高松高等裁判所 平成17年(ラ)80号 決定 2005年6月22日
抗告人
甲野太郎
同法定代理人親権者父
甲野次郎
同法定代理人親権者母
甲野花子
同代理人弁護士
中村忠行
相手方
乙原春子
同法定代理人親権者父
乙原一夫
同法定代理人親権者母
乙原夏子
同代理人弁護士
都築靜雄
原審第542号事件本人・同第889号事件未成年者
乙原秋子(平成15年*月*日生)
主文
1 原審判中,第2項を取り消す。
2 抗告人は,相手方に対し,未成年者乙原秋子を引き渡せ。
3 抗告人のその余の即時抗告を棄却する。
理由
第1 抗告の趣旨
原審判をいずれも取り消し,本件を高松家庭裁判所丸亀支部に差し戻す。
第2 抗告の理由
別紙「抗告理由書」(写し)及び平成17年6月14日付け「上申書」(写し)記載のとおり。
第3 事案の概要(前提事実)
1 申立ての要旨
本件は,未成年者乙原秋子(以下「秋子」という。)について,同未成年者を認知した父である抗告人が,同未成年者の親権者の母を相手方として,自らを親権者に指定することを求めた(原審平成16年(家)第542号事件,以下「本件親権者指定事件」という。)ところ,相手方が,現在の親権者であることを理由に,現に秋子の監護に当たっている抗告人に対し,その引渡しを求めた(原審平成16年(家)第889号事件,以下「本件子の引渡し事件」という。)事案である。
2 経過
一件記録によれば,以下の経過が認められる。
(1) 抗告人と相手方は,抗告人が中学2年生,相手方が中学1年生であった平成12年ころに知り合って交際を始めた。両者はけんか別れをしては再び交際することを繰り返し,平成14年12月ころにまた離別するに至った。
(2) 平成15年4月ころ,相手方は自分が妊娠していることに気づいた。そこで,同年6月,抗告人と相手方は互いの両親を交えて話合いを持ち,二人の関係を修復した上で,ただ,当時,抗告人も相手方も婚姻適齢に達していなかったことから,いずれは結婚するという前提で,相手方は子を出産することになった。
(3) 同年8月29日,相手方は秋子を出産し,同年9月8日,抗告人は秋子を認知した。
(4) 同年9月下旬ころから,相手方と秋子は,平日は抗告人方で同人及びその両親ら家族と過ごし,週末は相手方の実家でその家族らと過ごすようになった。抗告人は平日の日中は仕事に出ており,相手方も同年10月からは在籍していた高校に復学したため,このころから平日の日中は主として抗告人の母が秋子の世話に当たるようになった。
(5) 平成16年4月中旬ころ,抗告人と相手方は,やはり交際を続けることができないということになって離別し,相手方は実家で生活するようになったが,双方が秋子の養育を望んだことから,秋子は,それまでと同様に,平日は抗告人方で,週末は相手方方で養育されることになった。
(6) 同年5月25日,抗告人は,代理人を通じて,本件親権者指定事件の審判を申し立てた(同事件は,同年6月21日付けで調停に付された。)。
(7) 同年6月末ころから,秋子は専ら抗告人方で養育されるようになった(その経緯につき,抗告人は,相手方が秋子を迎えにも,会いにも来なくなったと主張し,相手方は抗告人が秋子に会わせてもくれなかったと主張しており,両者の言い分は食い違っている。)が,秋子の親権者ないし監護者について,抗告人と相手方との間での協議により,これを抗告人と定めた訳ではなかった。
(8) 平成16年7月6日,本件親権者指定事件についての第1回調停期日が開かれ,同期日には,抗告人代理人,相手方及び相手方の法定代理人母が出頭した。
(9) 平成16年8月17日,同第2回調停期日が開かれ,同期日には,双方当事者本人のほか,抗告人の法定代理人父,抗告人の姉及び相手方の法定代理人母が出頭した。
(10) 相手方は,その後,代理人を選任し,平成16年9月8日,相手方は同代理人を通じて,本件子の引渡し事件審判及び同審判前の保全処分(以下「本件保全事件」という。)を申し立てた(本件子の引渡し事件は,同年10月5日,本件親権者指定事件に併合された。)。
