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高松高等裁判所 平成16年(ネ)201号 判決 2004年11月11日

控訴人(1審被告) 国

被控訴人(1審原告) X(仮名)

主文

1  本件控訴を棄却する。

ただし、原判決主文第1項を次のとおり更正する。

控訴人との間において、被控訴人が原判決添付の別紙物件目録1記載の土地について所有権を有することを確認する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求をいずれも棄却する。

第2事案の概要等

事案の概要、前提となる事実、争点と当事者の主張は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第2記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決3頁1行目の「B」から3行目の「買い受け(<証拠略>)、」までを「元所有者Bから、徳島市<住所略>93番田869平方メートル(以下、単に『93番の土地』という。後記(4)のとおり原判決添付の別紙物件目録記載2の土地〔以下、単に『93番1の土地』という。〕と93番2の土地に分筆される前の元番の土地)及び同目録記載3の土地(以下、単に『94番の土地』という。)を買い受け(<証拠略>)、」に、5行目の「93番1の土地」を「93番の土地」に、6行目の「土揚場」から7行目末尾までを「土揚場からなる原判決添付の別紙物件目録記載1の土地(以下『本件係争地』という。)があった(付近の地図に準ずる図面は末尾添付の乙1〔徳島地方法務局備付けの公図〕のとおりである。)。」に、8行目の「本件係争地を購入した93番1の土地や」を「本件係争地を、購入した93番の土地や」に各改める。

2  同11行目の「分筆前の」を削り、13行目の「原告土地全体」を「93番1の土地及び94番の土地全体(本件係争地を含む。)」に、20行目の「本件係争地にあった」を「本件係争地である」に各改める。

3  同4頁5行目冒頭から7行目の「ほかならず」までを次のとおり改める。「本件水路及び土揚場が水路としての機能や形態を失っていたことにより公の目的に特段の支障が生じていなかったとしても、それは本件代替水路及び残存水路が本件水路等の機能を代替していたからにほかならず、加えて、本件代替水路が94番の土地上に存在するか否かは明らかでないものの(被控訴人と94番の土地の隣地所有者との間で境界確定協議がされたことはなく、現地において境界線を示す顕著な境界標等は存在しない。)、民有地上に存在することが明らかであり、その限りにおいて、敷地所有者から本件代替水路の利用につき異議が述べられた場合には、本件水路等が消滅しているため、直ちに公の目的に支障のある状態が顕在化することになるのであり、本件水路等を公共用財産として維持すべき理由が認められるから」

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人との間で被控訴人が本件係争地について所有権を有することの確認を求める被控訴人の請求、及び、控訴人に対し、本件係争地について昭和29年5月6日時効取得を原因とする亡Aへの所有権移転登記手続を求める被控訴人の主位的請求は理由があると判断する。その理由は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第3の1ないし3記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)  原判決4頁19行目の「西側に位置する」を「分筆前の93番の土地(分筆後の93番2ないし6の各土地)の西側境界に沿って南北に延びる」に、25行目の「その間に」から5頁2行目末尾までを「その間の本件係争地部分にあった本件水路は外形的にも機能的にも水路として実態を全く有しない状態になっていて、その代わりに、94番の土地の南側及び東側の外周に代替水路が設けられ(以下『本件代替水路』という。)、西南部において本件水路のうちの西南残存部分(原判決添付別紙地積測量図記載のト点とチ点を結んだ直線の南側に『水』と表示された部分。以下『残存水路』という。)と接続し、北東部において東進する水路と接続し、西側の既存国有水路から残存水路に引いた農業用水を東進する水路に流していた。」に、3行目から4行目の「93番1の土地」を「93番の土地」に、13行目の「既存水路」を「残存水路」に、18行目の「これを承継して」を「同人を相続して」に各改める。

(2)  同19行目の「既存水路」から20行目末尾までを「残存水路は、西側の既存国有水路からの通水がなくなって、主に96番2の土地からの生活排水及び雨水の排水路としての役割を果たすようになり、本件代替水路は、94番の土地の南側外周の東側部分及び東側外周の南側部分が土砂で埋まっており、大雨のときに95番1の土地などから雨水が流れ込む状態になっている。」に改める。

