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高松高等裁判所 平成17年(行コ)12号 判決 2006年3月10日

主文

1  原判決中主文第2項を次のとおり変更する。

(1)  被控訴人は,控訴人に対し,2046万9310円を支払え。

(2)  控訴人のその余の請求を棄却する。

2  訴訟費用は,第1,2審を通じ,被控訴人の負担とする。

3  この判決は,第1項(1)に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  控訴人

(1)  原判決主文第2項を取り消す。

(2)  被控訴人は,控訴人に対し,2061万8500円及びこれに対する平成16年5月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(3)  仮執行の宣言

2  被控訴人

本件控訴を棄却する。

第2事案の概要

1  控訴人は,大洲税務署長から過去7事業年度分の法人税について法人税額等の決定及び加算税の賦課決定をされたことから,被控訴人に対し,同事業年度分の法人市民税の確定申告書を提出し,これを納付した。その後,上記決定及び賦課決定を取り消す旨の裁決がされたため,控訴人が,被控訴人に「法人市民税更正請求書」と題する書面を送付したところ,一審被告である被控訴人の市長(以下「被控訴人の市長」という。)は,過納金を還付する一方で,還付加算金を零円とする措置をした。

そこで,控訴人は,本件訴訟を提起し,被控訴人の市長に対し,上記措置に違法があるとしてその取消しを求めるとともに,被控訴人に対し,控訴人に還付加算金を支払う義務があるとして,還付加算金2061万8500円及び遅延損害金の支払を求めた。

2  原審は,控訴人の訴えのうち,被控訴人の市長に対する法人市民税更正決定のうち還付加算金を零円とする部分の決定の取消しを求める訴えを却下するとともに,被控訴人に対する還付加算金(及び遅延損害金)の支払を求める請求を棄却した。

控訴人は,被控訴人に対する還付加算金の請求にかかる部分についてのみ,本件控訴を提起した。

第3前提事実(争いのない事実及び該当箇所に掲記する証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

1  控訴人は,学校法人A大学の関連財団であり,昭和54年11月12日に愛媛県大洲市内を主たる事務所として設立された。

2  大洲税務署長は,学校法人A大学が控訴人を含む関連財団を通じて過去7年間にA大学の受験生の父母から受け取った事前寄付金のうち,同大学以外に流用された約65億円につき,収益事業である斡旋業によって得られた所得であると認定し,平成14年6月24日,控訴人に対し,平成7年4月1日から平成14年3月31日までの各事業年度分の法人税額等の決定及び加算税の賦課決定をした。これを受けて,控訴人は,被控訴人の市長に対し,同年7月22日,上記7事業年度分の法人市民税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。なお,これによる申告を,以下「本件確定申告」という。)を提出し,同月31日,法人市民税2億3722万8500円を納付した(甲11,弁論の全趣旨)。

なお,控訴人が被控訴人の市長に法人市民税の申告書を提出したのは,これが初めてであった。また,控訴人は,平成15年8月ころ,被控訴人の市長に対し,市民税減免申請書を提出し,以後,法人市民税の減免を受けた(甲22,弁論の全趣旨)。

3  控訴人は,平成14年9月6日,被控訴人の市長から,上記のとおり申告納付した法人市民税について延滞金を納入するよう通知され,同年10月7日,同延滞金4578万6900円を納付し,被控訴人は,同月17日,同延滞金を収納した。

4  前記大洲税務署長による決定及び賦課決定は,前記事前寄付金が控訴人に帰属することを前提に行われたものであったが,国税不服審判所長は,平成16年2月25日,振込先口座として利用されていた控訴人名の口座は,A大学が,事前寄付金の受領を秘匿するために開設した仮名口座であると認定し,同口座に振り込まれた事前寄付金は同大学に帰属するとして,上記大洲税務署長の決定及び賦課決定を取り消す旨の裁決を行った(甲6の1・2,乙2,弁論の全趣旨)。

