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高松高等裁判所 平成18年(行コ)1号 判決 2006年7月13日

控訴人

高知県知事

橋本大二郎

同訴訟代理人弁護士

下元敏晴

行田博文

同指定代理人

中澤純夫

外5名

被控訴人

甲野太郎

外2名

主文

1  原判決主文第2項を取り消す。

2  上記取消部分に係る被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,第1,第2審を通じて被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1  控訴の趣旨

主文同旨

第2  事案の概要

1  原審における請求の要旨

本件は,高知県,須崎市及び土佐市など6団体が大規模年金保養基地(グリーンピア土佐横浪)を運営するために出資して設立した財団法人グリーンピア土佐横浪(以下,単に「財団」という。)に対し,高知県が平成14年度及び平成15年度にそれぞれ貸付けを行ったことについて,高知県の住民である被控訴人らが,上記各貸付けを行ったこと及び債権回収を怠ったことは違法であると主張して,高知県知事である控訴人に対し,次の請求をした事案である。

(1)  地方自治法242条の2第1項3号に基づき,上記各貸付けを行ったこと及び債権回収を怠ったことが違法であることの確認を求める。

(2)  同項4号に基づき,上記各貸付けに関与した別紙表1及び表2記載の各高知県職員に対し,上記各貸付金及びこれらの各金員に対する別紙表1記載の職員においては同表記載の各支出命令決裁日から,別紙表2記載の職員においては平成15年10月1日から各支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払を請求するよう求める。

2  控訴人の反論の要旨

これに対し,控訴人は,本案前の答弁として,次のとおり主張するとともに,本案の答弁として,高知県職員が上記1の各貸付けに関する財務会計行為をしたことについて,その裁量権を逸脱又は濫用した違法はなく,故意又は重大な過失もないなどと主張して,被控訴人らの請求を争った。

(1)  上記1(1)の怠る事実の違法確認請求は,過去の行為についての違法確認を求めるものであり,地方自治法242条の2第1項3号が予定しない住民訴訟の形態であるから,不適法である。

(2)  上記1(2)の損害賠償請求のうち,

ア 平成14年度に行った貸付けに関する住民監査請求は,監査請求期間を徒過してなされたものであるから,上記貸付けに関する損害賠償請求に係る訴えは,不適法である。

イ 上記貸付けのうち,別紙表1の辛浜七郎は支出負担行為を行う権限がなく,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」には当たらないから,同人を請求の名宛人とする訴えは,不適法である。

ウ 平成15年度に行った貸付けに関する損害賠償請求に係る訴えは,高知県監査委員のした勧告措置の期限が経過する前に提起されたものであり,法定の出訴期間(同法242条の2第2項2号,4号)を無視するものであるから,不適法である。

エ 上記貸付けのうち,別紙表2の乙原次郎,丙山三郎及び丁川四郎は支出負担行為を行う権限がなく,戊谷五郎は支出命令の代決を行ったにすぎず,いずれも「当該職員」には当たらないから,同人らを請求の名宛人とする訴えは,不適法である。

オ 別紙表2の平成16年3月26日付け支出負担行為は,減額の支出負担行為であって高知県に損害を与えるものではないから,住民訴訟の対象となる財務会計行為には当たらず,上記支出負担行為に関する損害賠償請求に係る訴えは,不適法である。

カ 被控訴人らは,請求原因において,財務会計上の違法性を根拠づける具体的な主張をしていないから,損害賠償請求に係る訴えは,不適法である。

3  原審の判断の要旨

原審は,被控訴人らの請求について,要旨,次のとおり判断した。

(1)  怠る事実の違法確認請求について(上記1(1))

被控訴人ら主張の怠る事実は,地方自治法242条1項にいう「公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」に当たらず,また,過去の懈怠について違法確認を求めることは,同法242条の2第1項3号の予定しない訴訟形態であるから,被控訴人らの怠る事実の違法確認請求に係る訴えは,不適法として却下する(原判決主文第1項(1))。

(2)  損害賠償請求について(上記1(2))

ア 平成14年度の貸付けに関する被控訴人らの住民監査請求は,法定の監査請求期間経過後になされたものであり,地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」があるとは認められないから,被控訴人らの上記貸付に関する損害賠償請求に係る訴えは,不適法として却下する(原判決主文第1項(2))。

イ 被控訴人らの平成15年度の貸付けに関する損害賠償請求に係る訴えは,地方自治法242条の2第2項2号所定の出訴期間に反して提起されたものであるが,控訴人は,高知県監査委員のした勧告に応じた措置を講じていないから,上記違法は治癒されたというべきであり,この点に関する控訴人の本案前の答弁は理由がない。

ウ 被控訴人らの平成15年度の貸付けに関する損害賠償請求に係る訴えのうち,別紙表2の平成16年3月26日付け支出負担行為は,高知県に損害を与えるおそれのない財務会計行為であるから,住民訴訟の対象となる財務会計行為には当たらない。

また,同表のうち,平成15年7月15日付け支出負担行為について,乙原次郎,丙山三郎及び丁川四郎は,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」には当たらない。

したがって,上記訴えのうち,乙原次郎,丙山三郎及び丁川四郎を損害賠償請求の名宛人とする訴えは,不適法として却下する(原判決主文第1項(3))。

エ 被控訴人らは,請求原因において財務会計行為の違法性を根拠づける主張を行っているから,この点に関する控訴人の本案前の答弁は理由がない。

オ 平成15年度の貸付け(貸付金額480万8000円)について,貸付当時,その償還可能性はなかったと評価されるから,上記貸付けの適否の判断は著しく不合理で,高知県の担当機関の裁量権を逸脱したものとして,地方自治法232条1項に違反した違法があり,別紙表2の平成15年7月15日付け支出負担行為を専決した己岡六郎,並びに同月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令を代決した戊谷五郎には,上記違法性の判断において重大な過失があったと認められるから,控訴人が己岡六郎及び戊谷五郎に対し,480万8000円及びこれに対する最終の支出命令の後である平成15年10月1日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金を高知県に支払うことを請求するよう求める被控訴人らの請求は,いずれも理由がある(原判決主文第2項)。

4  控訴の提起,当審における審理の対象

これに対し,控訴人は,原判決中,控訴人の敗訴部分(上記3(2)のオ。原判決主文第2項)を不服として控訴した(被控訴人らは,原判決中,被控訴人らの敗訴部分〔上記3(1),(2)ア及びウ。原判決主文第1項(1)ないし(3)〕に対し,控訴又は附帯控訴しなかった。)。

したがって,当審における審理の対象は,平成15年度に行った貸付けに関し,控訴人が己岡六郎及び戊谷五郎に対し480万8000円及びこれに対する平成15年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を高知県に支払うことを請求するよう求める被控訴人らの請求の当否と,これについての控訴人の本案前の答弁(出訴期間を無視した訴えの提起,戊谷五郎は「当該職員」に該当しない,財務会計行為の違法性を根拠づける具体的な主張の不存在)の当否,ということになる。

第3  前提事実

以下の事実のうち,括弧内に証拠等を掲げない事実は,当事者間に争いがない。

1  横浪大規模年金保養基地設置に至る経緯について

(1)  年金福祉事業団(以下「事業団」という。)は,昭和36年11月25日,年金福祉事業団法(以下「事業団法」という。)に基づき,厚生年金保険及び国民年金保険の積立金の還元融資を行う機関として設立され,融資事業及び福祉施設の設置運用事業(以下「施設事業」という。)の2つの事業を行うものとされていた。もっとも,事業団は,設立後,しばらくの間は施設事業の実施を見送っていたが,昭和47年8月,厚生省及び大蔵省との間で,施設事業の実施などについて合意が図られ,その実現に向けての準備が進められることになった。そして,厚生省は,昭和47年10月27日,保養基地を全国ブロック別に10か所程度設置すること,保養基地には生活,保養,教養及び勤労のための諸施設を総合的に組み込むこと,1つの保養基地への投下資金については200億円,土地については約100万坪を予定していることを骨子とする「大規模年金保養基地構想」を発表した。また,厚生省は,事業団が担当する福祉施設の範囲と政府が直接担当する福祉施設の範囲の整理,運営方法等について検討を重ね,昭和48年10月1日,事業団法の改正により,事業団が大規模年金保養基地(以下「保養基地」という。)の設置・運営を行うものとされた(乙1の3・4,弁論の全趣旨)。

(2)  高知県は,厚生省による「大規模年金保養基地構想」の発表を受けて,昭和48年1月,保養基地を誘致することを決定し,同年3月には土佐市及び須崎市との間で誘致促進期成同盟会を結成するなど,横浪地域に保養基地を誘致するための地元との協力体制を作り,用地の先行取得などの誘致活動を進めた結果,昭和50年10月6日,厚生大臣から,横浪地域を保養基地とする指定を受けた(以下,高知県が指定を受けた保養基地を「グリーンピア土佐横浪」という。)。

2  グリーンピア土佐横浪の運営形態について

(1)  当初の計画では,事業団が,直接,保養基地の建設・運営を行うものとされていたが,その後の2度にわたる石油危機による社会経済情勢の大きな変化のため,事業団は,保養基地所在の地方公共団体に対し保養基地の建設及び独立採算による保養基地の運営を委託することができるものとされた。そして,事業団は,グリーンピア土佐横浪の建設及び運営を高知県に委託する方針の下に,高知県と協議を行った。

高知県は,事業団の上記方針を受け,須崎市及び土佐市と協議を行い,昭和57年2月3日,① グリーンピア土佐横浪の基本構想については,三者の合意を前提に策定し,基本的には将来にわたって採算可能で健全な施設運営が期待できるものとすること,② グリーンピア土佐横浪の運営については,三者が経営責任を持つこととし,具体的な運営方針等について,今後三者で協議して定めること,を確認した。

(2)  高知県は,昭和58年6月9日,事業団との間で,グリーンピア土佐横浪の建設・運営についての覚書(乙10)を締結した。

そして,高知県,須崎市,土佐市,高知県市長会,町村長会等との間で,グリーンピア土佐横浪の運営方式について協議が行われた後,昭和61年11月11日,グリーンピア土佐横浪の運営について高知県に代わるべき団体として,基本財産を2000万円(高知県が45%,須崎市が15%,土佐市が15%,県市長会が10%,県町村会が5%,株式会社高知県観光開発公社が10%を各出資)とする財団が設立された。

財団は,所管庁である高知県の担当課にその事務局を置き,事務局長に高知県観光振興課長が,理事長に高知県副知事が,副理事長に須崎市長及び土佐市長が,専務理事に高知県商工労働部長が,他の理事や幹事に高知県及び市町村関係者がそれぞれ就任した。

(3)  高知県は,昭和62年10月5日,事業団との間で,① 事業団がグリーンピア土佐横浪の運営を高知県に委託すること,② 高知県は,運営上特に効果的であると認める場合には,予め事業団の承認を得て,高知県の指揮監督下にあるグリーンピア土佐横浪の運営を目的とする公益法人に運営を再委託することができること,などを内容とする大規模年金保養基地運営委託契約(以下「本件委託契約1」という。乙16)を締結した。

