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高松高等裁判所 平成28年(行ケ)1号 判決 2016年10月18日

当事者の表示

別紙当事者目録記載のとおり

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告X1の請求

平成28年7月10日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の香川県選挙区における選挙を無効とする。

2  原告X2の請求

平成28年7月10日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の愛媛県選挙区における選挙を無効とする。

3  原告X3の請求

平成28年7月10日に行われた参議院(選挙区選出)議員選挙の徳島県及び高知県参議院合同選挙区における選挙を無効とする。

第2事案の概要

1  事案の骨子

本件は,平成28年7月10日施行の参議院議員通常選挙(以下「本件選挙」という。)について,香川県選挙区,愛媛県選挙区又は徳島県及び高知県参議院合同選挙区の選挙人である原告らが,公職選挙法14条1項,別表第三の参議院(選挙区選出)議員の議員定数配分規定(以下「本件定数配分規定」といい,数次の改正の前後を通じ,平成6年法律第2号による改正前の別表第二を含め,「定数配分規定」という。)は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であると主張して,被告らに対し,公職選挙法204条に基づき,本件選挙の上記各選挙区における選挙を無効とすることを求める事案である。

2  前提事実(争いのない事実のほか各項掲記の証拠等により認められる事実)

(1)  当事者

ア 原告ら

(ア) 原告X1は,本件選挙における香川県選挙区の選挙人である。

(イ) 原告X2は,本件選挙における愛媛県選挙区の選挙人である。

(ウ) 原告X3は,本件選挙における徳島県及び高知県参議院合同選挙区の選挙人である。

イ 被告ら

(ア) 被告香川県選挙管理委員会は,本件選挙のうち参議院(選挙区選出)議員選挙の香川県選挙区における選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。

(イ) 被告愛媛県選挙管理委員会は,本件選挙のうち参議院(選挙区選出)議員選挙の愛媛県選挙区における選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。

(ウ) 被告徳島県及び高知県参議院合同選挙区選挙管理委員会は,本件選挙のうち参議院(選挙区選出)議員選挙の徳島県及び高知県参議院合同選挙区における選挙に関する事務を管理する参議院合同選挙区選挙管理委員会である。

(2)  本件選挙の施行

本件選挙は,平成28年7月10日に施行された。

(3)  本件選挙当時の参議院議員の選挙制度の概要

本件選挙当時の参議院議員の選挙制度は,参議院議員の定数を242人とし,そのうち96人を比例代表選出議員,146人を選挙区選出議員としており(公職選挙法4条2項),選挙区選出議員の選挙(以下「選挙区選挙」という。)については,全国に原則として都道府県を単位とする45の選挙区を設け(ただし,徳島県及び高知県については,徳島県及び高知県参議院合同選挙区が,鳥取県及び島根県については,鳥取県及び島根県参議院合同選挙区がそれぞれ設けられた。),各選挙区において2人から12人までの偶数の議員数を配分し,比例代表選出議員の選挙(以下「比例代表選挙」という。)については,全都道府県の区域を通じて所定の人数の議員を選出するものとし(同法12条1項,2項,14条1項,別表第三),投票は,選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票としている(同法36条)。

(4)  本訴の提起

原告らは,平成28年7月11日,本訴を提起した(当裁判所に顕著な事実)。

3  原告らの主張

(1)  人口比例選挙の保障と本件定数配分規定がこれに反していること

憲法56条2項(「両議院の議事は,……出席議員の過半数でこれを決し」),憲法1条(「主権の存する日本国民」)及び憲法前文(「日本国民は,正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し,」,「主権が国民に存する」)からすれば,憲法は厳格な人口比例選挙を保障しているものと解される(そのように解さなければ,少数の国民によって選出された国会議員が国会における多数派を構成することを是認することになり,国民主権の原理に反することになる。また,そのような状態をもたらす選挙制度の下での選挙は正当な選挙ということもできない。)。そして,実際にも,参議院議員選挙においてブロック制を採用し,町・丁の境界を考慮した区割り(ただし,都道府県を跨ぐ選挙区等も発生する。)を行えば,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差を1.00008倍にまで圧縮することは可能である(甲39参照)。

