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高松高等裁判所 平成14年(う)159号 判決 2002年11月07日

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役7年に処する。

原審における未決勾留日数中180日をその刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は,弁護人生田暉雄作成の控訴趣意書に記載のとおりであり,これに対する答弁は,検察官西浦久子作成の答弁書に記載のとおりであるから,これらを引用する。

第1控訴趣意中,事実誤認の主張について

論旨は,要するに,原判示第1の傷害致死の事実に関し,被告人は,本件犯行について共犯者Aと共謀した事実はなく,また,原判示岸壁付近において,被害者に対し,原判示のような多数の暴行,特に被告人が鉄パイプで殴りつけたり,その胸部,腹部,腰部を足蹴りし踏みつけるような暴行を加えたり,さらに,堤防の上に立っていた被害者に対し暴行を加えるかのような態度で駆け寄り,正常な歩行が困難となっていた被害者が動揺して誤って海中に転落したりしたような事実などないのに,これらの事実まで認定して,被告人の責任を殊更重くした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。

そこで,所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せて検討するに,原判決の「犯罪事実第1」の記載によると,原判決は,本件傷害致死の公訴事実に関し,被告人と共犯者Aとの共謀による同犯行を認定し,高松市a町b番地cのdビル1階ホール付近を本件犯行の第1現場,同市e町f丁目g番h号先の岸壁付近を第2現場として,(1)被告人とAとの被害者に対する暴行・傷害の共謀の成立時期について,第1現場から両者の共謀関係が成立するとする公訴事実に対して,第2現場における被告人の暴行の途中からと,(2)第2現場の被告人らの暴行の態様については,被告人が鉄パイプで被害者を殴打したり,同じく胸部,腹部,腰部を足蹴りしたり踏みつけたりした旨,(3)「被害者を岸壁先から海中に転落させて溺死させた」旨の公訴事実に対して,「被告人において,堤防の上に立っていた被害者に対し,暴行を加えるかのような態度で駆け寄り,上記の傷害により正常な歩行が困難となっていた被害者が動揺して誤って海中に転落し,よって,そのころ付近の海中において,被害者を溺死させた」旨,それぞれ認定している。

しかし,被告人は,第1現場からAとの間で,被害者に制裁を加えることを共謀した上,第2現場において,被告人が被害者を岸壁から海中に突き落として溺死させた事実を認定すべきであって,これと異なる事実を認定した原判決には,重大な事実誤認があるというべきである。以下,その理由を述べる。

1  関係証拠によれば,以下の事実が認められる。なお,被告人も,①ないし③については,概ね争いなくこれを認めており,また,原判決も,①ないし⑥までの内容については,当審と同旨の認定をしているものである。

①  被告人は,愛媛県内の甲組系暴力団に籍を置いていた暴力団組員であり,平成13年5月17日に高松刑務所を仮出獄し,そのころ,知人から高松市内にある暴力団乙組組長の紹介を受け,同月末ころから乙組組長の客分として,乙組組長から高松市e町内のマンションを無償で提供されたり,資金の貸与を受けたりなどの世話を受ける一方,ほどなく,乙組の唯一の組員であるAと対等な兄弟分として付き合うようになった。

②  被告人は,同年5月末ころから6月初めころにかけて,B,C及びその実弟の被害者を配下の若衆として前記マンションに住まわせ,自らを兄貴と呼ばせるなどした上,被告人の指示により,Cを乙組の行儀見習いとして乙組事務所に出入りさせるとともに,当初Cがしていた,Aのしているコンパニオン派遣業の送迎車の運転手に被害者を充て,被害者を無償で働かせていた。

しかし,被害者は,たびたび送迎車で物損事故を起こしたり,Aの管理する金銭をくすねたりした上,被告人に嘘をついたり,注意をした被告人に反発する態度を示したりしたため,被告人は,被害者に対し,憤りを感じていたものの,被告人が今後も暴力団として活動していくつもりであったこととの関係で,被害者を自己の若衆としておくことに固執していた。

