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高松高等裁判所 平成17年(ネ)150号 判決 2005年10月07日

松山市●●●

控訴人

●●●

同訴訟代理人弁護士

山口直樹

横浜市青葉区荏田西1丁目3番地20

被控訴人

株式会社ライフ

同代表者代表取締役

●●●

同訴訟代理人弁護士

●●●

主文

1  原判決を次のとおり変更する。

2  被控訴人は,控訴人に対し,金79万5066円及び内金79万0021円に対する平成15年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  控訴人のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は,第1,2審ともにこれを10分し,その1を控訴人の負担とし,その余を被控訴人の負担とする。

5  この判決は,第2項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を次のとおり変更する。

2  (なお,控訴人は,下記の範囲に請求を減縮した。)

(1)  主位的主張に基づく請求

ア 被控訴人は,控訴人に対し,金83万3059円及びこれに対する平成15年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

イ 被控訴人は,控訴人に対し,金5004円及びこれに対する平成17年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(2)  予備的主張に基づく請求

ア 被控訴人は,控訴人に対し,金82万6581円及びこれに対する平成15年12月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

イ 被控訴人は,控訴人に対し,金5934円及びこれに対する平成17年6月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  仮執行宣言

第2事案の概要

本件は,控訴人が,被控訴人との間のクレジット・カード等を用いた金銭消費貸借契約に基づいて弁済した金額のうち,利息制限法所定の制限利率を超える部分を順次元本に充当して計算すると過払いが生じているとして,被控訴人に対し,不当利得返還請求権に基づき,過払金の返還を求めるとともに,これに対する過払金発生日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による利息の支払(民法704条の悪意の受益者に対する利息支払請求)を求めた事案である。

1  前提事実(以下の事実は,当事者間に争いがないか,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。)

(1)  被控訴人は,金融業等を目的とする株式会社である。

(2)  ライフ・マスターカードの利用契約等

ア 控訴人は,平成2年6月20日ころ,被控訴人との間で,ライフ・マスターカード利用契約を締結した(以下「本件カード利用契約1」という。乙8)。

本件カード利用契約1は,カードショッピングとキャッシングの両方ができるものであるが,キャッシングについては,あらかじめ定められた利用限度額の範囲内で控訴人がカードを用いて金を借り,残高スライド元利定額リボルビング払い(月末残債務額に応じて翌月26日ないし翌々月3日に一定の金額を支払う。)によって支払うものであり,上記リボルビング払いの場合の実質年利は26.4パーセントであり,遅延損害金の利息は29.2パーセントである。

イ 本件カード利用契約1に基づく控訴人と被控訴人間の取引経過は,原判決別表計算書2の「年月日」,「貸金」,「支払済みの額」欄記載のとおりである(以下,本件カード利用契約1に基づく貸付けを「本件貸付け1」という。)。

(3)  ライフデミカードの利用契約等

ア 控訴人は,平成8年3月8日ころ,被控訴人との間で,ライフデミカード利用契約を締結した(以下「本件カード利用契約2」という。乙9)。

本件カード利用契約2は,キャッシングのみができるものであり,あらかじめ定められた利用限度額の範囲内で控訴人がカードを用いて金を借り,残高スライド元利定額リボルビング払い(毎月3日の時点での残債務額に応じて同日に一定の金額を支払う。)によって支払うものであり,実質年利は27.74パーセントであり,遅延損害金の利息は29.2パーセントである。

イ 本件カード利用契約2に基づく控訴人と被控訴人間の取引経過は,原判決別表計算書3の「年月日」,「貸金」,「支払済みの額」欄記載のとおりである(以下,本件カード利用契約2に基づく貸付けを「本件貸付け2」という。)。

