高松高等裁判所 平成16年(行コ)25号 判決 2005年11月28日
控訴人
X
同訴訟代理人弁護士
枝川哲
被控訴人
鳴門市長 亀井俊明
同訴訟代理人弁護士
浅田隆幸
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、亀井俊明に対し、3883万1549円及びこれに対する平成15年6月25日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を請求せよ。
第2 事案の概要等
1事案の概要
本件は、鳴門市及び藍住町とで構成される一部事務組合である鳴門市・藍住町環境施設組合(以下「本件組合」という。)の解散に際し生じた剰余金(歳計現金)について、本件組合の管理者である鳴門市長の亀井俊明(以下「亀井」という。)が違法な分与をし、鳴門市に適法に分与されるべき4125万5816円と実際の分与額332万4267円との差額3883万1549円の損害を与えたのであるから、亀井は鳴門市に対し不法行為に基づき上記同額の損害賠償義務を負っているにもかかわらず、被控訴人が亀井に対し上記損害賠償請求権の行使を怠っているとして、鳴門市の住民である控訴人が、被控訴人に対し、地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき、亀井に対し不法行為に基づく損害賠償請求として3883万1549円及びこれに対する不法行為の日(上記分与の日)である平成15年6月25日から支払済みまで民法所定年5分の割合による金員の支払を請求するよう求めた住民訴訟である。
2 訴訟の経過
原審は、亀井のした上記剰余金の分与について、控訴人主張の違法があったとは認められないとして、控訴人の請求を棄却した。
これに対し、控訴人が原判決を不服として控訴を提起し、当審において、後記5のとおり、上記分与の違法性についての主張を追加した。
3 前提事実、争点及び争点についての当事者の主張後記4及び5のとおり当事者双方の当審補充主張及び追加主張を付加するほか、原判決「事実及び理由」第2記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決4頁24行目を「控訴人に対し、同年9月12日付書面でもって、控訴人の上記監査請求を棄却する決定をしたことを通知した〔証拠略〕。」に改める。)。
4 当事者双方の当審補充主張(争点(2):本件分与は、亀井がその裁量権を逸脱、濫用して行ったものとして違法であるか否か、について)
(1) 控訴人の主張
ア 鳴門市は、財政再建に取り組んでいる最中であり、経費の節減は緊急の課題である。
被控訴人は、本件組合の事業により得られた成果については本件組合の事業を引き継いだ鳴門市にとって概ね活かすことができると主張する。
しかしながら、別紙<1>「鳴門市が主張する成果品の検証表」(以下、単に「検証表」という。)記載のとおり、実際には、本件組合解散後、鳴門市は、被控訴人主張の成果のうち、「ごみ処理施設基本計画策定調査業務報告書」「一般廃棄物処理施設の整備に伴う調査・計画等業務報告書」「一般廃棄物処理施設の整備に係る生活環境影響調査報告書」「焼却施設機種整備委員会に関する検討業務委託報告書」「ごみ処理施設基本設計業務報告書」などを7473万0600円の費用をかけてやり直しており、また、「ごみ処理施設整備計画書作成業務報告書」「廃棄物処理施設進入路検討業務報告書」「廃棄物処理施設アクセス道路検討業務報告書」など1584万1350円分が不必要になり、合計9057万1950円が追加支出又は不必要なものに対する支出となっている。
この事実は、本件組合が解散するに当たり、被控訴人主張の「本件組合の事業により得られた成果については本件組合の事業を引き継いだ鳴門市にとっては概ね活かすことができるのに対し、藍住町にとってはほとんど活かすことができないという特別の事情」が存在しないことを如実に示している。
イ したがって、本件分与は、亀井がその裁量権を逸脱し、又は濫用して行ったものであって違法というべきである。
(2) 被控訴人の主張
ア 控訴人の上記主張は争う。
イ 本件組合は、新ごみ処理施設の建設という所期の目的を達成しないまま解散することになり、本件組合が計画していた新ごみ処理施設建設事業は、鳴門市単独の事業として推進することになった。そのため、本件組合の事業によって得られた成果等は、鳴門市にとっては単独施行になっても今後の事業に活かすことができるのに対し、藍住町にとってはほとんど活かすことができないということになった。鳴門市は、このような特別な事情を考慮して、藍住町との間の協議により、新ごみ処理施設建設推進に要した費用(本件衛生費)を鳴門市が負担することにしたのである。
ウ ところで、新ごみ処理施設の建設予定地域は、本件組合設立当時から現在に至るまで、鳴門市瀬戸町浦代地区であるから、ごみ処理基本計画策定、ごみ処理施設基本設計業務、生活環境影響調査報告書、ごみ処理施設整備計画書作成業務報告書、焼却施設機種整備委員会に関する検討業務、一般廃棄物処理施設の整備に伴う調査・計画等業務報告書、敷地造成基本計画業務、工事用道路概略設計業務等、鳴門市において活用できるものは多々存した。そして、鳴門市は、これらを次のとおり活用していた。すなわち、ごみ処理基本計画策定については、やり直しを行ったが、本件組合が作成したごみ処理基本計画を既存のデータとして活用して、本件組合が作成した時の費用(903万円)の3分の1程度の費用(336万円)で行った。
ごみ処理施設基本設計業務については、既存の資料として最大限活用し、本件組合が作成した時の費用(899万2200円)の半額程度の費用(441万円)で行った。
生活環境影響調査については、本件組合が実施した調査が平成10年のものであり、既に5年以上が経過していたこと、生活環境影響調査の提出先等関係機関との協議の上、一般市民への説明責任等を勘案して、最新年度の調査状況の把握が望ましいこと等を踏まえ、地元住民への直近データによる十分な説明を行うこととして、本件組合が行った生活環境影響調査の結果を既存のデータとして活用しながらやり直した。
ごみ処理施設整備計画書作成業務報告書については、これをもとに鳴門市の職員において見直しを行い、現在の施設に合った施設整備計画書を作成し、徳島県に提出して受理されている。
