高松高等裁判所 平成26年(ネ)390号 判決 2016年1月15日
控訴人(被告)
Y保険株式会社
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
倉科直文
被控訴人(原告)
有限会社X
同代表者代表取締役
C
同訴訟代理人弁護士
大塚丈
主文
1 原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す。
2 上記の部分につき、被控訴人の請求を棄却する。
3 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 控訴人
主文同旨
2 被控訴人
本件控訴を棄却する。
第2事案の概要
1 事案の要旨
本件は、被控訴人が、落雷により被控訴人の事務所内でのパソコンのネットワークに接続されたハードディスク(以下「本件HDD」という。)が損傷したとして、保険会社である控訴人に対し、損害保険契約に基づき、代替のハードディスク購入代金、データ復旧費用、データの再作成のために必要となった給与及び弁護士費用の合計335万1000円並びにこれに対する本訴状が控訴人に送達された日の翌日である平成25年2月5日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原判決が弁護士費用を除く被控訴人の請求を認容したため、控訴人が控訴を提起した。
2 前提事実
(1) 被控訴人は、平成23年6月3日、控訴人との間で、以下の内容の店舗総合保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した(争いがない)。
ア 保険期間 平成23年6月5日午後4時から平成24年6月5日午後4時まで
イ 保険の対象の所在地 被控訴人住所地
ウ 保険の対象と保険金額
建物 2500万円
什器・備品等 1000万円
商品原材料等 1000万円
(2) 本件契約に適用のある店舗総合保険普通保険約款(甲2「店舗総合保険ご契約のしおり」の45頁以下。以下「本件約款」という。)には、「当会社は、次のいずれかに該当する事故によって保険の対象について生じた損害に対して、この約款に従い、損害保険金を支払います。」との条項があり、上記事故の一つとして「落雷」が掲げられている(1条1項2号)。
また、本件約款には、控訴人が上記条項の損害保険金として支払うべき損害の額は、時価額によって定める旨の条項がある(4条1項)。
(3) 被控訴人と控訴人は、本件契約を締結するに当たり、原判決添付別紙の覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。
(4) 被控訴人は、その住所地所在の事務所(以下「被控訴人事務所」という。)において、複数台のパソコンや本件HDD等によりコンピュータネットワークを構築していたところ、平成24年5月9日午前11時頃、高知市周辺に発生した落雷(以下「本件落雷」という。)により、被控訴人事務所に供給される電圧が不安定となったことがあり、その後、本件HDDからのデータの読み取りができなくなった。
(5) その後の調査により、本件HDDは、上記(4)の際に生じた瞬間電圧低下(以下「瞬低」という。)により、読み取りヘッドとディスク面が接触して、本件HDDの作動制御プログラムが記録された部分のディスク面に傷が付いたため、本件HDDからのデータの読み取りができなくなったことが判明した(以下、上記のとおり本件HDDに生じた損傷を「本件損傷」という。)。
(6) 瞬低とは、発電所から配電用変電所までの特別高圧送電設備のいずれかの箇所に落雷があった場合に、落雷による異常高電圧エネルギーが下流に流れて停電等が発生することを避けるために、変電所(開閉所)において自動的に当該送電系統の送電を遮断して別の送電系統からの送電に切り替える際に、下流の送電網に0.07秒から2秒程度の間、電圧低下が生じることをいう(乙5)。
3 争点及び争点についての当事者の主張
(1) 本件損傷は、本件約款が保険事故として定める「落雷」により生じたものと認められるか。
(被控訴人の主張)
