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高松高等裁判所 平成11年(行コ)23号 判決 2000年3月06日

控訴人

圃山靖助

右訴訟代理人弁護士

井上善雄

被控訴人

圓藤寿穂

外三名

右四名訴訟代理人弁護士

田中達也

田中浩三

被控訴人

株式会社阿波銀行

右代表者代表取締役

山下直家

右訴訟代理人弁護士

後藤田芳志

主文

一  原判決を取り消す。

二  本件を徳島地方裁判所に差し戻す。

事実及び理由

第一  控訴の趣旨

(第一次的)

主文と同旨。

(第二次的)

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人らは徳島県に対し、各自金一億六六七〇万七六四一円及びこれに対する被控訴人圓藤寿穂、同坂本松雄及び同株式会社阿波銀行は平成一一年一月二一日から、被控訴人寺田稔、同平川薫は同月二二日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被控訴人らは徳島県に対し、各自一億一一六三万六八二一円及びこれに対する平成一一年三月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、徳島県の住民である控訴人が、被控訴人圓藤寿穂(徳島県知事)、同坂本松雄(同県出納長)、同寺田稔(同県総務部長)及び同平川薫(同県総務部財政課長。以上四名の被控訴人らを併せて、以下「被控訴人徳島県関係者」という。)は地方自治法二四二条の二第一項四号所定の当該職員として同法二四一条一項に基づき徳島県に設置された基金を最も確実かつ効率的な方法により運用しなければならないのに(同条二項、地方財政法八条)、被控訴人株式会社阿波銀行(以下「被控訴人阿波銀行」という。)の利益を図るため、基金に属する現金を他の金融機関に対し引き合い預託の方法でより高利率で預託できるにもかかわらず、同被控訴人に対し相対預託の方法により低利率で預託したため、徳島県に対し右利息の差額分の損害を被らせ、同被控訴人は同額を不当利得したと主張して、徳島県に代位して、当該職員である被控訴人徳島県関係者に対しては右損害の賠償を、被控訴人阿波銀行に対しては右不当利得の返還を求めた事案であって、原審が、本件訴えは住民訴訟の対象とならないものについて提起された不適法なものであるとしてこれを却下したのに対し、控訴人が控訴したものである。

二  争いのない事実、争点及び争点に関する当事者の主張は、原判決の事実及び理由欄第二の一ないし三に記載のとおり(ただし、原判決五頁三行目の「等」を削除し、同一〇行目の「長」の次に「の職」を、同六頁二行目の「基金」の前に「控訴人の指摘する徳島県の」をそれぞれ加える。)であるから、これを引用する。

第三  当裁判所の判断

一  本件訴えにおいて控訴人が住民訴訟の対象としたのは、徳島県の当該職員である被控訴人徳島県関係者が、同県の設置する基金(以下「本件基金」という。)に属する現金のうち六四三億八一〇〇万円を阿波銀行に対して相対預託の方法で預託したこと(以下「本件預託行為」という。)であることは、その主張の趣旨に照らし明らかであるところ、原審は、当該職員のした行為・怠る事実が住民訴訟の対象といえるためには、財務的処理を直接の目的とし、当該行為・怠る事実の直接かつ固有の効果として地方公共団体に対して財産的損害を与えるべき客観的可能性を有することが必要であり、公金の支出、義務の負担ないしは財産上の損失を伴わない単なる収入を発生させるにとどまる行為は、住民訴訟の対象とすることができないとした上、本件預託行為は、元本額が保証されていることからして、当該行為の直接かつ固有の効果として徳島県に財産的損害を与える客観的可能性を有しないから、住民訴訟の対象にはならないとして、本件訴えを却下したものである。

二 普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、特定の目的のために財産を維持し、資産を積み立て、又は定額の資金を運用するための基金を設けることができ(地方自治法二四一条一項)、本件基金も右規定に基づき設けられたものである。ところで、同法二四二条一項所定の「財産の取得、管理若しくは処分」は、住民訴訟の対象になるところ、ここにいう「財産」は、同法二三七条一項所定の「財産」を指すものである。そして、基金は、同条項所定の「財産」に当たることが右条項上明白であるから、本件預託行為は、基金の管理行為にほかならず、同法二四二条一項所定の行為のうちの「財産の管理」に当たり、住民訴訟の対象になるというべきである。

