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高松高等裁判所 平成24年(行コ)13号 判決 2014年4月24日

主文

1  1審原告ら及び1審被告の各控訴をいずれも棄却する。

2  1審原告らの控訴に係る控訴費用は1審原告らの負担とし、1審被告の控訴に係る控訴費用は1審被告の負担とする。

事実及び理由

第1控訴の趣旨

1  1審原告ら

(1)  原判決中、1審原告ら敗訴部分を取り消す。

(2)  1審被告は、Eに対し、7489万8516円を請求せよ。

(3)  1審被告は、Fに対し、1億3287万8207円を請求せよ。

(4)  1審被告は、a公社に対し、6731万7577円を請求せよ。

(5)  上記(2)ないし(4)が認められないときは、1審被告は、a公社に対し、2億7509万4300円を請求せよ(予備的請求)。

(6)  1審被告は、Aに対し、1億3260万0384円を請求せよ。

(7)  1審被告は、B、C及びDに対し、それぞれ4420万0128円を請求せよ。

(8)  訴訟費用は、第1、2審を通じて、1審被告の負担とする。

2  1審被告

(1)  原判決中、1審被告敗訴部分を取り消す。

(2)  上記部分に係る1審原告らの請求をいずれも棄却する。

(3)  訴訟費用は、第1、2審を通じて、1審原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  事案の要旨

本件は、大洲市の住民である1審原告らが、大洲市長である1審被告に対し、地方自治法242条の2第1項4号に基づき、(1) 大洲市が地権者から原判決別紙物件目録記載1ないし3の土地を直接購入し又はa公社が大洲市との代行取得契約に基づき大洲市に代わって上記各土地を代行取得した後に大洲市がこれを同公社から購入したことに関し、<ア> 主位的に、地権者と大洲市との間の上記各土地の売買契約の締結は違法・無効なものであり、これを前提として当時のG大洲市長の発した支出命令も違法である、仮に大洲市が上記各土地を同公社から購入したとしても、上記代行取得契約を締結した大洲市の判断には裁量権の著しい逸脱又は濫用があり、地方自治法2条14項、地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるから、上記代行取得契約は無効であり、その後行行為として当時のG大洲市長が行った同公社との売買契約の締結及びこれに基づき発した支出命令は違法であり、大洲市は上記各土地を取得するために支出した代金、諸経費、利息相当額の損失ないし損害を被った等として、 地権者であるE及びFに対して不当利得返還請求権に基づき同公社から代行取得契約に基づいて受領した各代金相当額の支払を請求するよう、 同公社に対して不当利得返還請求権に基づき、上記各土地につき大洲市から代行取得契約、売買契約及び支出命令に基づいて受領した諸経費及び利息相当額の支払を請求するよう、 当時のG大洲市長の相続人らに対して不法行為による損害賠償請求権に基づき、大洲市が売買契約及び支出命令に基づいて支出した上記各土地の代金、諸経費及び利息相当額の支払を請求するよう、<イ> 予備的に、同公社に対して不当利得返還請求権に基づき、大洲市から代行取得契約、売買契約及び支出命令に基づいて受領した上記各土地の代金、諸経費及び利息相当額の支払を請求するよう求めるとともに、(2) 大洲市が同公社から上記物件目録記載4の土地を購入したことに関し、同売買契約及び代金等の支出命令は無効であり、そうでないとしても、地方自治法2条14項、地方財政法4条1項に違反する違法なものであり、大洲市は代金相当額の損失ないし損害を被った等として、 同公社に対して不当利得返還請求権に基づき、受領した上記土地の代金相当額の支払を請求するよう、 当時のG大洲市長の相続人らに対して不法行為による損害賠償請求権に基づき、大洲市が支出した上記土地代金相当額の支払をそれぞれ請求するよう求めた住民訴訟である。

原審は、上記物件目録記載4の土地の売買契約の締結について、当時のG大洲市長に財務会計法規に違反する裁量の逸脱、濫用があったとして不法行為責任を認め、その相続人らに対する請求を一部認容し、その余の請求をいずれも棄却したところ、1審原告ら及び1審相原告Kと1審被告とがこれを不服として、控訴した。

なお、1審相原告K、同L及び同Mは、1審原告らとともに本件訴えを提起したが、1審相原告L及び同Mは、当審において、訴えの全部を取り下げた。また、1審相原告Kは、控訴提起後に、死亡し、同人に対する関係では、訴訟は当然に終了した。

