高松高等裁判所 平成14年(ネ)213号 判決 2004年10月28日
主文
1 原判決主文第1項(260号事件・352号事件中の所有権確認請求に関する部分)を次のとおり変更する。
(1) 原判決添付の別紙図面記載の<5>、3102、3100、3101、<1>、<2>、(2)、<4>、<5>の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地は、被控訴人らの所有であることを確認する。
(2) 被控訴人らの控訴人らに対するその余の所有権確認請求を棄却する。
2(1) 原判決主文第2項を取り消す。
(2) 控訴人有限会社古北に対し原判決添付の別紙図面記載の3105、3103、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、3104、3106、<6>、(5)、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの本訴請求を棄却する。
3(1) 原判決主文第3項を取り消す。
(2) 控訴人Y1に対し原判決添付の別紙図面記載の3105、(5)、<7>、3107、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの請求を棄却する。
4(1) 原判決主文第4項及び第5項(487号事件反訴請求に関する部分)を次のとおり変更する。
(2) 原判決添付の別紙図面記載の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地は、控訴人有限会社古北の所有であることを確認する。
5 訴訟費用は、第1審、第2審を通じ、被控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 控訴人有限会社古北(260号事件・487号事件)
(1)ア 原判決主文第1項及び第2項を取り消す。
イ 上記取消しに係る被控訴人らの本訴請求を棄却する。
(2) 原判決主文第4項及び第5項を次のとおり変更する。
ア(反訴主位的請求)
原判決添付の別紙図面(以下、単に「別紙図面」という。)記載の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地は、控訴人有限会社古北の所有であることを確認する。
イ(反訴予備的請求)
別紙図面記載の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地につき、控訴人有限会社古北が通行権を有することを確認する。
2 控訴人Y1(352号事件)
(1) 原判決主文第1項及び第3項を取り消す。
(2) 上記取消しに係る被控訴人らの請求を棄却する。
第2 事案の概要等
1 事案の概要
被控訴人らは、別紙図面記載の3100、3101、<1>、3103、3105、3107、<7>、<6>、3106、3104、<5>、3102、3100の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地(以下「本件係争地」という。)が、被控訴人らの購入した原判決添付の別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)に当たるとして、本件係争地にコンクリート舗装をしてこれを占有している控訴人らとの間で、本件係争地が被控訴人らの所有(共有)であることの確認を求めるとともに、所有権に基づき、控訴人らに対し、本件係争地内に設置されたセメント張り工作物(コンクリート舗装)の収去を求めた(260号事件・352号事件)。
控訴人有限会社古北(以下「控訴人会社」という。)は、被控訴人らに対して反訴を提起し、本件係争地と相当部分が重なる別紙図面記載の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地(以下「控訴人会社通路部分」という。)について、主位的に、控訴人会社が所有権を有すること、予備的に、控訴人会社が通行権を有することの確認を求めた(487号事件)。
原審は、260号事件・352号事件の被控訴人らの各請求を認容し、487号事件の控訴人会社の反訴請求を、別紙図面記載の(1)、(6)、<6>、3106、3104、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地が控訴人会社の所有であることの確認を求める限度で認容し、その余の請求を棄却した。