焼却施設機種整備委員会に関する検討業務委託報告書については、施設整備委員会が審査を行う資料として使用し、ガス化溶融炉のうち、シャフト式(ただし、コークスを使用する方式)が最も適しているが、キルン式(ただし、旋回式溶融炉を組み合わせる方式)及び流動床式も採用可能であるとの答申がなされたので、その答申を尊重した上、本件組合解散後の新ごみ焼却施設メーカー選定委員会の審議の中で、最終の焼却炉メーカー(流動床式)が決定されている。
一般廃棄物処理施設の整備に伴う調査・計画等業務報告書については、下流河川の流下能力調査結果により、造成地より下方にある調整池の設計や徳島県への届出である林地開発行為連絡調整届の資料として使用している。
廃棄物処理施設敷地造成基本計画業務報告書については、現在の規模に見直すための造成設計に活用し、廃棄物処理施設工事用道路概略設計業務報告書については、これにより現在の搬入路(進入路)の位置を決定するなど、活用している。
エ 以上のとおり、本件組合解散後において、工事施行に伴う濁水対策等を含めた地元関係団体の協議等に時間を要し、再度の調査を要したものであるが、本件衛生費に係る成果物は、本件組合解散当時、本件組合の事業を引き継ぐ鳴門市にとっては、その後の事業進捗に十分活かすことのできるものであったのであり、現に活かしてきた。
オ したがって、亀井は、その裁量権を逸脱し、又は濫用して本件分与を行ったものではない。
5 当事者双方の当審追加主張
(1) 争点(1)ア:本件分与が法290条、289条に違反するものとして違法であるか否か、について
ア 控訴人の主張
(ア) 本件組合が保有する現金・預金は、鳴門市と藍住町の双方が、本件規約において定められた経費の支弁方法(負担割合)に基づいて拠出した貴重な共有財産であり、その中には前年度の繰越金約6100万円も含まれているところ、繰越金は利息が生じていることからすると、相当期間、組合の預金又は積立金として管理されていたことが明らかである。
(イ) ところで、本件組合に剰余金があるということは、すべて現金として存在するということではなく、当座の支出予定額程度の現金以外は、預金として管理されているのが現状である。そして、預金は、法240条1項にいう「債権」に当たるから、法237条1項、289条にいう「財産」に当たるものであり、本件分与の直前に預金を解約したとしても、歳計現金ではなく「債権」である預金として扱うべきものである。また、積立金として管理されていたから、法241条3項にいう「特別基金」に当たると解すべきであり、やはり法237条1項、289条にいう各「財産」に当たることになる。なぜなら、そのように解さないと、「基金」を取り崩して現金に換えてしまえば「財産」に当たらないことになり、脱法を認める不合理な結果を招くことになるからである。
(ウ) そもそも、法289条は、「財産処分を必要とするとき」とだけ規定していて、その「財産」の中身については特に規定していないから、同法237条1項にいう「財産」と同じに解する必然性に乏しく、本件剰余金も法289条にいう「財産」に当たるというべきである。
(エ) したがって、鳴門市及び藍住町の両議会の議決を経ていない本件分与は、法290条・289条に違反し、違法である。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人の上記主張は争う。
(イ) 本件組合の剰余金は歳計現金であるところ、法235条の4第1項は、普通地方公共団体の歳入歳出に属する現金(歳計現金)は、政令で定めるところにより、最も確実かつ有利な方法によりこれを保管しなければならないと規定し、法施行令168条の6は、出納長又は収入役は、歳計現金を指定金融機関その他の確実な金融機関への預金その他の最も確実かつ有利な方法によって保管しなければならないと規定している。そして、本件組合の歳計現金は、これらの規定に基づいて金融機関への預金として保管していたものである。
したがって、利息が生じるのは当然のことであり、利息が生じるから積立金であり、積立金であるから基金に当たるとする控訴人の主張は、根拠のない主張である。
(ウ) 法241条1項は、普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、特定の目的のために財産を維持し、資金を積み立て、又は定額の資金を運用するための「基金」を設けることができると規定しているところ、本件条例上、本件剰余金は法241条1項にいう「基金」として定められているわけではない(なお、同条3項は、控訴人のいう「特別基金」なるものを定めているわけではない。)。
(エ) したがって、本件分与に際し、法290条、289条による関係地方公共団体の議会の議決を経る必要はない。
(2) 争点(1)ウ:本件分与が地方財政法28条の2に違反するものとして違法であるか否か、について
ア 控訴人の主張
(ア) 本件条例は、本件規約13条に基づいて制定されたものであり、鳴門市及び藍住町は、本件条例に基づいて負担金を拠出していたところ、一部事務組合の処理する事務は、本来的には組合を構成する普通地方公共団体の事務にほかならないから、制度上、当然に一部事務組合を構成する普通地方公共団体において経費を分担することになっているのである。
(イ) したがって、既に本件組合の事務費として支出した本件衛生費について、その負担割合を関係市町の合意や条例改正の形で事後的に変更することは許されないと解すべきであり、本件分与は、他の地方公共団体に対し当該事務の処理に要する経費の負担を転嫁し、その他地方公共団体相互の間における経費の負担区分をみだすようなことをしてはならないとする地方財政法28条の2に違反し、違法である。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人の上記主張は争う。
(イ) 地方財政法28条の2により負担の転嫁等が禁止されている経費は、法律又は政令で経費の負担区分が定められている事務に係る経費に限られるところ、本件組合の経費は、本件規約の委任により本件条例において負担区分が定められており、法律又は政令において負担区分が定められているものではないから、本件分与は地方財政法28条の2に違反しない。
(3) 争点(1)エ:本件分与が条例公布手続に違反するものとして違法であるか否か、について
ア 控訴人の主張
(ア) 本件組合は、平成15年6月20日開催の組合臨時総会において、本件条例改正に続いて本件補正予算の各議案を可決し、本件剰余金の分与を決定したところ、本件補正予算を可決する前提として本件条例改正が先に発効していなければならないのに、本件補正予算案の議案の審議前に本件条例改正を公布する時間的余裕はなく、公布されていない。