2  前提となる事実等

前提となる事実、争点及び当事者の主張は、次項のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」第2の1項及び3項(2頁15行目から4頁8行目、5頁2行目から18頁1行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

3  原判決の補正

(1)  原判決3頁7行目末尾に「(甲1~3、乙14、15、弁論の全趣旨)」を加える。

(2)  原判決4頁8行目末尾の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「なお、1審被告は、後記のとおり、原審での主張を改めて、当審において、本件土地1ないし3に関し、Eは、平成16年12月7日、本件公社に対し、本件土地1・2の各持分3分の1及び本件土地3を、Fは、同日、本件公社に対し、本件土地1・2の各持分3分の2をそれぞれ売却し、本件公社は、平成19年8月14日、大洲市に対し、本件土地1ないし3を売り渡した旨主張するに至った。しかし、証拠(甲1~3、乙14、15)及び弁論の全趣旨によれば、上記各土地については、E及びFを売主、大洲市を買主として平成16年12月7日付けで売買契約書が作成され、E、F及び大洲市長がそれぞれ同契約書に上記各立場で署名押印又は記名押印していること、同日付け売買を原因として大洲市に対する所有権移転登記が経由されていることが認められ、これに1審被告が原審において上記主張をしていなかったことを併せ考慮すると、1審被告の上記主張は採用できず、上記(2)第1段のとおりに認定するのが相当である。」

(3)  原判決5頁5行目の「本件売買契約」から7行目の「ところ、」までを「本件代行取得契約は地権者と大洲市との直接の売買契約及び本件公社による代金支払の履行の引受けであり、本件売買契約中本件土地1ないし3に係る部分は虚偽である。」と改め、12行目の「違法に」から13行目末尾までを以下のとおり改める。

「違法に本件支出命令を発したものである。また、仮に、本件代行取得契約が地権者であるE及びFと本件公社との間の本件土地1ないし3の売買契約であり、本件土地1ないし3についても、本件売買契約の際に、本件公社と大洲市との間で売買契約がなされたものであるとしても、本件代行取得契約を締結した大洲市の判断には裁量権の著しい逸脱又は濫用があり、これを無効としなければ地方自治法2条14項、地方財政法4条1項の趣旨を没却する結果となる特段の事情が認められるから、本件代行取得契約は無効となる。したがって、本件代行取得契約の後行行為である本件売買契約の締結及びこれに基づく本件支出命令は違法な財務会計行為である。」

(4)  原判決5頁19行目の「至っており、」の次に「電算課(現企業財政部情報管理課)及び教育委員会は、現在でも移転しておらず、中止されたまま何ら問題なく現在に至っているし、」を、23行目の「本件事業に適した土地を」の次に「本件土地1ないし3の周辺に」をそれぞれ加える。

(5)  原判決6頁17行目末尾の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「b不動産ことN(以下「b不動産」という。)は、平成22年11月頃、本件各土地の南東隣地約250坪を地権者(所有者)から3210万円(坪単価約12万8400円)で購入し、その後一、二か月間、分筆せずに面大地(標準的な画地面積に対して画地規模の大きい土地)のまま坪単価15万円で売りに出していたが、購入希望者は現れなかった。このように、約250坪の面大地であっても、そのまま利用したいという事業者は現れなかったのに、約743坪(合計地積2451m2)もの面大地である本件土地1ないし3については、なおさら一体的利用が困難である。大洲市では約50坪程度の宅地が売却しやすい面積であり、b不動産は、その後、造成費用204万7500円、分筆登記費用113万4772円、自己の利益を約184万円と見込んで坪単価を21万円と設定して、上記土地を分譲地として売却した。このような代金設定の経緯をみても、分譲地の坪単価をそのまま面大地の坪単価に当てはめて算定することは、不動産取引の常識上あり得ないことである。本件各土地が面大地であることを考慮すれば、本件各土地の売買が行われた平成19年当時、その適正な坪単価が15万円を上回ることはない。」

(6)  原判決8頁1行目の「ものであり、」の次に「瑕疵の内容を理解しないままで、瑕疵が治癒されるという議決がなされたと評価することはできないから、」を加える。

(7)  原判決9頁5行目の「というべきである。」の次に以下のとおり加える。

「G前市長は、平成16年12月当時、本件公社の理事及び大洲市議会議員の役職にあり、本件土地1ないし3の購入が不必要であること、議会の決議を受けていないこと、農業委員会の許可を得ていないことを熟知しており、自己所有の土地を本件公社が購入した際には2度も鑑定が行われているのに、上記各土地については鑑定が実施されておらず、手続に瑕疵があることを知り又は知り得べき立場にあった。」

