高松高等裁判所 平成16年(行コ)7号 判決 2004年12月07日
控訴人
X1
同指定代理人
X2
外11名
被控訴人
双輝汽船株式会社
同代表者代表取締役
Y1
同訴訟代理人弁護士
新明一郎
同補佐人税理士
Y2
主文
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人の訴えのうち,平成6年8月1日から平成7年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額652万3500円を超えない部分,平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額638万6000円を超えない部分及び平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の地方消費税の更正処分のうち納付譲渡割額44万7700円を超えない部分の各取消しを求める部分をいずれも却下する。
3 被控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴の趣旨
主文同旨。
第2 前提事実(特に証拠等の掲記のないものは当事者間に争いがない。)
[用語例]
(1) 平成6年8月1日から平成7年7月31日までの事業年度を「平成7年7月期」と,同期間の課税期間を「平成7年課税期間」と,平成7年8月1日から平成8年7月31日までの事業年度を「平成8年7月期」と,同期間の課税期間を「平成8年課税期間」と,平成8年8月1日から平成9年7月31日までの事業年度を「平成9年7月期」と,同期間の課税期間を「平成9年課税期間」という。
(2) 平成7年7月期,平成8年7月期及び平成9年7月期の3事業年度を「本件各事業年度」と,平成7年課税期間,平成8年課税期間及び平成9年課税期間の3課税期間を「本件各課税期間」という。
(3) 本件各事業年度に係る法人税の更正処分及び加算税の賦課決定処分と本件各課税期間に係る消費税及び地方消費税の更正処分及び加算税の賦課決定処分を併せて「本件更正処分等」という。
1 当事者等
(1) 被控訴人は,愛媛県今治市**町*丁目<番地略>において海運業を営む資本金1500万円の同族会社であり,昭和58年6月,パナマ共和国にTWIN BRIGHT SHIPPING CO.,S.A.(以下「ツインブライト社」という。)を設立した。
(2) 被控訴人は,ツインブライト社を設立して以来,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益はすべて内国法人親会社である被控訴人に帰属するものとして法人税及び消費税等の確定申告をしてきており,本件各事業年度及び本件各課税期間においても,同様に,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益が被控訴人に帰属するものとして青色申告を行った。
(3)ア ツインブライト社は,パナマ共和国に本店を有する外国法人で,内国法人である被控訴人がその発行株式等の全額を保有しているので,租税特別措置法(以下,「措置法」という。) 66条の6第2項1号に規定する「外国関係会社」に該当する。
イ パナマ共和国では,法人の本件各事業年度の所得に対して課される租税の額が,措置法施行令39条の14の規定による100分の25以下である。
ウ ツインブライト社は,本店所在地であるパナマ共和国に事務所を有しておらず,ツインブライト社設立関係書類,事業関係書類等すべてが被控訴人の事務所に保管され,事業の管理,支配及び運営はすべて被控訴人が行っている。(甲22ないし26,弁論の全趣旨)
2 本件更正処分等
(1) 控訴人は,被控訴人に対する法人税等の調査を行い,平成10年9月29日付けで,被控訴人に対して,ツインブライト社が措置法66条の6第1及び第2項に規定される特定外国子会社等に該当する会社であり,同条3項に規定される適用除外の規定の適用がないため,同条の規定が適用されることを主な理由として,下記のとおり,法人税に係る更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。なお,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益に係る金額計算自体は当事者間に争いがない。
ア 平成7年7月期(乙1の1)
イ 平成8年7月期(乙1の2)
ウ 平成9年7月期(乙1の3,甲1)
(2) また,控訴人は,上記調査に基づき,同日付けで,下記のとおり,消費税及び地方消費税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。