③  被告人は,同年7月3日,Aから,「被害者は,ヤクザとしては向いていない。」などと言われたため,同日午後8時過ぎころ,被害者に対し,被告人の配下として活動する気があるのかどうか確かめたところ,その際,被害者から頑張る旨の返事を得たことから,引き続き,被害者を配下とするつもりでいたところ,その約4時間後の翌4日午前零時過ぎころ,Cと高松市a町の繁華街のスナックで飲酒中,Aから携帯電話で,「被害者は,本当は姫路に帰りたいと言っている。」と聞き,被害者が被告人とAに矛盾する話をしただけでなく,Aから,被害者は,暴力団組員になるつもりはないようだという話を聞かされたことで,被害者から自分の顔に泥を塗られたと憤激し,被害者に対し,制裁を加えることを決意した。

④  被告人は,携帯電話で被害者の居場所を確認し,7月4日午前1時ころ,第1現場において,被害者に対し,その顔面を手けんで数回殴打し,その腹部等を足蹴にするなどの暴行を加えた。

被告人から事前にこれから被害者を締める旨の連絡を受けたAは,第1現場において,被告人が被害者に暴行を加えている現場に赴き,被告人の被害者に対する暴行を止めるでもなく,その様子を見ていたが,被害者が暴行を受けながらも,被告人に対し,反抗的な態度をとったことから,これを改めさせようとして,被害者の頭部を平手で1回殴打した。

さらに,被告人は,その場にいたCに命じて,Cに包丁を用意させようとしたが,Cは,結局,包丁を入手することはできなかった。

第1現場は,繁華街の道路に面しており,被告人が被害者に暴行を加えた状況は,スナックの店員等多数の者に目撃されたことから,被告人は,人目に付かない場所で,なおも被害者に対する暴行を継続するため,被害者に対し,「このままで終わると思うなよ。」などと言って,被告人が乗車してきていた普通乗用自動車に被害者を乗せ,Aに対してどこに移動するかを言わないまま,第1現場を立ち去った。

⑤  その後,被告人は,自宅のマンションに立ち寄り,内妻に指示して包丁を持って来させた後,前記自動車で第2現場に被害者を連行し,被害者に対し,包丁を突き付けて脅した。

Aは,その間,被告人が携帯電話でAに対し,「被害者を海に沈めようと思うとんや。」などと言ったことから,一緒にいた女性の運転する普通乗用自動車(軽四)に乗って被告人を探し回り,第2現場で被告人を見つけ,被告人と合流した。

⑥  被告人は,Aが来た後も,被害者に対し,手けんでその顔面等を数回殴打し,胸部等を膝蹴りする等したほか,現場にあった鉄棒や鉄パイプでその下半身を多数回殴りつける等したところ,その場に倒れた被害者がAの足にすがったのを見て,「お前が助けを求めよる兄弟は,乙組の人間やぞ。」などと言い,さらに被害者の胸部や腹部等を数回足蹴にしたり,踏みつけたりした後,Aに鉄パイプを手渡した。

そこで,Aは,誰も被害者を助けようとする者がいないことを被害者にわからせようとして,被告人から渡された鉄パイプで被害者の太股付近を数回殴打した。

被害者は,それまで受けた暴行により左右の肋骨4本が骨折していたほか,左右の下肢と右大腿部等に打撲傷等原判示認定の傷害を負っていた。

⑦  その後,被告人が被害者に対し,「そんなに帰りたいなら,泳いで帰れや。」などと言ったところ,被害者が「泳いで帰るわ。」などとうそぶいて,堤防上を歩き出したことから,被告人は,被害者がそれまでの暴行を受けながら,全く反省する態度を示さないことに激高し,「お前,まだおるんか。」などと言って,堤防上に立っていた被害者を両手で突き飛ばして海中に転落させた。

被害者は,転落後もしばらくその場で浮かんでおり,Aが付近にあったロープを岸壁から差し出して助けようとしたが,ロープが届かず,次第に,被害者が沈み始めたため,水泳の得意な被告人が海中に飛び込んで助けようとしたものの,結局,被害者を見つけることはできなかった。

⑧  被告人とAは,被害者が浮いてこないことから,被害者が溺れて死亡したと思ったが,その場でどうするか話をした際,被告人がAに対し,今回のことは自分に任せてくれ等と言い,その後,両者は第2現場に乗車してきていた自動車でそれぞれ帰宅した。