(8)  原判決9頁18行目の「ア」の次に以下のとおり加える。

「地権者であるE及びFと本件公社は、平成16年12月7日、本件代行取得契約の際に、本件土地1ないし3の売買契約を締結し、本件公社と大洲市は、平成19年8月14日、本件売買契約において、本件土地1ないし3について、売買契約を締結した。他の地方公共団体の代行取得契約の事例でも、地権者から直接地方公共団体へ所有権移転登記がされ、かつ、地方公共団体から土地開発公社に代金が支払われるのは実際に事業化される時点である。したがって、本件土地1ないし3の取得契約も他の公社で一般的に行われている代行取得契約そのものであり、有効な順次売買と評価されるものである。」

(9)  原判決10頁19行目末尾に以下のとおり加える。

「このことは、その後も電算機器の配置、管理及び教育委員会の仮移転の問題が解決されず、平成25年2月及び4月に、電子計算室及びこれを管理する情報管理課が耐震上問題のない市役所本庁5階へ移転されたこと、同年8月から老朽化が激しく耐震上も問題があった市庁舎別館の改築工事が開始されたこと、上記工事が完成予定の平成26年度中に教育委員会が大洲市民会館から市庁舎別館に移転される見込みであることからも明らかである。」

(10)  原判決12頁8行目の「議会の議決を経ている」を「既に包括的に議会の議決を経ている」と改める。

(11)  原判決15頁6行目の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「大洲市は、本件事業用地として、まず本件土地4を選定し、その隣接地である本件土地1ないし3を併せて取得することとしたもので、大洲市が本件土地4を取得することは、本件公社に対して本件土地1ないし3の先行取得を依頼した当時から合意されていた。」

(12)  原判決15頁19行目末尾の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「上記のとおり、本件土地4を取得することは、本件公社に対して本件土地1ないし3の先行取得を依頼した当時から合意されていたから、本件土地4の売買価格の判定時期は本件土地1ないし3に準じて考えられるべきであり、その後の経済状況の変化による土地の値下がり分を考慮する必要はなく、適正価格との差額も財務会計上違法とまで評価できない。」

(13)  原判決15頁25行目の「支払っており、本件代金等相当額の損失ないし損害を被った。」を以下のとおり改める。

「支払った。本件各土地には、現在、大洲市の市立図書館が建築されており、本件各土地を地権者らに返して代金を返還してもらうことはできない。したがって、大洲市の損害は、適正価格で購入できるところを過大な価格で購入したものとして、価格が過大である部分(本件土地1ないし3は坪単価16万円を超える部分、本件土地4は坪単価16万8300円を超える部分)となる。」

(14)  原判決16頁1行目末尾に以下のとおり加える。

「本件公社と大洲市は、経済的にも一体であり、公社に対する不当利得返還請求に意味はないし、大洲市に実質的な損害はない。」

(15)  原判決16頁8行目の「本件代金等相当額の賠償責任」を「大洲市が損害を被った、価格が過大であるところの、本件土地1ないし3については坪単価16万円を、本件土地4については坪単価16万8300円をそれぞれ超える部分につき賠償責任」と改める。

(16)  原判決16頁15行目から16行目にかけての「これを解消することを主張できる状況にはなく、また、」を以下のとおり改める。

「これを法的に解消することは不可能であった。また、本件土地4について正式に売買契約が締結されたのは平成19年8月14日であるが、大洲市が本件公社から本件土地4を取得する合意や売買予約を行ったのは、G前市長の市長就任前である平成16年8月から平成17年1月のことであり、G前市長は既に行われた売買予約の義務を履行したにすぎないから、G前市長の責任については取得価格決定についての不法行為責任ではなく、売買予約を解消し、本件土地4を取得しないという選択が可能であったか否かが問題とされなければならない。そして、」

