高松高等裁判所 平成13年(行コ)24号 判決 2002年12月05日
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要等
1 事案の概要及び本件訴訟の経過
(1) 本件は,徳島県の住民である被控訴人が,控訴人に対し,徳島県情報公開条例(平成元年徳島県条例第5号。平成13年徳島県条例第1号による全部改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づいて,平成11年10月5日,別紙文書目録1記載の文書(以下「本件1文書」という。)及び同目録2記載の文書(以下「本件2文書」という。)の公開を請求したところ(以下「本件請求」という。),控訴人が,同月19日付けで,徳島県議会は情報公開実施機関ではないという理由により本件請求を不受理とする処分(以下「本件不受理処分」という。)をしたため,被控訴人がこれを不服として,本件不受理処分の取消しを求めた事案である。
(2) 原審は,本件不受理処分を取り消した(請求認容)ので,控訴人が控訴して,原判決取消し・請求棄却の判決を求めた。
2 本件条例の規定
本件条例(乙1)2条は,次のとおり規定している。
(1) この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)であって,決裁,供覧等の手続が終了し,実施機関が管理しているものをいう。(1項)
(2) この条例において「公文書の公開」とは,実施機関が,次章に定めるところにより,公文書を閲覧に供し,又はその写しを交付することをいう。(2項)
(3) この条例において「実施機関」とは,知事,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,地方労働委員会,収用委員会,海区漁業調整委員会,内水面漁場管理委員会及び公営企業管理者をいう。(3項)
3 争いのない事実
(1) 被控訴人は,徳島県に居住する住民であり,控訴人は,本件条例2条3項の実施機関である。
(2) 被控訴人は,平成11年10月5日,控訴人に対し,本件条例5条,7条に基づき,本件1文書及び本件2文書(以下,総称するときは「本件1・2文書」という。)について,本件請求をした。
(3) 控訴人は,同年10月19日付けで,徳島県議会は情報公開実施機関ではないという理由により本件請求を不受理とする処分(本件不受理処分)をした。
(4) 被控訴人は,同年11月10日,控訴人に対し,本件不受理処分について行政不服審査法6条に基づく異議申立てをした。控訴人は,平成12年2月21日,徳島県公文書公開審査会を通じ,被控訴人に対し,本件不受理処分の理由説明書を送付した。被控訴人は,同年3月28日,理由説明書に対する意見書を提出するとともに口頭陳述を行った。
(5) 控訴人は,平成13年3月28日,被控訴人に対し,上記異議申立てを棄却する決定をし,その決定書は同日,被控訴人に送達された。
(6) 被控訴人は,同年4月26日,本訴を提起した。
4 争点
(1) 本件請求に係る文書に歳出整理簿等が含まれるか(当審における被控訴人の補充主張に基づく争点)。
(被控訴人)
ア 徳島県の出納長は,徳島県会計規則47条の2の規定により,歳入整理簿・歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿を備え,出納を整理しなければならないとされているところ,その歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿は,支出命令書によって各支出毎に支出日,執行機関名(警察・議会等),金額が款・項・目・節を付して記載され,かつ,知事部局の出納課が保管している。したがって,歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿は,被控訴人が公開を求めた本件2文書の徳島県議会の支出にかかる「支出命令書その他一切の書類」の中に含まれる。
イ 県議会は,タクシー券の使用について,月別に件数・金額を記載したタクシー券月別使用報告書を知事部局の管財課に提出しており,同報告書は,管財課が管理・保存している。また,県議会で使用するペーパータオルの支出命令書は,管財課に所在し,保管されている。したがって,タクシー券月別使用報告書及びペーパータオル購入のための支出命令書は,被控訴人が公開を求めた本件1・2文書に含まれる。
ウ そうすると,上記ア及びイの各文書の公開請求を含む本件請求を不受理とした本件不受理処分は,取消しを免れない。
(控訴人)