5  これを受けて,大洲税務署長は,平成16年3月8日,控訴人に対し,還付加算金2億0624万8700円を含めて過納金33億1277万9300円を還付し,愛媛県八幡浜地方局長は,同月22日,控訴人に対し,還付加算金については地方税法(以下「法」という。)17条の4第1項1号を適用した上,還付加算金8319万0300円を含めて過納金13億1116万3200円を還付したが,被控訴人の市長は,控訴人に対して,還付加算金を含めた過納金を還付しなかった。そこで,控訴人は,同年4月14日,被控訴人の市長あてに「法人市民税更正請求書」と題する書面(甲11,以下「本件更正請求書」という。)を送付した。

6  被控訴人の市長は,これを受けて,控訴人に対し,平成16年5月17日,前記7事業年度にかかる法人市民税を減額更正する旨,還付金の支払予定日は平成16年5月25日である旨,及び,法17条の4第1項2号を適用することを理由として還付加算金は零円とする旨等を記載した「法人市民税の更正について」と題する書面(甲9の1)を送付し,さらに,同月20日には「この通知書に記載された事項について,不服がある場合には,この通知書を受け取った日の翌日から起算して60日以内に,市長に対して異議申立てをすることができます」などと追記された「法人市民税更正通知書について」と題する書面(甲9の2)を送付した上,同年5月25日,過納金2億8252万3500円(以下「本件過納金」という。)を還付した。

7  これに対し,控訴人は,被控訴人の市長に対し,平成16年6月10日,上記被控訴人の市長の措置を不服として異議申立てをしたところ,同年8月4日,同異議申立ては棄却された。

第4当審における争点

1  本件過納金は,法17条の4第1項1号の「更正,決定若しくは賦課決定」により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係るものであるか。

(1)  控訴人の主張

ア 法17条の4第1項は,還付加算金が不当利得の法理に近似していることから,不当利得者の帰責事由の有無で還付加算金の計算期間の始期を区別しており,当該過納金に係る地方団体の徴収金の納付があった日を上記計算期間の始期とする同項1号の「更正,決定若しくは賦課決定」により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係る過納金とは,当該過納金の発生につき地方団体の側に帰責事由があるものをいうと解すべきである。そして,控訴人は,大洲税務署長の法人税についての決定に基づき,被控訴人に対して法人市民税を納付したのであり,被控訴人の市長は法人市民税の課税標準となる法人税の金額を独自に変更することができないことにかんがみても,控訴人の被控訴人に対する法人市民税納付義務は,大洲税務署長の決定に連動し,あるいはこれに依拠して発生したというべきであり,本件は地方団体の側から税額を確定させる行為を行ったのと同視することができるから,同号を適用すべきである。

イ 愛媛県八幡浜地方局長は,同号の「決定」により法人県民税の額を確定したとして,同号を適用した上で還付加算金を支払ったのであり,被控訴人も同一の取扱いをすべきである。

(2)  被控訴人の主張

ア 法17条の4第1項1号の「更正,決定若しくは賦課決定」とは,地方税の税額を確定するために地方団体自身が行ったものをいうと解すべきところ,本件では,被控訴人の市長の決定によって控訴人の納付すべき法人市民税が確定した訳ではないから,本件過納金は同号の「更正,決定若しくは賦課決定」により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係るものということはできない。

本件では,控訴人の法人市民税のうち法人税割額を計算するための基礎となる,平成7年4月1日から平成14年3月31日までの各事業年度の控訴人の法人税額につき,大洲税務署長による決定がなされているが,同決定は法人税に係る決定であって,法人市民税に係る決定ではないから,上記「更正,決定若しくは賦課決定」には該当しない。

イ 法人税の決定が上記「更正,決定若しくは賦課決定」に該当しないのは,以下のとおり,同条項の文言及び昭和50年法律第18号による同条項の改正(以下「昭和50年改正」という。)の経緯に照らしても明らかである。