(11) 平成16年10月1日,本件親権者指定事件について第3回調停期日が開かれ,双方当事者本人及び双方代理人のほか,抗告人の法定代理人父母及び相手方の法定代理人母が出頭した。当日の期日においては,話合いによる解決の期待が持てない状況であると判断され,双方とも審判への移行を希望したため,調停は不成立となった。
なお,本件親権者指定事件についての調停期日には,毎回,調査官が同席し,双方当事者及び関係人の主張や意見を聴取した。
(12) 平成16年10月14日,相手方は,本件保全事件を取り下げた。
(13) 平成16年10月5日以降,調査官により,本件親権者指定事件及び本件子の引渡し事件について包括調査が行われた。同調査においては,双方当事者との面接,家庭訪問のほか,平成16年11月25日には,高松家庭裁判所児童室において抗告人,相手方及び抗告人の母それぞれと秋子が一緒にいる様子を個別に観察する方法による調査が実施され(以下「本件観察」,またその結果を「本件観察結果」という。),調査官は,平成16年12月27日付調査報告書を原裁判所に提出し報告をした。原裁判所は,同報告を踏まえ,平成17年3月24日,原審判をした。
(14) 原審判の審判書(以下「本件審判書」という。)は,平成17年3月24日に相手方代理人に交付され,同月25日に抗告人代理人に送達された。なお,その後,原裁判所は,平成17年4月1日付けで更正審判を行い,当該更正審判書(以下「本件更正審判書」という。)は,同月11日に相手方代理人に交付され,同日,抗告人代理人に送達された。
3 これまでの監護状況
上記のとおり,秋子は生後間もない時期から,平日は抗告人方で,週末は相手方方で養育され,生後約8か月の平成16年4月ころに抗告人と相手方が別離した後も生後約10か月になる同年6月末ころまでは同様の形態で養育され,その後今日まで専ら抗告人方において,主に抗告人の母によって養育されている。
現時点において,秋子は抗告人方で落ち着いて生活しているようであるが,生後の監護の継続性という観点からは,少なくとも本件親権者指定事件調停の申立てまでの段階では,抗告人(ないしその母)と相手方はほぼ同等であるといえる。
4 当事者双方の監護能力等について
一件記録によれば,以下のとおり認められる。
(1) 抗告人について
抗告人は,秋子に対し愛情をもって接しており,秋子も抗告人に良くなついている。
抗告人は平日の昼間は仕事に出ており,現実には主として抗告人の母が秋子の世話をすることが予定されているが,上記のように同人は平成15年10月ころから現に秋子の監護に当たっているところ,その監護の方法等に問題は認められない。相手方は抗告人やその同居家族は入れ墨をしており,子の養育者,養育環境としてふさわしくない旨指摘するが,その一事をもって直ちに親権者として不適格であるとはいい難い。その他,本件に表れたすべての事実ないし事情を勘案しても,抗告人側の監護の能力や意欲,秋子の養育の場となる抗告人の家庭環境,扶養の上での経済的状況等に親権者としての適格性に疑いを抱かせるような問題点は見当たらない。
(2) 相手方について
相手方も,秋子に対し愛情をもって接しており,秋子も良くなついている。相手方は,秋子の監護養育に当たっていた平成16年6月末以前の同人の生活状況については,抗告人よりも良く把握している。
相手方は,平成16年8月末には高校を中退し,同年11月ころからアルバイトを始めているが,秋子の養育に関しては相手方の母が,経済的な面では相手方の養父が,それぞれ相手方を援助する意向であり,監護の能力や意欲,家庭環境,経済的状況等に特に問題点は見当たらない。
抗告人は,相手方が素行不良者と交際している旨指摘するが,本件記録を検討する限りは,秋子の養育に直ちに悪影響を及ぼすような不良交友があるとまでは認めることはできない。その他の事情等を勘案しても,親権者としての適格性に疑いを抱かせるほどの問題点は見当たらない。
5 家庭裁判所調査官の観察結果
家庭裁判所調査官による観察の結果によれば,抗告人あるいはその母と相手方のいずれも秋子との関係は良好ではあるものの,本件観察の際には,明らかに相手方の方が秋子との相互交流が多く,秋子の情緒に合わせた対応をとっており,秋子も,相手方といる場面では,体全体で喜びを表現したり,ゆったりと落ち着いた態度を示すことが多く見られるなど,抗告人やその母の場合と比較しても顕著な差が見られたことが認められる。
