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高松高等裁判所 平成2年(ネ)224号 判決 1992年3月31日

控訴人(被告) 株式会社今新ビル

右代表者代表取締役 寺田完

右訴訟代理人弁護士 友添郁夫

同 西川道夫

同 北川昭一

被控訴人(原告) 四国貯蓄信用組合

右代表者代表理事 金谷庚午郎

右訴訟代理人弁護士 武田安紀彦

同 楠瀬輝夫

主文

一、原判決を次のとおり変更する。

1. 控訴人は被控訴人に対し、

(一)  四〇九四万一九〇六円及び内三二〇七万四四二三円に対する昭和五四年一一月二九日から支払済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員

(二)  六九五万円及びこれに対する昭和五二年一一月一日から支払済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員

(三)  一一三〇万円及びこれに対する昭和五二年一一月一日から支払済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員

(四)  一億一三一二万一〇〇〇円並びにこれに対する昭和五五年五月二〇日から昭和五六年八月一六日まで及び昭和五八年一〇月一五日から支払済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員

(五)  五二六万〇二二二円及びこれに対する昭和五二年一一月一日から支払済に至るまで年一八・二五パーセントの割合による金員

を支払え。

2. 被控訴人のその余の請求を棄却する。

二、訴訟費用は第一、二審を通じて一〇分し、その七を控訴人の、その三を被控訴人の負担とする。

三、この判決は主文一項1につき仮に執行することができる。

事実

一、当事者の求めた裁判

1. 控訴人

(一)  原判決を取り消す。

(二)  被控訴人の請求を棄却する。

(三)  訴訟費用は一、二審とも被控訴人の負担とする。

2. 被控訴人

(一)  本件控訴を棄却する

(二)  控訴費用は控訴人の負担とする。

二、被控訴人の請求原因

1. 被控訴人は控訴人に対し、

(1)  昭和五〇年一〇月三一日一億円を弁済期昭和五一年四月三〇日(以下「(1)の貸付」という。)、

(2)  昭和五一年六月四日六九五万円を弁済期昭和五二年一〇月三一日(以下「(2)の貸付」という。)、

(3)  昭和五一年一〇月一〇日一一三〇万円を弁済期昭和五二年一〇月三一日(以下「(3)の貸付」という。)、

(4)  昭和五二年一月二〇日一億一三一二万一〇〇〇円を弁済期同年一〇月三一日(以下「(4)の貸付」という。)、

(5)  昭和五二年三月三〇日五二六万〇二二二円を弁済期昭和五五年六月二八日(以下「(5)の貸付」という。)、

とし、右(1)ないし(5)の貸付とも各利息年八パーセント、遅延損害金年一八・二五パーセントとする約定で貸し付けた。

2. よって、被控訴人は控訴人に対し、(1)ないし(5)の貸付合計二億三六六三万一一二二円及び内(1)の貸付一億円に対する弁済期後の昭和五四年一一月二九日から、(4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円に対する弁済期後の昭和五五年五月二〇日から、(2)、(3)、(5)の貸付計二三五一万〇二二二円に対する昭和五二年一一月一日から、各支払済に至るまで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

三、控訴人の答弁、仮定抗弁

1.(一) 被控訴人の請求原因1の内、(1)の貸付を否認し、その余は認める。

(二) 控訴人は当初(1)の貸付につき自白したが、右自白は真実に反し錯誤に基づくものであるから、これを撤回する(抗弁一)。すなわち、建築業を営む控訴人代表者星野真一(以下「星野」という。)は、関連会社四社の事業資金調達の目的で、昭和二九年に被控訴人を設立し、その代表理事を兼任していたが、被控訴人の経営が苦しく、膨大な額の架空預金により業績が上がっているように装い、粉飾決算をし、横領、背任の容疑で取り調べを受け、気持ちが動転し、正確な判断ができない状態にあったため、他の貸付と認識を誤り、全く貸付を受けていないのにその貸付を受けたもののように錯誤して自白したが、真実に反するものである。

2. (1)の貸付がされたとしても、

(一)  (1)の貸付は、代表者である星野が自己の経営する控訴人に貸与していないのに、貸与したように装ってしたもので、通謀虚偽表示であり、無効である(抗弁二)。

(二)  被控訴人は(1)の貸付の際控訴人に対し、その優越的な地位を利用して、一旦貸し付けた金員を直ちに全額預金させて被控訴人の控訴人に対する他の貸付等全債務の担保とし、その全債務を弁済しない限り払戻をしない制限を科するという拘束条件を付して取引をしたものであり、その行為は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)一九条、不公正な取引方法一四項三号又は四号(優越的地位の濫用)、一三項(拘束条件付取引)に当たり無効であり、そうではないとしても、公序良俗に反し無効である(抗弁三)。

3. 控訴人は昭和五五年一〇月二二日被控訴人に対し、信用組合取引約定(以下「約定」という。)七条の相殺予約ないし相殺契約、又は、民法の規定により、次のように各定期預金として被控訴人に預け入れた預金の元金、利息、遅延損害金の債権を自働債権とし、本訴請求債務を受働債務として、その対当額で相殺したので、本訴請求債務はこれにより全部消滅した(抗弁四)。

(一)  自働債権

ア  昭和四九年一〇月二二日五〇〇万円、満期日昭和五〇年一月二二日、利息、遅延損害金年五・六パーセント(以下「アの預金」という。)、

イ  昭和五〇年一〇月三一日一億円、満期日昭和五二年一〇月三一日、利息遅延損害金年八・一パーセント(以下「イの預金」という。)、

ウ  昭和五二年六月二八日七四万七〇八七円、満期日昭和五五年六月二八日、利息遅延損害金年五・三五パーセント(以下「ウの預金という。)、

とする預金債権を有する。

(二)  受働債務

(1)ないし(5)の貸付元金、利息、遅延損害金である。

(三)  従って、(1) 昭和五二年一〇月三一日ア、イの預金債権と、(1)ないし(5)の貸付債務とにつき、(2) 昭和五五年六月二八日ウの預金債権と(1)ないし(5)の貸付債務につき、それぞれ相殺適状となった。

(四)  右相殺の結果、少なくても、(1)ないし(5)の貸付債務の全額が相殺され消滅した。

4. そうではないとしても、控訴人は被控訴人に対し、(1)ないし(5)の貸付債務につき次のとおり弁済した(抗弁五)。

(一)  被控訴人は昭和五八年二月一〇日高松地方裁判所昭和五六年ケ第一四四号不動産競売事件において、(1)の貸付につき一億円の配当弁済を受けた(抗弁五の(一))。これは被控訴人が四国栄宝株式会社(以下「四国栄宝」という。)に対し貸し付けた金員につき控訴人が保証した債務であり、その保証に基づき控訴人所有不動産に債務者控訴人、極度額一億円として設定した根抵当権の実行によるものであるとしても、債務者は控訴人であり、右保証債務は右根抵当権の被担保債務に入っていないから、(1)の貸付に対する弁済としての効力を有する。

