高松高等裁判所 平成18年(ネ)337号 判決 2007年2月02日
松山市●●●
控訴人
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同訴訟代理人弁護士
村上勝也
東京都千代田区大手町一丁目2番4号
被控訴人
プロミス株式会社
同代表者代表取締役
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同訴訟代理人弁護士
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同
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主文
1 原判決を次のとおり変更する。
被控訴人は,控訴人に対し,335万7109円及びうち280万6351円に対する平成14年2月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文同旨
第2事案の概要
1 本件は,貸金業者である被控訴人との間の一連の金銭消費貸借契約に基づいて借入れと返済を繰り返してきた控訴人が,利息制限法所定の制限を超える利率による約定利息の支払を継続したことにより,同法所定の制限利率による引き直し計算の結果過払金が生じていると主張して,被控訴人に対し,不当利得に基づき,過払金とこれに対する法定利息の支払を求めている事案である。原審が控訴人の請求を一部認容するにとどめたところ,これを不服として控訴人が控訴した。
2 本件における争いのない事実等,争点,当事者の主張は,原判決「事実及び理由」中の第2の2,3及び第3に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,原判決5頁19行目の「原告と」から20行目の「あって」までを「被控訴人と控訴人との間の取引は,一定の貸付極度額を設定し,その範囲内で金銭貸借を繰り返して利用することができるものとし,返済については,最低支払額を定めた上,任意での追加返済を許容するといういわゆるリボルビング契約(包括契約)に基づくものであり,個別の貸付けごとに貸付条件の合意や契約書類の作成が行われておらず,被控訴人による信用調査も行われていないなどの事情に照らせば,包括契約に基づく一連一体の継続的取引であって,全体として1口の貸付けとみるべきであり」と改める。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)について
争点(1)についての当裁判所の認定判断は,原判決「事実及び理由」中の第4の1に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 争点(2)について
民法704条が悪意の利得者に対して「受けたる利益」に加えて法定利息を返還すべき旨を定めているのは,不当利得の目的物から通常生ずる程度の収益等の付加的利益の限度において,損失者の被った損害につき格別の主張立証を要することなく,これを損失者へ返還をさせることにより,利得者と損失者との間の公平を図る趣旨であると解されるところ,その利率は,原則として民法所定の年5分であるけれども,不当利得返還請求権の発生原因が商行為又はこれに準ずるものであって商法514条の適用がある場合に商事法定利率の年6分によるべきことはもちろん,上記のような民法704条の趣旨にかんがみ,当事者双方の立場や不当利得の原因関係,利得者による不当利得の目的物の利用収益の状況等を考慮して商事法定利率と同じ年6分によるのが不当利得制度の根幹を成す公平の観念にかなうと認められる場合においても,同様に年6分によるべきであると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,貸金業者である被控訴人との間の金銭消費貸借契約に基づき債務者である控訴人が利息制限法所定の制限を超える約定利息等の支払を継続して過払いとなったことにより取得する不当利得返還請求権は,法律の規定によって発生するものであって,民事上の一般債権であると解されるけれども,利得者である被控訴人は,貸金業を営む商人であって,利息制限法所定の制限を超える利息の約定の下に貸付けを行って収益をあげており,控訴人からの弁済金も被控訴人の営業に利用されたものと推認されるところであるから,こうした事情にかんがみれば,本件における民法704条所定の法定利息の利率は年6分と解するのが相当である。
3 争点(3)について
本件においては,被控訴人の控訴人に対する貸付けにおける利息制限法所定の制限を超える約定利息については一律年18パーセントの利率によって引き直して計算すること及び過払金の充当方法については複数回の貸付けにつきすべて一括して計算する方法によることは当事者間に争いがなく,前記認定説示のとおり,民法704条に基づく法定利息の起算点が不当利得の発生時からであり,その利率は年6分とすべきものであるから,これに従って充当計算をした結果は原判決別紙1のとおりとなる。