そして,高知県は,昭和62年10月22日,本件委託契約1に則って,財団との間で,高知県がグリーンピア土佐横浪の運営を財団に委託することなどを内容とする横浪大規模年金保養基地運営委託契約(以下「本件委託契約2」という。乙17)を締結した。

(4)  本件委託契約2の締結に先立つ昭和62年10月9日,財団が同契約締結の審議のため理事会を開催した際,財団の事務局は,グリーンピア土佐横浪の運営につき損失が生じた場合の処理について,財団で負担できない額は,高知県土佐市宇佐町竜字南新浜<番地略>(以下「竜地区」という。)と高知県須崎市浦ノ内出見字光松<番地略>(以下「光松地区」という。)とに区分した上で,地元市から協力を得ることとし,その負担割合を高知県が7割,地元市が3割とする旨の説明をした。

3  グリーンピア土佐横浪の運営の経過について

(1)  グリーンピア土佐横浪は,高知県中西部の観光の核施設として,また,地域の雇用創出など幅広い経済効果を伴う高い事業として位置付けられ,光松地区及び竜地区にそれぞれ施設が建設され,昭和62年10月22日,その運営が開始された。

しかし,グリーンピア土佐横浪は,次のとおり,運営開始当初から赤字経営であり,期末正味財産額(期末の資産と負債の差額)も,1度も黒字となることはなく,平成10年度末には10億3859万円の赤字となった(▲は赤字を示す。以下同じ。甲3)。

昭和62年度単年度収支(以下同じ) ▲29万円

昭和63年度 ▲6995万3000円

平成元年度 ▲5162万3000円

平成2年度 ▲4506万3000円

平成3年度 ▲6354万9000円

平成4年度 ▲9862万1000円

平成5年度 ▲7167万4000円

平成6年度 ▲1億0377万7000円

平成7年度 ▲1億5894万8000円

平成8年度 ▲1億2367万9000円

平成9年度 ▲8560万9000円

平成10年度 ▲1億7337万7000円

(2)  平成9年6月6日,特殊法人等の整理合理化が閣議決定され,事業団の廃止の方向が示されるとともに,保養基地業務から撤退する方針が採用された。これを受けて,事業団は高知県に対し,平成9年7月22日付け「大規模年金保養基地業務からの撤退にかかる検討について」と題する通知文(乙35)でもって,グリーンピア土佐横浪の取得及び施設の利用方策についての検討を要請し,その後,グリーンピア土佐横浪の譲渡受入れの意向について照会を行うなどした。

(3)  財団は,平成5年度から平成10年度にかけて,高知県とともに策定した経営健全化計画を実施したものの,上記(1)記載のように経営状況は好転しなかった。

そこで,財団は,平成10年10月,平成13年度における単年度黒字を目標に再建を図るため,① 将来的に収支の改善が見込めない竜地区を平成11年1月末で閉鎖し,光松地区における宿泊部門の稼働率強化を重点にサービス改善を図ると共にセールス活動を強化すること,② これまでの第三セクターヘの運営委託を改め,財団自らが責任を持ってグリーンピア土佐横浪の運営を行うこと,③ 再建計画期間の3か年は,財団経営の負担となっている金融機関からの借入金の利子分に対し,高知県及び須崎市が利子補給の補助金を交付すること,などを内容とする平成11年度から平成13年度までの3か年の再建計画(以下「本件再建計画」という。)を策定し,平成11年度からこれに着手した。

財団は,本件再建計画の一環として閉鎖する竜地区の累積欠損金2億7707万4587円の処理につき,高知県に対し1億9395万2211円,土佐市に対し8312万2376円を支払うよう求めた。

これを受けて,高知県は,平成11年度2月補正予算案に清算負担金として1億9395万2211円を計上し,平成12年2月の県議会での議決を経て,同年3月31日,財団に対し1億9395万2211円を交付した。また,土佐市も,同様に財団に対し,補償補てん及び賠償金として,竜地区閉鎖に伴う清算負担金8312万2376円を交付した。

(4)  平成11年度及び平成12年度の財団の経営状況は,次のとおりであり,平成11年度末及び平成12年度末の期末正味財産額(期末の資産と負債の差額)は,それぞれ8億2316万5000円,8億8165万1000円の赤字であった(甲3)。

なお,平成11年度の単年度収支が黒字となっているのは,上記(3)のとおり,竜地区の閉鎖に伴い,高知県及び土佐市から合計2億7707万4587円の交付を受けたためであった(甲3)。

平成11年度 2億1542万5000円

平成12年度 ▲5848万6000円

(5)  厚生省は,高知県に対し,平成12年8月3日付け「大規模年金保養基地業務に関する基本方針について」と題する通知文(乙36)でもって,保養基地の設置されている地方公共団体等への譲渡を優先するなどの基本方針を示した。また,事業団も,高知県に対し,同日付け「大規模年金保養基地業務からの撤退に関する実施要領について」と題する通知文(乙37)でもって,保養基地の譲渡についての具体的な取扱いを示した。

4  平成14年度の運営継続について

(1)  須崎市は,上記3(2)及び(5)のとおりの動向を受けて,平成12年10月31日の庁議において,① グリーンピア土佐横浪は,須崎市のみならず高知県中央部における観光の振興に重要な役割を果たしており,廃止後は,ホテル機能が存続できる形態で利活用策を検討していくこと,② 須崎市に限らず高知県中央部の今後の振興のためにはホテル機能の存続が必要不可欠であり,その存続を強く希望すること,③ 廃止後は,須崎市への無償譲渡又は無償貸与を強く希望すること,④ 須崎市は,民間事業者に委託してホテル事業を経営することを考えており,その可能性の有無を調査する必要があること,⑤ ホテル機能以外にも高齢者の福祉施設等の利活用策を引き続き協議していくことを決定し,今後,関係機関と協議していくこと,を確認した。

そして,須崎市長は,平成12年11月30日の財団の理事会後の理事懇談会において,グリーンピア土佐横浪の閉鎖を前提として検討が進められていることに対し,これまで協力してきた地元須崎市としては大変残念であり,須崎市に残された唯一の観光開発の場としてグリーンピア土佐横浪を守らなければならない旨の発言をして,グリーンピア土佐横浪の存続を強く希望した。

(2)  平成12年11月30日の財団の理事懇談会の席上,本件再建計画の計画目標達成が困難であり,グリーンピア土佐横浪の運営停止を考えなければならない時期に来ているなどの意見が出されたほか,平成13年1月11日の理事懇談会においても,本件再建計画の計画目標の達成が極めて困難になったことから,グリーンピア土佐横浪の運営を平成13年度中に停止する方向で,職員の雇用問題,累積損失の清算処理時までに関する検討を早急に進める必要があるなどといった意見が出され,財団は,グリーンピア土佐横浪の運営を停止する方向で検討することとした。

また,控訴人は,平成13年2月の県議会において,本件再建計画の達成が困難であることを報告した。

そして,高知県は,財団が本件再建計画に着手したものの,平成11年度及び平成12年度において収支額改善の目標値に届かない結果となったため,本件再建計画の達成が困難であると判断し,平成13年度以降の利子補給の補助金の交付を打ち切った。

(3)  控訴人は,平成13年2月の県議会において,本件再建計画の達成が困難であるとの考えを表明する一方(上記(2)),平成14年10月に開催される「よさこい高知国体」(以下,単に「国体」という。)のための宿泊施設の確保が重要課題となっており,国体開催時にグリーンピア土佐横浪を宿泊施設として利用することが欠かせない状況になっているとの認識を示し,いったん営業を中断して国体の開催期間だけ再開するよりも,国体終了までの期間,営業を継続した方がコスト面において有利と見込まれることから,国体が終了するまでの間はグリーンピア土佐横浪の運営を続けたい旨の意向,及びグリーンピア土佐横浪の運営を継続するに当たっては,民間の活力を生かした新しい運営手法の検討を急ぐ意向を表明した。

また,控訴人は,グリーンピア土佐横浪の施設はまだ新しく,地元から何とか残してほしいとの強い希望があるため,須崎市と協議を進めていくこととし,施設の運営に対し一定の関心を持っている民間事業者もあるので,十分に検討した上,グリーンピア土佐横浪の今後の施設の活用策や経営方針等を判断していきたい旨も表明した。

その後,平成13年3月の県議会の文化厚生委員会において,観光振興課長は,国体開催時までグリーンピア土佐横浪の運営を継続した方が約2000万円ほど経費が少なくて済むとの説明をした。

(4)  高知県は,① 須崎市から,グリーンピア土佐横浪の取得も視野に入れた上で,その存続に強い要望がされていたこと(上記(1)),② 国体開催において,グリーンピア土佐横浪を宿泊施設として利用することが必要不可欠であったこと(上記(3)),③ 国体開催時までグリーンピア土佐横浪の運営を継続した方が約2000万円ほど経費が少なくて済むこと(同前),から,グリーンピア土佐横浪を平成14年度末まで存続させることの必要性・妥当性が認められるものと判断し,国及び事業団と協議を行い,また,県議会にも報告の上,国体の開催される平成14年度末までグリーンピア土佐横浪を存続することとした。

(5)  平成13年3月5日,須崎市の住民組織は,須崎市長及び同市市議会議長に対し,約4000名の署名を添えてグリーンピア土佐横浪の存続についての陳情書を提出した。これらの動向を受けて,須崎市長は,県議会に対し,① グリーンピア土佐横浪の国体後の運営について見通しが立っておらず,その廃止は,高知県中西部のレジャー,宿泊施設,地域産業経済の衰退を招くのみならず,須崎市が発展していくための核を失うことであるから,容認することができない,② 須崎市議会において,グリーンピア土佐横浪の存続に向けて最大限に努力すべきとの意見が採択され,須崎市は,市民をあげて支援を惜しまない決意の下に取組みを進めており,県議会においてもグリーンピア土佐横浪の存続に向け格段の支援を要請する,旨の要望書(乙62)を提出した。

また,須崎市長は,平成13年6月15日,高知県の文化環境部長との協議の中で,高知県がグリーンピア土佐横浪の運営から撤退した場合,国から譲渡を受けてこれを運営していきたいとの意向を示した。

5  平成15年度の運営継続について

(1)  高知県は,控訴人による民間の活力を生かした新しい運営手法の検討を急ぐ,との意向表明を受けて(上記4(3)),民間活力導入に向けての検討を進め,平成13年7月,グリーンピア土佐横浪の運営の委託内容を定めた「グリーンピア土佐横浪管理運営業務の概要書」(以下「概要書」という。乙42)を作成した。概要書には,グリーンピア土佐横浪の運営の委託条件として,平成13年度途中から平成15年度末までを契約期間とすることが記載されていた。

