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高松高等裁判所 平成11年(行コ)9号 判決 1999年9月28日

控訴人

圃山靖助

右訴訟代理人弁護士

井上善雄

被控訴人

徳島県知事

圓藤寿穂

右訴訟代理人弁護士

田中達也

田中浩三

主文

一  原判決を取消す。

二  被控訴人が、控訴人に対し、平成八年八月二一日付でした公文書公開請求書の不受理処分を取消す。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

主文同旨。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要

本件は、控訴人が、徳島県情報公開条例(以下「本件公開条例」という)に基づいて公文書の公開請求をしたところ、被控訴人が、右公開請求を不受理とする処分(以下「本件不受理処分」という)をしたため、控訴人が同処分の取消しを求めた事案である。

一  本件公開条例

第一条(目的)

この条例は、県民の公文書の公開を求める権利を明らかにするとともに情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県政への県民の参加を推進し、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の一層の進展に寄与することを目的とする。

第二条(定義)

1  この条例において「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書、図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)であって、決裁、供覧等の手続が終了し、実施機関が管理しているものをいう。

2  この条例において「公文書の公開」とは、実施機関が、次章に定めるところにより、公文書を閲覧に供し、又はその写しを交付することをいう。

3  この条例において「実施機関」とは、知事、教育委員会、選挙管理委員会、人事委員会、監査委員会、地方労働委員会、収用委員会、海区漁業調整委員会、内水面漁場管理委員会及び公営企業管理者をいう。

第三条(解釈及び運用)

実施機関は、この条例の解釈及び運用に当たっては、県民の公文書の公開を求める権利を十分に尊重するものとする。この場合において、実施機関は、通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公開されることがないような最大限の配慮をしなければならない。

二  基礎事実(争いがない)

1  当事者

(一) 控訴人は徳島県内に住所を有するものである。

(二) 被控訴人は徳島県知事の職にある者で、本件公開条例二条三項所定の「実施機関」に当たる。

2  本件不受理処分及びその後の不服審査手続

(一) 控訴人は、被控訴人に対し、平成八年八月七日、本件公開条例五条、七条に基づき、次のとおり請求した(以下「本件請求」という)。

(1) 請求に係る文書

徳島県議会(以下「県議会」という)議員及び同事務所職員に関する平成七年八月一日から平成八年七月三一日までの一年間について

イ 食糧費及び議長交際費に係る支出負担行為決議書兼支出命令書、経費支出伺、懇談の相手方など、食糧費及び議長交際費の支出に係る一切の書類

ロ 旅行命令簿兼旅費請求書、経費支出伺、復命書など、旅費に係る一切の書類

(2) 公開の実施方法

閲覧及び写しの交付

(二) 被控訴人は、平成八年八月二一日付で、徳島県議会は本件請求に係る文書の実施機関でないとの理由で、本件請求を不受理とする処分(本件不受理処分)をした。控訴人は、同月二三日に本件不受理処分の通知を受けた。

(三) 控訴人は、被控訴人に対し、平成八年九月三〇日、本件不受理処分について行政不服審査法六条に基づく異議申立てをした。

(四) 被控訴人は、平成九年一月一七日、徳島県公文書審査会を通じ、控訴人に本件不受理処分に関する理由説明書を郵送した。

控訴人は、同年三月七日、右説明書に対する意見書を提出した。

被控訴人は、平成一〇年三月九日、本件請求に係る公文書は、本件公開条例二条一項所定の「公文書」に当たらないとして、前示(三)の異議申立てを棄却する旨の決定をした。控訴人は、同月一〇日、同決定書の送達を受けた。

三  争点

本件の争点は、本件請求に係る文書が、本件公開条例二条一項所定の「公文書」、すなわち、実施機関である被控訴人の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、実施機関である被控訴人が管理しているものに当たるかどうかである。

1  控訴人

(一) 実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書かどうか。

被控訴人は徳島県知事の職にある者で、本件条例二条三項にいう実施機関である。そして、県議会議員及び同事務局職員に関する、食糧費、議長交際費及び旅費の予算執行事務は、知事の職務権原に属する。