(4)  デオデオカードの利用契約等

ア 控訴人は,平成9年8月27日ころ,被控訴人との間で,デオデオカード利用契約を締結した(以下「本件カード利用契約3」という。乙10)。

本件カード利用契約3は,カードショッピングとキャッシングの両方ができるものであるが,キャッシングについては,あらかじめ定められた利用限度額の範囲内で控訴人がカードを用いて金を借り,カード利用の際の借主の指定により,残高スライド元利定額リボルビング払い(前月末残債務額に応じて翌月26日ないし翌々月3日に一定の金額を支払う。)又は翌月一括払いによって支払うものであり,上記リボルビング払いの場合の実質年利は28.8パーセントであり,遅延損害金の利息は29.2パーセントである。

イ 本件カード利用契約3に基づく控訴人と被控訴人間の取引経過は,原判決別表計算書4の「年月日」,「貸金」,「支払済みの額」欄記載のとおりである(以下,本件カード利用契約3に基づく貸付けを「本件貸付け3」といい,本件貸付け1ないし3を併せて「本件各貸付け」という。)。

ウ 被控訴人は,控訴人に対し,本件カード利用契約3に基づき,カードショッピングによる3万7275円の立替金請求権を有している。

2  争点

(1)  充当計算の方法(争点1)

(控訴人の主張)

ア 主位的主張

本件各貸付けに対する弁済について過払金が生じた場合には,他のカード利用契約に基づく貸付けにも充当されるとするのが当事者の合理的意思に合致するから,本件各貸付けに対する弁済について生じた過払金の充当に当たっては,本判決別紙1の「取引履歴一覧表 縦」のとおり,本件各貸付けの全てを一連の取引として充当計算すべきである。

イ 予備的主張

基本契約が複数存在する場合の過払金の充当計算の方法につき,まず,当該基本契約内で過払金を残元本に充当し,当該基本契約内で過払いとなった場合に他の基本契約の残元本に充当する考え方も成り立つので,これを予備的請求として主張する。この考え方をとった場合の充当計算は,本判決別紙2の「取引履歴一覧表 横」のとおりである。

(被控訴人の主張)

本件各貸付けは,本件カード利用契約1ないし3に基づいて発生したものであるところ,本件カード利用契約1ないし3は,それぞれ時期及び場所を異にして締結された別個の契約であることなどからすれば,本件各貸付けに対する弁済について生じた過払金の充当に当たっては,原判決別表計算書2ないし4のとおり,本件カード利用契約1ないし3の範囲内で充当すべきであり,全てを一連の取引として充当計算すべきではない。

なお,控訴人が主張する計算をすると,その充当計算は,主位的主張につき本判決別紙1の「取引履歴一覧表 縦」のとおりとなり,予備的主張につき本判決別紙2の「取引履歴一覧表 横」のとおりとなることは認める。

(2)  「悪意の受益者」(民法704条)の該当性とその支払うべき利息の利率(争点2)

(控訴人の主張)

被控訴人は,全国展開をする金融業者であり,控訴人から支払を受けたときに,利息制限法所定の利率を超える利息及び損害金を受領した認識は当然にあったといえ,少なくとも過払いである支払を受けた日から「悪意の受益者」(民法704条)として利息を支払う義務がある。そして,被控訴人は,商人(金融業)であり,利得物(金員)を営業のために利用し,収益を上げているのは明らかであるから,その利率は商事法定利率により年6分とすべきである。

(被控訴人の主張)

控訴人の上記主張は,いずれも否認ないし争う。

(3)  相殺(争点3)

(被控訴人の主張)

ア 被控訴人は,控訴人に対し,次のとおり債権を有している。

(ア) 本件カード利用契約2に基づく21万1058円の貸金債権(原判決別表計算書3)

(イ) 本件カード利用契約3に基づく21万3301円の貸金債権(原判決別表計算書4)

イ 被控訴人は,平成16年7月5日の原審弁論準備手続期日において,上記(ア)及び(イ)並びに前記1(4)ウの各債権をもって,上記の控訴人の不当利得返還請求権とその対当額において相殺するとの意思表示をした。