(ア) 法において単に「更正,決定若しくは賦課決定」というときは,地方団体の機関が行うものを意味するというべきである。また,法17条の4第1項1号は,「更正,決定若しくは賦課決定(普通徴収の方法によって徴収する地方税の税額を確定する処分をいい,(以下,略))」と規定し,この「更正,決定若しくは賦課決定」が地方税の税額確定にかかる処分であることを明示するとともに,「第321条の8第28項の規定による申告書(法人税に係る更正若しくは決定によって納付すべき法人税額又は法人税に係る更正若しくは決定によって納付すべき連結法人税額(以下,略))」と規定し,国の税務官署が行う「更正,決定」と,地方団体が行う「更正,決定」とを区別して表現している。

(イ) 昭和50年改正前は,法人税の決定があった場合にも,それが法17条の4第1項1号の「決定」に該当しないため,法321条の8第28項の規定により法人市民税に係る修正申告をした納税者が法17条の4第1項1号による保護を受けず,他方,修正申告をせずに地方団体から更正又は決定を受けた納税者が同号による保護を受けるという不平等が生じていたことから,同号に「321条の8第28号の規定による申告書」が加えられることになったのである。当該改正は,法人税の更正又は決定が,法17条の4第1項1号の「更正,決定」に該当しないからこそ行われた改正である。

ウ 地方団体は,地方税を賦課徴収する独立した租税債権者であり,租税義務者との間では,国税を賦課徴収する租税債権者たる国とは別個の租税法律関係を形成するのであるから,国税について行われた処分を「地方団体の側の処分」と評し得ないことは,理論的にも明らかである。

エ 控訴人は,愛媛県地方局長が,法17条の4第1項1号を適用した旨主張するが,愛媛県と被控訴人との取扱いが同一であるべきことは,控訴人の請求を根拠づけるものではない。

2  本件過納金は,法17条の4第1項1号の「321条の8第28項の規定による申告書」の提出により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係るものであるか。

(1)  控訴人の主張

ア 控訴人は,平成14年6月24日に大洲税務署長から決定を受けたことにより,法321条の8第1項の法人に該当するとともに,法321条の8第27項2号に該当することとなった。

法321条の8第27項2号には,同項1号と異なり「提出により」との文言がないこと,及び,同項は「321条の11の規定による更正若しくは決定を受けた法人」にも適用され,「決定」を受けた法人の場合には先行する申告がないことが前提となっていることからすれば,法321条の8第27項は先行する申告がない場合にも適用されるというべきである。

したがって,同項2号の「先の申告書に納付すべき市町村民税額を記載しなかった場合」には,納税者の当初の申告がなかった場合をも含むものとして解されるべきである。

イ 法321条の8第28項の申告書には,確定申告書も含まれるのであり,修正申告書に限られるのではない。

(ア) 同項には「申告納付しなければならない」と規定されているところ,「申告納付」とは,法1条1項8号によれば修正申告に限られないし,法17条の4第1項1号にも法321条の8第28項の「申告書」と規定されていて,修正申告書に限ってはいない。

また,本件は法321条の8第28項後段の「法人税に係る更正若しくは決定の通知を受けた」場合に該当するところ,「決定」とは当初の納税申告書の提出がない場合に,税務署長等が課税標準又は税額を決定することを指すものであり,本件のように当初申告納付をしていないために法人税に係る決定がされた場合は,法人税の申告と連動して提出される法人市民税についての申告も当然のことながら行われていないのであるから,法人市民税については確定申告書を提出することになるのである。

このように,同項の申告書には,確定申告書も含まれ,修正申告書に限られない。

(イ) なお,被控訴人は,同条27項において提出すべき申告書は修正申告書に限られるのであり,同条28項はその特則なのであるから,同項のそれも修正申告書に限られるはずである旨主張している。しかし,同項は,「第1項,第2項,第4項又は第5項の法人が法人税に係る修正申告書を提出し,又は法人税に係る更正若しくは決定の通知を受けた」場合に適用される旨規定しているが,他方,同条27項は,「第1項,第2項,第4項,第5項,第24項,前項若しくは本項の規定によって申告書を提出した法人又は第321条の11の規定による更正若しくは決定を受けた法人」について適用される旨規定しており,その適用場面は重なってはいないので,同条28項は同条27項の特則ということはできない。

ウ 被控訴人は,控訴人には法321条の8第24項により法人市民税について申告納付をする義務があったのであり,当該申告納付さえしていれば,同条27項2号に該当し得た旨主張する。

