高松高等裁判所 平成17年(ラ)160号 決定 2005年10月25日
抗告人(債権者) 株式会社エネックス
同代表者代表取締役 A
相手方(原審申立人) 渡邉石油株式会社
同代表者代表取締役 B
同代理人弁護士 西山多一
監督委員 寄井真二郎
主文
1 原決定を取り消す。
2 相手方の本件再生手続開始の申立てを棄却する。
3 当審における手続費用は相手方の負担とする。
理由
第1抗告人の抗告の趣旨及び理由並びにこれに対する相手方の意見
抗告人の抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告申立書」(写し)に記載のとおりであり、これに対する相手方の意見は、別紙「上申書」(写し)に記載のとおりである。
第2当裁判所の判断
1 事実関係
一件記録によれば、次の事実が認められる。
(1) 再生手続開始決定に至る経過
ア 相手方は、石油製品の販売等を目的とする資本金1000万円の株式会社であるが、平成17年7月27日、松山地方裁判所今治支部(原審裁判所)に対し、同月29日に支払うべき仕入代金1億8000万円余(東冷株式会社及び抗告人)の支払資金を準備できない状況に立ち至ったとして、再生手続開始の申立てをした。
なお、これに先立ち、相手方代理人弁護士は、同年5月ころ、相手方から取引先からの受取手形が不渡りになった場合、資金繰りの困難を来しかねないとの相談を受け、自己破産及び民事再生手続が法的な方法として考えられることと、その手続の概要を説明した。そして、相手方代理人弁護士は、同年6月下旬ころ、相手方から同年7月末の資金繰りが困難になるかもしれないとの連絡を受け、同月20日すぎころ、相手方からどうしても資金繰りがつかないとの連絡を受け、本格的に再生手続開始の申立ての準備にとりかかり、同月22日、原審裁判所に対し、上記申立てについての事前打合せをした。
イ 本件再生手続開始申立書添付の財産目録には、相手方の財産状況は、資産の部が4億0102万円(ただし、簿価)、負債の部が9億4961万円であるとの記載がある。また、同申立書には、上記負債9億4961万円のうち、担保権付債権額(債権者2名)は5億9122万5244円、予定不足額は2億4000万円余、他の一般債権額(34件)は3億5838万8000円程度であり、上記予定不足額と合わせて5億9838万8000円程度になる見込みとの記載がある。更に、同申立書添付の債権者一覧表には、抗告人に対する債務額(買掛金)は1億5000万円であるとの記載がある。
このほか、同申立書添付の相手方の平成17年6月20日付取締役会議事録には、相手方の経営状態が悪化し、同年7月末日の支払が事実上不可能であるとして、民事再生手続開始の申立てを行うことを諮ったところ、出席取締役の全員が異議なく了承し、同申立てを行うことを決定した旨の記載がある。
また、同申立書添付の相手方代表者作成の同年7月27日付事業計画書には、現時点で債権者対策を行っておらず、相手方代理人弁護士から主要債権者と担保権者に対する根回しをするよう強く言われていたが、仕入れがストップしたり、取付け騒ぎが起こることを恐れてできていないこと、保全処分の後、直ちに債権者の元へ出向き、このような事態になったことをお詫びし、協力をお願いするなどの記載がある。
ウ 原審裁判所は、平成17年7月29日、相手方について監督委員による監督を命じ、監督委員として寄井真二郎弁護士を選任するなどの決定をした。
エ 相手方は、同年8月4日、西条市内で債権者説明会を開き、相手方代理人弁護士及び監督委員が出席し、相手方代表者は欠席した。席上、相手方代理人弁護士は、相手方代表者が心労のためやむなく欠席したことを謝罪し、債権者集会には出席させる旨説明した。そして、相手方代理人弁護士は、本件再生手続開始の申立てに至った経緯や再生計画の方針等を説明し、出席債権者との間で質疑応答等がなされた。そして、上記債権者説明会は、比較的平穏に終了した。
相手方は、同月8日、原審裁判所に対し、上記のとおり債権者説明会を開催したこと、公認会計士の調査結果後、再度債権者説明会を開催する予定であることなどを記載した同月5日付上申書を提出した。
