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高松高等裁判所 平成16年(行コ)30号 判決 2005年10月20日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は,Aに対し,574万1700円の損害賠償を請求せよ。

3  訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人の負担とする。

第2事案の概要等

1  事案の概要

原判決「事実及び理由」第2の1記載のとおりであるから,これを引用する。

2  争いのない事実等

次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  原判決3頁25行目から末行の「本件監査請求を不適法である」を「本件補正予算案は議会の議決を経ているものの,高知県知事の河川占用許可がおりない限り予算の執行ができないから,現時点において,執行機関として具体的な財務会計上の行為は行われておらず,高知県知事の許可についても不明瞭であって,地方自治法242条所定の要件を具備しているとは認められないことを理由に,本件監査請求は不適法」に改める。

(2)  同5頁1行目から2行目の「別紙α暫定道路支出済み金額一覧表」を「本判決添付の別紙α暫定道路支出済み金額一覧表」に,6行目の「本件第9回口頭弁論期日」を「原審第9回口頭弁論期日」に各改める。

3  争点及び争点についての当事者の主張

次のとおり当審における当事者双方の追加主張を付加するほか,原判決「事実及び理由」第2の3記載のとおりであるから,これを引用する。

(1)  控訴人の当審における追加主張

被控訴人は,現在新設中の県道α・β線の工事を本件暫定道路建設の理由としているが,そのこと自体が不自然である。なぜなら,真実,県道新設工事のために必要な暫定道路であるというのであれば,高知県自身がその暫定道路を建設する責務があるのであって,河川敷での構造物建設の違法性は問題になるとしても,高知県の費用で同県管理に係る河川敷を使用して暫定道路を設置することができたはずだからである。そして,被控訴人の主張は,結局のところ,県道新設工事のための室戸市の負担分として,本件暫定道路の建設費用が支出されたということになるが,これは,その主観的意図は何であれ,客観的には地方財政法27条の2に抵触するというべきである。すなわち,同条にいう「大規模かつ広域にわたる事業」について,政令では都道府県が施工する都道府県道の新設,改築及び災害復旧に関する工事の費用の市町村への負担転嫁が禁止されているところ,県道α・β線の新設工事では,国庫が18%,高知県が残りの82%を負担しており,室戸市の負担は求められていない。

したがって,本件暫定道路の建設費用を室戸市が負担するのは違法というべきである。

(2)  被控訴人の認否

控訴人の上記主張は争う。

本件暫定道路が建設されることになったのは,原判決「事実及び理由」第2の3(2)の②のアa記載のとおりである。

第3当裁判所の判断

1  判断の大要,原判決の引用

当裁判所も,本件訴えが不適法であるとの被控訴人の本案前の抗弁は理由がなく,控訴人の請求は理由がないと判断する。その理由は,後記2のとおり補正し,後記3及び4のとおり当審における控訴人の追加主張及び控訴理由に対する判断を付加するほか,原判決「事実及び理由」第3の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。

2  原判決の補正

(1)  原判決11頁8行目の「訴えの変更」の次に「(訴えの交換的変更)」を加える。

(2)  同12頁7行目の「本件監査請求を不適法である」を「本件補正予算案は議会の議決を経ているものの,高知県知事の河川占用許可がおりない限り予算の執行ができないから,現時点において,執行機関として具体的な財務会計上の行為は行われておらず,高知県知事の許可についても不明瞭であって,地方自治法242条所定の要件を具備しているとは認められないことを理由に,本件監査請求は不適法」に改める。

(3)  同14頁3行目の次に行を改め,次のとおり加える。

「(2) ところで,地方自治法242条の2の規定に基づく住民訴訟は,普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法242条1項所定の財務会計上の違法な行為又は怠る事実の予防又は是正を裁判所に請求する権能を与え,もって地方財政行政の適正な運営を確保することを目的とするものである(最高裁昭和53年3月30日第一小法廷判決・民集32巻2号485頁参照)。換言すれば,住民訴訟は,地方公共団体やその機関の権限に属する地方自治事務全般を監督するための制度ではなく,地方公共団体の財務行為に関わる非違行為を予防又は是正するための制度である。したがって,当該執行機関又は職員の財務会計上の行為を捉えて地方自治法242条の2第1項所定の責任を問うことができるのは,たとえこれに先行する原因行為に違法事由が存する場合であっても,その原因行為を前提としてなされた当該執行機関又は職員の行為自体が,財務会計法規上の義務に違反する違法なものであるときに限られるものと解するのが相当である(最高裁平成4年12月15日第三小法廷判決・民集46巻9号2753頁参照)。

すなわち,住民訴訟における審理の対象は,当該財務会計上の行為が違法であるか否かに限られ,その原因たる非財務会計行為及びその他の地方公共団体の事務一般に法令違反があるか否かではない。先行行為(非財務会計行為)に違法があれば,それを原因としてなされる後行行為(財務会計上の行為)が当然に違法となるものではないのである。それゆえ,ある先行行為(非財務会計行為)の違法性が,後行行為(財務会計上の行為)に承継されることがあるとしても,それは,当該財務会計上の行為の原因となる先行行為(非財務会計行為)が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない違法が存する場合に限られるというべきである(前記平成4年最高裁判決参照)。