(二)  被控訴人は高松地方裁判所昭和五七年ヌ第三二、第三九号強制競売併合事件の昭和五八年六月一四日の配当手続において、

(1)  (1)の貸付一億円に対する昭和五四年一一月二九日から昭和五八年六月一四日まで約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金六四七〇万円の内金として、四四八四万六六六七円

(2)  (4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円に対する昭和五五年五月二〇日から昭和五八年六月一四日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金五六一〇万円の内金として、四二五〇万四九四六円、

の各配当弁済を受けた(抗弁五の(二))。

(三)  播州商事株式会社(以下「播州商事」という。)が昭和五九年一二月ころ控訴人に代位して、(4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円に対する弁済として、四四五八万一三〇〇円を弁済供託し、これを被控訴人がそのころその還付請求をしてその弁済に充当した(抗弁五の(三))。

(四)  被控訴人が保証人池田千代美(以下「池田」という。)に対してした事件不詳の強制執行により、(1)ないし(5)の貸付に関して、二五七五万円の配当弁済を受けた(抗弁五の(四))。

5. 控訴人は平成二年一一月二日被控訴人に対し、次の不当利得返還請求権を自働債権とし、本訴請求債務を受働債務として、その対当額で相殺する旨意思表示したから、その限度で、本訴請求債務が消滅した(抗弁六)。

(一)  自働債権

被控訴人は法律上の原因がなく前記4(一)の一億円、(四)の二五七五万円を利得し、控訴人にその損害を被らせているので、控訴人は被控訴人に対し、右各金員の不当利得返還請求権を有する。

(二)  受働債務

本訴請求債務の全額

6. 本訴請求は次のとおり違法不当な目的でしたもので公序良俗に反し、許されない(抗弁七)。すなわち、

(一)  本訴請求は架空の(1)の貸付を理由とするものであり、(2)ないし(5)の貸付の元金、利息、遅延損害金を弁済してもなお余りがある程の担保権が設定されており、被控訴人はそれを熟知しながら、本訴請求に及んだものである。

(二)  被控訴人が約定七条三項による計算をするに当たり、相殺、担保権の実行に当たり、故意に貸金と預金との利率を大幅に被控訴人に有利に定め、相殺の時期を引き延ばし遅延損害金を増大させて、他方、控訴人に不当に損害を与え、控訴人が被控訴人に対し負担する全債務を弁済しない限り預金の払戻に応じないとして控訴人の事業資金の使用の道を閉ざしたりした。

四、控訴人の抗弁に対する被控訴人の再答弁・再抗弁

1. 控訴人主張1(二)の事実(自白の撤回)は争う。(1)の貸付は真実行われたものであり、控訴人が何らその点につき錯誤したことはなかった。

2.(一) 同2(一)の事実(通謀虚偽表示)は争う。控訴人は昭和五〇年一〇月ころ池田に対し、控訴人所有の高松市香西南町所在の土地、建物を賃貸し、その敷金として一億円を受領し、それをイの定期預金とし、被控訴人が控訴人に対しそれを担保に(1)の貸付として一億円を貸与したものである。

(二) 同(二)の事実(独禁法違反又は公序良俗違反)は争う。(1)の貸付につきその金員を控訴人に交付し、控訴人がそのころ建設業者に対し、その中から七〇〇〇万円を支払っている。又、イの預金は、控訴人が被控訴人に対し負担している貸付等債務の担保として預かっているものであり、その払戻を拒否しているものではなく、控訴人主張のような優越的地位の濫用の取引、拘束条件取引などの独禁法違反の事実は全くない。又、控訴人主張のような公序良俗違反の事実もない。

3. 同3の事実(控訴人からの相殺)は争う。

(一)  同(一)の事実(自働債権、ア、イ、ウの預金)は認める。

(二)  同(二)の事実(受働債務、本訴請求債務)は認める。

(三)  同(三)の事実(相殺適状)は否認する。

(四)  同(四)の事実(相殺の結果)は否認する。

4. 被控訴人は控訴人から相殺の意思表示を受ける以前の昭和五五年五月一九日控訴人に対し、次の被控訴人の相殺債権である(1)、(4)の貸付の各利息、遅延損害金、その他の後記債権一億三一五〇万四一一一円と、被控訴人の相殺債務である控訴人が被控訴人に対してしたア、イ、ウの各預金払戻債務一億三一五〇万四一一一円との対当額で相殺する旨の意思表示をしたので、これにより被控訴人の相殺債務であるア、イ、ウの各債務が消滅し、従って、控訴人の自働債権である右預金もその時点で既に消滅した(再抗弁)。すなわち、

(一)  被控訴人の相殺債権(自働債権)

イ  右(1)の貸付一億円(但し、元金は含まない。)の貸付日昭和五〇年一〇月三一日から弁済期の昭和五一年四月三〇日まで約定年八パーセントによる利息四〇一万〇九五八円

ロ  (1)の貸付一億円(その元金は含まない。)に対する弁済期後の昭和五一年五月一日から相殺の意思表示をした昭和五五年五月一九日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金六五三一万円

ハ  (4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円(その元金は含まない)に対する弁済期後の昭和五二年一一月一日から相殺日の昭和五五年五月一九日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金五二六五万七八二五円

ニ  高松市香西南町三八六番地所在居宅木造二階建一階七六・〇三平方メートル、二階六・六一平方メートルの昭和五三年一月三一日賃貸借解約に伴う敷金等返還請求権三五万円及びこれに対する解約後の同年二月一日から相殺日の昭和五五年五月一九日まで民事法定利率年五パーセントの割合による遅延損害金四万〇一七八円、計三九万〇一七八円(以下「ニの敷金等」という。)、

ホ  同市同町西打所在居宅木造平屋建六六平方メートルの昭和五三年一月三一日賃貸借解約に伴う敷金等返還請求権二五万円及びこれに対する解約後の同年二月一日から相殺日の昭和五五年五月一九日まで民事法定利率年五パーセントの割合による遅延損害金二万八六九八円、計二七万八六九八円(以下「ホの敷金等」という。)、

ヘ  同市今新町一番地一四所在ニュウライオンビル一階店舗床面積三二・七〇平方メートルの昭和五三年三月三一日賃貸借解約に伴う保証金敷金返還請求権三〇〇万円及びこれに対する解約後の同年四月一日から相殺日の昭和五五年五月一九日まで民事法定利率年五パーセントの割合による遅延損害金三二万〇一三六円、計三三二万〇一三六円(以下「ヘの敷金等」という。)、

ト  同市今新町六番地八今新ビル五階A室事務所床面積七〇・七四平方メートルの昭和五三年三月三一日賃貸借解約に伴う敷金等返還請求権五〇万円及びこれに対する解約後の同年四月一日から相殺日の昭和五五年五月一九日まで民事法定利率年五パーセントの割合による遅延損害金五万三三五六円、計五五万三三五六円(以下「トの敷金等」という。)、

