高松高等裁判所 平成13年(行コ)21号 判決 2002年2月26日
控訴人
甲
控訴人
乙
同両名訴訟代理人弁護士
臼井満
被控訴人
伊予西条税務署長
伊東省司
同指定代理人
片野正樹
同
近藤徳好
同
渡部誠二
同
和泉康夫
同
坂東利定
同
海野眞次
同
倉本幸芳
同
長濱裕行
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1控訴人らの求める裁判
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が平成8年9月26日付けでした控訴人らの平成4年4月17日相続開始に係る相続税の更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。
第2事案の概要等
1 原判決の引用
原判決「事実及び理由」第2を引用する。
ただし、次のとおり補正する。
6頁3行目の「(国税通則法23条2項1号該当性)」を削除する。
2 当審附加主張
(1) 控訴人ら
ア 本件土地は、丁が亡丙から贈与(本件贈与)を受けていたものであり、本件判決はこのような実体的な権利関係を反映したものである。
イ 控訴人らは、本件各土地はその地上の本件建物とともに丁が所有し、本件各土地が亡丙の遺産に含まれているという認識は全く有していなかったし、そのことには無理からぬ事情があった。控訴人らの依頼を受けた税理士も、本件各土地につき丁から事情を聴取することができなかったために、本件各土地が丁所有であることを認識することができず、丁が地上権を有するとして相続税の申告手続をしたにすぎない。したがって、控訴人らにおいて本件各土地が亡丙の名義のまま残っており、相続財産として課税の対象となるとの認識はなく、そのことには無理からぬ事情があった。
(2) 被控訴人
控訴人らの主張を否認ないし争う。
第3当裁判所の判断
1 国税通則法23条1項は、納税申告書を提出した者は、当該申告に係る課税標準等又は税額等の計算が誤っていたこと等により、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等には、その法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨定め、同条2項は、同条1項の更正請求ができる期間後であっても、判決(これと同一の効力を有する和解等を含む)により、申告等に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した場合等には、その翌日から2か月以内であれば、更正の請求ができる旨定めている。すなわち、同条1項は、納税申告時には予知し得なかった事態その他やむを得ない事由が後発的に生じ、これにより課税標準等又は税額等の計算の基礎に変更を生じ税額の減額をすべき場合にも更正を認めないとすると、帰責事由のない納税者に酷な結果が生じる場合等があると考えられることから、例外的に、一定の場合に更正の請求を認めることによって、保護されるべき納税者の救済の途を拡充した規定であり、同条2項は、同条1項の期間制限を同条2項各号所定の事由がある場合に一定の期間解除する趣旨の規定であるといえる。
そうすると、たとえ納税申告書を提出した者に同条2項1号所定の事由が存在したとしても、同条1項所定の当該申告に係る課税標準等又は税額等の計算が誤っていたこと等により、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等の要件が存在しない限り、更正の請求に対して更正をすべきことにはならない。
これを本件についてあてはめていえば、控訴人らの主張する本件贈与の事実が認められないときは、控訴人らの請求は理由がないものというべきである。そこで、以下において、本件贈与の存否について検討する。
2(1) 原判決「事実及び理由」第3の2(1)を引用する。
(2) 原判決「事実及び理由」第3の2(1)説示によれば、本件贈与を受けたという丁の供述は、専ら戊の言を根拠とするものであり、亡丙が本件贈与の意思表示をしたことを認めるに足る書類等は存在せず、亡丙が戊の行為を追認したことを認めるに足る客観的な証拠も存在しない。かえって、原判決「事実及び理由」第2の1説示及び同第3の2(1)説示の認定事実によれば、亡丙は、平成4年4月17日死亡するまで本件各土地の固定資産税をほぼ一貫して負担し、丁の申述によれば、丁からの本件各土地の登記名義変更の申出に対して逆上したという癸が平成元年10月26日死亡した後においても、丁への登記名義の変更を行っていないことが認められる。また、丁自身の本件各土地の権利に関する主張も、被控訴人所属調査職員の事情聴取の際の申述ないし辛税理士に対する供述等を比較検討すると、その内容、贈与者等につき、必ずしも一貫していないことが認められる。以上の事情を考え併せると、本件贈与の事実を認めるに足る的確な証拠はないものといえる。なお、証人Cは、戊ないし丁から、本件各土地は戊が丁に与えたものであると聞かされていた旨証言し、証人辛は、本件当初申告後、壬と丁から、本件各土地は丁のものであると聞かされた旨証言し、控訴人甲は、本件各土地は当然丁のものだと思っていた旨供述しているが、前記説示に照らすと、これらの証言ないし供述を採用することはできず、これらをもって亡丙が本件贈与の意思表示をしたことを推認することはできない。
3 以上のとおりであるから、本件贈与を認めることができず、控訴人らに、国税通則法23条1項所定の当該申告に係る課税標準等又は税額等の計算が誤っていたこと等により、当該申告書の提出により納付すべき税額が過大である場合等の要件が存在するとはいえない。したがって、本件判決が国税通則法23条2項1号所定の「判決」に該当するとしても、被控訴人が控訴人らに対してした更正をすべき理由がない旨の本件通知処分は適法である。
4 まとめ
以上によれば、控訴人らの請求はいずれも理由がない。
第4結論
よって、原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井土正明 裁判官 杉江佳治 裁判官 佐藤明)