(イ) したがって、本件条例改正は、適式の公布を欠き、無効であるから、本件補正予算の議決は無効であり、本件分与は違法である。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人の上記主張は争う。
(イ) 本件条例改正(鳴門市・藍住町環境施設組合の経費の負担に関する条例の一部を改正する条例)は、平成15年6月20日開催の本件組合議会で可決された後、同日付で公布されており、適法なものである。
なお、予算案は見込みとして提出されるものであり、条例の公布を待たずに議会に提案することは何ら問題がない。当然ながら、予算の執行は、当該予算の成立及び当該条例の公布の後にされなければならないものであり、本件補正予算の執行も、本件条例改正の公布後に適正に行われている。
(4) 争点(1)オ:本件分与が法292条、法施行令5条1項前段に違反するものとして違法であるか否か、について
ア 控訴人の主張
(ア) 仮に、本件剰余金(歳計現金)が法289条にいう「財産」に当たらないとすれば、法292条、法施行令5条1項前段により、一部事務組合の解散に伴う事務の承継の問題と捉えるべきである。そして、本件剰余金の帰属につき、本件規約上、法施行令218条の2にいう「特別の定め」はないから、本件剰余金は、これを拠出した鳴門市及び藍住町の各負担割合に応じて、鳴門市及び藍住町に当然に承継されるものと解すべきである。なぜなら、一部事務組合が解散するときは、同組合の共同処理事務は解散によって当然に構成団体に復帰するところ、同組合の有する財産(債務のような消極財産を含む。)は、その事務と同様に、同組合が存続する限り同組合に帰属すべきものであるが、本来的には構成団体に帰属すべきものであるからである。
(イ) ところが、亀井は、本件剰余金につき、藍住町に約3800万円余分に分与し、本来鳴門市が当然に承継すべき剰余金(歳計現金)約3800万円が減少した。
(ウ) したがって、亀井のした本件分与は、法292条、法施行令5条1項前段に違反してなされた違法なものというべきである。
イ 被控訴人の主張
(ア) 控訴人の上記主張は争う。
(イ) 法292条、法施行令5条1項前段によれば、一部事務組合の解散に伴う事務の承継については、「その地域が新たに属した普通地方公共団体がその事務を承継する。」とされている。そのため、鳴門市は、本件組合の解散時において、鳴門市瀬戸町で一般廃棄物処理施設を建設するという本件組合の設立主旨を引き継ぐのは鳴門市であり、本件組合の事務はすべて鳴門市が承継すると解釈していた。すなわち、本件組合が何ら予算上の措置を講じずに解散した場合、本件剰余金はすべて鳴門市に引き継がれるものと考えていた。
もっとも、上記解釈により鳴門市が本件剰余金を承継することになると、負担割合に応じて本件組合の経費を負担してきた鳴門市及び藍住町の双方にとって不合理であると考えられた。そこで、それまでに鳴門市及び藍住町がそれぞれ負担してきた金額及び「組合の事業によって得られた成果は、組合事業を引き継ぐことになる鳴門市にとっては活かすことができるが、藍住町にとってはほとんど活かすことができないという特別の事情」を考慮して分与額を算定し、事務(歳計現金)の承継ではなく、本件組合から鳴門市及び藍住町への交付金という形で支出されたものである。
(ウ) 確かに、承継されるべき事務としての歳計現金は、「一部事務組合を構成する団体がそれまで負担してきた割合に従って、それぞれの構成団体に承継される。」とすべきであるとも考えられるが、本件では、結果的には、鳴門市及び藍住町がその負担割合に応じて歳計現金を承継すべきであるとの考え方と同様に、鳴門市及び藍住町に対して分与額の算定が行われた。
(エ) 本件分与は、本件組合の解散前に補正予算を編成し、歳入歳出予算を計上して、本件組合存続中に支出してなされたものであり、本件組合の解散により事務を承継したものではないから、仮に、法施行令5条1項の解釈につき見解の相違があったとしても、本件分与額の積算には影響しない。
第3 当裁判所の判断
1 判断の大要
当裁判所も、控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は、以下のとおりである
2 争点(1)ア:本件分与が法290条、289条に違反するものとして違法であるか否か、について
(1) 法237条にいう「財産」の意義
法237条は、財産の適正かつ効率的な運用を図るため、その範囲を明確にし、その性質と目的に応じて管理、処分をしようとする趣旨の規定であり、同条1項にいう「財産」を、公有財産(法238条1項)、物品(法239条1項)、債権(法240条1項)及び基金(法241条1項)の4種類に区分し、普通地方公共団体の財産を交換し、出資の目的とし、若しくは支払手段として使用し、又は適正な対価なくして譲渡し、若しくは貸し付けることを原則として禁止している(法237条2項)。
他方、歳計現金とは、一会計年度における一切の収入又は支出に係る現金を意味し(法235条の4第1項)、普通地方公共団体の所有に属するものであるが、その管理については、別途、その出納保管に関する規定に基づき管理することとされているから(法170条2項1号、235条、235条の4第1項、法施行令168条の6)、歳計現金は、法237条1項にいう「財産」には当たらないと解される。
(2) 一部事務組合の解散に伴う財産の帰属
ア 一部事務組合は、地方公共団体の行う事務の一部を他の地方公共団体と共同で処理するために設立されるものであり、特別地方公共団体として法人格を有する(法1条の3第1項、第3項、2条1項)。そして、一部事務組合が設立されると、規約において共同処理するものとされた事務(法287条1項3号)の処理機能は、構成団体である地方公共団体から一部事務組合に移転する。また、民法上の公益法人、商法上の株式会社等の場合には、その団体の法人格は解散によって直ちに消滅せず、清算手続の結了を要するが(民法73条、商法430条1項、116条)、一部事務組合の場合には、解散の場合の清算の制度がないから、一部事務組合が法288条、290条により解散した場合、直ちに法人格が消滅し、同組合の共同処理事務は構成団体である地方公共団体に復帰するものと解される。
