号参照)」に改める。

5  同九頁五行目から六行目にかけての「合格する」を「有利になる」に改め、同七行目の「できなくなり、」の次に「また、教育心理等の基礎的、基本的教養分野における出題可能な択一式問題等には限界があり、過去に出題した問題と類似したものを出題せざるを得ないから、択一式問題等を開示すれば、出題範囲、傾向が容易に分かることになって、多数人から一定数を選定する審査の目的を達することができなくなり、」を加える。

6  同一〇頁八行目の次に改行して、「また、問題作成者は、過去に出題された問題と類似の問題は極力作成しない配慮をしているところ、現状では全国的に審査問題が公表されていないから、高知県の過去の問題のみをチェックすれば足りるが、本件文書の開示は、他の四七都道府県・一二政令指定都市の合計五九団体の審査問題が開示される結果を招来しかねないところ、このことを前提に作問するとすれば、これら五九団体の審査問題をもチェックする必要にまで迫られることとなり、その事務量は更に膨大なものとなる。更に、被控訴人において人員増加等の問題作成体制の強化を直ちに行うことが困難な状況の下で、過去に出題された類似問題の作成を避けるという配慮を全国規模で行うとすれば、いわゆる難問・奇問の類の出題をさざるを得なくなるという状況も懸念されること等を併せ考えると、本件文書の開示により、今後継続して実施する選考審査の円滑な執行に著しい支障が生じることは必定である。」を加える。

第三  当裁判所の判断

一  本件条例は、高知県内に住所を有する個人並びに同県内に事務所又は事業所を有する個人及び法人その他の団体は実施機関に対してその管理する公文書の開示を請求することができるものとし、実施機関において開示しないことができる公文書を六条各号所定の情報が記録されているものに限定しているものと解されるところ、実施機関である被控訴人は、本件文書には、同条八号所定の情報(被控訴人が行う教員選考審査事務事業に関する情報であって、開示することにより、当該事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずると認められるもの)が記録されているものと主張するので、以下、被控訴人の主張する具体的事由ごとにそれが同号所定の情報に該当するか否かを順次検討する。

二  本件文書は、人の学識技能に関する審査問題が記載され、その性質上公開を予定して作成されるものではなく、内部文書にすぎないことなどを根拠として、本件文書が開示になじまないとする主張(原判決「事実及び理由」欄第二の二1(一)(1))について

本件文書が本件条例六条八号所定の非開示事由に該当するというためには、それが単に人の学識技能に関する審査問題であるというだけでは足りず、これを開示することにより、被控訴人の行う教員選考審査事務事業の目的が失われ、又はこれらの事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生ずることが認められなければならないところ、人の学識技能に関する審査問題を開示しても、それが当該試験の実施後である限りにおいては、当然に被控訴人の行う教員選考審査事務事業の目的を失わせるとはいえないし、右事務事業の公正若しくは円滑な執行に著しい支障を生じさせるものとも直ちにいうことはできない。被控訴人は、本件文書に記載された試験問題が問題作成者においてその裁量に基づき作成されるもので県民の監督の対象にならないから、開示になじまない旨主張し、行政不服審査法四条一項一一号の規定を指摘する。確かに、行政不服審査法四条一項一一号は、「もっぱら人の学識技能に関する試験又は検定の結果についての処分」を同法に基づく審査請求又は異議申立てをすることができない処分と定めており、右処分は、その意味では県民の監督の対象にならないものともいい得るけれども、本件条例には同法所定の不服申立ての対象にならないものともいい得るけれども、本件条例には同法所定の不服申立ての対象にならない行政処分に関する情報が記載された文書を一律に非開示とする旨の規定はなく、また、行政不服審査法に基づく不服申立ての対象とならないような行政処分であっても、これに関する情報が記載された文書がその性質上直ちに開示になじまないとはいえないから、被控訴人の右主張は採用できない。

三  教育心理等の基礎的、基本的教養分野における出題可能な択一式問題等には限界があり、過去に出題したものと類似した問題を出題せざるを得ないから、本件文書を開示することにより、出題範囲の問題が容易に予想され、受審対策のみをした受審者に有利になって、教員として適当な受審生を採用できなくなり、審査の目的を達することもできなくなるなど、将来の教員選考審査事務事業の円滑な執行に著しい支障になるとの主張(原判決「事実及び理由」欄第二の二(一)(2))について

