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高松高等裁判所 平成14年(ネ)272号 判決 2003年5月16日

控訴人・附帯被控訴人(以下「控訴人」という。)

奥道後温泉観光バス株式会社

上記代表者代表取締役

上記訴訟代理人弁護士

和田一郎

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

X1

被控訴人・附帯控訴人(以下「被控訴人」という。)

X2

上記両名訴訟代理人弁護士

東俊一

中川創太

主文

1  本件控訴に基づき,原判決主文第2項を次のとおり変更する。

(1)  控訴人は,被控訴人らに対し,平成12年3月以降,この判決が確定するまでの間,毎月,当月27日限り,本判決添付別紙賃金目録記載1(2)の各金員を支払え。

(2)  被控訴人らのその余の請求を棄却する。

2  控訴人のその余の本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する。

3(1)  控訴人の民事訴訟法260条2項の規定による申立てに基づき,被控訴人X1は,控訴人に対し,金6万2000円及びこれに対する本判決言渡しの日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  控訴人の民事訴訟法260条2項の規定による申立てに基づき,被控訴人X2は,控訴人に対し,金10万4000円及びこれに対する本判決言渡しの日の翌日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  控訴人の被控訴人らに対するその余の申立てをいずれも棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを10分し,その9を控訴人の負担とし,その余は被控訴人らの負担とする。

5  本判決主文第1項(1)及び第3項(1)(2)は,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴の趣旨

(1)  原判決中,控訴人の敗訴部分を取り消す。

(2)  上記部分に関する被控訴人らの請求を棄却する。

(3)  (民事訴訟法260条2項の申立て)

被控訴人らは,控訴人に対し,それぞれ本判決添付別紙給付額一覧表(1)の当該被控訴人に対応する「合計」欄記載の各金員並びに各月の「賃金」欄及び「賞与」欄に記載の各金員に対する,それぞれに対応する各支払日欄記載の日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  附帯控訴の趣旨

(1)  原判決中,被控訴入らの敗訴部分(第4項)を取り消す。

(2)  原判決主文第2項を次のとおり変更する。

控訴人は,被控訴人らに対し,平成12年3月以降,毎月,当月27日限り,本判決添付別紙賃金目録記載1(1)の各金員を支払え。

第2事案の概要

次のとおり補正するほかは,原判決の「第2 事案の概要」欄記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の補正部分

(1)  3頁5行目(本誌830号<以下同じ>37頁左段下から4行目)と6行目(37頁左段下から5行目)との間に次のとおり加える。

「同年1月末から2月初めにかけて観光バス組合の組合員であった18名の正社員のバス運転手が控訴人からの希望退職の募集に応じて退職し,それに伴いこれらの者は同組合を脱退し,後に同組合の組合員13名も後記同年2月20日付けの被控訴人らの解雇までに脱退して,その解雇当時には,被控訴人らだけが同組合の組合員であった。なお,被控訴人らは,上記解雇までに愛媛労連・愛媛一般労働組合にも加入した(<証拠省略>)。」

(2)  16頁15行目(42頁左段下から11行目)の「3億円」を「3億6000万円」に改める。

2  当審における当事者の各主張

(1)  当審における控訴人の主張

<1> 控訴人の原判決に対する不服の主張

ア 原判決がいわゆる整理解雇の4要件等を総合的に判断して,被控訴人らに対する解雇を解雇権の濫用として無効なものとしたのは,認定・判断の誤りであり,また,解雇後の被控訴人らの賃金についての原判決の判断は,原審口頭弁論終結日である平成14年2月20日を基準日としたものであるところ,この判断に控訴人の行った,平成13年1月の賃金抑制のための賃金制度の変更が反映されていないし,基本手当と連動する諸手当の付く仕事は,被控訴人ら以外の賃金の低額な従業員に優先して割り当てることになっている点も全く考慮されていない。