しかしながら,同条24項は均等割額についての規定であるところ,控訴人は,被控訴人から,同項による申告書を提出し,均等割額を納付するよう指導・指摘を受けたことは全くなかった。また,控訴人は収益事業を行っていない公益法人であり,法人税の申告を行う義務はなく,法人税割額を納付する義務もなかったところ,法人市民税のうちの均等割額のみの申告をすることなどあり得ないのである。また実際,控訴人について市民税は免除されている。

このような経過にかんがみれば,被控訴人が本件で均等割額についての申告を問題にすることは,信義則に照らして許されない。

(2)  被控訴人の主張

ア 控訴人は,法321条の8第28項の「第1項,第2項,第4項又は第5項の法人」に該当しない。

同項の「第1項,第2項,第4項又は第5項の法人」(以下「第1項等の法人」という。)とは,同条1項,2項,4項又は5項の規定に従って法人市民税の申告書を提出し,法人市民税を納付した法人をいうところ,控訴人は,平成14年7月22日に至るまで法人市民税の申告書を提出したことはなかったのであるから,上記法人には該当しない。

控訴人が,同日,被控訴人に対して法人市民税の申告をしたのは,同条26項に基づく申告納付にすぎない。

イ 控訴人が大洲税務署長の決定を受けたことによって,法321条の8第27項2号に該当することとなったということはできない。

(ア) 同項柱書は「申告書を提出した法人」,「修正する申告書を提出し」と規定し,同項2号は「先の申告書に」と規定し,修正申告以前に申告がなされていることが文言上当然の前提とされているし,少なくとも先行する税額確定行為が存在することが当然の前提となっているのであるから,かかる前提を欠く本件確定申告は同項の申告納付に該当しない。

(イ) なお,同号には同項1号と異なり,「提出により」という文言はないが,「当初の申告があったが,納付すべき税額を記載しなかった場合」を指していることは明らかであって,「当初の申告がなかった場合」までを含むとする控訴人の主張する解釈には無理がある。

(ウ) 控訴人は,収益事業を行っていない公益法人として同条24項により法人市民税について申告納付をする義務があったのであり,当該申告納付さえしていれば,同条27項2号に該当し得たのである。

ところが,控訴人は,昭和54年11月12日に設立されて以降,本件確定申告書を提出するまで,一度も法人市民税の申告書を提出しておらず,法の定めに従った申告納付をしてこなかったのであるから,同号を適用する余地はない。

ウ 法321条の8第28項の申告書には確定申告書は含まれない。

(ア) 法321条の8第28項は,「同項(27項)の規定によって申告納付しなければならない」と規定しているところ,自主的な修正申告について定めた同条27項のうち,修正の発端が法人税の税額の変更に起因するものである場合について,修正申告すべき時期を「法人税額を納付する日まで」と規定したもので,同条28項が修正申告に関する申告時期についての特則にすぎないことは明白であって,控訴人が(1)イで主張するような解釈は失当である。

なお,同条28項の「決定」に関し,控訴人は,当初申告納付をしていないために法人税が決定された場合は,法人税の申告と連動してなされる法人市民税の申告も当然行われていないと主張するが,同条1項が適用される法人が,法人税についての申告を行っていないが法人市民税の均等割額のみを納め,法人税割額については納付すべき税額がゼロであるがゆえにこれを記載しないということもあるから,控訴人の主張は失当である。

(イ) 昭和50年改正により,法17条の4第1項1号に「321条の8第28項の規定による申告書」が規定された趣旨にかんがみても,確定申告書がこれに含まれないことは明らかである。

つまり,法17条の4第1項は,還付加算金が不当利得の法理に近似していることから,不当利得者の帰責事由の有無で計算期間の始期を区別しているが,昭和50年改正において上記文言が加えられた趣旨は,義務的修正申告を履行した者が,これを履行しなかった者と比べて不利な取扱いを受けることがないよう設けられたものである(1(2)イ(イ)参照)。

