高松高等裁判所 平成16年(ネ)83号 判決 2005年12月08日
控訴人・被控訴人(一審原告) X(以下「一審原告」という。)
同訴訟代理人弁護士 中田祐児
同 島尾大次
被控訴人・控訴人(一審被告) Y1(以下「一審被告Y1」という。)
同訴訟代理人弁護士 Y2
被控訴人(一審被告) Y2(以下「一審被告Y2」という。)
主文
一 一審原告の一審被告Y1に対する控訴(当審選択的追加請求を含む。)及び一審被告Y2に対する控訴に基づき、原判決主文第一項及び第三項を次のとおり変更する。
(1) 一審被告Y1は、一審原告に対し、金三三〇万円及びこれに対する平成一三年八月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(2) 一審被告Y2は、一審原告に対し、金九〇万円及びこれに対する平成一三年八月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(3) 一審被告Y1は、一審原告に対し、別紙物件目録記載の物件を廃棄せよ。
(4) 一審原告の一審被告Y2に対するその余の請求(当審予備的追加的附帯請求を含む。)を棄却する。
二 一審被告Y1の一審原告に対する控訴を棄却する。
三 訴訟費用は、第一、第二審を通じてこれを五分して、その四を一審被告Y1の負担とし、その余を一審被告Y2の負担とする。
四 この判決の第一項(1)ないし(3)は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 一審原告
(1) 原判決主文第一項及び第三項を次のとおり変更する。
(2) (主位的請求)
主文第一項(1)と同旨
(予備的請求)
附帯請求の起算日を当審口頭弁論終結の日(平成一七年九月二二日)とするほかは、主位的請求と同旨
(3) 一審被告Y2は、一審原告に対し、一一〇万円及びこれに対する平成一三年八月六日(予備的に当審口頭弁論終結の日〔平成一七年九月二二日〕)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(4) (以下のアないしウは選択的請求である。)
ア 一審被告Y1は、一審原告に対し、別紙債権目録記載の債権を移転せよ。
イ 一審被告Y1は、一審原告に対し、別紙物件目録記載の物件を引き渡せ。
ウ 主文第一項(3)と同旨
(5) (2)項、(3)項並びに(4)項イ及びウにつき、仮執行の宣言
二 一審被告Y1
(1) 原判決中、一審被告Y1の敗訴部分を取り消す。
(2) 同部分に係る一審原告の一審被告Y1に対する請求を棄却する。
第二事案の概要等
一 原審での請求
一審原告は、原審において、一審被告らに対し、次の各請求をした。
(1) 一審被告Y1に対する請求
ア 一審被告Y1の一審原告に対する強姦、あるいは性的虐待行為により、一審原告は貞操、人格等を侵害された旨主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、三三〇万円(慰謝料三〇〇万円及び弁護士費用三〇万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後(一審被告Y1の有罪判決宣告の日)である平成一三年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ 一審被告Y1は、上記アの行為の前後に、一審原告及びその家族に対し面談を強要する等の行為をした旨主張して、人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、一審被告Y1が自ら又は第三者をして一審原告及びその家族に対し、面談を強要する等の行為をすることの禁止を求める。
ウ 一審被告Y1が上記イの禁止事項に違反したときは、違反行為一回につき二〇万円の割合による金員の支払を求める(いわゆる間接強制の申立て)。
エ 別紙物件目録記載の物件(以下「本件フィルム」という。)は、一審被告Y1が一審原告の同意を得ることなく、一審原告に交際を強要するため一審原告の裸体を撮影したフィルムであって、一審被告Y1に所有権及び保持権限はなく、撮影対象である一審原告の所有に属するものであり、仮に一審被告Y1の所有であるとしても、一審被告Y1が本件フィルムを所有し保持すること自体、一審原告に対する脅迫行為に当たり、更に一審被告Y1が本件フィルムの所有権を主張してその引渡しを拒むことは、公序良俗に違反するばかりでなく、信義則に反し権利の濫用として許されない旨主張して、所有権又は人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、主位的に別紙債権目録記載の債権(押収された本件フィルムの還付を受けることによる引渡請求権。以下「本件還付請求権」という。)の一審原告への移転を求め、予備的に本件フィルムの引渡しを求める。
オ 上記エと同じ理由により、一審被告Y1が国に対し本件還付請求権を行使して本件フィルムの引渡しを求めたり、指示によって処分させたりすることの禁止を求める。
(2) 一審被告Y2に対する請求
一審被告Y1に対する強姦被疑事件の弁護人であった一審被告Y2の一審原告に対する示談や深夜の面談強要等の違法な弁護活動により、一審原告は精神的苦痛を受けた旨主張して、不法行為に基づく損害賠償請求として、一一〇万円(慰謝料一〇〇万円及び弁護士費用一〇万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後(上記(1)アと同じ)である平成一三年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 訴訟の経過
(1) 原判決の内容
原判決は、一審原告の一審被告Y1に対する上記一(1)の請求のうち、アの損害賠償請求を一一〇万円(慰謝料一〇〇万円及び弁護士費用一〇万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後である平成一三年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で認容し、その余を棄却し、同イの面談強要等の禁止を求める請求を認容し、同ウの間接強制の申立てを棄却し、同エの本件還付請求権の一審原告への移転を求める主位的請求、及び本件フィルムの引渡しを求める予備的請求を棄却し、同オの本件還付請求権の行使等の禁止を求める請求を棄却し、一審原告の一審被告Y2に対する上記一(2)の請求を棄却した。
(2) 一審原告及び一審被告Y1の控訴
これに対し、一審原告は、原判決中、一審原告の敗訴部分(原判決主文第三項)のうち、一審被告Y1に対するその余の損害賠償請求(上記一(1)のア)を棄却した部分、本件還付請求権の一審原告への移転を求める主位的請求、及び本件フィルムの引渡しを求める予備的請求(同エ)を棄却した部分、本件還付請求権の行使等の禁止を求める請求(同オ)を棄却した部分、並びに一審被告Y2に対する請求(上記一(2))を棄却した部分を不服として控訴の申立てをし(上記一(1)ウの間接強制の申立てを棄却した部分は、控訴されていない。)、一審被告Y1は、原判決中、一審被告Y1の敗訴部分(原判決主文第一項及び第二項)を不服として控訴の申立てをした。
(3) 当審における訴えの変更等
一審原告は、当審において、次のとおり訴えを変更し、控訴の一部を取り下げた。
ア 一審被告Y1に対する訴え
(ア) 損害賠償請求につき、予備的に当審口頭弁論終結の日(平成一七年九月二二日)を起算日とする附帯請求を追加した。
