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高松高等裁判所 平成23年(ネ)153号 判決 2012年1月20日

控訴人(1審原告)

破産者末広産業株式会社破産管財人X

被控訴人(1審被告)

ニューヨークメロン信託銀行株式会社訴訟承継人株式会社スター・キャピタル

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

堤禎

塩瀬篤範

被控訴人(1審被告)

エル・ビー・シー有限会社

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

松平久子

被控訴人(1審被告)

株式会社伊予銀行

代表者代表取締役

訴訟代理人弁護士

丸山征寿

主文

1  原判決を取り消す。

2  松山地方裁判所平成20年(ケ)第234号担保不動産競売事件につき、新たな配当表の調整のために、平成21年9月4日作成された配当表(原判決別紙「配当表」)の下記部分をそれぞれ取り消す。

(1)  ニューヨークメロン信託銀行株式会社(被控訴人株式会社スター・キャピタル被承継人)の項(A2)のうち、

ア  債権額については、

(ア) 物件26との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

(イ) 物件27との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

(ウ) 物件28との関係では、損害金については0円を、元金については259万4480円を、合計については259万4480円をそれぞれ超える部分

イ  配当実施額等については、6868万0857円を超える部分

ウ  別添「案分計算結果一覧表」においては物件28に関する配当額について259万4480円を超える部分

(2)  被控訴人エル・ビー・シー有限会社の項(A3)のうち、

ア  債権額については、

(ア) 物件26との関係では、損害金については0円を、元金については3492万円を、合計については3492万円をそれぞれ超える部分

(イ) 物件27との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

(ウ) 物件28との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

イ  配当実施額等については、3492万円を超える部分

ウ  別添「案分計算結果一覧表」においては物件26に関する配当額について3492万円を超える部分

(3)  被控訴人株式会社伊予銀行の項(A4)のうち、

ア  債権額については、

(ア) 物件26との関係では、損害金、元金、合計のそれぞれ全額

(イ) 物件27との関係では、損害金については0円を、元金については1031万5305円を、合計については1031万5305円をそれぞれ超える部分

イ  配当実施額等については、1031万5305円を超える部分

ウ  別添「案分計算結果一覧表」においては物件27に関する配当額について1031万5305円を超える部分

3  訴訟費用は、1、2審とも、被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

主文同旨

第2事案の概要

1  本件は、原判決別紙物件目録記載1ないし28の不動産(以下「本件各不動産」といい、そのうちの個別の不動産については、同目録の番号により「本件不動産1」などという。)を対象とする松山地方裁判所平成20年(ケ)第234号担保不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)での債務者兼所有者である破産者末広産業株式会社(以下「末広産業」という。)の破産管財人である控訴人が、「末広産業は、破産手続に先行した同社に対する民事再生手続における別除権者である株式会社大和銀行(以下「大和銀行」という。)、商工組合中央金庫(以下「商工中金」という。)及び被控訴人株式会社伊予銀行(以下「被控訴人伊予銀行」という。)の3名(以下「本件各別除権者」という。本件各別除権者は、本件各不動産に設定された各担保権(以下「本件各担保権」という。)の権利者らである。)との間で、それぞれ別除権協定(以下「本件各別除権協定」という。)を締結し、これにより、本件不動産26ないし28につき、各物件毎にその受戻価格が定められ、本件各担保権の被担保債権の額が受戻価格相当額に減額されたから、受戻価格相当額から既払分を控除した額を超える部分につき、債権者らの配当受領権は存在しない。」として、本件競売事件の債権者等である被控訴人らに対し、配当表の一部についての取消しを求めた事案である。

なお、被控訴人エル・ビー・シー有限会社(以下「被控訴人エル・ビー・シー」という。)は、本件各担保権のうち、商工中金を権利者とする担保権をその被担保債権とともに承継取得した者である。また、被控訴人株式会社スター・キャピタル(以下「被控訴人スター・キャピタル」という。)は、本件競売事件の債権者であるニューヨークメロン信託銀行株式会社(以下「ニューヨークメロン」という。)の訴訟承継人であり、ニューヨークメロンは、本件各担保権のうち、大和銀行を権利者とする担保権をその被担保債権とともに承継取得した者である。