3  本件過納金は,法17条の4第1項2号の「更正の請求に基づく更正により」納付すべき額が減少した地方税に係るものであるか。

(1)  被控訴人の主張

本件は,法17条の4第1項2号に該当する。

控訴人は,平成16年4月14日,被控訴人の市長に対し,本件更正請求書を提出し,法20条の9の3第2項の更正の請求を行った。被控訴人の市長は,当該更正の請求に基づいて,控訴人の法人市民税の減額更正を行ったものであるから,同更正は,法17条の4第1項2号の「更正の請求に基づく更正」に該当する。

(2)  控訴人の主張

本件過納金は,前記のとおり,本件更正請求書の提出の有無にかかわらず,法人税の決定により生じたものであって,控訴人が本件更正請求書を提出したのは,再三にわたり電話で本件過納金の還付を求めるも,被控訴人が対応しなかったため,被控訴人に対し,職権の発動を促す趣旨で行ったものにすぎないから,本件は,法17条の4第1項2号には該当しない。

第5当裁判所の判断

1  争点1(本件過納金は,法17条の4第1項1号の「更正,決定若しくは賦課決定」により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係るものであるか)について

(1)  法17条の4第1項1号は,「更正,決定若しくは賦課決定(普通徴収の方法によって徴収する地方税の税額を確定する処分をいい,(以下,略))」と規定し,この「更正,決定若しくは賦課決定」が地方税の税額確定にかかる処分であることを明示するとともに,「第321条の8第28項の規定による申告書(法人税に係る更正若しくは決定によって納付すべき法人税額又は法人税に係る更正若しくは決定によって納付すべき連結法人税額(以下,略))」と規定し,国の税務官署が行う「更正,決定」と,地方団体が行う「更正,決定」とで,表現を明確に区別している。また,法が,単に「更正,決定若しくは賦課決定」というときは,地方団体の機関が行うものと解するのが自然である。

また,昭和50年改正により法17条の4第1項1号に「第321条の8第28項の規定による申告書」が追加されたのは,法321条の8第28項に基づく義務的修正申告を履行した場合には法17条の4第1項4号が適用されてほとんど還付加算金は加算されないのに対し,それを怠り増額更正を受け,その後減額更正を受けたような場合には同項1号が適用されて納付日に遡って還付加算金が加算されるのは,法が修正申告を義務化・推奨していることと相矛盾することから,かかる不均衡を是正する趣旨に基づくものである。このような昭和50年改正の趣旨にかんがみると,同改正は,法人税の更正又は決定が,法17条の4第1項1号の「更正,決定」に該当しないからこそ行われたものであるとみることができる。

そうすると,同号にいう「更正,決定若しくは賦課決定」とは,地方団体が行ったものに限られると解すべきである。

(2)  本件では,前記認定(第3の2)のとおり,法人税の決定を受け,控訴人が本件確定申告書を提出したことによって法人市民税額が確定したのであり,被控訴人の市長による「更正,決定若しくは賦課決定」により確定したということはできないから,本件における過納金は,同号の「更正,決定若しくは賦課決定」により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係るものということはできない。

2  争点2(本件過納金は,法17条の4第1項1号の「321条の8第28項の規定による申告書」の提出により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係るものであるか)について

(1)  被控訴人は,第1項等の法人とは,法321条の8第1項,第2項,第4項又は第5項の規定に従って法人市民税の申告書を提出し,法人市民税を納付した法人をいうところ,控訴人は,平成14年7月22日に至るまで法人市民税の申告書を提出したことはなかったのであるから,上記法人には該当しない旨主張する。

しかしながら,第1項等の法人とは,規定の文言上,法人税法上の各該当規定によって「法人税に係る申告書を提出する義務がある法人」を意味するのであるから,必ずしも法人税に係る申告書を提出した法人のみには限定されないというべきである。

そして,控訴人が,法321条の8第1項の「法人税に係る申告書を提出する義務がある法人」として扱われ,法人税に係る決定を受けたことは明らかであるから,控訴人は,第1項等の法人に該当するというべきである。