(イ) 所有権又は人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、更に予備的に本件フィルムの廃棄を求める請求を追加した上、訴えの形態を主位的・予備的請求から選択的請求に変更した。
(ウ) 本件還付請求権の行使等の禁止を求める請求を棄却した部分に対する控訴を取り下げた。
イ 一審被告Y2に対する訴え
予備的に当審口頭弁論終結の日(平成一七年九月二二日)を起算日とする附帯請求を追加した。
(4) 当審における審判の対象
したがって、当審における審判の対象は、次のとおりである。
ア 一審原告と一審被告Y1との間について
(ア) 不法行為に基づく損害賠償請求(当審予備的追加的附帯請求を含む。)の当否
(イ) 人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、面談強要等の禁止を求める請求の当否
(ウ) 所有権又は人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、次のaないしcの選択的請求(cについては当審追加請求)の当否
a 本件還付請求権の一審原告への移転請求
b 本件フィルムの引渡請求
c 本件フィルムの廃棄請求
イ 一審原告と一審被告Y2との間について
不法行為に基づく損害賠償請求(当審予備的追加的附帯請求を含む。)の当否
三 争いのない事実等(証拠の掲記のない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 一審原告は、肩書住所地に居住する昭和五二年九月二〇日生まれの女性である。
(2) 一審被告Y1(昭和四八年九月一一日生)は、いわゆる出会い系サイトで交際相手を求めていたところ、平成一三年三月初めころ、一審原告と知り合った。
(3) 一審被告Y1は、平成一三年三月二九日、いわゆるラブホテルで一審原告と性交渉を持ち、その際、一審原告の裸体を写真撮影した(そのフィルムが本件フィルムであり、徳島地方検察庁に領置されている。)。
(4) 一審被告Y1は、平成一三年四月二三日、一審原告に対する強姦の容疑で徳島県池田警察署に逮捕され、同月二五日から同年五月一四日まで勾留された後、同日、処分保留で釈放されるとともに、同日、女子中学生に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で再逮捕された。
そして、同年七月五日、強姦被疑事件につき、親告罪の告訴の取消しにより不起訴処分となった。
(5) 一審被告Y1は、複数の一八歳未満の女性に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の罪で徳島地方裁判所に起訴され、平成一三年八月六日、同裁判所において、懲役二年、執行猶予四年の有罪判決を受けた。
(6) 一審被告Y2は、広島弁護士会に所属する弁護士であり、一審被告Y1の上記強姦容疑での逮捕直後から同人の刑事弁護人として弁護活動を行っていたほか、一審原告に対する虚偽告訴罪での告訴、後記(8)の仮処分事件及び保全異議事件、本件訴訟につき、一審被告Y1の委任を受けて代理人となり、手続を遂行するなどの弁護活動を行っていた。
(7) 一審被告Y1は、一審原告の裸体を撮影した本件フィルムの押収処分を受けた後、警察から本件フィルムの所有権放棄に同意するよう求められたが、これを拒否し、現在に至るまでこれに同意しない。
(8) 一審原告は、平成一三年八月一日、徳島地方裁判所に対し、一審被告Y1を債務者として、一審原告との面談の強要禁止等を求める仮処分命令の申立てをし(平成一三年(ヨ)第一一七号事件。以下「本件仮処分事件」という。)、同裁判所は、同年八月一三日、一審原告の申立てを認める仮処分決定をした(甲九)。
一審被告Y1は、上記仮処分決定を不服として、同裁判所に対し、同月一七日付書面(甲三〇)でもって保全異議の申立てをしたところ(平成一三年(モ)第七四七号事件。以下「本件保全異議事件」という。)、同裁判所は、平成一四年一月二八日、上記仮処分決定を認可するとの決定をした(甲一〇)。
四 争点
(1) 一審被告Y1が一審原告と性交渉を持ったことが不法行為に当たるか(一審原告の一審被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求の当否)。
(2) 一審原告の一審被告Y1に対する人格権に基づく面談強要等の禁止請求の当否。
(3) 一審原告の一審被告Y1に対する所有権又は人格権に基づく本件還付請求権の一審原告への移転請求、若しくは本件フィルムの引渡又は廃棄請求の当否。
(4) 一審被告Y2のした弁護活動が、一審原告に対する関係で不法行為に当たるか(一審原告の一審被告Y2に対する不法行為に基づく損害賠償請求の当否)。
五 争点についての当事者の主張
後記六のとおり当審における当事者双方の追加主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第二の三(1)及び(2)記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決四頁一七行目の「被害者」から「本人」までを「被害者である一審原告に対し、深夜に面談を強要し、一審原告」に改める。)。
六 当審における当事者双方の追加主張
(1) 争点(1):一審被告Y1が一審原告と性交渉を持ったことが不法行為に当たるか(一審原告の一審被告Y1に対する不法行為に基づく損害賠償請求の当否)、について
ア 一審原告の主張
(ア) 一審原告は、一審被告Y1の一審原告に対する強姦あるいは性的虐待の違法の主張のほか、次の各行為の違法の主張を追加する。
a 一審被告Y1は、自己の刑事処分を有利に図る意図から、自らが被害者であるとして一審原告を虚偽告訴罪で逆告訴した。そして、一審被告Y1は、現在でも自らが被害者であるかの主張をしている。
しかし、告訴は、告訴を受けた者の名誉を著しく損ねる危険を伴うものであるから、告訴を行うには慎重な注意を要し、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠があることを確認せずに告訴した場合には、相手方に対して不法行為に基づく損害賠償責任を免れないものである(東京地裁平成五年一一月一八日判決・判例タイムズ八四〇号一四三頁)。
そして、本件において、一審被告Y1のした虚偽告訴罪での告訴は、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠を欠くものであるから、不法行為を構成する。
加えて、一審原告Y1のした上記告訴に係る告訴理由書は、その記載内容に照らし、一審原告の人格、名誉を毀損するものであることが明らかであり、同じく不法行為を構成する。
b 一審被告Y1は、本件訴訟並びにこれに先立つ本件仮処分事件及び本件保全異議事件において、準備書面や答弁書を提出し、陳述するなどしたが、これらの陳述等は、その内容に照らし、一審原告の名誉、信用を害し、誹謗、中傷を繰り返すものであって、一審原告の人格、名誉を毀損するものであることが明らかであるから、不法行為を構成する。
(イ) 一審被告Y1は、広島地方裁判所に対し、一審原告を被告として、一審原告の一審被告Y1に対する強姦罪での告訴は虚偽であると主張して、三〇〇万円の損害賠償の支払を求める訴訟を提起したが(平成一六年(ワ)第一八〇四号事件)、上記訴訟は、本件訴訟と争点、事実関係を全く共通にするから、本来、本件訴訟の反訴として提起すべきものである。
