高松高等裁判所 平成17年(行コ)10号 判決 2006年9月29日
主文
1 1審原告らの本件控訴に基づき,原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告が1審原告Aに対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜一発第480号により同1審原告に通知されたもの)のうち,別紙文書目録記載の部分を開示しないとした処分を取り消す。
(2) 1審被告が1審原告Aに対して平成15年8月7日付けでした公文書非開示処分(同日付け暴対発第393号により同1審原告に通知されたもの)のうち,別紙文書目録記載の部分を開示しないとした処分を取り消す。
(3) 1審被告が1審原告Bに対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜二発第178号により同1審原告に通知されたもの)のうち,別紙文書目録記載の部分を開示しないとした処分を取り消す。
(4) 1審原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
2 1審被告の本件控訴を棄却する。
3 訴訟費用は第1,2審を通じて3分し,その1を1審原告らの負担とし,その余を1審被告の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 1審原告ら
原判決を次のとおり変更する。
(1) 1審被告が1審原告Aに対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜一発第480号により同1審原告に通知されたもの)を取り消す。
(2) 1審被告が1審原告Aに対して平成15年8月7日付けでした公文書非開示処分(同日付け暴対発第393号により同1審原告に通知されたもの)を取り消す。
(3) 1審被告が1審原告Bに対して平成15年8月6日付けでした公文書非開示処分(同日付け捜二発第178号により同1審原告に通知されたもの)を取り消す。
(4) 1審被告が1審原告Bに対して平成15年8月6日付けでした公文書部分開示処分(同日付け捜二発第第177号により同1審原告に通知されたもの)のうち,公文書を非開示とした部分(ただし,平成18年3月13日付けでした公文書部分開示処分(同日付け捜二発第35号により同1審原告に通知されたもの)で一部開示した部分を除く。)を取り消す。
2 1審被告
(1) 原判決中,1審被告敗訴部分を取り消す。
(2) 前項の部分に係る1審原告Aの請求を棄却する。
第2事案の概要
1 本件の事案の概要は,後記2のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中第2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2(1) 原判決6頁19行目の次に,改行の上,次のとおり付加する。
「なお,1審被告は,後記のとおり,平成18年3月,前記の部分開示処分を取り消した上,改めて開示処分ないし部分開示処分をした。その結果,上記イ,ウは新たな上記各処分により開示されるに至った。」
(2) 原判決23頁6行目の「県費本部」を「県警本部」に改め,24頁18行目の次に,改行の上,次のとおり付加する。
「⑧ 高知県議会の請求及び高知県知事の要求による監査の実施高知県議会は,平成17年7月7日,監査委員に対し,平成14年度及び平成15年度の警察本部及び高知警察署における捜査費の執行についての違法,不当な行為の有無について監査を行うよう請求した(甲101)。
また,高知県知事は,同月8日,監査委員に対し,平成12年度から平成15年度までの県警本部及び高知警察署での県費に係る捜査費に関する事務について,監査を求めた(甲102)。
監査委員は,その判断により,平成16年度の捜査費の執行についても監査の対象に加えた上で,監査(以下「特別監査」という。)を実施することとし,平成17年8月26日,県警本部での実地検査に着手し,平成18年2月22日,監査結果報告書を提出した(甲113)。
特別監査は,捜査第一課,暴力団対策課,捜査第二課をも対象とし,捜査費が法令等に基づく適正な手続によって執行されているか,領収書又はレシートといった証拠書類が適正に保管されているか,執行された捜査費が支出の目的に沿って適正に使用されているか,執行された捜査費が正当な債権者に支払われているかといった事項に主眼を置いて実施された。