イ 一部事務組合が解散する場合において、財産処分を必要とするときは、関係地方公共団体の議会の議決を経てする協議によってこれを定め(法289条、290条)、解散した組合の事務の承継については、それぞれの地域の区分に応じて、関係地方公共団体が承継するものとされている(法292条、法施行令5条1項前段)。法289条は、一部事務組合の解散等の際に当該組合に所属する財産がある場合には、その財産の帰属先を決める必要があることから、財産処分が必要となった場合の手続上の特例を定めた規定であると解される。
ウ 法289条にいう「財産処分」とは、法6条3項、7条3項にいう「財産処分」と同義であると解され、債権・債務を含めた積極的・消極的財産のすべてについてその帰属先を決めることを意味し、法289条にいう「財産」の範囲・定義については、法237条1項にいう「財産」の範囲、すなわち、公有財産(法238条1項)、物品(法239条1項)、債権(法240条1項)及び基金(法241条1項)の範囲と必ずしも一致するものではないと解される。行政実例等においても、負債は、法237条1項にいう「財産」には当たらないが、法289条にいう「財産処分」の対象となるとされ(昭和24年10月11日山連第1号 山口県総務部長宛 連絡行政部長回答)、逆に、公法上の未徴収金は、法240条1項にいう「債権」に当たるから法237条1項にいう「財産」に当たるが、法289条にいう「財産処分」の対象とはならず、事務の承継の対象となるとされている(昭和26年11月21日地自発第36号 各都道府県総務部長宛 地方自治庁次長通知)。上記行政実例等は、法289条にいう「財産」の解釈につき、法237条1項にいう「財産」についての立法解釈を適用せず、一部事務組合の解散に伴う一種の事務手続の対象としての「財産」と捉えている結果であると考えられ、かかる解釈は、一部事務組合の解散という事情を考慮したものとして合理性を有し、妥当であると解される。
これを歳計現金についていえば、歳計現金は、法289条にいう「財産処分」の対象ではなく、事務の承継の対象となり、法292条、法施行令5条1項前段により、それぞれの地域の区分に応じ、関係地方公共団体が承継するものと解される。なぜなら、確かに、事務の承継の対象と法289条にいう「財産処分」の対象との区分について、法令上明確な判断基準を定めた規定はないが、特定の事務処理について生じたものであって、当該事務の承継と密接不可分な関係にあり、その帰属先が関係地方公共団体の協議によって自由に決定されることが妥当性を欠く場合等については、事務の承継の対象になると解するのが相当であり、歳計現金については、上記の場合に当たると解されるからである。
(3) 本件についての当てはめ
これを本件についてみるに、本件組合の解散に際し存在した本件剰余金が歳計現金であることは当事者間に争いがないから、本件剰余金は、法289条にいう「財産処分」の対象とはならず、事務の承継の対象になるというべきである。
したがって、亀井が鳴門市及び藍住町の両議会の議決を経ずに本件分与を行ったからといって、法290条、289条に違反するものとして違法であるということはできない。
(4) 控訴人の主張に対する検討
ア 控訴人は、「法290条は、一部事務組合の解散に伴う財産処分について、関係地方公共団体の議会の意思を反映させようとしたものであるから、同組合の重要な財産といえる歳計現金の処分についても、法289条にいう『財産処分』に該当するものとして、法290条、289条により、関係地方公共団体の議会の議決が必要であるというべきである。同議決が不要であるとすれば、一部事務組合の議会において多数を占める地方公共団体の都合のいいように歳計現金の処分を決めることができてしまうことになり、不合理である。本件剰余金は、本件組合の最大の財産であり、その分与については、鳴門市及び藍住町の両議会の議決が必要であるにもかかわらず、本件分与は、これらを経ずにされたものであるから、法290条、289条に違反するものとして違法である。」旨主張する(上記第2の3で引用した原判決「事実及び理由」第2の2(1)のア(ア))。
しかしながら、一部事務組合が解散した場合の歳計現金の帰属については、上記(2)ウ説示のとおり、法289条にいう「財産処分」の対象ではなく、事務の承継の対象となると解するのが相当であるから、これに反する控訴人の上記主張は、独自の見解に基づくものであって採用することができない。
イ 控訴人は、「本件組合が保有する現金・預金は、鳴門市と藍住町の双方が、本件規約において定められた経費の支弁方法(負担割合)に基づいて拠出した貴重な共有財産であり、その中には前年度の繰越金約6100万円も含まれているところ、繰越金は利息が生じていることからすると、相当期間、組合の預金又は積立金として管理されていたことが明らかであり、本件組合に剰余金があるということは、すべて現金として存在するということではなく、当座の支出予定額程度の現金以外は、預金として管理されているのが現状であり、預金は、法240条1項にいう『債権』に当たるから、法237条1項、289条にいう各『財産』に当たるものであり、本件分与の直前に預金を解約したとしても、歳計現金ではなく『債権』である預金として扱うべきものであり、また、積立金として管理されていたから、法241条3項にいう『特別基金』に当たると解すべきであり、やはり法237条1項、289条にいう『財産』に当たることになり、したがって、鳴門市及び藍住町の両議会の議決を経ていない本件分与は、法290条、289条に違反し、違法である。」旨主張する(当審追加主張〔上記第2の5(1)のア〕)。
しかしながら、法235条の4第1項は、歳計現金は、政令の定めるところにより、最も確実かつ有利な方法によりこれを保管しなければならないと規定し、法施行令168条の6は、出納長又は収入役は、歳計現金を指定金融機関その他の確実な金融機関への預金その他の最も確実かつ有利な方法によって保管しなければならないと規定しており、弁論の全趣旨によれば、本件組合の歳計現金は、上記各規定に基づき金融機関への預金として保管されていたものと認められるから、このことをもって歳計現金としての性格を失うものではなく、法240条1項にいう「債権」又は法241条1項にいう、「基金」に当たることになるわけではない(控訴人主張の法241条3項は、同条1項の基金は当該目的のためでなければ処分することができない旨を定めたにすぎず、「特別基金」なるものを定めたわけではない。)。預金として保管されている過程で利子が生じたとしても同様であると解される。
そうすると、本件剰余金は、歳計現金としての性格を失っていないから、法289条にいう「財産処分」の対象とはならず、亀井が鳴門市及び藍住町の両議会の議決を経ずに本件分与を行ったからといって、法290条、289条に違反するものとして違法であるということはできない。