ところが、一審被告Y1は、本件訴訟の当審口頭弁論終結日(弁論再開前のもの)の間近になって、上記別件訴訟を提起したものであって、一審被告Y1が全く反省していないことを示すものである。
(ウ) 一審被告Y1の一審原告に対する強姦あるいは性的虐待行為に加え、上記(ア)の一審被告Y1の不法行為、上記(イ)の別件訴訟の提起を併せ考慮すると、一審原告の受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、少なくとも三〇〇万円を下らない(強姦あるいは性的虐待行為のみでも三〇〇万円を下るものではないのはいうまでもない。)。
(エ) 一審被告Y1のこれら一連の違法行為は継続的不法行為であり、これを一連一体のものとして捉えれば、本件訴訟の提起により一審被告Y1の一審原告に対する損害賠償債務が遅滞に陥るものと考えられる。
しかし、仮に現に継続している不法行為の最後の日から上記損害賠償債務が遅滞に陥るとすれば、その起算日は、遅くとも当審口頭弁論終結の日(平成一七年九月二二日)である。
よって、一審原告は、一審被告Y1に対し、予備的に、三三〇万円に対する平成一七年九月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める附帯請求を追加する。
イ 一審被告Y1の認否、反論
(ア) 一審原告の上記主張は否認し、争う。
(イ) 一審被告Y1のした虚偽告訴罪での告訴、本件訴訟並びにこれに先立つ本件仮処分事件及び本件保全異議事件における一審被告Y1の陳述等は、いずれも正当な権利行使ないし主張であり、何ら違法ではなく、不法行為を構成しない。
(2) 争点(3):一審原告の一審被告Y1に対する所有権又は人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、本件還付請求権の一審原告への移転請求、若しくは本件フィルムの引渡又は廃棄請求の当否、について
ア 一審原告の主張
(ア) そもそも、人格権は、極めて重要な保護法益として物権と同様の排他性を有するものであり、人格権に対する侵害行為に対しては、物権と同様の差止請求権が認められている。
そして、物権に基づく差止請求権において、除去・廃棄が必要な措置として認められている以上、人格権に基づく差止請求において、少なくとも除去・廃棄を必要な措置として認めないという法理論上の根拠はない。
また、人格権に基づく差止請求として除去・廃棄を命じた判例もある(東京高裁平成三年九月二六日判決・判例時報一四〇〇号三頁〔「おニャン子クラブ」パブリシティ権侵害訴訟事件〕、その原審である東京地裁平成二年一二月二一日判決・判例時報一四〇〇号一〇頁、東京地裁平成一〇年一月二一日判決・判例時報一六四四号一四一頁〔「キング・クリムゾン」事件〕)。
(イ) ところで、人の裸体、殊に性器・陰部・乳房(特に女性の場合)等の部分は、通常、社会的に公表されない個人情報であるから、人は、みだりに裸体を見られたり、公開されたり、あるいは裸体を見せるように強いられたり等されない権利(以下「裸体保護の権利」という。)を有しており、これは、氏名・肖像等と同様にプライバシー権の一種であると解される。
そして、裸体保護の権利の対象である裸体は、その性質上、絶対的な秘匿の対象となるべき個人情報であるから、かかる権利は強く保護されるべきであり、これを侵害することは不法行為を構成する。判例もこの理を認めている(東京地裁平成二年三月一四日判決・判例時報一三五七号八五頁)。
(ウ) したがって、裸体保護の権利を侵害する不法行為に対しては、人格権に基づく差止請求、及びこれを実効あらしめるための必要な措置として侵害物の引渡し、除去・廃棄が認められるべきものであり、本件フィルムは正にこの場合に当たるものである。
(エ) よって、一審原告は、一審被告Y1に対し、所有権又は人格権に基づく妨害排除(又は妨害予防)請求として、選択的に、本件還付請求権の一審原告への移転、若しくは本件フィルムの引渡し又は廃棄を求める(なお、廃棄請求は、当審追加請求である。)。
イ 一審被告Y1の認否、反論
(ア) 一審原告の上記主張は争う。
(イ) 一審原告が本件フィルムの引渡し又は廃棄を求める主目的は、一審原告のプライバシー・名誉が侵害されることを排除するのではなく、本件一連の紛争における一審原告の主張が虚偽であることを誤解させかねない本件フィルムの証拠開示を排除しようとする目的によるものである。
しかし、一審被告Y1は、一審原告による虚偽告訴で失われた名誉の回復のためなど、正当な法的手続や同事件に関する真相解明以外の目的で使用しないことを繰り返し主張しており、現に別件(児童買春事件)で有罪判決を受け、執行猶予中である一審被告Y1が、不当な行為を行う等の愚を犯すことなどは考えられない。そして、執行猶予期間が経過したとしても、三か月以上にわたって勾留された不自由さ、辛さを身にしみて経験した一審被告Y1が、同様以上の裁きを受けかねないことが想像される不当な犯罪行為を行うはずがない。
(3) 争点(4):一審被告Y2のした弁護活動が、一審原告に対する関係で不法行為に当たるか(一審原告の一審被告Y2に対する不法行為に基づく損害賠償請求の当否)、について
ア 一審原告の主張
(ア) 一審原告は、一審被告Y2の一審原告に対する示談、深夜の面談を強要する行為の違法の主張のほか、次の各行為の違法の主張を追加する。
a 告訴、本件仮処分事件、本件保全異議事件及び本件訴訟における陳述等の違法について
(a) 一審被告Y2は、一審被告Y1の代理人として、一審原告を虚偽告訴罪で告訴状を提出し、また、本件訴訟並びにこれに先立つ本件仮処分事件及び本件保全異議事件においても、一審被告Y1の主張や反論の準備書面、答弁書等を提出したが、これらの法的手続における提出書面は、その記載内容に照らし、一審原告の人格、名誉を害し、誹謗、中傷する内容が含まれている。
(b) そもそも、訴訟手続等をいえども、相手方当事者に対して何を述べてもよいというわけではなく、弁護士は、品位を重んじ、節度ある表現に心掛けなければならない。特に、ことさらに相手方の名誉、信用を害し、誹謗、中傷する陳述は、社会的に相当な訴訟活動の枠を超えて不法行為を構成するものであるから、十分慎まなければならない。
ところが、一審被告Y2は、当初から一審原告の名誉を害する意図で、ことさら虚偽の事実又は当該事件と何ら関連性のない事実を主張したばかりでなく、一審原告をセックス遊びをする人間、強姦の被害者を装う演技者、覚せい剤中毒者、精神障害者、薬物乱用者、不純異性交遊者、貞操観念の低い女性などであるかのように誹謗、中傷し、かつ、それを執拗に繰り返したのであって、一審原告の人格、名誉を著しく害した。
(c) したがって、一審被告Y2の上記陳述等は、大阪高裁昭和六〇年二月二六日判決(判例時報一一六二号七三頁)及び千葉地裁館山支部昭和四三年一月二五日判決(判例時報五二九号六五頁)に照らしても、不法行為を構成することが明らかである。
b 一審原告代理人弁護士の受任後の弁護活動の違法について(上記aを除く。)
(a) 上記(1)アの(ア)aで述べた告訴の特質に鑑みると、弁護士が依頼者から刑事告訴の相談を受けた場合、その告訴に理由があるか、訴追可能性があるか、その目的に不当性がないか等を十分に検討し、不当な告訴を行わないよう慎重に対応しなければならず、かつ、犯罪の嫌疑をかけるのに相当な客観的根拠の調査、検討について一般人よりも高度の注意義務が課せられている(上記東京地裁平成五年一一月一八日判決)。
