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高松高等裁判所 平成19年(行コ)23号 判決 2008年2月15日

主文

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  松山税務署長が控訴人に対し,平成17年7月8日付けで控訴人の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額1億1168万3024円,納付すべき税額3487万9100円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

3  松山税務署長が控訴人に対し,平成17年7月8日付けで控訴人の平成14年6月1日から平成15年5月31日までの事業年度の法人税についてした更正のうち所得金額1億1587万1557円,納付すべき税額3638万0200円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定を取り消す。

第2事案の概要

1  本件は,控訴人の平成13年6月1日から平成14年5月31日までの事業年度(以下「平成14年5月期」という。)及び平成14年6月1日から平成15年5月31日までの事業年度(以下「平成15年5月期」という。)の法人税に関し,松山税務署長が,建物のみを譲渡資産とし土地を買換資産とした買換えについては,租税特別措置法(以下「措置法」という。)65条の7第2項(同法65条の8第11項,第12項(ただし,いずれも本判決別表記載のもの。以下同じ。)により準用される場合を含む。以下「本件特例第2項」という。)により,譲渡資産である土地の面積が零となり取得した土地の面積の全部が零を超える部分に対応するものとなることから,取得した土地は買換資産には該当しないものとなり,同法65条の7第1項(ただし本判決別表記載のもの。以下「本件特例第1項」といい,本件特例第2項と合わせて「本件特例」という。)の表の22号(同法65条の8第7項(ただし本判決別表記載のもの。以下同じ。)により準用される場合も含む。)に規定する固定資産圧縮損加算の特例の適用は認められないとしてした各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件各更正処分と合わせて「本件課税処分」という。)について,控訴人がこれらを不服として,本件各更正処分のうち納付すべき税額が控訴人の申告額を超える部分及び本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

2  本件に適用される法令の概要については,次のとおりである。

(1)  本件特例第1項は,同項の表の22号に関し,法人が,平成10年1月1日から平成15年12月31日までの間に,国内にある土地等(土地又は土地の上に存する権利をいう。),建物又は構築物で,当該法人により取得をされた日から引き続き所有されていたこれらの資産のうち所有期間が10年を超えるもの(棚卸資産及びその譲渡につき措置法63条1項(ただし本判決別表記載のもの。以下同じ。)の規定の適用がある土地等を除く。以下「譲渡資産」という。)を譲渡した場合に,その譲渡の日を含む事業年度において,国内にある土地等,建物,構築物若しくは機械及び装置又は国内にある鉄道事業の用に供される車両及び運搬具のうち政令で定めるもの(以下「買換資産」という。)を取得し,かつ,その取得の日から1年以内に,これを国内にあるその法人の事業の用に供した場合,又は供する見込みである場合に限って買換えの特例すなわち買換資産の圧縮記帳を認めるものである。

買換資産については,圧縮限度額の範囲内で,圧縮記帳をすることができる。この場合の圧縮限度額は,次の算式により計算した金額である。

(算式) 圧縮基礎取得価額×差益割合×80/100

(2)  本件特例第2項及び租税特別措置法施行令(以下「本件施行令」という。)39条の7第19項(ただし本判決別表記載のもの)は,その事業年度の買換資産(後記(3)の先行取得資産を含む。)のうちに土地等がある場合には,その取得した土地の面積(借地権の場合にはその借地の面積)がその事業年度において譲渡した土地等の面積の5倍(本件特例第1項の表の22号の土地等の場合)を超えるときは,取得した土地等のうちその超える部分の面積に対応するものは,本件特例第1項の買換資産に該当しないものとする。

(3)  措置法65条の7第3項は,法人が譲渡の日を含む事業年度開始の日前1年以内に買換資産に適合する資産を取得し,かつ,取得の日から1年以内に,その資産をその法人の事業の用に供したとき(譲渡の日を含む事業年度終了の日とその取得の日から1年を経過する日とのいずれか早い日までに事業の用に供さなくなった場合を除く。)又は供する見込みであるときは,納税地の所轄税務署長にこの特例の適用を受ける旨の届出をしたその資産に限り,その資産を買換資産とみなして本件特例第1項の適用を認める。