オ 監督委員は、同年8月12日、原審裁判所に対し、相手方及び主要債権者の意見聴取の結果等から申立棄却事由が認められないので、再生手続開始決定をするのが相当である旨の同日付意見書を提出した。なお、監督委員は、最も大口の債権者であり別除権者である伊予銀行(吉海支店)や、同じく別除権者である三井石油などから意見を聴取したが、抗告人については、大口債権者ではあるが、別除権者ではないことを理由に意見を聴取しなかった。
カ 原審裁判所は、同月17日午前10時、相手方について再生手続を開始し、再生債権の届出期間を平成17年9月21日まで、認否書の提出期限を同年10月12日まで、一般調査期間を同年10月19日から同年11月2日まで、財産目録・貸借対照表(民事再生法124条)、報告書(同法125条)の提出期限を同年9月21日、再生計画案の提出期間の終期を同年11月16日とすることなどの決定(原決定)をし、同年8月30日、公告された。
キ 抗告人は、同年9月5日、原決定を不服として即時抗告した。
(2) 抗告人と相手方の関係
ア 相手方は、長年にわたり抗告人からガソリン等を仕入れるなどしており、その仕入量は全体の約3割を占めている(他の仕入先は、東冷株式会社が約3割、三井石油株式会社が約2割である。)。
イ 相手方は、平成14年5月ころ、取引先の倒産等から資金繰りに窮するようになり、資金繰りのため、抗告人から約束手形を借り受けて他者で割引きをし、その手形決済資金を捻出するため、卸し部門で仕入原価を割る価額で販売するということが常態化していった。
ウ 抗告人は、相手方に対し、上記のとおりガソリン等を継続的に納品していたところ、売掛金の平成17年5月繰越分が421万4797円、同年6月納品分の売掛金額が1億5031万9185円で、その合計額1億5453万3982円の支払期日は同年7月31日である。また、同年7月納品分の売掛金額は1憶2545万2410円で、前月分の繰越金額1億5453万3982円との合計額2億7998万6392円の支払期日は同年8月31日である。
抗告人は、この他、上記イのとおり振り出していた約束手形(総額1億5000万円)につき、資金調達をせざるを得ず、同額の貸金債権を有していると主張している。
もっとも、抗告人が届出期間内である同年9月21日に再生債権として届け出たところによれば、①平成17年6月分の売掛金債権額1億5453万3982円、②同年7月分の売掛金債権額1億2545万2410円、③手形債権額1億円(支払期日を同年7月31日とする額面合計5000万円の手形3通、支払期日を同年8月31日とする額面合計2500万円の手形2通、及び支払期日を同年9月30日とする額面合計2500万円の手形3通の総計)、④約定利息金・遅延損害金65万7298円の総額3億8064万3690円の再生債権を有しているとしている。
エ 抗告人は、本件再生手続開始の申立日の前日である同年7月26日、相手方の専務(C)から最近の相手方の業績の説明を受けた上、相手方の資金繰りのため前月と同様に手形を振り出してほしい旨懇願された。そこで、抗告人は、支払期日を同年8月31日とする額面3000万円の手形1通、及び支払期日を同年10月31日とする額面2000万円の手形1通を相手方に振り出した。
オ 本件再生手続開始の申立てを知った抗告人は、上記(1)エの債権者説明会後の同年8月18日、相手方代理人弁護士に対し、同日付内容証明郵便でもって、上記エの手形2通の所在につき、調査するなどして同月25日までに知らせてほしい旨を通知した。
相手方代理人弁護士は、同月29日、相手方から支払期日を同月31日とする上記エの額面3000万円の手形1通を受け取ったとして、抗告人に対し、そのコピーをファクシミリで送信した。
カ 相手方代理人弁護士は、同年10月12日に当裁判所に提出した同日付上申書において、抗告人が振り出した支払期日を同月31日とする上記エの額面2000万円の手形1通を、同月9日に相手方代表者の長男D(取締役)から預かり、抗告人に返還する予定である旨述べた。
(3) その他の事情
ア 相手方は、本件再生手続開始決定の際に定められた認否書の提出期限である同年10月12日を過ぎても、認否書を提出しなかった。
イ 当裁判所は、同年9月28日、相手方に対し、抗告人の抗告理由に対する十分な反論、特に、抗告人の再生債権についての認否等(上記(2)エの額面合計5000万円の手形を含む。)、本件再生手続開始申立書添付の債権者一覧表の抗告人の債権額1億5000万円と抗告人主張の債権額約4億円との齟齬、相手方が抗告人から手形の交付を受けた理由、同手形の決済状況(割引の有無)、債権者説明会における説明、再生債権者とのやり取りの具体的内容などを客観的な資料を添付して、同年10月13日までに明らかにするよう求める旨の事務連絡をした。
