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高松高等裁判所 平成16年(ネ)277号 判決 2005年8月05日

控訴人兼被控訴人

有限会社X建設

(以下、「X建設」という。)

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

中田祐児

島尾大次

被控訴人兼控訴人

木屋平村承継人 美馬市

(以下、「美馬市」という。)

同代表者市長

牧田久

同訴訟代理人弁護士

島内保夫

島内保彦

主文

1  美馬市の控訴に基づき、原判決中、美馬市敗訴部分を取り消す。

2  同部分及び当審で拡張した部分のX建設の請求を棄却する。

3  X建設の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第1、第2審ともX建設の負担とする。

事実及び理由

第3当 裁判所の判断

1  前記第2の1の事実に加えて、〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。

(1)  木屋平村の指名競争入札の参加資格等の審査について

ア(ア)  木屋平村は、「木屋平村公共事業審議会規則」(〔証拠略〕)を定め、これを平成9年4月1日から施行している。この規則に基づいて、木屋平村長の委嘱を受けた木屋平村職員をもって組織する木屋平村公共事業審議会(以下、「本件審議会」という。)が設置され、毎年度の一般競争入札及び指名競争入札の参加資格審査等に関する審議のため各年度ごとに1回開催され、審議結果が木屋平村長に答申されていた。

(イ)  そして、入札参加資格等については、木屋平村は、地方自治法施行令167条の5第1項及び167条の11第2項の規定に基づき、木屋平村が発注する建設工事の請負契約に係る一般競争入札及び指名競争入札に参加する者に必要な資格等について定めるものとして、「木屋平村建設工事の請負契約に係る一般競争入札及び指名競争入札参加資格審査要綱」(〔証拠略〕。以下、「本件資格審査要綱」という。)を定め、これを平成14年4月1日から施行した。

イ(ア)  入札参加資格が認められた者の中から、特定の工事につき具体的にどの業者を指名するかについては、木屋平村は、「木屋平村指名競争入札審査委員会設置要綱」(〔証拠略〕)を定め、これを平成14年4月1日から施行した。この要綱に基づいて、木屋平村の助役、参事、総務課長、建設課長並びに担当課の課長(局長)、課長補佐及び係長をもって組織する木屋平村指名競争入札審査委員会(以下与「本件審査委員会」という。)が設置され、指名競争入札参加候補者の選定のため公共事業施行の都度会議が招集され、審議結果が木屋平村長に報告されている。

上記要綱の付属文書である「指名競争に参加する者を指名する場合の基準」(以下、「本件指名基準」という。)においては、工事請負契約については、指名競争入札に参加する資格を有する者のうちから、「不誠実な行為の有無その他の信用状態」等の事項を総合勘案して指名することとされている。また、上記要綱のもう一つの付属文書である「木屋平村発注の工事請負契約に係る指名基準の運用基準」(以下、「本件運用基準」という。)では、「不誠実な行為の有無その他の信用状態」を勘案する際の留意事項として、「村当局と、信頼、信用度が総合的に勘案し不十分な建設業者」に該当する場合は、指名しないこととされている。

(イ)  また、木屋平村は、指名停止又は指名回避につき、本件指名停止等要綱(〔証拠略〕)を定め、これを平成4年4月1日から実施してきた。本件指名停止等要綱には、指名停止又は指名回避の事由となるべき項目とそれぞれの項目に対応する措置期間の基準が定められており、所定の項目に該当する者には指名停止の措置を行い、該当する疑いのある者には指名回避の措置を行うこととされている。そして、これらの項目中、「その他重大な不法・不当行為を行い、指名業者として不適当と認められる者」という項目については、これに対応する措置期間が2ないし12か月(木屋平村発注工事に係る場合)とされている。

ウ  木屋平村長は、本件審議会(及び、平成14年4月1日以降は本件審査委員会)の審議結果に基づき、指名競争入札参加者を指名してきた。

(2)  本件各指名回避について

ア  X建設は、X建設代表者の父である亡Bが昭和58年ころに創業し、昭和63年4月14日に法人成りした、職員数11名程度の有限会社である。X建設は、昭和60年ころから平成10年度までの間、継続して木屋平村の実施する指名競争入札に参加してその発注に係る公共工事を受注し、工事高のほとんどが木屋平村からの公共工事と木屋平村区域内における徳島県脇町土木事務所からの公共工事で占められており、同土木事務所からの工事の受注は、本件各指名回避の間も、現在に至るまで続いている。