以上の各事実が認められる。

2  被告人が被害者を転落させたかどうかという点について,Aは,原審公判廷で,「被告人が被害者を海中に突き落とした状況を直接目撃してはいないが,被告人が私のすぐ横を走り抜けて被害者の方に向かった,バシャンという音がして振り返ると,被告人が両手を海の方に突き出している状態で,被害者の姿はなかった,そのとき被告人が両手を突き出していた場所は,被害者が立っていたその場所だった,私は,その様子を見て,被告人が被害者を突き落としたと理解した。」旨供述している。

Aの原審公判供述は,全体に詳細かつ具体的で,前後の経過も自然かつ合理的であり,Aが被害者に対し,自ら暴行を加えた際の思考過程についても,それが一般社会において直ちに受け入れられるものではないものの,暴力団という限られた独自の社会を前提とすれば,それなりに了解し得るものである。

その内容は,各現場での目撃者ら複数関係者の供述とも符合しており,信用性が認められる。

これに対し,被告人の捜査段階及び原・当審公判廷における各供述は,いずれも上記Aを含む関係者の供述に反しているほか,自己弁護の態度が目立つ上,被告人は,第1現場に至る前から,既に被害者に対して強く憤激し,第1現場では,主に被告人が被害者に対して暴行を加えているのみならず,それが第2現場まで継続しているところ,Aについては,被害者に対し,それほどまで強く憤慨すべき事情は見当たらないのに対し,被告人については,客分としての扱いを受けている乙組や自己の兄弟分であるAとの関係から,自らの若衆である被害者に対する制裁等の意図で,積極的に暴行を加える動機が認められること等に照らし,被告人の供述は,信用することができない。

所論は,被告人は,被害者について,暴力団員としてのしきたりやけじめに欠ける点があったことから,被害者に対し,しつけをしようとしたのであって,もともと被害者をかわいがっており,必要以上の打撃を与える意図はなかったなどと主張する。しかし,被告人の暴行は,本来自己に絶対服従の立場にある配下の者から,暴力団からの離脱の意思を表明され,その他,自己の面子をひどくつぶされたことに対する憤激の上での行動であり,その暴行の程度も前認定のとおり,非常に激しいものであって,被告人に所論指摘のような抑制が働いたとは到底考えられず,所論は採用の限りでない。

なお,被告人は,当審公判廷で,もし,本当に被害者を殺すつもりであったならば,被害者を包丁で刺していた等と供述するが,本件は,そもそも殺人の事案ではないから,被告人のこの供述は採用できない。

3  以上からすれば,①Aは,被告人が被害者から暴力団の兄貴分としての自己の面子がつぶされたとして激高している状況を認識し,その後,被告人が被害者を締めに行くとの連絡を受けて,自分も第1現場にのぞみ,同所で,被告人が被害者に対して激しい暴行を加えていたのを,被害者は被告人の若衆であるとして,被告人のなすがままにさせていた上,被害者が被告人に対し,反抗的な態度をとったのを見て,その態度を改めさせようとして,被害者の頭部を殴打する暴行を加え,その後,被告人が犯意を継続して被害者を第2現場に連行した後も,同現場に駆けつけ,被告人の被害者に対する更に激しい暴行を見ながら,これを阻止するような積極的な努力をせず,Aに助けを求めてきた被害者に対し,被告人から要請されるまま,Aは鉄パイプで被害者を殴打しているのであって,被告人とAとの間には,公訴事実記載のとおり,第1現場から本件犯行の共謀が成立しているとみるべきである。②また,本件については,前記のとおり,Aの原審供述は,十分信用できるのであり,これに対し,被告人の捜査及び原・当審公判における各供述は到底信用できないところ,前記Aの供述によれば,被告人が,既に被告人とAの暴行によって重傷を負っている被害者を故意に岸壁から海中に突き落とし,その結果,被害者がそれまでに負った傷害のため,自力で岸に泳ぎ着いたりして助かることができず,溺死したものと推認するのが相当である。

したがって,原判決の認定は,証拠の取捨選択及び評価を誤った結果,被告人とAとの共謀の成立時期及び被告人のした前記実行行為の重要な部分について事実の誤認があり,これが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