(3)  同6頁4行目から12行目までを次のとおり改める。

「前記認定事実によれば、本件係争地は、もともと本件水路及び土揚場からなり、西側の既存国有水路から分流して東進し、93番1の土地(当時は分筆前の93番の土地)と94番の土地を分断するように北北東方向に進んだ後、再び東進する経路を辿り、その周辺の農地に配水する農業用水路としての役割を果たしていたところ、Aが本件係争地の占有を開始した昭和29年5月6日の時点において、遅くとも17年前から、本件水路は、外形的にも機能的にも実態を全く有しない状態になっていて、その代わりに、94番の土地の南側及び東側の外周に沿った形で本件代替水路が設けられ、西南部において本件水路のうちの残存水路と接続し、北東部において東進する水路と接続し、西側の既存国有水路から残存水路に引いた農業用水を東進する水路に流していたというのであるから、公共用財産である本件係争地は、同時点において、<1>長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、<2>公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、<3>その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなかった、という要件を充足しているというべきである。

そして、前記昭和29年5月6日の時点において、『もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなっていた』という<4>の要件について、控訴人は、本件水路及び土揚場が水路としての機能や形態を失っていたことにより公の目的に特段の支障が生じていなかったとしても、それは本件代替水路及び残存水路が本件水路等の機能を代替していたからにほかならず、加えて、本件代替水路が94番の土地上に存在するか否かは明らかでないものの(被控訴人と94番の土地の隣地所有者との間で境界確定協議がされたことはなく、現地において境界線を示す顕著な境界標等は存在しない。)、民有地上に存在することが明らかであり、その限りにおいて、敷地所有者から本件代替水路の利用につき異議が述べられた場合には、本件水路等が消滅しているため、直ちに公の目的に支障のある状態が顕在化することになるのであり、本件水路等を公共用財産として維持すべき理由が認められるから、黙示の公用廃止を認めるための要件が備わっているとはいえず、したがって、本件係争地は時効取得の対象にはならない旨主張する。

確かに、被控訴人と94番の土地の隣地所有者との間で境界確定協議がされ、あるいは現地において境界線を示す顕著な境界標等が存在するとの事実を認めるに足りる証拠はないが、乙1(徳島地方法務局備付けの公図)によれば、本件代替水路のうちの94番の土地の南側外周に沿った部分は94番の土地に含まれるものと認められ、また、東側外周に沿った部分については、分筆前の93番の土地及び94番の土地の所有者であったBないしその前所有者が、本件係争地を含めた1枚の水田として両土地を耕作するために、両土地の間にあった本件水路及び土揚場の代わりに、その外周に設けたものであるから、94番の土地の範囲内に設けたものと推認され、したがって、前記昭和29年5月6日の時点でBないし前所有者及びBから両土地を買い受けたAにおいて本件代替水路の利用について自ら異議を述べ、ひいては本件水路を復活する必要が生ずるというような事態は考えられないから、もはや本件水路等を公共用財産として維持すべき理由はなくなっていた、すなわち<4>の要件も充足するということができる。仮に、本件代替水路のうちの東側外周に沿った部分が、94番1の土地ではなく、その東側隣地に設けられたものであったとしても、その東側隣地も本件代替水路のうちの東側外周に沿った部分から水を引いていたものと推認され、そして、そのような状態が少なくとも17年の間継続していて、その間、東側隣地所有者から異議を述べられたとの事実を認めるに足りる証拠はないから、前記時点で、東側隣地所有者が本件代替水路の利用について異議を述べ、ひいては本件水路を復活する必要が生ずるという事態は考えられず、したがって、やはり、もはや本件水路等を公共用財産として維持すべき理由はなくなっていた、すなわち<4>の要件も充足するということができる。