それにもかかわらず,本件定数配分規定の下では,選挙区間の最大較差が3.07倍(平成27年9月2日時点の選挙人名簿及び在外選挙人名簿登録者数による。なお,選挙区間の最大較差は,小数点以下2位までの概数で表記する。以下同じ。)にまで達し,本件選挙の選挙区選挙において,全選挙区選出議員の過半数を全有権者数の約40%により選出することができることに鑑みれば,本件定数配分規定は人口比例選挙の要請に反している。

なお,都道府県を参議院議員選挙の選挙区の単位としなければならないという憲法上の要請はないことは,既に最高裁平成23年(行ツ)第51号同24年10月17日大法廷判決・民集66巻10号3357頁(以下「平成24年大法廷判決」という。)及び最高裁平成26年(行ツ)第155号,同第156号同年11月26日大法廷判決・民集68巻9号1363頁(以下「平成26年大法廷判決」という。)で示されている。

被告らは,本件選挙時の最大較差が3.08倍であるところ,これは合憲である旨主張する。しかしながら,平成26年大法廷判決が参議院議員選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いと判示し,平成26年12月14日の衆議院議員選挙の小選挙区選挙における投票価値の最大較差が2.13倍であることに照らせば,これより後退してよい理由はなく,被告らの上記主張は妥当ではない。

(2)  投票価値の平等と立法府の裁量権との関係

立法府は,選挙に関する事項(憲法47条)のうち,議員の定数,選挙制度の選択,選挙区の大きさなどをどのようにするかという問題については裁量権を有しているものの,投票価値の平等に関する問題については何ら裁量権を有していない。したがって,定数配分規定が憲法の投票価値の平等の要求に反する以上,定数配分規定は憲法に違反するというべきであって,投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合に初めて定数配分規定が憲法に違反するに至る(このような判断手法は,憲法の予定している司法権と立法権との関係に由来する。)という平成26年大法廷判決の見解は妥当ではない。

なお,仮に,選挙制度改正に要する合理的期間を経過するまでは違憲とすることはできないという見解を採るとしても,合理的期間が経過していないことを被告らが主張立証すべきであり,そのような主張立証はされていない。また,この点を措くとしても,衆議院議員選挙でも,参議院議員選挙でも,選挙区の改正は,実務上の技術的側面に限れば本質的には差異がないと考えられるところ,①衆議院議員選挙区画定審議会設置法(平成6年法律第3号)4条1項によれば,衆議院議員選挙区画定審議会による選挙区の改定案の作成及び内閣総理大臣への勧告のための期間として,統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が,最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされていること,②衆議院小選挙区選出議員の選挙区間における人口較差を緊急に是正するための公職選挙法及び衆議院議員選挙区画定審議会設置法の一部を改正する法律(平成24年法律第95号)附則3条3項によれば,選挙区割りの改定案に係る衆議院議員選挙区画定審議会の勧告が,同法の施行日から6か月以内に行われることを予定していること,③最高裁判所は平成24年大法廷判決において平成22年7月11日施行の参議院議員通常選挙(以下「平成22年選挙」といい,他の参議院議員通常選挙も施行された年を付してこの例により略する。また,参議院議員通常選挙を単に「通常選挙」という。)当時の定数配分規定が違憲状態である旨判断し,国会も遅くとも平成24年大法廷判決が言い渡された平成24年10月17日に平成22年選挙当時の定数配分規定が違憲状態であると認識したことからすれば,本件選挙が施行された平成28年7月10日の時点においては既に合理的期間が経過したものというべきである。

(3)  本件選挙の選挙区選挙は違憲無効とすべきこと

憲法99条(「裁判官……は,この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。」),憲法98条1項(「この憲法は,国の最高法規であつて,その条規に反する法律,命令,詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は,その効力を有しない。」),憲法81条(「最高裁判所は,一切の法律,命令,規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」),憲法76条3項(「すべて裁判官は,その良心に従ひ独立してその職権を行ひ,この憲法及び法律にのみ拘束される。」)からすれば,原告らの上記主張(1)及び(2)を踏まえ,裁判所は,本件選挙の選挙区選挙は憲法に違反するものとして無効であると判断すべきである。