(4)  措置法65条の8第1項(ただし本判決別表記載のもの)は,本件特例第1項の表の22号に関し,法人が,平成10年1月1日から平成15年12月31日までの間に,その有する資産で本件特例第1項の表の22号の上欄に掲げるもの(その譲渡につき措置法63条1項の規定の適用がある土地等を除く。)の譲渡をした場合に,その譲渡の日を含む事業年度終了の日の翌日から1年を経過する日までの期間(以下「取得指定期間」という。)内に同号の下欄に掲げるものの取得をする見込みであり,かつ,その取得の日から1年以内にその取得をした資産を所定の地域内にあるその法人の事業の用に供する見込みであるときは,次の算式により計算した金額をその譲渡の日を含む事業年度の確定した決算において特別勘定として経理した場合に限り,その経理した金額に相当する金額は,その事業年度の損金の額に算入されるものとする。

(算式) 譲渡資産の譲渡対価の額のうち買換資産の取得に充てようとする額×差益割合×80/100

(5)  措置法65条の8第7項は,本件特例第1項の表の22号に関し,前記(4)の特別勘定を設定している法人が,取得指定期間内に特別勘定に係る同号の下欄に掲げる買換資産を取得した場合に,その取得の日から1年以内にその買換資産を所定の地域内にあるその法人の事業の用に供したとき,又は供する見込みであるときは,その買換資産につき,譲渡年度に買換資産を取得した場合と同様の計算によって圧縮記帳をすることができるものとする。措置法65条の8第11項,第12項は,同条第7項の規定を適用する場合に本件特例第2項(前記(2))を準用する。

3  本件課税処分の経緯とその内容,前提事実並びに争点及び当事者の主張は,次のとおり補正するほか,原判決「事実及び理由」第2の2ないし4(原判決4頁末行ないし9頁1行目)に記載のとおりであるから,これを引用する。

原判決5頁3行目,6頁15行目,25行目,7頁4行目から5行目にかけて,8頁3行目及び24行目の「本件特例第1項」をいずれも「本件特例第1項の表の」に,同5頁3行目から4行目にかけての「適用により」を「適用を前提として,」に,同5行目の「計上した固定資産圧縮損は」を「した圧縮記帳の取扱いにつき,処分行政庁が」にそれぞれ改め,同7行目の「該当しないので」の次に「,控訴人が決算において損金経理した金額が」を加える。

4  当審における当事者の主張は次のとおりである。

(控訴人)

本件特例第2項の立法趣旨は,譲渡した土地の面積に比し著しく広い土地等を取得することの弊害を取り除くため,取得した土地等のうち一定割合を超える部分の面積に対応するものは買換資産に該当しないとする面積制限措置を設けて,上記弊害に対処することとしたというものである。このように同項の立法趣旨は,土地等から土地等への買換えが無制限に行われることのないよう一定の面積制限措置を設けたものであるところ,建物から土地等への買換えについては面積制限を行うことができず,面積制限の措置に親しまないものであるから,同項の趣旨は妥当しないというべきである。

本件特例第1項の表の22号では,同号上欄の資産から同号下欄の資産への買換えが認められており,本件特例第2項は,「前項の規定を適用する場合において」と規定されており,本件特例第1項の規定を適用する場合の要件を加重的に定めたものではなく,本件特例第2項に規定する場合を第1項の適用から除外する趣旨の規定であるから,建物から土地等への買換えについて圧縮記帳をすることは本件特例第2項による制限を受けることなく,本件特例第1項のみによって許容されている。

平成10年度の税制改正により,本件特例第1項の表の22号において建物から土地等への買換えが認められることとなったことに照らすと,本件特例第2項の解釈において被控訴人の主張する「零面積論」を採るとおよそ建物から土地等への買換えの余地がなくなることとなって,上記改正の趣旨にそぐわない。したがって,本件特例第2項の解釈において「零面積論」を採るのは正当ではない。

(被控訴人)

