高松高等裁判所 平成19年(行コ)4号 判決 2007年11月20日
控訴人・附帯被控訴人
国(以下「控訴人」という。)
同代表者法務大臣
鳩山邦夫
処分行政庁
高知税務署長
坂東利定
控訴人指定代理人
髙橋和貴
外5名
被控訴人・附帯控訴人
第一化成株式会社(以下「被控訴人」という。)
同代表者代表取締役
岸本顕
同訴訟代理人弁護士
水野武夫
同
末崎衛
同
元氏成保
主文
1 本件控訴に基づき,原判決主文第1項を取り消し,同部分に係る被控訴人の訴えを却下する。
2 本件控訴に基づき,原判決主文第2項を取り消し,同部分に係る被控訴人の請求を棄却する。
3 本件附帯控訴(当審における訴えの追加的変更)に基づき,原判決主文第3項を次のとおり変更する。
(1) 控訴人は,被控訴人に対し,31万4120円を支払え。
(2) 被控訴人のその余の附帯請求(当審において追加されたものを含む。)をいずれも棄却する。
4 訴訟費用は,第1,2審を通じてこれを3分し,その1を被控訴人の負担とし,その余を控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1 控訴及び附帯控訴の趣旨
1 控訴の趣旨
主文第1項及び第2項に同じ。
2 附帯控訴の趣旨
(1) 原判決主文第3項を取り消す。
(2) 控訴人は,被控訴人に対し,481万1717円に対する平成16年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(なお,被控訴人は,当審において,不当利得金481万1717円に対する控訴人への訴状送達の日の翌日である平成17年12月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める訴え及び還付された321万5187円に対する平成16年10月23日から還付のための支払決定の日である平成19年3月6日までの間の還付加算金の支払を求める訴えを選択的に追加した。)
第2 事案の概要
1 原判決の引用
本件の概要,前提事実及び争点は,後記2のとおり補正し,後記3のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」第2に記載のとおりであるから,これを引用する。
2 原判決の補正
(1) 原判決2頁16行目から17行目にかけての「541万円」を「541万3487円」に改め,同3頁2行目の末尾に改行の上,次のとおり加える。
「(3) 原審が,不当利得の利息請求の部分を除いて被控訴人の請求を認容する判決をしたところ,控訴人が控訴し,被控訴人が附帯控訴した。」
(2) 原判決4頁9行目の「同月22日付けで,原告に対し」を「同月29日」に,同10行目の「541万円」を「541万」にそれぞれ改め,同11行目の「同月29日,」を削り,同12行目の「甲4,」の次に「乙12,」を加え,同19行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
「(7) 高知税務署長は,平成19年3月1日,本件告知処分のうち,被控訴人の譲渡担保財産である売掛金債権の譲渡につき第三者対抗要件が具備された日である平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する滞納国税に係る部分を取り消した。同税務署長が取り消した告知処分に係る滞納国税は,法定納期限等を平成15年5月23日及び平成16年5月28日とする源泉所得税並びに法定納期限等を平成15年7月31日,平成16年2月2日及び同年3月1日とする消費税及び地方消費税(原判決別紙租税債権目録番号12ないし16)である。
また,同税務署長は,平成19年3月6日,被控訴人の譲渡担保財産である前記売掛金債権から国税徴収法24条1項に基づいて徴収した金員のうち,上記取り消した告知処分に係る滞納国税に充当していた321万5187円を,被控訴人の預金口座に振り込んで被控訴人に還付した(乙7ないし13)。」
3 当審における追加主張
(1) 本案前の主張
(控訴人の主張)