チ  同今新ビル七階事務所床面積二八二・三七平方メートルの昭和五三年三月三一日賃貸借解約に伴う敷金等返還請求権四五〇万円及びこれに対する解約後の同年四月一日から右相殺日の昭和五五年五月一九日まで民事法定利率年五パーセントの割合による遅延損害金四八万〇二〇五円、計四九八万〇二〇五円(以下「チの敷金等」という。)、

以上イないしチの合計一億三一五〇万四一一一円。

(二)  被控訴人の相殺債務(受働債務)

控訴人が被控訴人に対してした控訴人主張のア、イ、ウの各預金につき被控訴人が控訴人に対し負担する預金払戻債務の元金、利息、各満期日の翌日から相殺の日まで約定利率による遅延損害金合計一億三一五〇万四一一一円である。

(三)  前記のとおり被控訴人の相殺債権である各債権の弁済期は全て到来しており、相殺債務であるア、イ、ウの各預金の満期日も到来しており、いずれも相殺適状にある。

(四)  よって、被控訴人は控訴人に対し、約定七条により、又は、民法の規定により、相殺の意思表示をした。

五、被控訴人の再抗弁に対する控訴人の再々答弁、再々抗弁

1. 被控訴人主張四4の事実(被控訴人の相殺)は争う。

2.(一) 同(一)の事実(被控訴人の相殺債権)は争う。

(1)  ニ、ホの敷金の基本となった賃貸借の建物明渡日は昭和五三年三月三一日であり、同年四月一日がその遅延損害金の起算日である。

(2)  チの敷金等は保証金、権利金の性質を有し、一年間しか賃貸していなかったのでその二〇パーセント相当額を控除すべきである(再々抗弁一)。

(二)(1) 同(二)の事実(被控訴人の相殺債権)は争う。

(2)  被控訴人の相殺債務ア、イ、ウの預金の利息は、各満期日にそれが元金に繰り入れられ、複利となるものである(再々抗弁二)。

(三) 同(三)の事実(相殺適状)は争う。約定七条による相殺は、自働債権と受働債務との各弁済期が若干の差異があるので、相殺計算の便宜上、被控訴人が「いつでも」その相殺の時期を選択できる旨定めたものであるから、相殺適状の日後速やかにその相殺の時期を選択すべきものであって、本件のように二年数か月以上という著しく遅滞した時期を選択して相殺することはその約定に含まれていないものである。

3. 被控訴人のした相殺は、独禁法の不公正な取引違反ないし公序良俗違反であり許されない(再々抗弁三)。すなわち、(1)、(4)の貸付につき、他にその弁済を担保するのに充分な不動産に抵当権等を設定しながら、更にア、イ、ウの預金をその担保とすることで、実質上全債務の弁済が得られるまでその相殺時期を引き延ばし、その間預金の払戻を拒否し、弁済を強制するという拘束条件取引をした。

六、控訴人の再々抗弁に対する被控訴人の再々々答弁

控訴人主張2(一)(2)の事実(敷金等の減額)、同(二)(2)(複利)、同3の事実(相殺時期の選択に関する独禁法違反又は公序良俗違反)は、全て争う。

七、証拠関係<省略>

理由

一、(1)の貸付の自白の撤回(抗弁一)について

1. 控訴人のした(1)の貸付の自白が真実に反し錯誤に基づく旨の控訴人主張に沿う乙第二八号証の一ないし三、原審における控訴人代表者星野真一、当審(差戻前)における控訴人代表者寺田完各尋問の結果は後記認定の事実と対比するとにわかに信用し難く、他に右控訴人主張事実を認めることのできる的確な証拠はない。

2. かえって、各成立に争いのない甲第一、第五号証、第三二号証の一、二(その元帳の写真であることも争いがない。)、第三三、第四〇号証、乙第八、第九号証、当審(差戻前)における証人田頭稔の証言により成立が認められる甲第三九号証、同証人堀川忠の証言により各成立が認められる甲第四一、第四二号証、当審(差戻前)における証人堀川忠、同田頭稔、同高須賀義登の各証言を総合すると、次の事実が認められる。

(一)  建設業を営む控訴人代表者であった星野は、関連会社四社の事業資金調達のため、昭和四九年に被控訴人を設立し、星野がその代表理事を兼任し、被控訴人が右目的に沿って関連会社への融資等を行い、控訴人は昭和四九年二月五日被控訴人との間で、信用組合取引約定(基本約定)をした。

(二)  控訴人は昭和五〇年一〇月三〇日被控訴人に対し、右基本約定に基づき、井坪建設に負担していたビル建築請負工事代金約七〇〇〇万円の支払などのため事業資金一億円を借り受ける申込をし、被控訴人がそれを承諾の上同年同月三一日控訴人に対し、一億円を弁済期昭和五一年四月三〇日、利息年八パーセント、遅延損害金年一八・二五パーセントの約定で貸し付けた((1)の貸付)。

(三)  その担保としては、(1) 控訴人が同年同月三一日被控訴人に宛て金額一億円、満期昭和五一年四月三〇日の約束手形一通を振出交付し、(2) 次の(四)の定期預金一億円を担保として受領したほか、他の貸付等の共同担保として、(3) 控訴人が昭和五一年一月二四日被控訴人に対し、控訴人所有の高松市今新町一番一四宅地二八八・二三平方メートル、同所地上家屋番号一番一四店舗鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付七階建一階ないし四階各二四九・二七平方メートル、五階一六七・九二平方メートル、六階一三七・五六平方メートル、七階六八・九七平方メートルにつき、極度額一億円、債権の範囲信用組合取引、手形債権、小切手債権、債務者控訴人とする根抵当権設定契約をし、同年同月二七日高松地方法務局受付第二七六四号でその登記をした(乙第八、第九号証)。

(四)  控訴人は昭和五〇年七月二三日池田に対し、保証人池田建設工業株式会社(以下「池田建設」という。)の保証のもとに、控訴人所有のビル及びその敷地六六六六・二四平方メートルを敷金一億円、賃料月額として右土地一〇〇万円、建物六五万円、パチンコ営業の目的、期間一〇年の約定で賃貸した。しかし、当時ビル建築中のため、その竣工までは地代のみ支払い、その後は建物の右賃料を支払うとともに、右敷金一億円は、控訴人の関連会社である池田建設が同年一〇月三〇日被控訴人から、一億円を借り受け(被控訴人が同年同月同日被控訴人の池田建設名義の当座預金口座に振り込んでその現金の交付に代えた。)、池田に代位して控訴人に支払った。又、池田建設が同年同月同日被控訴人に対し、その担保として、その所有の香川県香川郡太田村大字太田字皿井一一一一番地田九一九平方メートルにつき極度額一億二〇〇〇万円の根抵当権設定をし、その登記をした(甲第四〇号証の乙区一七番)。