徳島県では、被控訴人の併任事務吏員として議会事務局の事務局の事務局長、同次長兼総務課長及び同総務課課長補佐の職にある三名の者を発令し、当該事務吏員(以下「本件併任事務吏員」という)が徳島県事務決裁規程一二条、一九条において列挙された専決ないし代決事項を補助執行している。そして、県議会議員及び同事務局職員に関する、食糧費、議長交際費及び旅費の予算執行事務は、本件併任事務吏員の右専決ないし代決事項に当たる。

そうであるから、本件請求に係る文書は、本件併任事務吏員が、右専決ないし代決事項の補助執行に際し、職務上作成し、又は取得した文書であるといえる。

(二) 実施機関が管理しているものかどうか。

本件請求に係る文書は、予算執行事務に関する文書であるから、その作成、取得ないし管理の権限は被控訴人に帰属する。そうであるから、本件併任事務吏員が、本件請求に係る文書を作成、取得ないし管理しているのも、同吏員が前示(一)の専決ないし代決事項の補助執行として行っているものといえる。したがって、本件請求に係る文書は、実施機関である被控訴人が管理しているものというべきである。

(三) 被控訴人の主張(三)を争う。

2  被控訴人

(一) 実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書かどうか。

(1) 本件併任事務吏員の専決ないし代決事項は、支出負担行為及び支出命令に限られる。

(2) 旅行命令簿兼旅費請求書は、県議会議員又は同事務局職員に対して旅行命令を発するための文書であるが、右旅行命令は地方自治法一〇四条に定める議長の事務統理権に属する行為であり、右旅行命令権自体が知事にないことから、本件併任事務吏員の専決権限外の事項に属する文書である。

(3) 復命書は、県議会の旅行命令を受けて旅行をした者が、その用務について議長に復命するために作成した文書であって、本件併任事務吏員の専決権限外の事項に属する文書である。

(4) 経費支出伺は、経費の支出を伴う県議会の事務に関し、事前に議会としての意思決定を行うための文書であり、本件併任事務吏員の専決権限外の事項に属する文書である。

(5) 支出負担行為決議書兼支出命令書は、本件併任事務吏員が職務執行上作成したものである。

(二) 実施機関が管理しているものかどうか。

本件請求に係る文書は、徳島県議会事務局規程二四条、徳島兼議会事務局文書編さん保存規程二条二項別表会計関係、四条但書及び五条但書によって、県議会の管理対象文書として位置づけられ、現実に予算執行事務終了後は、県議会の他の文書と同様に、県議会が議会事務局の文書保管庫において保管している。そうであるから、実施機関である被控訴人が管理しているとはいえない。

なお、徳島県会計規則四八条一項は、「収入及び支出の証拠書類は、年度経過後五年間保存しなければならない。」と定めるのみで、保存主体を徳島県の出納機関に限定していない。

(三) 地方自治体において、議会と知事部局は、互いに拮抗し又は協力し合う独立の機関であり、知事部局が議会の事務に介入するのは極力避けなければならない。そうであるから、地方自治法上予算の執行権、調整権が長にあるからといっても、議会に配分された予算項目の範囲内にある限り、その予算執行は、議会の責任と判断においてなされることであり、知事部局がこれに干渉することは原則として許されない。そうしてみると、本件公開条例は、議会の予算執行に関する文書を議会自身が管理し、その非公開事由の存否を含めた公開の要否の判断も議会自身が行なうべきものとしているといえる。

なお、徳島県事務決裁規程は、併任事務吏員である事務局長ないし総務課長に、公文書の公開関係の事務の専決権限を与えていないが、これは併任事務吏員の扱う文書が一切公開の対象とならないから、右権限を与える必要がないためである。

第三  当裁判所の判断

一  本件不受理処分について

本件請求は、本件公開条例七条所定の方式に基づき適式に行なわれている。また、本件請求は、実施機関である被控訴人に対して行われている。ところが、被控訴人は、県議会が実施機関でないという理由で本件不受理処分をした。しかし、本件公開条例には、このような理由に基づいて公文書の公開請求を不受理とする根拠規定を欠いている。被控訴人は、本件請求が本件公開条例に基づき被控訴人宛に適式になされたのであるから、本件請求に係る文書が本件公開条例二条二項所定の「公文書」当たらないと判断したのであれば、端的に本件請求に係る文書の公開をしない旨の決定をするべきであった。

