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高松高等裁判所 平成13年(ネ)443号 判決 2002年2月18日

控訴人

有限会社A

同代表者清算人

控訴人

被控訴人

同代表者法務大臣

森山眞弓

同指定代理人

河合文江

丸山哲夫

渡部誠二

和泉康夫

坂東利定

海野眞次

倉本幸芳

長濱裕行

主文

1  本件各控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人有限会社Aに対し金7031万8517円、控訴人甲に対し金2282万9100円及びこれらの各金員に対する平成9年8月5日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  概要

控訴人甲は、その所有する土地建物(店舗、給油所、駐車場)を控訴人有限会社Aに賃貸し、同控訴人は、訴外会社(B)に同土地建物を転貸していたところ、所轄丸亀税務署職員から、控訴人有限会社Aが同甲の不動産管理会社であって同族会社であるが不動産管理料が異常に高額であって控訴人甲の所得税の負担を不当に減少させているとして、所得税法157条(同族会社等の行為又は計算の否認)に基づき、平成6年度、7年度、8年度分所得税の修正申告を促され、その結果、控訴人甲はこれに応じて修正申告をして追徴税額を納付した。

本件は、控訴人らが、丸亀税務署職員による上記修正申告の促しは、違法な公権力の行使に当たり、その結果、控訴人甲は納付した追徴税額相当その他合計2282万9100円の損害を被り、控訴人有限会社Aも給油所の閉鎖に追い込まれたことなど合計7031万8517円の損害を被ったと主張して、国家賠償法1条1項に基づき、被控訴人に対し上記各損害の賠償を求めた事案である。

2  争いのない事実及び争点(当事者の主張)

原判決「事実及び理由」第2の2、3(2頁12行目から13頁14行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、以下のとおり補正する。

(1)  原判決2頁17行目の「所有権移転登記がなされ、」の次に「混同を原因として」を加える。

(2)  同頁24行目の「所得税法157条1項」の次に「1号(法人税法2条10号)」を加える。

(3)  同3頁5行目の括弧書きを「(同族会社等の行為又は計算の否認)」に改める。

(4)  同4頁15行目の「督促状により、」、を削り、同17行目の「延滞金)」の次に「の納付を督促する旨の督促状」を加える。

(5)  同5頁5行目から6行目にかけての括弧書きを「(同族会社の行為又は計算の否認)」に改める。

(6)  同頁末行の「(更正)」を削る。

(7)  同6頁6行目の「庚」を、「丁税理士」に改める。

(8)  同頁25行目の「による本件処分」を削る。

(9)  同7頁13行目から14行目にかけての「B」を「B株式会社(以下「B」という。)」に改める。

(10)  同10頁16行目から17行目にかけての「B株式会社(以下「B」という。)」を「B」に改める。

(11)  同11頁5行目から6行目にかけての「による本件処分」を削る。

(12)  同頁15行目の「売買する」を「売り渡す」に、同17行目の「1500万借入」を「1500万円の借入れ」にそれぞれ改める。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、丸亀税務署職員らのした控訴人甲に対する修正申告の促し等の行為が、控訴人らに対する違法な公権力の行使ということはできず、国家賠償法1条1項に基づく控訴人らの本件請求は理由がないものと判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第3の1(13頁16行目から27頁14行目まで)の理由説示と同じであるから、これを引用する。

(1)  原判決13頁17行目の「課税」を「修正申告の促し」に改める。

(2)  同14頁7行目の「115万円」の前に「月額」を加える。

(3)  同頁14行目の「同族会社」の前に「所得税法157条1項1号(法人税法2条10号)所定の」を加える。

(4)  同171頁21行目の「不動産」を「不動産所得」に改める。

(5)  同18頁25行目の「Bが」を「Bを」に改める。

(6)  同19頁3行目の「この転貸については」から同頁4行目の「見られる」までを「控訴人会社の実体は、控訴人甲の所有する土地建物を対象とする不動産管理会社であると見られる」に改める。

(7)  同頁14行目から15行目にかけての「、上記賃料が通常の金額を定めた場合に比べると」を削る。

(8)  同20頁1行目から同頁3行目までを次のとおり改める。

「したがって、控訴人甲について所得税法157条を適用すべき余地がなかったとは到底いえず、その適用を前提とした修正申告の促しが誤りであり、違法な公権力の行使であったとは到底いえない。」

