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高松高等裁判所 平成23年(う)112号 判決 2011年11月15日

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中50日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は,弁護人小早川龍司作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書各記載のとおりであるから,これらを引用する(ただし,弁護人は,控訴趣意書中事実誤認の主張に関しては,併せて訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤りを主張する趣旨である旨釈明した。)。

第1訴訟手続の法令違反の論旨について

論旨は,原判示第1の事実につき,B(以下「B」という。)の検察官調書謄本(原審検察官請求甲30号証,以下「本件検察官調書」という。)は刑事訴訟法321条1項2号後段にいう特信性がないから,これを証拠採用し,事実認定に供した原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反があるというのである。

所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,原審の訴訟手続には,所論が主張するような訴訟手続の法令違反はない。

すなわち,本件検察官調書の内容の要旨は,おおむね原判決が「事実認定の補足説明」4(2)に記載するとおりであり,原判示第1の建造物侵入,窃盗の事実について被告人の関与を認めるものであるところ,Bは,原審公判において,原判示第1の事実についての被告人の関与について尋問され,分からない,事実を覚えていない等の供述を繰り返し,自己の犯行への関与自体,「余りよく覚えていません」と供述し,さらには,検察官の取調べにおいて供述した内容についても覚えていない旨供述している。

しかしながら,関係証拠上,少なくともBとA(以下「A」という。)が原判示第1の建造物侵入,窃盗を実行したものであることは明らかであるところ,犯行から7か月も経たないにもかかわらず,自己の関与すら覚えていないなどと不自然かつ曖昧な供述に終始する上記のBの原審公判供述の内容等からみて,そもそもBには原審公判で真実を供述する意図が無かったものと考えざるを得ない。そして,その原因を考えるに,Aの原審公判供述や本件検察官調書から推認されるA,B及び被告人の関係から見て,Bは被告人を怖がっていることが認められ,証人尋問の際に遮へいの措置があったことを前提にしても,被告人が在廷する原審公判では証言しづらかったためと考えられる。

他方において,検察官の取調べにおいては,公判廷に比し,上記のような問題はなく,また,検察官の取調状況に問題があった様子はうかがわれない(Bは,原審公判において,事実を認めた方が心証が良くなるから警察官から言われるとおり答え,検察官に対する調書もそれに合わせて供述した旨供述するが,自己のみならず被告人を巻き込む内容の虚偽の供述を捜査機関に対してする動機として説明が十分であるとはいえず,同供述は信用することができない。)。

したがって,本件検察官調書には,原審公判供述よりも信用すべき特別の状況があり,証拠能力が認められるから,その旨判示して本件検察官調書を取調べ,これを事実認定に供した原審訴訟手続に所論指摘の訴訟手続の法令違反は認められない。

論旨は理由がない。

第2原判示第1の事実に関する事実誤認の論旨について

論旨は,原判示第1の建造物侵入,窃盗の事実につき,被告人は,A及びBと窃盗及び建造物侵入を共謀した事実はないから,原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。

