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高松高等裁判所 平成23年(行コ)16号 判決 2012年1月27日

主文

1  本件控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  当裁判所も、控訴人らの請求はいずれも棄却すべきであると判断する。その理由は、後記2のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」第3のとおりであるから、これを引用する。

2  原判決17頁25行目の「漁業権を喪失したこと」を「小型定置・建網、曳網にかかる漁業者への休業補償」に改める。

原判決18頁1行目の「乙26」を「甲22、乙26」に改める。

原判決27頁14行目の「法律上の」から25行目の末尾までを「法律上の権利を有するものと解するのが相当である。すなわち、前記引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1のとおりの本件埋立てを巡る経緯や、旧○○番の土地が漁業振興を目的とした漁業関連用地として計画されていたことからすれば、市とa漁協間の旧○○番の土地の使用権に係る合意は、法的な拘束力を有するものというべきであって、これを市の一方的な意思表示のみによって消滅させることはできないというべきである。また、地方自治法96条1項6号によれば、条例に定める場合を除き、地方公共団体が財産を適正な対価なくして貸し付ける場合には議会の議決を要するところ、本件では議会の議決を経ていないが(弁論の全趣旨)、市においては、「財産の交換、譲与、無償貸付等に関する条例」(平成15年条例47号)が定められ、公共的団体において公益事業の用に供するときは、財産を無償又は時価よりも低い価額で貸し付けることができるとされていること、漁業協同組合がその事業の用に供する場合はこれに該当すると解されることからすると、上記旧○○番の土地の使用権に係る合意につき議会の議決を経ていないことの一事によって、上記旧○○番の土地の使用権に係る合意に法的拘束力がないとすることはできない。なお、前記市とa漁協間の合意によってa漁協に旧○○番の土地の使用権を設定することは、地方自治法232条の2の「寄附又は補助」に該当するものともいえるが、既に見たとおりの本件埋立てを巡る経緯や、旧○○番の土地が漁業振興を目的とした漁業関連用地として計画されていたこと、水産業の育成も市の行うべき重要な事業の一つであることからすると、上記使用権の設定につき公益上必要があるとの判断に裁量権の逸脱、濫用があるとはいえず、上記使用権の設定自体が違法であるともいえない。

以上によれば、当該権利を消滅させることにつき補償を要するとしたCの判断に、社会的、政策的、経済的見地から総合的にみて、社会通念上著しく不合理又は著しく不公正な点があるとは認められない。」に改める。

原判決28頁7行目の冒頭から13行目の末尾までを次のとおりに改める。

「 しかしながら、民法597条3項により使用貸借の貸主が借主に対していつでも返還請求ができるとされているのは、契約上、返還時期や使用の目的を定めなかったときに限られ、また、返還時期や使用の目的については、明示的に定めた場合に限られず、合意の経過等によって黙示に定められることもあり得るところ、既に見たとおり旧○○番の土地は漁業関連施設のためのものとして計画されたものであって、相当長期にわたる使用が予定されていたというべきであるから、597条3項を理由として返還を求めることは困難であったというべきであって、これを理由に補償が不要であったということもできない。」

原判決28頁20行目から21行目にかけての「主張のとおりであるが、」の次に「市がa漁協との合意を一方的に反故にしたことにより、a漁協が旧○○番の土地の占有を継続し、その結果、d社において土地購入後も使用できない状況に置かれたとなれば、市とd社の契約上、市が担保責任を負わないとされていたとしても、市に明らかな債務不履行があるとして、市が損害賠償の義務を負い、あるいはd社が契約を解除するといった事態が生ずることも想定し得るところであって、」を加える。

原判決29頁15行目の「などの経済的見地もふまえて」を「が無償で土地を使用することができる権利であることから、使用借権に準じるものとして、その経済的価値を考慮して」に改める。

原判決33頁17行目の冒頭から34頁12行目の末尾までを次のとおりに改める。

「 控訴人らは、本件補助金等は本件補償金増額の隠れ蓑にすぎないから違法であると主張する。その主張の意味は必ずしも明らかでないが、本件補助金等はその必要性もないにもかかわらず、補助金等の名目を借りて、本件補償金増額の目的で支出されたものであるとの趣旨と解される。

しかしながら、海苔種網冷凍保管施設及び船揚場の整備に係る要望が、d社の本件埋立地への進出に係る紛争より前から出されていたこと、これらの整備に係る要望と、現に実行された本件補助金等に係る工事等の内容は異なるが、これが、a漁協の経営状況や、旧○○番の土地に漁業施設を設置しないことなどの計画変更を踏まえて、その規模等を変更したものであることは、前記引用に係る原判決「事実及び理由」第3の1(5)及び(9)のとおりである。確かに、本件補助金等の支出については、市とa漁協との間の旧○○番の土地の無償使用に係る合意についての紛争解決のための協議の中で議論されたものであって、その支出が決められた動機、目的の一つにa漁協との紛争の解決があったことは否定し得ないが、そうであるからといって、本件補助金等の支出が名目に過ぎず、もっぱら本件補償金の増額目的で支出されたものであるとは認めることができず、本件補助金等の支出に違法がないとの前記判断を左右しない。これらの点に関する控訴人らの主張は採用できない。」

3  その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の認定、判断を覆すほどのものはない。

4  以上によれば、本件補償金及び本件補助金等の支出に違法性は認められず、a漁協、C及びDは、市に対し、不法行為による損害賠償義務を負わないというべきであり、また、a漁協による本件補償金及び本件補助金等の取得には法律上の原因があるから、a漁協は、市に対し、不当利得返還義務を負わないといえる。したがって、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 池町知佐子 金澤秀樹)

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