イ 原判決の賃金の認定において,通勤手当は賃金の一部ではないのに,これを控除をしていない。

<2> 控訴人の当審における新たな主張

ア 予備的解雇の主張

(ア) 控訴人は,平成14年9月4日,被控訴人らに対し,本件解雇後の被控訴人らの行為が,就業規則87条1号(会社の許可なく会社内で演説したとき),同条8号(他人の業務を妨害したとき),同条12号(刑事上の罪に触れる行為,その他不正,素行不良の行為により会社または社員としての品位,体面を汚し,信用を失墜させたとき),同条14号(故意に円滑な業務遂行を妨害し,警備担当への妨害,反抗の行為があったとき)に該当するので,就業規則85条1項7号により,懲戒解雇するとの意思表示を行い,その意思表示は翌5日に到達した(以下「原審後の懲戒解雇」という。)。

(イ) 仮に,上記懲戒解雇の効力がなかったとしても,本件解雇後の被控訴人らの行為は,就業規則78条1号,6号(社員として不適当と認めたとき)及び同条3号,6号(会社の業務上のやむを得ない都合により必要を生じたとき)にも該当するので,控訴人は,平成14年9月4日,被控訴人らに対し,就業規則78条により,普通解雇するとの意思表示を行い,その意思表示は翌5日に到達した(以下「原審後の普通解雇」という。)。

また,解雇予告手当は,同月4日,各被控訴人の銀行口座に振り込む方法で支払われた(金額は,被控訴人X1には35万1266円,同X2には41万1272円である。)。

イ 民事訴訟法第260条2項の申立てについての主張

原判決言渡し後,当審口頭弁論終結までに控訴人が被控訴人らに支払った金員は,本判決添付別紙給付額一覧表(1)記載のとおりである。また,控訴人は,原判決に仮執行宣言が付されていなかったならば,同一覧表(1)記載の金員の支払は行わなかった。業務上他に使用する必要性があったからである。

(2)  当審における被控訴人らの主張

<1> 附帯控訴の理由

原判決が被控訴人らの地位を確認し,賃金の支払を命じたにもかかわらず,控訴人において,頑なに被控訴人らが職場に復帰することはもちろん,控訴人への立ち入りさえも頑なに拒否し続けているのであって,そのような事情の下では,本案判決確定後においても,被控訴人らの復職が認められ又は運転手としての原職復帰ができるか否か,更には仕事差別などによって被控訴人らの賃金が減額されるのではないかなど,被控訴人らの危惧の念は大きい。

さらに,控訴人は,控訴理由において,被控訴人らの賃金額について争い,被控訴人らの賃金は,いずれも原判決認容額のそれぞれ約70パーセントとすべきである旨主張しており,本案判決確定後においても,被控訴人らに対し,差別的仕事の割り振りを行うなどして,引き続き賃金の減額等を主張してくる可能性が高いと考えられる。

そうすると,本件においては,控訴人による判決確定後における判決認容額の任意の履行が期待できないので,本案確定後においても賃金の請求を予め行なっておく必要性があるものと解すべきである。

<2> 控訴人の予備的解雇の主張に対し

被控訴人らの行為は,そもそも控訴人主張の懲戒解雇事由或いは普通解雇事由には該当しないものであり,仮に該当する部分があるとしても,いずれの解雇も解雇権濫用により無効であり,更に上記のいずれの解雇も不当労働行為でもあって,いずれにせよ上記解雇の意思表示には効力がない。

第3裁判所の判断

1  当裁判所は,本件控訴は主文1項の限度で理由があり,その余は理由がなく(なお,民事訴訟法260条2項の申立てについては,主文3項の限度で理由がある。),被控訴人らの本件附帯控訴は理由がないものと判断するが,その理由は,次のとおり補正するほかは,原判決の「第3 裁判所の判断」欄記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決の補正部分