第4 当裁判所の判断
1 親権者の指定について
(1) 前提事実によれば,これまでの監護の継続性や当事者双方の監護能力,家庭環境,経済的状況等には,いずれの当事者にも大きな問題点はなく,一方の親権を否定すべき点は見当たらない。
しかしながら,乳幼児,特に秋子の年齢にあっては,発達的に母子関係(母親の情緒的応答性)が非常に重要であること,相手方は,本件観察が行われた以前,約5か月もの間,秋子の監護に当たっていなかったにもかかわらず,本件観察の場面においては,秋子との間に上記のような良好な関係がみられ,しかも当該関係は,情緒的応答性の点で,明らかに抗告人に優るものであったこと,秋子の年齢を考えるとき,社会との結びつきなどは乏しく,環境の継続性は比較的重要でないこと,等の事情が認められる。
そうすると,当裁判所としても,とりわけ,相手方と秋子との間に強い情緒的結びつきが形成されており,かつ,それが失われずに持続していると認められる以上,相手方をして秋子の監護養育に当たらせることがその健全育成に資するものと判断する。
(2) 抗告理由の検討
ア 抗告人は,原審判が,秋子の親権者を父である抗告人とする旨の申立てを却下した判断に対する抗告理由として,①秋子が,生後間もない時期から,主として本拠を抗告人方において生活しており,抗告人と相手方とが別離してからもその状況は変わらなかったものであって,これら事情からすれば,抗告人と相手方との間では,秋子の親権者を抗告人(その代行者抗告人の両親)とする旨の合意が成立していたと認められること,②原審判の判断は,本件観察結果を根拠としてなされているところ,かかる観察は客観性に乏しく,また,秋子の福祉という客観的側面を捨象し,同人との相互交流(親和性)という主観的観点だけから親権者指定の当否を判断するものであって失当であること,③相手方は,秋子を乳幼児検診に連れて行こうとせず,また,抗告人から秋子の受診のために健康保険証を引き渡すよう求めてもなかなか応じてもらえず,さらには,相手方には喫煙の習慣があり,相手方の母はパチンコに興じているのであり,これら平素の不行跡をも踏まえると,両名は親権を行う者としてふさわしくないこと,を主張する。
イ しかしながら,上記①については,前記第3の2(7)のとおり,一件記録によっても,抗告人と相手方との間で,抗告人を親権者又は監護者と定める旨の協議が成立したとの事実を認めることができないから(むしろ,一件記録によれば,相手方は,平成16年6月末ころ以降,秋子の養育に関しては調停で解決することとし,面接を求めることを控えていたが,同年8月以降,面接を求め続けたことが認められる。),当該主張は失当である。
また,上記②については,記録によれば,確かに,原審判は,本件観察結果を重要な根拠としてはいるものの,それのみならず,秋子の年齢にかんがみれば,母との情緒的応答性等の関係性の質が重要であること等を考慮した上で,相手方をして秋子の監護養育に当たらせることが,その健全育成に資すると判断したものであるから,決して,秋子の福祉という側面を捨象したものでないことは明白である。そうすると,この点に関する抗告人の主張も採用することはできない。
また,上記③については,確かに,相手方については,秋子の乳幼児検診等病院への受診を抗告人の母に任せていたり,秋子のために必要な際に健康保険証を抗告人になかなか交付しない等の事実が認められるが,一方で,相手方は,秋子の病状について詳細に把握し,母子手帳へも発育状況を記載するなどしており,これらの事実からは,秋子の養育につき関心と意欲をもって取り組む態度がうかがえるのであり,抗告人が主張する事実のみで,相手方が秋子の親権者として不適格であるとまで認めることはできない。なお,抗告人は,相手方の母親もまた不行跡な人物である旨を述べるが,本件全記録によるも相手方を親権者として不適格であるとまで認めるほどの重大な素行の不良を認めることはできない。