特別監査の結果,対象となった1万3789件(5141万8636円)のうち,支出の実体がないと判断されるものは85件(77万7966円),支出が不適正と判断するものは115件(69万1693円),支出が不自然で疑念があるものは3178件(1645万0222円)に上り,これらの件数の合計は全体の24.5パーセント,金額の合計は全体の34.9パーセントにまで及ぶものであった。
(13) 1審被告による本件開示請求に対する新たな処分
1審被告は,平成18年3月13日,本件各開示請求に対し,次のとおり,処分をした。
① 本件開示請求1に関する処分
1審被告は,平成18年3月13日,本件開示請求1に対する部分開示処分(原判決別紙処分詳細記載4)を取り消し,
ア 平成14年度の捜査第一課の国費の捜査費支払証拠書のうち,「各月分の表紙」,「各月分の捜査費総括表」,「平成14年度平成15年3月分の捜査費支払証拠書のうち返納決議書及び取扱責任者の領収書」
イ 平成14年度の捜査第一課の県費の捜査費支払証拠書のうち,「各月分の表紙」及び「各月分の捜査費受払表」を開示するとの処分をし,同日付け捜一発第123号公文書開示決定通知書をもって,その旨を1審原告Aに通知した。(乙36の1・2)
② 本件開示請求2に関する処分
1審被告は,平成18年3月13日,本件開示請求2に係る部分開示処分(原判決別紙処分詳細記載5)を取り消し,
ア 平成14年度の暴力団対策課の国費の捜査費支払証拠書のうち,「各月分の表紙」,「各月分の捜査費総括表」,「平成14年度平成15年3月分の捜査費支払証拠書のうち返納決議書,取扱責任者の領収書」
イ 平成14年度の暴力団対策課の県費の捜査費支払証拠書のうち,「各月分の表紙」及び「各月分の捜査費受払表」を開示するとの処分をし,同日付け暴対発第106号公文書開示決定通知書をもって,その旨を1審原告Aに通知した。(乙37の1・2)
③ 本件開示請求3に関する処分
1審被告は,平成18年3月13日,本件開示請求3に係る部分開示処分(原判決別紙処分詳細記載6)を取り消し,
ア 平成14年度の捜査第二課の国費の捜査費支払証拠書のうち,「各月分の表紙」,「各月分の捜査費総括表」,「平成14年度平成15年3月分の捜査費支払証拠書のうち,返納決議書,取扱責任者の領収書」
イ 平成14年度の捜査第二課の県費の捜査費支払証拠書のうち,「各月分の表紙」及び「各月分の捜査費受払表」を開示するとの処分をし,同日付け捜二発第35号公文書開示決定通知書をもって,その旨を1審原告Bに通知するとともに,
ウ 平成14年度平成14年7月分の捜査第二課の国費の捜査費支払証拠書のうち,「激励慰労費の執行に係る捜査費支出伺(添付書類含む。ただし,「支出事由」欄の氏名を除く。)」,「支払精算書(添付書類含む。ただし,警部補以下の警察官の氏名を除く。)」を開示するとの処分をし,反面,ウの除外部分については,下記の理由を挙げて,非開示とするとの処分をし,同日付け捜二発第34号公文書部分開示決定通知書をもって,その旨を1審原告Bに通知した。(乙38の1ないし3)
記
本件条例第6条第1項第2号該当
(理由)
捜査費支出伺の非開示とした部分には,他の情報と結びつけることにより,特定の個人を識別することができる情報が記載されており,かつ,ただし書のいずれにも該当しないため。
また,前記以外の非開示とした部分には,本件条例第6条第1項第2号ウの実施機関が定める公務員の氏名(本件規則第2条に規定する公務員の氏名)が記載されており,特定の個人を識別することができるため。」
(3) 原判決42頁13行目から同44頁20行目までを削り,同46頁10行目の「本件非開示情報2」を「本件非開示情報2-1」に改め,同12行目を削り,同13行目の「(ア)」を「ア」に,同47頁13行目の「(イ)」を「イ」に,同48頁1行目の「(ウ)」を「ウ」にそれぞれ改め,同22行目から同49頁13行目までを削る。
3 前記のとおり,1審被告は,平成18年3月13日,本件開示請求に対して新たな処分を行い,これにより公文書開示決定がされた部分について1審原告らは当審において訴えを取り下げた。その結果,1審原告らは,第1の1(1)ないし(4)記載の裁判を求めている。
第3当裁判所の判断
1 原判決の引用
争点に対する当裁判所の判断は,後記2のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」中第3の記載を引用する。