(17)  原判決16頁21行目末尾の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「また、大洲市は、本件公社について全額を出資し、その借入金についても48億円の上限として債務保証を行っているし、本件公社が簿価を下回る価格で土地を売却することで経営状態の悪化を招いた場合には、大洲市が補助金交付等によりその損失を補填せざるを得ない立場にあるから、大洲市と本件公社とは、法人格は別個であるものの、経済的には実質上一体である。したがって、大洲市と本件公社とのそれぞれの代表を兼ねるG前市長は、公社の健全化という別個の考慮も働かせなければならない立場にあるから、公社が得た利益をそのまま大洲市の損害として把握しなかったとしても、故意又は過失があったということはできない。」

(18)  原判決16頁25行目から26行目にかけての「本件代行取得契約が違法、無効であることからすれば、」を「本件代行取得契約には上記のとおり財務会計上の違法があり、私法上無効としなければ法の趣旨を没却する特段の事情が認められることからすれば、」と改める。

(19)  原判決17頁5行目の「というべきである。」の次に「また、本件代行取得契約は代表権の濫用により私法上無効であり、その相手方であるE及びFも、以下のとおり悪意又は有過失である以上、同人らに対しても、民法93条ただし書の類推適用により私法上無効となることを主張し得る。すなわち、Eは、土地区画整理組合の理事長として本件公社が本件各土地の存する東若宮地区の土地区画整理組合の保留地を坪単価21万円で購入したことを知っており、その3か月後に本件土地1ないし3をそれよりかなり高額な坪単価28万円で購入してもらうことについて認識があった。また、上記各土地中には区画整理事業中にEがほかの所有者から購入した土地が含まれており、このような土地を本件公社が購入することは通常ではあり得ないことを認識していたほか、土地の価格について鑑定を実施していないことを知っていたし、ほかの所有者の土地を購入せず、特別にE及びFの土地だけを購入するものであること、所有権移転登記に先立って代金の相当部分の支払がなされることなど、E及びFに便宜を与えるための土地購入であることを知り得た。さらに、Eは、自身が所有権を取得した際の取得価格よりも高額な価格で購入されることを認識していた。」を加え、同行目の「大洲市に対し、」から6行目末尾までを「本件土地1ないし3については、大洲市が損害を被った坪単価16万円を超える部分につき利得を得ており、不当利得に基づき、上記利得分であるところの、Eは5704万7756円を、Fは2852万3878円を返還する義務を負う。」と改める。

(20)  原判決17頁8行目末尾に以下のとおり加える。

「保留地の価格は通常の取引価格と異なり、組合解散のために収支が合うように価格が設定され、両者は価格決定の方式が異なるため、形式的な比較はできない。本件公社が本件土地1ないし3について、E及びFの利益を図る目的で著しく高額な価格で代行取得契約を行った事実はなく、当時、E及びFも著しく高額な価格であったとの認識はなく、認識し得べかりし事情もなかった。したがって、E及びFとも、本件公社の理事が代理権を濫用しているなどと認識し得たと評価することはできない。」

(21)  原判決17頁19行目末尾に「また、本件土地4については、適正価格である坪単価16万8300円を超える部分につき、不当利得返還義務を負う。」を加える。

第3当裁判所の判断

1  判断の大要

当裁判所も、原審と同様、原審が認容する限度で1審原告らの請求を認容すべきものと判断する。その理由は、次項のとおり原判決を補正するほかは、原判決「事実及び理由」第3の1項ないし4項(18頁3行目から34頁19行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。

1審原告ら及び1審被告の各控訴理由に鑑み、本件各証拠を精査しても、上記認定判断は左右されない。

2  原判決の補正

(1)  原判決19頁14行目の「本件公社は、」の次に「平成15年11月26日、本件区画整理組合から東若宮地区の保留地の購入依頼を受け、平成16年3月30日、同組合から依頼を受けたままの価格で本件土地4を含む保留地全部を購入することを決め、」を加え、16行目から17行目にかけての「購入した(乙2の1、2。」を「購入した。その際の坪単価は、本件区画整理組合が解散するため、保留地全部を本件公社に売却し、かつ、事業費の支出と収入が見合うようにするため、本件区画整理組合の意向によって決定された。(乙2の1・2、10、40、弁論の全趣旨)」と改める。

(2)  原判決20頁26行目から21頁1行目にかけての「申請をした」を「申請をした。同事業計画書には、本件公社所有の本件土地4と隣接する本件土地1ないし3の上に本館及び倉庫・車庫棟を新築する旨の記載がある」と改め、同行目の「。」を削る。

