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高松高等裁判所 平成13年(行コ)26号 判決 2002年12月05日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  訴訟の総費用(最高裁判所平成11年(行ツ)第285号事件に係る上告費用を除く。)は,控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が,控訴人に対し,平成8年8月21日付けでした公文書公開請求書の不受理処分を取り消す。

第2事案の概要等

1  事案の概要及び本件訴訟の経過

本件は,徳島県の住民である控訴人が,徳島県情報公開条例(平成元年徳島県条例第5号。平成13年徳島県条例第1号による全部改正前のもの。以下「本件条例」という。)に基づき,被控訴人に対し,徳島県議会(以下「県議会」という。)議員及び同事務局職員に関する平成7年8月1日から平成8年7月31日までの間の,[1]食糧費及び議長交際費に係る支出負担行為決議書兼支出命令書,支出伺,懇談の相手方など支出に係る一切の書類,[2]旅行命令簿兼旅費請求書,支出伺,復命書など旅費に係る一切の書類の公開を請求したところ,被控訴人から,平成8年8月21日付けで,県議会は実施機関ではないという理由で請求を不受理とする旨の処分(以下「本件不受理処分」という。)を受けたため,同処分の取消しを求めた事件である。

なお,本件訴訟の経過は,次のとおりである。第1審の徳島地方裁判所は,控訴人の請求を棄却した(平成10年(行ウ)第5号)。これに対し,控訴人が控訴したところ,差戻前の控訴審の高松高等裁判所は,第1審判決を取り消した上で,控訴人の請求を認容した(平成11年(行コ)第9号)。これに対し,被控訴人が上告及び上告受理の申立てをしたところ,最高裁判所は,被控訴人の上告を棄却する旨の決定をしたが(平成11年(行ツ)第285号),被控訴人の上告受理申立てについて,上告審として受理する旨の決定を経て,上記差戻前の控訴審判決を破棄し,本件を高松高等裁判所に差し戻す旨の判決を言い渡した(平成11年(行ヒ)第221号)。

2  本件条例の規定

本件条例(乙1)2条は,次のとおり規定している。

(1)  この条例において「公文書」とは,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び写真(これらを撮影したマイクロフィルムを含む。)であって,決裁,供覧等の手続が終了し,実施機関が管理しているものをいう。(1項)

(2)  この条例において「公文書の公開」とは,実施機関が,次章に定めるところにより,公文書を閲覧に供し,又はその写しを交付することをいう。(2項)

(3)  この条例において「実施機関」とは,知事,教育委員会,選挙管理委員会,人事委員会,監査委員,地方労働委員会,収用委員会,海区漁業調整委員会,内水面漁場管理委員会及び公営企業管理者をいう。(3項)

3  争いのない事実

(1)  控訴人は,徳島県内に住所を有する者である。

(2)  控訴人は,被控訴人に対し,平成8年8月7日,本件条例5条,7条に基づき,県議会議員及び同事務局職員に関する平成7年8月1日から平成8年7月31日までの間の,[1]食糧費及び議長交際費に係る支出負担行為決議書兼支出命令書,支出伺,懇談の相手方など支出に係る一切の書類,[2]旅行命令簿兼旅費請求書,支出伺,復命書など旅費に係る一切の書類の閲覧及び写しの交付を請求した(以下「本件請求」という。)。

(3)  被控訴人は,平成8年8月21日付けで,県議会は実施機関ではないという理由で本件請求を不受理とする旨の処分(本件不受理処分)をし,控訴人は,同月23日,被控訴人からその旨の通知を受けた。

(4)  控訴人は,被控訴人に対し,平成8年9月30日,本件不受理処分について行政不服審査法6条に基づく異議申立てをした。

(5)ア  被控訴人は,平成9年1月17日,徳島県公文書公開審査会を通じ,控訴人に本件不受理処分に関する理由説明書を郵送した。

イ  控訴人は,同年3月7日,同説明書に対する意見書を提出した。

ウ  被控訴人は,平成10年3月9日,本件請求に係る公文書は,本件条例2条1項所定の「公文書」に当たらないとして,上記(4)の異議申立てを棄却する決定をし,控訴人は,同月10日,同決定書の送達を受けた。

(6)  本件請求に係る文書として,具体的には,①経費支出伺,②支出負担行為決議書兼支出命令書,③旅行命令簿兼旅費請求書,④復命書,⑤精算調書,⑥支出負担行為決議書兼返納調書,⑦債権者からの請求書及び⑧領収書(以下,これらを一括して「本件①ないし⑧の文書」という。)がある。