控訴人の上記主張は採用することができない。
3 争点(1)イ:本件分与が法290条、286条に違反するものとして違法であるか否か、について
原判決「事実及び理由」第3の2記載のとおりであるから、これを引用する。
4 争点(1)ウ:本件分与が地方財政法28条の2に違反するものとして違法であるか否か、について
(1) 原判決の引用、補正
後記(2)のとおり控訴人の当審追加主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の3記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決11頁12行目の「禁止される経費は、」の次に「法令、すなわち」を加える。)。
(2) 控訴人の当審追加主張に対する判断
ア 控訴人は、「本件条例は、本件現約13条に基づいて制定されたものであり、鳴門市及び藍住町は、本件条例に基づいて負担金を拠出していたところ、一部事務組合の処理する事務は、本来的には組合を構成する普通地方公共団体の事務にほかならないから、制度上、当然に一部事務組合を構成する普通地方公共団体において経費を分担することになっているのであり、したがって、既に本件組合の事務費として支出した本件衛生費について、その負担割合を関係市町の合意や条例改正の形で事後的に変更することは許されないと解すべきであり、本件分与は、他の地方公共団体に対し当該事務の処理に要する経費の負担を転嫁し、その他地方公共団体相互の間における経費の負担区分をみだすようなことをしてはならないとする地方財政法28条の2に違反し、違法である。」と主張する。
イ しかしながら、地方財政法28条の2により負担の転嫁等が禁止されている経費は、法令、すなわち法律又は政令において経費の負担区分が定められている事務に係る経費に限られるところ、本件組合の経費は、本件規約13条1項により関係市町の負担金等をもって支弁するものとされ、その関係市町の負担金の負担割合は同条2項により本件組合の条例で定めるものとされ、この委任規定により、本件条例において別紙<2>のとおり負担区分が定められているのであって、法令において負担区分が定められているものではない。
なるほど、法287条1項7号は、一部事務組合の規約には、一部事務組合の経費の支弁の方法につき規定を設けなければならないと規定するが、同規定をもって一部事務組合の経費の負担区分が定められていると認めることはできない。
ウ したがって、本件分与が地方財政法28条の2に違反するものとして違法であるということはできない。
5 争点(1)エ:本件分与が条例公布手続に違反するものとして違法であるか否か、について(当審追加主張)
(1) 控訴人の主張
控訴人は、「本件組合は、平成15年6月20日開催の本件組合議会において、本件条例改正に続いて本件補正予算の各議案を可決し、本件剰余金の分与を決定したところ、本件補正予算を可決する前提として本件条例改正が先に発効していなければならないのに、本件補正予算の議案の審議前に本件条例改正を公布する時間的余裕はなく、公布されておらず、したがって、本件条例改正は、適式の公布を欠き無効であるから、本件補正予算の議決は無効であり、本件分与は違法である。」旨主張する。
(2) 検討
しかしながら、亀井が平成15年6月20日開催の本件組合議会に対し、本件条例改正及び本件補正予算の各議案を提出し、同議会が同日これを可決したことは、上記前提事実(上記第2の3で引用した原判決「事実及び理由」第2の1(3)のイ)のとおりであり、また、〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、本件条例改正は、可決後、同日公布・施行されたことが認められる。そして、予算の執行は、当該予算の成立及び予算執行のための条例の公布・施行後にされなければならないものであるが、議会による条例の可決前に予算案が議会に提出され、可決されたとしても、予算としての効力に問題はない。
また、上記前提事実(同ウ)のとおり、本件分与は、藍住町に対して平成15年6月23日に、鳴門市に対して同月25日に行われているところ、上記のとおり、本件条例改正の公布・施行は同月20日にされ、本件組合議会による本件補正予算の議案の可決も同日にされたのであるから、予算執行という点からみても適正に行われたものと認められる。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
6 争点(1)オ:本件分与が法292条、法施行令5条1項前段に違反するものとして違法であるか否か、について
(1) 前提
上記2(2)及び(3)説示のとおり、本件剰余金は歳計現金であって、法289条にいう「財産分与」の対象とはならず、本件組合の解散に伴う事務の承継の対象になるべきものである。
したがって、本件剰余金は、原則として、法292条、法施行令5条1項前段により、「その地域が新たに属した普通地方公共団体がその事務を承継する」ことになる。
(2) 法施行令5条1項前段の意味など
ア 法292条、法施行令5条1項前段によれば、一部事務組合が解散した場合、「その事務」がいずれの地方公共団体に承継されるのかの基準は「地域」に求められ、何がその地域に属する事務であるのかの基準については、その事務を生じた原因に求められるものと解される。そして、歳計現金の場合、解散のときまでの収入及び支出を地域ごとに区分し、その差額をそれぞれの普通地方公共団体に承継させることを本則としつつ、諸般の事情を考慮して決められるべきものと解される。
イ もっとも、事務の承継の対象と法289条にいう「財産処分」の対象との区別が明確でない場合、事務の承継の対象となる場合であっても、地域により承継の区分を定め複数の関係地方公共団体に振り分けることが困難な場合も多いと考えられる。そこで、法施行令218条の2は、一部事務組合の解散に先立ち、当該組合の規約変更を行い、同条にいう「特別の定め」として、例えば、「組合の解散に伴う事務の承継については、構成団体が議会の議決を経てする協議をもって定める。」等の規定を設けることにより、事務の承継の対象か法289条にいう「財産処分」の対象かの区別が明確でないものや、事務の承継の対象となる場合であっても地域に応じて承継の区分を定めることが困難なものについて、法289条にいう「財産処分」と同様に、構成団体の議会の議決を経てする協議という方法によって処理することができるようにしている。