ところが、一審被告Y2は、一審原告に代理人弁護士が就き、示談の見込みが失われたことを知るや、既に逮捕・勾留されている一審被告Y1の刑事処分を有利に進めるため、一審原告の告訴を取り下げさせるという不当な目的をもって、確たる証拠もないまま、一審原告を虚偽告訴罪で刑事告訴し、かつ、その旨を一審原告代理人弁護士に通知して一審原告に心理的圧迫を加えた。
したがって、一審被告Y2が代理人として行った告訴手続は、不法行為を構成する。
(b) 一審原告代理人弁護士は、一審被告Y2に対し、平成一三年五月三日到達の内容証明郵便で、一審原告が現時点で示談する意思のないこと、一審原告やその家族と直接に面会することを拒否するなどを通知した。
ところが、一審被告Y2は、その旨を一審被告Y1の父に周知せず、同人が一審原告の家に直接電話をかけ、一審原告の母に本件被害事実を暴露するのを放置した。
一審被告Y2の上記行為は、弁護士倫理四九条の「弁護士は、相手方に弁護士である代理人があるときは、特別の事情のない限り、その代理人の了承を得ないで直接相手方本人と交渉してはならない。」との規定又はその趣旨に反するものであり、不法行為を構成するというべきである。
(c) 一審被告Y1は、平成一三年七月二三日の(児童買春事件における)刑事公判廷において、自らがコレクションしている裸体の写真等に強い執着心を示し、起訴事実に関する写真以外は所有権放棄しない意思を示したところ、一審被告Y2は、弁護人としてこれを諭すどころか、一審被告Y1に対し、本件フィルムについて所有権放棄をしないよう指示した。
さらに、一審被告Y2は、一審被告Y1が有罪判決を受けた平成一三年八月六日当日、徳島地方検察庁に出向き、現実に本件フィルムの還付を求めた。
しかし、上記のとおり、本件フィルムは一審原告のプライバシーを侵害する内容であり、一審被告Y1が本件フィルムを取得すれば、一審原告の人格権の更なる侵害が予想できる上、刑事裁判における一審被告Y1の情状にも悪影響を与えるから、弁護人として、本件フィルムの所有権放棄をするよう一審被告Y1を説得してしかるべきであり、一審被告Y2の上記行為は、もはや正当な刑事弁護の枠を超え、一審被告Y1の一審原告に対する人格権侵害に積極的に加担するものというほかなく、不法行為を構成する。
(イ) 一審被告Y2の一審原告に対する示談、面談強要行為に加え、上記(ア)の一審被告Y2の不法行為を併せ考慮すると、一審原告の受けた精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、少なくとも一〇〇万円を下らない(示談、面談強要行為のみでも一〇〇万円を下るものではないのはいうまでもない。)。
(ウ) 一審被告Y2のこれら一連の違法行為は継続的不法行為であり、これを一連一体のものとして捉えれば、本訴の提起により一審被告Y2の一審原告に対する損害賠償債務が遅滞に陥るものと考えられる。
しかし、仮に現に継続している不法行為の最後の日から上記損害賠償債務が遅滞に陥るとすれば、その起算日は、遅くとも当審口頭弁論終結日(平成一七年九月二二日)である。
よって、一審原告は、一審被告Y2に対し、予備的に、一一〇万円に対する平成一七年九月二二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める附帯請求を追加する。
イ 一審被告Y2の認否、反論
(ア) 一審原告の上記主張は否認し、争う。
(イ) 一審被告Y2は、勾留中の被疑者である一審被告Y1の弁護人として、
a 資料収集に努め、自白獲得の捜査パターン化を打破する。
b 早期に被疑者に接見し、十分言い分を聴いて記録化し、できる限り頻繁に接見し、捜査の進捗状況や取調べ時の留意事項を周知させる。
c 家族や近親者らからも早期に事情を聴き、被疑者の人物や生活環境を把握する。
d 事件関係者から早期に事情を聴取し、勾留被疑者の場合、関係者の取調べは終わっているのが通常で、弁護人との面談を阻止されている場合もあるので、それを乗り越えて面談を実現し、事情聴取に努める。
e 現場の確認をしておく。
f 示談交渉は、誠意を尽くしてできるだけ早期に実現する。
など、一般に説かれている要諦に則して、誠実かつ一審原告の人権にも配慮しながら弁護活動を展開した。
したがって、一審被告Y2の弁護活動はいずれも正当なものであり、不法行為を構成しない。
第三当裁判所の判断
一 判断の大要
当裁判所は、一審原告の一審被告Y1に対する請求のうち、損害賠償請求(附帯請求につき主位的請求)及び面談強要等禁止請求はすべて理由があり、当審選択的請求(本件フィルムの廃棄請求につき当審追加請求)のうち、一審被告Y1に対し、本件フィルムを廃棄するよう求める請求は理由があり、一審原告の一審被告Y2に対する請求は、九〇万円(慰謝料八〇万円及び弁護士費用一〇万円の合計額)及びこれに対する(附帯請求につき主位的請求である)不法行為の後である平成一三年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余(当審予備的追加的附帯請求を含む。)は理由がないと判断する。
その理由は、次のとおりである。
二 争点(1):一審被告Y1が一審原告と性交渉を持ったことが不法行為に当たるか(一審原告の一審被告Y1に対する損害賠償請求の当否)、について
(1) 事実の認定
前記争いのない事実等に、<証拠省略>によると、次の事実が認められる。
ア 一審原告・一審被告Y1の出会い等
(ア) 原判決六頁一行目から二〇行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(イ) ただし、次のとおり補正する。
a 原判決六頁九行目の「知らせた」の次に「(なお、一審被告Y1は、興信所に依頼して一審原告の氏名及び自宅の住所を知った。)」を加える。
b 同一八行目の「ホテルシルビア」の次に「(いわゆるラブホテル)」を加える。
イ 一審原告が一審被告Y1と性交渉を持つに至った経過
(ア) ホテルに入る経過
一審原告は、場所が場所だけにびっくりして、「何で何で、ここでどうするの。」と言って、大きな声で泣き出すとともに、多少の金は出してもホテルの中に連れ込まれることだけは避けたいと思い、「もし負担するとしたらどれくらいの金額ですか。」と尋ねると、一審被告Y1は、「大目に見て二〇万円から三〇万円だね、親とかあるでしょう。」と言った。
そこで、一審原告は、「そんな金ありません、絶対無理です。親にそんなこと言えません。」と言うと、一審被告Y1は、「じゃあもう親だね、仕方ないよね。」と言うので、一審原告は、親を巻き込みたくない一心から、「やめて下さい、お願いだから変なこと言ってこんなことするのやめて下さい。」と泣きながらに訴えた。
すると、一審被告Y1は、「じゃあ大目に見て、ホテルに入ってくれるなら、一〇万円だけでいいよ。一〇万円だったら君もなんとかなるでしょう。それで納得できなかったら、家にも行くよ、職場にも行くよ。」と言った。
そこで、一審原告も、一審被告Y1に家や職場に来られたら大変なことになるし、一審原告がホテルに入らないと終わらないし帰らせてくれないと思うと、一審被告Y1の要求に従う以外に方法はないと思い込み、一審被告Y1の要求するままに、車から降りてホテルに入っていった。
(イ) ホテル内の一室内での出来事
すると、一審被告Y1は、ホテルの一室内で、一審原告に対し、裸になるように命じたり、椅子に座り足を上げて、大きく股を開くように命じたり、陰部を口淫するように命じたり、一緒に風呂に入り、陰部や肛門を素手で洗うように命じたりし、一審原告の姿態を何枚も写真に撮ったりした。