<1> 27頁10行目(46頁左段33行目)の冒頭に「前記前提となる事実並びに」を,<証拠省略>をいずれも加える。

<2> 41頁17行目(51頁左段39~40行目)の「別紙賃金目録記載1」を「後記(2)で判断するように,これら通勤手当分をそれぞれ控除した本判決添付別紙賃金目録記載1(2)」に改め,末行(51頁右段4行目)冒頭の「しかし」の後に「,被控訴人らの主張する通勤手当を除くその余の諸手当についていえば」を加える。

<3> 42頁1行目(51頁右段6行目)の「,通勤手当はもちろん」を削り,3行目(51頁右段9行目)末尾の次に「通勤手当については,(<証拠省略>)(賃金規程),(<証拠省略>)(通勤費支給規程)及び弁論の全趣旨を総合すれば,控訴人では,通勤手段及び通勤距離に応じた額が支給されることになっていることが認められるのであって,これは賃金の一部ではなく,実費補償としての性質を有するとすべきものであるから,被控訴人らは本件について通勤手当の支払を請求することはできない。」を加え,15行目冒頭(51頁右段24行目「その余の…」)から18行目末尾まで(51頁右段30行目)を「通勤手当の支払請求を除くその余の請求部分はいずれも理由があり,通勤手当の支払請求部分は理由がない。」に改める。

(2)  当審における当事者の各主張(第2の2)について

<1> 当審における控訴人の主張(第2の2の(1))について

ア 控訴人の原判決に対する不服の主張(第2の2の(1)の<1>)アについて

控訴人は,原判決が被控訴人らの解雇(本件解雇)を無効としたのは誤りである旨主張するが,控訴人の多岐に亘る詳細な主張に即して検討しても,当裁判所の認定・判断も,原判決がいわゆる整理解雇の4要件等を総合的に判断して,本件解雇を解雇権の濫用として無効なものとした認定・判断と同様である。

当審において提出された各証拠を参酌しても,上記認定・判断を左右しないので,控訴人の上記主張は理由がない。

また,控訴人は,原判決による解雇後の被控訴人らの賃金についての判断に誤りがある旨主張する。

その理由の要旨は,被控訴人らには,本件解雇(平成12年2月20日)後の平成12年12月に行われた減額を伴う変更された賃金規程(<証拠省略>・以下「本件賃金規程」という。)が適用されるべきであるのに,それが考慮されていないというものである。

本件賃金規程の作成は,いわゆる就業規則の不利益変更に当たるものであるところ(そのこと自体は控訴人も認めている。なお,<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件賃金規程の適用によって,被控訴人らの賃金額は,被控訴人X1について約10パーセント,同X2について約13パーセントのかなり大幅な減額となるものと推認される。),賃金等の労働者にとって重要な権利等に関する実質的な不利益を及ぼす就業規則の変更については,当該条項が,そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において,その効力を生じるものというべきである。

そして,一般的には,上記合理性の有無は,就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度,使用者側の変更の必要性の内容・程度,労働組合等との交渉の経緯等諸般の事情を総合考慮して判断すべきである。

そうすると,本件では,先に補正引用した原判決の「事案の概要」欄中の「前提となる事実」のとおり,被控訴人X1は,本件賃金規程の作成当時,組合員数は少ないとはいえ,控訴人内で唯一の労働組合である観光バス組合の委員長であり,同X2はその書記長であったものであり,その同組合において重要な地位を有する両名が,先に補正引用した原判決の認定のように,解雇権の濫用に当たると認められる解雇により,控訴人従業員としての地位を否定されていたのであるから,当時,被控訴人らは,同組合における重要な地位に伴う影響力を十分に発揮することができない状況にあったと推認されるのであって,このような場合,かなり大幅な賃金の減額を伴う本件のような就業規則(本件賃金規程)の変更においては,使用者側と労働組合との交渉が十分ではないことが著しい場合に該当すると解し,その点においてすでに上記合理性を欠いているものとして扱うべきであり,被控訴人らとの間においては,就業規則である本件賃金規程の適用はできないものと解するのが相当である。