ア 本件約款は、保険事故として「落雷」と定めるところ、直撃雷やサージ(瞬間的に定常状態を超えて発生する大波電圧・電流)と並んで、瞬低も、落雷がもたらすリスクとして広く認知されている。したがって、本件約款が保険事故として定める「落雷」により保険の目的物に損害が生じた場合には、当然に落雷により生じた瞬低により保険目的物に損害が生じた場合が含まれるものと解釈できる。
また、落雷があった場合に瞬低を原因としてパソコン等の電子機器に何らかの損傷が発生する客観的蓋然性は、そうでない場合と比較して明らかに高いのであるから、「落雷」を保険事故とする保険契約により落雷による瞬低で生じた損害を填補するものと解釈することは、保険契約者の合理的意思に合致するといえる。同じく落雷により生じた損害でありながら、異常高電圧電流の通電により損害が生じた場合と、瞬低により損害が生じた場合とで、本件契約上の取扱いが異なるのは、一般的な理解に合致しない。
さらに、控訴人は、本件契約締結に当たって、上記の通常の理解とは異なり、本件約款では、瞬低による損害発生を「落雷」による損害発生には含めないということを説明していないのであるから、そうした解釈が正当であると主張することは認められない。
控訴人は、本件約款が制定された経緯等に基づいて、瞬低が本件約款の定める保険事故には該当しないと主張する。しかし、保険契約者は、控訴人が主張する経緯や保険者側の事情を知る余地もないのであるから、そうした事情に基づき、本件約款を解釈することは相当ではない。また、一般に、契約条項の解釈は、契約当事者の社会通念に従った合理的な意思に基づいてされるべきであるし、特に保険者側が作成し保険契約者には他の選択肢がないという特性がある約款については、客観的に保険契約者圏の合理的平均人を基準とする解釈(客観的解釈)によるべきである上、「疑わしきは約款作成者の不利に」との解釈基準をとるべきであるところ、瞬低が落雷のリスクとして一般に広く認知されていることは、上記のとおりであるから、本件約款にいう「落雷」の意義についての控訴人の主張は誤りである。
イ そして、本件損傷の原因となった瞬低は、本件落雷から生じることが通常想定しうるものであるから、本件落雷と本件損傷との間には、社会通念上、相当因果関係がある。
控訴人は、被控訴人事務所内の他の電子機器には損傷がなかったことを指摘して、本件落雷と本件損傷との間には相当因果関係が認められないと主張する。しかし、瞬低により何らかの障害が生じるか否かは、機器の特性により区々であって、被控訴人事務所内のパソコンには何らの障害が生じず、本件HDDのみに瞬低による損傷が生じたとしても何ら不自然ではないから、控訴人の上記主張には理由がない。
また、控訴人は、瞬低が、落雷時に送電設備があらかじめ定められたとおり送電系統を自動的に切り替えることによって生じるもので、本件落雷と本件損傷との因果関係は中断していると主張する。しかし、瞬低は、落雷があった場合に異常高電圧電流の流入を防ぐため送電系統を切り替える際に、わずか0.07秒から2秒程度生じるに過ぎないものであって、こうした事情からすると、落雷に端を発する因果の流れと独立に生起した事情が優勢に結果に影響を与えているとは認められないから、因果関係が中断していると評価することはできない。
ウ 以上のとおり、本件損傷は、本件約款が保険事故と定める「落雷」によって生じたものであるから、控訴人は、本件契約に基づき、被控訴人に対し、後記(2)で主張するとおり本件損傷により被控訴人に生じた損害を填補すべき義務を負う。
(控訴人の主張)
ア 本件約款が保険事故として定める「落雷」は、瞬低を含むものではないから、被控訴人の本件請求には理由がない。すなわち、本件約款は、火災保険契約に関する約款であり、火災保険契約は、もともと火災によって直接に保険の対象物が損傷した場合の損害填補を目的とした保険契約であって、その後、昭和55年までに保険事故に「落雷」が加えられたのは、保険の対象物に落雷したものの火災に至らなかった場合にも対象物に生じた損害を填補することとしたため、約款をその旨付加改正したものである。したがって、本件約款にいう「落雷」とは、保険の対象物に落雷があった場合を指すものである。
また、同じく火災保険契約に定める保険事故でありながら、火災の場合と異なり、「落雷」の場合だけ保険対象物への直接被害でなくてよいと解すべき根拠はない。