したがって、法施行令218条の2にいう「特別の定め」がある場合には、同項前段によるのではなく、上記「特別の定め」に従って歳計現金の帰属先等を決することになる。
他方、上記「特別の定め」がない場合において、同項前段により地域により承継の区分を定め、複数の関係地方公共団体に振り分けることが困難な場合には、同項後段により、「都道府県知事は、(中略)承継すべき普通地方公共団体を指定する」ことになる。
(3) 本件についての当てはめ
ア 上記前提事実(上記第2の3で引用した原判決「事実及び理由」第2の1(3))のとおり、本件組合は、平成15年6月20日開催の本件組合議会の議決を経て本件条例改正を行っているところ、本件条例改正は、本件組合を解散する必要が生じたときは、関係市町の負担額について、本件条例の別表(別紙<2>)の規定にかかわらず関係市町と協議の上、調整することができる旨の規定を追加するというものであって、本件規約の改正ではないことが明らかである。そして、本件規約上、法施行令218条の2にいう「特別の定め」があるとは認められない。
したがって、歳計現金たる本件剰余金は、法292条、法施行令5条1項前段又は後段により普通地方公共団体に承継されることになる。
イ そこで、更に検討するに、上記前提事実のとおり、本件組合は、鳴門市と藍住町とが一般廃棄物処理施設の設置及び管理運営に関する事務を共同処理するために設立されたものであり、組合規約(本件現約)において、本件組合の経費の支弁方法を条例に委任する旨規定し、本件条例において、鳴門市及び藍住町との負担金の負担割合を別紙<2>のとおり定め、これに基づき、鳴門市と藍住町とが本件組合の経費に充てるために平成10年度から平成15年度までに支出した総額(負担金総額)に対する鳴門市と藍住町との各支出割合(本件負担割合)は、鳴門市が69.77%、藍住町が30.23%である、というのである。
このように、本件剰余金は、鳴門市及び藍住町が、本件条例に基づき、本件組合の上記設立目的を実現するため、本件組合に対して拠出した歳入歳出に係る現金であり、鳴門市及び藍住町がそれぞれの地域内(市町内)で行っていた一般廃棄物の処理に係る事務を共同処理することを原因として生じたものということができるから、本件剰余金は、本件組合の解散により、鳴門市及び藍住町それぞれに当然に承継されるべきものであって、その承継の割合は本件負担割合によるものと解するのが相当である。
そうすると、本件剰余金は、本件負担割合に従って、鳴門市に対しては4215万5816円、藍住町に対しては1826万5305円が承継されるべきことになる。
ところが、本件分与は、鳴門市に対しては4215万5816円より3883万1549円少ない332万4267円、藍住町に対しては1826万5305円より3883万1549円多い5709万6854円を分与するというものであり、客観的には法292条、法施行令5条1項前段に違反するものとして違法というべきである。
ウ なお、上記前提事実のとおり、本件組合は、平成15年6月25日付で解散するのに先立ち、同月20日付本件組合議会における本件補正予算の議決を経た上、同月23日付で藍住町に対して5709万6854円を、同月25日付で鳴門市に対して332万4267円をそれぞれ支出して本件分与を行ったものであり、未だ本件組合存続中に支出したものであることは、被控訴人が上記第2の5(4)のイ(エ)で指摘したとおりである。
しかしながら、上記前提事実のとおり、本件では、鳴門市議会において同月17日に、藍住町議会において同月18日付でそれぞれ本件組合を解散する旨の議決がなされており、本件分与は、本件組合の解散の議決を経ていることを前提になされていることが明らかであるから、本件組合の解散前に本件分与がなされたからといって、法292条、法施行令5条1項前段の適用を受けないということにはならないというべきである。
(4) 被控訴人の主張に対する検討
ア 被控訴人は、「法292条、法施行令5条1項前段によれば、一部事務組合の解散に伴う事務の承継については、『その地域が新たに属した普通地方公共団体がその事務を承継する。』とされている。そのため、鳴門市は、本件組合の解散時において、鳴門市瀬戸町で一般廃棄物処理施設を建設するという本件組合の設立主旨を引き継ぐのは鳴門市であり、本件組合の事務はすべて鳴門市が承継すると解釈していた。すなわち、本件組合が何ら予算上の措置を講じずに解散した場合、本件剰余金はすべて鳴門市に引き継がれるものと考えていた。もっとも、上記解釈により鳴門市が本件剰余金を承継することになると、負担割合に応じて本件組合の経費を負担してきた鳴門市及び藍住町の双方にとって不合理であると考えられた。そこで、それまでに鳴門市及び藍住町がそれぞれ負担してきた金額及び『組合の事業によって得られた成果は、組合事業を引き継ぐことになる鳴門市にとっては活かすことができるが、藍住町にとってはほとんど活かすことができないという特別の事情』を考慮して分与額を算定し、事務(歳計現金)の承継ではなく、本件組合から鳴門市及び藍住町への交付金という形で支出されたものである。そして、本件では、結果的には、鳴門市及び藍住町がその負担割合に応じて歳計現金を承継すべきであるとの考え方と同様に、鳴門市及び藍住町に対して分与額の算定が行われた。」旨主張する。
イ しかしながら、法施行令5条1項前段の解釈上、上記(2)説示のとおり、同項前段にいう「その事務」がいずれの普通地方公共団体に承継されるのかの基準は「地域」に求められるべきものであって、何がその地域に属する事務であるのかの基準については、その事務を生じた原因に求められるものと解され、歳計現金の場合、解散のときまでの収入及び支出を地域ごとに区分し、その差額をそれぞれの普通地方公共団体に承継させることを本則としつつ、諸般の事情を考慮して決められるべきものと解される。そして、以上の解釈を前提にすると、本件剰余金は、鳴門市及び藍住町が一般廃棄物処理施設の設置及び管理運営の事務を共同処理することを目的に設立された本件組合の経費として、鳴門市及び藍住町が本件負担割合に従って負担した現金であり、鳴門市及び藍住町がそれぞれの地域内(市町内)で行っていた一般廃棄物処理に係る事務を共同処理することを原因として生じたものということができるから、収入及び支出の差額である本件剰余金は、本件負担割合に従って鳴門市及び藍住町それぞれに当然に承継されるべきものと解される。