高知税務署長が,平成19年3月1日,本件告知処分のうち,被控訴人の譲渡担保財産である売掛金債権の譲渡につき第三者対抗要件が具備された日である平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する滞納国税に係る部分を取り消したことにより,同部分の取消しを求める被控訴人の訴えは訴えの利益を欠くに至ったから,その訴えは却下されるべきである。
(2) 高知税務署長による充当の当否
(被控訴人の主張)
国税徴収法129条6項は,強制徴収の配当金の処理について納税者の利益を図るため,優先して本税額に充てることを明らかにしたものである。これを受け,国税徴収法基本通達129条関係19は,配当された金銭を国税に充てる場合には,まず徴収の基因となった国税(延滞税,利子税及び加算税を除く。)に充て,その後,延滞税,利子税及び加算税に充てるものとするとしている。
この趣旨は,強制徴収の配当金を処理する場合においては,その配当された金額について,私法上の利息先取りの考え方とは逆に,納税者の利益を図るため,優先して本税額に充てることを明らかにしたものである。この趣旨に照らすと,同項は,複数の国税について本税と延滞税又は利子税とが併存する場合においても,強制徴収の配当金を処理する際には,まず配当金を本税に充当しなければならず,すべての本税に対する充当が完了してもなお配当金に剰余があれば,その剰余金を延滞税又は利子税に充当すべきこと,換言すれば,単一の国税の本税と延滞税又は利子税とが併存する場合のみならず複数の国税の本税と延滞税又は利子税が併存する場合についても適用されると解すべきである。
控訴人は,同項は複数の国税間の充当に関しては適用されないと主張するが,私法上の利息先取りの考え方とは反対に納税者の利益を図るという同項の趣旨に反し妥当でないし,同項の文言に照らしても単一の国税の本税と延滞税等を処理する場合にのみ適用されるとは考えられない。
控訴人は,国税徴収法基本通達129条関係19を援用して,配当すべき国税が複数存在する場合に配当金をいずれの国税に充てるのかについては税務署長の自由な裁量が認められるべきであると主張するが,前記通達は,その文理に照らし,複数の延滞税よりも複数の本税に優先して充当されることを前提に,いずれの本税に優先的に充当するかの点につき税務署長の自由裁量にゆだねるということである。
これを本件に当てはめると,差押えに係る国税に配当された541万3487円はまず本税に充当し,剰余があればそれを附帯税に充当すべきこととなる。この点に関し,控訴人が行う充当は,滞納本税への充当が完了しないままに,先に附帯税(不納付加算税及び延滞税)への充当を行うもので,国税徴収法129条の規定に反する違法な充当である。
そして,配当時における滞納国税(本税)は,いずれも法定納期限等が平成15年4月21日以降に到来するものであり,被控訴人の有する譲渡担保権が同滞納国税に優先するのであるから,被控訴人の有する譲渡担保権の被担保債権が全額弁済されないと同滞納国税への配当はされないのであって,結局,差し押さえた売掛金債権は,まず被控訴人の有する譲渡担保権に充てられ,残余があれば滞納国税債権(本税,附帯税の順)に充当されることとなる。
本件において被控訴人の有する譲渡担保権の被担保債権は,平成16年10月22日の時点で年6分の遅延損害金を併せて577万6576円であるから,控訴人が差し押さえ換価した本件売掛金債権600万円のうち577万6576円は被控訴人に支払われるべきであったのであり,ここから被控訴人が配当を受けた58万6513円及び原判決後に交付を受けた321万5187円を控除してもなお197万4876円が被控訴人に返還されなければならない。
(控訴人の主張)
国税徴収法129条6項は,国税の本税と延滞税又は利子税とが併存する場合の充当順位を定めるものであって,複数の国税間の充当について定めたものではなく,また,被控訴人が主張するように,複数の国税(本税及び附帯税)に充当すべき場合にすべての本税を満足させない限りいずれの国税の附帯税にも充当することはできないという趣旨を定めたものでもない。