イ(ア)  X建設は、平成8年11月ころ、木屋平村が実施しようとしていた村道拡張工事に関し、X建設の標記住所地前の50メートルほどの区間の工事についてX建設を指名競争入札に参加させるよう木屋平村に求めた。当該工事は、一工区の工事区間が数百メートル程度、工事費にして3000ないし4000万円程度の工事であったため、本来であれば1500万円を超える工事についての参加資格がなかったX建設を当該工事の指名競争入札に参加させることはできなかったのであるが、木屋平村は、協議の結果、上記の区間について分割発注することとし(同年12月25日発注分)、X建設を指名競争入札に参加させた。

(イ)  X建設は、平成10年8月ころ、木屋平村がX建設代表者所有名義の山林を取水堰堤及び高区配水タンクの設置場所として実施しようとしていた簡易水道拡張改良工事に関し、同用地の売却にからめて同工事の指名競争入札にX建設を参加させるよう木屋平村に求めた。木屋平村は、他の業者に既に指名通知を発出していた上、金額及び施工の面でX建設を指名することはできないため、X建設の要求に応じることができず、上記各施設の設置場所を他の者の所有地に変更した上で(〔証拠略〕)、同年9月及び翌11年3月の入札を経て工事を実施した。

ウ(ア)  平成11年6月30日に開催された本件審議会において、委員から、X建設については前記イの各事実があり、かつ標記住所地所在の事務所は不在で数年間機能しておらずX建設代表者は脇町で生活しているのが現状である旨の、有限会社a建設(以下、「a建設」という。)については農道工事に関する分割発注の要求が再三にわたりあった旨の、株式会社b組(以下、「b組」という。)については受注工事において捨土を農地内に捨てていた旨の各意見が出され、これらの意見を西村長への答申の付帯意見として添付する旨の決議がされた(〔証拠略〕)。

西村長は、かかる本件審議会の答申を受け、平成11年度に実施される指名競争入札においては、X建設、b組及びa建設の3社に対し指名回避の措置をとることを決定した。

(イ)  b組については同年12月ころ、a建設については平成12年1月ころ、それぞれ木屋平村との間で話し合いがもたれ、その結果、指名回避の措置が解除された(〔証拠略〕)。平成12年1月に、木屋平村は、仲裁人を入れて信頼回復、指名回復のため話し合いをしたい旨をX建設に申し入れたが、X建設はその申入れを拒絶した(〔証拠略〕)。

エ(ア)  平成12年4月6日に開催された本件審議会において、会長から、X建設については上記の話合いの申し出が拒絶されており、西村長は指名競争入札に参加する意志がないと判断している旨が報告されるとともに、委員から標記住所地所在の事務所は不在で機能しておらずAは脇町で生活しているのが現状である旨の意見が出され、委員全員が西村長の判断に賛成した(〔証拠略〕)。

平成13年5月14日に開催された本件審議会において、委員全員が、標記住所地所在の事務所は、常駐している者もほとんどおらず、村内業者として認められないとの意見が出された(〔証拠略〕)。

平成14年5月15日に開催された本件審議会において、委員より平成13年12月徳島県発注の一般国道工事において、これを請け負ったX建設は、川原谷及び穴吹川を汚濁させ、吉野川西部漁協本部が現地調査や指導を行ったにもかかわらず、現状が改善されていない旨の意見が出され、かかる意見を西村長への答申の付帯意見として添付する旨の決議がなされた(〔証拠略〕)。

平成16年7月1日に開催された本件審議会において、委員より、平成16年2月徳島県発注の砂防内川地内の工事において、これを請け負ったX建設は、他人所有の果樹を必要以上に伐採したなどの意見が出され、西村長への答申の付帯意見として添付する旨の決議がなされた(〔証拠略〕)。

(イ)  そして、平成11年度に続いて平成12年から平成16年の各年度において、木屋平村は、上記の各意見に加えて、X建設は村内業者とは認められないことを理由に、指名回避の措置をとった。

2  争点<1>(本件各指名回避の違法性)について

(1)ア  地方公共団体において、公共工事の指名競争入札を実施するに当たり、いかなる業者を指名するかは、基本的には契約自由の原則が妥当する領域であり、かつ、当該工事の内容、規模、特殊性、当該業者の経営規模、工事施工能力、工事成績、信用度、地理的条件など諸事情を総合勘案して判断することを要する事項であるから、入札参加者を選定する事務は、工事請負契約締結権限及び入札執行権限を有する長の広範な裁量に委ねられているというべきである。

イ  もっとも、公共工事の経費は国民又は地域住民等から徴収した税金で賄われるものであるから、契約締結にあたっては、適正な競争を通じた、公正性、透明性及び経済性を確保することが要求され、契約担当者たる地方公共団体の長の恣意を許すものではない。