4  争点

(1)  本件請求に係る文書に歳出整理簿等が含まれるか(差戻し後の控訴審における控訴人の補充主張に基づく争点)。

ア 控訴人の主張

本件訴訟における最高裁判所の差戻判決を機に,本件請求により公開の対象となる文書が他になかったかどうかを控訴人が再検討したところ,本件①ないし⑧の文書のほかに,歳出整理簿,歳入歳出外現金整理簿(徳島県会計規則47条の2第2号,3号)が存在することが明らかになった。これは,本件請求にいう「一切の書類」として本件請求に係る文書に含まれ,かつ,知事部局において管理・保存されている文書である。

したがって,本件不受理処分は,公開されるべき文書と非公開文書(不存在文書)を明確にしないで,すべてを公開しないこととしたものであって,違法である。

イ 被控訴人の主張

本件請求に係る公文書公開請求書には,「一切の書類」という字句があるが,このような請求は本件条例7条2号に反し許されない。このような場合,結局,請求書記載の請求の趣旨等を考慮し,できるだけ適切な範囲で文書を特定した上,公開・非公開の判断をすることとなる。歳出整理簿についていえば,これは,県全体の予算執行状況を示す全体支出の帳簿であり,その記載は抽象的・一般的であって,具体的な支出内容は示されていない。歳出整理簿の上記のような内容や,歳出整理簿のような簿冊が各地方自治体に存在することは誰でも容易に推察されるのに,控訴人がこれを特定して開示請求をしていないことからすれば,本件請求に係る文書に歳出整理簿が含まれているとは解されない。

(2)  本件請求に係る文書が,本件条例2条1項所定の「公文書」,すなわち,実施機関である被控訴人ないしその補助職員が職務上作成し,又は取得した文書であって,実施機関である被控訴人ないしその補助職員が管理しているものに当たるか否か。

第3当裁判所の判断

1  争点について判断する前に,まず,本件不受理処分の行政処分性について検討する。

被控訴人は,本件請求に係る文書の公開をしない旨の決定をするのでなく,県議会は実施機関でないという理由で,本件請求を不受理とする旨の処分(本件不受理処分)をしたが,本件条例には,このような理由で公文書の公開請求を不受理とする根拠規定がない。

しかし,本件請求に係る文書を公開しない旨の被控訴人の意思は,本件不受理処分に明確に表示されており,また,被控訴人は,控訴人が本件不受理処分に異議を申し立てたのに対し,本件条例及び行政不服審査法所定の手続に則り,前記第2の3(5)のとおり,異議申立てを棄却している。

そうすると,本件不受理処分は,本件請求に係る文書を公開しない旨の決定にほかならず,抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるというべきである。

2  そこで,争点(1)(本件請求に係る文書に歳出整理簿等が含まれるか)について判断する。

本件条例7条2号は,公文書の公開を請求しようとするものは,実施機関に対して,「公開を請求しようとする公文書の件名その他の当該公文書を特定するために必要な事項」を記載した請求書を提出しなければならない旨定めている。

ところが,本件請求は,公開請求の対象とする文書を,[1]食糧費及び議長交際費に係る支出負担行為決議書兼支出命令書,支出伺,懇談の相手方など支出に係る一切の書類,[2]旅行命令簿兼旅費請求書,支出伺,復命書など旅費に係る一切の書類とするものであり,このような「一切の書類」というような記載方法が,公開を請求しようとする公文書の特定という点で不十分な点があることは否定できない。もっとも,一般の県民にとって,「公開を請求しようとする公文書の件名」を特定することは必ずしも容易でなく,また,「その他の公文書を特定するために必要な事項」についても必ずしも適切な記載ができないこともあり得るから,公開を請求しようとする公文書の内容をある程度具体的に記載した上で,これらに「一切の書類」というような記載を付して,公開請求をすることが本件条例7条2号に反するとまでいうことはできない。そして,そのような請求がされた場合,実施機関としては,「一切の書類」の前に記載された具体的な文書に準じるか,あるいはこれと一体的ないし密接な関連を有する文書については,これらをも特定しての公開請求があったものとして,公開をするか否かを判断すべきものといわなければならない。

そこで,この観点から,歳出整理簿等が本件請求の対象に含まれるか否かを検討するに,徳島県会計規則(昭和39年徳島県規則第23号,甲12,乙6)47条の2第2号,第3号は,出納長は,「歳出整理簿(様式第44号)」,「歳入歳出外現金整理簿(様式第45号)」を備え,出納を整理しなければならないと定めているところ,その様式第44号によると,歳出整理簿は,当該年度の当初から日を逐って,県全体の予算執行について,款・項・目・節・細節の予算区分に従って,科目の名称,日付,執行機関,業務区分,区分,決議番号,内訳番号,件数,予算現額(A),支出負担行為済額(B),残額(A)-(B),支払済額(C),残額(A)-(C)及び支払日が記載される体裁のものとなっており,具体的な支出内容等が記載される文書ではなく,様式第45号によると,歳入歳出外現金整理簿も,具体的な支出内容等が記載される文書ではない。