(9)  同頁7行目の「前提に」を「前提の下に」に改める。

(10)  同21頁6行目の「相当の根拠」から同行目文末までを「相当の根拠があったといえる。」に改める。

(11)  同頁7行目から同22頁13行目までを次のとおり改める。

「④ 控訴人らは、次のとおり主張する。控訴人らは、丁税理士及び丸亀税務署職員の丙に対し、控訴人会社の不動産管理料を20%で計算して追徴税額を算出すること及び同追徴税額から控訴人会社が各年度に支払った二重課税分を差し引くことを妥協案の条件として伝えた。これについて、丙は、控訴人らに対し、これを受け入れて妥協すると約束し、控訴人らを期待させ、修正申告書を提出させた。ところが、控訴人甲は、丁税理士及び丙から、上記妥協約束は現実に二重課税分を差し引くのではなく、控訴人甲の平成6年度から平成9年度までの不動産所得加算分約2000万円に対し、控訴人会社が平成9年度から平成13年度までの5年間に約2000万円を損金経理する方法で行うと聞かされ、丙に誑すして誑かされたと思い、丸亀税務署職員の丙及び戊に上記修正申告書の返戻を強く要求したが、返却してくれなかった、と。

しかし、控訴人会社の不動産管理料を20%で計算して追徴税額を算出すること及び同追徴税額から控訴人会社が各年度に支払った二重課税分を差し引くことが修正申告の条件であり、丸亀税務署職員もこれを承諾したとの控訴人らの主張・供述は、反対趣旨の証人丁(乙5の陳述書を含む。)、同丙(乙9の陳述書を含む。)の各証言に照らし、たやすく採用できない。なお、控訴人らは、当審において、控訴人甲と丸亀税務署職員の丙との間で控訴人らの主張に沿う会話内容を録音したと称する録音テープ(甲25)を証拠として提出した。しかし、控訴人らの主張によっても、同録音テープが録音されたのは、控訴人甲が修正申告書を提出した平成9年11月5日より後の同月9日か10日ころのことであるというのであるから、同録音テープは、控訴人らの上記主張を裏付け得ない。しかも、その録音内容も、控訴人甲が丙に上記同様の主張を繰り返しているのに対し、丙から控訴人会社の法人税の過払分を遡って減額するわけにはいかないので、今後控訴人会社から同甲に過払分を返還することを約した上で未払金計上をし、損金処理をして控訴人会社の法人税負担を軽くすればどうかなどとアドバイスしていることが認められるのであり、その録音内容からは、控訴人ら主張のように、控訴人甲への追徴税額から控訴人会社が各年度に支払った二重課税分を差し引くことが修正申告の条件であり、丸亀税務署職員もこれを承諾していたことは窺えない。

また、控訴人らの主張する二重課税というのは、上記のとおり、控訴人甲の修正申告による不動産所得の増加分と既に控訴人会社が申告納付している上記不動産収入に係る所得とが重なるという趣旨をいうものであり、そうであれば、控訴人甲と控訴人会社は、別個の課税主体であるから、本来の意味での二重課税ではない。所得税法157条の適用によって同族会社の行為又は計算が否認されるのは、個人の課税計算上のみのことであって、同条の規定に基づく否認は法人が現実に行った行為又は計算に直ちに影響を及ぼすものではなく、控訴人会社の法人税については、控訴人甲の所得税とは別途に処理すべき問題である。

⑤ 以上のとおり、丸亀税務署職員が、控訴人甲に対する所得税法157条の適用を前提とした不動産所得の額、納付税額を算出してその旨の修正申告を促し、同申告額の納税をさせたことが控訴人らに対する違法な公権力の行使ということはできない。」

(12)  同25頁15行目の「賃貸し借り」を「賃貸借」に改める。

(13)  同頁21行目の「丙が行った」を「丙が言った」に改める。

(14)  同26頁14行目の「不利益な行為」の前に「自己に」を加える。

(15)  同頁18行目の「言ったかどうかについて、これ」を「言ったこと」に改める。

(16)  同頁末行の「適用をすること」から同27頁1行目の「させたこと」までを「適用を前提とした不動産所得の額、納付税額を算出してその旨の修正申告を促し、同申告額の納税をさせたこと」に改める。

2  以上のとおり、控訴人らの本件請求はその余の点について判断するまでもなく理由がないから棄却すべきである。よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小田耕治 裁判官 田中俊次 裁判官 松本利幸)

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