配当すべき国税が複数存在する場合に配当金をいずれの国税に充てるのかについては,滞納者の利益その他種々の事情を考慮する必要があり,あらかじめ一律に充当順位を決めておくことはできないから,税務署長の自由な裁量により決することが必要である。国税徴収法基本通達129条関係19は,配当された金銭を複数の国税のいずれに充てるかは税務署長の裁量によるとした上で,民法488条,489条2号及び3号の規定に準じて処理するものとするとしている。滞納処分事務では,この通達に従い,滞納者から弁済充当の指定がない場合,民法489条2号,3号の趣旨に基づき,本税が残っている国税と附帯税だけが残っている国税とがあれば本税に,本税が残っている国税が複数ある場合には法定納期限の古い国税から順に充当することとしている。
被控訴人の有する譲渡担保権の被担保債権と滞納国税(附帯税を含む。)の優劣,すなわち,譲渡担保財産から納税者の滞納国税を徴収することができるか否かは,国税徴収法24条の定めるところにより,当該国税の法定納期限等を基準に決することとなる。そうすると,別紙1の番号1ないし11に係る上記不納付加算税及び延滞税は,本件譲渡担保契約による債権譲渡が対抗要件を具備した平成15年4月21日より前に法定納期限等が到来するから,同条6項の規定により,被控訴人の有する譲渡担保権の被担保債権に優先して滞納国税に配当される。
以上のとおり,本件では配当金を本税に先立って附帯税に充当したことはなく,本税と延滞税等との充当順位も問題とならない。
(3) 還付加算金請求の当否
(被控訴人の主張)
国税通則法56条1項の過誤納金とは,納付又は徴収の時から国又は地方公共団体がこれを保有する正当な理由のない利得のことを指すと解されるところ,本件において控訴人が被控訴人に返還すべき金員は徴収の時から控訴人が保有する正当な理由のない利得であるから,過誤納金に該当する。控訴人は,被控訴人に321万5187円を還付する際に作成した支払決議書の発生事由欄に「カゴノウ」と記載している。
したがって,控訴人は,被控訴人に対し,過誤納となった日の翌日である平成16年10月23日から還付のための支払決定の日である平成19年3月6日まで年4.4パーセントの割合による還付加算金を支払わなければならない。(被控訴人は当審においてこの請求を追加した。)
(控訴人の主張)
過納金の還付請求権者は当該金員を納付した納税者であるところ,被控訴人は国税徴収法24条に基づく譲渡担保権者の物的納税責任を負っているにすぎず,本来の納税義務者ではないから,被控訴人は,過納金の還付請求権自体を有しておらず,還付加算金の請求をすることはできない。
また,本件告知処分の一部取消しによって還付した321万5187円について,前記一部取消しまで告知処分は当然には無効とはいえないから控訴人による充当に法律上の原因を欠くものではなく,一部取消しによって初めて321万5187円の充当について法律上の原因を欠くこととなり,被控訴人に控訴人に対する返還請求権が発生したものである。したがって,控訴人は本件告知処分の一部取消しの日まで返還義務を負うことはないから,同日以前につき還付加算金の支払義務は生じない。
控訴人が作成した支払決議書の発生事由欄の「カゴノウ」の記載は,本来であれば高知税務署主任歳入歳出外現金出納官吏を経由して被控訴人に残余金を交付する手順を践むべきところ,できるだけ早く返還しようとしてこの手順を省略したため,便宜上記載されたものにすぎない。
(4) 不当利得に係る悪意者の利息請求の当否
(被控訴人の主張)
民法704条の「悪意」は,利得者がその利得に係る法律上の原因が存在しないことを基礎付ける事実を認識しているか否かによって判断されるのであり,その事実に基づき利得者がどのような法的判断を行ったかという点は悪意の有無の判断に当たっては考慮されない。
本件において,控訴人は,A食品の滞納国税の法定納期限等の一部が,被控訴人の本件譲渡担保権の対抗要件が具備された平成15年4月21日以降に到来するという事実を認識しており,法律上の原因がないことを基礎付ける事実(法定納期限等と譲渡担保権の対抗要件の具備等との先後関係)を認識していたから,被控訴人は悪意の受益者に当たる。
本件告知処分当時には,控訴人の主張に沿う判断を示した東京高裁平成16年7月21日判決(金融法務事情1723号43頁)があったが,これは第1審の判断を覆したものであり,第1審においては控訴人の主張に反する判断がされていた。さらに,同高裁判決については納税者側が最高裁に上告をしており,学説上も同高裁判決には批判が強いところであって,最高裁でその判断が覆ることは十分に想定できたところであるから,このような裁判例が存在したことをもって,利得者の悪意性を否定するような特段の事情に当たると解するのは相当でない。