ウ 以上のとおり,親権者の指定に関する抗告人の主張は,いずれも採用することができない。
(3) 小括
したがって,秋子の監護養育については,相手方をして当たらせるのが相当であると判断し,抗告人の親権者指定の申立てを却下した点につき,原審判は相当である。
2 子の引渡しについて
(1) 審判申立ての不告知及び審判書の不送達の主張について
ア 抗告人は,本件子の引渡し事件が申し立てられたことさえ,抗告人には知らされておらず,その結果,仮に,当該手続が申し立てられたことを知っていたならば行ったであろう監護費用の支払いを求める申立てをする機会を奪われたものであり,また本件子の引渡し事件に対する審判書は同事件の代理人に就任していない抗告人代理人に対し送達されたものであり,このように手続が保障されていない審判は違法であり,かつ受領権限を有しない者に対する審判書の送達は無効である旨主張する。
イ 一般に,家事事件は,家庭裁判所が後見的立場から合目的的にその裁量権を行使して行うものであり,その審判手続の本質は非訟事件である。そして,いわゆる職権探知主義がとられ,家庭裁判所は職権で事実の調査を行い,また調査官に命じてこれをさせることができるのであり,事件ごとにその状況に応じた調査方法がとられるのであって,民事訴訟事件とは異なり,必ずしも事件の当事者や関係人を法定の手続で調査,審問しなければならない訳ではない。
しかしながら,いわゆる乙類家事審判事件の中には,利害の対立する当事者の存在を前提とする争訟的色彩の強いものもあり,その審理手続において,当事者主義的運用を図るべき必要性及び合理性も事案に応じて認められ,それゆえ実務においては,その点に一定の配慮がなされてきているものであって,当該事件において,合理的な理由がないまま当事者に適正な手続が保障されずに審判が行われた場合には,当該事件の種類や当該事案の内容,当該手続違背の内容や程度によっては,同審判はその審判手続に違法があるものとして取り消され得るものというべきである。
ウ そこで検討するに,およそ子の監護に関する処分については,子の福祉に直接関する処分であるため,裁判所においては後見的役割を果たすことが求められており,理念上は,審判手続における当事者主義的要請は後退せざるを得ないようにも解される。しかしながら,実務上,子の監護の在り方をめぐる当事者間の対立は熾烈であることが少なくなく,その意味で,子の監護に関する処分をめぐる審判手続においては,当事者にとって手続が適正に保障されるべきとの要請は,極めて深刻かつ重要であるといわざるを得ない。
ところで,本件全記録によっても,本件子の引渡し事件に関しては,抗告人に対し同事件が申し立てられた事実を告知したとの事実を認めることはできず,また,前記第3の2(10)ないし(14)記載の経過によれば,本件親権者指定事件と併せて調査官による調査が継続され,抗告人及び同親権者母に対する調査も行われたものの,抗告人は本件子の引渡し事件の申立てを知らないまま上記手続に関与し,本件審判書が抗告人代理人に対し送達されたものであることが認められる。そうすると,抗告人は,本件子の引渡し事件の申立てがなされたこと自体について告知を受けなかったため,およそ原審において,同事件の当事者として主体的に手続を追行する機会を全く与えられなかったのであって,これは本件子の引渡し事件の内容及び審判手続上の手続保障の要請に照らし,当事者の立場を不当に侵害するものと認められるから,原審判の手続は違法であるといわざるを得ない。
エ なお,審判は,その効力を生じる前提として,これを受ける者に告知することを要するが(家事審判法13条),本件審判書(及び本件更正審判書)は,本件子の引渡し事件に関する部分も含めて抗告人代理人に対して送達されており,その時点で抗告人代理人が本件子の引渡し事件の代理人に就任していなかった事実が認められるから,その告知の方法としては無効であったといわざるを得ないものの,その後の経緯からすれば,抗告人代理人が当該送達後,抗告人から委任を受け,本件子の引渡し事件の審判を含め本件抗告を申し立てたことは明らかであるから,現時点においては,本件子の引渡し事件についての審判も,これを受けるべき立場にある抗告人に対し有効に告知されていたと認められ,この点の不備は,治ゆされたというべきである。