所論にかんがみ,記録を調査して検討するに,被告人について建造物侵入及び窃盗の共同正犯の事実を肯認した原判決には所論が主張するような事実の誤認はない。

すなわち,本件で窃盗の実行役であるAは,原審公判において,「平成22年5月20日に被告人とBと話していたとき,被害店舗のショーケースをバールで壊して貴金属を盗むという話になった。被告人は,盗んだ物品についてはどこかに売却すると述べていた。その後,被告人の指示で,服を着替え,犯行に使う原付を取りに行く等,犯行のための準備をした。自分とBで被害店舗に行ったが,被告人は,「終わったら連絡してきて。」と言って一緒には行かなかった。結局その日は被害店舗に入ることができなかったことから,そのことを被告人に報告しようとしたが,被告人へは直接電話をかけないよう指示されていたため,知人を通して被告人に連絡し,翌日に再び盗みをするという話になった。翌日,被告人から電話がかかり,「行こうや」と言われたので,Bに電話で連絡し,被告人の車でBの家に行き,合流した。その後,自分とBは,原付に乗って被害店舗に行ったが,被告人は一緒に行かなかった。その後,Bと一緒に本件窃盗に及び,貴金属を盗んで逃走し,事前に言われていたとおり知人を通して被告人に連絡した。被告人は,余り満足せず,「これだけなん」と言った。その後,被告人の提案で盗みに使用した服やバール等を捨てることになり,これらを投棄した。被告人には,盗品の内ブレスレットとネックレスを渡した。」旨供述するところ(以下「A供述」という。),同供述内容は具体的かつ迫真性があり,不自然,不合理な点がない点,電話受発信記録等と矛盾が無く,上記のBの本件検察官調書など他の証拠と合致している点,反対尋問にも特に動揺しておらず,捜査段階の供述から重要部分について大幅に変遷していないと思われる点,さらには,A,B及び被告人の関係から見て,BのみならずAも被告人を怖がっていることがうかがわれるところ,既に本件で有罪判決を受け,これが確定しているAが,報復を受ける危険を冒してまで被告人に罪をかぶせる動機に乏しい点などから,十分に信用でき,これによれば,原判示第1の建造物侵入及び窃盗について,被告人が,犯行の実行犯であるA及びBと窃盗等について共謀した事実を認定することができる。

所論は,上記のA供述の信用性を弾劾し,①A供述はその捜査段階の供述と合致しない,②KやN(以下「N」という。)の供述と矛盾する,③Bの原審公判供述と捜査段階の供述は合致しておらず,Bの本件検察官調書は信用できない,④そもそも被告人は金銭的に窮乏しておらず,窃盗の動機がない等と主張する。しかしながら,①について,変遷の中身とされている各事項は,いずれも重要とは思われない部分に関する供述の有無及び若干の変遷であり,Aと捜査官の間の若干の理解違いや,Aの記憶の変遷等に起因するものと説明できるものであって,A供述の信用性に大きく影響を及ぼすようなものではない。また,②について,まずKの原審公判供述についてみると,確かに原審弁護人による主尋問の段階においては,被告人をリーダーとする20人位のグループは存在しないと断言して供述しているが,結局,反対尋問においては,20人の限られたグループではなく,来る人も来ない人もいて限定されたグループではなかった旨供述が後退しており,少なくとも被告人を中心とするグループがあったことを否定していない(なお,Kはグループの一員ではなかったことは明らかであり,被告人がグループの後輩に暴力を振るっていたか否かに関する供述については,そもそも信用性に乏しい。)。それ以外にも,Kの原審公判供述は,主尋問と反対尋問で若干のくいちがいがあり,また,Aとの手紙のやり取りについて不自然な供述をし,さらに,関係各証拠からうかがわれる被告人とKの関係からして,被告人をかばっているものと認められる。

また,Kの上記原審公判供述や,Bの本件検察官調書を併せて考慮すると,被告人を中心とするグループはその構成員の多寡はともかくとして確実に存在するものである。しかるに,その供述によっても被告人らと行動を共にすることが多く,A供述によればその一員であったと思われるNは,原審公判において,グループの存在について聞かれ,「聞いていません」とこれを否定する供述をしているなど,被告人をかばう姿勢が明らかである。したがって,Kの原審公判供述や,N供述は,そもそも信用性に乏しい。③については上記のとおりBは原審公判では被告人を恐れて大部分の供述について実質的に拒絶する姿勢を示しており,検察官に対する供述の方に信用性の情況的保障があるところ,同供述の内容はA供述とほぼ一致し,その裏付けとしては十分信用できるものである。そして,④については弾劾理由として重大なものとはいえない。

したがって,所論指摘の事情は,いずれもA供述の信用性を覆すようなものではない。

これに対して,被告人は,A及びBとの窃盗の共謀について否定する供述をするものの,信用性の高いA供述と大きく食い違っている上,犯行前後の通話状況,被告人が被害品の一部を預かった経緯等についての説明が不自然,不合理であり,信用できない。