(4)  いわゆる事情判決によるべきではないこと

本件選挙の選挙区選挙を無効と判断しても,その効果は過去には遡らないと解されるから,本件選挙の選挙区選挙で選出された議員が関与して成立した法律等が無効になることはないし,非改選の参議院議員のほか本件選挙の比例代表選挙で選出された議員により,参議院は活動をすることができるから,本件選挙の選挙区選挙について再選挙は必要ではない。仮に再選挙をするとしても,人口比例選挙の趣旨に沿って参議院議員の選挙制度を改正した上で,行われるべきである。そして,本件選挙の選挙区選挙を無効と判断しても,社会的混乱は全く生じない。他方,人口比例選挙に反する本件選挙の選挙区選挙で選出された議員は正統性を有しないといえるから,このような正統性を有しない者が国会議員として活動すること(憲法改正の発議に係るものを含む。)は許されない。したがって,本件において,いわゆる事情判決の法理は適用されるべきではない。

4  被告らの主張

(1)  判断枠組み

憲法は投票価値の平等を要求しているものの,選挙制度の仕組みの決定については国会に広範な裁量が認められているから,投票価値の平等は,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。

そして,憲法が二院制を採用した趣旨及び定数の偶数配分という参議院議員の選挙制度における技術的制約等に照らすと,国会の定めた定数配分規定が憲法14条1項等の規定に違反して違憲と評価されるのは,参議院の独自性その他の政策的目的ないし理由を考慮しても,投票価値の平等の見地からみて違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態が生じており,かつ,当該選挙までの期間内にその是正がされなかったことが国会の裁量権の限界を超える場合に限られる。

(2)  本件選挙時において,選挙区間における投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえないこと

公職選挙法の一部を改正する法律(平成27年法律第60号。以下「平成27年改正法」といい,これによる公職選挙法の改正を「平成27年改正」という。)は,一部の選挙区について2つの県を合わせた選挙区を創設(以下「合区」という。)する一方で,参議院の選挙区選出議員について都道府県を構成する住民の意思を集約的に反映させる意義ないし機能を原則として維持し,もってその代表の実質的内容ないし機能に衆議院議員と異なる独特の要素を持たせようとしたものであり,これは憲法が二院制を採用した趣旨に沿うものである。また,平成27年改正の結果,投票価値の較差は平成25年選挙時の最大較差4.77倍から2.97倍(平成22年国勢調査による人口に基づくもの)にまで大幅に縮小され,本件選挙当日の最大較差は3倍をわずかに超えるにとどまった。そして,過疎地域に住む少数者の声も国政に届くような定数配分規定を定めることもまた,国会が正当に考慮することができる政策的目的ないし理由となる。

これらの点に,参議院議員については,憲法上,3年ごとに議員の半数を改選するものとされ,定数の偶数配分が求められるなどの技術的制約があること等を併せ考慮すると,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとはいえず,仮にかかる程度に達しているとしても,これを正当化すべき理由があるから,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたとはいえない。

(3)  本件選挙までの期間内に本件定数配分規定を改正しなかったことが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないこと

本件選挙は,平成27年改正により新たに定められた本件定数配分規定に基づく初めての選挙であって,裁判所において本件定数配分規定について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っている旨の判断が示されたことはなく,本件定数配分規定における投票価値の最大較差2.97倍ないし3.08倍も,これまでの累次の最高裁判決の事案において合憲とされた最大較差を大幅に下回るものであったことからすれば,国会において,本件選挙までの間に,違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたことを認識し得たとは到底いえない。

そうすると,仮に本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡について違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態に至っていたと評価されたとしても,国会における是正の実現に向けた取組が司法判断の趣旨を踏まえた裁量権の行使の在り方として相当なものではなかったとはいえないから,本件選挙までの期間内に本件定数配分規定の改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものとはいえない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記前提事実のほか,関係法令の規定,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,平成27年改正に至る経緯及び本件選挙における選挙区間の較差等について,以下の事実が認められる。