(五)  右賃貸借の保証金の支払方法は、被控訴人に設けられた池田建設の当座預金口座から被控訴人に設けられた控訴人の当座預金口座に振込送金された。右一億円は本来賃料不払いの保証金であり賃貸借終了の際不払賃料額を控除の上池田に返還すべきものであり、控訴人がこれを自由に費消できる性質のものではないが、控訴人がこれを一時的に事業資金に利用するため、右金員をアの定期預金とし、賃貸借終了までの間これを担保に供して金策し、賃貸借終了時までにその貸金を弁済して預金を取り戻すこととし、(三)の(2)のように(1)の貸付の預金担保とした。

(六)  控訴人はそのころ井坪建設に対し、被控訴人から借り受けた(1)の貸付の中から、約七〇〇〇万円を支払った。

以上のとおり認められる。

3. 右2認定の事実によると、被控訴人は昭和五〇年一〇月三一日控訴人に対し、(1)の貸付一億円を貸し付けたものであり、従って、控訴人が当初したその点の自白は真実に合致するものであり、控訴人にはなんらの錯誤もなかったものであるから、控訴人の自白の撤回はその要件を具備しないので許されず、自白の効力が生じたものである。

二、(1)ないし(5)の貸付について

従って、(1)ないし(5)の貸付は、全て被控訴人主張のとおり成立したことが当事者間に争いがないことになる。

三、通謀虚偽表示(控訴人の抗弁二)について

(1)の貸付が通謀虚偽表示である旨の控訴人主張に沿う原審における控訴人代表者星野真一、当審における控訴人代表者寺田完各尋問の結果は前記一認定の事実と対比すると、にわかに信用し難く、他に右控訴人主張の事実を認めることができる的確な証拠がない。かえって、前記一認定の事実によると、(1)の貸付はその真意に基づいて成立したものということができ、この点の控訴人主張は理由がない。

四、(1)の貸付の独禁法違反又は公序良俗違反(控訴人の抗弁三)について

右控訴人主張事実を認めることのできる的確な証拠がないばかりでなく、前記一認定の事実によると、(1)の貸付及びアの預金はそれぞれ別異の原因で成立したものであり、アの預金は(1)の貸付の金員でその全額を預金したものではないから、控訴人の右主張はこの点で既にその前提を欠き、理由がない。

五、相殺(控訴人の抗弁四)について

1. 自働債権

控訴人が被控訴人に対し、ア、イ、ウの預金払戻請求権を有していることは当事者間に争いがなく、控訴人はこれを相殺の自働債権とするものである。

2. ア、イ、ウ預金債権の既相殺による消滅(被控訴人の再抗弁)

(一)  被控訴人が昭和五五年五月一九日控訴人に対し、(1)の貸付一億円に対する利息、弁済期の翌日の昭和五一年五月一日から相殺の日まで約定の年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金計七一五五万円の残六五三一万二七五五円、(4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円に対する弁済期の翌日の昭和五二年一一月一日から相殺の日まで約定の一八・二五パーセントの割合による遅延損害金五二六五万七八二五円のほか、被控訴人主張四4(一)の保証金敷金及び弁済期後の遅延損害金債権を含む合計一億三一五〇万四一一一円を被控訴人の相殺債権(その相殺における自働債権)とし、同(二)のア、イ、ウの預金の被控訴人主張再抗弁記載の各元金及び約定利率による利息、遅延損害金合計一億三一五〇万四一一一円を被控訴人の相殺債務(その相殺における受働債務)として、その対当額で相殺する旨意思表示したことは当事者間に争いがない。

(二)  前記各争いのない事実、認定事実、成立に争いのない甲第一一号証によると、(1)、(4)の貸付の遅延損害金額、その他の被控訴人の相殺債権、債務額の計算(それが発生するかどうかは暫く置く。)が右相殺の意思表示のとおりであることが認められる。

(三)  被控訴人が控訴人に対してした右相殺の意思表示が、約定七条による相殺と観られるかどうかにつき争いがあるので、検討する。

(1)  前記甲第一号証、各成立に争いのない甲第一一、第一二号証、弁論の全趣旨により成立が認められる乙第一号証、当審差戻前における証人高須賀義登、同堀川忠の各証言、原審における控訴人代表者星野真一代表者尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

被控訴人が昭和四九年二月五日控訴人とした信用組合取引約定(約定)には、次のとおり定められている。

「七条(差引計算)

1 期限の到来または前二条(注 五条が期限の利益喪失、六条が割引手形の買戻)によって貴組合に対する債務を履行しなければならない場合には、その債務と私の諸預け金その他の債権とを、期限のいかんにかかわらずいつでも貴組合は相殺することができます。

2 前項の相殺ができる場合には、貴組合は事前の通知及び所定の手続を省略し、私にかわり諸預け金の払い戻しを受け、債務の弁済に充当することができます。

3 前二項によって差引計算をする場合、債権債務の利息、割引料、損害金等の計算については、その期間を計算実行の日までとし、利率、料率は貴組合の定めによります。」

(2)  右規定は、銀行等金融機関における約定の雛形によるもので、内容はこれと同趣旨であるが、その約定がされている理由、その約定の運用の実体は概ね次のとおりである。

イ 民法の規定に基づく相殺は、相殺適状の時までその効力が遡及する(五〇六条二項)ので、相殺適状時の計算で元金の全部又は一部が相殺されると、その相殺された元金に対応する部分については、その後遅延損害金が発生すべき元金がないので、その相殺適状時から相殺の意思表示までは実際に遅延していても、相殺適状時後の遅延損害金が発生しない計算となる。しかし、相殺の対象となる複数の自働債権、受働債務の各弁済期が時期的に若干相違することが多く利息、遅延損害金の計算が煩雑になるのを避けるために、それらの差引計算の日を同一にし計算を簡略にする必要上右約定がされたもので、その限度で民法の遡及効を排除する特約であり、各弁済期の相違としてその約定による処理を相当とする期間は右趣旨から観て相殺適状時後の短期間であり、著しく遅滞した時期における相殺の権利は右約定に含まれておらず、又、その限度を超え民法の規定による遡及効の適用を全面的に排除し相殺適状時から相当期間経過後にした相殺の意思表示の時まで遅延損害金が原則として発生しこれを請求できる趣旨の約定ではない。

ロ しかし、その後一部には右約定がその本来の趣旨限度を超えて運用され、前記民法の規定による相殺における遡及効を全面的に排除する特約であると解し、相殺適状となった時から相殺の意思表示の時までの遅延損害金が発生し請求できる旨の特約であるとする取扱がされるに至った。

ハ 右約定は相殺の契約ないし予約であるとされている。しかし、自働債権、受働債務の特定もなく、契約ないし予約の本質的な内容の特定に欠けるから、契約として成立していないことはもとより、金融機関による一方的な予約完結もできないし、その双方からの予約完結もできず、結局、更に当事者双方で自働債権、受働債務を特定しなければ契約ないし予約としては機能しないし、実際にその機能もしていない。

ニ 約定七条一項の相殺の自働債権、受働債務の対象が双方の全ての債権債務であり、しかも、金融機関だけがその相殺の意思表示ができるものとされているので、その趣旨は根保証、根質権に近いが、その対象債権の範囲、極度額の定めもないので、その性質も有せず、実際にもその機能を果たしていない。

