高松高等裁判所 平成25年(ネ)359号 判決 2014年4月23日
控訴人(一審原告)
X
訴訟代理人弁護士
髙田憲一
同
森晋介
被控訴人(一審被告)
株式会社Y
代表者代表取締役
F
訴訟代理人弁護士
朝田啓祐
同
志摩恭臣
同
安田稔男
同
重松崇之
主文
一 原判決を取り消す。
二 控訴人が、本判決別紙物件目録記載三及び四の各土地について囲繞地通行権を有することを確認する。
三 訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を取り消す。
二 (選択的請求その一)
控訴人が、本判決別紙物件目録記載一及び二の各土地を要役地とし、同目録記載三及び四の各土地を承役地とする通行地役権を有することを確認する。
三 (選択的請求その二)
主文第二項と同旨
四 訴訟費用は、一、二審とも被控訴人の負担とする。
第二事案の概要
一 本件は、控訴人が、その所有する本判決別紙物件目録記載一及び二の各土地を要役地、被控訴人が所有する同目録記載三及び四の各土地を承役地として、被控訴人との間で、自動車による通行を前提とする通行地役権を設定し、そうでなくともこれを時効により取得したものであり、また、同目録記載一及び二の各土地は準袋地であって同目録記載三及び四の各土地について自動車による通行を前提とする囲繞地通行権を有しているとして、被控訴人に対し、通行地役権又は囲繞地通行権の確認を選択的に求めた事案である。
原審は、控訴人の選択的請求をいずれも棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴し、前記第一のとおりの判決を求めた。
二 本件における前提事実及び当事者の主張は、次のとおり付加、訂正するほか、原判決「事実及び理由」第二の一ないし三のとおりであるから、これを引用する。
原判決二頁六行目の「別紙物件目録」を「本判決別紙物件目録(以下、単に「別紙物件目録」という。)」と改める。
原判決二頁九行目の「別紙地図に準ずる図面」を「本判決別紙地図に準ずる図面(以下「別紙地図に準ずる図面」という。なお、同図面中の拡大図におけるイ、ロ、ハ、ニ、ホ、ヘ、ト、チ、リ、ヌ、ル、オ、ワ、カ、ヨ、タ、レの各点は、いずれも本判決別紙地積測量図の同名称の各点に対応している。)」と改める。
原判決四頁二〇行目冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「(3) 自動車通行を前提とする囲繞地通行権の存在」
原判決四頁二二行目の「原告」から同頁二四行目末尾までを「他方、本件土地は、かつてはAが所有し、同人が開設した進入路の一部として使用していたところ、昭和六二年三月に分筆の上c社に譲渡されたものであるが、分筆譲渡された後も現在に至るまで、Aないし控訴人が、d社を介し、別紙物件目録記載一及び二の各土地や本件資材置き場への業務用車両の通路として使用してきた土地である。」と改める。
原判決五頁三行目の「したがって」から同頁四行目末尾までを「したがって、控訴人は、本件土地につき自動車による通行を前提とする囲繞地通行権(民法二一〇条又は二一三条)を有する。」と改める。
原判決六頁一二行目冒頭から末尾までを次のとおり改める。
「(3) 自動車通行を前提とする囲繞地通行権の主張に対する反論」
原判決六頁一五行目の「上記のとおり、Aは自ら囲繞地を作出したものであること、」を「上記のとおり、Aは自ら囲繞地を作出したのであるから、民法二一三条を適用するにしても、別途自動車用の通路の開設の可能性があるか十分に考慮しなければならないところ、」と改める。
原判決六頁一九行目の「自動車通行権」を「自動車通行を前提とする囲繞地通行権」と改める。
原判決六頁二一行目の「自動車による通行権」を「自動車通行を前提とする囲繞地通行権」と改める。
第三当裁判所の判断
一 当裁判所は、控訴人においては、本件土地を承役地とする通行地役権を有するとは認められないものの、本件土地につき自動車通行を前提とする囲繞地通行権を有するものと判断する。その理由は次のとおりである。
二 認定事実
原判決「事実及び理由」第三の一のとおりであるから、これを引用する。ただし、次のとおり付加、訂正する。
原判決八頁一七行目の「本件導水管の」を「本件導水管を」と改める。
原判決八頁二五行目から同頁末行にかけての「代金九〇〇万円で売買する旨の契約を締結した。」を「A及びEがc社に代金九〇〇万円で売却し、c社がこれを買い受ける旨の契約を締結した(以下「本件売買契約」という。)。なお、本件売買契約においては、分筆完了後一週間以内を取引期日とすることが定められており、本件土地については、昭和六二年三月一六日に分筆された上、同月二〇日売買を原因として、同日、c社への所有権移転登記がなされた。」と改める。
