高松高等裁判所 平成14年(ラ)87号 決定 2002年6月25日
抗告人(原審債務者) X
相手方(原審債権者) Y
主文
1 原審判を取り消す。
2 相手方の本件間接強制の申立てを却下する。
理由
第1 抗告の趣旨及び理由
別紙「執行抗告状」及び「理由書」(各写し)記載のとおり。
第2 当裁判所の判断
1 本件記録によると、次の事実が認められる。
(1) 相手方は、高松家庭裁判所に対し、抗告人を調停の相手方として、抗告人と相手方間の長男である未成年者Aに関する親権者指定、子の監護に関する処分(面接交渉)の調停を申し立て(同裁判所平成13年(家イ)第××号、同第×××号)、相手方と抗告人の間において、平成13年9月28日、以下のアないしオの調停条項からなる調停が成立し、その調停調書正本は、平成14年3月21日、抗告人に送達された。
ア 当事者双方は、当事者間の長男Aの親権者を抗告人(父)と定める。(第1項)
イ 抗告人は、相手方に対し、相手方が長男A(平成11年○月○日生)と毎月2回面接することを認め、その方法、場所等については、相手方において良識にかなった面接方法を選択することができることとし、特に制限をしない。(第2項)
ウ 当事者双方は、面接場所は、抗告人の自宅以外の場所とする。(第3項)
エ 相手方と抗告人は、相手方の上記未成年者(A)が通っている保育所の行事への参加等については、これを協議して定める。(第4項)
オ 抗告人は、相手方に対し、上記未成年者の保育記録等の成長を記載した記録を随時見せることを約束する。(第5項)
(2) 相手方は、平成14年3月26日、抗告人が上記調停の合意に反して、相手方にAを会わせてくれないとして、上記調停調書を債務名義として、<1>抗告人は、相手方に対し、長男Aと単独で毎月2回面接交渉をさせよ、<2>抗告人が審判送達の日以降に到来する<1>の債務を履行しないときは、抗告人は、相手方に対し、1回につき金10万円を支払え、との裁判を求める旨の本件間接強制の申立てをした。
(3) 原審は、相手方の上記(2)の申立てに基づき、<1>抗告人は、相手方に対し、毎月2回相手の指定する日時、場所において、両者間の長男A(平成11年○月○日生)と面接交渉させよ、<2>抗告人が、審判送達の日以降において、<1>の債務を履行しないときは、抗告人は、相手方に対し、1回につき金5万円を支払え、との原審判をした。
2 職権に基づき判断する。
調停条項のうち、債務名義として執行力を有するのは、当事者の一方が他方に対し、特定の給付をなすことを合意の内容とする給付条項のみであり、特定の権利若しくは法律関係の存在又は不存在を確認する旨の合意を内容とする確認条項については、債務名義にはならない。そして、ある調停条項が、当事者の給付意思を表現した給付条項であるか、権利義務の確認にとどまる確認条項であるかは、当事者の内心の意思によって決まるものではなく、調停条項全体の記載内容をも参酌しつつ、当該調停条項の文言から客観的に判断すべきものである。
本件においては、上記調停条項の第2項は「抗告人は、相手方に対し、相手方が長男A(平成11年○月○日生)と毎月2回面接することを認め」と記載されているのみであり、その文言から直ちに抗告人が特定の給付をなすことを合意したことを読み取ることはできない。かえって、同調停条項で使用されている「認め」との表現は、裁判所において調停条項や和解条項が作成される場合に確認条項を表示する場合の常套文言であり、仮に給付条項とするのであれば当然「面接させる」等の給付意思を明確にした表現がされるべきものであるから、特段の事情のない限り、上記調停条項第2項は給付条項ではなく確認条項にとどまると解される。もっとも、上記調停条項第2項には、面接の「方法、場所等については、相手方において良識にかなった面接方法を選択することができることとし、特に制限をしない」との記載もあり、面接の方法、場所等について相手方が選択することが認められている。しかし、面接の方法、場所等について相手方に選択する権利があるといっても、現実に未成年者と面接を行うに当たっては、事前の連絡、調整等が当然必要になるものであること、上記調停条項には、今後のAの監護に関し、当事者間の協議を予定していることが明らかな条項(第4項)も存することなどを考慮すると、相手方が面接の方法、場所等について選択することができるとされているからといって、上記調停条項第2項をもって確認条項ではなく、給付条項であると解することはできない。そして、他に、上記調停条項第2項をもって給付条項であると解するに足りる特段の事情を認めることはできない。
そうすると、上記調停条項第2項をもって給付条項と解することはできず、これを債務名義として強制執行の申立てをすることはできないといわざるを得ない(もともと、面接交渉権の行使については、未成年者を監護する方の親の協力が不可欠であり、強制執行にはなじみにくい性格のものであるが、相手方があくまで強制執行を求めるというのであれば、改めて、子の監護に関する処分〔面接交渉〕の調停又は審判を申し立て、未成年者との面接交渉につき給付条項を含む調停の成立を目指すか、給付を命じる審判を求めるほかはない。)。
3 よって、相手方の本件間接強制の申立てはこれを却下すべきところ、上記調停条項第2項が給付条項であり、同調停の調停調書正本が執行力ある債務名義であることを前提にして間接強制を命じた原審判は失当であるから、これを取り消し、相手方の本件間接強制の申立てを却下することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 豊永多門 朝日貴浩)
「執行抗告状」及び「理由書」(各写し)<省略>