高松高等裁判所 平成18年(ネ)65号 判決 2006年6月29日
松山市●●●
控訴人(1審原告)
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同訴訟代理人弁護士
山口直樹
京都市中京区烏丸御池下ル虎屋町566-1
被控訴人(1審被告)
株式会社レタスカード
同代表者代表取締役
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同訴訟代理人支配人
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主文
1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人は,控訴人に対し,金122万3401円及び内金119万5851円に対する平成16年12月28日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は,控訴人に対し,金15万円及びこれに対する平成17年2月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 控訴人のその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
6 この判決は,第2,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
主文と同旨
第2事案の概要等
1 事案の概要
原判決第2の「事案の概要」欄(原判決2頁4行目から4頁8行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 訴訟の経過
(1) 控訴人の原審での請求
控訴人は,原審で,被控訴人に対し,次の各金員の支払を請求した。
ア 不当利得金返還
(ア) 過払金元本119万5851円(過払金に対する利息の利率〔以下「過払利率」という。〕を年6分とする。)
(イ) 過払金元本に対する過払金発生時点から最終取引日(平成16年12月27日)までの年6分の割合による利息金2万7550円
(ウ) 過払金元本119万5851円に対する平成16年12月28日から完済まで年6分の割合による利息金
イ 損害賠償請求
(ア) 取引履歴不開示による慰謝料50万円,弁護士費用50万円
(イ) 上記合計100万円に対する平成17年1月27日(取引履歴開示請求日)から完済まで年5分の割合による遅延損害金
(2) 原判決
原判決は,次のとおり判断した。
ア 不当利得金返還
(ア) 過払金元本117万9481円(過払利率を年5分とする。)
(イ) 過払金元本に対する過払金発生時点から最終取引日(平成16年12月27日)までの年5分の割合による利息金2万1209円
(ウ) 過払金元本117万9481円に対する平成16年12月28日から完済まで年5分の割合による利息金
イ 損害賠償請求
(ア) 取引履歴不開示による慰謝料10万円,弁護士費用5万円
(イ) 上記合計15万円に対する平成17年2月10日(取引履歴を作成できた日から3日後)から完済まで年5分の割合による遅延損害金
(3) 本件控訴
ア 控訴人は,原判決中,過払利率を年5分とする部分(前記(2)ア)を不服として本件控訴を提起し,前記(1)アの判決を求めた。
イ 控訴人は,原判決中,損害賠償請求(前記(2)イ)の部分については不服申立てをしていないので,この部分については,当審における口頭弁論の対象にはなっていない。
3 当審での当事者の主張
(1) 控訴人の主張(控訴理由)
民法704条が悪意の受益者に対して利息を付して返還すべき旨を定めているのは,悪意の受益者が不当利得の目的物について収益を得ていることを考慮し,単に法律上の原因なく移転した財貨(不当利得の目的物)の返還のみならず,これを利用して生み出された収益をも返還させることによって,法律上の原因のない利得から得られた収益を悪意の受益者の手元に残させないようにする趣旨である。
そうすると,受益者が商人であり,不当利得の目的物を営業に利用したものと認められる本件については,民法704条による法定利息の利率は,商事法定利率である年6分とすべきである。
(2) 被控訴人の主張(控訴理由に対する反論)
控訴人の不当利得返還請求が民法に基づくものであることからすると,民法704条所定の悪意の受益者が返還すべき利息は,民法404条による年5分と解すべきである。
被控訴人が商人(株式会社)で,利得金を営業のために使用していると推認されるからといって,控訴人が民法上の不当利得による保護を求めているのであるから,商事法定利率年6分によるのは相当でない。
第3当裁判所の判断
1 民法704条に基づく利息支払義務における利率について
確かに,原判決が説示するとおり,利息制限法所定の利率を超える利息を弁済した結果発生する過払金についての不当利得返還請求権は,法律の規定によって生じる債権であるから,商法514条が本来予定する商行為によって生じた債権ということができないことは明らかである。
しかしながら,民法704条がいわゆる悪意の受益者に対して「利息」を付した返還義務を規定した趣旨は,利得財産から通常発生すべき付加利益を併せて返還させることによって最小限の損害賠償をさせるためであると解される。被控訴人は,株式会社として商人であり,かつ,貸金業者として,法律上の原因なくして利得した控訴人からの過払金を自己の営業のために利用して収益を上げていたと推認できるから,商取引における資金需要の繁忙と投下資本による高収益の可能性から定められた商事法定利率年6分の割合による利息は,本件においては利得財産から通常発生すべき付加利益と考えることができる。
そうすると,本件取引に関しては,商事法定利率である年6分の割合による利息を付して返還させることが民法704条の趣旨に合致するというべきである。したがって,本件における同条による利息の利率は,年6分と解するのが相当である。
以上を前提とすると,本件取引において,控訴人の弁済金のうち,利息制限法所定の利率を超える部分を元本に充当していって過払金が発生した場合,その時点から過払金に対して年6分の割合による利息が発生することになる。
そこで,本件取引における取引履歴に基づき,控訴人の弁済金のうち,利息制限法所定の制限利率を超える部分を元本に充当し,その結果発生した過払金及び過払金に対する年6分の割合による利息をも元本に充当すると,本件取引における控訴人の過払金の額は,別紙記載のとおりとなる。
したがって,被控訴人は,控訴人に対し,次のとおりの不当利得金等支払義務を免れない。
(1) 過払金元本119万5851円
(2) 過払金元本に対する過払金発生時点から最終取引日(平成16年12月27日)までの年6分の割合による利息金2万7550円
(3) 過払金元本119万5851円に対する平成16年12月28日から完済まで年6分の割合による利息金
2 結語
以上の認定判断によると,控訴人の不当利得返還請求は,理由がある。
よって,これと異なる原判決主文第1項は,上記1のとおり変更を免れないところ,分かりやすい判決主文という観点から,原判決主文全体を変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 紙浦健二 裁判官 小池晴彦 裁判官 島岡大雄)
<以下省略>