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高松高等裁判所 平成15年(ネ)494号 判決 2004年6月24日

控訴人(原審平成14年(ワ)第905号,平成15年(ワ)第106号各事件原告)

A'ケアーサービスことAタクシー株式会社

同代表者代表取締役

甲野太朗

同訴訟代理人弁護士

矢野真之

被控訴人(原審平成14年(ワ)第905号事件被告)

愛媛県国民健康保険団体連合会

同代表者理事長

中村佑(以下「被控訴人連合会」という。)

同訴訟代理人弁護士

米田功

大熊伸定

小川佳和

同指定代理人

橋口満則

外4名

被控訴人(原審平成15年(ワ)第106号事件被告)

今治市

同代表者市長

繁信順一

同訴訟代理人弁護士

髙井實

同指定代理人

羽藤直生

外5名

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  主位的請求

(1)  (原審平成14年(ワ)第905号事件関係)

被控訴人連合会は,控訴人に対し,3402円を支払え。

(2)  (原審平成15年(ワ)第106号事件関係)

被控訴人今治市は,控訴人に対し,3402円を支払え。

3  予備的請求

(1)  控訴人が平成14年5月に乙山二朗に対して介護サービスを提供したことにより,乙山二朗が被控訴人らに対して有するサービス費支払請求権の残額がそれぞれ1296円であることを確認する。

(2)  控訴人が平成14年5月に丙川花子に対して介護サービスを提供したことにより,丙川花子が被控訴人らに対して有するサービス費支払請求権の残額がそれぞれ2106円であることを確認する。

第2  事案の概要

本件は,介護保険法(以下「法」という。)41条1項本文の指定居宅サービス事業者として,いわゆる介護タクシーサービスを提供する控訴人が,介護保険の被保険者2名(乙山二朗,丙川花子)に対して同サービスを提供し,同条6項に基づいて,保険者である被控訴人今治市から委託を受けて居宅介護サービス費の請求に係る審査及び支払事務を担当する被控訴人連合会に対して居宅介護サービス費として合計7万9380円の支払を請求したところ,被控訴人連合会から減点査定を受け,7万5978円が支払われるにとどまったことから,被控訴人連合会に対し,上記請求額と支払額との差額合計3402円を支払うよう求める訴訟を提起し(原審平成14年(ワ)第905号事件),その後,被控訴人今治市に対しても,上記3402円を支払うよう求める訴訟を提起した(原審平成15年(ワ)第106号事件)事案である。両訴訟が併合された後,控訴人は,予備的請求として,控訴人から上記サービスを受けた被保険者2名が被控訴人らに対して有する居宅介護サービス費支払請求権の残額がそれぞれ1296円,2106円(合計3402円)であることの確認を求める訴えを追加した。

原審は,控訴人の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求に係る訴えをいずれも却下した。そこで,控訴人は,原判決を不服として控訴を申し立てた。

第3  前提事実

以下のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第3記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決3頁21行目,4頁11行目及び5頁4行目の各「法41条1項」をいずれも「法41条1項本文」に,3頁末行から4頁1行目の「法41条6項」を「法41条10項」に,16行目の「基準(」を「基準,すなわち」に,18行目から19行目の「実際に当該サービス」を「現に当該指定居宅サービス」に各改める。

2  同6頁2行目の「法80条」の次に「,81条2項」を加え,8行目の括弧(を削り,27行目から末行の「法176条」を「法176条1項1号」に改める。

3  同7頁23行目及び8頁21行目の各「審査し」の次にいずれも「,平成14年7月2日付で」を加える。

4  同9頁21行目の次に改行して次のとおり加える。

「(4) 控訴人は,平成14年8月7日,愛媛県介護保険審査会に対し,被控訴人連合会が同年7月2日付で行った,控訴人に係る被保険者2名の同年5月分居宅介護サービス費の請求の減点査定に係る増減単位数通知について審査請求をしたが,同審査会は,同年9月18日,被控訴人連合会が行った上記減点査定は,行政不服審査法による不服申立ての対象となる『行政庁の処分』には当たらないとして,控訴人の上記審査請求を不適法却下する裁決をした(甲11)。

控訴人は,同年10月30日,被控訴人連合会を被告として本件訴訟を提起し(原審平成14年(ワ)第905号事件),平成15年2月13日,被控訴人今治市を被告として本件訴訟を提起した(原審平成15年(ワ)第106号事件)。」

第4  争点

争点及び争点についての当事者の主張は,後記1のとおり補正し,当審における当事者の補充主張を後記2のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」第4記載のとおりであるから,これを引用する。