争う。
仮に,被控訴人主張の上記ア及びイの各文書が,管財課及び出納課に存在するとしても,これらの文書は,本件不受理処分の前提として特定された範囲内の公文書には該当しないから,被控訴人の主張は失当である。
(2) 本件請求に係る文書が,本件条例2条1項所定の「公文書」,すなわち,実施機関である控訴人ないしその補助職員が職務上作成し,又は取得した文書であって,実施機関である控訴人ないしその補助職員が管理しているものに当たるか否か。
当事者双方の主張は,次のとおり訂正するほか,原判決の「事実及び理由」第2の3(ただし,3頁13行目から4頁8行目まで)のとおりであるから,これを引用する。
ア 原判決3頁14行目,24行目及び4頁7行目の各「条例」をいずれも「本件条例」に改める。
イ 同3頁22行目の「本件各文書」を「本件1・2文書」に,末行から4頁1行目の「調整権」を「調製権」に各改める。
第3当裁判所の判断
1 争点について判断する前に,まず,本件不受理処分の行政処分性について検討するに,当裁判所も,本件不受理処分は抗告訴訟の対象となる行政処分であると解するものである。その理由は,次のとおり訂正するほか,原判決「事実及び理由」第3の1(ただし,4頁11行目から24行目末尾まで)と同じであるから,これを引用する。
(1) 原判決4頁11行目冒頭の「前記第2の1(2)ウ」を「前記第2の3(3)」に改める。
(2) 同4頁11行目,19行目から20行目及び21行目の各「本件処分」をいずれも「本件不受理処分」に,13行目,15行目,20行目及び22行目の各「条例」をいずれも「本件条例」に,20行目及び22行目の各「本件各文書」をいずれも「本件1・2文書」に各改める。
2 そこで,争点(1)(本件請求に係る文書に歳出整理簿等が含まれるか)について判断する。
(1) 被控訴人は,本件1・2文書の公開を求めているところ,本件1文書が「平成9年8月22日ないし25日開催の全国都道府県議会議員野球大会に出場した徳島県議会議員及び職員に対する支出(旅費,日当,宿泊料,食糧費,議長交際費等)に関する一切の支出命令書」であり,本件2文書が「平成8年4月1日から平成11年10月5日までの間における,徳島県議会の支出(議長交際費,県政調査研究費,報酬,旅費,日当,宿泊料,食糧費,費用弁償,物品購入,タクシー券等)にかかる支出命令書その他一切の書類」であることに照らし,本件1文書はすべて本件2文書の一部として包含されるものと認められるので,本件2文書を中心として,争点1について検討すれば足りることになる。
(2) 本件条例7条2号は,公文書の公開を請求しようとするものは,実施機関に対して,「公開を請求しようとする公文書の件名その他の当該公文書を特定するために必要な事項」を記載した請求書を提出しなければならない旨定めている。
ところが,本件請求では,公開請求の対象とする文書を,本件2文書のとおり「平成8年4月1日から平成11年10月5日までの間における,徳島県議会の支出(議長交際費,県政調査研究費,報酬,旅費,日当,宿泊料,食糧費,費用弁償,物品購入,タクシー券等)にかかる支出命令書その他一切の書類」とするものであり,このような「その他一切の書類」という記載方法が,公開を請求しようとする公文書の特定という点で不十分な点があることは否定できない。もっとも,一般の県民にとって,「公開を請求しようとする公文書の件名」を特定することは必ずしも容易でなく,また,「その他の当該公文書を特定するために必要な事項」についても必ずしも適切な記載ができないこともあり得るから,公開を請求しようとする公文書の内容をある程度具体的に記載した上で,これらに「その他一切の書類」というような記載を付して,公開請求をすることが本件条例7条2号に反するとまでいうことはできない。そして,そのような請求がされた場合,実施機関としては,「その他一切の書類」の前に記載された具体的な文書に準じるか,あるいはこれと一体的ないし密接な関連を有する文書については,これらをも特定しての公開請求があったものとして,公開をするか否かを判断すべきものといわなければならない。
(3) 上記(2)に説示したところによれば,被控訴人が本件2文書として請求する文書は,平成8年4月1日から平成11年10月5日までの間における,徳島県議会の支出にかかる支出命令書及びこれに準ずるか,あるいはこれと一体的ないし密接な関連を有する文書というべきところ,証拠(甲1・2の各1・2,3ないし6)及び弁論の全趣旨によれば,具体的には,議会費の歳出予算の節の区分における「報酬」,「給与」,「職員手当等」,「共済費」,「賃金」,「報償費」,「旅費」,「交際費」,「需用費」,「役務費」,「委託料」,「使用料及び賃借料」,「工事請負費」,「備品購入費」,「負担金,補助金及び交付金」の各節にかかる支出に関し,それぞれの支出に応じて作成された「経費支出伺」,「支出負担行為決議書」,「支出命令書」,「支出負担行為決議書兼支出命令書」等がこれに該当すると認められる。