ア 平成7年課税期間(乙2の1)
イ 平成8年課税期間(乙2の2)
ウ 平成9年課税期間(乙2の3)
(3) 本件更正処分等及びこれに対する不服申立等の経過は,別紙1ないし3課税等経過表のとおりである。平成13年12月21日付け審査請求裁決は,平成14年1月15日,被控訴人に送達され(甲1),同年4月15日,被控訴人は本件訴えを松山地方裁判所に提起した。
第3 争点
1 法人税に係る本件更正処分等について
(1) 措置法66条の6及び実質課税の原則について
ア 控訴人の主張
(ア) 措置法第7節の4「内国法人の特定外国子会社等に係る所得の課税の特例」に規定される税制(以下,「タックスヘイブン対策税制」という。)は,実質所得者課税の原則を定める法人税法11条の適用による租税回避行為に対する対処では,その基準が明確でないために,その課税執行面の安定性に問題があったので,課税執行面の安定を確保しながら,外国法人を利用することによる租税回避行為を防止して税負担の実質的公平をはかるために導入されたものであって,一般法である法人税法11条との関係では特別法の関係に立つ。したがって,措置法66条の6所定の「特定外国子会社等」に該当する限り,その課税関係については,法人税法11条の規定の適用は排除され,課税対象留保金額の有無を問わず,措置法66条の6の規定のみが一律に適用される。したがって,特定外国子会社等に生じた欠損は,措置法66条の6第2項2号による調整が行われる限りで考慮されるに過ぎず,措置法66条の6は,特定外国子会社等に生じた欠損について内国法人の所得との合算を認めないことを定めた規定であると解すべきである。
(イ) また,措置法66条の6は,文理上,租税回避目的それ自体を要件とせず,特定外国子会社等について課税対象留保金額がある場合に,これを内国法人の収益とみなして,同条所定の事業年度の所得の金額の計算上,益金の額に算入するとしたものであるから,当該外国関係法人が特定外国子会社等に該当するのであれば,租税回避のおそれの有無にかかわらず,同条が適用されるべきである。
(ウ) これを本件についてみるに,ツインブライト社が特定外国子会社等に該当し,措置法66条の6第3項の適用除外の要件を満たさない以上,本件においては,措置法66条の6が適用され,法人税法11条が適用される余地はない。同社において各事業年度に生じた欠損は,翌事業年度以降の同社の未処分所得の金額を計算する過程において差し引かれることとなるのであって,その欠損の金額を内国法人親会社である被控訴人の所得と合算することは許されない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 措置法66条の6第1項は,課税要件として,特定外国子会社等であること,及び適用対象留保金額があることを規定するものであり,適用対象留保金額が存在しないのに,措置法66条の6を内国法人親会社に適用することはできない。措置法66条の6第2項2号は,課税対象留保金額の算出の基礎となる未処分所得の金額を算定するにあたって,5年以内に生じた欠損の額を控除することを定めたいわゆる計算規定に過ぎないとみるべきである。したがって,措置法66条の6は,特定外国子会社等に欠損が生じた場合に,それを内国法人の損益と合算申告することを禁止したものではない。
本件においては,ツインブライト社に適用対象留保金額はないのであるから,措置法66条の6は適用されない。
(イ) そもそも措置法66条の6は,海外の子会社を利用して内国法人親会社に対し当該年度の利益を配当せず,再投資に向けるなどの事態に対し,法人税法11条に基づく否認手続では限界があるため,益金については,税務当局による海外課税関係資料による立証なくして利益が発生したものとみなして国内親会社に課税徴税することとする反面,損金については,上記のような不誠実な課税義務者に対する不利益として損益の計算にあたり合算を認めないものとして,課税の公平を図るとともに,納税者の自発的かつ誠実な申告を促したものである。このような措置法66条の6の立法趣旨等からすれば,措置法66条の6は,租税回避のおそれがない場合には,適用されないというべきである。
本件においては,ツインブライト社は,いわゆるペーパーカンパニーであり,被控訴人の一部門であって,ツインブライト社に実質的に帰属する資産,負債及び損益はない。そのため,被控訴人は,ツインブライト社設立以来,一貫して,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益はすべて実質的には被控訴人に帰属するものとして,被控訴人の決算に含めて確定申告をしてきたものであるから,被控訴人が,確定申告にあたり,ツインブライト社の損益を合算することには,何ら租税回避のおそれはない。したがって,ツインブライト社が形式的には特定外国子会社等に該当するとしても,該当しないものとして取り扱い,措置法66条の6の適用は否定されるべきである。