以上によれば,被告人がA,Bと窃盗及び建造物侵入の犯行について共謀していた事実を認めることができるから,原判決には所論が指摘するような事実の誤認はない。

論旨は理由がない。

第3原判示第2ないし第4の事実に関する事実誤認及び法令適用の誤りの論旨について。

1  論旨は,原判示第2,第3の各傷害の事実につき,そもそも被告人とA及びD(以下「D」という。)との間に事前共謀及び現場共謀ともになく,被告人の暴行と被害者であるE(以下「E」という。)及びG(以下「G」という。)の傷害との間に因果関係はないから,被告人には傷害罪の共同正犯(承継的共同正犯を含む)は成立しない,また,原判示第4の強盗の事実について,被告人にはEに金員を要求しておらず,また,その点に関してAがEに金員の要求をし,これを受け取ったことも知らなかったから,被告人には強盗罪は成立しないのに,これらの成立を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがあるというのである。

2  しかしながら,原判示第2ないし第4の事実関係については,被害者であるE及びGのみならず,それとは立場が異なるはずの共犯者A及びDのいずれもが,その基本となる事実関係について,原審公判廷においてほぼ合致する供述をし,互いに信用性を補強し合っており,信用性は極めて高い。同人らの供述中,矛盾する点に対する判断は原判決「事実認定の補足説明」第2の2(2)に記載するとおりであり,同人らの公判供述の信用性について所論が指摘するところは,その結論を左右するものではない(この点についての判断は,おおむね原判決が同第2の2(3)に記載するとおりである。)。また,これに反する被告人供述は,その内容も不自然不合理な点が多く,信用することができない。さらに,これを裏付けるものと所論が主張するNの公判供述についてみると,上記のように,被告人に有利に供述する姿勢が明らかであって,信用性に乏しいことは明らかである。

3  そして,上記4名の供述及び関係各証拠を総合すると,原判決が「事実認定の補足説明」第2の2(1)に説示するとおりの事実が認められる。

すなわち,

①  Aは,GがAに15万円払うと言っていたのに連絡が取れなくなっていることについてGに立腹し,また,L(以下「L」という。)も,Gに対して貸したバッグが返却されないこと等に立腹していた。

②  また,平成22年5月21日から同月22日にかけて,被告人がGにその友人を呼んでくるように指示したにもかかわらず,それに従わずに友人宅に行ったまま帰らなかったことで,被告人は,Gに対し,逃げたとして立腹していた。

③  同日夕方,Gは,被告人から,傘や素手で殴るなどの暴行を受け,「2万円を段取れ」「次は飛ぶなよ」などと言われ,Aからも15万円を支払うよう指示された。それ以降,G及びその仲間のEは,外出を控えるようになった。

④  同月25日,A,D及びLは,被告人に呼び出されて集合し,被告人と別れた後も,A及びLは上記の理由で,DはGが②のとおり逃げたことで,それぞれGに立腹していたことから,Lの妹らを通してGをbショップ伊予店に誘い出し,同月26日午前3時ころ,G及び行動を共にしていたEがbショップに到着したところを,待ち伏せしたA,Dにおいて追い掛け,その場でDにおいて,Eを捕まえ,隣接駐車場で複数回にわたって手拳で顔面を殴打し,顔面や腹部を膝蹴りし,足をのぼり旗の支柱で殴打するなどの暴行を加え,Aも,複数回にわたり,手拳やのぼり旗で殴打し,蹴るなどした。その後,A,L及びDにおいて,Eを車のトランクに押し込んだ。その際,Aは,Eの背中をドライバーで数回突いた。

⑤  その後,Dは,付近に隠れていたGを発見し,その髪をつかんで下に引っ張るなどの暴行を加え,Aも,Gに対し,複数回にわたって殴ったり蹴ったりし,さらに,背中をドライバーで突いたり,右手の親指辺りを石で殴打した。

⑥  その後,Aらは,その場で暴行を続けると人目に付くことから,Gを車に乗せ,仲間内で「○○」と呼んでいる本件現場に向かって車を進行させた。その際,Dは,被告人もGを捜していたのを知っていたことから,午前3時50分ころ,これからGを連れて○○に行く旨伝えた。