原審は、本件各別除権協定の締結により、本件不動産26ないし28につき、再生債権である別除権の被担保債権のうち、別除権で担保される部分が当該物件毎の受戻価格相当額に減額されるとの実体法的効果が生じたことになるが、再生計画の履行完了前に再生債務者に対する破産手続開始決定がされた場合には、当該別除権協定は、当然に失効し、別除権協定による別除権(担保権)の被担保債権の減額という実体法的効果も失われたなどとして、本件請求を棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴し、前記第1のとおりの判決を求めた。

2  本件における前提事実、争点及び争点に対する当事者の主張は、次項のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」第2の2及び3のとおりであるから、これを引用する(略語については原判決のそれに従う。)。

3  原判決4頁25行目の「原告」を「末広産業」に改める。

原判決5頁1行目の「放棄された。)」の次に「の破産管財人である控訴人」を加える。

同頁10行目から11行目にかけての「ニューヨークメロンは」を「ニューヨークメロン(当時の商号は「モルガン信託銀行株式会社」)は、平成17年2月24日」に改める。

同頁12行目の「エル・ビー・シーは、」の次に「平成18年9月22日、」を加える。

原判決6頁10行目の「現在までに、」を削り、同行目の「弁済した」の後に「(受戻価格の残額259万4480円)」を加える。

同頁15行目の「現在までに、」を削り、同行目の「弁済した」の後に「(受戻価格の残額3492万円)」を加える。

同頁20行目の「現在までに、」を削り、同行目の「弁済した」の後に「(受戻価格の残額1031万5305円)」を加える。

原判決7頁4行目の次に改行して次のとおり加え、同頁5行目冒頭の「(6)」を「(8)」と改める。

「(6) 被控訴人エル・ビー・シーの申立てに基づき、平成20年10月2日、本件各不動産について担保不動産競売開始決定がなされた(本件競売事件。甲1)。

(7) 控訴人は、平成20年12月31日ころ、破産裁判所の許可を経て、本件各不動産のうち、本件不動産26ないし28を除く不動産について破産財団から放棄した(丙5。弁論の全趣旨)。」

原判決9頁15行目の「各解除事由(」の次に「民事再生手続開始申立事件(大阪地方裁判所平成14年(再)第16号)につき、再生計画認可決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可決定が確定すること、または再生手続廃止決定がなされること。」を加える。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(本件各担保権の被担保債権は、本件各別除権協定により減額されたか。)について

この点に対する認定判断は、原判決「事実及び理由」第3の1のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決12頁7行目の「弁済をし」の後に「、本件各別除権者らも異議なくこれを受領し」を、同頁10行目の「前示(1)の認定事実」の後に「及び引用に係る原判決「事実及び理由」第2の2の事実(補正後のもの)」を加える。

2  争点(2)(本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定により失効したか。)について

被控訴人らは、本件解除条件規定に記載された解除事由(本件解除事由)は例示にすぎず、破産手続開始決定により再生計画が失効した本件においても同規定は適用されるべきであるから、本件各別除権協定は解除条件の成就により失効した旨主張する。

しかし、本件解除事由は「再生計画認可決定の効力が生じないことが確定すること、再生計画不認可決定が確定すること、または再生手続廃止決定がなされること」というものであって、本件におけるような破産(準自己破産)申立てに基づく破産手続開始決定は、そのいずれも直接該当せず、本件各別除権協定の文面等に徴しても、本件解除事由をもって、被控訴人ら主張のような例示と解すべき明確な根拠も見出しがたい。また、前記引用にかかる原判決「事実及び理由」第3の1のとおり、本件各別除権協定によって、本件各別除権者の有する被担保債権のうち、別除権で担保される部分が実体法上確定したものと認めるべきことや、被控訴人らは、平成14年9月26日付け再生計画認可決定の確定後、末広産業に対する破産申立てのあった平成19年12月21日ころまでの間、別除権で担保される部分についての弁済のほか、別除権で担保されない部分についても、再生計画に基づく支払を受けてきていること等の事情に照らせば、その後、末広産業が破産開始決定を受けたことによって本件各別除権協定が失効し、いったん実体法上確定した別除権で担保される部分が変動するとすることは、民事再生法88条、182条に定める不足額確定主義や、本件各別除権協定によって担保されないものと確定した別除権不足額について被控訴人らが再生計画に基づく支払を受けてきていること等の事実とそぐわないというべきであって、これらの点からも、上記被控訴人らの主張は、にわかにこれを採用できないものといわざるを得ない。