(2) (本件に措置法66条の6が適用されない場合)本件に実質課税の原則を適用し,ツインブライト社の欠損を被控訴人の損金に算入できるか。
ア 控訴人の主張
仮に,本件の場合に,措置法66条の6を適用することができないとしても,被控訴人とツインブライト社は法人格を異にする別法人であって,ツインブライト社に生じた欠損金について異なる内国法人である被控訴人の所得と合算することが否定されるのは法人税法上当然である。
また,被控訴人が,便宜置籍船を利用して海運業を営むに際しては,外国関係会社を設立し,当該法人をして当該国の船籍を取得させることに本質的な意義があり,ツインブライト社は自らが船舶の発注者として造船契約を締結するなどしているなどの事情に照らせば,ツインブライト社は,親会社である被控訴人とは独立した法人として存在し,かつ企業活動を行っているのであって,「単なる名義人」(法人税法11条)には該当しない。
イ 被控訴人の主張
法人税法11条はいわゆる否認規定であり,被控訴人は,法人税法11条ではなく,申告納税制度の下で,租税法上の条理とされた実質課税の原則に基づいて,自己に実質的に帰属するツインブライト社名義の資産,負債及び損益を合算して申告できる。
すなわち,被控訴人は,ツインブライト社の設立以来,その資産,負債及び損益を自らのものとして自らの会計帳簿に記載してきたのであるから,ツインブライト社に帰属する欠損金額もなければ,ツインブライト社独自の会計帳簿も存在していない。また,ツインブライト社は単なる名義上の存在で,実体を有せず,被控訴人の単なる一営業部門に過ぎない。
(3) 控訴人の当審における「ツインブライト社と被控訴人とは別法人である」旨の主張(前記(2)ア)は,許されない理由の差替えにあたるか,又は,時機に後れたものとして許されないか。
ア 控訴人の主張
(ア) 「ツインブライト社と被控訴人とは別法人である」旨の控訴人の主張は,本件更正処分等の附記理由の中に既に含まれていると解されるので,青色申告に係る更正理由の附記との関係でみても理由の差替えには該当しない。また,仮に理由の差替えに該当するとしても,上記主張は被処分者である被控訴人に格別の不利益を与えるものではないので,本件において,理由の差替えは許される。
(イ) 課税処分取消訴訟の訴訟物(審判の対象)は,当該課税処分によって確定された税額の適否であり,課税処分により確定された税額が総額において租税法規によって客観的に定まっている税額を上回るか否かを判断する,いわゆる総額主義により審理されることは判例上確立しており,審理の対象が何かという問題は,そもそも「攻撃又は防御の対象」ではないので,時機に後れた主張として制限されることはない。
イ 被控訴人の主張
(ア) 「ツインブライト社と被控訴人とは別法人である」旨の控訴人の主張は,ツインブライト社名義の資産,負債及び損益が実質的には被控訴人に帰属するとしても,内国法人親会社には措置法66条の6が適用される結果,特定外国子会社等に生じた損失額は,内国法人の所得金額から減額することはできないという本件更正処分等の附記理由と基本的要件事実を異にするものであり,このような理由の差替えは許されない。
(イ) 原審において争点整理を行っているにもかかわらず,控訴人が,当審に至って,総額主義の立場を前提に,ツインブライト社と被控訴人が別法人であることを理由に,本件更正処分等を適法と主張するのは,時機に後れた主張として許されない。
2 消費税及び地方消費税に係る本件更正処分等について
(1) 訴えの利益についての控訴人の主張
更正処分で示された納付すべき税額には,確定申告された税額が含まれているところ,本件のように,納税者が課税申告部分の減額を求める更正の請求を経由していない場合には,被控訴人は確定申告において,その申告額を超えない税額部分について自ら納税義務を確定させているのであるから,その部分についてまで取消しを求めることは,訴えの利益を欠くものであり,その部分は不適法な訴えとして却下されるべきである。
(2) 消費税及び地方消費税に係る本件更正処分等の適法性について
ア 控訴人の主張