そして,高知県は,高知県内の民間業者4社及び高知県内において株式会社リゾートコンベンション企画(平成13年11月19日設立。以下「RCP」という。)の設立を予定していた深田智之(以下「深田」という。)に対し,概要書を送付してグリーンピア土佐横浪の運営業務受託についての希望を打診した。これに対し,深田のみがこれに応じる意向を示した。

(2)  そこで,財団は,深田との間で契約内容についての折衝を行ったが,その過程で,契約期間について問題点が生じた。すなわち,概要書には契約期間を平成15年度末までとする旨が記載されていたところ,国の動向によっては契約期間満了前にグリーンピア土佐横浪の運営が終了する可能性があった。そこで,財団は深田に対し,契約期間を単年度更新とするか,又は国体終了までの平成14年度末までとし,平成15年度については国の動向により更新の有無を決定する,ということを提案した。これに対し,深田は,平成13年8月21日,財団に対し,上記提案を受け入れることはできず,契約を締結するのであれば,今日か明日までに返事がほしい旨強く求めた。そのため,高知県は,国体のための宿泊施設確保という課題の解決のためには契約期間を平成15年度末までとせざるを得ない状況になった。

(3)  平成13年10月の県議会の文化厚生委員会において,文化環境部長は,上記(2)の財団と深田との折衝経緯を説明した上,RCPと財団が平成13年12月1日からの運営委託を目指した協議を進めており,同年10月中旬に基本合意が,同年11月中旬に本契約が締結される予定であることを報告した。また,観光振興課長は,同委員会において,財団とRCPとの間の本契約について,単年度契約を原則として平成15年度まで更新することなどの報告をした。さらに,文化環境部長は,同委員会において,国体終了後はグリーンピア土佐横浪を閉鎖するのではなかったかとの委員からの質問に対し,国体までの平成14年度まではグリーンピア土佐横浪の運営が継続されるので,その2年間に見込まれる赤字の範囲内でRCPに請け負わせる仕組みでの経営改善を検討している旨の回答をした。

(4)  財団は,平成13年10月25日,RCPとの間で,グリーンピア土佐横浪の管理運営業務に関する基本合意を締結した。

高知県は,平成13年11月8日,事業団を訪問の上,グリーンピア土佐横浪の運営が平成15年度に黒字に転換する可能性があること,グリーンピア土佐横浪が須崎市にとって必要であることなどを説明し,一定期間,グリーンピア土佐横浪の運営の継続を認めてほしい旨要望した。また,高知県及び須崎市は,グリーンピア土佐横浪の運営継続に対する地元の熱意を事業団に伝えるため,民間事業者への請負によるグリーンピア土佐横浪の運営継続について格段の配慮をお願いしたい旨の要望書をそれぞれ事業団に提出した。

そして,高知県は,平成13年11月29日,事業団との間で,本件委託契約1が終了した場合,高知県が責任を持って本件委託契約2及び財団とRCPとの間で締結される契約を終了させることなどを内容とする覚書を締結した。

(5)  財団は,平成13年11月30日,RCPとの間で,グリーンピア土佐横浪の管理運営を委託する「グリーンピア土佐横浪運営管理業務請負契約」(以下「本件請負契約」という。乙54)を締結した。

本件請負契約は,① 平成14年3月31日までが契約期間であったが,財団は,平成16年3月31日まで契約更新をしなければならず,契約を更新しない場合,財団がRCPに対し損害賠償義務を負うこと,② 財団は,方針を変更して契約を解除できるが,RCPに対し損害賠償義務を負うこと,などを内容としていた。

6  グリーンピア土佐横浪の運営停止に至る経緯

(1)  RCPは,収益性の低い遊具施設の運営を停止し,ホテル棟と温泉保養館を中心とする運営に切り替えたり,地元関係者と連携し,地元で獲れる旬の食材中心に切り替え,他の施設との差別化を図ると共に原価率の低減を図るなど,グリーンピア土佐横浪の運営につき,経営改善に取り組んだ。平成13年度ないし平成15年度の財団の収支は,次のとおりであり,平成13年度末及び平成14年度末の期末正味財産額(期末の資産と負債の差額)は,それぞれ9億7803万8000円,10億3288万8000円の赤字であった。

平成13年度(12月から3月) ▲1504万3300円

平成14年度 ▲2969万9000円

平成15年度 1203万6000円

(2)  事業団は,平成15年1月28日,グリーンピア土佐横浪の譲渡について高知県と協議を行い,その際,譲渡価格につき,譲渡先が公的な団体である場合には1億円程度であることを提示し,譲受け及び今後の利活用の方針を平成15年度中に示してほしいなどの要請をした。

また,平成15年1月29日,事業団は,グリーンピア土佐横浪の譲渡について須崎市長と交渉を行い,その際,譲渡価格として1億円を提示した。これに対し,須崎市長は,グリーンピア土佐横浪の取得について前向きな姿勢を示した。

このため,事業団は,平成15年4月10日,グリーンピア土佐横浪の取得に向けての須崎市のスケジュールや事業団が対応すべき事項を確認するため,再度,須崎市と協議を行った。その際,須崎市は,平成15年6月の市議会でグリーンピア土佐横浪取得の承認を受けた後に利活用を検討し,平成15年9月に利活用を検討する委員会を発足させ,同年12月までに,翌平成16年度の運営方針を決定するというスケジュールで検討していることを事業団に伝えた。

その後,須崎市は,市議会全議員協議会の了解を得て,利活用等検討委員会を発足させ,同委員会は,平成15年9月5日,施設運営について民間が行うことなどを条件としてグリーンピア土佐横浪を取得し,地域振興を図るべきとの答申を行った。そして,須崎市は,市議会において上記答申を報告した上,グリーンピア土佐横浪を取得する方針で検討していくとの意向を表明し,また,市議会全議員協議会において利活用計画を策定することの承認を得た後,グリーンピア土佐横浪の取得に向けたスケジュールについて検討を行った結果,平成16年度4月当初にグリーンピア土佐横浪を取得することが困難であると判断し,事業団からの照会に対し,譲受けの時期が平成16年9月になるとの回答をした。

(3)  RCPは,平成15年9月30日,財団に対し,本件請負契約に基づき,平成16年度以降の契約について継続の申請を行った。

しかし,財団は,RCPの直近1年間の運営実績が黒字ではないこと,RCPから抜本的な経営改善についての特段の提案がなく,今後収支の黒字化が明確に期待できると判断できなかったことなどから,同年度以降については本件請負契約を継続しないこととし,平成15年10月22日,RCPに対しその旨を文書で通知した。

(4)  これを受けて,事業団は,須崎市によるグリーンピア土佐横浪の譲受けが平成16年9月と予定されていたにもかかわらず,財団がRCPとの間で本件請負契約を平成16年度以降について継続しないことになり,同年3月末から同年9月までの間に施設が利用されない空白期間が生じるおそれが生じたことから,高知県及び須崎市に対し,空白期間中に生じる営業面や施設維持管理面についての支障をなくすように,須崎市によるグリーンピア土佐横浪の取得が平成16年4月1日にできるように予定を前倒しすること,又は須崎市が取得するまでの間,事業団が運営を須崎市に委託し,更に須崎市がRCPに運営を再委託するなどしてグリーンピア土佐横浪の運営を継続する方法の検討を要請するなどした。

須崎市は,平成15年10月下旬からグリーンピア土佐横浪の利活用策を公募し,これに応募してきたRCPの提案を検討したが,これを採用するに至らなかった。また,須崎市長は,平成15年12月議会において,健康上の理由により退任した。

このため,須崎市は,市長不在の中,重要な政策決定を速やかに行うことが困難となったとして,須崎市が事業団から運営の委託を受けてRCPに再委託をする形での運営継続をしないことを決定し,平成15年12月26日ころ,事業団に対しその旨の回答をした。

(5)  高知県は,財団及び須崎市の決定を受けて,平成16年3月末をもってグリーンピア土佐横浪の運営を停止せざるを得ないとの最終的な判断を行い,平成16年1月20日,事業団との協議を経た上,同年3月末日をもってグリーンピア土佐横浪の運営を停止することを公表した。

(6)  平成16年3月24日,事業団と高知県との間で「大規模年金保養基地の清算業務及び管理に関する契約」(乙92)が締結され,同月29日,高知県と財団との間で「横浪大規模年金保養基地の清算業務及び管理に関する契約」(乙93)が締結された。

グリーンピア土佐横浪の運営は,平成16年3月末日,停止された。

平成16年4月1日から同年6月30日まで,グリーンピア土佐横浪の残務整理が行われ,同日,財団から高知県を経て事業団に対し,グリーンピア土佐横浪の引渡しが行われた。

7  高知県の財団に対する貸付けについて

(1)  当初の貸付方法

ア 財団は,グリーンピア土佐横浪の運営開始当初から,単年度ごとの運営赤字に係る運転資金を金融機関からの借入れで賄い,その他の開業準備金,運営経費等,財団運営に必要な資金については高知県から借入れをすることによってグリーンピア土佐横浪の運営を行っていた。

高知県は,財団に対する貸付けを行うに当たり,毎年度,高知県議会に対し貸付額を計上した予算案を提出し,その議決を受けた上,財団に対する貸付けを行っていた。

イ 金融機関は,平成9年度を最後に,財団に対し,新たに運営赤字に係る運転資金の貸付けを行わないことにした。そのため,財団は,平成10年度以降,グリーンピア土佐横浪の運営赤字に係る運転資金についても高知県から借入れを行うことになった。

もっとも,財団は,平成4年度末ころから,高知県からの借入金を返済する資力がなかったため,年度末末日に,高知県へ返済すべき額と同額の金員を株式会社四国銀行(以下「四国銀行」という。)から借り入れ,いったん高知県に完済した上,その直後である翌年度4月に,四国銀行へ返済すべき額を含めた運転資金を高知県から借り入れ,その借入金をもって四国銀行に完済するという「転がし」の手法を用いた(甲3)。

(2)  平成14年度の貸付け

高知県の財団に対する貸付けは,平成13年度から平成14年度にかけても,上記(1)と同様の「転がし」の手法が採られ,平成14年4月1日に5億7391万円の支出負担行為がされ(甲4の1),同日に別紙表1の5億1494万円の支出命令が,同年6月13日に同表の4000万円の支出命令が,平成15年2月24日に同表の1897万円の支出命令がそれぞれなされ(甲4の2〜4),高知県は,平成14年度において,財団に対し,合計5億7391万円を貸し付けた(以下「平成14年度貸付」という。)。

(3)  平成15年度の貸付け

ア 高知県は,平成15年2月,県議会に対し,① 「転がし」の手法により四国銀行に返済する平成14年度貸付合計額5億7391万円,② 株式会社高知銀行(以下「高知銀行」という。)からの既借入金2億6400万円及び四国銀行からの既借入金2億6400万円に対する平成15年度利息の返済のための資金合計1015万1500円,③ 維持修繕費等2700万円,④ 人件費,事業団等に対する受託料・負担金,法人税,顧問税理士への手数料,電話代,旅費等の事務的経費636万5697円,を内訳とする平成15年度に執行する予定の財団に対する貸付金を合計6億1742万8000円とする予算案を提出した。