そこで、控訴人らのみが、これを不服として、控訴した。
2 争いのない事実
(1) 被控訴人らは、平成8年2月、本件土地を買い受けて所有権移転登記(持分各2分の1の共有)を経由し、また、平成7年又は8年、本件土地に隣接する徳島県鳴門市a町b字c232番3(以下、土地について、所在は同じであるので地番のみで表記する。)、231番2、274番2及び275番1の各土地を買い受けて、いずれも所有権移転登記(持分各2分の1の共有)を経由している。
(2) 控訴人会社は、本件土地の西側に位置する231番1、232番1、232番2、233番2及び235番3の各土地を所有している。
(3) 控訴人Y1は、233番1及び235番1の各土地を所有している。
(4) 被控訴人らの所有地と控訴人らの所有地の位置関係は、おおよそ原判決添付の別紙公図の写し(甲10。以下、単に「公図」という。)記載のとおりである。
(5) 控訴人会社通路部分には、コンクリート舗装が施されて、公道である国道11号線から控訴人会社所有の232番1及び231番1の各土地上の建物(通称鳴門会館。以下「鳴門会館」という。)への進入路として利用されている。
また、その南側に隣接する土地上には、控訴人Y1が別紙図面のとおりコンクリートブロック造車庫(以下「本件車庫」という。)を設け、本件車庫から国道11号線に至る土地の部分(以下「控訴人Y1通路部分」という。)をコンクリート舗装して進入路として使用している。
3 当事者の主張
(260号事件・352号事件)
(1) 被控訴人らの請求原因
ア 本件係争地は、被控訴人らが平成8年2月に購入した本件土地に当たる。
本件土地は、かつてため池であったが、その後、埋め立てられたのを契機として、隣地を所有する控訴人ら又はその前所有者らが、本件土地を取り込んだものである。
イ 控訴人会社は、本件係争地のうち控訴人会社通路部分にコンクリート舗装をして、これを占有、利用し、控訴人Y1は、本件係争地のうち控訴人Y1通路部分にコンクリート舗装をして、これを占有、利用し、その西側を本件車庫の敷地として占有、利用している。
ウ よって、本件土地の所有権に基づき、本件係争地が被控訴人らの所有であることの確認及び控訴人らが本件係争地内に設置しているセメント張り工作物(コンクリート舗装)の収去を求める。
(2) 請求原因に対する控訴人らの認否
ア 請求原因アの事実は否認する。
本件係争地のうち、控訴人会社通路部分は、控訴人会社所有の232番2、233番2及び235番3の各土地に当たるから、控訴人会社の所有である。また、控訴人Y1通路部分及び本件車庫の敷地は、控訴人Y1所有の233番1及び235番1の各土地に当たるから、控訴人Y1の所有である。
イ 請求原因イの事実は認める。
(3) 本件土地が本件係争地に当たるとした場合の仮定抗弁<1>(以下、(7)まで控訴人会社の関係)
ア 昭和48年2月、Aは、控訴人Y1から、233番2及び235番3の各土地を交換により譲り受け、その旨の所有権移転登記を経由し、そのころから、控訴人会社通路部分を進入路として所有の意思をもってその占有を始めた。昭和61年4月28日、控訴人会社代表者やその関係者が、Aから、233番2、235番3、231番1、232番1及び232番2の各土地を購入し、平成3年7月29日控訴人会社に現物出資して現在に至っており、控訴人会社代表者やその関係者及び控訴人会社は、この間、控訴人会社通路部分も引き続き進入路として所有の意思をもって利用、占有してきた。
したがって、控訴人会社は、控訴人会社通路部分につき、前々占有者であるAが昭和48年2月に開始した占有を承継し、20年間所有者として占有したから、その所有権を時効により取得したものであり(平成5年2月完成)、これを援用する。
イ 仮に上記アの所有権の時効取得の主張が認められないとしても、アのとおり、A、控訴人会社代表者やその関係者及び控訴人会社は、控訴人会社通路部分を、通行権を有するものとして占有、利用してきた。
したがって、控訴人会社は、控訴人会社通路部分につき、前々占有者であるAが昭和48年2月に開始した占有を承継し、20年間通行のために占有したから、その部分の通行地役権を時効により取得したものであり、これを援用する。
ウ 仮に上記イの通行地役権の時効取得の主張も認められないとしても、控訴人会社所有の231番1、232番1及び232番2の各土地は、周囲を海と他人の土地に囲まれた囲繞地であり、公道に接続するためには控訴人会社通路部分を利用するほかはないので、控訴人会社通路部分につき囲繞地通行権が成立する。被控訴人らが公道へ通じていると主張する233番2及び235番3の各土地は、幅が2メートルしかなく、自動車の通行は不可能であるから、依然、前記控訴人会社所有の各土地が袋地であることに変わりない。