以上のとおり認められる。

(3)  右認定事実によると、

イ 約定七条の本来の趣旨は、三項で相殺計算の基準日を定めたことに主な目的があり、同条一、二項はそれを前提とするもので、多数の各相殺債権、債務の僅かな弁済期到来の差異による複雑な相殺計算を避けるため、その場合に限定して、民法の相殺の遡及効を排除したのにすぎない。すなわち、

(a) 遅延損害金はもともと借主等債務者が責を負うべき履行遅滞により発生するものである。その原則を何らの合理的な理由もなく排斥して、金融機関の一存で自由にその額を増大させその債権を取得する目的でその相殺時期を伸ばしたとしても、それを原因として借主等の債務者に遅延損害金が発生する債権法上の根拠を見出し難い。そのため、民法五〇六条二項が相殺の意思表示は双方の債務が互に相殺を為すに適した始に遡って其の効力を生ずる旨規定して、その遡及効を原則とする旨規定している。

(b) 預金は預金者の金融機関に対する貸金の性質を有するから、預金者が預金した場合特別の事情がない限り、その趣旨とは反対に、金融機関に対し負担している全債務の担保としてその預金を提供する趣旨で預金したものということはできず、相殺適状時後著しく時期が遅れて相殺すると、全債務との相殺に供される結果を招き、他方でその間預金の払戻請求ができず、貸金の性質に反する。

(c) 約定はそもそも任意規定である民法中の性質上公共性の強い規定及び公序良俗に反しない限度で効力を生じ、少なくても、民法の規定を排除した結果民法による効果から観て債務者に著しく不利益となる条項については、債務者がそのことを明確に認識したものであることが約定の文言上明らかであり、それが公序良俗に反しない場合、その限度で民法の規定に反する約定をすることが法的に許されるだけである。従って、これらの点から観ると、約定七条にはもともと相殺適状の時から著しく遅滞した時期における相殺の意思表示は含まれていないというべきである。

ロ 被控訴人のした相殺の意思表示は、後記(四)説示のように各相殺適状時より著しく遅滞した昭和五五年五月一九日にされたものであるから、約定七条に基づく相殺の意思表示ということはできない。なお、前記甲第一一号証の相殺の意思表示の内容証明郵便には、約定七条に基づく相殺であるとの記載もない。

ハ 従って又、相殺の時期が相殺適状時より著しく遅れたことが独禁法違反、公序良俗違反に当たる旨の控訴人主張(再々抗弁三)は右の点からその前提を欠き理由がない。

(四)  被控訴人のした相殺の意思表示は結局民法の規定による相殺の意思表示であるというべきである。

(1)  被控訴人のした相殺の意思表示には、被控訴人に相殺債権と相殺債務との各弁済期の相違により、七件の自働債権、三件の受働債務間で相殺適状が四回生ずる。このような意思表示は、前記甲第一一号証、弁論の全趣旨、前記説示によると、前記説示の約定七条の本来の趣旨に沿わない運用に基づいた意思表示の方法によりされたものであり、その内容は七件の自働債権と、三件の受働債権が、それぞれ一団の一個の債権、一個の債務であるような取扱がされており、右債権、債務との間では四回の相殺適状が考えられ処理されるべきものであり、その一つ一つはあたかも一個の債権、債務の支分債権(例えば、賃料債権等)がある場合と同様に処理されていることが認められる。民法の規定による相殺の意思表示は、その効果が相殺適状時まで遡及する民法五〇六条二項の趣旨から観ると、各相殺適状の時点を基準にそれぞれすることになるので、それぞれ別個にするのが原則であるというべきで、本件でも最初に到来する相殺適状についてのみ考慮すべきであるとの考えも一概に排斥できない。しかし、右認定の事実によると、一通の相殺の意思表示が、一団の自働債権、受働債務間の相殺と観れば、特別の事情がない限り、その相殺適状は四回にわたるが、その時に相殺適状に達した個々の債権、債務ばかりでなく、各一団の中のその他の債権、債務も又同時に相殺適状にあるかどうかを検討し、相殺適状にあるものにつき、相殺計算をすることができると解されるが、その場合でも、民法上の相殺の遡及効の原則より考え、相殺適状となるべき各債権、債務の弁済期が右相殺の意思表示までに到来したことがその意思表示自体により認められることが必要で、右四回以外の異なった時点での相殺ことに相殺適状時ではない昭和五五年五月一九日現在での相殺計算までを含む意思表示であると認めるべき証拠はない。従って、右相殺の意思表示は前記約定による意思表示としては効力がないこと前記説示のとおりであるが、民法による相殺と観て、右の観点から当事者の意思を解釈すれば、各相殺適状が新たに生じた時点でその都度相殺の意思表示の対象となった全自働債権、全受働債務の中から相殺適状となったものを特定の上、相殺適状時の計算で相殺し、その残額につき同様に次の相殺適状時での相殺を考慮する方法で、逐次相殺を繰り返すべき意思表示であり、その他の時点及び内容の相殺の意思表示を含まないものというべきである。本件において、この観点から、被控訴人の相殺の意思表示につき四回にわたる各相殺適状時での相殺計算をする。

(2)  第一回相殺(昭和五一年四月三〇日)

イ 被控訴人の相殺債権は、(1)の貸付の弁済期が昭和五一年四月三〇日で、アの預金の定期預金満期日が昭和五〇年一月二二日であり、その各債務は昭和五一年四月三〇日に相殺適状となった。

ロ 被控訴人の相殺債権は、(1)の貸付一億円(この元金は相殺の意思表示には請求債権として意思表示されていない。以下同じ。)に対する貸付の昭和五〇年一〇月三一日から相殺適状時の昭和五一年四月三〇日まで約定の年八パーセントの割合による利息(但し、相殺の意思表示ではその支払確保のため振出交付された約束手形の利息として記載されている。被控訴人主張四4(一)イ)四〇一万〇九五八円である。

ハ 被控訴人の相殺債務である預金につき、満期に利息が元金に繰り入れられそれが元金となって複利計算をすべき旨の控訴人主張事実(再々抗弁二)を認めることができる的確な証拠がない(以下同じ。)。被控訴人の相殺債務は、アの預金元金五〇〇万円及びこれに対する預金日の昭和四九年一〇月二二日(利息は初日より生ずるので初日も算入する。)からその相殺適状日の昭和五一年四月三〇日まで五五六日間(一年を三六五日として計算し、556/365の指数による。以下同じ。)の約定年五・六パーセントの割合による利息、遅延損害金四二万六五二〇円、計五四二万六五二〇円である。