⑦  ○○において,A及びDは,それぞれ,Eに対し,殴ったり蹴ったり,ドライバーの柄の部分で頭を殴打したり,金属製のはしごや角材を投げつけたりした。また,Aは,Gに対しても,殴ったり蹴ったりし,Gの髪をつかんでEの所に連れて行き,はしごを投げつけたり,殴るなどした。これらの一連の暴行により,E及びGは,被告人到着前から流血し,負傷していた。

⑧  午前4時過ぎころ,被告人が到着し,Eに対して,怒った様子で「殺すぞ。何で逃げたんぞ。」などと言って接近し,はしごを何度も投げつけ,頭や腹を蹴り,角材で背中や腹,足などを殴打し,さらに,Gに近づいて「絶対殺す」と言って,はしご,角材及び手拳で,頭,肩,背中などを多数回殴打し,さらに,Aに命じてGの足を,Dに命じてEの足を押さえさせ,はしごで殴打してその足の骨を折ろうとしたりした。また,被告人到着後も,D及びAは,Eに対し殴る蹴るの暴行を繰り返し,Gに対しても,被告人の暴行後に,Aが角材でGの方をたたくなどした。

⑨  被告人らの暴行は午前5時ころまで続き,E及びGは,被告人に殺されてしまうとの恐怖を感じた。

⑩  暴行終了後,被告人は,Gに対し,「2万円を今日中に段取れ」などと申し向け,これに応じてGが知人に連絡したものの,Eが既に借りているとの理由で金を借りることはできず,そのことをGが被告人に伝えたところ,被告人は,Eに対し,「俺がもらう金やったんやが。」「お前も一緒に段取れ。」などと言った。

⑪  Aは,Eに対し,今どれくらい金があるか聞き,Eのポケットを触った。Eは,隠しきれないと思い,現金約4800円の入っている財布をAに差し出した。

⑫  Aは,その財布を被告人に渡そうとしたが,その際,小銭があることを被告人に伝えると,被告人から両替を要求された。そこで,Aは,自分の持っていた5000円札を被告人に渡し,財布の中に入っていた約4800円を自分のものにした。Aは,E及びGに対し,被告人があと1万5000円を用意するように言っていると伝え,被告人も,自ら1万5000円を要求した。

⑬  上記一連の傷害により,Eは,受傷後約3週間の安静加療を要する見込みの頭部外傷擦過打撲,顔面両耳鼻部打撲擦過,両上肢・背部右肋骨・右肩甲部打撲擦過等と診断され,Gは,約6週間の安静加療を要する見込みの右母指基節骨骨折,全身打撲,頭部切挫創,両膝挫創と診断された。

4  そして,同事実関係を前提に検討する。

(1)  前記認定によれば,被告人が,Dから呼び出されて○○に到着して以降のA,D及び被告人自身の暴行及びその結果としての傷害(ただし,その詳細内容は不明である。)について,被告人が共同正犯の責任を負うことは明らかである。

また,被告人は,Eが被告人らの暴行により反抗抑圧状態になり,被告人を畏怖しているのを認識し,その畏怖状態を利用して,金員を奪い取ろうと考え,Eに対し,「俺がもらう金やったんやが。」「お前も一緒に段取れ。」などと言い,その後,被告人の意を酌んで黙示的に共謀を遂げたAを通して,Eから4800円を奪取したものと認められるから,被告人が原判示第4の強盗の共同正犯の責任を免れない。

(2)  次いで,被告人が加担する以前の○○でのA,Dの暴行(上記⑦)及びbショップ付近でのA,Dの暴行(上記④,⑤)並びにこれらによる傷害結果について責任を負うか,いわゆる承継的共同正犯の成否が問題になる。そして,この点については,後行者において,先行者の行為及びこれによって生じた結果を認識,認容するにとどまらず,自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに,実体法上の一罪を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような手段として利用した場合に限り,共謀成立以前の先行者の行為についても責任を負うものと解される。