そうすると,所論は,必ずしも当を得たものではないけれども,事実誤認の論旨は,結論として理由がある。

したがって,原判決には,原判示第1の事実について,判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があるところ,原判決は,この事実のほか,原判示第2の事実(犯人隠避教唆罪)をも認定し,これらが刑法45条前段の併合罪の関係にあるとして,以上の各罪につき1個の刑をもって処断しているから,その全体について破棄を免れない。

第2破棄自判

そこで,量刑不当の論旨について判断するまでもなく,刑訴法397条1項,382条により原判決を破棄し,同法400条ただし書により被告事件について更に次のとおり判決することとする。

(犯行に至る経緯)

被告人は,平成13年5月末ころから,暴力団乙組組長の客分として,乙組組長からマンションを無償で提供されるなどの便宜を受け,また乙組の組員であるAと対等な兄弟分として交際する一方,Cやその実弟の被害者を前記マンションに同居させた上,自己の配下の若衆とし,被告人が指示し,Cを乙組の行儀見習いとして,同組事務所に出入りさせるとともに,被害者をAのしていたコンパニオン派遣業の送迎車の運転手として,無償で働かせていたが,被害者が送迎車で事故を起こしたり,Aの管理する金銭を盗んだり等の不始末をくり返していたことから,被害者に憤りを感じていた折り,Aから,「被害者は,ヤクザとしては向いていない。」などと言われたため,平成13年7月3日午後8時過ぎころ,被害者に対し,被告人の配下として活動をしていく気があるかどうか確かめたところ,被害者から頑張る旨の返答を得たため,引き続き,被害者を自己の若衆とするつもりでいた。

ところが,その数時間後の翌4日午前零時過ぎころ,被告人は,Aから被害者は暴力団組員になる気はなく,本当は姫路に帰りたいようであるなどと聞かされ,自分の顔に泥を塗られたと憤激し,被害者に対し,制裁を加えることを決意した。

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1  Aと共謀の上,平成13年7月4日午前1時ころ,高松市a町b番地c所在のdビル1階ホール付近等において,被告人の配下の被害者(当時30歳)に対し,被告人において,その顔面を手けんで数回殴打し,その腹部を数回足蹴にする等の暴行を加え,Aにおいて,被害者の頭部を平手で1回殴打する暴行を加え,さらに,被告人において,被害者を普通乗用自動車に乗車させて,同市e町f丁目g番h号先の岸壁付近まで連行し,同日午前1時45分ころ,同所において,被害者の下半身を鉄棒や鉄パイプで多数回殴打するなどした上,その胸部や腹部,腰部等を数回足蹴にしたり,踏みつけたりし,Aにおいて,同鉄パイプで被害者の太股付近を数回殴打する暴行を加え,よって,被害者に右第5肋骨・左第5ないし第7肋骨骨折,左前額部皮下出血,右側頭部・左右下肢・右大腿部打撲等の傷害を負わせるとともに,被告人において,被害者を両手で突き飛ばして同岸壁先の海中に転落させ,よって,被告人らの一連の暴行によって重傷を負い,既に,自力で岸に泳ぎ着く等の体力を失っていた被害者を,そのころ,同所において,溺死させて死亡するに至らしめ,

第2  前記第1の罪を犯し,被告人及びAが罰金以上の刑に当たる罪を犯したことを知りながら,被告人らの処罰を免れさせようと企て,同日午前3時30分ころ,同市e町f丁目i番j号所在の丙ハイツ303号室において,Cに対し,その情を打ち明けた上,「お前行けるか,俺のことや思うて,行ってくれ,あとのことは心配するな,俺が全部面倒を見てやる。」と申し向けるなどして被告人らの身代わりを依頼し,Cにその旨決意させ,よって,Cをして,同月5日午後4時30分ころ,同市k町l番m号所在の丁警察署において,同署司法警察員巡査部長Dに対し,「今年の7月4日午前2時ころ,e町の海岸で,自分が弟の被害者と喧嘩し,自分は鉄パイプで弟の足を殴るなどし,弟も素手で殴り返してきたが,弟は『泳いで姫路に帰る』と言って海に飛び込み,そのまま帰ってこないので,弟を捜して欲しい。弟が保護されたら引き取りに行きます。」などと虚偽の事実を申し立てさせ,もって,被告人らを隠避させ