また,被控訴人ら以外の賃金の低額な従業員に仕事の割当が優先的にされるという控訴人の主張について検討すると,正社員であり長年控訴人に勤務して経験を積んできた被控訴人らと嘱託契約運転手らとの賃金(基本手当の額)を比較し,時間制割増賃金の発生する場合に,賃金が高くなるとして被控訴人らにこれらの仕事を割り当てないようにすることは,労働基準法第4章・32条以下において定める労働時間や休憩,休日等の規定の趣旨,すなわち使用者に労働者の健康等を考慮して労働時間等を遵守させると共に,過重な労働について労働者に対する補償を行わせるための割増賃金を定めたことと整合性を有しないものであって,この点を被控訴人らの賃金判断に際し考慮しないことに誤りはない。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

イ 控訴人の原判決に対する不服の主張(第2の2の(1)の<1>)イについて

控訴人は,原判決の賃金の認定において,通勤手当の控除をしなかった誤りがある旨主張する。

この点についての当裁判所の判断は,先に補正引用した原判決の第3の3の(2)と同一であり,賃金の認定において,通勤手当は賃金の一部ではなく,実費補償としての性質を有するとすべきものであって,控訴人の主張するように,これを控除するのが相当であるから,この点についての控訴人の主張は理由がある。

ウ 控訴人の当審における新たな主張(第2の2の(1)の<2>)について

(ア) 予備的解雇の主張(第2の2の(1)の<2>のア)について

<ア> 原審後の懲戒解雇の主張について

Ⅰ 控訴人は,被控訴人らは,本件解雇後も2年余りにわたって,B支配人が口頭で退去を求めるなどしたのにもかかわらず,午前8時20分前後ころから,1回あたり短くても30分位,長いときは1時間位控訴人の事務所や車庫へ立ち入り,被控訴人らは上記事務所内に入り込むと,うろうろ歩き回り,応接セットに座って新聞等を読み,事務作業をしている従業員の作業を後ろから覗き込み,作業員に話しかけ,或いは,点検記録簿,運行指示書等を見たりし,その結果,B支配人は,被控訴人らに退出を求めなければならず,他の従業員も,覗かれたり話しかけられたりすると,作業を中断せざるを得ず,そこまで行かなくても,歩き回られたり,居座られたりするだけで,気が散るなどの支障も生じたし,また,車庫へ立ち入った被控訴人らは,就業時間中の運転者に話しかけ,また,バスの中に入り込んで,長時間バス運転者と話し込んだりして,業務を妨害したので,控訴人の就業規則の懲戒解雇事由に該当する旨主張する。

Ⅱ 先に補正引用した原判決の「第2 事案の概要」欄中の「前提となる事実」並びに証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実を認めることができる。

ⅰ 被控訴人らは,本件解雇後,原審後の懲戒解雇或いは普通解雇(以下,両解雇を併せて「原審後の解雇」という。)迄の間,しばしば控訴人内に立ち入った。

ⅱ 原審後の解雇当時,被控訴人X1は観光バス組合の委員長,同X2は同書記長の職にあった(なお,当時,他の組合員は脱退し,同組合の組合員は被控訴人らのみになっていた。)。

ⅲ 被控訴人らの上記控訴人内への立ち入り(以下「本件立ち入り」という。)の態様は,概ね控訴人の始業時間である午前8時30分の約10分前後に控訴人を訪れ,立ち入った時間は,1回あたり,概ね短いときは30分前後,長いときで約1時間であった。

その間,被控訴人らは,控訴人従業員の業務遂行に些か支障を生じさせた面もあるが,B支配人は,口頭で被控訴人らに退去を求めたりしたものの,被控訴人らがこれに従わなくても実力でこれを排除しようとする行為にでた形跡はうかがえない。