当裁判所も、被控訴人の右主張は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり付加するほか、原判決「事実及び理由」欄第三の一2及び3(同一七頁二行目から同二一頁八行目まで)と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一八頁一〇行目の「濱田」の前に「証人」を加える。

2  同二一頁七行目の次に改行して次のとおり加える。

「 そもそも、控訴人が開示を求めている本件文書は、本件選考審査の一次審査中の教職教養筆記審査問題及び解答が記載されている文書のうち、基礎的かつ基本的な教職教養分野の択一式問題及びその解答記載部分中の一大問にすぎず、それだけを開示することにより被控訴人の行う教職教養筆記審査問題の全体はもちろん、そのうちの教職教養分野の択一式問題等の出題範囲や問題の内容ないし傾向等をも容易に予想させるものとは到底いいがたく、したがって、これを開示することによって受審対策のみをしていた受審者に有利になり、教員として適当な受審生を採用できなくなるなど、審査の目的を達することができなくなるといえないことは明らかである。なお、被控訴人は、当初は一部の開示であっても、続けて一部ずつ開示請求がされれば、本件選考審査全問題について開示せざるを得ず、結局のところ右支障を生ずる旨主張するが、本件文書を非開示とした行政処分である本件処分の当否については、開示を求められている本件文書それ自体が本件条例六条八号所定の非開示事由に該当するかどうかを問題にすべきことはいうまでもないところであり、いまだ開示を求められていない文書が開示されることを前提にそのことによる支障を生ずるか否かを論ずることは失当というべきであるから、被控訴人の右主張は採用できない(仮に、その後本件選考審査の審査問題の全部又は一部の開示請求がされたとすれば、すでに他の一部が開示されていることを前提に、当該開示を求められた個々の文書について、その時点で個別的に本件条例六条八号所定の非開示事由に該当するかどうかを認定、判断すれば足りるのであって、その場合に、同文書を非開示とすることが是認されることもあり得るわけである。)。」

四  過去に出題した択一式問題等と類似した問題を出題せざるを得ないことから、本件文書を開示することにより、このことに関する批判が問題作成者に向けられ、作成者の精神的負担が増大して審査問題の作成が困難になり、作成者の人材確保が困難になって、教員選考審査事務事業の公正で円滑な執行に著しい支障になるとの主張(原判決「事実及び理由」欄第二の二1(一)(3))について

1  証拠(甲六の1、乙二、四、証人川崎、同濱田)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件選考審査(平成七年度高知県公立学校教員採用候補者選考審査)は、その実施要項が平成六年五月中旬ころに発表され、同年七月二五日から同月二八日にかけて第一次審査が、同年八月二八日、同月二九日に第二次審査が実施された。これらの日程は、他の年度においても概ね同様である。

(二) 高知県公立学校教員採用候補者選考審査の問題作成者である選考委員は、選考審査実施要項が発表される直前の毎年四月下旬ないし五月上旬ころに被控訴人の教育長から委嘱を受け、作問作業に着手する。公立高等学校教員の採用選考審査の場合、問題作成者は、主として被控訴人事務局高校教育課所属の職員が充てられるほか、少数ながら高知県立高等学校教諭が充てられ、外部の者(例えば大学教員等)に委嘱されることはない。また、問題作成者の氏名、所属等が外部に公表されることはない。

(三) 問題作成者は、作問作業に着手して約二か月後の七月上旬から中旬ころに問題を完成させるが、その間、被控訴人事務局高校教育課職員又は高知県立高等学校教諭としての本来の職務を行う傍ら秘密裏に作問作業を進めなければならず、また、もともと出題の種類・範囲が限定された基礎的・基本的教養分野について、過去の問題との重複を極力避ける配慮が必要である。

(四) 高知県高等学校教職員組合は、平成六年八月三日、本件文書に記載されている本件選考審査の教職教養分野の択一式問題大問2は出題ミスである旨発表したところ、被控訴人は、「誤解を招きやすい問題だがミスではない。(点数にカウントしないということも含め)受審者に不公平にならないよう配慮する。」とコメントした。