ニ 被控訴人の相殺債権で相殺されるのは、被控訴人の相殺債務の内利息、遅延損害金次いで元金の順序で相殺充当すべきものであるから、右相殺の結果、被控訴人の相殺債権四〇一万〇九五八円と、被控訴人の相殺債務であるアの預金の利息、遅延損害金四二万六五二〇円、元金三五八万四四三八円、合計四〇一万〇九五八円とが相殺されて消滅し、相殺充当後のアの預金元金は一四一万五五六二円となり、その遅延損害金はない。

(3)  第二回相殺(昭和五二年一〇月三一日)

イ (1)の貸付の弁済期は前記のとおりであり、(4)の貸付の弁済期は昭和五二年一〇月三一日であり、アの預金の満期日は前記のとおりであり、イの預金の定期預金満期日は昭和五二年一〇月三一日であり、その各債務は昭和五二年一〇月三一日に相殺適状となった。

ロ 被控訴人の相殺債権は、

(a) (1)の貸付一億円に対する第一回相殺後の昭和五一年五月一日から相殺適状時の昭和五二年一〇月三一日まで五四九日間の約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金二七四五万円、

(b) (4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円(この元金も相殺の意思表示にはその相殺債権に含まれていない。以下同じ。)が弁済期にあり、その相殺適状時の相殺でありその時点では遅延損害金も発生しない(被控訴人はこの遅延損害金が発生するという計算もしていないし、相殺債権の意思表示にも含まれていない。)。このような場合にもなおその翌日から遅延損害金が発生する点で相殺計算をすることになる必要上被控訴人の相殺債権が零として処理すべきものである。従って、その相殺債権は合計二七四五万円である。

ハ 被控訴人の相殺債務は、

(a) アの預金残元金一四一万五五六二円及びこれに対する第一回相殺後の昭和五一年五月一日から昭和五二年一〇月三一日まで五四九日間の約定年五・六パーセントの遅延損害金一一万九二三三円、計一五三万四七九五円、

(b) イの預金一億円及びこれに対する預金日昭和五〇年一〇月三一日(アの預金と同様初日も算入する。)から昭和五二年一〇月三一日まで七三一日間の約定年八・一パーセントの割合による利息一六二二万二一九一円、計一億一六二二万二一九一円、

(c) 右(a)、(b)の合計一億一七七五万六九八六円である。

ニ 被控訴人は、遅延損害金に相殺充当した後に、その余の相殺債権でいずれの被控訴人の相殺債務の元金に相殺充当するかにつき指定しておらず、債務者である控訴人のため弁済の利益が同じものと観られるので、民法四八九条三号を類推適用し、弁済期の先に到来した順に各利息、遅延損害金、次いで各元金に相殺充当するのが相当である(以下同じ。)。その相殺の結果、被控訴人の相殺債権二七四五万円と、被控訴人の相殺債務である。

(a) アの預金遅延損害金一一万九二三三円、イの預金利息一六二二万二一九一円、計一六三四万一四二四円、

(b) 元金として、アの預金分一四一万五五六二円、イの預金分九六九万三〇一四円、計一一一〇万八五七六円、

(c) 右(a)、(b)の合計二七四五万円とが相殺され、

ホ 相殺充当後はアの預金の元金及び遅延損害金、イの預金の利息の全部が消滅し、イの預金の利息と元金の内九六九万三〇一四円が消滅し、残元金は九〇三〇万六九八六円となる。

(4)  第三回相殺(昭和五三年一月三一日)

イ 被控訴人の相殺債権の内、(1)、(4)の貸付の各弁済期は前記のとおりであり、ニ、ホの各敷金等の弁済期は、その各賃貸借の明渡時期についてみると、前記争いのない事実、認定事実、前記甲第一一号証を総合すると、昭和五三年一月三一日であることが認められ、いずれも昭和五三年一月三一日であり、他方、被控訴人の相殺債務であるイの預金の弁済期は前記のとおりであり、これらの被控訴人の相殺債権、債務は昭和五三年一月三一日に相殺適状となった。

ロ 被控訴人の相殺債権は、

(a) (1)の貸付一億円に対する第二回相殺後の昭和五二年一一月一日から相殺適状日の昭和五三年一月三一日まで九二日間の約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金四六〇万円、

(b) (4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円に対する右(a)と同一期間、同一利率による遅延損害金五二〇万三五六六円、

(c) ニの敷金等元金三五万円、ホの敷金等二五万円、その遅延損害金は相殺適状時の相殺のためその時点では発生しない。

(d) 右(a)ないし(c)の合計一〇四〇万三五六六円となる。

ハ 被控訴人の相殺債務は、イの預金残元金九〇三〇万六九八六円及びこれに対する第二回相殺後の昭和五二年一一月一日から相殺適状日の昭和五三年一月三一日まで九二日間の約定年八・一パーセントの割合による遅延損害金一八四万三七四七円、合計九二一五万〇七三三円である。

ニ 相殺の結果、被控訴人の相殺債権一〇四〇万三五六六円と、被控訴人の相殺債務の内、遅延損害金一八四万三七四七円、元金八五五万九八一九円、合計一〇四〇万三五六六円とが相殺されて消滅し、相殺充当後のイの預金残元金は八一七四万七一六七円となる。

(5)  第四回相殺(昭和五三年三月三一日)

イ 被控訴人の相殺債権の内、(1)、(4)の貸付、ニ、ホの敷金等の各弁済期は前記のとおりであり、ヘ、ト、チの敷金等の弁済期は昭和五三年三月三一日(この点は前記(4)イ記載の証拠から認められる。)であり、被控訴人の相殺債務イの預金の弁済期は前記のとおりであるから、その相殺適状は昭和五三年三月三一日である。

ロ 被控訴人の相殺債権は、

(a) (1)の貸付一億円に対する第三回相殺後の昭和五三年二月一日から相殺適状日の同年三月三一日まで五九日間の約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金二九五万円、

(b) (4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円に対する同一期間、同一利率による遅延損害金三三三万七〇六九円、

(c) 右相殺適状時のニ、ホの敷金等計六〇万円及びこれに対する第三回相殺後の昭和五三年二月一日から相殺適状日の同年三月三一日まで五九日間の民事法定利率年五分の割合による遅延損害金四八四九円、計六〇万四八四九円、

(d) チの敷金等の基本となった賃貸借の際交付した敷金等から一年間だけ賃借した場合に二〇パーセントを控除して返還すべき旨の控訴人主張(再々抗弁一)はこれを認めることのできる的確な証拠がない。従って、ヘ、ト、チの各敷金等元金計八〇〇万円(ヘが三〇〇万円、トが五〇万円、チが四五〇万円。しかし、その遅延損害金は相殺適状による相殺のためその時点では発生しない。)、

(e) 右(a)ないし(d)の合計一四八九万一九一八円である。

ハ 被控訴人の相殺債務は、イの預金残元金八一七四万七一六七円及びこれに対する第三回相殺後の昭和五三年二月一日から相殺適状日の同年三月三一日まで五九日間の約定年八・一パーセントの割合による遅延損害金一〇七万〇三二八円、合計八二八一万七四九五円である。