4 争点(4)について
(1) 争点(4)についての当裁判所の認定判断は,後記(2)のとおり補足するほか,原判決「事実及び理由」中の第4の4(1),(2)に記載のとおりであるから,これを引用する。
(2) 控訴人は,被控訴人と控訴人との間の取引が,一定の貸付極度額を設定し,その範囲内で金銭貸借を繰り返して利用することができるものとし,返済については,最低支払額を定めた上,任意での追加返済を許容するといういわゆるリボルビング契約(包括契約)に基づくものであり,個別の貸付けごとに貸付条件の合意や契約書類の作成が行われておらず,被控訴人による信用調査も行われていないなどの事情に照らせば,包括契約に基づく一連一体の継続的取引であって,全体として1口の貸付けとみるべきであるから,本件における過払金の不当利得返還請求権も1個であって,その消滅時効の起算点は,最終取引日の翌日であると主張する。
本件における被控訴人と控訴人との間の取引は,基本契約に基づき継続的に貸付けとその返済が繰り返される金銭消費貸借であり,その取引方式は控訴人主張のようなリボルビング方式によるものであるところ,基本契約に基づいて設定される貸付極度額はあくまで与信枠にすぎず,取引がその限度内にとどまる限りにおいて個別の貸付けに際して契約書の作成や信用調査等も不要とされているにとどまるものであって,一定の金額についての貸付けの合意が成立していて,その貸付金の交付が複数回に分割して行われるといったような貸借の単一性を肯認し得る場合とは異なっており,控訴人主張の事情だけから本件における被控訴人と控訴人との間の取引が全体として1口の貸付けであるとまでは認めることができない(立替払契約において一定の与信枠及び返済条件を定めた上でその範囲内で利用を繰り返すことができるものとされている場合との対比からしても,本件における貸借の単一性を肯認することは相当でない。)。したがって,基本契約に基づき個別の貸付けが繰り返されることにより独立かつ複数の貸付けが成立し,過払金が発生した時点で他に充当されるべき借入金債務が存在しない場合にはその都度過払金に係る不当利得返還請求権が発生することになり,その時点から消滅時効が進行するものというべきである。
5 争点(5)について
本件における被控訴人による消滅時効の援用が信義則に反するか否かについて検討する。
被控訴人と控訴人との間の取引は,昭和58年9月26日に開始された後貸付けと返済が繰り返されてきたものであるところ,原判決別紙1のとおり,取引開始から約3年半経った昭和62年3月の時点で過払いとなって以降平成14年1月末に取引を終了するまで約15年にわたって恒常的に過払いの状態が続いてきたこと,取引開始から昭和62年3月までの間の借入金額の合計が103万円余,返済金額の合計が118万円余であるのと比較すれば,それ以降の借入金額の合計は75万円余にすぎないのに対し,返済金額の合計は287万円余に及んでおり,その間の借入金額と返済金額との不均衡には著しいものがあること,被控訴人は,上記取引の期間中,貸金業法の正当な解釈に従った措置を十分に講じることなく利息制限法所定の制限を超えた利率による利息の支払義務を前提として貸金債権の請求を行ってきており,法律知識に疎く過払い状態の発生を知らないままこれに応じてきた控訴人から上記のとおり多額の金員を弁済金として取得してきたものであること,被控訴人は,貸金業法を遵守して営業を行うべき立場にあって,そのために必要な態勢を講じることを求められており,かつ,これに対応することも容易であるのに対し,控訴人は,被控訴人から貸金の返済を請求される立場にあり,法律知識の点でもこれに基づいて対処する能力の点でも著しく劣った状態にあって,過払い状態の発生後早い段階での不当利得返還請求権の行使を控訴人に期待することは実際上困難であったと考えられること,貸金業法の正当な解釈については近時の最高裁判例を通じて一層明確なものとなってきたものではあるとはいえ,被控訴人が,過払金の発生を比較的容易に認識し得る立場にありながら,上記のとおり賃金の返還請求を続けることによって,結果的に過払金の累積という事態がもたらされたということもできることなどの事情にかんがみれば,本件のように過払い状態の下での借入れと返済が長期間に及んでいる場合に,上記のような立場にある被控訴人による消滅時効の援用を認めることは,誠実な債務者に不利益を強いる一方で,貸金業法を遵守しなかった貸金業者に対して長期間に及ぶ過払い状態の放置による不当利得の保持を容認することにつながるものであって,クリーンハンドの原則に反し,信義にもとる結果をもたらすものとして許されないというべきである。
したがって,被控訴人の消滅時効の抗弁は理由がない。
6 結論
以上の次第で,控訴人の本件請求は理由があるので全部認容すべきところ,本件控訴に基づき,これと異なる原判決を変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 馬渕勉 裁判官 豊澤佳弘 裁判官 山口格之)
<以下省略>