さらに、損害保険契約においては、当該保険事故が生じるリスクを算定して、保険料率を定め、これにより保険料や保険金の額を定めるところ、本件契約を含む火災保険契約の保険料率の算定に当たっては、瞬低により保険の目的物に損害が生じるリスクを考慮していない。
これらの事情からすると、本件約款を含む火災保険契約約款が保険事故として定める「落雷」とは、保険の対象物に直接、又はそのごく近隣に落雷があり、保険の対象物に異常高電圧電流が通電するなど、落雷のエネルギーによって保険対象物が損傷した場合に生じた損害の填補を目的とするものであることが明らかであって、上記「落雷」が瞬低を含むものと解釈することはできない。
イ また、仮に、本件約款が、落雷のエネルギーを直接受けて保険目的物に損害が生じた場合だけでなく、それ以外の「落雷」と相当因果関係にある損害の填補を目的とするものと解することができるとしても、本件落雷と本件損傷との間に相当因果関係があるとは認められない。すなわち、本件損傷は、瞬低により生じたものであるところ、瞬低は、電力会社が、被控訴人事務所のはるか上流の特別高圧送電設備に生じた本件落雷を受けて、その異常高圧エネルギーによる被害を防止するために自動的に送電系統を切り替えた際に生じたものであって、人為操作が介入していることに加え、本件落雷が生じた場所と本件HDDの所在場所とが近接しているとは認められないし、本件落雷と本件損傷との間に密接な因果関係があるともいえないのであるから、このような場合にまで両者間に相当因果関係があると認めることはできない。
ウ 以上のとおりであって、控訴人は、本件損傷について、本件契約に基づき被控訴人に対し保険金を支払うべき義務を負わないから、被控訴人の本件請求には理由がない。
(2) 控訴人が本件契約に基づき填補義務を負う損害の範囲及びその額
(被控訴人の主張)
ア 本件損傷により本件HDDを使用することができなくなったため、被控訴人は、専門業者に依頼して本件HDDのデータを取り出して復旧し、その代替品を購入しなければならなかったほか、納期までにデータが復旧できるか否かが判明しなかったため、製作途中で本件HDDに保管していた設計図書等のデータを別途再製作することが必要となった。また、被控訴人は、控訴人に対する保険金請求のために弁護士に委任して本件訴訟を提起せざるをえなかった。本件契約及び本件覚書によれば、控訴人は、これらに要した費用全部について、保険金の支払義務を負う。その額は、次のとおり、合計335万1000円である。
① 本件HDDのデータ復旧費用 44万1000円
② 代替ハードディスクの購入費用 40万円
③ 設計図書等の再製作に要した人件費 221万円
④ 弁護士費用 30万円
イ 控訴人は、上記①と③とが二重請求であるとか、上記③が本件損傷により生じた損害とは認められないなどと主張するが、本件HDDのデータを復旧できるか否かは作業してみなければ分からないものであるためデータ復旧と再製作とを並行して実施せざるを得なかったのであるし、上記③は別の業務に当てることができた人員、時間を本件損傷にかかる設計図書等の再製作に充てたために生じた費用であるから、本件損傷により被控訴人に生じた損害であることは明らかであって、控訴人の上記主張には理由がない。
(控訴人の主張)
ア 本件損傷により被控訴人に生じた損害及びその額は、いずれも知らない。
イ 被控訴人は、本件HDDのデータ復旧費用(上記①)及び設計図書等の再製作に要した費用(同③)の双方を本件契約に基づき填補されるべき損害と主張するが、本件契約は、本件覚書3条により両者の「いずれか少ない額」を保険金支払の限度とするものであったから、上記①のみが填補対象となるにすぎないし、上記③は、再製作に従事するか否かにかかわりなく、支払われることになっていた従業員給与であるから、本件損傷により生じた損害と認めることはできない。