(控訴人の主張)
過納金は,有効な確定処分に基づいて納付ないし徴収された税額であるから,基礎になっている行政処分が取り消され,公定力が排除されない限り,納税者は不当利得としてその還付を求めることができない。したがって,過納金の還付を求めるためには,まず,その基礎になっている更正・決定等の取消しを求める必要がある。民法703条以下の不当利得の理念は公法関係にも妥当するが,不当利得が権力的行為に基づいて生じた場合には,権力的行為の特殊性としての公定力が認められる結果,利得の原因となった行為が違法であっても,それが無効であるか又は権限ある機関によって取り消されない限り,不当利得として返還を請求し得ない。これによれば,被控訴人は,本件告知処分が取り消されるまでは不当利得返還請求をすることができない。したがって,本件においても,行政庁は,本件告知処分を取り消すまでは悪意となることはない。
法律上の原因がないことを基礎付ける事実の認識さえあれば利得者の悪意が推定されるとしても,利得者が法律上の原因ありとの認識を有し,かつ,そのような認識を有するに至ったことについてやむを得ないといえる特段の事情があれば,前記の推定は覆るものと解される。
本件においては,本件告知処分当時,控訴人の主張と同様の判断をした前記東京高裁判決があり,これに反する裁判例は,同判決の原審判決以外には見当たらない状況にあった。当時の学説も,控訴人の主張と整合的であると解し得るものであった。これらの事情は,前記特段の事情に当たるものといえるから,控訴人が悪意であったと認めることはできない。
(5) 不当利得返還請求後の遅延損害金請求の当否
(被控訴人の主張)
仮に,控訴人が悪意の受益者に当たらないとしても,不当利得返還債務は期限の定めのない債務であるから,被控訴人が控訴人に対して不当利得返還請求をした日の翌日,すなわち本件訴状送達の日の翌日である平成17年12月23日から当然に遅滞の責任を負う。(被控訴人は当審においてこの請求を追加した。)
第3 当裁判所の判断
1 本案前の主張についての判断
前記前提事実(7)(ただし,補正後のもの)のとおり,高知税務署長は,平成19年3月1日,本件告知処分のうち,被控訴人の譲渡担保財産である売掛金債権の譲渡につき第三者対抗要件が具備された日である平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する滞納国税に係る部分を取り消したから,同部分の取消しを求める被控訴人の訴えは訴えの利益を欠くものとして不適法である。
2 集合債権譲渡担保において,譲渡担保契約時に未発生であった担保目的債権が,国税徴収法24条6項の「譲渡担保財産となった」といえる時期について
(1) 当裁判所の認定する事実は,原判決「事実及び理由」第3の1記載のとおりであるからこれを引用する。
(2) 譲渡担保財産についての譲渡担保権の被担保債権と国税債権との優先劣後に係る調整は国税徴収法24条1項及び6項の規律により,当該財産が法定納期限等以前に譲渡担保財産となったか否かにより決せられるところ,同条6項の解釈においては,国税の法定納期限等以前に,将来発生すべき債権を目的として,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款のない譲渡担保契約が締結され,その債権譲渡につき第三者に対する対抗要件が具備されていた場合には,譲渡担保の目的とされた債権が国税の法定納期限等の到来後に発生していたとしても,当該債権は「国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となっている」ものに該当する(最高裁平成16年(行ヒ)第310号同19年2月15日第一小法廷判決・民集61巻1号243頁)。