したがって,歳出整理簿及び歳入歳出外現金整理簿は,本件①ないし⑧の文書とは性格を異にし,これらに準ずる文書とはいえないし,本件①ないし⑧の文書と一体的ないし密接な関連を有する文書であるともいい難い。したがって,被控訴人が,本件請求の対象に歳出整理簿等は含まれないと解した上で,本件不受理処分をしたこと(弁論の全趣旨により認められる。)は,違法であるとはいえない。そして,このように解したとしても,控訴人は,改めて公開を請求しようとする公文書として歳出整理簿等を特定して,その公開を求めれば足りるのであるから,控訴人の権利保護に欠けるものではない。

3  争点(2)(本件請求に係る文書の本件条例2条1項所定の「公文書」該当性)について判断する。

(1)  本件条例に基づき公開を請求することができる「公文書」は,実施機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書等であって,かつ,実施機関が管理しているものであることを要する(本件条例2条1項)。そして,本件条例は,県議会ないし県議会議長を実施機関としていないから(2条3項),県議会議員又は同事務局職員が職務上作成し,かつ取得した文書等,又はこれらの者が管理している文書等は,公開請求の対象となる「公文書」には含まれないと解される。

そして,本件条例2条1項にいう「管理」とは,地方自治法149条8号にいう「保管」と異なり,当該公文書を現実に支配,管理していることを意味するものと解すべきである。

そこで,上記解釈を前提に,本件①ないし⑧の文書が,実施機関である被控訴人ないしその補助職員が「管理」しているものであるか否かにつき,検討する。

(2)ア  徳島県会計規則48条1項は,収入及び支出の証拠書類の保存を規定しているが,保存の主体については規定していない。そして,徳島県議会事務局規程(昭和39年徳島県議会規程第1号,乙3)3条5号は,徳島県議会事務局総務課が文書の保存に関する事務をつかさどる旨を定め,同規程24条は,処理の完結した文書は,別に定めるところにより編さんし保存しなければならない旨を定めている。同条を受けて,徳島県議会事務局文書編さん保存規程(昭和35年徳島県議会規程第2号,乙4)1条は,完結文書は,同規程によって編さん,保存しなければならないものと定め,同規程2条2項別表は,編さん保存対象文書(簿冊名)として「議員出張簿」「予算関係」「会計関係」「出張命令簿」「復命書」等を掲げている。

そして,証拠(乙10,11の1~5)及び弁論の全趣旨によると,県議会事務局総務課は,上記規程等に基づき,予算執行終了後,本件①ないし⑧の文書を,完結文書として,徳島県庁(行政庁舎)とは別棟の議会庁舎内の議会事務局内に設置されたキャビネットに保存していることが認められる。

イ  上記アの規程等の内容及び保存の実情に関する事実によれば,本件①ないし⑧の文書を現実に支配,管理しているのは県議会事務局(総務課)の職員であるというべきである。なお,県議会事務局の事務局長,総務課長及び総務課課長補佐は,徳島県事務決裁規程(昭和42年徳島県訓令第160号,乙2)に基づき,知事部局の事務吏員に併任されて,予算執行権限のうち県議会議員及び同事務局職員に関する事項を補助執行しているが,前記完結文書の保存は県議会事務局職員としての地位,権限に基づき行われるものである。したがって,上記3名の職員が知事部局の併任事務吏員としての地位・権限を有するからといって,その地位・権限に基づき,予算執行終了後本件①ないし⑧の文書を管理しているということはできない。

(3)  以上によると,本件①ないし⑧の文書は,(実施機関ではない)県議会の事務局職員が管理しているものであって,実施機関である被控訴人(ないしその補助職員)が管理しているものとはいえないから,その余の要件について検討するまでもなく,本件条例2条1項でいう「公文書」には当たらないというべきである。

4  したがって,本件不受理処分は適法であり,控訴人の請求は理由がない。

よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却し,訴訟費用につき,民事訴訟法67条2項後段,61条を適用して,訴訟の総費用(ただし,最高裁判所平成11年(行ツ)第285号事件に係る上告費用については,同事件の最高裁判所の決定により,被控訴人の負担とされているので,これを除いたものとなる。)を控訴人に負担させることとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 水野武 裁判官 豊永多門 裁判官 朝日貴浩)

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