高松高等裁判所 平成23年(行コ)24号 判決 2012年2月23日
主文
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1 原判決中、徳島県収用委員会が控訴人に対して行った平成22年3月29日付平成21年第1号事件の裁決の取消請求に関する部分を取り消す。
2 徳島県収用委員会が控訴人に対して行った平成22年3月29日付平成21年第1号事件の裁決を取り消す。
第2事案の概要等
1 本件は、控訴人が、被控訴人に対し、被控訴人が起業した控訴人所有の徳島県阿南市<以下省略>の土地先の里道拡幅工事により新設された阿南市道(以下「本件道路」という。)が坂道構造となったことから、車両、自転車、歩行者、車椅子及び身体障害者用電動椅子等(以下「車両等」という。)を利用して控訴人所有の上記土地へ出入りすることができなくなるという損失を受けたとして、本件道路管理者である阿南市に対して道路法70条1項に基づく通路の新設請求を行ったが、損失補償に関する協議が成立しなかったため、徳島県収用委員会(以下「収用委員会」という。)に対し、同条4項に基づき土地収用法94条所定の損失補償の裁決を申請したところ、収用委員会が同申請を却下したため、①行政事件訴訟法3条3項に基づく上記裁決の取消しを求めるとともに、②上記裁決に係る収用委員会における議事録の修正を求めた事案である。
原審は、上記各訴えをいずれも却下したところ、控訴人が上記①の裁決の取消しの訴えが却下された部分のみを不服として、控訴した。
2 前提事実
次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の2(原判決2頁14行目から4頁13行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決2頁20行目の「付帯」を「附帯」と改める。
(2) 同4頁2行目の「審理」を「審理及び平成21年11月11日の現地調査」と改める。
3 本件の争点及びこれについての当事者の主張
次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の3(原判決4頁14行目から6頁23行目まで)のうち、裁決の取消しの訴えに係る部分に記載のとおりであるから、これを引用する。
(1) 同5頁18行目の「とおりであるが」を「とおり、①本件道路工事が、「H19阿土 大井南島線阿南・南島道路改良工事(1)」の附帯工事なのか、それとも「阿南市起業市道柳ノ久保堤防線の道路改良工事」のいずれであるのかその発生原因が不明瞭であり、前者ならば道路法24条による阿南市の承認書が必要であり、後者ならば協議書もしくは議定書が必要であるにもかかわらず、前掲各文書は存在していないこと、②本件道路の用途の計画目的が不明であること、③本件道路は道路構造令が考慮されずに設計されており、かつ、同令の要求水準を充たすか否かに関して検証もなされていない杜撰な設計施工に基づき行われたものであり、本件工事前に存在した平坦な市道が坂道となり、控訴人は宅地と本件道路との間の往来が妨げられる事態となったため、道路法70条に基づいて控訴人の不利益を解消し、救済すべきことなどであるが」と改める。
(2) 同6頁2行目の「主張するもの」を「主張するものを取り上げて判断したの」と改める。
第3当裁判所の判断
当裁判所も、控訴の趣旨に係る本件裁決取消の断えは却下すべきであると判断する。その理由は、次のとおり補正するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1(原判決6頁25行目から9頁2行目まで)記載のとおりであるから、これを引用する。
控訴人が控訴理由として主張するところに鑑み、原審及び当審に提出された証拠を子細に検討しても、原判決を補正のうえ引用した認定判断を変更すべき点は見当たらない。
1 原判決7頁16行目の「直裁」を「直截」と改め、20行目の「原告は、」の次に「従来平坦であった控訴人宅地先の道路が本件工事によって坂道構造の本件道路となって自宅敷地が袋地となり、車両等を利用した宅地への出入りが困難となったことから、」を付加する。
2 同9頁2行目末尾を改行の上、次のとおり付加する。
「 これに対して、控訴人は、本件訴訟はあくまでも違法な裁決の取消しを求める抗告訴訟であり、損失補償を求める当事者訴訟は別途阿南市を相手に提起している旨述べ、本件裁決の申請は土地収用法94条に基づく申請であり、この申請に対して、収用委員会は同条7項に基づく却下裁決をし、同条8項の損失補償の裁決をしていない旨主張する。
しかしながら、前示認定したところによれば、控訴人は、本件工事によって控訴人宅地先の本件道路が坂道構造となり、控訴人宅地への車両等の出入りに支障を来すという損失に対する補償として、道路管理者である阿南市に対して新たな進入路の新設を求めたが、阿南市が損失補償の協議に応じなかったため、収用委員会に損失補償の裁決を求めたところ、収用委員会は、本件道路から控訴人宅地への出入りが可能であり、出入りするための別段の通路開設工事を行わなければならない理由も必要性も何ら存在しないとして本件裁決がなされたのであって、これは損失補償につき理由がないものとして、ゼロ裁定をしたものと解され、同条8項の損失補償の裁決をしたものというべきであるから、控訴人の主張は採用できない。」
第4結論
よって、控訴人の本件裁決の取消しを求める訴えを不適法であるものとして却下した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金馬健二 裁判官 安達玄 田中一隆)