もっとも、本件請求に係る文書を公開しない旨の被控訴人の意思は、本件不受理処分において、既に明確に表示されている。

また、被控訴人は、控訴人が本件不受理処分に異議を申立てたのに対し、本件公開条例一〇条及び行政不服審査法所定の手続に基づき、徳島県公文書公開審査会に諮問したうえ、右異議申立てを棄却する決定をしていることが認められる。

そうすると、本件不受理処分は、本件請求に係る文書を公開しない旨の決定にほかならないものというべきであり、抗告訴訟の対象となる行政処分ということができる。

二  本件公開条例二条一項について

1  本件公開条例は、その一条に規定するように、徳島県民の公文書の公開を求める権利を明らかにするとともに、情報公開の総合的な推進に関し必要な事項を定めることにより、県政への県民の参加を推進し、県政に対する県民の理解と信頼を深め、もって地方自治の本旨に即した県政の一層の進展に寄与することを目的とするものであり、二条三項において、右目的を遂行するため、情報公開に関する事務を処理する機関として、実施機関を定めている。

そして、本件公開条例三条前段は、実施機関は、一条の目的に則り、この条例の解釈及び運用に当たっては、県民の公文書の公開を求める権利を十分に尊重するものと定めている。

なお、本件公開条例は、九条一項、一五条一、二項、一六条に規程するように、実施機関に対し、迅速かつ容易に有益な情報を得られるよう、様々な方策を用いて配慮するよう定めている。

もっとも、本件公開条例三条後段は、実施機関は、通常他人に知られたくない個人に関する情報がみだりに公開されることがないよう最大限の配慮をしなければならないとも定めているし、本件公開条例六条は、公開しないことができる公文書を定めている。これらは、公開により個人ないし法人に不当な不利益を及ぼしたり、県、国等の機関の事務事業の公正かつ円滑な実施等に支障を及ぼすおそれがある場合等に限り、非公開とする旨を定めたものである。

しかし、本件公開条例の制定目的からすると、六条の非公開事由の存在の認定は、同事由の制定趣旨に即して厳格に行なわなければならない。

以上のとおりであるから、本件公開条例は、実施機関に対し、公開事務を遂行するに際し、個人の私的な情報その他非公開情報の保護に配慮をしながらも、原則として、県民が県政に関する情報を迅速かつ容易に得ることができるよう、制定されたものといえる。

2  そこで、以上の見地に立って、本件公開条例二条一項について検討する。

右条項は、この条例において「公文書」とは、実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書であって、実施機関が管理しているものとされている。

右のうち、「実施機関の職員が職務上作成し、又は取得した文書」とは、実施機関の職員が、その職務権限を行使する上で、作成ないし取得した文書と解すべきである。そうであるから、必ずしも、実施機関の職員自体が、文書の作成名義人である必要はないし、文書の受領名義人である必要もないが、実施機関の職員が、その職務権限を行使する上で、作成し、又は取得した場合であることを必要とするものと解すべきである。

次に、「実施機関が管理しているもの」とは、実施機関の事務の執行に当たり、実施機関の職員が、その職務権限を行使する上で、作成し、又は取得した結果、実施機関が保管することになった文書を、当該実施機関が、その法的な権限に基づいて管理していることと解することができる。

以上のような解釈は、本件公開条例が、実施機関に対し、公開事務を遂行するに際し、非公開情報の保護に配慮しながらも、原則として、県民が県政に関する情報を迅速かつ容易に得ることが可能な制度を保護しようとした趣旨に副うものである。