それゆえ、地方自治法は、契約担当者の恣意が介入する余地の少ない一般競争入札を原則的な契約締結方式とし、指名競争入札は工事の請負等般競争入札が適さない場合に限り、実施することができるものとしている(地方自治法234条2項、同法施行令167条)、更に、指名競争入札は、契約担当者が特定多数の入札参加者を指名する過程で、一部の者を偏重ないし排除する弊害が生じるおそれがあるため、契約担当者たる地方公共団体の長において、あらかじめ、指名競争入札に参加する者につき、契約の種類及び金額に応じ、工事、製造又は販売等の実績、従業員の数、資本の額その他経営の規模及び状況を要件とする資格を定め(同法施行令167条の11第2項、167条の5)、平成13年4月1日からはこれを公表することが義務づけられている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号、同法施行令7条1項2号)。

さらに、地方公共団体の長は、指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから、当該入札に参加させようとする者を指名する必要がある(地方自治法施行令167条の12第1項)ところ、平成13年4月1日以降は、地方公共団体が指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準を定めた場合には、これを公表することが義務づけられている(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律8条1号、同法施行令7条1項3号)。

ウ  以上によれば、指名競争入札における参加資格審査ないしは業者指名の判断については、契約担当者たる地方公共団体の長の広範な裁量に委ねられているが、その恣意を許すものではなく、その権限の行使が明らかに不合理であるなど、その裁量権を逸脱し又は濫用し、指名競争入札に参加しようとする業者を指名から不当に排除した場合には、国家賠償法1条1項にいう違法性が認められると解される。

(2)  そこで、以上を前提に、本件各指名回避が裁量権を逸脱又は濫用しているものか否かについて検討する。

ア(ア)  前記1(2)イの各事実につき、これらの2度にわたるX建設の行為が木屋平村との信頼関係を損ねる行為であることは明らかである。したがって、西村長が、これらの行為を理由に本件指名停止等要綱(なお、本件指名基準及び本件運用基準は、平成11年当時はまだ制定されていなかった。)に定める「その他重大な不法・不当行為を行い、指名業者として不適当と認められる者」に該当する疑いがあると判断し、X建設につき指名回避の措置をとったこと自体は、不合理であるとはいえない。

これに対し、X建設は、簡易水道拡張改良工事につき、木屋平村がX建設を指名に加えようとしなかったのは、かかる工事について落札する業者が決まっていることから、かかる既定事実が覆されるのを恐れたためと推測されると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。村道拡張工事については、確かに平成8年のことではあるが、平成10年の簡易水道拡張改良工事の件とあいまって、平成11年において、木屋平村が「その他重大な不法・不当行為を行い、指名業者として不適当と認められる者」に該当する疑いがあると判断したからといって、それが不合理であるとは言えない。

また、X建設は、平成11年4月に実施された木屋平村村長選挙において、西村長の対立候補者を応援したX建設、b組及びa建設の3社が選挙後にそろって指名回避の措置を受けていることからすれば、本件各指名回避はその意趣返しである旨を主張する。しかしながら、上記三社に対して指名回避がなされたのは、上記のとおり理由があってのことであるから、西村長に明らかにそのような意図があったとまで認めるに足りる証拠はなく、X建設のかかる主張は採用できない。

(イ)  他方で、上記のような理由による指名回避の措置は、本件指名停止等要綱に定められた措置期間の基準に照らせば、その期間は長くても1年であるというべきであって、1年間を超えて継続する場合には、不相当に長期にわたる措置として、裁量権の逸脱に当たるというべきである。

イ(ア)  次に、本件資格審査要綱は、申請書の提出期間を規定する4条において木屋平村の区域内に主たる営業所を有する建設業者を「村内業者」、その他の建設業者を「村外業者」と定義しており、村外業者は入札資格がないとはしていないものの、村内業者と村外業者とを明確に区別している。そして、このことと証人Cの証言からすれば、木屋平村は、村内業者では対応できない事業のみ村外業者を指名し、それ以外は村内業者のみを指名していたものと認められる。そして、木屋平村が山間僻地の超過疎の村であり台風等の自然災害の被害に悩まされているところ、村の経済にとって公共事業の比重が非常に大きく、また台風等の災害復旧作業には村民と建設業者との協力が重要であること(弁論の全趣旨)からすれば、原則として村内業者を指名するとの上記運用は合理性を有しているものと認められる。したがって、X建設を村外業者と認めた木屋平村の判断に合理性が認められれば、西村長がX建設を指名しないからといって、同人が裁量権を逸脱し又は濫用しているとまでは言えない。