消費税法は,各課税期間ごとの課税売上げに係る消費税額から課税仕入れ等に係る消費税額を控除し,その残額が納付すべき消費税額となるのであり,その納付すべき消費税額の金額は,原則として,各納税義務者ごとに,かつ,各課税期間ごとに計算される。本件においては,ツインブライト社は,パナマ共和国において登録され,被控訴人とは別個の独立した法人格を有することは明らかであり,法人格を異にするツインブライト社の仕入れ等に係る消費税額を被控訴人の控除対象仕入税額に含めることができない。
また,前記1(2)アと同様の理由により,ツインブライト社は「単なる名義人」(消費税法13条)には該当しないので,いわゆる実質行為者課税の原則を定めた同条の適用もない。
イ 被控訴人の主張
消費税法にも,実質課税の原則の一環として実質行為者課税の原則(消費税法13条)が定められており,本件においてもツインブライト社が別法人であるかを論じるのではなく,ツインブライト社名義の課税仕入れが,実質的に誰に帰属するのかを論ずるべきである。本件の場合,ツインブライト社名義の課税仕入れは,実質的には被控訴人自身に帰属する。
第4 当裁判所の判断
1 法人税に係る本件更正処分等について
(1) 措置法66条の6及び実質課税の原則について
ア 法人税法22条3項は,内国法人の損金の額に算入すべき金額として,別段の定めがあるものを除き,同項1ないし3号所定の額と定めているところ,内国法人と法人格を異にする外国の子会社に係る欠損の金額がこれに含まれないことが原則であることは明らかであるが,実質所得者課税の原則(法人税法11条)により,外国の子会社に係る欠損の金額を内国法人の損金に算入できるのかが,タックスヘイブン対策税制との関係で問題となる。そこで,まず実質所得者課税の原則及びタックスヘイブン対策税制の内容,立法趣旨等について検討する。
実質所得者課税の原則とは,収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であって,その収益を享受せず,その者以外の法人がその収益を享受する場合には,その収益はこれを享受する法人に帰属するものとして,法人税法を適用するというものであり(法人税法11条),法律上の所得の帰属の形式とその実質が異なるときには実質に従って租税関係が定められるべきであるという租税法上当然の条理を確認的に定めた規定である。(なお,法人税法11条は,収益についてのみ規定しているが,損失・費用の帰属についても同条の適用があるのは明らかというべきであるから,結局のところ同条は収益と損失・費用の差額であるところの所得の帰属について定めたものと解される。この点につき,被控訴人は,同条はいわゆる否認規定であって,子会社の損失を親会社の損金に算入する根拠は,同条ではなく,租税法上の条理とされた実質課税の原則に基づくと主張するが,同条を課税庁が否認する場合のみに限定する理由はなく,法人税法11条から当然解釈できるとみるべきである。)
他方,我が国経済の国際化の進展に伴い,内国法人が,法人の所得等に対する税負担が全くないか,又は極端に低い国又は地域(いわゆるタックスヘイヴン)に子会社を設立して経済活動を行いながら,本来内国法人に帰属すべき所得をその子会社に留保することによって,税負担の不当な回避ないし軽減を図る事態が生じるようになったため,課税庁に,上記の法人税法11条を適用し,子会社の損益が内国法人に帰属するものとして課税するなどの方法により対処していた。しかしながら,同条の適用にあたっての所得の実質的な帰属の判断基準が明確でないため,課税執行面における安定性の点で問題があり,同条の適用による対処には一定の制約ないし限界があった。そこで,課税執行面の安定性を確保しながら,外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減を防止して税負担の実質的公平を図るため,昭和53年にタックスヘイブン対策税制が導入された。タックスヘイブン対策税制とは,本店又は主たる事務所の所在する国又は地域におけるその所得に対して課される税の負担が我が国における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いなどの所定の要件を満たす外国法人を特定外国子会社等とした上で,特定外国子会社等が未処分所得の金額から留保したものとして,未処分所得に必要な調整を加えて算出される適用対象留保金額を有する場合に,そのうち一定の金額(課税対象留保金額)を内国法人の所得の金額の計算上,益金の額に算入することとし(措置法66条の6第1項),他方で,特定外国子会社等の未処分所得の金額につき,特定外国子会社等の所得に,その所得に係る事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えたものとすることとした(措置法66条の6第2項2号)ものである。