ニ その相殺の結果、被控訴人の相殺債権一四八九万一九一八円と、被控訴人の相殺債務の内、イの預金の遅延損害金一〇七万〇三二八円、元金一三八二万一五九〇円、合計一四八九万一九一八円とが相殺されて消滅し、相殺充当後のイの預金元金は六七九二万五五七七円となる。

(6)  被控訴人の相殺債権と主張するものの内、ウの預金は、被控訴人が昭和五五年五月一九日にした相殺の意思表示でもその満期日をそれより後の同年六月二八日としており(甲第一一号証)、右相殺の意思表示の時点では弁済期が到来していないから、相殺の対象債権となるのではなく、この債権については、その余の判断をするまでもなく被控訴人主張は理由がない。

(7)  (4)の貸付については、右相殺後の昭和五三年四月一日から被控訴人が相殺の意思表示をした昭和五五年五月一九日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金が発生する。しかし、その意思表示にいう相殺の意思表示をした時までの遅延損害金による相殺の主張は約定七条に基づく形式の内相殺適状時まで遡及する民法の原則に従わない方法によるものと観られ、前記(1)と同様の理由でその主張は理由がない。また、右相殺の意思表示が民法の規定によるものとした場合、被控訴人の相殺の意思表示に含まれる七件の相殺債権の内右第四回相殺後相殺の意思表示までの間に元金につき弁済期の到来する債権がなく、三件の相殺債務の内その間に元金につき弁済期の到来するものがないので、相殺につき基準とすべき相殺適状が考えられない。もっとも、一歩譲って、遅延損害金の相殺適状時があると考えても、そのような毎日到来する弁済期毎の相殺適状の相殺計算まで含むとすることは、前記一団の債権、債務間の相殺の理念に反し、本件の場合実際上そのように煩瑣な相殺の意思表示まで含むと解することは相当ではない。それを後日一括して計算の上その意思表示をしたものと解すると、一般にはその間に元金まで相殺されるような場合もないわけではなく、更に、本件では、前記認定のように、(1)、(4)の貸付については、遅延損害金が相殺の結果零となったのに受働債務による自働債権元金に対する相殺を拒否して自働債権の元金だけが残った後、本来は右受働債務の対当額で相殺されその限度で元金が消滅し遅延損害金が生じない筈のところ、(1)、(4)の貸付の元金(しかもなおその元金を相殺の自働債権としない。)によるその後新たに発生した遅延損害金が受働債務と見合う額になるまで相殺時期を延期して相殺の意思表示をした(この点は前記甲第一一号証、弁論の全趣旨により認められる。)という特殊の事情がある場合には、事後の一括計算による遅延損害金の相殺の意思表示を含むと解することは、相殺における公平に反するので、相当ではない。従って、その間には被控訴人のした本件の意思表示により相殺できるような、相殺適状となるべき自働債権、受働債務はない。従って、又、右期間の(4)の貸付に対する遅延損害金は相殺されずに残存し本訴請求ができるものであるが、被控訴人はその部分につき請求をせず、その起算日を昭和五五年五月二〇日としておりその内金請求と解される。

(8)  被控訴人の相殺の主張は右説示の限度で理由があり、その余は理由がない。

3. 控訴人が被控訴人に対してした前記1の相殺に戻って、その効力を検討する。

(一)  控訴人が昭和五五年一〇月二二日原審における準備書面の送達により被控訴人に対し相殺の意思表示をしたことは記録上明らかであり、その相殺は約定七条に基づく相殺予約、相殺契約にも当たらないことは前記被控訴人の相殺についての認定、説示のとおりであり、結局、民法による意思表示と解される。そして、この意思表示にも、相殺適状時が二回あるので、被控訴人のした前記相殺の場合と同様に二回にわたって相殺計算をする。

(二)  第一回相殺(昭和五二年一〇月三一日)

(1)  控訴人から被控訴人に対する相殺の自働債権であるイの預金一億円の弁済期が前記のとおり昭和五二年一〇月三一日、その受働債務である(1)の貸付の弁済期が昭和五一年四月三〇日、(2)、(3)、(4)、(5)の貸付の弁済期がいずれも昭和五二年一〇月三一日であるから、その債権債務は昭和五二年一〇月三一日に相殺適状となった。

(2)  自働債権は、イの預金のみであるが、イの預金は前記第四回相殺までに既にその利息、遅延損害金はもとより元金の一部も相殺され消滅してしまっているから、前記第四回相殺後の残元金六七九二万五五七七円がその相殺債権の対象となるだけである。

(3)  受働債務は、

(a) (1)の貸付元金一億円、

(b) (2)の貸付元金六九五万円、

(c) (3)の貸付元金一一三〇万円、

(d) (4)の貸付元金一億一三一二万一〇〇〇円、

(e) (5)の貸付元金五二六万〇二二二円、

(f) 以上(a)ないし(e)の合計二億三六六三万一二二二円である。

(4)  相殺の結果、自働債権イの預金元金六七九二万五五七七円と、受働債務中弁済期の先に到来した(1)の貸付元金の内六七九二万五五七七円とが相殺され、(1)の貸付残元金は三二〇七万四四二三円となり、(2)ないし(5)の各貸付元金は全く相殺されずに残存する。

(二)  第二回相殺(昭和五五年六月二八日)

(1)  控訴人の自働債権であるウの預金の弁済期は前記のとおり昭和五五年六月二八日であり、受働債務の(1)ないし(5)の貸付の弁済期は前記のとおりであるから、相殺適状時は昭和五五年六月二八日である。

(2)  自働債権は、ウの預金元金七四万七〇八七円及びこれに対する預金日の昭和五二年六月二八日から満期日の昭和五五年六月二八日まで一〇九六日間の約定年五・三五パーセントの割合による利息一二万〇〇一七円、計八六万七一〇四円である。

(3)  受働債務は、

イ (1)の貸付残元金三二〇七万四四二三円及びこれに対する前記第四回相殺後の昭和五三年四月一日から相殺適状時の昭和五五年六月二八日まで八一九日間の約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金一三一三万四四七六円(この内、被控訴人が遅延損害金請求をする起算日の前日の昭和五四年一一月二八日まで六〇七日間の分は九七三万四五八七円)、計四五二〇万八八九九円、

ロ (2)の貸付は、元金六九五万円及びこれに対する弁済期の翌日の昭和五二年一一月一日から相殺適状の昭和五五年六月二八日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金(この部分まで相殺が及ばないのでその額を計算しない。以下同じ。)

ハ 前記(3)の貸付一一三〇万円及びこれに対する弁済期後の昭和五二年一一月一日から相殺適状時の昭和五五年六月二八日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金

ニ (4)の貸付元金一億一三一二万一〇〇〇円及びこれに対する前記第四回相殺後の昭和五三年四月一日から相殺適状時の昭和五五年六月二八日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金

ホ 前記(5)の貸付元金五二六万〇二二二円及びこれに対する弁済期後の昭和五二年一一月一日から相殺適状時の昭和五五年六月二八日まで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金