B支配人作成の「立入・抗議行動の記録」(<証拠省略>)によっても,被控訴人らの行為として,「事務所内でうろうろした」などの記載があるが,それによって,控訴人の業務に著しい支障が生じたとする記載は見当たらず,本件立ち入りによって,具体的に控訴人従業員らの仕事に著しい支障が生じたという事実もうかがえない。

ⅳ 被控訴人らの本件立ち入りの主たる目的は,解雇の当事者として,控訴人に,本件解雇の撤回・復職を求めるためや観光バス組合の役員として,控訴人従業員らの労働条件に関する諸調査のためであった。

ⅴ 被控訴人らがB支配人に対し声を荒げる等,その言動に特に問題があると思える出来事があったのは,平成14年8月9日と12日の2回であった(他にも,本件立ち入りの際の被控訴人らの言動に関し,問題となる場面はあるが,この2回より問題が少ない。)。

ⅵ 同年8月9日の出来事は,現在の従業員休憩室(以下「本件休憩室」という。)が従前から観光バス組合の組合事務所として使用されていたか否かに関する被控訴人らと控訴人側の認識の相違に原因があるのであるが,当時,同組合の組合員は被控訴人らのみとなっていたものの,同組合はその後も継続して存続しており,同組合の掲示板・机等は本件休憩室にそのまま置かれた状態にあった。B支配人の同月8日における同組合等への回答でも,その経緯は調査するが,本件休憩室を今のところ一応同組合の組合事務所として使って良い旨の回答をしているのに,その翌日である同月9日には,十分な調査に基づくものとはいえない状況で,本件休憩室の同組合による組合事務所としての従前の使用の事実を否定した上,今後それを同組合事務所として使用することを認めない態度を示したのであるから,B支配人の言動が不当労働行為に当たるか否かはさておき,これに対し,その言動を不満として,被控訴人らが声を荒げたことにつき,被控訴人らを一方的に非難することはできない。

同年8月12日の出来事についても,本件休憩室が同組合の組合事務所であることを否定するB支配人に対し,被控訴人らがこれに反発して混乱が生じたものであって,上記同年8月9日の場合と同様の評価ができる。

また,控訴人は,被控訴人らの,ホテル奥道後(控訴人のホテル部)に対する営業妨害を主張するが,被控訴入らは,本件解雇後の平成12年4月以降,ホテル奥道後の正面玄関付近で,その所属する組合の上部団体である愛媛労連等と毎月1回,日曜日の午前中に宣伝カーによる被控訴人らから見た本件解雇の不当性等を訴えていた。これが同ホテルの宿泊客等に不快感を感じさせるものであったとしても,これは,労働組合としての宣伝活動でもあって,同ホテルを誹謗中傷するものとはいえないので,被控訴人らの行為を強く非難することはできない。

Ⅲ 以上によれば(控訴人によって,被控訴人らに対する原審後の懲戒解雇の意思表示がされた事実は当事者間に争いがない。),平成14年8月9日及び12日の出来事を含む控訴人の主張する本件解雇後の被控訴人らの一連の行為は,全体として見れば,控訴人主張の懲戒解雇事由を規定した就業規則に該当する余地がないとはいえないが,被控訴人らのその言動に至った動機(特に無効な本件解雇の存在が背景となっている。),態様,控訴人の業務に与えた影響等を総合考慮すれば,原審後の懲戒解雇の意思表示は,被控訴人らを懲戒解雇に処することが著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができず,控訴人による被控訴人らに対する原審後の懲戒解雇の意思表示は懲戒解雇権濫用として無効とするのが相当である。