イ 四国銀行は,金融庁から「転がし」の手法について指摘を受けたため,財団に対し,平成14年度末に行う予定であった平成14年度貸付の返済に充てるための一時貸付けを行わないこととし,その旨を高知県に連絡した。

ウ 高知県議会は,上記アの予算案の提出を受けて,文化厚生委員会において検討を行った。その際,報告事項として,グリーンピア土佐横浪の利用状況及び運営状況,財団の累積赤字額や収支状況,本件請負契約により平成15年度も引き続き運営が継続されることなどが詳細に報告され,また,これらの報告事項のほかにも,四国銀行が「転がし」のための一時貸付けを取り止めたこと,そのため他の金融機関に対し一時貸付けを行えるか否かを打診する必要があること,財団が平成14年度貸付の返済のための融資を受けられない場合,高知県において,平成14年度貸付の返済期限を平成14年度末から平成16年3月31日まで延期すること,及び平成15年度の予算執行に当たって,上記ア①及び②の執行を取り止め,財団の運営のために最小限必要な経費だけの執行にとどめることを検討している旨の報告もなされた。

そして,高知県議会は,文化厚生委員会の検討を経て,全会一致で上記予算案を可決した(乙74,75,76の1・2)。

エ その後,高知県は,他の金融機関に対し一時貸付けが可能か否かの打診をしたが,平成15年3月下旬ころ,財団において,他の金融機関から一時貸付けを受けることができないことが確定し,その結果,財団は,平成15年3月31日に返済すべき平成14年度貸付を返済することが不可能となった。

そのため,高知県は,平成15年3月25日,平成14年度貸付の返済期限を平成16年3月31日まで延期する手続を執り(乙79),平成15年度に執行する予定である貸付金6億1742万8000円のうち,平成14年度貸付に関する借入金返済のための貸付金5億7391万円(上記ア①),金融機関からの既借入金に対する平成15年度利息金返済のための貸付金1015万1500円(上記ア②),維持修繕費等2700万円(上記ア③)の予算執行を取り止めた。

しかし,財団がグリーンピア土佐横浪を運営するのに必要な資金(運転資金)を工面することができず,平成14年度でグリーンピア土佐横浪の運営を停止せざるを得なくなれば,将来須崎市がグリーンピア土佐横浪の移管を受けるについて重大な支障が生ずるだけでなく,平成14年度以前に予約を了している平成15年度以降の宿泊利用客に多大な迷惑を及ぼし,その事務にも大混乱を来すことが必至となる。

そこで,高知県は,これを回避するため,平成15年度の財団運営に最小限必要な経費(運転資金)となる人件費,事業団等に対する受託料・負担金,法人税,顧問税理士への手数料,電話代,旅費等の事務的経費636万6000円(上記ア④参照)については,財団からの貸付要請を受け入れ,これを財団に貸し付けることとした。

このようにして,高知県は,平成15年7月15日付けで別紙表2の636万6000円の支出負担行為を行い(甲4の5,乙80の1),同月25日付けで同表の360万2000円の支出命令(甲4の6,乙80の2)を,同年9月18日付けで同表の120万6000円の支出命令(甲4の7,乙80の3)をそれぞれ行い,財団に対し,合計480万8000円を貸し付けた(以下「平成15年度貸付」という。)。

オ 財団は,平成16年2月12日,高知県に対し,平成14年度貸付及び平成15年度貸付の全額について,債権を放棄するよう要請した。

これを受けて,高知県は,平成16年3月26日,上記エの636万6000円の支出負担行為のうち,未執行であった残額155万8000円について,別紙表2の減額変更(支出負担行為)を行った。

8  財団の破産に至る経緯

(1)  財団は,平成16年2月12日,高知県に対する5億7871万8000円の債務,四国銀行に対する2億6400万円の債務,高知銀行に対する2億6400万円の債務について,いずれも弁済期限内に弁済できる見込みがなく,更に将来的にも弁済できる自主財源の確保も見込まれないと判断し,高知県に対し,債権全額を放棄するよう要請し,上記各銀行に対しても債権全額を放棄するよう要請した。

(2)  高知県包括外部監査人(松岡章雄弁護士)は,税理士及び弁護士を補助者とした上,平成16年3月29日,平成15年7月から同年12月にかけて行った高知県と財団との関係についての監査に基づき,「平成15年度包括外部監査結果報告書」(甲3)を公表した。

この報告書には,高知県と財団との関係について,「仮に,高知県が光松地区の運営廃止にともない,本件財団に対して補助金を交付して債務処理をするとなれば,住民福祉の増進活動の一環の原則に違反し,『公益上必要のある場合』の要件を欠くから,妥当ではない,と考える。」(同報告書87頁)との報告がなされた。

(3)  高知県は,平成16年4月19日,財団に対し債権全額の納付を求める督促状を発し,高知銀行は,平成16年4月5日,四国銀行は,同年5月18日,それぞれ財団に対し直ちに債権全額を支払うよう求める催告をした。さらに,高知銀行は,平成16年5月19日,高知地方裁判所に対し,財団を被告として債権全額の支払を求める訴えを提起した(平成16年(ワ)第173号事件)。

(4)  財団は,平成16年6月25日,将来的に自主財源を確保することが不可能であり,債務削減を講じる手段を見出せない中,高知県,四国銀行及び高知銀行が債権放棄の要請を拒絶し,また,債務処理について公費支出の見込みがなかったことから,財団の財務状況が支払不能の状態に陥っているものと判断した。

財団は,平成16年6月28日,高知地方裁判所に対し,自己破産の申立てをし,同日午前10時,破産宣告を受け,破産管財人が選任された。

(5)  平成16年6月30日,財団がグリーンピア土佐横浪を高知県に引き渡したことにより,その寄附行為に定められた目的を達成するための事業が終了した。

9  住民監査請求,本件訴えの提起

(1)  高知県の住民であり,「市民オンブズマン高知」に所属する被控訴人らは,平成16年4月7日,高知県監査委員に対し,① 高知県が財団に対し返済の見込みがないのに十分な審査をせず貸付けをした結果,5億8027万円6000円の返済を受けることが困難となった,② 高知県は,四国銀行及び高知銀行に対し財団の債務について損失補償の義務を負っていない,③ 高知県が負担金及び補助金の交付という形で財団を救済することは,その目的に照らしても正当かつ合理的理由がない,④ 建設に135億円を要した施設を須崎市が1億円で買い受け,民間に再売却することは年金資金の無駄遣いであることから,高知県は財団,財団の理事又は貸付事務に係わった職員から貸付金5億8027万6000円を回収すべきであり,また,高知県が財団に代わって四国銀行及び高知銀行に弁済することを差し止めるべきである,ことなどを内容とする住民監査請求(以下「本件住民監査請求」という。)をした(甲1)。

(2)  これに対し,高知県監査委員は,平成16年5月31日,平成13年度以前の財団に対する貸付金はいわゆる「転がし」の手法による借換えによってすべて返済され,また,平成14年度の財団に対する貸付けは,貸付実行日及び返済期限の延長を承認した日からいずれも1年が経過していることから,① 高知県が財団に融資した平成15年度の貸付金が違法あるいは不当な支出であるか否か,② 財団が金融機関から融資を受けた借入金の債務処理において,高知県が公金を支出することを差し止めるべきか否かの2点を対象として監査を行ったとし,その結果,本件住民監査請求について一部に理由があるものと認め,地方自治法242条4項に基づき,控訴人に対し,平成15年度の財団に対する貸付金480万8000円については違法かつ不当な貸付けであるため,高知県に与えた損害について填補の必要な措置を平成16年7月30日までに講じることを勧告することを決定し,同年6月4日付書面でもって,被控訴人らに対しその旨を通知し(以下,上記監査及び勧告を,それぞれ「本件監査」,「本件勧告」という。甲2),被控訴人らは,そのころ,上記書面の送達を受けた。

(3)  被控訴人らは,平成16年6月30日,高知地方裁判所に対し,本件訴えを提起した。

なお,控訴人は,現在に至るまで,本件勧告に応じた措置を講じていない。

第4  争点及び争点についての当事者の主張

1  本件訴えの適法性

(1)  控訴人の主張

ア 出訴期間を無視する訴え

被控訴人らは,本件勧告に応じた措置の期限が平成16年7月30日とされていたにもかかわらず,同期限が経過する前の平成16年6月30日に本件訴えを提起しているところ,これは法定の出訴期間(地方自治法242条の2第2項2号,4号)を全く無視するものである。

したがって,被控訴人らの本件訴えは,不適法である。

イ 「当該職員」に当たらない者を請求の名宛人とする訴え

別紙表2の戊谷五郎は,観光振興課長補佐として,平成15年7月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令の代決を行ったにすぎないから,地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」には当たらないというべきである。

したがって,被控訴人らの本件訴えのうち,戊谷五郎を損害賠償請求の名宛人とする訴えは,不適法である。

ウ 違法性の根拠に関し具体的な主張のない訴え

被控訴人らは,請求原因において,財務会計行為の違法性を根拠づける具体的な主張を行っていない。

したがって,被控訴人らの本件訴えは,不適法である。

(2)  被控訴人らの認否,反論

ア 出訴期間を無視する訴えとの点について

控訴人の主張は争う。

平成16年6月26日の新聞報道によれば,控訴人は,高知県の財団に対する貸付金全額を欠損金として処理する意向であるとして,本件勧告に従う意思のないことを公に表明したほか,財団に対する破産宣告がされるに際しても,重ねて同様の意向を表明した。

被控訴人らは,控訴人のこのような態度からして,改めて訴えを提起することは煩瑣なだけであると判断し,他の請求と併合した本件訴えを提起したものである。

したがって,本件訴えは,地方自治法242条の2第2項2号,4号に違反せず,適法である。

イ 「当該職員」に当たらない者を請求の名宛人とする訴えとの点について

控訴人の主張は争う。

戊谷五郎は,観光振興課長補佐として,別紙表2の平成15年7月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令の代決権を有しているから,「当該職員」に当たるというべきである。

ウ 違法性の根拠に関し具体的な主張のない訴えとの点について

控訴人の主張は争う。

被控訴人らは,後記2(1)において,平成15年度貸付に関する財務会計行為の違法性を根拠づける具体的な主張を行っているから,本件訴えは適法である。

2  平成15年度貸付に関する財務会計行為の違法性

(1)  被控訴人らの主張

ア 己岡六郎が別紙表2の平成15年7月15日付け支出負担行為を,戊谷五郎が同表の同月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令を決裁した当時,財団には平成15年度貸付による借入金を返済する資力がない状態であった。

ところが,己岡六郎及び戊谷五郎は,担保を徴することもなく,平成15年度貸付を行った。

イ このような返済の見込みのない貸付けを無担保で行うことは違法であり,このような返済の見込みのない貸付けについてなされた上記各支出負担行為及び上記各支出命令は,いずれも違法である。