第3当裁判所の判断

1  充当計算の方法(争点1)

(1)  前記「前提事実」のとおり,本件各貸付けは,いずれもカードを発行して,一定の限度額の範囲内において反復継続して貸付けを受けることができ,支払方法は,本件貸付け1及び同2においては契約上,残高スライド元利定額リボルビング払いによって支払うというものであり,本件貸付け3においても控訴人支払金額を見る限りカード利用の際に常に残高スライド元利定額リボルビング払いを指定したものと認められる。したがって,本件各貸付けにおいては,いずれの場合においても,結局のところ,弁済金額及び期限は,貸付の際にあらかじめ決まるのではなく,その時々の残債務によって決まる仕組みとなっており,このような取引の実体からすれば,本件各貸付けは,基本契約ごとに一連の契約が一つの金銭消費貸借取引をなすというべきである。

そして,金銭消費貸借取引においては,借主は,借入れ総額の減少を望み,複数の権利関係が発生するような事態が生じることは望まないのが通常と考えられる上に,上記のとおり,本件各貸付けは,基本契約たる本件カード利用契約1ないし3に基づき反復継続して行われたものであり,しかも,本件各貸付けは,別個にカードが作成され,その貸付限度額,利率や弁済金額などは異なるものの,貸付けや弁済の仕組みは共通しており,被控訴人は,債権管理の便宜等のために基本契約を分けてカードを発行していると考えられることなどに鑑みれば,上記各基本契約において,借主がある基本契約に基づく債務につき利息制限法所定の制限を越える利息を支払い,この制限超過部分を元本に充当した結果,当該基本契約に基づくその時点における借入金債務が全て弁済され,過払金が発生した場合には,この過払金は,当事者間に充当に関する特約が存在するなどの特段の事情のない限り,他の基本契約に基づく借入金債務に対する弁済を指定したものと推認することができるというべきである。上記特段の事情を認めるに足りない本件においては,上記過払金は民法489条及び491条の規定に従って,他の基本契約に基づく借入金債務に充当されることになる。なお,この際,当該他の基本契約に基づく借入金債務の利率が利息制限法所定の制限を越える場合には,貸主は充当されるべき元本に対する約定の期限までの利息を取得することができないと解される。

(2)  以上によれば,本件各貸付けに対する弁済金の充当に当たっては,まず基本契約ごとに過払金を残元本に充当し,残元本に充当してもなお過払金が残っている場合に他の基本契約に基づく貸金債務に充当するのが相当である。

なお,上記の考え方をとった場合に,他の基本契約に基づく貸金債務への充当をするに際し,どの基本契約に基づく残元本に充当するか又はしないかについては,原則としては民法489条及び491条の規定に従って,充当されるべきであるが,本件においては,上記のとおり当該基本契約内で過払金を残元本に充当し,当該基本契約内で過払いとなった場合に他の基本契約の残元本に充当する考え方をとった場合には,本判決別紙2の「取引履歴一覧表 横」のとおり計算することにつき当事者間に争いがないので,このとおり計算することとする。

また,過払金を他の債務に充当する場合は,弁済当時に存在する借入金債務に充当すべきところ,上記取引履歴一覧表においては,過払金が発生した時点(つまり,利息制限法所定の制限を越えて弁済があった時点)では,他の基本契約に基づく債務がない場合もあるが,上記のとおり,本件各貸付けは,基本契約ごとに一つとみるべきであって,ある時点において債務がない場合も,貸付自体は継続しているのであって,後に発生すべき債務に充当することも可能であると解すべきである。

(3)  これに対して,控訴人は,本判決別紙1の「取引履歴一覧表 縦」のとおり,本件各貸付けの全てを一連の取引として充当計算すべきと主張するが,上記のとおり本件各貸付けを1つの貸付けとみることはできない以上は,特定の貸付けに対する弁済が,当該貸付けに充当される前に,他の基本契約に基づく貸付けに充当される理由がなく,本件各貸付け全てを一連の取引として充当計算することはできない。