(4)  その相殺の結果は、自働債権八六万七一〇四円と、(1)の貸付遅延損害金の内八六万七一〇四円とが相殺され、その残額は(1)の貸付残元金三二〇七万四四二三円、残遅延損害金一二二六万七三七二円(この内、請求の前日までの残額は八八六万七四八三円)、(2)ないし(5)の各元金及び前記各遅延損害金となる。

(5)  控訴人が昭和五五年一〇月二二日被控訴人に対してした相殺は、右の限度で効力を生じ理由があり、その余は理由がない。

六、弁済(控訴人の抗弁五)について

1. 任意競売による一億円の配当(控訴人の抗弁五の(一))について

高松地方裁判所が昭和五八年二月二二日同庁昭和五六年ケ第一四四号不動産競売事件で、被控訴人が一億円の配当を受けたことは当事者間に争いがないが、右配当金が(1)の貸付に対するものである旨の控訴人主張事実を認めることのできる的確な証拠がなく、かえって、各原本の存在と成立に争いのない甲第三六号証の一、二、弁論の全趣旨を総合すると、被控訴人が昭和四九年七月一一日四国栄宝株式会社(この会社も、被控訴人及び控訴人の各代表者を兼任していた星野が代表者を兼ねていた。)に手形貸付をした五〇〇〇万円につき、控訴人が同年同月同日被控訴人に対しそれを保証しており、その後暫くして前記一2(三)認定のように控訴人所有のビル及び敷地につき極度額一億円として根抵当権を設定し、高松法務局昭和五一年一月二七日受付第二七四六号(甲第三六号証の三にはその記載がある。)で登記していた被担保債務であり、その配当であることが認められる。右認定事実、前記一2(三)の認定事実によると、右配当の対象になった四国栄宝の債務五〇〇〇万円の保証債務は、根抵当権の債務者として登記してある控訴人が被控訴人に対し負担した主たる債務ではなく、保証人にすぎないが、それを弁済することにより控訴人が四国栄宝に対し求償権を取得する関係にあるので、登記上の根抵当権の債権の範囲である「信用組合取引」に当たるものと解するのが相当である。従って、その弁済は、四国栄宝が被控訴人に対し負担する手形貸付五〇〇〇万円及びこれに対する遅延損害金債権の弁済にすぎず、(1)の貸付に対する弁済ではないから、控訴人の右抗弁は理由がない。

2. 高松地方裁判所は同庁昭和五五年ケ第一五五号、昭和五七年ヌ第三二号、第三九号併合事件で、被控訴人に対し、(1)の貸付に対し、四四八四万六六六七円、(4)の貸付に対し、四二五〇万四九四六円を配当したことは当事者間に争いがない。しかし、各原本の存在と成立に争いのない甲第三七号証の一ないし四、弁論の全趣旨によると、右配当は仮執行宣言付原判決に基づく仮執行であるから、本執行に移行するまでの暫定的な効果を有するだけで、判決主文には影響がなく、右の点に関する控訴人の主張(抗弁五の(二))は理由がない。

3. 控訴人が被控訴人に対し負担していた(4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円の昭和五六年八月一七日から昭和五八年一〇月一四日までの遅延損害金として四四五八万一三〇〇円を(他の債務とともに)、利害関係人播州商事が被控訴人に対し、代位弁済の上供託し、被控訴人が昭和五九年一二月一一日これを受領したことは当事者間に争いがなく、この点の控訴人主張(抗弁五の(三))は理由がある。

4. 被控訴人が日時不詳のころ池田に対する事件不詳の競売事件で本件貸付(1)又は(4)の貸付につき二五七五万円の配当を受けた旨の控訴人主張(抗弁五の(四))の事実はこれを認めることのできる証拠がなく、かえって、前記甲第三七号証の四、弁論の全趣旨によると、高松地方裁判所が前記2の仮執行は池田千代美に対する仮差押(同庁昭和五三年ヨ第一一四号仮差押事件)による二五七五万円(それが池田に対する仮差押の結果差し押さえられたことは、原審における昭和六一年二月二八日付被控訴人準備書面別表(1)の記載による。)が仮執行への移行の結果、(1)、(4)の貸付の遅延損害金配当金計算の中に含まれている(甲第三七号証の四には、(1)、(4)の貸付の両者に関して、「昭五三(ワ)三三四(五三ヨ一一四仮差)」と記載されている。)ことが認められるので、前記2と同一の理由で、右控訴人主張は理由がない。

七、不当利得返還請求権を相殺債権とする相殺(控訴人の抗弁六)について

1. 前記配当一億円が極度額一億円、債務者控訴人とする根抵当権の債権の範囲に当たらない配当であるから、被控訴人は法律上の原因がなくこれを利得し、控訴人に右額の損害を生じさせたので、控訴人が被控訴人に対しその一億円の不当利得返還請求権があるとの控訴人主張(控訴人の抗弁六の(一))は、理由がないこと前記六1説示と同一である。

2. 前記配当二五七五万円の不当利得の主張(控訴人の抗弁六の(二))が理由がないこと前記六4と同一である。

3. 従って、控訴人が被控訴人に対し、その主張の自働債権を有していないので、それによる相殺の主張は理由がない。

八、本訴請求が公序良俗に反し許されない旨の控訴人主張(控訴人の抗弁七)は、前記認定の事実、各説示によると、理由がない。

九、以上のとおりであるから、控訴人は被控訴人に対し、

(一)  (1)の貸付残元金三二〇七万四四二三円、請求前日までの遅延損害金残額八八六万七四八三円(それ以外の遅延損害金残額は、本訴請求の昭和五四年一一月二九日から第二回相殺日の昭和五五年六月二八日までの遅延損害金に再計算したので、右額にはこれを含まない。)、計四〇九四万一九〇六円及び内三二〇七万四四二三円に対する弁済期後の内昭和五四年一一月二九日から支払済に至るまで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金、

(二)  (2)の貸付元金六九五万円及びこれに対する弁済期後の内昭和五二年一一月一日から支払済に至るまで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金、

(三)  (3)の貸付元金一一三〇万円及びこれに対する弁済期後の昭和五二年一一月一日から支払済に至るまで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金、

(四)  (4)の貸付一億一三一二万一〇〇〇円及びこれに対する被控訴人の第四回相殺後の内昭和五五年五月二〇日から前記六3の弁済供託金受領の前日の昭和五六年八月一六日まで、同弁済供託金により遅延損害金弁済後の昭和五八年一〇月一五日から支払済に至るまで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金、

(五)  (5)の貸付元金五二六万〇二二二円及びこれに対する弁済期後の昭和五二年一一月一日から支払済に至るまで約定年一八・二五パーセントの割合による遅延損害金の各支払義務を負う。

被控訴人の本訴請求は、右の限度で理由があるので認容しその余は理由がないので棄却すべきところ、これと異なる原判決は相当ではないので、これを右説示のとおり変更し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法九六条、八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条の規定に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 髙木積夫 裁判官 山口茂一 高橋文仲)

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