ウ 控訴人は,財団に対する財政支援の必要性を強調し,償還可能性の有無は,その財政支援の方法として補助金の方法によるか貸付けの方法によるかを比較衡量する際の一要素にすぎないと主張するが,同主張は,地方公共団体の予算編成に際して重要な歳出科目の設定の規律をなきに等しくするものであり,財務規律上の原理原則を無視するものであって,容認されるべきではない。

(2)  控訴人の主張

ア 地方公共団体の長等は,地方自治の本旨の理念に沿って住民の福祉の増進を図るため,地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を担うことから,住民の多様な意見及び利益を勘案して,補助金,負担金,貸付金等の各種の法形式を用いた公金の支出を行っており,その決定は,事柄の性質上,当該地方公共団体の地理的,社会的,経済的及び各種の行政政策の在り方等,諸般の事情を総合的に考慮した上での政策的判断に基づくものであり,公金支出の判断に当たって,広い裁量権を有するものである。そして,地方公共団体の行う貸付けは,民間の金融機関が利潤を追求するために行うものとは異なり,公益の多元的な確保を目的になされるものであるから,償還可能性についても,民間の金融機関と同等に考えるべきではない。

このように,地方公共団体が貸付金の形式で公金を支出することは,地方自治法232条の2の公益上の必要性や,民間の金融機関の行う通常の貸付けとは異なる特殊性から償還可能性を含む様々な要素を考慮して最終判断されるべき性格のものであるから,公金支出の違法性判断の明確な基準の定めはなく,第一次的には,当該地方公共団体の長や議会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきであり,この判断に著しい不公正又は法律違背が伴うなど,裁量の範囲を逸脱又は濫用した著しく不合理なものとは認められない限り,これを尊重することが地方自治の精神に合致するというべきである。

イ 本件において,高知県は,本件委託契約1によりグリーンピア土佐横浪の運営を事業団から委託され,高知県の責任においてその運営を行い,独立採算で運営を行わなければならなかった。そのため,高知県は,財団が財政的な理由でグリーンピア土佐横浪の運営ができないような事態が生じた場合,事業団に対しグリーンピア土佐横浪の運営責任を果たすため,財団に対する財政支援をせざるを得ない立場にあった。

そして,このような財政支援が不可避といえる状況において重要なのは,財政支援の方法として考えられる補助金による方法と貸付金による方法のいずれが妥当であるかという判断であり,貸付けの方法による場合の償還可能性の有無は,いずれの方法によるべきかを判断する際に考慮する一要素にすぎず,財政支援が不可避な状況においては,貸付けの方法によった場合に償還可能性がないからといって,当該財政支援(公金支出)が直ちに違法となるものではない。

ウ また,RCPが財団から業務委託を受けた平成13年12月以降,平成15年度まで順次収支改善が図られ,平成15年度においては単年度黒字に転じていたのであって,平成15年度貸付に関する各支出負担行為及び各支出命令がされた当時,長期的にみて,平成15年度貸付による貸付金の償還可能性がなかったとはいえない。

エ 以上のような状況のもと,高知県は,財団が本件委託契約2に基づいて責任を持って独立採算でグリーンピア土佐横浪の運営をすべきであったことから,財団の経営努力の意欲を削ぐおそれのある償還の必要のない補助金による方法よりも,償還の必要があって財団の経営努力を促すことに繋がること,高知県の財政にとっても償還される可能性のある方が妥当であると考え,貸付金による方法が妥当であると判断したものである。

オ したがって,高知県の上記判断が裁量の範囲を逸脱又は濫用した著しく不合理なものとは到底いえないから,平成15年度貸付を行ったことに違法な点はない。

3  「当該職員」の故意又は重過失の有無

(1)  被控訴人らの主張

ア 己岡六郎及び戊谷五郎(以下「本件職員ら」という。)は,いずれも平成15年度貸付に関する支出負担行為又は支出命令をそれぞれ決裁する際,それまでに既に財団に貸し付けていた貸付金が一切返済されていないことを知り,かつ,返済の見込みがないことを認識しながら,平成15年度貸付に関する支出負担行為又は支出命令を行ったものである。

イ したがって,本件職員らに故意又は重大な過失があるというべきである。

(2)  控訴人の主張

ア 地方自治法243条の2第1項にいう「故意又は重大な過失」とは,違法性についての故意又は重大な過失と解すべきである。

そして,本件職員らは,平成15年度貸付が極めて容易に違法であると判断できないところを適法と判断し,平成15年度貸付に関する支出負担行為又は支出命令の各決裁を行ったものである。

イ したがって,本件職員らに「故意又は重大な過失」はない。

第5  当裁判所の判断

1  判断の大要

当裁判所は,控訴人の本案前の答弁は,原審と同様,いずれも理由がないと判断するが,被控訴人らの請求は,原審とは異なり,いずれも理由がないと判断する。

その理由は,次のとおりである。

2  争点1(本件訴えの適法性)について

(1)  出訴期間を無視する訴えとの点について

ア 上記前提事実(第3の9(2)及び(3))のとおり,被控訴人らの本件訴えは,本件勧告の措置期限とされた平成16年7月30日よりも前である同年6月30日に提起されたものであり,地方自治法242条の2第2項4号所定の出訴期間に反して提起されたものである。

しかしながら,上記前提事実のとおり,控訴人は,監査委員から同年7月30日までに本件勧告に応じた必要な措置を講じるよう勧告されながら,現在に至るまで同措置を講じていない。そうすると,上記出訴期間に反して提起された本件訴えは,既にその違法が治癒されたものというべきである。

イ 他方,被控訴人らは,本件勧告の内容に不服があるとして,本件勧告があったことの通知を受けた平成16年6月4日ころから30日以内に本件訴えを提起しているのであって,同項2号所定の出訴期間内に提起されたものであることは明らかである。

ウ 以上のとおりであるから,本件訴えが出訴期間(同項2号,4号)を無視する訴えとして不適法であるとの控訴人の本案前の抗弁は,いずれも理由がない。

(2)  「当該職員」に当たらない者を請求の名宛人とする訴えとの点について

ア 地方自治法242条の2第1項4号にいう「当該職員」とは,財務会計行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている者及びその者から権限の委任を受けるなどして権限を有するに至った者をいうところ(最高裁昭和62年4月10日第二小法廷判決・民集41巻3号239頁参照),上記委任を受けるなどして権限を有するに至った者には,当該地方公共団体内部において,訓令等の事務処理上の明確な定めにより,当該財務会計行為上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ専決することを任され,当該権限の行使についての意思決定を行うとされていた者が含まれる(最高裁平成3年12月20日第二小法廷判決・民集45巻9号1503頁参照)ほか,当該地方公共団体内部において,訓令等の事務処理上の明確な定めにより,当該財務会計行為上の行為につき法令上権限を有する者からあらかじめ代決することを任され,当該権限の行使についての意思決定を行うとされた者(以下「代決権者」という。)で,かつ,実際に代決を行った者も含まれるものと解される。

イ これを本件についてみるに,高知県事務処理規則(乙108の1・2)によれば,別紙表2の平成15年7月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令について,観光振興課長が専決権を有し,観光振興課長補佐である戊谷五郎が代決権を有していたことが認められる。そして,上記各支出命令に関する支出命令書の決裁欄には,代決権者である戊谷五郎の押印がある一方,専決権者である観光振興課長の押印がない(甲4の6・7,乙80の2・3)ことからすると,上記各支出命令は,戊谷五郎が代決したものと認められ,他にこれを覆すに足りる証拠はない。

このように,戊谷五郎は,上記各支出命令につき代決権を有し,かつ,実際に代決を行っているから,「当該職員」に当たるものと認められる。

ウ したがって,戊谷五郎は「当該職員」に当たらないとの控訴人の本案前の抗弁は,理由がない。

(3)  違法性の根拠に関し具体的な主張のない訴えとの点について

ア 控訴人は,被控訴人らは,請求原因において,財務会計行為の違法性を根拠づける具体的な主張をしていないから,本件訴えは不適法である旨主張する。

イ なるほど,本件における財務会計行為の違法性に関する被控訴人らの主張は,弁護士を選任しない本人訴訟であることを考慮しても,不十分であるとの評価もできなくはない。

しかしながら,被控訴人らは,請求原因に関し,上記第4の2(1)記載のとおり,財務会計行為(平成15年度貸付に関する支出負担行為及び支出命令)の違法をそれなりに具体的に主張しているものと解され,当該財務会計行為の違法性の判断についての攻撃防御を尽くすことができないとか,その判断ができないというものではない。

ウ したがって,この点に関する控訴人の本案前の答弁は,理由がない。

3  争点2(平成15年度貸付に関する財務会計行為の違法性)について

(1)  平成15年度貸付の違法性

ア 地方公共団体の行う貸付けの違法性の判断基準

(ア)  地方自治法232条1項は,「普通地方公共団体は,当該普通地方公共団体の事務を処理するために必要な経費その他法律又はこれに基づく政令により当該普通地方公共団体の負担に属する経費を支弁するものとする。」と規定しているところ,同規定は,普通地方公共団体の事務処理のために必要な経費の支弁義務を定めたものにすぎず,普通地方公共団体が貸付けを行うことを禁ずる趣旨であるとは解されないから,普通地方公共団体は,地方自治の本旨に基づき,貸付けを行うことができるものと解される。

もっとも,貸付けも普通地方公共団体の行う支出であり,その原資は住民の税金で賄われるものである以上,公共性ないし公益性の認められないような支出は,地方公共団体存立の基本理念に反し,許されないものといわざるを得ない。そして,当該貸付けによる支出が公共性ないし公益性を有するか否かは,当該区域住民の民意に存立の基礎を置く当該地方公共団体の担当機関が,当該貸付けの趣旨,目的,当該地方公共団体の置かれた地理的,社会的,経済的事情や特性,議会の対応,当該地方公共団体の財政の規模及び状況,他の行政施策との関連等を総合的に考慮して判断することが,地方自治の精神に合致するものということができるから,貸付けの適法性の判断は,当該地方公共団体の担当機関の合理的な裁量に委ねられているというべきであり,貸付けをした判断が著しく不合理で,裁量権を逸脱又は濫用したものであると認められる場合でない限り,違法とはならないと解するのが相当である。

また,貸付けに際しての償還可能性の程度は,貸付けの違法性を判断する一要素ではあるが,地方自治法232条の2が「普通地方公共団体は,その公益上必要があると認める場合においては,寄附又は補助をすることができる。」と規定していることとの対比からみると,客観的にも主観的にも償還可能性の全くないことが明白である場合はともかく,貸付当時,償還可能性があったとは認められないことの一事をもって,直ちに当該貸付けをした判断が著しく不合理で,裁量権を逸脱又は濫用したものと評価することはできないというべきである。

(イ) すなわち,地方公共団体は,民間企業とは異なり,営利を目的とする団体ではなく,その行政目的を達成するためには,償還義務のない補助金という法形式による公金支出も可能であることから,貸付金という法形式で公金を支出する場合でも,償還可能性を絶対的なものとはみず,補助金的要素を加味した貸付制度を創設することも,行政目的を達成するために不合理でなければ,政策的判断として可能であって,裁量権の範囲内にあることを前提としているものである。