(イ)  そこで、X建設を村外業者と認定した木屋平村の判断に合理性が認められるか否かについて検討する。

<1> 証人Dの証言、下記各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、X建設の実態について、次の事実が認められる。

X建設の標記住所地(登記簿上の本店所在地)には、X建設代表者所有名義の土地建物があり、X建設代表者の母である監査役とされているEが住み(ただし同人は、昭和62年4月1日から平成15年3月31日までは木屋平村の正規職員として勤務していた。)、同建物には「有限会社X建設」の看板を掲げ(〔証拠略〕)、ファクシミリと電話を置き、電話番号を「X建設」の名義で電話帳に掲載している(〔証拠略〕)。X建設の実質上の経営者であるDは、平成6年3月以降代表者である妻ら家族とともに、徳島県美馬郡脇町内に住居を構え(〔証拠略〕)、同敷地内にX建設の事務所を設けており、脇町内の住居の電話番号も「X建設(有)」の名義で電話帳に掲載している(〔証拠略〕)。その他の取締役らも、平成4年以降は誰も木屋平村には住居を持っていない(〔証拠略〕)。X建設の従業員にも木屋平村に居住している者はいない(〔証拠略〕)。すなわち、X建設の本店(主たる営業所)には従業員がおらず、本店は営業拠点としての実態を有していない(〔証拠略〕)。

<2> 他方、下記各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、村内業者とされている下記の各業者について、次の事実が認められる。

株式会社c、同d組、有限会社e工業及び同f建設工業については、木屋平村内に居住する取締役はいないが、村内に在住する従業員がおり、村内に実質的な本店(主たる営業所)を有し、そこに常勤する者がいる(〔証拠略〕)。

b組、a建設、株式会社g組、同h建設、有限会社i建設及び同j建設については、木屋平村内に在住する取締役及び従業員がおり、村内に実質的な本店(主たる営業所)を有し、そこに常勤する者がいる(〔証拠略〕)。

以上の事実からすれば、他の村内業者は、少なくとも木屋平村内の営業所に常勤する取締役ないしは従業員がおり、同村に主たる営業所を有していると認められるのに対し、X建設の本店とされる建物に居住するEは平成15年3月までは同村の職員として勤務していたのであって、そこに常勤している者がいたとは認められず、X建設は、同村内に主たる営業所の実態がない。したがって、X建設は、木屋平村の区域内に主たる営業所を有する村内業者とは認められないとの木屋平村の判断は、合理的なものであるというべきである。

これに対し、X建設が当審において提出した平成17年3月31日現在における従業員名簿(〔証拠略〕)によれば、木屋平村に居住している従業員が4名いることとされているが、美馬市木屋平総合支所の建設水道課長の陳述書(〔証拠略〕)によれば、これら4名はいずれもX建設の従業員であるとは認められない。また、X建設は、専ら木屋平村内において仕事をしてきたのであり、村内業者である旨主張するが、上記のとおり、木屋平村が原則として村内業者のみを指名するのは、村の経済の振興を図るとともに災害復旧作業の円滑な実施を期するためであることからすれば、取締役や従業員が木屋平村に居住していたり、また木屋平村内に常勤する者がいることが、村の経済の振興のためには重要であり、村内において仕事をしていたからといって、当然に村内業者であることにはならない。なお、X建設は、指名回避されるようになる前は村内業者ではないとの理由で指名を外されたことはなかったと認められるが、前記1(2)イに説示した木屋平村との信頼関係を損ねる行為が指摘されたのを機に、X建設が村内業者ではないことも指摘され、それが事実であることが確認されれば、それまでの扱いを改めたとしても、それが違法と評価されることはない。

(ウ)  ところで、上記(ア)のとおり、村外業者であったとしても、入札参加資格自体が得られないわけではないので、かかる理由に基づき「指名回避」という措置を平成12年度以降も継続したことの妥当性については、議論の余地もないではない。しかしながら、X建設に、村内業者だけでは対応できない事業を施工するだけの特別な能力があるとは認められない以上は、結局のところ木屋平村の公共工事についてX建設を指名しないことには変わりはなく、木屋平村のかかる措置に違法性は認められないというべきである。

第4 結論

したがって、X建設の請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないので棄却すべきである。よって、これと異なる原判決中の美馬市敗訴部分を取り消して、同部分及び当審で拡張した部分のX建設の請求を棄却し、X建設の控訴は理由がないのでこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 吉田肇 平出喜一)

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