そして、基金は、条例で定める特定の目的に応じ、及び確実かつ効率的に運用しなければならないとされ(地方自治法二四一条二項)、また、基金に属する現金の管理は、歳計現金の例によるものとされている(同条七項)ところ、歳計現金についても指定金融機関その他の確実な金融機関への預金その他のもっとも確実かつ有利な方法によって保管しなければならないとされている(同法二三五条の四、同法施行令一六八条の六)ことからすると、当該職員において右規定の趣旨に反し、より確実かつ効率的若しくは有利な方法で管理・運用・保管ができるのに、合理的な根拠なくして不確実・非効率的若しくは不利な方法で管理・運用・保管方法をとったような場合には、そのような基金に属する現金の管理・運用・保管行為が違法な財務会計行為とされる余地があることは否定できない(もとより、基金に属する現金の管理・運用・保管の方法は、単に預金利率上の有利性のみならず、資金調達の便宜、確実性等諸般の事情を考慮して決せられるべきものであり、その方法の選択は、被控訴人徳島県関係者の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであるが、右裁量に逸脱・濫用がなかったか否かは本案の審理によって判断されるべき事柄である。)。そして、右のような違法な財務会計行為がされた場合には、元本額が保証されているとはいえ、地方公共団体は正当な管理・運用・保管行為がされていたならば当然得られたであろう運用上の利益を喪失する損害を被ることがあることは否定できない。そうすると、元本額が保証されていることのみをもって、本件預託行為がその直接かつ固有の効果として徳島県に財産的損害を与える客観的可能性を有しないということはできず、したがって、このことを理由に本件預託行為が住民訴訟の対象にはならないということはできない。最高裁昭和四三年(行ツ)第一一七号同四八年一一月二七日第三小法廷判決・裁判集民事一一〇号五四五頁は、普通地方公共団体を受贈者とする贈与契約が住民訴訟の対象とされたものであって、右贈与契約の締結は単に同普通地方公共団体に収入を発生させるにとどまるから住民訴訟の対象とすることができないとされた事案であって、本件とは事案を異にするというべきである。

三  次に、被控訴人徳島県関係者は、本件預託行為は、資金管理の一環という財政運営上の判断からなされたものであり、財務的処理を直接の目的とする行為には当たらないから、住民訴訟の対象にならない旨主張するが、本件預託行為は、地方自治法二三七条一項所定の財産である基金の財産的価値そのものの維持、保全又はその実現を目的とするものであるから、財務的処理を直接の目的とするものであることが明らかである。同被控訴人らの主張する事由は、本件預託行為が財務的処理を直接の目的とするものであることを否定する理由にはならず、右主張は採用できない。

また、同被控訴人らは、基金に属する現金の管理は歳計現金の例によるものとされているところ、歳計現金の保管行為は住民訴訟の対象とされていないこととの整合性から、基金に属する現金の保管行為は住民訴訟の対象となり得ないと主張する。しかし、基金が地方自治法二三七条所定の「財産」に該当し、したがって、その管理が同法二四二条所定の「財産の管理」に当たり、住民訴訟の対象となることは、前記のとおりであって、基金に属する現金の管理が歳計現金の例によるとされているからといって、右の理が左右されるいわれはないというべきである。したがって、同被控訴人らの右主張は採用できない。

四  結論

以上のとおり、被控訴人らのした本件預託行為は、住民訴訟の対象になるというべきであり、本件訴えは適法である。これと異なり本件訴えが住民訴訟に対象にならない行為について提起されたもので不適法であるとして、本案の審理に立ち入らないままこれを却下した原判決は不当であって、取消しを免れない。よって、民訴法三〇七条本文に従い、本件を原審に差し戻すこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山脇正道 裁判官田中俊次 裁判官村上亮二)

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