2(1) 原判決63頁14行目の「非開示とされる」を「非開示とされない」に,同66頁23行目の「当該墨塗り」を「本件非開示情報1-3に関しては,1審原告Bに開示された捜査第二課の激励慰労費執行に係る「捜査費支出伺」の写しの当該箇所に墨塗りが施されているところ,当該墨塗り」にそれぞれ改め,同68頁10行目の「。」,同26行目及び同75頁3行目の各「明らかに」をそれぞれ削り,同76頁8行目から同77頁6行目末尾までを「② 本件非開示情報2-2及び2-3の4号該当性については判断を要しない。」に,同82頁15行目の「指摘し,これを受けた警察庁が,会計適正化を求める通達を都道府県警察に発出していること(弁論の全趣旨)」を「指摘し(乙20),これを受けて平成12年9月14日付けで,警察庁から都道府県警察に「都道府県警察における情報公開の推進について」の通達が発出されたこと(乙21)」に改め,同87頁4行目末尾に「具体的に」を,同7行目末尾に「また,1審被告は,その対応は高知地検による捜査に誠実に協力することによって図ることにしようとの方針を採ったためであるとも主張するが,自ら可能な限りの調査をすることは組織の自浄作用として当然に是認すべきものであり,手段,方法に配慮すれば捜査妨害とのそしりを受けるとは考え難く,この主張も不自然というほかない。」をそれぞれ加え,同20行目の「たことから」を「ことから」に,同88頁4行目の「万全の信頼」を「全幅の信頼」にそれぞれ改め,同89頁9行目から同22行目までを削り,同23行目の「ウ」を「イ」に,同行及び同90頁2行目から3行目にかけての「別紙文書目録1」を「本判決別紙文書目録」に,同7行目の「エ」を「ウ」にそれぞれ改める。
(2) 原判決90頁14行目の次に,改行の上,次のとおり加える。
「エ 1審被告は,本件条例6条2項の解釈論につき,非開示情報を開示することによる不利益に鑑みれば,疑惑解明という公益上の理由で開示する場合があったとしても,それは単なる疑惑が存在するというだけでは足りず,人の生命や身体,財産等の保護のために開示をより必要とする情報であること,又は開示という方法で疑惑の解明が図られ,かつ,そうしなければ疑惑の解明を図ることができないような状況があることが必要である旨主張し,本件手引にも一部これに沿う記載がある。
しかしながら,捜査第一課の捜査費に関する組織的疑惑の解明は,監査委員による本件監査結果や会計検査院による本件検査結果によっても図られず,高知県議会の請求及び高知県知事の要求による監査の実施に及んだものの,特別監査の結果報告においても,支出の実体がない,支出が不適正,支出が不自然で疑念があると判断された件数は全体の24.5パーセント,金額は合計の34.9パーセントあり,監査委員に対しても情報がすべて明らかにされないため,上記指摘以外の部分が適正に支出されたものであると言い切れないとされている(甲113)。このように上記組織的疑惑が存在するにもかかわらずいまだに解明されず,捜査費が高知県民の公金の使途に関することであることに照らせば,本件条例の目的である「県民の県政に対する理解と信頼を深める」ため,上記判断のとおり本件非開示情報2-1のうち別紙文書目録記載の情報を開示するのが不可欠であると認めるのが相当であり,同情報を非開示とした1審被告の処分は本件条例6条2項の適用を誤った違法があると解される。したがって,1審被告の上記主張は採用できない。
オ なお,1審被告は,本件訴訟は,本件非開示処分時における処分の適法性が判断されるべきであるから,疑惑解明という公益上の理由についても,本件非開示処分時における疑惑やその当時における状況を基に判断すべきであり,その後の事情である特別監査結果報告書は考慮すべきではない旨主張する。しかしながら,特別監査結果報告書は,本件非開示処分時以前の警察本部の捜査費に関する会計処理状況を説明したものであって,処分時以降の会計処理を説明したものではなく,疑惑解明という公益上の理由は本件処分時から客観的に存在していたものであるから,本件非開示処分時における処分の適法性の判断において,特別監査結果報告書を考慮することに問題はない。」
(3) 原判決90頁15行目から同91頁4行目までを次のとおり改める。
「② さらに,捜査第二課及び暴力団対策課の各捜査費支払証拠書について検討するに,前記(2)②のとおり,警視庁,北海道警察本部,静岡県警察本部,福岡県警察本部,愛媛県警察本部等,全国広域にわたって,捜査費の支出過程に非難されるべき点が認められ,新聞報道や雑誌,書籍等において警察の組織的不正経理が取りざたされ(甲19,22,24,25,38,40,41,42,47,51,67,72,80,84,85,96,100,109,110。