一審原告は、当然のことながら、そのようなことはしたくなかったが、ホテル内の隔離された狭い一室でのことであり、一審被告Y1の要求を拒否すれば何をされるかも分からないという恐怖心や、最後の一線(姦淫されること)だけは避けたいとの思いから、一審被告Y1の要求に従うしかなかった。一審原告は、一審被告Y1の陰部を口淫させられ、あまりにも強烈な不快感から、トイレに駆け込み、何度も嘔吐した。
ところが、一審被告Y1は、風呂からあがるや、もう我慢できないと言って、一審原告の身体に覆い被さり、一審原告がやめてと叫んでいるのに、一審原告との間で性交渉を持った。一審原告は、その時点では、もう何もできないと思い、抵抗する気力すら失っていた。
一審被告Y1は、一審原告と性交渉を持った後、一審原告に対し、一審原告が面会の約束を破ったために損害を被ったと蒸し返し、再度一〇万円の支払を要求し、一審原告に借金名目で一〇万円を支払わせることを承諾させた。
ウ 一審被告Y1が逮捕されるに至った経過等
(ア) 原判決七頁六行目から一四行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
(イ) ただし、次のとおり補正する。
a 原判決七頁六行目の「ク」を「(ア)」に、同一〇行目の「ケ」を「(イ)」に、同一三行目の「コ」を「(ウ)」に各改める。
b 同一二行目の「、逮捕されるに至った。」を次のとおり改める。
「池田警察署に任意同行され、一審原告は、一審被告Y1を強姦罪で告訴する旨の告訴調書に署名押印した。一審被告Y1は、同警察署における任意の取調べにおいて、強姦被疑事件で使用した携帯電話の任意提出を拒み、実家と称して複数箇所に電話しようとした上、席を立とうとしたため、同警察署の司法警察員は、同日午後七時二五分、被疑事実の要旨を告げ、一審被告Y1を強姦容疑で緊急逮捕し、同日、逮捕状が発せられた。
一審被告Y1は、その後、送検され、同月二五日から同年五月一四日まで勾留(勾留延長を含む。)された後、同日、処分保留のまま釈放されるとともに、女子中学生に対する児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反の容疑で再逮捕された。そして、同年七月五日、強姦被疑事件について、親告罪の告訴の取消しにより不起訴処分となった。」
c 同一四行目の「診断された。」を「診断され、平成一六年一〇月一日時点において、なお、外傷後ストレス障害(慢性)との診断がなされている。」に改める。
(2) 不法行為の成否、損害賠償額の検討
ア 原判決の引用
原判決七頁一五行目から九頁一行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
イ 原判決の補正
ただし、次のとおり補正する。
a 原判決七頁一九行目の「脅迫的な言辞」を「明らかな脅迫的言辞」に改める。
b 同末行の「受けた言って」を「受けたと言って」に改める。
c 同八頁一八行目の「不起訴処分」から二〇行目の「得ない。」までを「嫌疑不十分ではなく、告訴の取消しにより不起訴処分になったものの、一審被告Y1の一連の行為は、強姦罪の構成要件としての暴行又は脅迫の事実があったと断定するのがいささか困難なだけであり、実質的には一審原告を抗拒不能の状態にした上で姦淫したに等しく、明らかに女性である一審原告の人格を蔑視した卑劣極まりない行為であって、一審原告に対し、強姦罪と同程度の筆舌に尽くしがたい精神的苦痛を与えたものと評価せざるを得ない。」に改める。
d 同二二行目の「強調するのみで、」の次に「原審及び当審口頭弁論を通じて、」を加える。
e 同二四行目から九頁一行目までを次のとおり改める。
「もっとも、一審原告の受けた被害は、一審原告が安易に出会い系サイトにアクセスし、興味本位に一審被告Y1の携帯電話に電話をかけたことに端を発していることは否定できず、また、一審原告は、一審被告Y1と性交渉を持たされるまでの間、一審原告の家族に相談するなどして被害に遭わないようにすることが不可能ではなかったのであるから、その意味において、一審原告にも落ち度があったのではないかとの非難の余地はある。
しかし、一審被告Y1の一審原告に対する上記一連の行為は、上記のとおり、強姦罪の構成要件としての暴行又は脅迫の事実があったと断定するのがいささか困難なだけであって、実質的には一審原告を抗拒不能の状態にした上で姦淫したに等しく、一審原告の人格を蔑視した卑劣極まりないものであることに照らすと、一審原告にも落ち度があったのではないかとの非難を一審被告Y1に有利に斟酌するのは相当ではない。
以上検討したところを総合すると、一審被告Y1の一連の行為は、強度の違法性を帯びた不法行為を構成するものであることが明らかであり、これによって一審原告の受けた上記精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、三〇〇万円と認めるのが相当である。
また、本件事案の内容、一審原告の請求額及び認容額、その他本件に現れた事情を総合すると、一審被告Y1の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、上記三〇〇万円の一割に相当する三〇万円と認めるのが相当である。
したがって、一審原告の一審被告Y1に対する損害賠償請求(附帯請求につき主位的請求)は、すべて理由がある。」
(3) 当審における一審原告の追加主張に対する判断
一審原告は、当審において、一審被告Y1の不法行為についての主張を追加し、従前から主張する一審被告Y1の不法行為とを併せ考慮すると、一審原告の慰謝料は、少なくとも三〇〇万円を下らない旨主張する。
当裁判所は、上記(2)で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第三の一(2)説示のとおり、一審被告Y1が一審原告と性交渉を持った点についての不法行為による慰謝料だけでも三〇〇万円と認めるのが相当であり、弁護士費用についても三〇万円と認めるのが相当であるから、一審原告の一審被告Y1に対する損害賠償請求は全部認容すべきものと判断した。
したがって、一審原告の上記当審追加主張は、もはや判断を要しない。
三 争点(2):一審原告の一審被告Y1に対する人格権に基づく面談強要等の禁止請求の当否、について
前記二(1)で認定した事実に加え、一審被告Y1の原審及び当審口頭弁論を通じた態度等を総合すると、一審被告Y1は、依然として一審原告に面談を強要したり、電話をかけるなどして、一審原告やその家族の生活の平穏やプライバシーを侵害するおそれがあると認められる。
したがって、一審原告の一審被告Y1に対する人格権に基づく面談強要等の禁止請求は、理由がある。
四 争点(3):一審原告の一審被告Y1に対する人格権に基づく本件還付請求権の一審原告への移転請求、若しくは本件フィルムの引渡又は廃棄請求の当否、について
(1) 前記第二の三の争いのない事実等のとおり、本件フィルムは、一審被告Y1が一審原告と性交渉を持った際に一審原告の裸体を写真撮影したものであるところ、前記二(2)で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第三の一(2)説示のとおり、一審被告Y1は、当初から金銭を支払う意図を有していないにもかかわらず、一審原告のせいで損害を受けたと言って一審原告を困惑させた上、自己の欲望のおもむくままに一審原告の裸体の写真を撮ったり性交渉をし、あげくの果ては、性交渉終了後に一審原告の困惑に乗じて金銭を要求したものであり、一審被告Y1の上記一連の行為は、強姦罪の構成要件としての暴行又は脅迫の事実があったと断定するのがいささか困難なだけであって、実質的には一審原告を抗拒不能の状態にした上で姦淫したに等しいものであるから、一審原告が、自らの自由な意思で、一審被告Y1の求めに応じて一審原告の裸体を写真撮影することを同意していたとは到底認めることができない。