エ 仮に上記ウの囲繞地通行権の主張も認められないとしても、被控訴人らは、控訴人会社が控訴人会社通路部分を公道へ至る通路として利用している現状を承知しながら、控訴人会社を困惑させる目的で、平成8年に約80万円という廉価で本件土地を購入したものであるから、260号事件の被控訴人らの請求は、権利の濫用として許されない。
(4) 仮定抗弁<1>に対する被控訴人らの認否
ア 仮定抗弁<1>は争う。
イ(仮定抗弁<1>ウの囲繞地通行権の主張について)
控訴人会社所有の231番1、232番1及び232番2の各土地は、233番2及び235番3の各土地を経由して公道に通じているから、袋地ではない。
ウ(仮定抗弁<1>エの権利濫用の主張について)
被控訴人らは、鮮魚店を開業するために、231番2、232番3及び275番1の各土地を購入し、店舗を建築しようとしたところ、融資を受ける予定の取引銀行から進入路が狭いとの指摘を受けたので、公道への接道範囲を広げるために、新たに本件土地を購入し、更に274番2の土地を買増ししたのである。したがって、被控訴人らは、控訴人会社を困惑させる目的で本件土地を購入したわけではないのであって、被控訴人らの請求は、権利の濫用には該当しない。
(5) 仮定抗弁<1>ア、イに対する被控訴人らの再抗弁<1>
控訴人会社が、控訴人会社通路部分につき所有権又は通行地役権を時効取得したとしても、被控訴人らは、各時効完成後の平成8年に本件土地を購入したものであるから、控訴人会社においてその登記を経由しない限り各権利を主張できない。
(6) 再抗弁<1>に対する控訴人会社の再々抗弁<1>
被控訴人らは、控訴人会社が控訴人会社通路部分を公道へ至る通路として利用している現状であることを承知しながら、控訴人会社を困惑させる目的で、平成8年に約80万円という廉価で本件土地を購入したものであるから、被控訴人らは、いわゆる背信的悪意者であって、控訴人会社が時効取得した所有権又は通行地役権についてその登記を経由していないことを主張するにつき正当な利益を有するものではない。
(7) 再々抗弁<1>に対する被控訴人らの認否
被控訴人らは、鮮魚店を開業するために、231番2、232番3及び275番1の各土地を購入し、店舗を建築しようとしたところ、融資を受ける予定の取引銀行から進入路が狭いとの指摘を受けたので、公道への接道範囲を広げるために、新たに本件土地を購入し、更に274番2の土地を買増ししたのである。したがって、被控訴人らは、控訴人会社を困惑させる目的で本件土地を購入したわけではないのであって、背信的悪意者に該当しない。
(8) 本件土地が本件係争地に当たるとした場合の仮定抗弁<2>(以下、(12)まで控訴人Y1の関係)
ア 控訴人Y1の亡父Bは、本件土地の元所有者C家で番頭をしていたところ、結婚する際、同人から、当時ため池であった本件土地の贈与を受け、以後、本件土地を管理していた。控訴人Y1は、昭和32年、亡Bから管理を引き継ぎ、昭和36年台風でため池(本件土地)が埋まった後は畑として所有、管理していたものである。
控訴人Y1は、昭和48年3月22日、Aに対し、233番2及び235番3の各土地を分筆の上交換により譲渡し、その旨の所有権移転登記を経由した。
控訴人Y1は、昭和50年代初期に、前記のとおりAに譲渡した土地の西側にコンクリート造りの本件車庫を建築し、控訴人Y1通路部分をその進入路として占有、利用している。
したがって、控訴人Y1は、Cから本件土地の贈与を受けた父Bからの相続により本件土地の所有権を取得したものであり、又は、昭和32年から20年間、本件係争地のうちの控訴人Y1通路部分及び本件車庫の敷地を、所有の意思をもって占有したから、時効により所有権を取得した。
イ 仮に、上記アの所有権取得の主張が認められないとしても、被控訴人らは、控訴人Y1が本件係争地を本件車庫の敷地の一部又は公道へ至る通路(控訴人Y1通路部分)として、占有、利用している現状を承知しながら、控訴人Y1を困惑させる目的で、平成8年に約80万円という廉価で本件土地を購入したものであるから、352号事件の請求は、権利の濫用として許されない。
(9) 仮定抗弁<2>に対する被控訴人らの認否
ア 仮定抗弁<2>アは争う。
イ (4)ウ記載のとおり、被控訴人らの請求は権利の濫用には該当しない。。
(10) 仮定抗弁<2>アに対する被控訴人らの再抗弁<2>