三  本件請求に係る文書について

1  地方自治法の規定によると、普通地方公共団体の議会の議長(以下「議会の議長」という。)は、議会の事務の統理権(法一〇四条)、議会の庶務に関する事務局長等の指揮監督権(法一三八条七項)を有するものの、予算の執行権は普通地方公共団体の長(以下「長」という。)に専属し(法一四九条二号)、また、現金の出納保管等の会計事務は出納長又は収入役の権限とされているから(法一七〇条一項、二項)、一般に議会の議長の統理する事務には予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務は含まれておらず、議会の議長はかかる事務を行う権限を有しない。議会に配分された予算の執行は議会の責任と判断によるべきであるとの被控訴人の主張は、それが長の予算執行権を否定する趣旨のものとすれば採用できない。ところで、長はその権限に属する事務の一部を当該地方公共団体の吏員に委任することができ(法一五三条一項)、議会事務局の事務局長その他の職員を長の補助機関たる事務吏員に併任した上その者に対し支出命令等予算執行に関する事務の権限を委任することは可能であるが、議会の議長は、その地位にかんがみると、長において係る権限の委任を行い得る相手方としては予定されていないというべきである(最判昭和六二年四月一〇日・民集四一巻三号二三九頁)。そして、長は、右併任事務吏員に対し、右事務の権限を委任することができるのみならず、専決ないし代決権限を授与して補助執行させることもできる。

2  前示1説示によると、県議会議員及び同事務局職員に関する予算執行事務は、長である被控訴人に専属し、県議会の議長は右事務を行う権限を全く有しない。そして、被控訴人は、徳島県事務決裁規程に基づき、本件併任事務吏員(県議会事務局の職員であるが、同時に徳島県知事部局の職員も併任する。)に対し、その専決ないし代決権限を授与して補助執行させているものと認められる。

そうであるから、県議会議員及び同事務局職員に関する、食糧費、議長交際費及び旅費の予算執行事務も、本件併任事務吏員の専決ないし代決権限事項に属する。

なお、この点について、被控訴人は、徳島県事務決裁規程が、本件併任事務吏員に対し、支出負担行為及び支出命令の専決ないし代決権限に限定して授与しているにすぎないかのように主張する。

しかし、そもそも、被控訴人が、長として専属的に有する予算執行の権限のうち、本件併任事務吏員に授与しなかった部分があるとすれば、同部分については、被控訴人に本来どおりの権限が帰属することになるにすぎない。

また、被控訴人は、本件併任事務吏員に対し、支出負担行為及び支出命令の専決ないし代決権限を付与することにより、同権限の行使をするためにに必要な事務処理をする権限をも付与しているものと解すべきである。

さらに、徳島県事務決裁規程一二条、一七条の規定の趣旨からみても、被控訴人は、長として専属的に有する予算執行の権限のうち、県議会の議員及び同事務局職員に関する事項については、可能な限り、本件併任事務吏員に授与しているものと解することができる。

そうであるから、被控訴人の主張は理由がない。

3(一)  本件請求に係る文書は、次のとおりである。

県議会議員及び同事務局職員に関する平成七年八月一日から平成八年七月三一日までの一年間について

(1) 食糧費及び議長交際費に係る支出負担行為決議書兼支出命令書、経費支出伺、懇談の相手方など、食糧費及び議長交際費の支出に係る一切の書類

(2) 旅行命令簿兼旅費請求書、経費支出伺、復命書など、旅費に係る一切の書類

(二) 前示二説示及び前示1、2説示を考え併せると、本件請求に係る文書は、実施機関である被控訴人の本件併任事務吏員が、その専決ないし代決権限を行使する上で、作成ないし取得した文書であるといえる。

(三)(1) 前示二説示及び山前示1、2説示を考え併せると、本件請求に係る文書は、実施機関である被控訴人が、その法的な権限に基づいて管理している文書であるといえる。

(2) この点につき、被控訴人は、本件請求に係る文書は、徳島県議会事務局規程二四条、徳島県議会事務局文書編さん保存規程二条二項別表会計関係、四条但書及び五条但書によって、県議会の管理対象文書として位置づけられ、現実に予算執行終了後は、県議会の他の文書と同様に、県議会が議会事務局の文書保管庫において保管しているから、実施機関である被控訴人が管理しているとはいえない旨主張する。