枝番のあるものは枝番を含む。),また,前記(3)のとおり,平成14年度における捜査第一課の捜査費の執行に係る組織的不正経理に関する疑惑があること,捜査費の執行に係る手続において捜査第一課と暴力団対策課及び捜査第二課との間で相違はないこと,1審被告としては捜査第一課のみが捜査費に関し特殊な処理を行っていたとの認識は有していないこと(弁論の全趣旨)に加え,特別監査においては支出の実体がない,あるいは不適正な支出と判断されるものが多数存在することが明らかとなり,この特別監査は平成14年度の捜査第一課等を含む県警本部等の捜査費を対象とするものであること,特別監査の過程において聞き取り調査を受けた捜査員の中には「上司から鉛筆書きを示されてそのとおりに書類を作るよう指示され,そのまま書いた」,「領収書を作るように言われて,電話帳で適当に名前を拾って作った」,「支払書類に押印している印影の印鑑は自分が持っているものではなく,明らかに会計の係が持っている印鑑である。なお,会計の係は三文判の印鑑を数多く持っている」,「飲食費の領収書も私的な飲食の際の領収書を使って,協力者との接触費であるかのように辻褄を合わせた。店舗によっては白地の領収書をもらって来て適当に使っていた」,「菓子折などの手土産の領収書は,私的な買物の際のものを含めて集めておいて,精算の際に辻褄を合わせる」等とまで陳述する者も存したこと(甲113)をも考慮すれば,平成14年度当時において,広く県警本部における組織的不正経理に対する疑惑が存在していたと指摘することできる。したがって,本件各開示請求との関係でいえば捜査第二課,暴力団対策課についても,捜査第一課に対するのと同程度の疑惑が存在するものというべきであるから,捜査第二課及び暴力団対策課の各捜査費支払証拠書についても,捜査第一課と同様に,別紙文書目録記載の限度で本件非開示情報2-1を非開示とすることにより保護される利益に明らかに優越する公益上の理由があるというべきである。」
3 以上の検討によれば,本件各開示請求に対し,1審被告が行った各非開示処分のうち,別紙文書目録記載の各文書について非開示とした部分は,本件条例6条2項の解釈適用を誤った違法があるからこれを取り消すのが相当であるが,同処分のその余の部分及び本件開示請求3に対する部分開示処分のうち非開示とした部分については適法と認められるので,1審原告らの請求は,主文掲記の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却すべきところ,これと異なる原判決を1審原告らの本件控訴に基づき変更し,1審被告の本件控訴には理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 豊澤佳弘 裁判官 齋藤聡)
別紙文書目録
平成14年度の警察本部刑事部捜査第一課,捜査第二課及び暴力団対策課の国費及び県費の各捜査費支払証拠書のうち,
1 各「捜査費支出伺(別紙要式3)」中の,
(1) 「課(署)長」,「総括補佐(副署長・次長)」,「出納簿登記」欄にある各印影
(2) 作成年月日
(3) 「¥ 」欄に記載された金額及び「金額」欄に記載された金額
(4) 被交付者欄(「 渡」欄)に記載された捜査員の官職
(5) 内訳欄中の「官職」欄に記載された捜査員の官職
2 各「支払精算書(別紙要式4)」中の,
(1) 取扱者あて名(「 課(署)長殿」欄)
(2) 精算年月日
(3) 精算者の氏名等欄(「 印」欄)に記載された捜査員の官職
(4) 「既受領額」欄,「支払額」欄,「差引過不足(△)額」欄,支払額内訳の「金額」欄に記載された各金額
(5) 「課(署)長」,「総括補佐(副署長・次長)」,「出納簿登記」欄にある各印影
(6) 精算結果伺(捜査費執行の結果生じた返納又は追給について,「上記の返納額について返納してよろしいか。」,「上記の不足額について支出してよろしいか。」との伺い,及び,精算の結果に係る,返納額の年月日又は不足額の領収年月日の記載。)
(7) 取扱者氏名及び印影(「領収書を徴することができなかった理由は,支払事由欄記載のとおり相違ないことを確認する。」との定型文言の後にある取扱者の氏名及び印影)
3 各「捜査費交付書兼支払精算書(別紙要式5)」中の,
(1) 「課(署)長」,「総括補佐(副署長・次長)」,「出納簿登記」欄にある各印影
(2) 精算・報告年月日
(3) 取扱者あて名(「 課(署)長殿」欄)
(4) 中間交付者の氏名等欄(「 印」欄)に記載された中間交付者の官職
(5) 「既受領額」欄,「交付額」欄,「支払額」欄,「返納額」欄に記載された各金額
(6) 内訳の,「交付額」欄,「支払額」欄,「返納額」欄に記載された各金額
(7) 内訳の「官職」欄に記載された捜査員の官職
4 各「支払伝票(別紙様式6)」中の,
(1) 作成年月日
(2) 捜査員の氏名等欄(「 印」欄)に記載された捜査員の官職
(3) 「金額」欄に記載された金額
5 各支払精算書又は各支払伝票に添付(別紙添付,貼付等の形式の別を問わない。)された資料中に記載(筆記,印字の別を問わない。)された金額
以上