(3) これを本件についてみると,被控訴人とA食品が平成15年4月14日締結した本件譲渡担保契約は,600万円を限度として,A食品とBスーパーマーケット間の継続取引から発生する商品の売買代金その他これに附帯する一切の債権であって本件譲渡担保契約締結時に現に有し,平成20年4月13日までの5年間の期間に発生するもの(本件売掛金債権)を被控訴人に譲渡することを内容とし,債権譲渡の効果の発生を留保する特段の付款はない上,平成15年4月21日,被控訴人,A食品及びBスーパーマーケットの3者で交わした本件覚書に確定日付を付したことにより本件譲渡担保契約による債権譲渡は第三者に対する対抗要件を具備したから,その後に発生した債権は同日以降に到来する国税の法定納期限等以前に譲渡担保財産となったものに当たり,同月21日以降に法定納期限等が到来する国税については,本件売掛金債権から徴収することはできない。具体的には,前記前提事実(3)の高知税務署長が差し押さえたA食品のBスーパーマーケットに対する同年7月分及び8月分の売掛金債権から,別紙1番号12ないし16の国税を徴収することはできないこととなる。
3 高知税務署長による充当の当否について
(1) 既に認定した事実及び後記の証拠によれば,次の事実を認めることができる。
高知税務署長は,平成16年8月6日,別紙2記載の国税を徴収するため,被控訴人の譲渡担保財産であるA食品のBスーパーマーケットに対する平成16年7月分及び8月分売掛金の支払請求権を差し押さえ,同月31日,被控訴人に対し本件告知処分をした上,同年10月19日,Bスーパーマーケットから600万円を取り立て,同月29日,このうち541万3487円を別紙1の「滞納国税に充当した金員」欄の「合計」欄記載のとおり国税に充当し,残余の58万6513円を被控訴人に交付した。
高知税務署長は,平成19年3月1日,本件告知処分のうち,被控訴人の譲渡担保財産である売掛金債権の譲渡につき第三者対抗要件が具備された日である平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する滞納国税に係る部分を取り消し,前記541万3487円のうち取消しに係る滞納国税に充当していた321万5187円(別紙1の「滞納国税に充当した金員」欄の「小計2」欄記載のとおり)を平成19年3月6日,被控訴人名義の預金口座へ振込送金する手続を執り,同月7日振込が完了した(乙7ないし9)。
(2) 2で検討したとおり,譲渡担保財産についての譲渡担保権の被担保債権と国税債権との優先劣後に係る調整は国税徴収法24条1項及び6項により,法定納期限等以前に譲渡担保財産となったか否かにより決せられるところ,本件譲渡担保契約に基づく債権譲渡につき被控訴人が第三者に対する対抗要件を具備した平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する国税については,譲渡担保の目的とされた債権から国税を徴収することはできないが,同日より前に法定納期限等が到来する国税については同債権から国税を徴収することができる。ここで徴収することのできる「国税」とは,国が課する税のうち関税,とん税及び特別とん税以外のものをいい(同法2条1号),附帯税も国税に含まれるから,譲渡担保権の被担保債権と国税たる附帯税との優先劣後に係る調整も対抗要件具備の日と法定納期限等の先後により決せられることになる。
税務署長は譲渡担保権者に対して必要な告知をした上で(同法24条2項),譲渡担保財産につき滞納処分を執行することができる(同条3項本文)。差押債権の取立てにより給付を受けた金銭は,同法129条1項各号所定の国税その他の債権に配当されるが,同項1号の国税(差押えに係る国税)が複数存在する場合の充当の順序については同条に規定がなく,解釈にゆだねられているところ,滞納者の利益その他種々の事情を考慮して適切な充当を行う必要があることから,税務署長の裁量により順序を定めることができると解するのが相当である。
(3) 以上を前提として検討するに,別紙1の番号1ないし11の国税は法定納期限等が平成15年4月21日(本件譲渡担保契約に基づく債権譲渡につき被控訴人が第三者に対する対抗要件を具備した日)より前に到来しているから,高知税務署長がこれらの国税につき本件売掛金債権から徴収し,別紙1の番号1ないし11の国税につき同別紙の「滞納国税に充当した金員」欄の「小計1」欄記載のとおり総額219万8300円をこれに充当したことは適法である。