したがって,営利を目的としていない地方公共団体は,貸付金という法形式で公金を支出する場合でも,償還可能性は絶対的なものではなく,行政目的の達成のために,償還可能性を考慮しないことが不合理でなければ,そのような貸付金を設けることも,政策的判断として裁量権の範囲内にあり違法とはいえないものというべきである。換言すれば,地方公共団体が行う貸付けにおいて,どの程度の償還可能性を要求するかは,行政目的の達成との関係等で政策的に決定しうるものであり,貸付金という法形式をとったからといって,必ずしも償還可能性は絶対的なものとはいえず,貸付金と他の補助金等との区別基準は償還義務の有無にあり,償還義務を課すことに一番の意味があるといえる。

殊に,地方公共団体の貸付けは,政策融資といわれるように一定の政策判断において行われるものであり,その大きな政策柱の一つに社会的弱者の救済があり,民間の金融機関から融資を受けられない社会的弱者を救済するという観点から融資制度が設けられることがある。この種の政策融資については,被控訴人らが主張するように,地方公共団体が償還可能性が乏しい者に資金を貸し付けることは違法ということになると,民間の金融機関の融資を受けられない社会的弱者に対しても,償還可能性の高い貸付けしか認められないことになり,実質的には,民間の金融機関の融資が受けられない社会的弱者に対する政策金融はありえないということになって,地方公共団体が民間の金融機関と異なる立場で融資する政策融資自体の存在を否定することになる。

現に,高知県においても,法形式が貸付金であるものの,補助金的性格を有し,貸付金の法形式をとっているのは償還義務を課すことに意味があり,償還可能性自体は重要性がないものや,償還可能性についてはほとんど配慮されていない貸付金制度として,高知県公衆衛生修学資金貸与条例や高知県獣医師修学資金貸与条例に基づく修学資金の貸付金,高知県地域改善対策奨学資金の貸与に関する条例に基づく奨学資金の貸付金,母子及び寡婦福祉法に基づく母子福祉資金貸付金がある(その内容の詳細については控訴人の平成17年8月27日付け準備書面の第2の2(2)の①②③参照)。

(ウ) そこで,以上の見地に立って,平成15年度貸付の違法性について,以下検討する。

イ 高知県によるグリーンピア土佐横浪の運営事業の公益性について

(ア) 上記前提事実(第3の1ないし3)に加え,証拠(甲3,乙1)によれば,グリーンピア土佐横浪は,事業団法17条に基づき,事業団が設置した公的年金制度(厚生年金保険,国民年金保険)の福祉施設であり,これらの制度の加入者,年金受給者及びその家族の快適な利用に供することを目的とし,その運営は,「厚生年金保険及び国民年金の受給権者が生きがいのある有意義な老後生活を送るための場を提供するとともに,これらの制度の被保険者等の健全かつ有効な余暇利用にもあわせて資することができるよう十分考慮し,適切かつ能率的にこれを行う」ことが要請され,三世代交流の場として広く国民に提供されるものとして設置されたものであること(乙1の96頁),高知県は,グリーンピア土佐横浪を高知県中西部の観光の核施設として位置づけると共に地域の雇用創出など幅広い経済効果を伴う公益性の高い事業と位置づけ,事業団からグリーンピア土佐横浪の運営の委託を受け,更に財団に再委託してこれを運営していたことが認められる。

(イ) そして,高知県の場合,観光は重要な産業の1つであると認められる(弁論の全趣旨)ことを総合すると,高知県が事業団から委託を受けてグリーンピア土佐横浪の運営事業を行うことは,相応の公共性,公益性があったものということができる。

ウ 平成15年度まで高知県がグリーンピア土佐横浪の運営事業を継続したことについて

(ア) 上記イで説示したように,高知県が事業団から委託を受けてグリーンピア土佐横浪の運営事業を行うことは,高知県中西部の観光の核施設としての効果や,地域の雇用創出など幅広い経済効果を伴うなどの観点からみても,相応の公共性,公益性があったものである。

(イ) そして,上記前提事実(第3の3ないし5)に加え,証拠(乙54)及び弁論の全趣旨によれば,平成13年11月30日付で財団とRCPとの間で締結された「グリーンピア土佐横浪運営管理請負契約」(本件請負契約。乙54)は,その契約内容に照らし,平成14年度における事業期間満了6か月前までにRCPから更新拒絶の意思表示がなければ平成15年度末まで契約が更新されることになる(22条2項)ため,平成15年度末までは契約更新の拘束を受けることになる反面,財団は,方針の変更の結果,事業の運営が困難となったときはいつでも契約を解除することができ(25条1項3号),ただ,平成14年度末で契約を解除した場合には,「財団が,RCPによる本事業の運営継続に影響を与える方針の変更を行った場合」(16条2項3号)に当たると解され,上記契約のリスク分担表に従った多額の費用負担金(数千万円以上)をRCPに支払うことを余儀なくされたものと認められる。

(ウ) そこで,高知県は,平成15年度も運営事業を継続した場合の負担見込額1651万8000円以下(乙75の4枚目)と比較して,平成15年度も運営を継続した方が得策であると判断したものと認められるのであって,このような事情にかんがみると,高知県が平成15年度もグリーンピア土佐横浪の運営事業を継続したことが格別不合理であったと認めることはできない。

エ 高知県の財団に対する財政支援の必要性について

(ア) 上記前提事実(第3の1及び2)のとおり,事業団による保養基地の設置・運営は,厚生年金保険及び国民年金保険の積立金の還元融資並びに施設事業を行うために設立された事業団を所管する厚生省の「大規模年金保養基地構想」という国策に基づくものであったところ,事業団は,事業団が直接保養基地の建設・運営を行うとの当初の方針を改め,保養基地所在の地方公共団体に対し保養基地の建設及び独立採算による保養基地の運営を委託する方針とし,グリーンピア土佐横浪の建設・運営を高知県に委託する方針の下,高知県と協議したこと,その結果,高知県と事業団は,昭和62年10月5日,事業団がグリーンピア土佐横浪の運営を高知県に委託し,高知県は,運営上特に効果的であると認める場合には,予め事業団の承認を得て,高知県の指揮監督下にあるグリーンピア土佐横浪の運営を目的とする公益法人に運営を再委託することができることなどを内容とする本件委託契約1(乙16)を締結したこと,これを受けて,高知県は,同月22日,グリーンピア土佐横浪の運営について高知県に代わる団体として高知県,須崎市,土佐市ほか6団体が出資して設立した財団との間で,高知県がグリーンピア土佐横浪の運営を財団に委託したことなどを内容とする本件委託契約2(乙17)を締結したことが認められる。

このように,高知県と事業団との間で締結された本件委託契約1の約定上,高知県は,グリーンピア土佐横浪の運営を目的とし,かつ,高知県の指揮監督下にある公益法人,すなわち,財団にしかグリーンピア土佐横浪の運営を再委託することができないことになっていた。

(イ) また,本件委託契約1により,高知県は,その責任においてグリーンピア土佐横浪の運営を行い,これに要する費用も,事業団が一部支弁するものを除き,高知県は負担するものとされ(8条1項),高知県が独立採算で運営を行うものとされていた。

そのため,事業団から委託を受けてグリーンピア土佐横浪の運営を行っていた高知県としては,再委託先である財団が財政的な理由でグリーンピア土佐横浪を運営することができない状況に陥った場合には,本件委託契約1に基づく事業団に対する運営責任を果たすため,事実上,財団に対する財政支援を行わざるを得ない立場にあったものということができる。

(ウ) そして,上記ウで説示したとおり,高知県は,平成15年度もグリーンピア土佐横浪の運営を継続するのが必要かつ得策であると判断し,しかも,平成15年2月末日までに事業団から本件委託契約1についての更新拒絶の意思表示がなかったため(弁論の全趣旨),本件委託契約1は自動更新され(29条),高知県は事業団に対し,本件委託契約1に基づくグリーンピア土佐横浪を運営する責務を負っていたものと認められる。

他方,上記前提事実(第3の6(1),7(3))のとおり,財団の平成14年度末の期末正味財産額は10億3288万8000円の赤字であり,四国銀行は,金融庁から「転がし」の手法について指摘を受け,平成14年度末に財団に対し行う予定であった平成14年度貸付の返済に充てるための一時貸付けを行わないこととし,高知県は,他の金融機関に対し一時貸付けが可能か否かの打診をしたが,平成15年3月下旬ころ,財団において,他の金融機関から一時貸付けを受けることができないことが確定したのである。

(エ) しかし,上記第3の7(3)エのとおり,財団がグリーンピア土佐横浪を運営するのに必要な資金(運転資金)を工面することができず,平成14年度でグリーンピア土佐横浪の運営を停止せざるを得なくなれば,将来須崎市がグリーンピア土佐横浪の移管を受けるについて重大な支障が生ずるだけでなく,平成14年度以前に予約を了している平成15年度以降の宿泊利用客に多大な迷惑を及ぼし,その事務にも大混乱を来すことが必至となる。

しかも,高知県は,上記前提事実(第3の5(1)ないし(5)〔上記13ないし15頁〕)の経過から,財団との間の本件委託契約2については,信義則上,平成15年度末まで更新拒絶ができない立場にあり,平成15年度の本件委託契約2の更新拒絶を強行した場合,財団がRCPとの間の本件請負契約を解除することによってRCPに支払うことになる数千万円以上の損害賠償金について,高知県は財団から損害賠償を請求される可能性があった(弁論の全趣旨)。

そこで,高知県は,これらの事態を回避するため,平成15年度の財団運営に最小限必要な経費(運転資金)となる人件費,事業団等に対する受託料・負担金,法人税,顧問税理士への手数料,電話代,旅費等の事務的経費636万6000円については,財団からの貸付要請を受け入れ,これを財団に貸し付けることとした。

このようにして,高知県は,平成15年7月15日付けで別紙表2の636万6000円の支出負担行為を行い,同月25日付けで同表の360万2000円の支出命令を,同年9月18日付けで同表の120万6000円の支出命令をそれぞれ行い,財団に対し,合計480万8000円を貸し付けたのである。

(オ) したがって,事業団から委託を受けた高知県としては,平成15年度もグリーンピア土佐横浪の運営事業を継続するため,再委託先である財団がグリーンピア土佐横浪を運営するのに必要な資金(運転資金)を財政支援せざるを得ない状況にあったということができる。

オ 平成15年度の高知県の財団に対する財政支援の在り方

(ア) 上記エで説示したとおり,高知県は,グリーンピア土佐横浪の運営のため,財団がグリーンピア土佐横浪を運営するために必要な資金(運転資金)を財政支援せざるを得ない状況にあったところ,高知県と財団との間で締結された本件委託契約2(乙17)により,財団は,その責任においてグリーンピア土佐横浪の運営を行い,これに要する費用も,事業団が一部支弁するものを除き,財団が負担するものとされ(8条1項),財団が独立採算で運営を行うものとされていた。