そして,原判決の「事実認定の補足説明」第2の3(2)記載のとおり,原判示第2及び第3の傷害は,bショップ付近での暴行から○○での暴行に至るまで,単一の犯意に基づく強い一体性を有するもので,被害者毎に一罪を構成するものであること,被告人は,Dから連絡を受けた時点で,Gらの身柄を確保していることを知ったが,AらがGらを○○に連行するまでの間に,その身柄を確保し,さらに逃走や抵抗を封じるために,ある程度の暴行を加え,今後も加える可能性があることを認識していたものと考えられること,他方,A,Dらは被告人がGを捜していたことを知っており,DがGらの身柄を確保した旨を被告人に連絡した趣旨は,被告人が制裁目的でG及びGと同行していたEに暴行を加えることを予期し,自己の制裁意図を実現すると共に,まさに被告人の制裁目的に供するために,Gらを被告人に差し出すことにあったと考えられること,被告人が○○に到着した際には,GやEが流血していたことを認識していたものと認められ,既にAやDから相当程度の暴行を受け,逃走や抵抗が困難であることを認識したうえで,さらに,制裁目的で上記のとおりGやEに対して相当激しい暴行を加え,これにより両名の傷害が重篤化したと思われることなどの事実関係に照らせば,被告人において,A,Dの行為及びこれによって生じた結果を認識,認容し,さらにこれを制裁目的による暴行という自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに,一罪関係にある傷害に途中から共謀加担し,上記行為等を現にそのような制裁の手段として利用したものであるから,被告人は,被告人が加担する以前のAやDによる傷害を含めた全体について,承継的共同正犯として責任を負うものと解される。

(3)  そうすると,被告人について,原判示第2,第3について,明らかに被告人が加担する以前の傷害についても,被告人に傷害罪の承継的共同正犯の成立を認め,また,原判示第4について強盗罪の成立を認めた原判決に,所論指摘の事実の誤認及び法令適用の誤りはない。

5  以上によれば,論旨は理由がない。

第4量刑不当の論旨について

論旨は,被告人を懲役6年に処した原判決の量刑は重過ぎて不当であるというのである。

所論にかんがみ,記録を調査し,当審における事実取調べの結果をも併せ検討する。

本件は,被告人が共犯者と共謀の上,質屋に侵入して貴金属を窃取した建造物侵入・窃盗,共犯者との共謀による2件の傷害及び1件の強盗の事案であり,原判決の量刑及び原判決が「量刑の理由」の項で説示するところは相当として是認することができる。

すなわち,窃盗事案についてみるに,換金目的の犯行で動機に酌むべき点はなく,また,犯行態様は,質店に侵入し,店員の目の前で,予め準備していたバールでショーケースをたたき割って貴金属を盗み出すという極めて大胆かつ粗暴なものである。被害額も時価合計16万5000円相当と決して少額とはいえない。また,被告人は,犯行行為には及んでいないものの,共犯者らに犯行を指示し,犯行道具を用意するなど,重要な役割を果たしている。

また,傷害事案についてみるに,被告人は,共犯者から,かねてから探していたGらをとらえた旨連絡を受けて合流し,被害者両名に,制裁目的で,長時間にわたって極めて執拗に,強烈な暴行を繰り返したものであり,その態様は危険で悪質である。被害者らは,被告人による暴行以前に共犯者から相当程度暴行を受けていたとはいえ,最終的にそれぞれ約3週間及び約6週間の加療を要する受傷を負っており,その苦痛は甚大で,被害は大きい。上記のとおり被告人が加担したのは共犯者による暴行により被害者らが流血した後であるが,その後の被告人の暴行の程度を見る限りにおいて,被害結果に及ぼした影響が低いとはいえず,責任が共犯者より軽いと言うことはできない。

次いで,強盗事案についても,被害者が上記の強烈な暴行により畏怖しているのに乗じて4800円を強取したというもので,悪質な犯行である。

さらに,被告人は,本件各犯行について理不尽な弁解を繰り返したものであり,その反省の念は乏しい。しかも,前刑の保護観察付き執行猶予期間中に本件各犯行に及んでおり,その規範意識は鈍麻していると言わざるを得ない。

以上によれば,被告人の刑事責任を軽視することはできない。

そうすると,原判示第1の窃盗について,被害品の還付による,被害回復の目途がついていていること,傷害の被害者らに対して10万円ずつ支払って被害弁償する意欲があることなど,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。

論旨は理由がない。

よって,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし,当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を適用して,主文のとおり判決する。

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