2  「悪意の受益者」(民法704条)の該当性とその支払うべき利息の利率について(争点2)

(1)  被控訴人が,金融業を目的とする株式会社であることは前記争いのない事実等のとおりである。そして,本件において,被控訴人が,控訴人に対し,貸金業法17条に定める書面及び同法18条に定める書面を交付していた旨の主張を一切行わず,上記各書面を提出していないことからすれば,被控訴人は,少なくとも,控訴人から利息制限法所定の制限を超える弁済金が支払われ,これによって元本が完済され,過払金が発生した時点において,法律上の原因がないことを知りながら控訴人の弁済金を受領していたものと推認することができ,民法704条所定の「悪意の受益者」に該当するというべきである。

したがって,被控訴人は,過払いとなる支払を受けた日から,悪意の受益者として利息を支払うべき義務がある。

(2)  そして,被控訴人は,商人(金融業)であり,商行為である本件各貸付けによって得た金員を営業のために利用し,収益を上げていると認められるから,商事法定利率である年6分の割合による利息の支払義務を負うものと解するのが相当である。

3  相殺(争点3)

(1)  被控訴人の控訴人に対する立替金請求権

前記第2の1(4)ウのとおり,被控訴人は,控訴人に対し,本件カード利用契約3に基づく立替金債権3万7275円を有しているが,証拠(甲2,乙10)及び弁論の全趣旨によれば,これは平成15年11月4日に弁済期が到来したものと認められる。

なお,被控訴人は,本件カード利用契約2に基づく貸金債権(原判決別表計算書3)として21万1058円,本件カード利用契約3に基づく貸金債権(原判決別表計算書4)として21万3301円の債権についても相殺を主張するが,上記1で説示したとおり,被控訴人が主張する計算方法は認められず,上記の各債権は認められない。

(2)  被控訴人による相殺の意思表示

被控訴人は,控訴人に対し,平成16年7月5日の原審弁論準備手続期日において,上記(1)の立替金債権をもって,上記1の控訴人の債権とその対当額において相殺するとの意思表示をした(顕著な事実)。なお,被控訴人は,上記1の各債権のうち,どの基本契約に基づく債権を受働債権とするかについて明示的に指定していないが,上記(1)の立替金債権がもともと本件カード利用契約3に基づいて発生したものであることに鑑みれば,同契約に基づく債権を受働債権として指定したものと推認されるというべきである。

その結果,過払金の充当を行った場合の計算の結果は,本判決別紙2の「取引履歴一覧表 横」のうち,番号222以下のデオデオカード(本件カード利用契約3)に係る計算は,別紙3の「相殺計算書」のとおりとなる。

また,本件カード利用契約1及び2に係る計算は,本判決別紙2の「取引履歴一覧表 横」のとおりである。

(3)  よって,控訴人は,被控訴人に対して,①平成15年12月3日における本件カード利用契約1に基づく過払金として20万4979円,同月3日までの過払金利息累計1364円及び20万4979円に対する同月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を,②同月3日における本件カード利用契約2に基づく過払金として20万9056円,同月3日までの過払金利息累計2008円及び20万9056円に対する同月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を,並びに③同月3日における本件カード利用契約3に基づく過払金として37万5986円,同月3日までの過払金利息累計1673円及び37万5986円に対する同月4日から支払済みまで年6分の割合による金員を請求することができる。

なお,過払金に対する利息は,民法704条に基づき生じたものであるが,利息債権は弁済期を徒過しても遅延損害金を生ずることはないので,これに対して控訴人がさらに遅延損害金を請求することはできない。よって,控訴人の請求のうち利息に対する遅延損害金を求める部分は失当である。

第4結論

したがって,上記と異なる原判決を,主文のとおり変更する。

(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 吉田肇 裁判官 平出喜一)

<以下省略>

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