本件特例第2項の立法趣旨は,過密地域内の土地等を譲渡した代金により過密地域外の土地等を取得する場合には,譲渡した土地等の面積に比し著しく広い土地等を取得することがあり,このような場合にまで買換えの特例が認められるとすることは不要不急の土地等の取得を税制面で奨励することとなって土地政策上も好ましくないため,取得した土地のうち一定割合を超える部分の面積に対応するものは買換資産に該当しないとすることで,不要不急の土地等の取得を税制面で奨励しないようにすることにあるのであって,土地等への買換えのうち土地等を譲渡資産とする場合に限って制限することを目的とするものではない。建物を譲渡資産とし土地等を買換資産とする場合は,譲渡する土地等の面積が零であるから,譲渡した土地等の面積に比し著しく広い土地等を取得する場合の極端なものとして,正に不要不急の土地等の取得に該当し,同項の立法趣旨が妥当する。

本件特例第2項は,「前項の規定を適用する場合において,当該事業年度の買換資産のうちに土地等があり」という文理上,譲渡資産が建物で,買換資産が土地等である場合にも適用され,その場合には買換資産につき本件特例第1項を適用することができないこととなる。

建物から土地への買換えは平成10年度の税制改正の前から本件特例第2項により除外されていたものであるが,平成10年度の改正は,それ以前において買換資産が既成市街地等以外の地域内にあるものに限定されていたのを既成市街地等の内外を問わないこととするとともに,買換資産に土地等を付加してその適用範囲を拡大したものであり,建物から土地への買換えが本件特例第1項22号から除外されるとしても平成10年度の改正の意義が失われることにはならない。

第3当裁判所の判断

1  当裁判所の判断は,原判決「事実及び理由」の第3に記載のとおりであるからこれを引用する。ただし,原判決10頁9行目,10行目及び13頁25行目の「本件特例第1項」をいずれも「本件特例第1項の表の」に改める。

2  当審における当事者の主張に対する判断

(1)  本件特例第2項は,昭和44年度の税制改正において,従来の事業用資産の買換えに係る課税の特例制度を廃止し,新たに土地政策又は国土政策に合致すると認められる買換えに限ってその課税の特例を認めることとするに当たって新たに導入されたものであり,その立法趣旨は,例えば過密地域内の土地等を譲渡した代金で過密地域外の土地を取得する場合には,譲渡した土地の面積に比して著しく広い土地等を取得することがあるところ,このような場合にまで買換えの特例を認めたのでは,不要不急の土地等の取得を税制面で奨励することとなり,土地政策上も好ましくないと考えられたため,このような弊害に対処するため,土地を買換資産とする場合一般を対象として,取得した土地等のうち一定割合を超える部分の面積に対応するものは買換資産に該当しないこととする面積制限の措置を設けるという点にある。

(2)  本件特例第1項の表の22号は長期保有土地等の買換えにかかる特例であるところ,同じ長期保有資産の買換えについて昭和44年度の税制改正において設けられた当時の措置法65条の7第1項の表の10号では買換資産が減価償却資産に限られていたため,長期保有土地等の買換えの場面において,建物を譲渡資産とし,土地を買換資産とする場合は,同号以外の各号に該当しない限り,課税上の特例を認められることはなかった。

上記長期保有土地等の減価償却資産への買換えの特例は,平成3年度の税制改正までいわゆる旧15号買換えとして認められていたが,種々の弊害の指摘もあって同年度の税制改正において廃止された。しかし,経済対策の一環として,企業の長期保有資産を利用したリストラ等に資する設備投資の促進を図るため,現行の土地税制の基本的枠組みの範囲内において,国土政策等との調和に配慮しつつ土地の有効利用を促進するという観点から,平成6年度の税制改正において,長期保有土地等の買換えの特例が時限的な措置として復活した。この時の改正では,土地を買換資産とすることはできず,また,既成市街地内での買換え及び既成市街地等の外から内への買換えは特例の対象とされなかった。