相手方代理人弁護士は、同年10月12日、上記(2)カの上申書を提出して、債権者説明会における説明、再生債権者とのやり取りの具体的内容について、資料を添えて明らかにしたが、抗告理由に対する反論を含むその余の点についての返答をしなかった。
当裁判所は、同月13日、相手方代理人弁護士(の事務員)に対し、上記返答未了部分を同月20日までに返答するよう伝えたところ、相手方代理人弁護士は、同日、当裁判所に対し、相手方代表者と連絡が取れないため書面の提出ができないこと、同月28日に松山地方裁判所今治支部で期日が入っている旨の連絡をした。
2 本件再生手続開始の申立棄却事由(抗告人の抗告理由)の検討
(1) 抗告人の主張(抗告理由)の骨子
抗告人は、本件の具体的事情のもとでは、相手方には、民事再生法25条4号にいう「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」に当たる事由があるから、相手方の本件再生手続開始の申立てを棄却すべきである旨主張する。
(2) 検討
ア 民事再生法1条は、「この法律は、経済的に窮境にある債務者について、その債権者の多数の同意を得、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等により、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、もって当該債務者の事業又は経済生活の再生を図ることを目的とする。」と規定し、同法21条は、「債務者に破産手続開始の原因となる事実の生ずるおそれがあるとき」又は「債務者が事業の継続に著しい支障を来すことなく弁済期にある債務を弁済することができないとき」は、債務者は、裁判所に対し、再生手続開始の申立てをすることができる旨を規定している。
このように、民事再生手続は、清算型倒産処理手続である破産手続開始の原因となる事実が生じる前の段階で、債務者が債権者の多数の同意を得て、かつ、裁判所の認可を受けた再生計画を定めること等によって、債権者の犠牲のもとに当該債務者の事業又は経済生活の再生を図り、破産手続の開始をできるだけ回避しようとするものであるから、債務者は、再生手続開始の申立てから再生計画案の提出・認可、認可された再生計画の履行に至るまで、裁判所に対する関係のみならず、再生債権者との関係でも誠実に対応することが当然に求められているというべきである。そして、民事再生法25条4号は、「不当な目的で再生手続開始の申立てがされたとき、その他申立てが誠実にされたものでないとき」に該当する場合には、裁判所は、再生手続開始の申立てを棄却しなければならない旨を規定しているところ、民事再生法の上記目的に鑑みると、同法は、25条1号ないし3号所定の各申立棄却事由とは別に、債務者に不当な目的がある場合又は不誠実な申立てをした場合を、包括的に同条4号の申立棄却事由として定めたものと解される。
イ そこで、本件につき、同条4号所定の申立棄却事由があるかどうかを検討する。
(ア) 上記1認定の事実関係によれば、相手方は、平成17年5月の時点で、相手方代理人弁護士に対し、取引先からの受取手形の不渡りに伴い資金繰りに困難を来しかねない旨の相談をし、同年6月20日開催の取締役会において、相手方の経営状態が悪化し、同年7月末日の支払が事実上不可能であるとして、再生手続開始の申立てを行うことを決議したこと、相手方は、同年6月下旬ころ、相手方代理人弁護士に対し、同年7月末の資金繰りが困難になるかもしれない旨を連絡した、というのであるから、相手方は、遅くとも同年6月末までには再生手続開始の申立てをすべきであったといえ、その後の同年7月27日に至って本件再生手続開始の申立てをしたのは、遅きに過ぎるとの誹りを免れないというべきである。