また、一審原告は、一審被告Y1が本件フィルムを所有し所持し続けることを明確に拒否している。
そして、以上のような内容の本件フィルムは、存在すること自体が一審原告のプライバシーを侵害し、又は侵害するおそれのあることが明らかであると認められるから、一審被告Y1が本件フィルムの所有権を有していると否とにかかわらず、一審被告Y1が本件フィルムを所持する可能性のある限り(徳島地方検察庁において、一審被告Y1に対して本件フィルムを還付する旨の処分がなされる可能性のある限り)、一審原告のプライバシーを侵害するおそれがあるというべきである。また、本件フィルムが一審被告Y1によって第三者に公開されると、一審原告のプライバシーが著しく侵害され、これによって一審原告の被る損害の程度は、余りにも大きいものがあるということができる。
したがって、一審原告は、一審被告Y1に対し、人格権に基づく妨害排除ないし妨害予防請求として、少なくとも本件フィルムの廃棄を求めることができると認めるのが相当である。
(2) これに対し、一審被告Y1は、「一審原告が本件フィルムの引渡し又は廃棄を求める主目的は、一審原告のプライバシー・名誉が侵害されることを排除するのではなく、本件一連の紛争における一審原告の主張が虚偽であることを誤解させかねない本件フィルムの証拠開示を排除しようとする目的によるものである。しかし、一審被告Y1は、一審原告による虚偽告訴で失われた名誉の回復のためなど、正当な法的手続や同事件に関する真相解明以外の目的で使用しないことを繰り返し主張しており、現に別件(児童買春事件)で有罪判決を受け、執行猶予中である一審被告Y1が、不当な行為を行う等の愚を犯すことなどは考えられない。そして、執行猶予期間が経過したとしても、三か月以上にわたって勾留された不自由さ、辛さを身にしみて経験した一審被告Y1が、同様以上の裁きを受けかねないことが想像される不当な犯罪行為を行うはずがない。」旨主張する(当審追加主張)。
しかし、上記(1)説示のとおり、一審原告は、自らの自由な意思で、一審被告Y1の求めに応じて一審原告の裸体を写真撮影することを同意していたとは認められない上、一審被告Y1が本件フィルムを所有し所持し続けることを明確に拒否しているのであるから、本件フィルムの存在自体、一審原告のプライバシーを侵害し、又は侵害するおそれがあるものであり、一審原告の一審被告Y1に対する本件フィルムの廃棄請求は、正当な権利行使である。そして、一審被告Y1が本件フィルムの所有権を有していると否とにかかわらず、一審被告Y1が本件フィルムを所持する可能性のある限り、一審原告のプライバシーを侵害するおそれがあると認められる。一審被告Y1の上記主張は、原審及び当審を通じた口頭弁論期日における同被告の応訴態度等に照らし、到底信用することができない。
したがって、一審被告Y1の上記主張は採用することができない。
(3) 以上によれば、一審原告の一審被告に対する当審選択的請求(本件フィルムの廃棄請求につき当審追加請求)のうち、一審被告Y1に対し、本件フィルムの廃棄を求める請求は理由がある。
五 争点(4):一審被告Y2のした弁護活動が、一審原告に対する関係で不法行為に当たるか(一審原告の一審被告Y2に対する不法行為に基づく損害賠償請求の当否)、について
(1) 事実関係
前記第二の三「争いのない事実等」に加え、<証拠省略>によれば、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」第三の二(1)のアないしサの各事実が認められる。
ア 原判決九頁六行目の「被告Y2」の次に「(広島弁護士会所属)」を加える。
イ 同一〇頁八行目の「被告Y2は」を「上記場所には、一審被告Y1の母であるA(以下『A』という。)も同行していたところ、一審被告Y2は、一審原告を一審被告Y2の自動車の助手席に乗せ、車内で一審原告と二人だけで話し始めた。そして、一審被告Y2は」に改める。
ウ 同一三行目の「被告Y1」から一四行目の「話しかけられたり」までを「Aから色々と話しかけられ、また」に改める。
エ 同一九行目の「示談を拒絶すること」の次に「、一審被告Y2にはもうこれ以上会いたくないと言っていること」を加える。
オ 同二〇行目の「原告は、同月二八日午後七時ころ、」を「一審被告Y2は、同月二八日、池田警察署を訪れて一審被告Y1と接見し、一審原告の一審被告Y1に対する告訴は虚偽であるとして、一審原告を虚偽告訴罪で告訴することの相談をした。そして、一審被告Y2は、一審被告Y1から上記告訴手続のための委任状(乙一一)を受け取った。その後、一審原告は、同日午後七時ころ、」に改める。
カ 同二二行目の「両も親」を「両親」に改める。
キ 同二三行目の「原告は、ついに」を「原告は、一審被告Y2に被害事実を言い触らされたり、自宅まで押しかけて来られたら困るため、やむなく」に改める。
ク 同末行の「裁判になると他人に知られる」の次に「、告訴を取り消したらどうか、両親に話していないのはおかしい」を加える。
ケ 同一一頁四行目の「原告の代理人らは」を「一審原告代理人中田祐児弁護士及び島尾大次弁護士は、連名で」に改める。
コ 同九行目の「目的でに」を「目的で、」に改める。
サ 同一〇、一一行目の「告訴した。告訴状のなかには」を「告訴し(甲五)、同月九日には、告訴理由書を提出した(甲六)。告訴状のなかには」に改める。
シ 同二三行目末尾の次に改行の上次のとおり加える。
「シ 一審被告Y2は、同月九日、一審原告代理人弁護士の上記コの内容証明郵便に対する回答等を記載した事務連絡を一審原告代理人弁護士宛にファクシミリで送信し、併せて上記サの告訴状(甲五)及び告訴理由書(甲六)も送信した。
ス 平成一三年七月ないし八月ころ、徳島地方検察庁は、一審被告Y1の一審原告に対する虚偽告訴罪での告訴につき、不起訴処分とした。
セ 一審原告は、平成一三年八月一日、徳島地方裁判所に対し、本件仮処分事件の申立てをし、一審被告Y2は、同月六日、一審被告Y1の代理人として答弁書(甲二七)を提出し、同月一〇日、意見申述書(甲二九)を提出した。同答弁書及び意見申述書には、基本的に上記サの告訴理由書(甲六)の記載内容と同趣旨の記載がされていた。
ソ 徳島地方裁判所は、平成一三年八月一三日、本件仮処分事件につき、一審原告の申立てを認める仮処分決定をした(甲九)。
一審被告Y1は、上記仮処分決定を不服として、同裁判所に対し、同月一七日付書面(甲三〇)でもって本件保全異議の申立てをした。
しかし、同裁判所は、平成一四年一月二八日、上記仮処分決定を認可するとの決定をした(甲一〇)。
タ 一審原告は、平成一四年五月一七日、徳島地方裁判所(原審裁判所)に対し、本件訴訟を提起した。
一審被告Y2は、同被告本人及び一審被告Y1の代理人弁護士として、答弁書や準備書面を提出して、一審原告の主張事実を全面的に争ったが、上記答弁書や準備書面等には、基本的に上記サの告訴理由書(甲六)の記載内容と同趣旨の記載がなされているものがあった。」
(2) 事実認定についての補足説明
ア 一審被告Y2は、平成一三年四月二四日、B課長が「Xさんを待たせていたが、もう帰ってしまった。」と説明した上、一審原告の名前、住所、携帯電話の番号を進んで教えてくれた旨主張する。