ウ したがって、以上に反する被控訴人の上記主張は採用することができない(もっとも、被控訴人の上記主張は、本件分与の違法についての亀井の故意又は過失の有無に影響を及ぼすものであるから、後記8において改めて検討することとする。)。
7 争点(2):本件分与は、亀井がその裁量権を逸脱、濫用して行ったものとして違法であるか否か、について
(1) 原判決の引用、補正
次のとおり原判決を補正し、後記(2)のとおり控訴人の当審補充主張に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」第3の4(1)ないし(3)記載のとおりであるから、これを引用する。
ア 原判決11頁24行目の「〔証拠略〕」の次に「〔証拠略〕」を加える。
イ 同12頁17行目の「流動床」を「流動床式」に改める。
ウ 同15頁7行目の「できる。」から8行目の「できない。」までを「でき、上記答申の内容やその判断過程に照らし、上記判断が著しく不合理であるとまでいうことはできない。」に、21行目から22行目の「3800万円」を「3883万円余」に各改める。
エ 同16頁9行目から10行目の「実施が採用されていた」を「実施を採用していた」に改める。
(2) 控訴人の当審補充主張に対する判断
ア 控訴人は、「鳴門市は、財政再建に取り組んでいる最中であり、経費の節減は緊急の課題であるところ、被控訴人は、本件組合の事業により得られた成果については本件組合の事業を引き継いだ鳴門市にとって概ね活かすことができると主張するが、検証表記載のとおり、実際には、本件組合解散後、『ごみ処理施設基本計画策定調査業務報告書』などを7473万0600円の費用をかけてやり直しており、また、『ごみ処理施設整備計画書作成業務報告書』など1584万1350円分が不必要になり合計9057万1950円が追加支出又は不必要なものに対する支出となっており、この事実は、本件組合の解散に当たり、被控訴人主張の『本件組合の事業により得られた成果については本件組合の事業を引き継いだ鳴門市にとっては概ね活かすことができるのに対し、藍住町にとってはほとんど活かすことができないという特別の事情』が存在しないことを如実に示しているから、本件分与は、亀井がその裁量権を逸脱し、又は濫用して行ったものであって違法である。」旨主張する。
イ 確かに、〔証拠略〕及び弁論の全趣旨によれば、平成16年11月5日付徳島新聞には、鳴門市の平成17年度予算編成において、財源不足が9億5000万円にのぼる見通しであることなどを内容とする記事が掲載されたこと、本件組合は、検証表の「鳴門市・藍住町環境施設組合作成」欄記載のとおり、合計1億0455万6900円を支出したこと、他方、本件組合解散後、鳴門市は、同市単独でごみ処理施設建設のため、同表の「組合解散後に鳴門市が支出し作成した資料」欄記載のとおり、新たに「ごみ処理基本計画策定」などとして合計7473万0600円を負担したほか、進入路や造成規模の変更に伴い、本件組合が行った「廃棄物処理施設進入路検討業務報告書」などの費用が不必要なものに対する支出となったことが認められ、これらの事実によれば、鳴門市長である亀井が本件衛生費の全額を鳴門市が負担することとして本件分与を行うとした判断は、結果的にみれば、見通しの甘さがあったとの批判の余地はある。
しかしながら、上記(1)で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の4の(2)説示のとおり、亀井が本件組合の解散を求めたのは、本件組合の施設整備委員会の一般廃棄物処理施設の機種選定に係る答申について、鳴門市と藍住町との間で意見調整が困難となったことを理由の1つとして、一般廃棄物処理施設を早期に改修する必要があるなどの鳴門市の現状や、本件組合による同施設事業の実施では環境アセスメントに期間を要するという状況をも勘案した上、鳴門市が単独で同事業を実施することが適切であると判断したためであり、上記判断が著しく不合理であるとまでいうことはできず、しかも、本件組合の解散及び鳴門市単独による一般廃棄物処理施設事業の実施は、鳴門市としての政策であったということができる。そして、亀井は、本件組合の解散に伴う本件剰余金の精算方法について、本件組合の事業によって得られた環境調査等の成果が本件組合の事業を引き継ぐことになる鳴門市にとっては活かすことができるものの、藍住町にとってはほとんど活かすことができないという特別の事情を考慮して、本件衛生費の全額を鳴門市の負担として算定することにより、鳴門市に対する分与額を本件負担割合に応じた分与額から減額して修正することを決定したものであり、現に、本件組合の解散後、これを引き継いだ鳴門市の単独による事業において、一般廃棄物処理施設の建設予定地について本件組合の事業の当時と同じ土地が採用されているなどの事情からすれば、鳴門市に対する分与額の減額分が3883万円余という決して少額とはいえない金額であることを考慮しても、上記のような修正をすることが必ずしも不合理であるということはできず、公平や平等原則に反するとまでは認めることはできない。
ウ したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
8 亀井の故意又は過失の有無について
(1) 事実関係
ア 前記7(1)で引用した原判決「事実及び理由」第3の4(1)のカ、キ、ケ及びコ説示のとおり、
(ア)鳴門市は、藍住町に対し、本件組合の解散における財産処分等について、<1>本件組合の事務は鳴門市にすべて承継させる、<2>本件組合の財産(備品)は鳴門市に帰属させる、<3>本件組合の解散時の剰余金の分与については、本件条例の規定に基づく本件負担割合に応じて分与することを基本とするが、「本件組合の事業によって得られた成果は、本件組合事業を引き継ぐことになる鳴門市にとっては活かすことができるが、藍住町にとってはほとんど活かすことができない。」という特別の事情を考慮して、本件分与額算定方法に従って分与額を調整し、そのために本件条例の改正をする、という内容の提案をし(〔証拠略〕)、藍住町議会全員協議会は、平成14年12月12日、上記提案について協議した。
(イ) 藍住町議会は、平成14年12月24日、本件組合の解散及び財産処分の各議案を否決し、平成15年1月17日、同各議案を再度否決した。
(ウ) 鳴門市議会は、同年6月17日、藍住町議会は、同月18日、それぞれ本件組合を同月25日付で解散すること及び本件組合の財産処分等の各議案を可決した。