その後も厳しい経済情勢が続いたこと等により,土地の有効利用の促進や土地取引の活性化を図るため,平成10年度の税制改正で,長期保有土地等の買換えに関し,買換資産の範囲について従来の既成市街地等の外にあるものに限るとの地域制限を撤廃して,既成市街地等の地域内での買換え及び既成市街地等の外から内への買換えも特例の対象に加えるとともに,買換資産に土地等(土地及びその上に存する権利)が付け加えられた。こうして,平成10年度の改正によって初めて,長期保有土地等の買換えの場面において,建物を譲渡資産とし,土地を買換資産とする場合に買換えの特例が認められるか否かの問題が生じたものである。

(3)  土地を買換資産とする場合に,譲渡資産の中に土地が含まれているときに本件特例第2項の適用があり,買換資産該当性の判断に当たって同項の面積制限が働くのは文理上疑いないところである。ところで,同項はその文言上買換資産の土地等の面積制限について譲渡資産の土地等の面積を基準として行うことを規定する一方で,建物を譲渡資産とする場合については明示的に規定するところではないため,建物を譲渡資産とし土地を買換資産とする場合についての同項の適用の有無が問題となる。

そこで検討するに,同項は買換資産の面積制限を規定したものであって,その趣旨は,譲渡した土地の面積に比して著しく広い土地等を取得するような不要不急の土地等の取得を税制面で奨励しないとする点にあるところ,仮に控訴人が主張するように,譲渡資産が建物のみである場合を同項が想定しておらず,その場合には買換資産に土地が含まれる場合であってもおよそ面積制限が働く余地がないとの解釈を採るとするならば,譲渡資産中にわずかでも土地が含まれていれば同項の面積制限が働くこととの間で権衡を失し前記の同項の趣旨に悖ることとなる。むしろ同項が土地等を買換資産とする場合を一般的に対象とする規定であり,土地等が譲渡資産である場合に限定した規定ではないことに照らせば,同項の適用を譲渡資産が土地等の場合に限定するという解釈は相当ではないというべきである。以上によれば,建物を譲渡して土地等を取得する場合についても同項の適用があり,その場合には譲渡資産に係る土地等の面積が存在せず,したがって買換資産である土地等の全面積に相当する部分が買換資産に該当しないこととなると解するのが相当である。

なお,本件特例第2項につき上記の解釈を採ると,平成10年度の税制改正において本件特例第1項の表の22号の買換資産に土地等が加えられたにもかかわらず,長期保有資産である建物を譲渡して土地を取得する場合に同号の特例が認められない結果となるが,同年度の改正の際には本件特例第2項に一切の改正が加えられていないことからすれば,同改正は同項の面積制限を前提としたものであり,建物を譲渡して土地を取得する場合を課税上の特例と認める趣旨ではなかったものと解するのが相当であるし,同年度の改正によれば買換資産について既成市街地の内外を問わないこととされ,土地を譲渡して土地を取得する場合等にも適用の余地が拡張されたのであるから,建物を譲渡して土地を取得する場合に同号の適用がないと解しても同年度の改正の趣旨を没却することにはならないというべきである。

第4結論

よって,控訴人の請求は失当として棄却すべきところ,これと同旨の原判決は正当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 豊澤佳弘 裁判官 齋藤聡)

別表

措置法63条1項

平成14年5月期につき平成14年法律第15号による改正前のもの

平成15年5月期につき平成15年法律第8号による改正前のもの

措置法65条の7第1項

平成14年5月期につき平成14年法律第15号による改正前のもの

平成15年5月期につき平成15年法律第8号による改正前のもの

措置法65条の8第1項

平成14年5月期につき平成14年法律第79号による改正前のもの

平成15年5月期につき平成15年法律第8号による改正前のもの

措置法65条の8第7項

平成14年5月期につき平成14年法律第79号による改正前のもの

平成15年5月期につき平成18年法律第10号による改正前のもの

措置法65条の8第11項

平成14年5月期につき平成14年法律第79号による改正前のもの

措置法65条の8第12項

平成15年5月期につき平成18年法律第10号による改正前のもの

本件施行令39条の7第19項

平成15年政令第139号による改正前のもの

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