原判決九頁一行目の「この契約には、」を「本件売買契約には、」と改める。
原判決九頁七行目末尾に改行して次のとおり加える。
「(7) 本件土地は、別紙物件目録記載二の土地(一三番一の土地)の南側を通る県道から本件資材置き場への進入路(未舗装の通路。以下「本件進入路」という。)の一部をなしている。本件進入路は、もともとAが開設したものであり、d社は、昭和六二年の本件売買契約以前から現在に至るまで、Aないし控訴人から許諾を受けて、本件進入路の一部である本件土地上を、岩石採取や資材置き場への資材搬入のために自動車(ダンプカーなど)で通行して使用してきた。なお、都市計画図には、本件進入路が公道から続く通路として記載されている。
昭和六二年の本件売買契約以前は、別紙物件目録記載一及び二の各土地に相当する部分のほか、本件進入路を構成する土地を含む一団の土地をAが所有していたため、これらA所有地からは本件進入路を通行して公道に至ることができたが、昭和六二年の本件売買契約によって本件土地等の本件導水管の敷地部分に相当する土地がc社に売却されたことにより、上記一団のA所有地は北西の一団と南東の一団に二分された。
現在、別紙物件目録記載一及び二の各土地は、上記北西の一団の土地を形成している。これら北西の一団の土地は、その南側で県道(勝浦羽ノ浦線)に面しているが、当該部分は崖地となっていて県道と一〇メートル以上の高低差があり、また、地図に準ずる図面(旧土地台帳附属地図)上はこれら一団の土地に通じる道(一四番の土地の南西に水路を挟んで存在する道)が存在するが、現況では通行の用に供しうるような道は確認できず、別紙物件目録記載一及び二の各土地を含む北西の一団の土地は、本件進入路を通行する以外の方法で公道に至ることは困難な状況にある。
三 通行地役権の設定を受けたか
前記二の認定事実によると、Aは、昭和六二年二月一九日付けで本件売買契約を締結して本件土地を含む土地をc社に売却し、同契約の特約により、三年間に限り上記土地を竹木及び建築物所有以外の目的で使用できることとされたことは認められるが、この本件売買契約の際、Aとc社との間で、本件土地を承役地とする通行地役権を設定することまでもが合意されたとは認められない。その他、本件全証拠によっても、Aあるいは控訴人が、c社又は被控訴人との間で、本件土地を承役地とする通行地役権設定契約を締結したとは認めるに足りない。
なお、控訴人は、本件売買契約の際に、Aとc社は、本件土地を期限の定めなく無償で自動車により通行できることを内容とする通行地役権を黙示的に設定したものであると主張するが、三年間と限って本件土地等の使用権原を付与した上記特約と相容れないものといわざるを得ず、この点の控訴人の主張は採用することができない。
また、Aあるいは控訴人は、上記特約に基づく本件土地等の使用期間が経過した平成二年四月ころ以降も、d社を介して本件土地を含む本件進入路を自動車(ダンプカー)で通行するなどして使用してきたことは認められるが、これにc社あるいは被控訴人が特段異議を述べてこなかったとしても、それは上記通行を事実上黙認してきただけとも解されるし、上記特約による使用期間が黙示的に延長された可能性を慮っていたとか、後記のとおり本件土地に成立する囲繞地通行権を容認していたにすぎないとも評しうるのであるから、上記事情のみをもって物権たる通行地役権の設定を黙示的に承諾したものであるとはいい難い。
したがって、Aあるいは控訴人が、c社又は被控訴人から本件土地を承役地とする通行地役権の設定を受けたとは認められない。
四 通行地役権を時効取得したか
(1) 所有権以外の財産権である地役権を時効取得するには、自己のためにする意思をもって、平穏かつ公然に一定期間の使用を行う必要があるところ(民法一六三条)、前記認定事実のとおり、Aは、昭和六二年に本件売買契約によって本件土地等をc社に売却した際、同契約に付された三年間に限り本件土地等を使用することができる旨の特約に基づいて本件土地の使用を開始したものと認められるから、上記自己のためにする意思、すなわち通行地役権者としての権利を行使する意思はなかったものと認められる。
なお、Aは、上記使用期間が経過した平成二年四月ころ以降もd社を介して本件土地の使用を継続しているが、Aにおいて、新たに通行地役権に基づいて本件土地の使用を開始したことは何らうかがわれず、上記特約に基づく使用を事実上継続したにすぎないものと推認される。