控訴人Y1が、贈与及び相続により本件土地の所有権を取得し、又は本件係争地のうち控訴人Y1通路部分及び本件車庫の敷地を時効取得したとしても、被控訴人らは、時効完成後の平成8年に本件土地を購入したものであるから、控訴人Y1においてその登記を経由しない限り被控訴人らに対し各権利を主張できない。
(11) 再抗弁<2>に対する控訴人Y1の再々抗弁<2>
被控訴人らは、控訴人Y1が本件係争地を本件車庫の敷地の一部又は公道へ至る通路(控訴人Y1通路部分)として、占有、利用している現状を承知しながら、控訴人Y1を困惑させる目的で、平成8年に約80万円という廉価で本件土地を購入したものであるから、被控訴人らは、背信的悪意者であって、控訴人Y1が取得した所有権についてその登記を経由していないことを主張するにつき正当な利益を有するものではない。
(12) 再々抗弁<2>に対する被控訴人らの認否
前記(7)記載のとおり、被控訴人らは背信的悪意者に該当しない。
(487号事件)
(1) 控訴人会社の請求原因
ア 控訴人会社通路部分は、控訴人会社所有の232番2、233番2及び235番3の各土地である。
イ 仮に上記アの主張が認められないとしても、控訴人会社は、260号事件・352号事件の(3)ア記載のとおり、控訴人会社通路部分の所有権を時効取得した。
ウ(予備的請求関係)
仮に上記イの主張も認められないとしても、控訴人会社は、260号事件・352号事件の(3)イ記載のとおり、控訴人会社通路部分につき通行地役権を時効取得した。
(2) 請求原因イ、ウに対する被控訴人らの抗弁
260号事件・352号事件の(5)記載のとおり、控訴人会社は、控訴人会社通路部分につき所有権又は通行地役権を時効取得したとしても、登記を経由しない限り、各権利を主張できない。
(3) 抗弁に対する控訴人会社の再抗弁
260号事件・352号事件の(6)記載のとおり、被控訴人らは、控訴人会社が時効取得した所有権又は通行地役権についてその登記を経由していないことを主張するにつき正当の利益を有するものではない。
第3 当裁判所の判断
1 まず、本件係争地は、被控訴人らが平成8年2月に購入した本件土地に当たるか否かについて判断する。
(1) 前記争いのない事実並びに証拠(各項及びその末尾に掲記したもの)及び弁論の全趣旨によれば、次のアないしカの事実が認められる。
ア 本件土地(234番の土地)は、地目がため池であるところ、公図(甲10)上、本件土地を取り囲む土地、すなわち232番3、275番1、274番2、235番3、233番2、232番2及び232番1の各土地は、地目が宅地等であって、かつて地目がため池であった土地は存しない(甲1ないし7、9、乙3、4、6、8)。
本件係争地付近の田畑、道路の位置関係や形状(甲17・昭和36年5月6日撮影の空中写真)は、公図の記載と符合しているが(例えば、280番1、232番3の各土地等)、本件係争地付近にあったため池の形状は、ため池の北東側では公図の記載とほぼ一致しているが、南西側では一致しない。
イ ため池の南西側は、南西方向からため池に向かって土地(233番1・2、235番1・3の各土地と認められる。)が一体としてアーチ状に張り出し、そのため、ため池がそのアーチ状に沿って凹んだ形状となっており、また南東側は、直線に近い形状であり、公図上では275番1の土地になっている部分にまで入り込んでいる(甲17)。
ウ ため池の縁は、石積みになっていた(控訴人Y1の供述)。
エ 本件係争地付近にあったため池は、昭和36年の第2室戸台風により、北西にある瀬戸内海から打ち上げられた石などによって埋まってしまった(甲17、18〔昭和39年5月20日撮影の空中写真〕、控訴人Y1本人の供述)。
オ 本件係争地の北東縁付近には、地中に、別紙図面記載のAないしF、1ないし6、イないしリの各地点を順次結んで、弧を描くようにして敷設された石の列が残存している(検証の結果。その大きさや形、配列の状態などから、ため池の縁の石積みであったと推認される。)。
カ オ記載のとおり存在する石の列を基点として、現況に公図に記載されたため池の形状を記入すると、別紙図面記載のとおり、北東側においては本件係争地の位置、形状とほぼ一致している。
(2) 上記(1)認定の事実に基づき検討するに、本件土地は、地目がため池であるところ、公図(甲10)上、本件土地を取り囲む土地、すなわち232番3、275番1、274番2、235番3、233番2、232番2及び232番1の各土地は、地目が宅地等であって、かつて地目がため池であった土地は存しないから、かつて存在したため池の範囲がすなわち本件土地の範囲に一致すると認められ、したがって、本件土地の範囲を認定するには上記ため池の範囲を認定すればよいこととなる。