したがって,財団の独立採算により赤字が生じたからといって,高知県が財政支援として補助金を交付し,赤字を補てんすることになると,財団による経営努力の意欲が失われ,独立採算性を採用した意味を失いかねないものであった。

他方,貸付けの方法で財政支援をする場合,貸付金である以上,必ず償還しなければならないから,その意味で財団に経営努力を促す効果をもたらし,たとえ償還が確実にできるにまでは至らないとしても,赤字を抑制する効果をもたらすことが期待された。

(イ) このように,高知県は,財団に対する財政支援の方法として,上記のような補助金の交付による方法と貸付けによる方法とを検討した上,高知県の財政状況からみても償還可能性のある貸付けによる方法が妥当であると判断して,平成15年度につき,補助金の交付ではなく貸付けの方法によったものということができ,このことが格別不合理であるということはできない。

カ 平成15年度貸付の償還可能性について

(ア) 上記前提事実(第3の3及び6)のとおり,財団の経営は,単年度収支において,グリーンピア土佐横浪の運営開始当初から,平成11年度及び平成15年度を除くすべての年度で赤字であり,期末正味財産額についても,運営開始当初からすべての年度で赤字であり,平成14年度末においては10億3288万8000円の赤字という状況であった。

そして,上記前提事実(第3の7)のとおり,金融機関は,平成9年度を最後に,財団に対し,新たな運営赤字に係る運転資金の貸付けを行わないことにし,そのため,財団は,平成10年度以降,グリーンピア土佐横浪の運営赤字に係る運転資金についても高知県から借入れを行うようになったこと,金融庁から「転がし」の指摘を受けた四国銀行は,平成14年度貸付(貸付額合計5億7391万円)についての財団に対する一時貸付けを取り止め,平成15年3月下旬ころの時点において,財団が他の金融機関から一時貸付けを受けることもできないことが確定し,同年3月25日,平成14年度貸付の返済期限を平成14年度末から平成16年3月31日まで延期せざるを得なくなった。

(イ) このような財団の経営状況,直近である平成14年度末の期末正味財産額が10億3288万8000円の赤字に達していたことのほか,平成14年度貸付の返済期限を1年延長して平成16年3月31日としたことからすると,返済期限を同じく同日とする平成15年度貸付について,返済期限に全額償還される見込みがあったといえるか甚だ疑問が残るといわざるを得ない。

(ウ) しかしながら,上記前提事実(第3の6(1))のとおり,財団がRCPと本件請負契約を締結した平成13年12月以降の財団の収支は,RCPが収益性の低い遊具施設の運営を停止し,ホテル棟と温泉保養館を中心とする運営に切り替えたり,地元関係者と連携し,地元で獲れる旬の食材を中心に切り替え,他の施設との差別化を図ると共に原価率の低減を図るなど,グリーンピア土佐横浪の運営につき,経営改善に取り組み,収支の改善を図ってきた結果,平成13年度(12月から3月)及び平成14年度こそ赤字であったものの,平成15年度は1203万6000円の黒字に転換し,平成13年度及び平成14年度の赤字額についても,平成12年以前(高知県及び土佐市から補助金の交付を受けた平成11年度を除く。)の赤字額(上記前提事実3)と比べ,大幅に(数千万円)縮小されたのである。

また,上記前提事実に加え,証拠(乙67,68)及び弁論の全趣旨によれば,別紙表2の平成15年9月18日付けで120万6000円の支出命令がなされた時点では,事業団廃止後のグリーンピア土佐横浪の存続,譲受けを希望していた須崎市において,地元関係者,旅行及び金融関係者等を委員とする利活用等検討委員会が発足され,平成15年9月5日,グリーンピア土佐横浪を須崎市が取得し,地域振興を図るべきであるとの答申がなされ,その理由として,グリーンピア土佐横浪が雇用,観光,地域振興の核施設になっており,残してほしいとの意見があったこと,300ヘクタールの土地について,資産価値を活かした適正な管理が必要であり,乱開発を防止する上からも須崎市が取得することにより,行政主導で民間活力を活用した地域振興が可能となることなどを挙げていたこと,須崎市は,平成15年9月10日,市議会に上記答申を報告し,グリーンピア土佐横浪を取得する方向で検討する意向を表明していたこと,現に,RCPは,平成15年9月30日,財団に対し,本件請負契約に基づき,平成16年度以降の契約について継続の申請を行っていることが認められるのであり,平成15年9月18日の時点でグリーンピア土佐横浪が須崎市などに譲渡されることなく廃止されることが確定していたとか,早晩廃止が必至であったというような状況にまではなかったということができる。

(エ) 以上検討したところによれば,平成15年度貸付の1回目の同年7月25日付けの支出命令がなされた時点では勿論のこと,2回目の同年9月18日付け支出命令がなされた時点においても,平成15年度貸付の償還可能性が全くなかったと断ずることはできない。

キ 他県による保養基地に対する財政支援の状況について

(ア) 証拠(乙1,107の2)によれば,事業団は,全国13か所に建設した保養基地のうち,4基地を財団法人年金保養協会に,残る9基地を高知県を含む9県に運営委託し,9県は,いずれも保養基地の運営を目的とし,かつ,県の指導監督下にある公益法人として財団法人グリーンピアを設立し,これに運営を再委託していること,9県のうち,グリーンピア田老のある岩手県を除く8県の財団法人グリーンピアが累積赤字を抱えるなどし,8県は,財団法人グリーンピアへの財政支援の方法につき,主として貸付けの方法を採用し,その後,高知県を除く4県(宮城県,福島県,岐阜県及び和歌山県)は,保養基地を閉鎖した時点で,財団法人グリーンピアの累積赤字を県及び地元市町村が負担金ないし補助金を支出して清算したこと(その詳細は,別紙「財団法人グリーンピアに対する財政支援等の全国状況について」〔乙107の2〕に記載のとおりである。)が認められる。

(イ) このように,財団法人グリーンピアを運営する9県のうち8県が,保養基地の存続中,主として貸付けの方法で財政支援を行っていた。

ク 高知県議会の対応

(ア) 上記前提事実(第3の7(3))のとおり,高知県は,平成15年2月,県議会に対し,① 「転がし」の手法により四国銀行に返済する平成14年度貸付合計額5億7391万円,② 高知銀行及び四国銀行からの既借入金に対する平成15年度利息返済のための資金1015万1500円,③ 維持修繕費等2700万円,④ 人件費,事業団等に対する受託料・負担金,法人税,顧問税理士への手数料,電話代,旅費等の事務的経費636万5697円を内訳とし,平成15年度に執行予定の財団に対する貸付金を6億1742万8000円とする予算案を提出したこと,高知県議会は,文化厚生委員会における検討を経て,全会一致で上記予算案を可決したことが認められる。そして,証拠(乙76の1〜3,77,78の1・2)によれば,上記予算案の審議過程で,高知県議会は,グリーンピア土佐横浪の担当部局である観光振興課の担当者らから財団の経営状況や収支状況についての詳細な説明を受け,これを十分認識した上で,全会一致で予算案を可決したものと認められる。

(イ) このように,高知県の財団に対する平成15年度貸付は,予め同年度予算案に計上され,高知県議会の全会一致による可決を経て,当該予算の執行としてなされたものということができる。そして,実際に予算執行された平成15年度貸付は,財団の必要最小限の事務的経費に充てるために貸し付けられたものである。

ケ 検討

上記イないしクで検討したところによれば,高知県によるグリーンピア土佐横浪の運営事業には相応の公共性,公益性があると認められ,高知県が平成15年度までグリーンピア土佐横浪の運営事業を継続したことが著しく不合理なものであるとはいえず,高知県は,グリーンピア土佐横浪の運営を継続するため,財団に対する財政支援を行わざるを得ない状況にあったところ,平成15年度の高知県の財団に対する財政支援の在り方に関し,補助金の交付ではなく貸付けの方法によることが特段不合理とはいえず,しかも,平成15年度貸付につき,その償還可能性が全くなかったと断ずることはできない上,高知県の財団に対する貸付けの方法による財政支援は,グリーンピア土佐横浪と同じ保養基地の運営を事業団から受託している他県においても同様であったのであり,また,平成15年度貸付については,予め同年度予算案に計上され,高知県議会の文化厚生委員会における検討(グリーンピア土佐横浪の担当部局から財団の経営状況や収支状況の説明がなされている。)を経て,高知県議会の全会一致で可決され,執行されたものであり,執行された予算も,財団の必要最小限の事務的経費に充てるためのものであったのである。

そうすると,このような事情のもとにおいて,高知県が財団に対し,平成15年度貸付として合計480万8000円を貸し付けることが公共性,公益性があると高知県の担当機関が判断したことが著しく不合理であり,その裁量権を逸脱又は濫用したものと認めることはできないというべきである。

したがって,控訴人が財団に対し,平成15年度貸付として合計480万8000円を貸し付けたこと(別紙表2の同年7月15日付け支出負担行為並びに同月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令)が違法であると認めることはできない。

コ 被控訴人らの主張の検討

(ア) 平成15年度貸付の返済の見込み及び担保の無徴求

a 被控訴人らは,「別紙表2の平成15年7月15日付け支出負担行為,同月25日付け及び同年9月18日付け各支出命令がなされた当時,財団には平成15年度貸付による借入金を返済する資力がない状態であった。ところが,己岡六郎及び戊谷五郎は,担保を徴することもなく,平成15年度貸付を行った。このような返済の見込みのない貸付けを無担保で行うことは違法であり,このような返済の見込みのない貸付けについてなされた上記各支出負担行為及び上記各支出命令は,いずれも違法である。」旨主張する。

b 確かに,高知県が財団に対し平成15年度貸付を行った際,財団から人的担保ないし物的担保を徴求した形跡は何らうかがえないし,平成14年度貸付を行った際も同様であったことがうかがえる。

しかしながら,普通地方公共団体の行う貸付けは,利潤追求を目的とする民間金融機関とは異なり,地方自治の本旨に基づき,公共目的ないし公益目的を図るためになされるものである。そして,当該貸付けが公共性ないし公益性を有するか否かは,当該区域住民の民意に存立基盤を置く当該地方公共団体の地理的,社会的,経済的事情や特性,議会の対応,当該地方公共団体の財政の規模及び状況,他の行政施策との関連等を総合的に考慮して判断することが,地方自治の精神に合致するものであるから,当該貸付けの適法性の判断は,当該地方公共団体の担当機関の合理的な裁量に委ねられているものである。