(2) 子の引渡し事件についての判断
ア 上記のとおり,本件子の引渡し事件の原審判手続は違法といわざるを得ないから,当該審判部分については,家庭裁判所に差し戻すべきとも考えられる。
ところで,高等裁判所は,即時抗告が理由あるものと認めるときでも,相当であると認めるときは,みずから事件につき審判に代わる裁判をすることができるものである(家事審判規則19条1項,2項)ところ,その趣旨は,当該家事事件の内容につき,家庭裁判所の特殊専門性や調査官などの人的資源を利用して審理を継続する必要がある場合には事件を家庭裁判所に差し戻すべきであるが,逆に,原審判を取り消して新たな内容の決定をするにつき,改めて家庭裁判所の人的資源ないし家事事件の特色を活用するまでの必要が認められない場合,すなわち原審及び抗告審における事実の調査,証拠調べの結果からみて,既に事実関係が明らかであって,更に家庭裁判所で審理を行う必要がない場合においては,家庭裁判所に差し戻すまでもなく,直ちに判断をすることが可能であるというものと解される。
イ 本件子の引渡し事件の審判は,その申立てが告知されず,抗告人において同事件の当事者として主体的に手続に関与できなかった手続上の違法があるところ,当審においてその告知がなされ,同事件についての意見聴取の機会があり,抗告人代理人においてその意見を述べたことが認められる。また,本件子の引渡し事件については,同事件と本件親権者指定事件とは,実質的には表裏の関係にあり(親権者がいずれかに定まれば,秋子は,必然的に指定された親権者の元において監護養育されるべきこととなる。),両事件の争点はほぼ共通であると認められる。そして,前記第3の2の経過によれば,本件親権者指定事件に関する各調停期日には,抗告人本人及び同代理人のほか抗告人の親族が出頭し,その都度,調査官も同席し,秋子の監護養育についての主張及び意見が聴取されたこと,本件子の引渡し事件は,本件親権者指定事件についての第3回調停期日の前に申し立てられ,同期日には,抗告人本人及び同代理人のほか,親族らも立ち会っていたこと,同期日において,同調停は不成立となり審判手続に移行し,その後は,期日こそ開かれなかったものの,調査官による調査が継続され,しかも同調査においては,再び,双方当事者及びその関係人から,秋子の監護養育についての主張及び意見が詳細に聴取されたことが認められる。
このような経過に加え,当審において抗告人から提出された主張や意見を検討しても,家庭裁判所の特殊専門性や人的資源を利用して更に調査を尽くすべき内容は認められないことにかんがみれば,本件子の引渡し事件については,既に現時点までに,事実の調査が実質的に十分尽くされていると認めることができる。
ウ なお,抗告人は,仮に本件子の引渡し事件が申し立てられたことを知らされていたならば,これに対抗する必要上,それまでに抗告人が負担してきた監護費用の請求についての申立てをしたはずである旨主張するけれども,過去の監護費用の精算と子の引渡しが同時に審理されるべき必然性はなく(これらが同時履行の関係にないことはいうまでもない。),また,当該申立ては,必ずしも本件子の引渡し事件にとって抗告人の有力な対抗手段となり得るともいい難い。
(3) 小括
以上のとおり,本件子の引渡し事件に関する原審判は,手続に違法があるものとして取り消されるべきであるが,家庭裁判所に差し戻すまでもなく,当審にて判断するのが相当と認められる。
そして,前記1のとおり,秋子の監護養育については,これを母である相手方をして当たらせるのが相当であるから,当該判断を前提に,本件子の引渡し事件につき,当審において,改めて,抗告人に対し,秋子を相手方に引き渡すよう命じるのが相当である。
第5 結論
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官・馬渕勉,裁判官・吉田肇,裁判官・山口格之)
別紙
抗告理由書<省略>
上申書<省略>