(エ) 本件組合議会は、同年6月20日、本件条例改正及び本件分与を含む本件補正予算の各議案を可決し、本件組合は、藍住町に対し、同月23日、鳴門市に対し、同月25日、本件分与をして、同日、解散した。
というのである。
イ 〔証拠略〕によれば、藍住町議会全員協議会の際に配布された「鳴門市・藍住町環境施設組合の解散における財産処分等について」と題する資料には、剰余金の分与につき、「歳計現金は財産処分の対象ではなく事務承継の対象であるため、法的には事務承継として鳴門市に全額引き継がれることとなる。ところが、この剰余金は、もともと組合条例の負担割合に基づく鳴門市と藍住町の負担金であることから、組合条例の負担割合に応じて鳴門市と藍住町にそれぞれ分与することを基本とする。」ことなどが記載されていることが認められる。
ウ 酒井昭・研究「一市町村の廃置分合及び境界変更における一財産処分と事務承継(二)」地方自治85号(昭和30年1月)30頁(当裁判所の平成17年7月13日付求釈明書添付の参考文献<3>)によれば、法292条、法施行令5条1項前段により事務の承継の対象となる歳計現金は、その性質上、同項前段により地域によって区分することが困難な事務の1つとされていることが認められる。
(2) 検討
ア 上記(1)の事実関係をもとに、本件分与が法292条、法施行令5条1項前段に違反するとして違法であることにつき、亀井に故意又は過失があるといえるか否かについて検討する。
上記6(3)説示のとおり、本件分与は、客観的には法292条、法施行令5条1項前段に違反する違法なものである。ところが、亀井は、上記(1)アのとおり、本件組合の解散に伴い、本件組合の事務をすべて鳴門市に承継させ、本件組合の財産(備品)についても鳴門市に帰属させ、本件組合解散時の剰余金については、本件条例の規定に基づく本件負担割合を基本としつつ、本件組合の事業によって得られた成果は、本件組合事業を引き継ぐ鳴門市にとっては活かすことができるが、藍住町にとっては活かすことができないという特別事情を考慮して、本件分与額算定方法に従って分与額を調整することとし、そのために本件条例の改正を行うことを考えた。そして、亀井は、これに従って、鳴門市及び藍住町の両議会における本件組合の解散及び本件組合の財産処分等の各議案の可決、本件組合議会における本件条例改正及び本件分与を含む本件補正予算の各議案の可決を経て、本件分与を行ったものであり、亀井は、かような過程を経てなされた本件分与は、何ら法令に違反するものではないと認識していたものと認められる。
また、前記7(1)で引用した原判決「事実及び理由」第3の4(1)ウ及びエ説示のとおり、鳴門市と藍住町との間において、一般廃棄物処理施設の方式、機種選定過程における住民参加の方法などについて解釈、見解の相違が生じ、亀井は、本件組合が設置を計画している施設の規模では環境アセスメントの再実施が必要となり、同施設の建設着工が大幅に遅れることなどから、環境アセスメントの実施が必要とならない程度の規模の鳴門市単独での一般廃棄物処理施設事業を実施することを決定し、藍住町長に対し、本件組合の解散を求めた、というのであり、亀井は、本件組合解散後、本件組合の事業、財産(物品)のすべてを鳴門市が引き継ぐのが当然であると考えていたことが窺われる。そして、弁論の全趣旨によれば、本件組合は、鳴門市瀬戸町において一般廃棄物処理施設を建設すべくその準備を進めていたものであるから、本件組合の解散後、建設予定地のある鳴門市が、同施設の設置及び運営管理に関する事業をすべて引き継ぐということは、相応の合理性を有するものと認められ、法292条、法施行令5条1項前段の解釈上、上記事業が当然に鳴門市に承継されるものであるか否かを問わず、亀井が本件組合の事業、財産(物品)のすべてを鳴門市が引き継ぐのが当然であると考えたとしても格別不自然とはいえない。
しかも、法施行令5条1項前段は、「その地域が新たに属した普通地方公共団体がその事務を承継する。」と規定するのみで、事務の承継の対象となるべき事務の範囲やその承継先等が明確であるとはいえないから、亀井が、本件組合の事業、財産(物品)はすべて鳴門市が引き継ぐものと考え、本件組合の財産(歳計現金)である本件剰余金についても、鳴門市にすべて承継されるものと考えたとしても、何ら不自然なものとはいえない。また、前記(1)ウのとおり、文献においても、歳計現金は、同項前段により承継先を区分することが困難な事務の1つであるとされており、普通地方公共団体たる鳴門市の長である亀井が、本件剰余金についても鳴門市にすべて承継されるものとの考え方に立ったとしても、不自然、不合理なものということはできない。
更に、鳴門市議会及び藍住町議会は、それぞれ、本件組合の解散に加え、本件組合の財産処分等、すなわち、<1>本件組合の事務は鳴門市にすべて承継させる、<2>本件組合の財産(物品)は鳴門市に帰属させる、<3>本件組合の解散時の剰余金の分与については、本件負担割合に応じて分与することを基本としつつ、「本件組合の事業によって得られた成果は、本件組合事業を引き継ぐことになる鳴門市にとっては活かすことができるが、藍住町にとってはほとんど活かすことができない。」という特別の事情を考慮して、本件分与額算定方法に従って分与額を調整し、そのために本件条例改正をする、ということについての各議案を可決し、本件分与は、かかる議決並びに本件組合議会における本件条例改正及び本件補正予算の各議決を経た上でなされたものである。そして、上記の特別事情を考慮してなされた本件分与につき、亀井がその裁量権を逸脱、濫用して行ったものとして違法であるとは認められないことは、上記7(1)で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の4(1)及び(2)説示のとおりである。
イ 以上検討したところによれば、本件分与は、客観的には法292条、法施行令5条1項前段に違反する違法なものであるが、本件組合の管理者である鳴門市長の亀井において、本件分与が上記法令に違反するものであることを認識していたとは到底認められないし、また、亀井が認識し得なかったことにつき過失があるとまで認めることはできない。他に亀井に過失があったとの事実を認めるに足りる証拠はない。
第4 結語
以上によれば、亀井は、本件分与につき、鳴門市に対し、不法行為責任を負わないから、控訴人の請求は棄却すべきものである。
よって、これと結論を同じくする原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 熱田康明 島岡大雄)
別紙 略