(2)  昭和50年改正において,法17条の4第1項に「321条の8第28項の規定による申告書」との文言が加えられた趣旨は,以下のとおりである。

同改正前は,例えば,修正申告により納付した税額が後に過納であったことになると,当該税額の確定は申告によりなされているため,法17条1項4号が適用になり,ほとんど還付加算金は加算されないのに対し,修正申告を怠っていたために増額更正を受け,後に減額更正を受けた者は,その納付の日に遡って還付加算金を加算されることになる。これは,申告納付を義務化し,特に法人事業税では1か月以内に修正申告があった場合には,過少申告加算金を賦課しないこととし(法72条の46第1項,72条の33第3項等参照),義務修正を推奨している法の考え方と相矛盾し,実質的にも不平等であると考えられる。すなわち,昭和50年改正は,このように,法が義務化・推奨する(修正)申告を履行した者が,これを履行しなかった者と比べて不利な取扱いを受けることがないようにとの趣旨に基づくものである。

本来,法17条の4第1項は,還付加算金が不当利得の法理に近似していることから,基本的には,不当利得者(すなわち,本件では被控訴人)の帰責事由の有無によって計算期間の始期を区別しているものと解すべきであるが,昭和50年改正により,(修正)申告の義務化・推奨と実質的平等を図る趣旨を踏まえ,帰責事由の有無によるとする前記基本的な区別を,一部修正したものと理解すべきである。

ところで,本件において,仮に,控訴人が本件確定申告書を提出せず,被控訴人の市長によって,法人市民税に係る決定がなされた後,法人税額等を取り消す旨の決定等がなされていたならば,この場合の過納金は,法17条の4第1項1号の「決定により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係る過納金」に該当することは明らかであり,同号の適用を受けられることになるが,本件事案のように,控訴人が,被控訴人の市長から法人市民税に係る決定を受ける前に,法321条の8第28項の申告納付義務に従って自主的に本件確定申告書を提出したがために,同号の適用を受けられなくなるとすれば,かかる事態は,法が義務的申告納付の制度を設けた趣旨に反するとともに,実質的にも不平等を生じるものといわざるを得ない。

(3)  被控訴人は,法321条の8第28項の「申告書」は修正申告書をいうものであって,確定申告書は含まれない旨主張し,本件は,そもそも法人市民税の確定申告がなされておらず,同条27項2号の「先の申告書」にあたるものがないのであるから,同号の場合には該当しない旨主張する。

しかしながら,法17条の4第1項1号は,「第321条の8第28項の規定による申告書」とのみ規定し,「修正申告書」に限定しておらず(同号中には,「第72条の33第3項の規定による修正申告書」という文言も使用されており,「申告書」と「修正申告書」とが明確に区別して使用されている。),法321条の8第28項自体には修正申告の場合のみが規定されていると限定する根拠は乏しいといわざるを得ない。

確かに,同条27項2号の規定の文言自体は,先行する税額確定行為(「先の申告書」の提出又は「更正」を受けたこと)の存在を前提としているように読めない訳ではないけれども,同号には,同項1号と異なり「提出により」との文言がないこと,及び,同項は「321条の11の規定による更正若しくは決定を受けた法人」にも適用され,「決定」を受けた法人の場合には先行する申告がないことが前提となっていることからすれば,法321条の8第27項は,先行する申告がない場合にも適用されるというべきである。

そうすると,本件のように当初の確定申告がなされていない場合についても,当初,納付すべき税額がないものとする旨の税額確定行為があった場合と同視し,同号の「先の申告書に納付すべき市町村民税額を記載しなかった場合」に含まれると解するのが相当である。

(4)  以上によれば,本件は,法321条の8第28項の,法人税に係る申告書を提出する義務がある控訴人が,法人税に係る決定の通知を受けたことにより,法321条の8第27項2号に該当することになった場合に当たるから,本件過納金は,法17条の4第1項1号の「法321条の8第28項の規定による申告書の提出により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金」に該当するというべきである。