ウ また、被控訴人が本件HDDに保存されていた電子データのバックアップを取っていれば、本件損傷により生じた損害は限定的であったと認められるところ、重要な電子データについてはバックアップを取っておくことが通常の対応であり、被控訴人においてこれが困難であった事情は認められないにもかかわらず、本件損傷が生じるまで被控訴人が2年にもわたってバックアップを作成しないまま業務を継続してきたものと認められることからすると、公平の観点から、本件契約に基づき控訴人が填補すべき損害の相当額が減額されるべきである。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(本件損傷が本件約款の定める「落雷」により生じたものと認められるか。)について
(1) 本件契約に基づく店舗総合保険は、店舗向けに構成された、損害保険の一種である火災保険商品であり、その本質は火災保険である(乙10)。したがって、本件契約に適用のある本件約款(店舗総合保険普通保険約款)は、同一又は類似の表現を用いて定められている火災保険普通保険約款等の対応条文と整合的に解釈適用することを要する(乙6、7)。
乙6によれば、火災保険は、もともとは「火災」のみを保険事故とするものであったところ、落雷が引き続いて火災につながり保険目的物に損害が生じた場合には損害填補が認められるのに対して、火災につながらず落雷ショックにより保険目的物に損害が生じた場合には損害填補が認められないことが均衡を欠くことから、後者については、火災保険の商品改善の歴史の中で、徐々に担保される保険の目的の範囲が拡大され、昭和55年までに、火災保険に係るすべての約款で担保されることとなったという経緯が認められる。
そして、乙10から12までによれば、保険料率については、元々火災の結果につながる落雷のリスクは通常の火災危険の測定の中に含まれていたことから、約款が上記のとおり改正され、火災の結果をもたらさない落雷を保険事故に含むようになった後も、あくまでも保険の目的物について生じた火災を保険事故とする火災保険の基本構造を前提とするもので、保険事故たる「落雷」とは、保険の目的物に対する落雷のことであるとの考え方から、落雷独自の危険測定に基づいた保険料率の算定は行われておらず、落雷火災の場合と合わせて火災危険の測定の中に抱合されているものとして算定されたことが認められる。
また、「落雷」との用語の理解としては、国語辞典によれば、雷が落ちること、すなわち雷雲と地上物との間の放電として説明されていること(広辞苑第6版)からみても、雷による異常高電圧電流が対象物に通電した場合と解釈するのが一般的な理解であると認めるのが相当である。
以上のような約款改正に至る経緯や保険料率算定の方法、約款の文言に照らすと、本件約款1条1項2号にいう「落雷」により生じた損害として保険による填補の対象となるのは、保険の目的物である建物あるいは建物内の動産に対して生じた落雷事故による損害に限られ、本件約款にいう「落雷」により損害が生じた場合とは、異常高電圧電流の通電など落雷のエネルギーによって直接に保険目的物に損害が生じた場合をいうものと解するのが相当である。したがって、保険目的物を雷が直撃する場合はもちろん、直撃ではなくとも、例えば近傍の柱上トランス付近に落雷したため、引込線でつながっている保険目的物の内部を異常高電圧電流が通電した場合には、保険事故となる。
火災保険は、保険の目的物たる建物ごとに、所在地、建築状態、用途、環境、私設消防設備の有無等その個性に応じて測定される危険率を前提として、事故の場合の保険給付と収受保険料が均衡するよう設計された保険であり、その均衡の維持は、保険会社のみならず、保険契約者にとっても、適正な対価による公平な危険担保システムの維持という点から、重要な利益であり、合理的で公平なリスク分散の機能という重要な社会インフラの維持の点からも重要である。火災保険における雷に係る担保危険は、通常火災と同一の各建物につき落雷の生ずる確率と、それにより建物及びその収納動産に発生する損害額見込みを基にした危険率により表現されているものであり、その率を前提に保険料率が設定されている(乙10、11)のであるから、保険の目的物に対する落雷もしくはこれと同視し得る至近距離落雷の限定範囲を超えて、長大な送電施設のどこかに落雷が起こることによって下流域に存在する無数の需要家(数千から数百万人単位)の建物について等しく生じる現象である瞬低により生じる損害を保険填補の対象とすることは、上記均衡を根底から覆すものであり、これを取り得ないことは明らかである。