かつて存在したため池の範囲は、その北東側については、甲17(昭和36年5月6日撮影の空中写真)によって認められる第2室戸台風前のため池の形状及び地中に残存している石の列の位置から、別紙図面記載の3104、<5>、3102、3100、3101、(3)の各点を結んだ線までであったものと推認され、これは公図(甲10)記載のため池の形状とも一致している。その南西側については、南西方向からため池に向かって233番1・2、235番1・2の各土地が一体としてアーチ状に張り出しているため、ため池がそのアーチ状に沿って凹んだ形状になっていること、本件係争地付近の田畑、道路の位置関係や形状が、公図の記載と符合していること、その他公図上の位置関係、大きさ等に照らすと、別紙図面記載の<6>、(5)、3105、(4)の各点を直線で結んだ線までであると認められる。
以上によれば、ため池すなわち本件土地の範囲は、3104、<5>、3102、3100、3101、(3)、(4)、3105、(5)、<6>、3106、3104の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた部分であると認められる。
そうすると、本件係争地(別紙図面記載の3100、3101、<1>、3103、3105、3107、<7>、<6>、3106、3104、<5>、3102、3100の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地)のうち、別紙図面記載の3105、3107、<7>、<6>、(5)、3105の各点を順次直線で結んだ線によって囲まれた範囲の土地は、被控訴人らが買い受けた本件土地に含まれないから、控訴人らとの間で上記部分が被控訴人らの所有であることの確認を求める被控訴人らの請求、及び控訴人Y1に対し別紙図面記載の3105、(5)、<7>、3107、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことになる。
2 一方、本件係争地のうち、その余の部分(別紙図面記載の3100、3101、<1>、3103、3105、(5)、<6>、3106、3104、<5>、3102、3100の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地)は、被控訴人らが買い受けた本件土地に含まれることになる。
したがって、控訴人会社通路部分(別紙図面記載の(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地)のうち、別紙図面記載の<5>、<4>、(2)、<2>、<1>、(3)、(4)、3105、(5)、<6>、3106、3104、<5>の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地は、被控訴人らが買い受けた本件土地に含まれることになり、別紙図面記載の(1)、<5>、3104、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地は、被控訴人らが買い受けた232番3の土地の一部であると認められるから、控訴人会社が260号事件の仮定抗弁<1>ア及び487号事件の請求原因イとして主張する控訴人会社通路部分の所有権の時効取得の成否について判断する(なお、控訴人Y1は、その父Bが結婚する際、本件土地の元所有者のCから当時ため池であった本件土地の贈与を受けた旨主張し、乙14にはこれに沿う記載があるが、これを裏付ける証拠がないので採用することができず、他に、上記贈与の事実を認めるに足りる証拠はない。また、別紙図面記載の(1)、(6)、<6>、3106、3104、(1)の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地は、公図の記載に照らし、控訴人会社が所有する232番2及び233番2の各土地の一部に該当すると認められるので、所有権の時効取得を論ずるまでもなく、控訴人会社の所有であると認められる。)。
(1) 証拠(甲1ないし14、17、18、20、乙1の1・2、2ないし14、16ないし20、証人D、同Gの各証言、控訴人Y1本人の供述)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件係争地付近の北西側は、防砂堤を挟んで瀬戸内海、南東側は、国道11号線である(別紙図面参照)。