たものである。

(証拠の標目)

[省略]

(法令の適用)

被告人の判示第1の所為は,刑法60条,205条に,判示第2の所為は,隠避の対象となる犯人ごとに同法61条1項,103条にそれぞれ該当するが,判示第2は正犯が1個の行為で2個の罪名に触れる場合であるから,同法54条1項前段,10条により一罪として犯情の重い被告人を隠避させた罪の刑で処断し,判示第2の罪について懲役刑を選択し,以上は同法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役7年に処し,同法21条を適用して原審における未決勾留日数中180日をその刑に算入し,原・当審訴訟費用は,刑訴法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。

(量刑の事情)

ところで,前検討の結果,原判決には,犯行態様の重要な部分について事実誤認があるとして破棄自判するところ,控訴審が新たに認定した犯罪事実は,被告人が被害者を岸壁から海中に突き落としたと認める点で,犯行態度としては,より悪質なものとみなければならない。しかし,本件は,被告人のみの控訴にかかる事件で,当然刑訴法402条の不利益変更禁止の規定が働くもので,原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。その前提に立って,当裁判所の主文の量刑理由を述べる。

本件は,(1)暴力団員として活動していた被告人が,高松市内で世話を受けていた暴力団の組員である共犯者と共謀の上,被告人の配下の若衆に対し,制裁を加えた上,遂に岸壁から海中に転落させて溺死させた傷害致死1件及び(2)それに引き続き,被告人の若衆で,被害者の実兄でもある正犯者をして,被告人らの身代わりとして警察に出頭させて虚偽の事実を申告させた犯人隠避教唆1件からなる事案である。

これらの犯行の罪質,動機,態様,結果及び被告人の前科関係等,殊に,傷害致死事件については,本件は,被告人の若衆であった被害者が,その生活等に嫌気を感じ,本心は郷里に帰りたい意思を有していたのに,本音を兄貴分である被告人に言わず,被告人の兄弟分である共犯者に話したことで,被告人がその面子をつぶされたと考え,被害者に制裁を加えようと決意し,本件暴行に及んだもので,暴力団特有の論理に基づくこの犯行の動機,犯行に至る経緯に酌むべき事情などないこと,犯行の態様も,無抵抗の被害者に対し,場所を変えながら,殴る蹴る等の暴行を加えたほか,鉄パイプ等の凶器を使用するなど,次第にその態様をエスカレートさせた情け容赦のないもので,執拗かつ悪質であること,被害者に落ち度やかかる手ひどい暴行を受けるいわれは全くないこと,もとより発生した結果が極めて重大であること,捜査・公判を通じ,本件について,不自然,不合理な弁解をくり返し,反省の情が乏しいこと,また,犯人隠避教唆事件についても,事もあろうに,被害者の実兄に対し,その生命を奪った犯人として警察に出頭するよう命じてその旨決意させ,一身に責任を負わせるべく犯行を実現したもので,肉親の情愛を無視したまことに冷酷無比で,悪質な犯行というほかないこと,さらに,徹底した罪証隠滅工作を行うなど犯行後の情状も芳しくないこと,いずれにしても,被告人は,被害者の遺族に対し,慰藉の措置を全く講じておらず,遺族感情も厳しいこと,被告人は,平成6年2月,平成12年1月にそれぞれ詐欺罪で懲役刑の言渡しを受け,服役した経験を有しながら,又もや,しかも,後者の刑で仮出獄中に本件各犯行に及んでおり,被告人の規範意識は希薄とみられること,以上を併せ考えると,本件の犯情は極めて悪く,主犯格である被告人の刑事責任は重いというべきである。

そうすると,被告人に粗暴犯前科がないこと,傷害致死事件についての責任自体は認め,犯人隠避教唆事件については,当初から犯行を認めていること,原審公判廷において,社会復帰後は暴力団とは縁を切る旨述べていること,被告人の内妻が被告人の監督を誓っていること,共犯者との科刑の均衡,その他原判決や所論が指摘し,記録上も認められる被告人のために酌むべき諸事情を十分考慮しても,被告人については,少なくとも原判決が科した懲役7年の刑はやむを得ないところである。

よって,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 正木勝彦 裁判官 増田耕兒 裁判官 河田泰常)

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