そうすると,当該地方公共団体が貸付けを行うに当たり,利息の定めをするのか否か,物的担保ないし人的担保を徴求するのか否かについての判断もまた,当該地方公共団体の担当機関の合理的な裁量に委ねられていると解され,無利息で貸付けを行ったとか,物的担保ないし人的担保を徴求しなかったからといって,当該貸付けが直ちに公共性ないし公益性を欠く違法な貸付けとなるものではないというべきである。

c これを本件についてみるに,高知県が財団に対し平成15年度貸付を行う際,その償還可能性が全くなかったと断ずることができないことは上記カで説示したとおりであり,上記イないしクで検討したところを総合すると,平成15年度貸付に際し,高知県が財団との間で利息の定めをしなかったとか,物的担保ないし人的担保を徴求しなかったからといって,そのことが著しく不合理であって,担当機関の有する裁量権を逸脱又は濫用したものと認めることはできないというべきである。

d したがって,被控訴人らの上記主張は採用することができない。

(イ) 財務規律上の原理原則について

a 被控訴人らは,「控訴人は,財団に対する財政支援の必要性を強調し,償還可能性の有無は,その財政支援の方法として補助金の方法によるか貸付けの方法によるかを比較衡量する際の一要素にすぎないと主張するが,同主張は,地方公共団体の予算編成に際して重要な歳出科目の設定の規律をなきに等しくするものであり,財務規律上の原理原則を無視するものであって,容認されるべきではない。」旨主張する。

b しかしながら,貸付けに際しての償還可能性の程度は,貸付けの違法性を判断する一要素ではあるが,地方自治法232条の2の規定との対比からみて,客観的にも主観的にも償還可能性の全くないことが明白である場合はともかく,貸付当時,償還可能性があったとは認められないことの一事をもって,直ちに当該貸付けをした判断が著しく不合理で,裁量権を逸脱又は濫用したものと評価することができないことは,上記(1)アで説示したとおりである。加えて,平成15年度貸付につき,その償還可能性が全くなかったと断ずることができないことは前示のとおりである。

c したがって,被控訴人らの上記主張も採用することができない。

(2)  平成15年度貸付に係る貸付金の回収を怠ったことの違法性

ア 被控訴人らは,高知県が平成15年度貸付に係る貸付金の回収を怠ったことは違法であると主張して,この違法をも根拠の1つとして,名宛人を本件職員らとする損害賠償請求に係る訴えを提起したものと解されなくもない。

ところで,平成15年度貸付に係る貸付金債権の督促,強制執行その他その保全及び取立てに関し必要な措置を講じなければならないのは,高知県の知事(控訴人)である(地方自治法240条2項)。そうすると,平成15年度貸付に係る貸付金債権の回収を怠ったことにより高知県が損害を被ったとして,被控訴人らが同法242条の2第1項4号所定の損害賠償請求訴訟を提起する場合の損害賠償請求の名宛人(同号にいう「当該職員」)は,高知県知事である橋本大二郎個人でなければならないと解される。

したがって,高知県が平成15年度貸付に係る貸付金の回収を怠ったことの違法を理由とする被控訴人らの損害賠償請求に係る訴えは,不適法ということになる。

イ なお,本件事案にかんがみ,平成15年度貸付に係る貸付金の回収を怠ったことの違法性について,以下検討する。

(ア) 平成15年度貸付に係る貸付金の償還期限は,平成16年3月31日とされていた(甲12の13)ところ,上記前提事実(第3の8)のとおり,高知県は,平成16年2月12日,財団に対する5億7871万8000円(上記貸付金を含む。)の債権全額を放棄するよう財団から要請されていたが,平成16年4月19日,財団に対し,債権全額の納付を求める督促状を発している。そして,証拠(甲12の4・6〜9)によれば,財団が破産宣告を受けた後,高知県は,平成16年7月12日付けで,財団に対する平成14年度貸付及び平成15年度貸付に係る各貸付金債権(合計5億7871万8000円)とその約定遅延損害金債権(2023万1347円)を破産債権として届け出たこと(なお,高知県は,財団に対する使用料債権2万2726円についても破産債権の届出をしている。),これに対し,高知銀行は,平成16年10月5日の第1回債権者集会及び債権調査一般期日において,高知県の上記貸付金債権及び遅延損害金債権について異議を述べたこと,そのため,高知県は,平成17年2月4日,高知地方裁判所に対し,高知銀行を被告として,高知銀行が異議を述べた上記破産債権の確定を求める訴訟を提起したこと(平成17年(ワ)第30号事件)が認められるところ,同裁判所は,平成17年12月20日,高知県の請求を認容する判決を言い渡し,高知銀行が控訴したが(高松高等裁判所平成18年(ネ)第27号事件),同裁判所は,平成18年6月15日,高知銀行の控訴を棄却する判決を言い渡したこと(高知銀行が上告受理申立て)は,当裁判所に顕著である。

(イ) 上記(ア)認定の事実によれば,高知県は,平成15年度貸付に係る貸付金の償還期限(平成16年3月31日)の経過後,直ちに貸付金債権を回収するための行動に及んでいるばかりか,財団が破産宣告を受けた後も,破産債権の届出をし,高知銀行の異議に対し破産債権確定訴訟を提起し,債権者としていわば当然の行動に及んでいることが認められる。

したがって,上記貸付金につき,高知県がその回収を怠ったものとは認められない。

4  まとめ

以上によれば,被控訴人らの請求は,その余の争点について判断するまでもなく,理由がないから棄却すべきものである。

第6  結論

よって,被控訴人らの請求を認容した原判決主文第2項は不当であるからこれを取り消し,被控訴人らの請求をいずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・紙浦健二,裁判官・小池晴彦,裁判官・島岡大雄)

別紙表1,2<省略>

別紙

財団法人グリーンピアに対する財政支援等の全国状況について うえのことについて,各県への電話により調査した結果は,次のとおりです。 作成年月日 平成18年3月15日

調査者 高知県商工労働部観光振興課

主査 ○○××

委託先

基地名

再委託先

財政支援期間

財団への財政支援の方法

開業年月

運営停止年月日

累積収支差額

(単位千円)

廃止の際の処理状況

(県と地元市町村との負担状況)

金額等

短期借入の返済方法

1

岩手県

グリーンピア田老

(財)グリーンピア田老

なし(累積黒字)

S60.4

(運営中)

約+110,000

(H16.3末現在)

2

宮城県

グリーンピア岩沼

(財)グリーンピア岩沼

S63〜H14

○貸付金対応

短期借入金:150,000千円(貸付最終年度はH14年度)

金融機関から年度末に一時借入れして返還するとともに,次年度始めに貸付けし,金融機関分を返還するという手法を毎年取っていた(転がし)。

S63.4

H15.3末

約▲137,079

(H15.3末現在)

運営停止後,「負担金」による清算処理

金額:約119,000千円(全額県が負担)

3

福島県

グリーンピア二本松

(財)グリーンピア二本松

H12頃〜H14

○貸付金対応

短期借入金:230,000千円(貸付最終年度はH14年度)

金融機関から年度末に一時借入れして返還するとともに,次年度始めに貸付けし,金融機関分を返還するという手法を毎年取っていた(転がし)。

S63.4

H14.6末

約▲148,000

(H14.3末現在)

運営停止後,「補助金」による清算処理

補助金額:約90,000千円

県:約60,000千円,地元市:約30,000千円

負担割合:県2,地元市1

(負担割合は財団出えん割合に対応)

4

岐阜県

グリーンピア恵那

(財)グリーンピア恵那

S62〜

○貸付金対応

長期借入金:運営開始に,約86,000千円(閉鎖後返済)

短期借入金:H11年度に,約120,000千円

但し,人件費(財団職員を兼務した職員)を「補助金」で対応

S62.4

H12.4末

約▲126,493

(H12.3末現在)

「補助金」で清算処理

補助金額:約148,967千円(H11及び12年度合計)

県:約104,038千円,うち1億円はH11年度補助分

地元市:約44,929千円

負担割合:県7,地元市3

(負担割合は財団出えん割合に対応)

5

和歌山県

グリーンピア南紀

(財)グリーンピア南紀

S61〜H14

①貸付金対応

短期借入金:年額50,000千円(貸付最終年度はH14年度)

但し,H13年度のみ80,000千円別途に短期借入。

②補助金対応

H11年度23,465千円,H12年度23,410千円

H13年度228,699千円,H14年度68,177千円

50,000千円の短期借入金については,前年度貸付分は,翌年度当初貸付分により,遅延損害金1日分とともに返還するという手法を取っていた(転がし)。

S61.4

H15.3末

約▲194,810

(15.3末現在)

運営停止後,「負担金」による清算処理

金額約197,000千円(県:136,360千円,地元2町:60,640千円)

負担割合:県7,地元2町3

(負担割合は財団出えん割合に対応)

6

広島県

グリーンピア安浦

(財)グリーンピア安浦

H7〜

○グリーンピア安浦経営安定化資金貸付事業

(1)短期借入金

H8年度に,銀行への支払利息負担解消のため,200,000千円貸付し,毎年度20,000千円ずつ償還。H17年度に償還終了予定。

(2)長期借入金

H7年度に運転資金として25,000千円を貸付し,H11年度から毎年度5,000千円ずつ償還。H15年度償還終了。

S60.4

(運営中)

約+10,703

(H16.3末現在)

(運営中)

7

高知県

グリーンピア土佐横浪

(財)グリーンピア土佐横浪

S62〜H15

○貸付金対応

短期借入金

但し,H11〜12に利子補給のための補助金を支出

金融機関から年度末に一時借入れして返還するとともに,次年度始めに貸付けし,金融機関分を返還するという手法を毎年取っていた(転がし)。

S62.10

H16.3末

約▲1,100,000

(H16.3末現在)

財団破産

8

福岡県

グリーンピア八女

(財)グリーンピア八女

S60頃〜

○貸付金

○補助金(生きがい対策等公益事業への補助)

S61.7

(運営中[H17.1月中に運営停止])

約+10,918

(H16.3末現在)

(運営中)

9

熊本県

グリーンピア南阿蘇

(財)グリーンピア南阿蘇

H2頃〜

○H2年に,70,000千円の貸付。財団は適宜償還を行い,H14年度末で28,000千円の残額。清算時に全額償還。

○補助金(「アスペクタ」運営にかかる補助)

S61.7

H15.5末

約▲3,305

(グリーンピア運営部門のみ,H15.3末現在)

(財団全体としては,累積黒字。黒字の範囲内で清算した)

今回の全国状況は,前回のH16年12月14日に聴き取りした結果について,再度,H18年3月に,宮城県,福島県,岐阜県,和歌山県の4県から聞き取りし,追加及び修正したもので,主な追加及び修正内容は以下の点である。

・1.項目「財団への財政支援方法」を「金額等」と「短期借入金の返済方法」に分け,返済方法の内容について,宮城県,福島県,和歌山県に聞き取りし追記した。

・2.宮城県の欄に,「短期借入金:150,000千円(最終はH14年度)」を追記。累積収支差額を▲137,079千円に修正。

・3.福島県の欄に,「短期借入金:230,000千円(最終はH14年度)」を追記。

・4.岐阜県の欄の,累積収支差額を▲126,493千円(H12.3末)に修正。「運営停止後,「補助金」による清算処理」という記載を「「補助金」で清算処理」に修正。補助金額及び県,地元市の金額を修正。

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