(2) また、地役権は、継続的に行使され、かつ、外形上認識することができるものに限り時効によって取得することができるとされ(民法二八三条)、通行地役権の時効取得については、いわゆる継続の要件として、承役地たるべき他人所有の土地の上に通路を開設することを要し、その開設は要役地所有者によってされるべきことを要するというべきところ(最高裁昭和三〇年一二月二六日第三小法廷判決・民集九巻一四号二〇九七頁参照)、前記認定事実のとおり、本件進入路はAが昭和六二年の本件売買契約以前に開設したものであって、本件売買契約後に他人の土地となった本件土地等の上に要役地所有者たる立場において本件進入路を開設したものではない。また、本件売買契約後に、本件進入路のうち本件土地について特段の改修等が行われたことをうかがわせる主張立証もない。
(3) 以上のとおり、Aによる本件土地の使用は、自己のためにする意思に基づくものではなく、また、継続の要件を欠くから、Aあるいは控訴人において本件土地を承役地とする通行地役権を時効取得したとは認められない。
五 自動車通行を前提とする囲繞地通行権の有無
(1) 前記二の認定事実のとおり、別紙物件目録記載一及び二の土地を含む控訴人所有の一団の土地(当審で追加した(7)でいう北西の一団の土地)は、南側で接する県道とは高低差があるため直接行き来できず、本件進入路を通行する以外の方法で公道に至るのは困難な状況にあること、ただ、従前は、A所有地上にある本件進入路を通行して公道に至ることができたが、Aが昭和六二年の本件売買契約によって本件進入路の一部をなす本件土地をc社に譲渡して本件進入路の一部の所有権を失ったことにより、それ以降は、公道に至るにはc社(平成一二年以降は被控訴人)が所有する本件土地上を通行するほかないこととなったこと、本件土地を含む本件進入路は、昭和六二年の本件売買契約以前にAが開設した通路であり、Aないし控訴人の許諾を受けたd社が、その開設当時から現在に至るまで、本件進入路を自動車(ダンプカーなど)で通行して使用してきたものであることが認められる。
これらの事情に照らすと、別紙物件目録記載一及び二の各土地を含む控訴人所有の一団の土地(北西の一団の土地)は、Aが本件売買契約に基づき本件土地を譲渡したことによって生じた準袋地であると認められ、Aの包括承継人であり、上記一団の土地の所有者である控訴人においては、当該譲渡地である本件土地につき囲繞地通行権を有するものと認めるのが相当である(民法二一三条二項、一項)。また、前記のとおり、本件土地は本件進入路の一部を構成しており、本件進入路については昭和六二年以前から継続して自動車による通行に用いられてきたことなどを踏まえると、本件土地についての囲繞地通行権は自動車による通行を前提とするものと認めるのが相当である。
(2) これに対し、被控訴人は、別紙物件目録記載一及び二の各土地を含む上記一団の土地からは、本件進入路以外からも公道へ出られる可能性がある旨を主張するものの、どこをどのようにして通行可能なのかは具体的に主張されているものではないし、本件全証拠によっても具体的に通行可能な部分があるとは認めるに足りない。
また、被控訴人は、本件土地を多数の業務用車両が通行すると、振動等により本件土地に埋設されている本件導水管に悪影響が生じるから、本件土地につき自動車による通行を前提とした囲繞地通行権は認められるべきではない旨を主張する。
しかし、前記の別紙物件目録記載一及び二の各土地やその周辺の土地の形状等(県道と著しい高低差があることなど)に照らすと、別紙物件目録記載一及び二の各土地を有効に利用するためには公道から自動車によって進入する必要性は高いということができるし、実際のところとしても、本件土地は昭和六二年ころから現在まで二五年以上にわたって現実に自動車の通行の用に供されてきたことが認められる。他方、本件土地の地下部分には昭和四三年ころまでには本件導水管が埋設され(前記前提事実(3))、昭和六二年ころまでには本件土地上には本件進入路が開設され、そのころから現在まで二五年余りにわたって、d社によってダンプカーが本件土地上の往来を繰り返してきたことが認められるが、本件全証拠によっても、この間、本件土地所有者であるc社ないしは被控訴人、あるいは周辺の土地所有者等に、本件導水管への悪影響を含めて具体的な不利益が生じたことをうかがわせる事情は見当たらない。これらの事情を総合考慮するならば、前記のとおり、本件土地につき自動車による通行を前提とした囲繞地通行権を肯定するのが相当というべきである。
以上の被控訴人の主張はいずれも採用することができない。
(3) したがって、控訴人においては、本件土地につき自動車による通行を前提とした囲繞地通行権を有するものと認められる。
六 権利濫用の抗弁
(1) 前記二の認定事実のほか、前記五で検討したところによれば、Aは、昭和六一年ころから、CやDと意を通じて、a1社に対し、本件導水管の撤去又は本件導水管埋設部分の土地買取りを要求し、その結果、Aの希望するとおりに本件売買契約が締結されて本件土地がc社に譲渡され、それがために別紙物件目録記載一及び二の各土地が準袋地となったものと認められるのであって、かかる経緯によれば、上記の準袋地はいわばAが自ら作出したものであることは否めない。