(イ) また、相手方は、同年6月20日開催の取締役会において、同年7月末日の支払が事実上不可能であるとして再生手続開始の申立てを行うことを決議したのであるから、同年6月21日以降、相手方が上記事実を秘して抗告人を含む債権者からガソリン等を継続的に仕入れた行為は、ガソリン等の代金を支払うことができないかもしれないことを認識しながらガソリン等を仕入れたことにほかならず、上記申立ての準備のために要する相当期間に生じた仕入分を除き、いわゆる取込み詐欺を行ったに等しいというべきである。したがって、抗告人の有する売掛金債権のうち、少なくとも同年7月納品分の売掛金債権額1億2545万2410円(ただし、厳密には本件再生手続開始の申立日以降の分は除く。)は、相手方の違法行為(詐欺行為)によって生じたものであり、実質的には、不法行為による損害賠償請求権にほかならないということができる。そして、相手方は、抗告人のみならず、東冷株式会社から約3割、三井石油株式会社から約2割のガソリン等を仕入れていたということからすると、両社の相手方に対する同年7月納品分の売掛金債権もまた、抗告人と同様、相手方の違法行為によって生じたものというべきである。
(ウ) 加えて、相手方(の専務であるC)は、本件再生手続開始の申立日の前日である同年7月26日、抗告人に対し、上記と同様、取締役会決議の内容を秘したばかりでなく、最近の相手方の業績を説明した上、資金繰りのため、従前と同様、手形の振出しを懇願し、抗告人から額面合計5000万円の手形の交付を受けたものであるが、上記専務による業績の説明が虚偽であったであろうことは明らかであるから、上記専務による、抗告人に損害を与えることを確定的に認識した上、真実を秘して虚偽の事実を申し向け、抗告人を誤信させて額面合計5000万円もの手形を振り出させたものというほかなく、刑法上、詐欺罪を構成する違法なものであることが明らかである。そして、このことは、その後、上記各手形が抗告人に返還され、又は返還されることが確実であり、これにより抗告人に実質的な損害が発生することが回避されたとしても、相手方の違法行為の程度が軽減されるものではない。
(エ) 更に、相手方は、本件再生手続開始の申立てに際し、主要な債権者に対する根回しを行っておらず、この点は、多数の債権者の同意を得て再生計画を定める等の手続きを行うという民事再生法の目的に照らし、およそ好ましくない上、相手方代表者は、同年7月27日付事業計画書において、「保全処分の後、直ちに債権者の元へ出向き、このような事態になったことをお詫びし、協力をお願いする。」などと記載しておきながら、上記申立て後の同年8月4日に開催した債権者説明会に欠席しているのであって、相手方代表者の上記態度は、債権者の犠牲のもと相手方の再生を図るという民事再生手続の利用者として、余りにも誠実さを欠くものというほかない(なお、監督委員が当裁判所に提出した平成17年10月13日付報告書によれば、上記債権者説明会終了後、監督委員が相手方代表者から事情聴取を行い、債権者説明会を欠席した理由を尋ねたところ、相手方代表者は「一部の債権者から激しい取り立て行為を受けており、債権者説明会終了時に、監禁される可能性がある。」との説明をしたというのであるが、債権者説明会には相手方代理人弁護士のみならず、監督委員の寄井弁護士も出席していたのであるから、一部の債権者から激しい取立て行為を受けており、債権者説明会終了時に監禁される可能性があったかどうかはともかく、やはり債権者説明会に出席して誠意を示すべきであったといわざるを得ない。)。
(オ) このほか、監督委員の上記報告書によれば、監督委員は、再生債権者から相手方代表者と連絡が取れないとの苦情が寄せられているというのであり、また、上記1(3)アのとおり、相手方は、認否書の提出期限である平成17年10月12日を過ぎても認否書を提出していないこと、上記1(3)イのとおり、相手方代理人弁護士は、当裁判所から、平成17年10月20日までに抗告人の抗告理由を含む未回答部分の返答をするよう求められたのに対し、同日、当裁判所に対し、相手方代表者と連絡が取れないとの返答をしたというのであって、本件再生手続開始の申立代理人である相手方代理人弁護士が相手方代表者と連絡がつかない状況であるということ自体、再生手続を利用する者の態度として異常であり、余りにも誠実さを欠くものである。
ウ 以上検討したところによれば、本件再生手続開始の申立てに至る経緯、同申立て後から本件再生手続開始の決定、そして、現在に至るまでの間の相手方(特に相手方代表者)の態度は、再生債権者に対する関係のみならず、裁判所に対する関係でも不誠実極まりないものというほかなく、民事再生法25条4号にいう「申立てが誠実にされたものでないとき」に当たると認めるのが相当である。