以上のとおり、被控訴人が被ったような瞬低により生じた損害については、通常の火災保険約款や店舗総合保険約款(本件約款)に基づく保険金請求をすることはできないが、「どこかに所在する誰か他人の物件」につき生じた落雷の影響により動産に生じた損害について保険金を請求するという需要に対しては、保険会社においては、通常の火災保険事故に加えて「(その他の)不測かつ突発的な事故」一般を保険事故に追加する火災保険商品も、本件契約に基づく保険商品とは別に、設計販売しているところである(乙14)。
(2) 被控訴人は、保険契約者が上記(1)で認定したような事情を知り得ないから、これを本件約款の解釈基準とすることはできず、他方、保険者側が作成して保険契約者には選択の余地がない約款については、保険契約者側の合理的平均人を基準とした客観的解釈をすべきところ、瞬低が落雷によるリスクとして社会一般に広く認知されているとして、落雷により生じた瞬低により保険の目的物が損傷した場合も、本件約款の定める保険事故に含まれるものと解釈するのが相当であると主張する。
しかし、瞬低が落雷リスクとして社会一般に広く認知されているとまで認めるべき事情は見当たらない。すなわち、本件契約の締結に当たっても、本件覚書による合意内容からすると、当事者双方とも、被控訴人事務所内の電子機器やこれに保管されている電子データが損傷を受ける場合を想定していたものと認めることができるものの、被控訴人が瞬低により電子機器に損傷が生じた場合の取扱いについて説明を求めたり、控訴人がそうした説明をしたことがあったとは認められないし(原審における被控訴人代表者本人)、被控訴人が損害保険会社等の提供している瞬低によるリスク回避のための調査等のサービス(甲13、14)の導入を検討したことがあったとも認められないことからすると、本件契約の当事者である被控訴人においても、瞬低により電子機器や電子データが損傷を受けるリスクがあることを認識していたとは認められない。また、「瞬低」という言葉の社会一般における認知度はそれほど高いとは認められないこと(弁論の全趣旨)や、上記のとおり、損害保険会社等が瞬低のリスク回避のためのサービスを別途提供し、同リスクについて注意喚起していると認められることなどの現在の社会情勢からすると、被控訴人が主張するように、瞬低による電子機器や電子データの損傷の可能性があることが社会一般に広く認知されているとまでは認められないものというべきである。
また、上記のとおり瞬低の認知度が高くないことからすると、「落雷」との用語につき瞬低を含むものとして理解することが合理的平均人の解釈であると認めることもできない。
そうすると、合理的平均人の解釈によるべきとしても、保険事故を「落雷」と定めている本件約款について、瞬低により保険目的物に損害が生じた場合までも保険事故に含まれるものと解釈することはできない。
(3) また、被控訴人は、上記の約款の特性から、「疑わしきは約款作成者の不利に」解釈することが相当であり、「落雷」には瞬低を含むと解釈するのが相当であると主張する。しかし、このような解釈は、約款の文言が多義的であったり、不明確であったりする場合に、衡平の見地から作成者である保険者に不利に解釈するのが相当であるというものであって、上記のとおり「落雷」との用語の解釈、理解が多義的、不明確とまでは認められないのであるから、被控訴人の上記主張を採用すべき事情があるとは認められない。
(4) 以上によれば、瞬低により生じたものと認められる本件損傷については、本件約款が保険事故として定める「落雷」により生じたものと認めることはできない。
2 そうすると、その余の点を判断するまでもなく、被控訴人の本件保険金請求は理由がない。
3 結論
以上によれば、被控訴人の請求には理由がないから棄却すべきところ、これと異なり、被控訴人の請求の一部を認容し、その余を棄却した原判決は失当であって、本件控訴には理由があるから、原判決中、控訴人の敗訴部分を取り消し、同部分の被控訴人の請求を棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 生島弘康 裁判官 坂上文一 井川真志)