そうすると、本件係争地は、Aが占有を開始した昭和29年5月6日の時点において、黙示的に公用が廃止されたものとして、取得時効の対象になるというべきである。これに反する控訴人の上記主張は採用することができない。」

2  よって、被控訴人の(主位的)請求を認容した原判決は相当であり、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する(なお、原判決主文第1項は、確認判決の主文として適切でないから更正する。)。

(裁判官 水野武 熱田康明 島岡大雄)

図面<省略>

(参考)第1審(徳島地裁平成15年(ワ)第81号 平成16年3月16日判決)

主文

1 被告は、原告が、別紙物件目録1記載の土地について、所有権を有することを確認する。

2 被告は、亡Aに対し、前項の土地について、昭和29年5月6日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

3 訴訟費用は、被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1 主位的請求

主文同旨

2 主位的請求第2項についての予備的請求

(1) 予備的請求1

被告は、亡Aに対し、前項の土地について、昭和39年月日不詳時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

(2) 予備的請求2

被告は、亡Aに対し、前項の土地について、昭和44年月日不詳時効取得を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

第2事案の概要

本件は、原告が自宅敷地内にある被告名義の土地につき、時効によって所有権を取得したと主張し、被告に対し、その所有権の確認と所有権移転登記手続を求めた事案である。

1 前提となる事実(争いのない事実及び証拠によって容易に認定できる事実)

(1) 原告の父であるAは、昭和29年5月6日、Bから別紙物件目録2、3記載の土地(ただし、同目録2記載の土地については分筆前のもの、以下、それぞれ「93番1の土地」「94番の土地」という。)を買い受け(<証拠略>)、昭和30年5月9日、その所有権移転登記手続を経た。

(2) 93番1の土地と94番の土地の間には、法定外公共用財産である国有水路(以下「本件水路」という。)及び土揚場である別紙物件目録1記載の土地(以下「本件係争地」という。)があった。

(3) Aは、本件係争地を購入した93番1の土地や94番の土地とともに一団の土地として水田耕作に使用していた(<証拠略>)。

(4) Aは、昭和50年6月4日、分筆前の93番の土地を93番1の土地と93番2の土地に分筆する手続をした。

(5) Aは、昭和55年ころ、原告土地全体を埋め立ててその一部を宅地として自宅の敷地とし、その余の部分を駐車場や畑として使用するようになった(<証拠略>)。

(6) Aは、昭和61年○月○日に死亡し、原告が相続した(<証拠略>)。

2 争点(公用廃止と時効取得の成否)と当事者の主張

(原告の主張)

本件係争地にあった本件水路及び土揚場は公共用財産であったが、遅くとも昭和22年11月ころにはその形態が失われて機能をまったく喪失していたのであり、黙示的に公用が廃止されたものである。そこで、Aは、本件係争地の占有を開始した昭和29年5月6日から10年の経過、あるいは遅くとも20年の経過をもって取得時効が完成して、本件係争地の所有権を取得しており、Aの死亡によって原告がこれを相続したので、上記取得時効を援用する。

(被告の主張)

国有地である本件係争地について、徳島県内の法定外公共用財産の管理を所管していた旧建設省所管国有財産部局長としての徳島県知事が公用廃止(用途廃止)を行った事実はない。仮に、Aによる占有開始時において、本件水路が埋め立てなどにより水路としての形態や機能が失われ、その占有継続によって公の目的に特段の支障が生じなかったとしても、それは代替水路や残存水路が本件水路の機能を代替していたからにほかならず、黙示の公用廃止を認めるための要件が備わっているとはいえない。したがって、本件係争地は、時効取得の対象にはならない。

また、Aは、土地の買受けに際して、法務局備付の公図等を閲覧し、それらに基づいて実地調査していれば、買受け予定地のなかに国有地である本件係争地が存在することを知り得たはずである。したがって、その占有開始時に国有地があることを知らなかったことにつき、過失がなかったとはいえない。