3  争点3(本件過納金は,法17条の4第1項2号の「更正の請求に基づく更正により」納付すべき額が減少した地方税に係るものであるか)について

(1)  以上のとおり,本件過納金は,法17条の4第1項1号によるものというべきところ,同号は「(次号及び第3号に掲げるものを除く。)」と規定しており,被控訴人は,本件は同項2号の場合,すなわち,本件過納金は,控訴人の更正の請求に基づく更正により納付すべき額が減少した地方税に係る過納金に該当するから,同号が適用される旨主張する。

(2)  確かに,前記認定(第3の5及び6)のとおり,控訴人は,被控訴人の市長に対し,平成16年4月14日,本件更正請求書を送付したこと,及び,被控訴人は,その後である同年5月17日,控訴人に対し,平成7年4月1日から平成14年3月31日までの各事業年度における法人市民税を減額更正する旨等を通知したことが認められる。

しかしながら,控訴人は,法人税に係る決定処分を受けたことにより,当然に法人市民税についても,法人税額を課税標準とする法人市民税(法人税割額部分)を被控訴人に支払わなくてはならない義務を生じた(法321条の8第28項)ところ,前記第3の4のとおり,国税不服審判所長の当該決定処分取消しの裁決により,上記法人市民税の支払が過納となったことが明らかで,被控訴人の市長は,自ら法人市民税額の決定をしたときと同様に,遅滞なくこれを還付しなければならなくなったものである(法17条)。本件更正請求書は,被控訴人の市長が,上記過納金を還付しなかったため,控訴人が,被控訴人に対し,職権の発動を促す趣旨で送付したと認められる(甲11,弁論の全趣旨)。

そうすると,本件は,法17条の4第1項2号には該当しないというべきである。

4  還付加算金の金額について

(1)  以上によれば,本件過納金は,法17条の4第1項1号の「法321条の8第28項の規定による申告書の提出により納付すべき額が確定した地方団体の徴収金に係る過納金」に該当するというべきである。

(2)  ところで,証拠(甲9の1,10)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人が還付した還付金の額は,総額2億8252万3500円であり,その内訳は,本税につき,平成7年4月1日から平成14年3月31日までの各事業年度に係る法人市民税額から同各年度の均等割額を差し引いたものの合計2億3680万8500円,延滞金につき,前記各事業年度に係る延滞金から同各年度の均等割額に係る延滞金を差し引いたものの合計4571万5000円であると認められる。

そうすると,本件過納金につき生じる還付加算金は,①本税に係る2億3680万8500円については控訴人による納付があった日(平成14年7月31日)の翌日である同年8月1日から,②延滞金に係る4571万5000円については同じく納付があった日(同年10月7日)の翌日である同月8日から,被控訴人の市長が還付のため支出を決定した平成16年5月17日までの日数に,地方税法(昭和25年7月31日法律第226号)附則3条の2第1項,第3項によって年4.1パーセントとされる率を乗じて計算し,以下の計算式のとおり,2046万9310円となる(なお,利率等の表示の年利建て移行に関する法律25条により,閏年の日を含む期間についても,365日当たりの割合となる。)。

(計算式)

①(本税に係る還付加算金)

236,808,500円×0.041×656日÷365=17,449,866円

(1円未満切捨て。以下同じ。)

②(延滞金に係る還付加算金)

45,715,000円×0.041×588日÷365=3,019,444円

③(還付加算金合計額 ①+②)

17,449,866円+3,019,444円=20,469,310円

(3)  なお,控訴人は,還付加算金のほか,これに対する被控訴人の市長が還付のための支出を決定した日である平成16年5月17日の翌日から民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

還付加算金は,還付金につき生じる利息であると解されるから,これに対して生じる遅延損害金は,民法405条の重利に該当する(租税法律関係についても,それを排除する明文の規定あるいは特段の理由がない限り,私法規定が適用ないし準用されると解すべきである。)ところ,本件において,同条の規定に基づいて元本組入れがなされたと認めるに足りる証拠はないから,控訴人の遅延損害金にかかる請求は理由がない。

5  結論

以上によれば,控訴人の請求は,2046万9310円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余は理由がないから棄却すべきである。

よって,これと結論を異にする原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 山口格之 裁判官 平出喜一)

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