(4)ア 被控訴人は,前記第2の4(1)アのとおり,徳島県の出納長が,徳島県会計規則47条の2の規定により備えなければならないとされ,知事部局の出納課が保管している歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿は,支出命令書によって各支出毎に支出日,執行機関名(警察,議会等),金額等が記載されているから,被控訴人が公開を求めた本件2文書の徳島県議会の支出にかかる「支出命令書その他一切の書類」の中に含まれると主張する。
しかし,上記歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿は,出納長が,徳島県会計規則(昭和39年徳島県規則第23号,甲20,乙3)47条の2第2号・第3号に基づき,帳簿として備え,出納を整理するものであり,そのうち歳出整理簿は,様式第44号によると,当該年度の当初から日を逐って,県全体の予算執行について,款・項・目・節・細節の予算区分に従って,科目の名称,日付,執行機関,業務区分,区分,決議番号,内訳番号,件数,予算現額(A),支出負担行為済額(B),残額(A)-(B),支払済額(C),残額(A)-(C)及び支払日が記載されるという体裁のものであって,具体的な支出内容等が記載されるものではなく,歳入歳出外現金整理簿も,様式第45号によると,具体的な支出内容等が記載されるものではない。したがって,歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿は,上記(3)記載の県議会の支出にかかる支出命令書等とは性格を異にし,同支出命令書に準ずる文書とはいえないし,これと一体的ないし密接な関連を有する文書ともいい難い。加えて,被控訴人が歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿を具体的に示して,これらの文書が本件2文書の「支出命令書その他一切の書類」に含まれると主張したのが,当審になってからのことであること等も併せ考えると,上記歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿は,本件2文書の「支出命令書その他一切の書類」に含まれると解することはできない。そして,このように解したとしても,被控訴人は,改めて公開を請求しようとする公文書として歳出整理簿・歳入歳出外現金整理簿を特定して,その公開を求めれば足りるのであるから,被控訴人の権利保護に欠けるものではない。
イ 被控訴人は,前記第2の4(1)イのとおり,タクシー券月別使用報告書及びペーパータオル購入のための支出命令書は,被控訴人が公開を求めた本件1・2文書に含まれると主張する。
証拠(甲18,19の1~3,乙14)によれば,タクシー券月別使用報告書は,県議会だけではなく,県の各執行課等のすべてが月別に支出件数,金額等の内容を指定タクシー運用要綱に基づいて毎年6月30日までに前年度分を管財課に報告するために作成するものであること,また,ペーパータオルは,管財課が,行政棟のみならず議会棟を含めて県の庁舎管理の一環として一括して購入しているものであって,管財課においてその支出負担行為決議書兼支出命令書を作成しているものであることが認められる。したがって,タクシー券月別使用報告書及びペーパータオルの支出命令書は,上記(3)記載の県議会の支出にかかる支出命令書等とは性格を異にし,同支出命令書に準ずる文書とも,これと一体的ないし密接な関連を有する文書ともいい難いから,本件2文書に含まれると解することはできない。
ウ よって,上記ア及びイ冒頭の被控訴人主張の各文書が本件請求の対象に含まれることを前提として本件不受理処分は取消しを免れないとする被控訴人の主張は,採用することができない。
(5) そうすると,本件請求に係る文書は,具体的には,上記(3)記載の県議会の支出にかかる支出命令書等ということになる。
3 争点(2)(本件請求に係る文書の本件条例2条1項所定の「公文書」該当性)について判断する。