イ 上記のタックスヘイブン対策税制の立法趣旨に鑑みれば,措置法66条の6は,特定外国子会社等に欠損が生じた場合には,それを当該年度の内国法人の損金には算入することはできず,当該特定外国子会社等の未処分所得算出において控除すべきものとして繰り越すことを強制しているものと解すべきである。したがって,内国法人の子会社が特定外国子会社等にあたる場合には,同条3項の適用除外に該当しない以上は,当該特定外国子会社等に適用対象留保金額があるかないかにかかわらず,実質所得者課税の原則(法人税法11条)を適用する余地はない。
これに対し,第1に,被控訴人は,措置法66条の6第1項は,課税要件として,適用対象留保金額があることを規定しているなどの理由をあげて,措置法66条の6は,特定外国子会社等に欠損が生じた場合に,それを内国法人の損益と合算申告することを禁止したものではないと解すべきであると主張する。しかしながら,課税執行の安定を図るというタックスヘイブン対策税制の立法趣旨に鑑みれば,特定外国子会社等に該当する以上は,適用対象留保金額があるかないかにかかわらず,措置法66条の6を適用すべきであることは前記のとおりである。また,もし被控訴人主張のように解した場合には,実質所得者課税の原則により特定外国子会社等の欠損を当該年度の内国法人の損金に算入できる余地があるので,内国法人は措置法66条の6第2項2号により欠損を繰り越すか,実質所得者課税の原則による当該年度の内国法人の損益と合算するか,選択できることとなるが,課税執行面での安定を目指して導入された措置法66条の6がそのような不安定な扱いを想定しているとは思われない。
第2に,被控訴人は,ツインブライト社には租税回避のおそれはないのであるから,措置法66条の6の立法趣旨から考えて,同条は適用されないと主張する。確かに,ツインブライト社は,その設立以来一貫して合算申告を行っていたとのことであり,あえて被控訴人が租税回避しようとしたとは認められない。しかしながら,タックスヘイブン対策税制の立法趣旨は,前記のとおり,外国法人を利用することによる税負担の不当な回避又は軽減を防止するとともに,課税執行面の安定性を確保しつつ税負担の実質的公平を図ることにあるのであって,このような趣旨に鑑みれば,特段の明文の規定がないにもかかわらず,租税回避のおそれの有無という認定の困難な要件を,措置法66条の6の適用の要件に加えるべきとは考えられない。したがって,措置法66条の6の適用の有無は,特定外国子会社等に該当するか否かでのみで判断すべきである。
以上のとおり,被控訴人の主張はいずれも採用できない。
ウ そこで,ツインブライト社が被控訴人の特定外国子会社等に該当するかであるが,前記第2の1(3)アないしウの事実によれば,ツインブライト社は措置法66条の6第2項1号に規定する「特定外国子会社等」に該当し,かつ,同法3項に規定する適用除外の要件を満たさないと解されるので,措置法66条の6が適用され,ツインブライト社の欠損を被控訴人の当該年度の損金に算入することは許されない。
(2) したがって,「ツインブライト社には措置法66条の6が適用されるため,同社の欠損を被控訴人の所得金額から減額できない」旨を更正の理由として附記した法人税に係る本件更正処分等は,その余の点について検討するまでもなく,適法である。
2 消費税及び地方消費税に係る本件更正処分等について
(1) 訴えの利益について
消費税及び地方消費税に係る本件更正処分等で示された納付すべき税額には,確定申告された税額が含まれているところ,本件においては,納税者である被控訴人は,過大申告部分の減額を求める更正の請求(国税通則法23条)を経由しておらず,確定申告における申告額を超えない税額部分については納税義務を確定させているのであるから,その部分について取消しを求めることは,訴えの利益を欠くものであり,不適法な訴えとして却下されるべきである。
本件においては,平成6年8月1日から平成7年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額652万3500円を超えない部分,平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額638万6000円を超えない部分及び平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の地方消費税の更正処分のうち納付譲渡割額44万7700円を超えない部分については,納税義務が確定しているので,その部分の取消しを求めることは,訴えの利益を欠く。
(2)消費税及び地方消費税に係る本件更正処分等の適法性について