(4) 被控訴人は,被控訴人の有する譲渡担保権の平成16年10月22日時点での被担保債権額(577万6576円)から還付済みの58万6513円及び321万5187円を控除した197万4876円につき,不当利得に基づく返還請求権を有すると主張する。被控訴人がその主張の理由とするところは,要するに,差し押さえられた売掛金債権は,まず被控訴人の有する譲渡担保権に充てられ,残余があれば滞納国税債権の本税,附帯税の順に充当されるべきものである,それは,国税徴収法129条6項を,複数の国税について本税と延滞税又は利子税とが併存する場合においてした滞納処分に係る配当金を処理する際の配当金の充当の方法を規定した規定であるととらえ,これによれば配当金はまず本税に充当され,すべての本税に対する充当が完了してなお配当金に剰余がある場合にその剰余金を延滞税又は利子税に充当されるべきであると解することに加え,本件において配当時における滞納国税(本税)は,いずれも法定納期限等が平成15年4月21日以降に到来するものであり,被控訴人の有する譲渡担保権の被担保債権が同滞納国税(本税)に優先するから本税への充当は許されず,まして延滞税又は利子税への充当も許されない,というものであるので,この被控訴人の主張について検討する。
同法129条の規定は,同法中「滞納処分」の章(第5章)の「換価代金等の配当」の節(第4節)に置かれていること及びその条文の内容に照らし,滞納処分により差し押さえた財産の換価代金等の配当に関するものであることは明らかであって,譲渡担保財産についての譲渡担保権の被担保債権と国税債権(附帯税を含む。)との優先劣後に係る調整を規律するものではない。この両者の調整は,(2)記載のとおり,同法24条1項及び6項の規律により,法定納期限等以前に譲渡担保財産となったか否かにより決せられるのであって,これは国税が附帯税であると否とを問わないものである。被控訴人の主張は,譲渡担保権の被担保債権と附帯税との優先劣後に係る調整を規律する同法24条の規定を無視し,同条と129条の各規定の規律する事項を混同した理解を前提とする独自の見解である点で失当である。また,差押えに係る国税が複数存在する場合の換価代金等の充当の順序について税務署長の裁量を認めるべきことは前記のとおりであるところ,同条6項は差押えに係る国税が単一の本税と附帯税である場合を規定するものであり,複数の国税が存在する場合を規定するものではないことに照らしても,被控訴人の主張は失当である。
(5) (1),(3)によれば,高知税務署長が,平成16年10月29日,Bスーパーマーケットから同月19日に取り立てた600万円から被控訴人に交付した58万6513円を差し引いた541万3487円のうち,別紙1の番号1ないし11の国税につき同別紙の「滞納国税に充当した金員」欄の「小計1」欄記載のとおり総額219万8300円を充当したことは相当である。
また,前記541万3487円のうち321万5187円については(1)のとおり被控訴人に既に還付されている。
したがって,高知税務署長が滞納国税に充当した541万3487円の内金481万1717円について,控訴人がこの金員を保持する法律上の原因がないとして返還を求める被控訴人の請求には理由がない。
4 還付加算金請求について
(1) 既に認定した事実及び証拠(乙8)によれば,高知税務署長が,平成16年8月6日,別紙2記載の国税を徴収するため,被控訴人の譲渡担保財産であるA食品のBスーパーマーケットに対する平成16年7月分及び8月分売掛金の支払請求権を差し押さえ,同月31日,被控訴人に対し本件告知処分をした上,同年10月19日,Bスーパーマーケットから600万円を取り立て,同月29日,このうち541万3487円を別紙1の「滞納国税に充当した金員」欄の「合計」欄記載のとおり国税に充当し,残余の58万6513円を被控訴人に交付したこと,平成19年3月1日,本件告知処分のうち,被控訴人の譲渡担保財産である売掛金債権の譲渡につき第三者対抗要件が具備された日である平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する滞納国税に係る部分を取り消し,平成19年3月6日,前記541万3487円のうち取消しに係る滞納国税に充当していた総額321万5187円を過誤納金として被控訴人に還付することを決定した上被控訴人名義の預金口座へ振込送金する手続を執り,同月7日振込が完了したことが認められる。