第3当裁判所の判断

1 まず、本件係争地の利用状況について検討するに、<証拠略>によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件水路は、かつて本件係争地の形状のとおり、西側に位置する既存の国有水路から分流して東進し、93番1の土地(当時は分筆前の93番の土地)と94番の土地を分断するように北北東方向に進んだ後、再び東進する経路を辿り、その周辺の農地に配水する農業用水路としての役割を果たしていた。

(2) しかし、遅くとも昭和12年ころには、既に93番1の土地と94番の土地は1枚の水田となっていて、その間に本件水路は存在しない状態になっていて、その代わりに、94番の土地の外周に沿ったかたちで代替水路が設けられ、残存していた本件水路の西側部分(以下「残存水路」という。)と接続し、西側の既存国有水路から通水するようになっていた。

(3) Aは、昭和29年5月6日、本件係争地を含めた1枚の水田として93番1の土地と94番の土地をBから買い受け、これをそのまま耕作するようになった。

(4) 昭和30年代に入って、西側の既存国有水路の水源になっていた袋井用水からの流水量が減少し、これに連動して残存水路から本件代替水路に流れ込む流量も減少したため、近隣農家の願い出によって、西側の既存国有水路の上流にあった工場から冷房用の排水を流すようになったが、昭和40年前後のころには、各農家が独自にポンプを設置して地下水を汲み上げることで農業用水を確保するようになり、さらに、昭和40年代に入って前記工場が閉鎖となると、西側の既存国有水路の流水量がかなり減少したこともあって、いつしか既存水路や本件代替水路が農業用水路として利用されることはなくなった。

(5) 昭和50年代に入ると、周辺部の宅地化が進み、Aも、昭和55年ころ、93番1の土地と94番の土地を埋め立て、その北西部を宅地として自宅等を建て、南東部を畑や駐車場として利用するようになり、昭和61年○月にAが死亡すると、原告がこれを承継して現在に至っている。そして、宅地化とともに、既存水路や本件代替水路は、周辺民家からの生活や雨水の排水路としての役割を果たすようになった。

2 ところで、本件係争地は、法定外公共用財産としてその管理者が公用廃止を行っていないので、時効取得をするためには、黙示の公用廃止があったといえるか否かが問題となる。そして、黙示の公用廃止があったというためには、公共用財産が、<1>長年の間事実上公の目的に供用されることなく放置され、<2>公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、<3>その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、<4>もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなった場合であることが必要である(最高裁判所昭和51年12月24日判決・民集30巻11号1104頁)。

そこで、前記認定の事実関係を踏まえて検討するに、Aが本件係争地の占有を開始した昭和29年5月の時点において、本件係争地は、少なくとも17年もの間、水路が埋設されて93番1の土地や94番の土地と合わせて1枚の水田の状態で利用されており、水路の機能も代替水路によって肩代わりされていた状態が続いていたことがうかがわれ、このような事情に徴すれば、先に指摘した黙示の公用廃止が認められる要件をいずれも充たしている。

したがって、本件係争地は、Aが占有を開始した時点において、黙示的に公用が廃止されていたといえるので、時効取得の対象となる。

よって、この点に関する被告の主張は採用できない。

3 なお、法務局備付の公図等によれば、国有地たる本件係争地が存在することが明らかであり、Aが本件係争地の占有を開始するにあたって、少なくとも過失があるから、昭和29年5月6日から20年が経過した時点をもって取得時効が完成している。

そして、前掲の前提となる事実(6)のとおり、Aは、昭和61年に死亡して、これを原告が相続しているので、本件係争地の所有権は原告に帰属している。

4 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石垣陽介)

別  紙

物件目録

1 所在 徳島市<住所略>

地番 (94番先)

地目 (現況)宅地

地積 131.27平方メートル

ただし、別紙地積測量図記載のイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、ヲ、イの各点を順次直線で結んだ範囲内の土地

2 所在 徳島市<住所略>

地番 93番1

地目 田

地積 433平方メートル

3 所在 徳島市<住所略>

地番 94番

地目 田

地積 538平方メートル

別  紙

地積測量図<省略>

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