消費税及び地方消費税に係る本件更正処分のうち納税義務が確定した額を超える部分並びに加算税の賦課決定処分の適法性を検討する。
消費税の算出にあたっては,事業者が国内において課税仕入れ等を行った場合には,当該課税仕入れ等を行った日の属する課税期間の消費税法45条1項2号に掲げる課税標準額に対する消費税額から当該課税期間中に国内において行った課税仕入れ等に係る消費税額を控除することとされ(同法30条1項),その残額が納付すべき消費税額となる(なお,地方消費税は,地方税法72条の83により,消費税額の100分の25とされている。)。ここでいう「事業者」とは,個人事業者及び法人(消費税法2条1項4号)をいい,消費税の納税義務者とされており(同法5条1項),納付すべき消費税額の金額は,原則として,各納税義務者ごとに,かつ,各課税期間ごとに計算される。本件においては,ツインブライト社は,被控訴人とは別法人であり,原則として,法人格が異なるツインブライト社の仕入れ等に係る消費税額を被控訴人の控除対象仕入税額に含めることはできない。
他方,消費税法13条は,法律上資産の譲渡等を行ったとみられる者が単なる名義人であって,その資産の譲渡等に係る対価を享受せず,その者以外の者がその資産の譲渡等に係る対価を享受する場合には,当該資産の譲渡等,当該対価を享受する者が行ったものとして消費税法の規定を適用するとしており,本条自体は資産の譲渡等(消費税法2条1項8号)を行った者の認定について規定しているものであるが,課税仕入れ(消費税法2条1項12号)を行った者の認定にも当然適用されるものと解すべきである。したがって,ツインブライト社が,上記にいう「単なる名義人」(消費税法13条)といえるかが問題となる。
証拠(甲1,乙11,12)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人は,いわゆる便宜置籍船を利用して,運航費,特に配乗費を抑えるために,パナマ法に基づきツインブライト社を設立したものであるが,ツインブライト社は,パナマ船籍の船舶を所有し,被控訴人から資金を調達の上で自らが船舶の発注者として造船契約を締結するなどしているほか,これらの船舶を傭船して収益をあげ,船員を雇用するなどの支出も行っていることが認められる。他方,ツインブライト社名義の船舶の所有者は実質的には被控訴人である旨が記された公正証書等(甲22ないし26)が存在し,また,被控訴人はツインブライト社の設立以来,その資産,負債及び損益を被控訴人の会計帳簿(甲11の1ないし3)に記載しており,ツインブライト社独自の会計帳簿及び計算書類等は存在しないなどの事情も窺えるが,当事者間の合意や,被控訴人がどのような会計処理をしていたかということから,直ちにツインブライト社が「単なる名義人」(消費税法13条)であるとはいえず,上記の事情に鑑みれば,ツインブライト社は,別法人として独自の活動を行っており,消費税法13条は適用されないというべきである。
これに対し,被控訴人は,本件への消費税法13条の適用の有無にあたっては,ツインブライト社が別法人であるかを論じるのではなく,ツインブライト社名義の課税仕入れが,実質的に誰に帰属するのかを論ずるべきであり,本件の場合,ツインブライト社名義の課税仕入れは,実質的には被控訴人自身に帰属すると主張する。しかしながら,被控訴人とツインブライト社が別法人であるというだけではなく,前記認定のとおり,ツインブライト社がパナマ船籍の船舶を所有する地位を保有し,それゆえに安価な経費で外国船員を雇用し,これら船舶を傭船して収益をあげていることに照らせば,本件に消費税法13条は適用できないというべきであって,被控訴人の主張は理由がない。
よって,消費税及び地方消費税に係る本件更正処分のうち納税義務が確定した額を超える部分並びに加算税の賦課決定処分は適法である。
第5 結論
したがって,被控訴人の訴えのうち,平成6年8月1日から平成7年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額652万3500円を超えない部分,平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の消費税の更正処分のうち納付すべき税額638万6000円を超えない部分及び平成8年8月1日から平成9年7月31日までの課税期間の地方消費税の更正処分のうち納付譲渡割額44万7700円を超えない部分の各取消しを求める部分を却下し,その余の被控訴人の請求はいずれも棄却すべきである。よって,これと異なる原判決を取り消して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・馬渕勉,裁判官・吉田肇,裁判官・平出喜一)