1  原判決の補正

(1)  原判決10頁6行目の「サービス費」を「居宅介護サービス費」に改める。

(2)  同11頁25行目の「本件契約による」を「本件契約で定められた」に改める。

(3)  同12頁26行目の「あるのだから」を「あるのであるから」に改める。

(4)  同13頁7行目の「居宅介護サービス費請求権」を「居宅介護サービス費支払請求権」に,10行目の「本件契約に定められた」を「本件契約で定められた」に,12行目から13行目の「未払があるというのならば」を「未払があるというのであれば」に各改める。

2  当審における当事者の補充主張

(1)  控訴人

ア そもそも本件紛争は,本件介護タクシーサービスを往路・復路で別個のサービスとみるか,それとも1個のサービスとみるかという評価・解釈の相違から生じたものであり,従前,ケアマネージャーが作成していたケアプランにおいては,本件介護タクシーサービスは往路・復路で別個のサービスであるという解釈のもと,往路・復路それぞれについて「身体介護1」と表示されていたところ,被控訴人今治市の指導により,本件介護タクシーサービスが往路・復路で1個のサービスであるという解釈のもと,ケアプランにおいて往路・復路合わせて「身体介護2」と表示されるに至ったものである。

このように,従前のケアプランも本件ケアプラン1及び2も,本件介護タクシーサービスを往路・復路で別個のサービスとみるか1個のサービスとみるかという評価・解釈を前提として作成されているものであり,また,居宅介護サービス費についてはサービス費算定基準による金額とされているのであるから,作成されたケアプラン自体については解釈の問題が生じることはない。

本件は,本件ケアプラン1及び2の作成の前提となっている解釈が正当か否かを問題としているものであり,その解釈のもとに作成されたケアプランの解釈を問題としているものではない。

イ 原判決は,指定居宅サービス事業者と居宅要介護者との間の契約の内容は法令等によって定められているというものではないとするが,誤りである。本件契約のように,指定居宅サービスの対価をサービス費算定基準に委ねている事案の場合には,その対価は,法律に基づくサービス費算定基準によって自動的に決まるものであるから,指定居宅サービス事業者において対価を自由に決定しうるものではない。

(2)  被控訴人ら

ア 本件は,当該居宅要介護者が提示した指定居宅サービスの種類,内容等,その対価である介護報酬,その内訳である利用者負担額及び居宅介護サービス費について,控訴人が正当と認めた上で同意したからこそ,本件契約が成立したという事実が前提となっている。すなわち,居宅介護サービス費は,居宅要介護者と指定居宅サービス事業者との間で締結された契約額の範囲,つまり,本件ではサービス費算定基準により算定した額によって支払われるべきものである。

したがって,控訴人は,本件契約で定められた額以上の額を請求することはできないというほかない。

そもそも,介護報酬に基づく居宅介護サービス費について不服があるのであれば,控訴人は,居宅要介護者保護の観点からも,指定居宅サービス事業運営基準9条に照らし,当該サービスを提示された時点で拒否できたはずである。にもかかわらず,控訴人は,自ら正当と認めて締結した契約について,サービスを提供した後に異議を申し立てているのであって,控訴人の主張は介護保険制度の趣旨をも逸脱した不当なものである。

イ 控訴人は,原判決が,指定居宅サービス事業者と居宅要介護者との間の契約の内容は法令等によって定められているというものではないとしたのは誤りであると主張する。しかしながら,指定居宅サービス事業者と居宅要介護者とは,ケアプラン作成の過程において,指定居宅サービスの種類,内容等,その対価である介護報酬(サービス費算定基準による額又は現に指定居宅サービスに要した費用の額)を明確にした上で,サービスの提供に同意して契約が成立しているのである。また,指定訪問介護事業者にあっては,ケアプランに沿って,具体的なサービス内容を記載した訪問介護計画を作成し,利用者等に説明を行い,同意を得た上でサービスの提供が行われていると解釈されるべきである。とりわけ,サービス内容等については,利用者個々人によって身体状況や生活実態等の諸条件が異なるため,自ずとサービス利用者固有の内容となる。本件では,こうした経緯を踏まえて本件契約が成立しているのであって,原判決の上記判断に誤りはない。

第5  当裁判所の判断

1  当裁判所も,控訴人の主位的請求はいずれも理由がなく,予備的請求に係る訴えは確認の利益を欠くものとして不適法であると判断する。その理由は,次の(1)のとおり補正し,次の(2)のとおり当審における控訴人の補充主張に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」第5の1ないし3記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決の補正

ア 原判決13頁25行目の「なすべきである」の次に「〔最高裁昭和61年7月10日第1小法廷判決・裁判集民事148号269頁参照〕」を加える。

イ 同14頁8行目の「前記認定」を「前記第3の3及び4の各(1)及び(2)の前提事実」に,25行目の「本件契約は」を「本件契約においては」に各改める。

ウ 同15頁1行目の「前記のとおり」を「前記第3の2(1)の前提事実のとおり」に,3行目の「低い方を基準とし」を「低い方の額の100分の90に相当する額とされ(法41条4項1号)」に,18行目及び20行目の各「指定居宅介護事業者」をいずれも「指定居宅サービス事業者」に各改める。