イ 本件土地は、17坪ほどのため池であったところ、昭和36年の第2室戸台風により、北西にある瀬戸内海から打ち上げられた石などによって埋まってしまった。
ウ 控訴人Y1は、昭和○年に生まれたときから、本件係争地の南西の233番及び235番1の各土地(いずれも後記の分筆前の土地)上の建物(肩書住所地)に居住し、昭和32年、現在の建物を建築した。
エ Aは、昭和48年2月、231番1、232番1及び232番2の各土地と地上建物(昭和45年新築の鉄筋コンクリート造陸屋根二階建居宅。以下「従前建物」という。)を前所有者から購入したが、南東にある公道(国道11号線)からその土地建物への進入路の幅が約2メートルしかなかったため、南側に住む控訴人Y1に対し、同人所有の233番及び235番1の各土地から上記進入路側の幅2メートルほどの土地部分を分けてほしいと頼んだところ、控訴人Y1は、見返りに233番の土地から海岸に通ずる通路をA所有の231番1の土地から提供してもらうことで、両者間で交換契約が成立し、控訴人Y1は、同年3月15日、233番2及び235番3の各土地の分筆手続をした上、その所有権をAに譲渡し、同人は、同年3月28日所有権移転登記を経由した(一方、控訴人Y1は、231番1の土地から分筆された231番3の土地をAから譲り受けた。)。そして、控訴人Y1の敷地の北東端に設置されていた塀は、Aの費用で、分筆後の控訴人Y1の敷地の北東端に設置し直された。
Aは、その頃から、従前の幅約2メートルの通路に上記のとおり新たに入手した幅約2メートルの土地を合わせた約4メートルの幅の部分を、前記231番1、232番1及び232番2の各土地と従前建物のための専用進入路として、使用することを始めた。この約4メートルの幅の専用進入路が、すなわち控訴人会社通路部分である。
オ 控訴人Y1は、昭和53年頃、前記のとおり分筆の上Aに譲渡した土地との境界に設置し直された塀に沿って、コンクリート造りの本件車庫を建築した。
カ 控訴人会社の元代表者Gの親族及び関係者であるE(現代表者)ら10名は、昭和61年4月28日、Aから、233番2、235番3、231番1、232番1及び232番2の各土地及び従前建物を買い受け(共有)、約3か月後、控訴人会社通路部分をコンクリート舗装した。
そして、控訴人会社は、平成3年7月3日、上記共有者10名(ただし、うち2名はその持分の買受人)からこれらの各土地及び従前建物の現物出資を受け、控訴人会社通路部分を引き続き専用進入路として使用して現在に至っている。控訴人会社は、その後、従前建物の北西側(海岸側)に鳴門会館を建築した。
(2) 以上の事実によれば、Aは、昭和48年3月、控訴人会社通路部分につき、その所有に係る231番1、232番1及び232番2の各土地への専用進入路として所有の意思をもって占有を始めたことが認められ、その後、Eら10名が、Aから上記3筆の土地及び233番2、235番3の各土地並びに従前建物を買い受けてその占有を承継し、さらに、控訴人会社が上記10名(ただし、うち2名はその持分の買受人)から上記5筆の土地及び従前建物の現物出資を受けて、引き続き専用進入路として所有の意思をもって控訴人通路部分の占有を継続したことが認められるから、控訴人会社は、昭和48年3月から20年が経過した平成5年3月に、控訴人会社通路部分の所有権を時効取得したものというべきである(なお、控訴人会社は、昭和61年のEら10名による占有開始から10年の経過による時効取得をも主張するようであるが〔当審平成14年5月28日付準備書面第2の1〕、その占有が善意無過失であったことを認めるに足りる証拠はない。)。
3 被控訴人らは、控訴人会社による時効取得に対して、260号事件については再抗弁<1>、487号事件については抗弁として、控訴人会社が控訴人会社通路部分につき所有権を時効取得したとしても、被控訴人らは、時効完成後の平成8年に本件土地を購入したものであるから、控訴人会社においてその登記を経由しない限り所有権を主張できないと主張する。
これに対し、控訴人会社は、260号事件については再々抗弁<1>、487号事件については再抗弁として、被控訴人らは、控訴人会社が控訴人会社通路部分を公道へ至る通路として利用している現状であることを承知しながら、控訴人会社を困惑させる目的で、平成8年に約80万円という廉価で本件土地を購入したものであるから、被控訴人らは、いわゆる背信的悪意者であって、控訴人会社が時効取得した所有権についてその登記を経由していないことを主張するにつき正当な利益を有するものではないと主張するので、この点について検討する。