(3)  原判決21頁17行目の「本件土地」を「本件土地4」と改める。

(4)  原判決22頁11行目末尾の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「(5) 大洲市の電算機器を配置する電子計算室及びこれを管理する情報管理課は、平成25年2月及び4月、耐震上問題のない市役所本庁5階に移転した。また、老朽化が激しく、耐震上問題があった市庁舎別館は、同年8月に、改築工事が開始され、教育委員会は、同工事の完成予定の平成26年11月以降、同年度中に同所に移転する予定となっている。(弁論の全趣旨)」

(5)  原判決23頁8行目の「市民への提供」を「市民へ提供」と改める。

(6)  原判決23頁10行目の「中止された」を「中止されたまま何ら問題なく現在に至っている」と改め、14行目の「できない。」の次に「このことは、本件事業が中止された後も電算機器の配置、管理及び教育委員会の仮移転の問題が解決されたわけではなく、その後、電子計算室及びこれを管理する情報管理課が市役所本庁5階に移転し、教育委員会も改修工事完成後に市庁舎別館に移転する予定となっていることからも裏付けられる。」を加える。

(7)  原判決27頁6行目の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「なお、1審原告らは、b不動産の事例を挙げるが、同事例の取引までに本件各土地の周辺土地の地価は下落傾向にあり、上記事例の取引と本件各土地の取引とは時点を異にするから、同事例は平成19年当時の本件土地1ないし3の正常価格を検討する上で必ずしも参考となるものではない。」

(8)  原判決28頁1行目の「であるから、」の次に「予算措置を講じることについて市議会の承認を得たものとして、」を加える。

(9)  原判決30頁25行目の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「また、1審原告らは、本件代行取得契約はH元市長が代表権を濫用して締結したものであり、E及びFはそのことについて故意又は少なくとも過失があった旨主張する。しかしながら、本件各証拠を検討しても、H元市長がE及びFの利益を図る目的で著しく高額な価格で本件代行取得契約を締結する等したものと認めることはできず、この点はG前市長の行為についても同様であって、1審原告らの上記主張は理由がない。」

(10)  原判決31頁3行目の「本件事業によりも」を「本件事業よりも」と改める。

(11)  原判決33頁12行目から13行目にかけての「及んでいる。」の次に「この点につき、1審被告は、大洲市は、本件事業用地として、まず本件土地4を選定し、その隣接地である本件土地1ないし3を併せて取得することとしたもので、大洲市が本件土地4を取得することは、本件公社に対して本件土地1ないし3の先行取得を依頼した当時から合意されていたから、本件土地4の売買価格の判定時期は本件土地1ないし3に準じて考えられるべきであり、その後の経済状況の変化による土地の値下がり分を考慮する必要はなく、適正価格との差額も財務会計上違法とまで評価できない旨主張する。しかし、大洲市と本件公社との間で、本件売買契約締結以前に、大洲市が本件土地4を買い受けることについて売買予約契約等の明確な合意がなされていたことを認めるに足りる証拠はなく、大洲市の将来の買受価格についても明確な価格が合意されていたと認めることもできないから、G前市長が本件土地4の購入及びその価格について法的な拘束を受けていたということはできない。また、本件公社の本件区画整理組合からの購入価格は同組合の事業収入と支出が見合う価格とされたもので、そのような価格を大洲市が当然に受け入れなければならないとはいえない。」を加え、同行目の「そして、」の次に「本件売買契約における本件土地4の取得価格につき、鑑定は実施されていないばかりか、本件土地1ないし3の取得価格とは異なり、近隣の土地の分譲価格等と比較して決定されたわけでもなく、」を加える。

(12)  原判決34頁19行目末尾の後に、改行の上、以下のとおり加える。

「また、1審被告は、本件公社と大洲市は、経済的にも一体であり、公社に対する不当利得返還請求に意味はないし、大洲市に実質的な損害はなく、大洲市と本件公社とのそれぞれの代表を兼ねるG前市長は、公社の健全化という別個の考慮も働かせなければならない立場にあるから、公社が得た利益をそのまま大洲市の損害として把握しなかったとしても、故意又は過失があったということはできない旨主張するが、大洲市と本件公社とは法人格が異なる別個の法主体であり、大洲市が本件公社の利益や損失を当然にそのまま受け入れなければならないとはいえないから、上記各主張はいずれも理由がない。」

第4結論

以上の次第で、原判決は相当であり、1審原告ら及び1審被告の各控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山下寛 裁判官 政岡克俊 安達玄)