エ 同26行目から27行目までを次のとおり改める。

「(4) 以上のとおりであるから,控訴人が被控訴人らに対し,合計3402円の居宅介護サービス費支払請求権を有しているということはできない。」

オ 同16頁4行目の「サービス費支払」を「サービス費の支払」に改める。

(2)  当審における控訴人の補充主張に対する判断

ア 控訴人は,本件紛争は,本件介護タクシーサービスを往路・復路で別個のサービスとみるか,それとも1個のサービスとみるかという評価・解釈の相違から生じたものであり,従前,ケアマネージャーが作成していたケアプランにおいては,本件介護タクシーサービスは往路・復路で別個のサービスであるという解釈のもと,往路・復路それぞれについて「身体介護1」と表示されていたところ,被控訴人今治市の指導により,本件介護タクシーサービスが往路・復路で1個のサービスであるという解釈のもと,ケアプランにおいて往路・復路合わせて「身体介護2」と表示されるに至ったものであり,本件ケアプラン1及び2の作成の前提となっている解釈が正当か否かを問題としているものであり,その解釈のもとに作成されたケアプランの解釈を問題としているものではない旨主張する。

しかしながら,控訴人が本件で請求する居宅介護サービス費は,控訴人と乙山及び丙川との間で本件契約がそれぞれ有効に成立したことが前提となっているのであるから,控訴人の請求の当否を判断するに当たり,本件契約の内容を確定する必要があるのはいうまでもない。そして,本件ケアプラン1及び2においては,控訴人の提供する介護サービスにつき,サービス内容欄に「身体介護2」と記載され,その回数が1日当たり1回とされていることからすると,本件契約は,居宅介護サービスに要する費用についても,往路及び復路における各サービスを一体として,サービス費算定基準所定の「身体介護2」に対応する額とすることが契約内容とされていると解するのが相当であり,本件契約の解釈を離れて,控訴人が主張するように,本件介護タクシーサービスを,往路・復路で別個のサービスとみるか,それとも1個のサービスとみるかを問題とする余地はないというべきである。すなわち,本件ケアプラン1及び2において,本件介護タクシーサービスにつき,サービス費算定基準所定の「身体介護1」ではなく,「身体介護2」と記載され,控訴人と乙山及び丙川はそれぞれこの記載内容に同意して本件契約を締結したのであるから,控訴人と乙山及び丙川は,上記サービスを「身体介護2」とみることについて,本件契約の内容として拘束されるというべきである。したがって,本件契約締結時において,上記サービスを「身体介護2」ではなく「身体介護1」とみることを乙山及び丙川があらかじめ了承していた場合はともかく,そのような事情の窺われない本件においては,控訴人は,上記サービスを「身体介護1」として居宅介護サービス費を請求することはできないというべきである。そして,この結論は,被控訴人今治市が,介護タクシーサービスについて,従来往路のサービスと復路のそれとを別個のものとして算定していたのを,愛媛県からの指導などに基づいて,居宅要介護者の居宅から外出して居宅に戻るまでのサービスを一連のものとして算定するよう,介護支援専門員に対して指導するなどした(前記第3の5(1))結果,本件ケアプラン1及び2が作成されたものであるとしても,左右されない。仮に愛媛県や被控訴人今治市の上記指導に当・不当の問題があったとしても(上記指導が法的に誤っていたと判断するものでないことはいうまでもない。),控訴人は本件契約の内容に拘束されると解するほかはない。

イ 控訴人は,原判決は,指定居宅サービス事業者と居宅要介護者との間の契約の内容は法令等によって定められているというものではないとするが,本件契約のように,指定居宅サービスの対価をサービス費算定基準に委ねている事案の場合には,その対価は,法律に基づくサービス費算定基準によって自動的に決まるものであるから,指定居宅サービス事業者において対価を自由に決定しうるものではない旨主張する。

確かに,サービス費算定基準は,法41条4項1号に基づいて定められたものであり,指定居宅サービスの対価を同基準に委ねている場合には,ケアプランにおいてサービスの種類,内容,回数等が定められると,その対価が同基準によって自ずと定まる仕組みになっており,その意味では,指定居宅サービス事業者において,同基準と異なるサービスの対価を定める自由はないということができる。しかしながら,いかなるサービスをどの程度利用するかは,指定居宅介護支援事業者が居宅要介護者の同意を得て作成するケアプランにおいて定められるのであるから,このケアプランに基づいて締結された契約の内容が法令等によって定められているということはできない。

2  よって,控訴人の主位的請求をいずれも棄却し,予備的請求に係る訴えをいずれも不適法として却下した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・水野武,裁判官・熱田康明,裁判官・島岡大雄)

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