また、被控訴人らは、民事再生法190条1項を援用し、本件各別除権協定は、別除権不足額を合意することにより、再生計画による部分を含むといえるから、本件各別除権協定は、本件破産手続開始決定によって失効し、本件各担保権の被担保債権の額は、別除権不足額相当部分を含めたものになるとも主張しているところ、その趣旨は必ずしも明らかでないが、要するに、本件各担保権の被担保債権のうち、本件各別除権協定により別除権で担保されないものとされ、再生手続上、再生債権として取り扱われた部分(別除権不足額に相当する債権)につき、同条項が適用されることにより、その金額等の点のみならず、別除権で担保されないものとされた点も「原状に復する」と解すべきであるという趣旨も解される。

しかし、民事再生法190条1項の適用によって「原状に復する」のは、再生債権のうち再生計画によって変更された部分であることは文理上明らかであるところ、本件において、別除権不足額に相当する債権のうち再生計画によって変更された部分は、価額等の点であって、別除権で担保されないものとされた点ではなく、この点については、末広産業と被控訴人らとの間の合意である本件各別除権協定によって、各別除権者の有する被担保債権のうち別除権によって担保される部分が実体法上確定されるとともに、その残余部分について別除権不足額と合意されたことに基づくものであるから、同条項の適用によって、この点まで復元するものでないことは明らかというべきである。

さらに、本件各別除権協定において、本件各担保権の被担保債権のうち、別除権で担保される部分(受戻価格)と、担保されない部分(別除権不足額。担保権の被担保債権から別除権協定で定められた受戻価格を控除した残額)とが、原判決指摘のような裏腹等の関係にあることは確かであるが、そうであるからといって、再生債務者についての破産開始決定等があった場合に、再生債権者であった破産債権者等と再生債権者ではなかった破産債権者等との間の公平を図るなどの観点から、当該再生手続上、再生債権として取り扱われた債権のうち、再生計画によって変更された部分を「原状に復する」ことを特に法定したものである民事再生法190条の趣旨を、同規定とは根拠や趣旨を異にする別除権協定に基づく変更についてまで当然に及ぼすべきものであるとか、再生計画の失効に伴って別除権協定も失効するものと解すべき十分な根拠も見出しがたく、以上いずれの観点からしても、本件各別除権協定が本件破産手続開始決定によって失効したとする被控訴人らの主張は採用しがたい。

3  争点(3)(本件各別除権協定の控訴人の一方的破棄による失効の有無等)について

被控訴人らは、本件各不動産のうち1ないし25を、控訴人が破産財団から放棄したことは、本件各別除権協定の一方的な破棄に当たり、本件各別除権協定の一体性等から、本件不動産26ないし28に係る別除権協定も失効したと解されるべきであるとか、仮にそうでないとしても、本件各不動産のうち、別除権協定が自己に不利に適用される範囲(本件不動産1ないし25)については義務(受戻価格の支払)を拒否しながら、自己に有利に適用される範囲(本件不動産26ないし28)については別除権協定の有効性を主張することは、公平の観点ないし信義則に反し許されない旨主張しているが、被控訴人らがその主張の前提とするものと解される本件各別除権協定の一体性等の点が認められるかについては疑問が残る上、本件各不動産のうち1ないし25が破産財団から放棄されたことから、直ちに残る26ないし28についての別除権協定も失効したと解すべき根拠も明らかでなく、また、もっぱら破産財団の形成に当たるべき控訴人の立場からすれば、本件不動産1ないし25について受戻価格の残額が売却代金額を上回り、仮に本件競売事件において別除権協定の存在を主張して配当額を争おうとしても、自らに配当されることがないことが見込まれる以上、上記各不動産につき破産財団から放棄することはやむを得ない措置というべきであり、他方で、破産財団の形成に資すると考えられる本件不動産26ないし28について別除権協定の有効性を主張したとしても、公平の観点ないし信義則に反すると認めることはできない。

この点についての被控訴人らの主張も採用することはできない。

4  以上によれば、本件不動産26ないし28に係る別除権協定に基づき、その受戻価格相当額から既払分を控除した額を超える部分について被控訴人らの配当受領権は存在しないものというべきであるから、控訴人の被控訴人らに対する請求はいずれも理由があるものとして認容すべきところ、これと結論を異にする原判決は相当でない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 池町知佐子 金澤秀樹)

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