(2) (1)を前提に検討するに,前記321万5187円の還付金は,徴収の際には適法であったが,その後の本件告知処分の一部取消しにより徴収に係る国税の額が減少したことにより,結果的に超過納付となった場合であるから過納金に当たる。また,被控訴人は本件告知処分を受けており第二次納税義務者とみなされるから(国税徴収法24条3項),過納金の還付を請求し得る(国税通則法施行令22条参照)。被控訴人が還付した還付金の額は総額321万5187円であり,この過納金につき生じる還付加算金は,平成16年10月23日(国税の納付があった日(同月19日。納付とみなされる高知税務署長による取立て(国税徴収法67条3項)の日である。)の翌日である同月20日より後の日として被控訴人が始期として主張する日)から高知税務署長が還付のための支払を決議した平成19年3月6日までの日数に,以下の計算式のとおり,国税通則法58条1項,租税特別措置法95条の規定による特例基準割合(平成16年ないし18年につき4.1パーセント,平成19年につき年4.4パーセント。なお,利率等の表示の年利建て移行に関する法律25条により,閏年である平成16年中の期間についても365日当たりの割合となる。)を乗じて計算すると,31万4120円となる。
(計算式)
① 平成16年
321万5187円×4.1%×70日÷365=2万5281円
(1円未満四捨五入。以下同じ。)
② 平成17年
321万5187円×4.1%=13万1823円
③ 平成18年
321万5187円×4.1%=13万1823円
④ 平成19年
321万5187円×4.4%×65日÷365=2万5193円
⑤ ①ないし④の合計額
2万5281円+13万1823円+13万1823円+2万5193円=31万4120円
(3) したがって,被控訴人の還付加算金に係る請求は,上記の限度で理由がある。
5 被控訴人のその余の請求について
被控訴人は,還付加算金請求と選択的に,附帯請求として不当利得につき悪意の受益者に対する年5分の利息の請求及び訴状送達の日の翌日(平成17年12月23日)以後の民法所定年5分の遅延損害金の請求をしているが,還付加算金は,国税の納付が遅滞した場合に延滞税が課せられるのと同様に,還付金等が生じた場合に生じる一種の利息として,不当利得の趣旨も勘案して定められたものであることに照らせば,還付加算金の制度はその請求が可能な場合には上記附帯請求を排除する趣旨であると解されるから,上記附帯請求にはいずれも理由がないこととなる。
第4 結論
以上の検討によれば,本件告知処分のうち,被控訴人の譲渡担保財産である売掛金債権の譲渡につき第三者対抗要件が具備された日である平成15年4月21日以降に法定納期限等が到来する滞納国税に係る部分の取消しを求める被控訴人の訴えは不適法であるから,この請求を認容した原判決主文第1項を取り消した上,同部分に係る訴えを却下すべきであり,被控訴人の控訴人に対する481万1717円の不当利得返還請求は理由がないから,この請求を認容した原判決主文第2項を取り消した上,同部分に係る請求を棄却すべきであるから本件控訴には理由がある。また,還付された481万1717円につき平成16年10月23日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める被控訴人の附帯請求は,当審で追加された還付加算金請求として31万4120円の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の還付加算金請求並びに悪意の受益者に対する利息請求及び当審で追加された遅延損害金請求には理由がないからいずれも棄却すべきところ,本件附帯控訴に基づき上記の趣旨に従って原判決主文第3項を変更することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 矢延正平 裁判官 豊澤佳弘 裁判官 齋藤聡)
別紙2 滞納税金目録<省略>
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