(1) 前記1(1)認定の事実並びに証拠(甲1ないし4、10、11、乙2、証人Dの証言)及び弁論の全趣旨によれば、<ア>被控訴人らは、鮮魚店を開業するために、平成7年10月26日、富士スレート株式会社から、231番2、232番3及び275番1の各土地を購入し(同日所有権移転登記経由)、店舗を建築しようとしたところ、融資を受ける予定の取引銀行から公道(国道11号線)に面する間口が狭いとの指摘を受けたため、間口を広げる目的で、平成8年2月6日、Cの数次相続人から本件土地を80万円で購入し(同月13日所有権移転登記経由)、さらに、同年4月18日、Fから274番2の土地を買増しした(同日所有権移転登記経由)こと、<イ>被控訴人らは、本件土地を購入した時点で、控訴人会社所有の232番1及び231番1の各土地上には、従前建物と鳴門会館が建っており、控訴人会社が本件土地(の大部分)と重なる控訴人会社通路部分をその専用進入路としてコンクリート舗装した状態で利用していることを知っていたこと、<ウ>控訴人会社が控訴人会社通路部分を利用できないとすると、公道からの進入路を確保することは著しく困難であり、このことを被控訴人らは知っていたことが認められる(証人Dの証言中、<ウ>の認定に反する部分は、採用することができない。)。
(2) 上記(1)認定の事実によれば、被控訴人らは、銀行からの指摘で本件土地を購入したものであるが(本件全証拠によるも、控訴人会社を困惑させる目的であったと認められない。)、本件土地購入の時点で、本件土地(の大部分)と重なる控訴人会社通路部分は、控訴人会社が、その所有地上に所有する従前建物及び鳴門会館への専用進入路としてコンクリート舗装した状態で利用しており、控訴人会社がこれを使用できないとすると、公道からの進入路を確保することは著しく困難であることを知っていたことが認められ、そして、被控訴人らにおいて調査すれば、控訴人会社が本件土地(の大部分)と重なる控訴人会社通路部分を時効取得していることを容易に知り得たというべきであるから、被控訴人らは、控訴人会社が時効取得した所有権についてその登記を経由していないことを主張するにつき正当な利益を有しないといわざるを得ない。
4 以上によれば、被控訴人らの控訴人らに対する260号事件・352号事件中の所有権確認請求は、本件係争地のうち、別紙図面記載の<5>、3102、3100、3101、<1>、<2>、(2)、<4>、<5>の各点を順次直線で結んだ線により囲まれた土地が被控訴人らの所有であることの確認を求める限度で理由があるので認容し、その余は理由がないので棄却すべきであり、控訴人会社に対し、別紙図面記載の3105、3103、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、3104、3106、<6>、(5)、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの本訴請求(260号事件)、及び控訴人Y1に対し、別紙図面記載の3105、(5)、<7>、3107、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの請求(352号事件)は理由がないので棄却すべきであり、被控訴人らとの間で控訴人会社通路部分が控訴人会社の所有であることの確認を求める控訴人会社の487号事件反訴請求の主位的請求は、理由があるのでこれを認容すべきである。
第4 結論
よって、原判決主文第1項(260号事件・352号事件中の所有権確認請求に関する部分)を上記第3の4説示の趣旨に従って変更し、同第2項(控訴人会社に対し別紙図面記載の3105、3103、<1>、<2>、<3>、<4>、<5>、3104、3106、<6>、(5)、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの本訴請求を認容した部分)を取り消した上、上記本訴請求を棄却し、原判決主文第3項(控訴人Y1に対し別紙図面記載の3105、(5)、<7>、3107、3105の各点を順次直線で結んだ線の範囲内にあるコンクリート舗装の収去を求める被控訴人らの請求を認容した部分)を取り消した上、上記請求を棄却し、同第4項及び第5項(487号事件反訴請求に関する部分)を上記第3の4説示の趣旨に従って変更することとして、主文のとおり判決する。