しかし、B課長は、当審証人尋問において、一審被告Y2の上記主張を明確に否定する証言をしている上、警察官が被害者の取調べをして供述調書を作成する際、被疑者の弁護人が接見に来るからといって、わざわざ弁護人に面会させるため被害者を待たせるとは考えられない。加えて、当時は一審被告Y1を逮捕した翌日であり、正に捜査中だったのであるから、B課長が自ら進んで弁護人に一審原告の住所等を開示するというのは、にわかに信用し難い。
したがって、一審被告Y2の上記主張は、不自然、不合理であって、採用することができない。
イ 一審被告Y2は、B課長が平成一三年四月二六日に一審被告Y2に対し電話をかけ、「Xさんが(中略)示談を切望するということだったんでお伝えします。よろしくお取り計らいください。」と述べたので、同月二八日に来徳した旨主張する。
しかし、警察官が被害者の示談の意向を逐一弁護人に伝えるというのは考え難いし、一審被告Y2が示談の金額や条件等を事前に詰めることなく来徳したというのも不自然である。しかも、一審被告Y2の主張によれば、一審被告Y2は、極めて多忙な身であり、かつ、当時、捜査機関(池田警察署)が一審被告Y2の弁護活動を妨害しているとの認識を示していたというのであるから、そのような状況下で一審被告Y2がB課長の電話を受けて来徳したというのは、やはり不自然である。
かえって、一審被告Y2は、同月二八日、一審被告Y1と接見し、一審原告に対する虚偽告訴罪での告訴手続を進めるため、一審被告Y1から委任状の交付を受けている(乙一一)ことからすると、一審被告Y2は、もともと一審被告Y1と接見する予定で来徳したものというべきである。
したがって、一審被告Y2の上記主張は採用することができない。
ウ 一審被告Y2は、平成一三年四月二六日のB課長の電話を受けて同月二八日に池田町に来たが、一審原告が示談する気がないということだったので、池田町を離れて自動車を相当走らせていたこと、その時、一審原告から「今から池田署の一階のロビーで行って待っておるんで、話したいことがあるから来て下さい。」という電話がかかってきたので、自動車を引き返して池田署に行った旨主張し、当審本人尋問において同旨の供述をする。
しかし、一審被告Y2は、一審被告Y1の逮捕直後から、一審原告に対し、示談交渉や面談を執拗に求め、一審原告はこれを拒み続けていたのであり、しかも、一審被告Y2の上記供述によれば、一審原告は、一旦示談する気はないと述べていたというのであるから、その直後に翻意するとは考え難いし、一審被告Y2に直接電話をかけたというのも不自然である。加えて、通常の示談交渉であれば、一審原告が池田警察署を面談場所に指定するというのは不自然であり、むしろ、一審原告は、一審被告Y2から執拗に示談交渉や面談を求められていたため、B課長と相談の上、池田警察署の一階ロビーを面談場所に指定したとみるのが自然である。
したがって、一審被告Y2の上記主張は採用することができない。
(3) 不法行為の成否についての検討
上記(1)で認定した事実関係をもとに、一審被告Y2のした弁護活動が、一審原告に対する関係で不法行為を構成するか否かを検討する。
ア まず、一審被告Y2が一審原告に対し、示談、面談を強要した等の点について検討する。
上記(1)認定の事実によれば、一審被告Y2は、平成一三年四月二五日の午前〇時(深夜)、一審原告が一審被告Y1の人格を無視した行為によって傷ついており、他人に会うことや親に知られることを嫌がっていることを認識しながら、一審原告に対し、執拗かつ強引に面会を求めた上、親との面会を求めたり、裁判の公開をことさら強調して、告訴の取下げと示談を強硬に迫っている。更に、一審被告Y2は、同日、B課長から、「一審原告は一審被告Y2にはもうこれ以上会いたくないと言っている。」と告げられながら、同月二七日には、嫌がる一審原告に対し二回にわたり電話をかけ、一審原告の困惑に付け込んで、強引に一審原告との再度の面会を実現させ、一審原告に対し、再度、告訴の取下げ等を強硬に迫っている。そして、一審被告Y2は、一審原告がどうしても告訴を取り下げないとみるや、同年五月七日には、一審原告を虚偽告訴罪で告訴し、告訴理由書(甲六)を提出している。
一審被告Y2のこれら一連の行為は、一審原告の心情を全く理解することなく、強引かつ一方的なものであって、起訴前の弁護活動であるとはいえ、社会常識に照らし、明らかに行き過ぎであるというほかない。
また、一審被告Y2は、一審原告やB課長に対して面談を申し入れた際、わざわざ広島から来ているとか、一審原告が面会に応じないのは人道に反しているなどと述べているが、一審被告Y2が広島から来ているか否かは、一審原告にとっては全く関係のない事柄であるから、一審被告Y2の「わざわざ広島から来ている。」云々の点は、遠隔地で身柄を拘束された被疑者の弁護を引き受けた一審被告Y2の身勝手かつ自己中心的な考えというほかない。加えて、一審原告は、そもそも、一審被告Y1との間で示談を成立させるべき法的義務を負っていないばかりでなく、示談交渉に応じるべき法的義務も負っていないのであるから、一審被告Y2の「一審原告が面会に応じないのは人道に反する」云々の点もまた、刑事弁護人たる一審被告Y2の身勝手かつ自己中心的な考えというほかない。
なお、文献である「刑事弁護の手続と技法」には、起訴前弁護の在り方について、被害者が存在し、親告罪であったりした場合には、被疑者が冤罪の訴えをしていない限り示談した方がよいと指摘した上、被害者のもとへ直接足を運び、親や被疑者の家族を同行して謝罪に行くのが基本であり、どうしたら示談できるかについては、誠意を見せる、時間をかけるくらいで王道はないが、差し当たり示談の意思のあることと、当面はこの程度しか資力がないという謝罪の手紙を出し、振込口座名と今の気持ちなりを記入してほしいという回答書を返信用封筒で送ると、通常は八〇%くらい返事は返ってくる、旨の記述(一三四頁ないし一三五頁)がある。
しかし、一審被告Y2の上記一連の行為は、上記文献の記述に照らしても、一審原告の心情を全く理解することなく、強引かつ一方的なものであって、およそ一審原告に対し誠意を示したとは到底評価できない。
以上検討したところによれば、一審被告Y2の上記一連の行為は、社会的相当性を逸脱したものとして違法性を帯び、これにより一審原告は精神的苦痛を受けたものと認められるから、不法行為を構成するというべきである。
イ 次に、一審被告Y2が一審被告Y1の代理人として一審原告を虚偽告訴罪で告訴した手続(当審追加主張)について検討する。
上記(1)認定の事実によれば、一審被告Y2が一審被告Y1の代理人として一審原告を虚偽告訴罪で告訴したのは、一審被告Y1が強姦罪で勾留中(勾留延長後のもの)である平成一三年五月七日であり、しかも、一審被告Y2は、同年四月二八日には一審被告Y1から告訴手続に必要な委任状の交付を受けていたことからすると、上記告訴は、一審被告Y1の刑事処分を有利に図るためになされたものであるといわざるを得ない。
しかし、上記二(2)で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第三の一(2)説示のとおり、一審被告Y1が一審原告と性交渉を持つ過程で、一審被告Y1が一審原告に暴力を振るったり、明らかに脅迫的な言辞を用いてホテルに連れ込んで性交渉に及んだことを窺わせる事情は見当たらないのであるから、一審被告Y2が、強姦罪の構成要件の一つである、姦淫の手段としての暴行又は脅迫の事実があったと認められない以上、強姦罪が成立しないものと考え、一審原告の強姦の申告への対抗上、一審被告Y1の代理人として一審原告を逆に虚偽告訴罪で告訴したとしても、直ちに違法性を帯びるものと断ずることはできない。