しかし、地方自治法一四九条八号が、長の事務として、証書及び公文書類を保管する事務を定め、徳島県会計規則四八条一項が、収入及び支出の証拠書類は、年度経過後五年間保管しなければならない旨を定めていることからすると、長は、予算執行事務終了後においても、予算執行事務処理の過程で作成ないし取得した文書を、証拠書類として管理する権限と責任を有するものといえる。そうであるから、本件請求に係る文書は、被控訴人の本件併任事務吏員が、その専決ないし代決権限事項である予算執行事務を補助執行する上で、作成ないし取得し、予算執行事務終了後も、被控訴人の併任事務吏員としての立場で、証拠書類として管理している文書であるといえる。被控訴人の指摘する諸規程も、右のように解釈することの妨げとなるものではない。そうすると、被控訴人は、本件請求に係る文書を、その法的権限に基づき、管理しているものというべきである。

また、本件請求に係る文書は、被控訴人の本件併任事務吏員が、その専決ないし代決権限事項である県議会に係る予算執行事務を補助執行する上で、作成ないし取得し、予算執行事務終了後も、被控訴人の併任事務吏員としての立場で管理している文書であるからこそ、県議会の事務局の文書保管庫に保管されているといえるのである。そうであるから、本件請求に係る文書が被控訴人の事務部局の文書保管庫に保管されていないからといって、被控訴人が法的に管理していないということに結びつくものではない。

なお、普通地方公共団体の予算執行権限は、被控訴人に専属するとともに、被控訴人は、右予算執行に関する法的責任を問われる立場にある。そうすると、地方自治法の前示規定の趣旨に照らし、被控訴人は、右予算執行の証拠書類として、本件請求に係る文書を管理する権限と責任を有するものといえる。そうであるから、仮に、被控訴人の指摘する諸規程を、被控訴人主張のように被控訴人の管理権を否定する趣旨と解釈するならば、地方自治法の前示規定の趣旨に反する内容ということになる。しかし、被控訴人の指摘する諸規程は、前示のとおり、被控訴人が、本件併任事務吏員により本件請求に係る文書に管理権を及ぼすことと矛盾するものではない。

したがって、被控訴人の主張は理由がない。

(3) 被控訴人は、地方自治法上予算の執行権、調整権が長にあるといっても、議会に配分された予算項目の範囲内にある限り、その予算執行は、議会の責任と判断においてなされることであるから、本件公開条例は、議会の予算執行に関する文書について、議会自身が管理し、その非公開事由の存否を含めた公開の要否の判断も議会自身が行うべきものとしているといえる旨主張する。

しかし、前示1説示のとおり、議会の議長は、普通地方公共団体の議会の事務の統理権、議会の庶務に関する事務局長等の指揮監督権を有するものの、予算の執行権は普通地方公共団体の長に専属し、一般に議会の議長の統理する事務には予算の執行に関する事務及び現金の出納保管等の会計事務は含まれておらず、議会の議長はかかる事務を行う権限を有しない。そして、そうであるからこそ、右説示のとおり、長は、本件併任事務吏員に対し、議会に属する事務に関する予算執行事務の専決ないし代決権限を授与し、補助執行をさせ、本件併任事務吏員は、右予算執行に関する事務処理をしているものである。

そうすると、地方自治法上の長と議会の関係に照らし、長が、本件公開条例に基づく公開の要否を判断するに際し、事実上、議会の議長ないし議会の意向を事前に聴取した上、それを参考とする場合があることは格別、本件請求に対する公開の要否の判断は、長の権限と責任において行われるべきものであることが明らかである。

なお、被控訴人は、徳島県事務決裁規程は、本件併任事務吏員である事務局長ないし総務課長に、公文書の公開関係の事務の専決権限を与えていないが、これは本件併任事務吏員の扱う文書が一切公開の対象とならないから、右権限を与える必要がないためである旨主張する。

しかし、右規程が、公文書の公開関係の事務について、右併任事務吏員に専決権限を与えていないとすれば、それは、原則どおり、被控訴人自らが、右事務を行うべきものと定めているにすぎない。そうであるから、右規程を根拠として、被控訴人の主張を裏付けることはできない。

したがって、被控訴人の主張は理由がない。

(四)  以上によれば、本件請求に係る文書は、いずれも、本件公開条例二条一項所定の「公文書」に該当するというべきである。

四  まとめ

以上のとおりであるから、本件不受理処分の取り消しを求める控訴人の請求は理由がある。

第四  結論

よって、本件控訴は理由があるから、原判決を取り消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六七条二項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 井上正明 裁判官 溝淵勝 裁判官 杉江佳治)

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