(3)  これを本件についてみるに,控訴人の主張(当審追加主張を除く。)は,①本件暫定道路を設置する必要性がなかったから河川法26条に違反する,②本件暫定道路の設置は,無期間で恒久的なものとなる可能性が高いから同法24条に違反する,③本件暫定道路の設置は,道路の構造が通常の衝撃に対して安全なものである旨を定める道路法29条に違反する,ということを理由に,本件暫定道路の設置のための本件支出負担行為は違法であると主張するものであって,先行行為(非財務会計行為)である本件暫定道路の設置の違法性が,後行行為(財務会計行為)である本件支出負担行為に承継されることを主張するものにほかならないから,先行行為(非財務会計行為)である本件暫定道路の設置が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない違法が存する場合に限り,本件支出負担行為は違法になると解するのが相当である。

そこで,以上の見地に立って,本件暫定道路の設置が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない違法が存すると認められるか否かを検討する。」

(4)  同14頁4行目の「(2)」を「(4)」に改め,15頁2行目の「こと,」の次に「本件暫定道路,本件市道,新たに設置される県道(県道α・β線),佐喜浜川,人家の位置関係は,本判決添付の別紙図面記載のとおりであること(乙22),」を加え,23行目の「(3)」を「(5)」に改める。

(5)  同16頁20行目の「これらの事実等」から25行目末尾までを次のとおり改める。

「これらの認定事実によれば,本件暫定道路は,佐喜浜川の河川管理者である高知県知事が,河川法24条,26条及び27条の許可基準をいずれも満たしているものとして本件河川法許可を与えた上,設置されたものであると推認され,本件河川法許可が高知県知事の裁量を逸脱又は濫用してなされた不合理なものであると認めるに足りないから,本件河川法許可は適法であり,これに基づく本件暫定道路の設置に違法な点はないというべきである。」

(6)  同17頁8行目の括弧内を「乙16ないし18,19の1~4,21」に,10行目の「平成15年12月17日」から13行目の「などの事実が認められ」までを「平成16年12月6日の時点において,契約予定者33名のうち30名について用地買収が既に完了し,工事の発注も順次なされ,一部の区間で工事が着工されていること,高知県は,残りの用地買収の交渉を進めているところ,最終的に地権者の同意が得られない場合には,土地収用法に基づく収用手続を進める予定であること,の事実が認められ」に,16行目の「(4)」を「(6)」に各改める。

(7)  同18頁17行目の「前記(2)」を「上記(4)」に,末行の「本件暫定道路」から19頁1行目末尾までを「本件暫定道路の設置が室戸市に与えられた裁量を逸脱又は濫用したものとして道路法29条に違反する違法なものであるとまでは認められない。」に各改める。

3  当審における控訴人の追加主張に対する判断

(1)  控訴人は,被控訴人の主張は,結局のところ,県道新設工事のための室戸市の負担分として,本件暫定道路の建設費用が支出されたということになるが,これは,その主観的意図は何であれ,客観的には地方財政法27条の2に抵触するから,本件暫定道路の建設費用を室戸市が負担するのは違法である旨主張する。

(2)  地方財政法27条の2は,「都道府県は,国又は都道府県が実施し,国及び都道府県がその経費を負担する道路,河川,砂防,港湾及び海岸に係る土木施設についての大規模かつ広域にわたる事業で政令で定めるものに要する経費で都道府県が負担すべきものとされているものの全部又は一部を市町村に負担させてはならない。」と規定し,地方財政法施行令16条の2第2号は,地方財政法27条の2に規定する事業で政令で定めるものとして,「道路整備費の財源等の特例に関する法律(昭和33年法律第34号)2条に規定する道路(都道府県道に限る。)の新設,改築及び災害復旧に関する工事」と規定しているところ,前記第2の前提事実(引用した原判決「事実及び理由」第2の2(4))のとおり,本件暫定道路の設置は,高知県の行う県道改良事業の完成までの暫定的な対応として,あくまで室戸市がその必要性を認めて独自に行ったものであり,その必要性が認められるものであることは,上記1及び2(3)で補正の上引用した原判決「事実及び理由」第3の2(4)説示のとおりであるから,本件暫定道路の設置に要する経費が,形式的・実質的にみて,県道α・β線の新設に要する経費とはいえないことが明らかである。したがって,被控訴人が本件暫定道路の設置に要する経費の支出負担をする行為(本件支出負担行為)をしたことが地方財政法27条の2に違反するものであるとは認められない。

(3)  よって,控訴人の上記主張は理由がない。

4  控訴人の控訴理由に対する判断

控訴人は,控訴理由において,原判決の事実認定及び法律判断の誤りを指摘して縷々論難する。

しかしながら,控訴人の控訴理由を検討しても,本件暫定道路の設置が著しく合理性を欠き,そのために予算執行の適正確保の見地から看過し得ない違法が存するとは認められないから,本件支出負担行為に違法はなく,したがって,控訴人の請求は理由がないとの当裁判所の判断は左右されない。

第4結語

よって,控訴人の請求を棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 熱田康明 裁判官 島岡大雄)

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