しかし、法は、本件のように土地所有者が土地の一部を譲渡して袋地(準袋地についても同様と解される。)を作出した場合を想定した上で、このような場合には当該譲渡地につき囲繞地通行権が認められる旨を特に定めているのである(民法二一三条二項、一項)。そうすると、土地の譲渡により自ら準袋地を作出した者が当該譲渡地につき囲繞地通行権を取得することはむしろ法の予定するところであって、本件においても、Aが本件土地を分筆・譲渡したことによって準袋地を作出したからといって、そのことをもって本件土地につき囲繞地通行権を取得することが否定されるいわれはないし、Aないしはその包括承継人である控訴人において、当該通行権を有することの確認を求めることが権利濫用になるともいい難い。
したがって、上記経緯それ自体は、控訴人の本訴請求が権利濫用であることをうかがわせる事情とはならない。
(2) また、Aは、本件売買契約において、c社との間で特約を締結し、本件土地を含む売却土地を三年間に限り竹木及び建築物所有以外の目的で使用することができ、三年後には整地して境界を設定した上でc社に返還する旨を定めているところ、これらのみによれば、Aにおいては本件売買契約から三年が経過した後には本件土地を全く利用できなくなることを前提としていたかのようにも見える。
しかし、上記特約においては、「万一期限が延長となる場合双方が協議する」旨も明示され、使用期間を延長する余地が残されているし、かかる協議が行われたことはうかがわれないものの、Aは三年が経過した後も本件土地等をc社に返還せず、c社からも本件土地等の返還を求めるなどといった特段の措置がとられたこともうかがわれないまま、A、控訴人ないしはd社による本件土地等の使用が継続されてきたのであり、黙示的に上記使用期間が延長されたとも解する余地のある経緯をたどっているのである。
さらに、以上の点は、あくまでも上記特約に基づく本件土地の使用権原ないし使用期間に関する事情にすぎず、これをもって、Aが、別途法定された権利である囲繞地通行権についてまでこれを放棄したとか、これを行使しない意思を表明したものと解することはできない。
(3) そして、前記二の認定事実によれば、AがCやDと意を通じて、a1社に対して、相当強引に本件導水管の撤去又は本件導水管埋設部分の土地買取りを迫り、その結果、九〇〇万円という相当高額の代金で本件土地等をc社に買い取らせたものであることは認められるものの(弁論の全趣旨によれば、現在の一二番七の土地(二二九m2)の平成二四年度の固定資産評価額は三六三三円、一三番八の土地(一六七m2)のそれは二六四九円にとどまる。)、その方法が犯罪行為を構成するものであったとか、社会的相当性を著しく逸脱する違法なものであったとまでは認めるに足りない。
(4) なお、d社においては、将来、本件資材置き場において産業廃棄物中間施設を設置し、本件土地を含む本件進入路を同施設への進入路等として用いることを計画しているものと解されるが(前記前提事実(7)参照)、少なくとも現時点においては、かかる計画により被控訴人や周辺の土地所有者等に具体的な不利益が生じることが明らかとされているわけではないし、控訴人の本訴請求が権利を濫用するものであることをうかがわせる事情になるとはいい難い。
(5) 以上で述べたところのほか、本件に表れた事情を総合考慮しても、Aあるいはその包括承継人である控訴人において、法に基づいて認められる本件土地に係る囲繞地通行権を有する旨を主張することが許されないほどの落ち度等があったとは認め難い。
したがって、権利濫用の抗弁は理由がない。
七 その他、原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし、原審及び当審で提出、援用された全証拠を改めて精査しても、引用に係る原判決を含め、当審の上記認定、判断を覆すほどのものはない。
八 以上によれば、控訴人の選択的請求のうち本件土地につき囲繞地通行権を有することの確認を求める請求は理由があるから認容すべきところ、これと異なり、控訴人の選択的請求をいずれも棄却した原判決は相当でないから、原判決を取り消した上、控訴人の上記請求を認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三木勇次 裁判官 大嶺崇 裁判官池町知佐子は転補のため署名押印することができない。裁判長裁判官 三木勇次)
別紙 物件目録<省略>
別紙 地積測量図<省略>
別紙 地図に準ずる図面<省略>