2 右認定のとおり、問題作成者は、被控訴人事務局高校教育課職員又は高知県立高等学校教諭としての本来の職務を行いつつ、約二か月間という短期間のうちに、もともと出題の種類・範囲が限定されている基礎的・基本的教養分野について、過去の問題との重複を極力避ける配慮を行いつつ、教員選考審査問題に相応しい適正かつ的確な択一式問題等を作成しなければならないのであるから、個々の問題作成者の物理的、精神的負担は相当重いものであると推認できるし、本件文書を開示すれば、その問題の内容等が直接高知県民等の批判に曝されることになって、問題作成者の精神的負担をより増大させるであろうことも容易に推測できる。しかしながら、翻って考えてみるのに、問題作成者が右のような重い物理的、精神的負担を負わされているのは、右のような限られた条件の下で、将来の公教育の担い手となるべき教職員の選考に当たるという重大かつ重要な職務を遂行しているからにほかならず、その作成した問題が公開されるか否かによって、その職務遂行に対する負担が加重され、又は軽減されるという性質のものではないというべきである。また、控訴人が開示を求めている本件文書は、前記のとおり、本件選考審査の一次審査中の教職教養筆記審査問題及び解答が記載されている文書のうち、基礎的かつ基本的な教職教養分野の択一式問題及びその解答記載部分中の一大問であるところ、これを開示することにより、右出題にミスがあるのではないかとの疑問が提起されていることもあり、これを出題したことについて被控訴人ないし問題作成者に対し種々の批判がされることは予想されるものの、それ以上に、一般的に審査問題の作成が困難になり、問題作成者の人材確保が困難になるなどという被控訴人の主張するような事態が生ずると考えることは飛躍にすぎるというほかない(前認定のとおり、問題作成者は、外部の人材に委嘱されることはなく、その大半に被控訴人内部の職員が充てられているというのであるから、審査問題が開示されたからといって問題作成者の人材確保が困難になるとはにわかに考えがたい。また、被控訴人は、当初は一部の開示であっても、続けて一部ずつ開示請求がされれば、本件選考審査全問題について開示せざるを得ず、結局のところ右支障を生ずる旨主張するが、右主張に理由がないことは、前記三に説示のとおりである。)。

また、被控訴人は、本件文書の開示は、他の四七都道府県・一二政令指定都市の審査問題が開示される結果を招来しかねないところ、このことを前提に作問するとすれば、問題作成者はこれら五九団体の審査問題をもチェックする必要に迫られることとなって、その事務量は更に膨大なものとなり、また、いわゆる難問・奇問の類の出題をせざるを得なくなるという状況も懸念されるなどと主張するが、右主張は、本件文書が開示されることにより、他の都道府県等における審査問題がすべて開示されるという事態になることを前提としているところ、本件文書を開示することにより当然にそのような事態になる可能性が高いということはできないから、被控訴人の右主張は、前提を欠く上、仮にそのような事態になったとしても、当然に他の五九団体の過去の審査問題をもチェックする必要に迫られるとも断定できず、失当というべきである。

五  本件文書の開示を請求し得る県内の受審者とこれを請求し得ない県外の受審者との間に不公平が生じ、将来の教員選考審査事務事業の公正な執行に著しい支障になるとの主張(原判決「事実及び理由」欄第二の二1(一)(4))について

本件文書が控訴人に開示された場合、控訴人は当然本件文書の内容を知り得ることになるし、高知県内に居住する個人等も本件条例に基づき本件文書の開示請求をすることにより、その内容を知り得ることになるが、県外居住者その他本件条例による開示請求権を有しない者は、本件条例に基づいては本件文書の開示を受けることができないため、教職員選考審査問題が記録されているという本件文書の性質上、結果的に、いわゆる県内受審者と県外受審者との間で不公平が生ずることは否定できない。しかしながら、かかる不公平を生ずることは、もともと本件条例の予定するところといえなくもなく、このことを本件文書の非開示事由とすることは、高知県の管理する公文書を一般的に開示すべきものとした本件条例の趣旨に反することになることが明らかである。かかる不公平な状態を回避するためには、本件文書を非開示とするという方法ではなく、これが開示されることを前提に、被控訴人において、これを県内のみならず県外に対しても一般的に本件文書を公表するなど、他の適切な方法を講ずることによって解決されるべきである。したがって、被控訴人の右主張は採用できない。

第四  結論

よって、本件請求を棄却した原判決は不当であるから、これを取り消して、控訴人の請求を認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山脇正道 裁判官田中俊次 裁判官村上亮二)

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