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高松高等裁判所 平成14年(う)154号 判決 2002年11月19日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役2年に処する。

原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は,検察官中村好春作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから,これを引用する。

論旨は,被告人を懲役3年・5年間刑執行猶予に処した原判決の量刑は,刑の執行を猶予した点で著しく軽きに失し不当である,というのである。

そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討する。

本件は,被告人が,Aと共謀の上,前後2回にわたり,いずれも店舗の出入口ドア等の施錠を解錠して同店舗内に侵入し,そのうちの1店舗において,現金約200万円在中の金庫1個(時価約3万円相当)を窃取し,他の1店舗において,現金約117万5000円,切手5枚(価格合計310円相当)及び印鑑等12点(時価合計約2600円相当)在中の金庫1個(時価約2万円相当)をそれぞれ窃取した,という建造物侵入・窃盗2件からなる事案である。

本件各犯行は,熟練したいわゆるピッキング技術を身に付けた被告人が,一度に大金を入手するため,Aと共謀の上,その技術を悪用して店舗の出入口ドア等の施錠を解錠する方法により同店舗内に侵入し,そこから金庫ごと金品を盗み出すという,巧妙かつ大胆な手口によるものであって,態様悪質である。また,被告人は,狙いを付けた店舗にあらかじめ同様の方法により侵入し,店舗内の下見のほか,警報装置の作動状況や警備員が駆け付けるまでの時間の確認等をも済ませた上で,日をあらためてAを見張り役等に仕立てて現実の犯行に及んでおり,本件各犯行は周到に準備された計画性の高いものといえる。しかも,被告人は,犯行現場から逃走するに当たり,侵入口の鍵をピッキングにより再び施錠し,犯行の発覚を少しでも遅らせることにより,逮捕の危険を減少させる手立てをも講じている。以上のような本件各犯行の態様等に照らすと,そのこと自体から,これらが被告人の有するピッキング技術を駆使した被告人主導による職業的・常習的な犯行であることが優にうかがえる。こうしたことに加えて,この2件の犯行による財産被害は,現金だけに限ってみても合計317万円余りもの多額に上ること,被告人は,本件の背景事情やAとの主従関係等,本件をめぐる一部の事情について真実を語っていないと思われるところがあって,反省心も十分なものとは言えないこと,被告人は,平成12年5月ころ以降は正業に就いておらず,勤労意欲に乏しかった上に,態様こそ本件とは異なるものの,平成7年2月に窃盗罪(外2名と共謀の上,不正の手段によりパチンコ玉を窃取したもの。)により懲役1年6月・3年間刑執行猶予に処せられた前科を有するほか,本件と同種のピッキング盗による相当数の余罪の存在もうかがわれ,こうしたことに照らすと,被告人には金品を得るため安易に窃盗に及ぶ性癖があるとみられること,所論指摘のように,今日,本件のようなピッキング技術を駆使した職業的な窃盗事犯の横行が大きな社会不安を醸成しており,一般予防についても配慮する必要があることなどを併せ考えると,本件の犯情は悪く,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。

そうすると,原判示第1の被害会社に対し,現金被害の半額にも満たないものであるとはいえ,90万円を被害弁償金として支払い,その限度では財産被害が回復されたこと,受け取りこそ拒否されたものの,同第2の被害会社に対しても被害弁償金の一部として60万円を提供するなど,被害回復に向けた努力はしたこと,被告人が,2度とこうした窃盗の犯行には及ばないとの意向を示していること,義姉が,被告人の父親や兄とともに被告人の更生に助力し,監督もする旨誓っていること,その他記録上肯認することのできる被告人のために有利にしん酌すべき諸事情を十分考慮しても,本件は被告人に対し刑の執行を猶予すべき事案であるとは認められず,被告人を懲役3年・5年間刑執行猶予に処した原判決の量刑は,刑の執行を猶予した点において,不当に軽過ぎるというべきである。論旨は理由がある。

よって,刑訴法397条1項,381条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により,当裁判所において更に判決することとし,原判決が認定した事実に,原判決挙示の各法令(科刑上1罪及び併合罪の各処理を含む。)を適用した刑期の範囲内で被告人を処断すべきところ,上記情状のほか,当審における事実取調べの結果によって認められる次の新たな事情,すなわち,原判決後,被告人が,原判示第2の被害会社に対し被害弁償金の一部として40万円を送金したこと,被告人は現在型枠解体工として稼働しており,その雇い主が,今後も被告人を雇用し,相談にも乗る旨誓っていることなどを併せ考慮した上,被告人を懲役2年に処し,刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中80日をその刑に算入することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 正木勝彦 裁判官 増田耕兒 裁判官 齋藤正人)

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