3 職権による検討(民事再生法25条3号所定の申立棄却事由の有無)
(1) 民事再生法25条3号所定の申立棄却事由について
民事再生法25条3号は、「再生計画案の作成若しくは可決の見込み又は再生計画の認可の見込みがないことが明らかであるとき」は、裁判所は、再生手続開始の申立てを棄却しなければならない旨規定しているところ、このうち、「再生計画案の可決の見込みがないことが明らかであるとき」とは、債権者の債務者に対する不信感が強く、到底再生計画への賛成を得ることが見込めない場合などがこれに当たると解される。
(2) 検討
ア 上記1(2)ウ認定の事実関係のとおり、抗告人は、再生債権者として約3億8000万円の再生債権を有していることになるところ、上記1(1)イ認定の事実関係によれば、相手方の財産目録及び債権者一覧表から窺われる一般再生債権の総額は、別除権者の予定不足額を含めて5億9838万8000円程度になることが認められ、この中には抗告人の債権額1億5000万円が含まれているから、結局、上記財産目録及び債権者一覧表記載の債務額を前提にすると、別除権者の予定不足額を含む一般再生債権の総額は8億2838万8000円となり、このうち抗告人の債権額は、その過半数近くを占めることになる。
イ 監督委員が提出した平成17年10月13日付報告書によれば、同年8月4日開催の債権者説明会では、相手方代理人弁護士の示した再生計画の方針に対し、出席債権者からは明確かつ積極的に反対する意見を聴取できなかったこと、念のため、監督委員が最も大口の債権者であり別除権者でもある株式会社伊予銀行(吉海支店)の担当者から再生計画についての意見を聴取したところ、「積極的には反対しない。」との意見であったこと、本件再生手続開始決定後、監督委員が別除権者である三井石油株式会社の担当者から話を伺ったところ、その時点では、伊予銀行と同様、積極的に反対するとまでの意見ではなく、現在でも再生計画について明確かつ積極的に反対する意向にはないが、次第に債務者の対応に不満を抱きつつある、というのである。そして、株式会社伊予銀行が届出期間内に再生債権の届出をしたところによれば、同銀行の債権額合計1億2299万8464円のうち、不足見込額は6044万0257円であること、三井石油株式会社が再生債権の届出をしたところによれば、同社の債権額(不足見込額)は合計1億0198万0313円であることが認められる。
また、相手方の大口仕入先であった東冷株式会社が再生債権の届出をしたところによれば、同社の債権額は合計4億2032万7175円であることが認められる(なお、相手方が提出した債権者一覧表には、東冷株式会社の債権額は1億5000万円であるとの記載がある。)。
ウ 上記ア及びイで検討したところによれば、相手方の仕入先であり、大口債権者である抗告人、東冷株式会社及び三井石油株式会社に加え、メインバンクである株式会社伊予銀行の有する一般再生債権(不足予定額)を合計すると、10億円を優に超えるものであるところ、上記1(2)認定の事実関係に照らし、相手方の提出するであろう再生計画案に抗告人が反対するのは確実であり、三井石油株式会社も抗告人に同調して反対する可能性が高い。また、東冷株式会社も、平成17年7月納品分の売掛金債権につき、抗告人と同様の事情があるから、やはり抗告人に同調して反対する可能性が高い。更に、株式会社伊予銀行も反対する可能性がある。
以上のほか、上記2(2)ウで説示した相手方(特に相手方代表者)の不誠実な態度を総合考慮すると、本件再生手続開始決定(原決定)がなされた時点において、「再生計画案の可決の見込みのないことが明らかであるとき」に当たる事由があったと認めるのが相当である。
4 まとめ
以上によれば、抗告人のその余の抗告理由について判断するまでもなく、相手方の本件再生手続開始の申立ては、民事再生法25条3号及び4号所定の申立棄却事由があるから、棄却すべきものである。
第3結語
よって、原決定を取り消し、相手方の本件再生手続開始の申立てを棄却することとして、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 熱田康明 島岡大雄)
<以下省略>