また、上記虚偽告訴罪で告訴した後に提出した告訴理由書(甲六)は、一審原告の人格や名誉を損なう表現を用いており、弁護士として努めなければならない高い品性の保持(弁護士法二条)という観点からみて、不適切であると非難することはできるが、全体としてみて社会的相当性を大きく逸脱しており、正当な弁護活動の範囲を超えていて違法であると断することまではできない。
したがって、一審被告Y2が一審被告Y1の代理人として一審原告を虚偽告訴罪で告訴した手続が、不法行為を構成するものとは認められない。
ウ 次に、本件訴訟及びこれに先立つ本件仮処分事件及び本件保全異議事件において、一審被告Y2が一審被告Y1の代理人として答弁書や準備書面等を提出した点(当審追加主張)について検討する。
上記(1)認定の事実のとおり、本件訴訟及びこれに先立つ本件仮処分事件及び本件保全異議事件において、一審被告Y2が一審被告Y1の代理人として提出した答弁書や準備書面等は、基本的に告訴理由書(甲六)の記載内容と同趣旨の記載がなされているものがあり、一審原告の人格や名誉を損なう表現を用いていると認められるから、上記イと同様、やはり不適切であると非難することはできる。
しかし、本件事案は、一審原告と一審被告Y1との間において、一審被告Y1が一審原告と性交渉を持った意味(強姦罪の成否)、その前後の経緯について、事実関係や法的評価が激しく争われている事案であることが記録上明らかであり、そのような事案において、一審被告Y2が一審被告Y1の代理人として、自己の主張の正当性を明らかにするとともに、一審原告の主張の不当性を明らかにするため、上記のような表現を用いたものであるともいうことができることからすると、上記答弁書や準備書面等の提出が、全体としてみて社会的相当性を大きく逸脱しており、正当な弁護活動の範囲を超えていて違法であると断することまではできない。
したがって、一審被告Y2が、一審被告Y1の代理人として、上記答弁書や準備書面等を提出したことも、不法行為を構成するものとは認められない。
エ 次に、告訴手続、一審原告代理人弁護士の受任後の一審被告Y2の弁護活動(上記イ及びウを除く。当審追加主張)について検討する。
(ア) 一審原告は、一審原告代理人弁護士が一審被告Y2に対し、平成一三年五月三日到達の内容証明郵便で、一審原告が現時点で示談する意思のないこと、一審原告やその家族に直接面会することを拒否するなどを通知したにもかかわらず、一審被告Y2は、その旨を一審被告Y1の父に周知せず、同人が一審原告の家に直接電話をかけ、一審原告の母に本件被害事実を暴露するのを放置したのであり、一審被告Y2の上記行為は、弁護士倫理四九条の規定又はその趣旨に反し、不法行為を構成する旨主張する。
弁護士倫理四九条は、「弁護士は、相手方に弁護士である代理人があるときは、特別の事情のない限り、その代理人の了承を得ないで直接相手方本人と交渉してはならない。」と規定しているところ、同条の趣旨は、一方の当事者の代理人が、他方の代理人に無断で、直接相手方本人と交渉したとすれば、それは相手方に代理人を選任した意味を失わせることとなり、相手方を不利益に陥れるおそれが大きく、公正の精神に反する行為であり、また、そのような行為は、相手方代理人を依頼者との関係で窮地に陥れかねず、弁護士間の信義にももとることによるものと解される。
しかし、一審被告Y2は、一審被告Y1の依頼を受けて弁護活動を行っていた者であるから、一審原告代理人弁護士から受任通知を受け、一審原告及びその家族に直接面会することを拒否する旨の通知を受けたことにより、委任関係のない第三者(一審被告Y1の家族)に対しその旨を周知させる方が望ましいとはいえるものの、法的に周知義務があるとまで解することは困難である。
したがって、一審被告Y2が一審被告Y1の父に対して周知させなかったことにつき、不法行為を構成すると認めることはできない。
(イ) 一審原告は、「一審被告Y1は、平成一三年七月二三日の刑事公判廷において、自らがコレクションしている裸体の写真等に強い執着心を示し、起訴事実に関する写真以外は所有権放棄しない意思を示したところ、一審被告Y2は、弁護人としてこれを諭すどころか、一審被告Y1に対し、本件フィルムについて所有権放棄をしないよう指示し、更に、一審被告Y1が有罪判決を受けた同年八月六日、徳島地方検察庁に出向き、現実に本件フィルムの還付を求めたのであり、一審被告Y2の上記行為は、もはや正当な弁護活動の枠を超え、一審被告Y1の一審原告に対する人格権侵害に積極的に加担するものというほかなく、不法行為を構成する。」旨主張する。
しかし、弁論の全趣旨によれば、一審被告Y2は、一審被告Y1が一審原告と性交渉を持ったことが合意によるものであり、いわゆる「和姦」であることの証拠であるとの考えのもと、強姦の事実を否認し、自己が被害者であると主張する一審被告Y1に対し、本件フィルムについて所有権放棄をしないよう助言したにとどまるものと認められ、一審被告Y1が本件フィルムの還付を受け、これを第三者に公開することを想定した上、一審原告主張の指示をしたとの事実を認めるに足りる的確な証拠はない。
したがって、一審原告の上記主張は採用することができない。
(4) 一審原告の被った損害額
一審被告Y2は、一審原告に対する示談、深夜の面談の強要の不法行為によって一審原告の被った精神的苦痛を金銭で慰謝すべき義務のあるところ、一審被告Y2の上記不法行為の態様、程度、方法に加え、一審被告Y1の不法行為によって一審原告の受けた心の傷(外傷後ストレス障害)は、一審被告Y2の上記不法行為も少なからず影響しているものと考えられること、一審被告Y2は、当審口頭弁論終結(弁論再開前のもの)の間近になって、一審被告Y1の代理人として、本件訴訟と争点、事実関係をほぼ共通する別件訴訟を広島地方裁判所に提起し、一審原告に応訴の負担を強いていることをも併せ考慮すると、一審原告の精神的苦痛を慰謝するに足りる金額は、八〇万円と認めるのが相当である。
また、本件事案の内容、請求額及び認容額、その他本件に現れた事情を総合すると、一審被告Y2の上記不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の損害は、一〇万円と認めるのが相当である。
(5) 小括
したがって、一審原告の一審被告Y2に対する請求は、九〇万円(慰謝料八〇万円及び弁護士費用一〇万円の合計額)及びこれに対する不法行為の後である平成一三年八月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、その余(当審予備的追加的附帯請求を含む。)は理由がないことになる。
第四結語
以上によれば、一審原告の一審被告Y1に対する請求は、損害賠償請求(附帯請求につき主位的請求)及び面談強要等禁止請求をいずれも認容し、当審選択的請求(本件フィルムの廃棄請求につき当審追加請求)のうち、一審被告Y1に対し、本件フィルムを廃棄するよう求める請求を認容し、一審原告の一審被告Y2に対する請求は、九〇万円及びこれに対する(附帯請求につき主位的請求である)平成一三年八月六日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で認容し、その余(当審予備的追加的附帯請求を含む。)を棄却すべきものである。
よって、一審原告の一審被告Y1に対する控訴(当審選択的追加請求を含む。)及び一審被告Y2に対する控訴に基づき、原判決主文第一項及び第三項を上記判断に従って変更し、一審被告Y1の一審原告に対する控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 熱田康明 島岡大雄)
<以下省略>