(1)ア 本件条例2条1項は,前記第2の2のとおり,「この条例において『公文書』とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)であって,決裁,供覧等の手続が終了し,実施機関が管理しているものをいう。」と規定している。したがって,本件請求に係る文書が本件条例による公開請求の対象となる公文書に当たるというためには,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した同項に掲げる文書等であり,かつ,実施機関が管理しているものであることを要すると解される。そして,同条3項は,控訴人を実施機関としているが,県議会ないし県議会議長を実施機関としていないから,県議会議員若しくは同事務局職員が職務上作成し,かつ,取得した文書等,又はこれらの者が管理している文書等は,上記の公開請求の対象となる文書には含まれないものというべきである。
イ 次に,地方自治法149条8号は,証書及び公文書類の「保管」を普通地方公共団体の長の担任事務としているが,同号は当該地方公共団体のすべての証書及び公文書類の保管の総括的な責任と権限を有する者が長であることを明らかにしたものにすぎないのに対し,本件条例2条1項にいう「管理」は,同条3項に掲げられた各実施機関がその主体であると構成されていることからみても,上記の「保管」と異なり,当該公文書を現実に支配,管理していることを意味するものと解すべきである。(最高裁平成13年12月14日第2小法廷判決・民集55巻7号1567頁)。
(2) そこで,前記2(3)記載の文書(本件2文書)を作成し,又は取得するのが,控訴人ないしその補助職員であるか否かはさておき,まず,控訴人ないしその補助職員が,同文書を現実に支配,管理しているか否かについて判断する。
ア 徳島県会計規則(乙3)48条1項は,収入及び支出の証拠書類の保存を規定しているが,保存の主体については規定していない。そして,徳島県議会事務局規程(昭和39年徳島県議会規程第1号,乙4)3条5号は,徳島県議会事務局総務課が文書の保存に関する事務をつかさどる旨を定め,同規程24条は,処理の完結した文書は,別に定めるところにより編さんし,保存しなければならない旨を定めている。同条を受けて,徳島県議会事務局文書編さん保存規程(昭和35年徳島県議会規程第2号,甲15,乙5)1条は,完結文書は,同規程によって編さん,保存しなければならないものと定め,同規程3条1項別表は,編さん保存する文書の保存期間の区分として「出納関係」,「予算決算関係」等を掲げている。
そして,証拠(乙8ないし14)及び弁論の全趣旨によると,県議会事務局職員は,上記規程等に基づき,予算執行終了後,前記2(3)記載の文書(本件2文書)を,完結文書として,徳島県庁(行政庁舎)とは別棟の議会庁舎内の議会事務局内に設置されたキャビネットに保存していることが認められる。
イ 上記アの規程等の内容及び保存の実情に関する事実によれば,前記2(3)記載の文書(本件2文書)を現実に支配,管理しているのは県議会事務局(総務課)の職員であるというべきである。なお,県議会事務局の事務局長,次長兼総務課長及び総務課課長補佐は,徳島県事務決裁規程(昭和42年徳島県訓令第160号,乙2)に基づき,知事部局の事務吏員に併任されて,予算執行権限のうち県議会議員及び同事務局職員に関する事項を補助執行しているが,前記完結文書の保存は県議会事務局職員としての地位,権限に基づき行われるものである。したがって,上記3名の職員が知事部局の併任事務吏員としての地位・権限を有するからといって,その地位・権限に基づき,予算執行終了後,前記2(3)記載の文書(本件2文書)を管理しているということはできない。
(3) 以上によると,前記2(3)記載の文書(本件2文書)は,(実施機関ではない)県議会の事務局職員が管理しているものであって,実施機関である控訴人(ないしその補助職員)が管理しているものとはいえないから,その余の要件(同文書を作成し,又は取得するのが控訴人ないしその補助職員であるか否かの点)について検討するまでもなく,本件条例2条1項でいう「公文書」には当たらないというべきである(なお,本件1文書は,前記2(1)のとおりすべて本件2文書の一部として包含されるから,本件2文書が本件条例2条1項でいう「公文書」に当たらない以上,本件1文書も同「公文書」に該当しないことはいうまでもない。)。
4 以上によれば,本件不受理処分は適法であり,被控訴人の請求は理由がないから棄却すべきである。よって,被控訴人の請求を認容した原判決を取り消し,請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 豊永多門 裁判官 朝日貴浩)
file_2.jpg別紙