<イ> 原審後の普通解雇の主張について

控訴人は,上記<ア>で原審後の懲戒解雇事由として主張した事由は,原審後の普通解雇事由にも該当する旨主張する。

しかし,上記<ア>の認定によれば(控訴人によって,被控訴人らに対する原審後の普通解雇の意思表示がされた事実及び控訴人主張の解雇予告手当が支払われた事実は当事者間に争いがない。),同年8月9日及び12日の出来事を含む控訴人の主張する被控訴人らの一連の行為は,全体として見れば,控訴人主張の普通解雇事由を規定した就業規則に該当する余地がないとはいえないが,被控訴人らのその言動に至った動機(特に無効な本件解雇の存在が背景となっている。),態様,控訴人の業務に与えた影響等を総合考慮すれば,原審後の普通解雇の意思表示は,被控訴人らを普通解雇に処することが著しく不合理であり,社会通念上相当なものとして是認することができず,控訴人による被控訴人らに対する原審後の普通解雇の意思表示は解雇権濫用として無効とするのが相当である。

したがって,控訴人の上記主張は理由がない。

(イ) 民事訴訟法260条2項の申立てについての主張(第2の2の(1)の<2>のイ)について

証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨を総合すれば,控訴人のこの点に関する主張事実を全て認めることができる。

そうすると,控訴人は,被控訴人らに対し,本判決添付別紙給付額一覧表(1)記載の金員をその支払日欄どおりに支払ったことを認めることができるが,これは原判決の仮執行の宣言に基き(ママ)給付されたものと評価すべきである。

上記に関し,本判決で認容した部分は,本判決添付別紙賃金目録記載1(2)であるところ,それは通勤手当を控除したものであるから,返還すべき金額は,本判決添付別紙給付額一覧表(2)のとおりとなる。そうすると,民事訴訟法260条1項により,原判決の仮執行の宣言は,原判決を変更する本判決の言渡しによりその効力を失うことになり,同条2項により,被控訴人X1は,控訴人に対し,金6万2000円及びこれに対する本判決言渡しの日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の,被控訴人X2は,控訴人に対し,金10万4000円及びこれに対する本判決言渡しの日の翌日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の各返還義務があるというべきであるが,控訴人のその余の申立ては理由がない。

<2> 当審における被控訴人らの主張(附帯控訴の理由)(第2の2の(2)の<1>)について

被控訴人らは,原判決が,被控訴人らの,判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分を却下したのは不当である旨主張する。

しかし,被控訴人らが判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は,いわゆる将来請求であるから,特段の事情が認められない限り予め請求する必要性があるとは認められないところ,被控訴人らが指摘する控訴人の態度(弁論の全趣旨によれば,概ねその指摘どおりと認めることができる。)を考慮しても,控訴人において,判決確定後もその判決の結果に従わないと思われる事情はうかがえない。

そうすると,本件においては,上記特段の事情は認められないので,被控訴人らにおいて,判決確定の日の翌日以降の賃金の支払を求める部分は,訴えの利益がないものとして却下すべきである。

したがって,附帯控訴は理由がない。

2  結論

以上によれば,被控訴人らの本件請求は,控訴人に対し,それぞれ平成12年3月以降,この判決が確定するまでの間,毎月,当月27日限り,本判決添付別紙賃金目録記載1(2)の各金員の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない(一部は訴えの利益がなく不適法)。

よって,被控訴人らの本件請求は上記の限度で認容し,その余は失当であるからこれを棄却ないし却下すべきところ,認容部分につきこれと異にする原判決を本件控訴に基づき変更し,その余の本件控訴及び本件附帯控訴は理由がないから棄却する。控訴人の民事訴訟法260条2項の規定による申立てについては,本判決主文第3項(1)(2)の限度で認容し,その余の申立ては棄却する。

なお,本判決主文第1項(1)及び第3項(1)(2)についての仮執行宣言については,本判決主文第5項のとおり付することとする。

(裁判長裁判官 松本信弘 裁判官佐藤明は転補につき,裁判官種村好子は差し支えにつき,いずれも署名,押印することができない。裁判長裁判官 松本信弘)

(別紙) 賃金目録

1(1) X1について 35万1266円

X2について 41万1272円

(2) X1について 34万5066円

X2について 40万0872円

2 X1について 50万7984円

X2について 55万1400円

(別紙)給付額一賃表(1)

<省略>

(別紙)給付額一覧表(2)

<省略>

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