(1)  参議院議員選挙法(昭和22年法律第11号)は,参議院議員の選挙について,参議院議員250人を全国選出議員100人と地方選出議員150人とに区分し,全国選出議員については,全都道府県の区域を通じて選出されるものとする一方,地方選出議員については,その選挙区及び各選挙区における議員定数を別表で定め,都道府県を単位とする選挙区において選出されるものとし,選挙区ごとの議員定数については,定数を偶数としてその最小限を2人とする方針の下に,各選挙区の人口に応じ,2人から8人までの偶数の議員定数を配分した。昭和25年に制定された公職選挙法の定数配分規定は,上記の参議院議員選挙法の議員定数配分規定をそのまま引き継いだものであり,その後に沖縄県選挙区の議員定数2人が付加されたほかは,平成6年法律第47号による公職選挙法の改正(以下「平成6年改正」という。)まで,上記定数配分規定に変更はなかった。なお,昭和57年法律第81号による公職選挙法の改正により,参議院議員の選挙についていわゆる拘束名簿式比例代表制が導入され,参議院議員252人は各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員100人と都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選挙区選出議員152人とに区分されることになったが,この選挙区選出議員は,従来の地方選出議員の名称が変更されたものにすぎない。その後,平成12年法律第118号による公職選挙法の改正(以下「平成12年改正」という。)により,比例代表選出議員の選挙制度がいわゆる非拘束名簿式比例代表制に改められるとともに,参議院議員の総定数が10人削減されて242人とされ,比例代表選出議員96人及び選挙区選出議員146人とされた。(乙2,3)

(2)  参議院議員選挙法制定当時,選挙区間における議員1人当たりの人口の最大較差(以下,各立法当時の「選挙区間の最大較差」というときは,この人口の最大較差をいう。)は2.62倍であったが,人口変動により次第に拡大を続け,平成4年選挙当時,選挙区間における議員1人当たりの選挙人数の最大較差(以下,各通常選挙当時の「選挙区間の最大較差」というときは,この選挙人数の最大較差をいう。)が6.59倍に達した後,平成6年改正における7選挙区の定数を8増8減する措置により,平成2年10月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.81倍に縮小し,いわゆる逆転現象(人口又は選挙人数において少ない選挙区が多い選挙区よりも多くの議員定数を配分されている状態)は消滅した。その後,平成12年改正における3選挙区の定数を6減する措置により,平成6年改正後に再び生じた逆転現象は消滅し,また,この措置及び平成18年法律第52号による公職選挙法の改正(以下「平成18年改正」という。)における4選挙区の定数を4増4減する措置の前後を通じて,平成13年から同19年までの間に施行された各通常選挙当時の選挙区間の最大較差は5倍前後で推移した。(乙2~4)

しかるところ,最高裁判所大法廷は,定数配分規定の合憲性に関し,最高裁昭和54年(行ツ)第65号同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁(以下「昭和58年大法廷判決」という。)において,後記2(1)の基本的な判断枠組みを示した後,選挙区間の最大較差が6.59倍に達した平成4年選挙について,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)が生じていた旨判示したが(最高裁平成6年(行ツ)第59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁),平成6年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙については,昭和58年大法廷判決において昭和52年選挙について判示したところと同様に,上記の状態に至っていたとはいえない旨判示した(最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁,最高裁平成11年(行ツ)第241号同12年9月6日大法廷判決・民集54巻7号1997頁)。その後,平成12年改正後の定数配分規定の下で施行された2回の通常選挙及び平成18年改正後の定数配分規定(以下「平成18年定数配分規定」という。)の下で施行された平成19年選挙のいずれについても,最高裁判所大法廷は,上記の状態に至っていたか否かにつき明示的に判示することなく,結論において当該各定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえない旨の判断を示した(最高裁平成15年(行ツ)第24号同16年1月14日大法廷判決・民集58巻1号56頁,最高裁平成17年(行ツ)第247号同18年10月4日大法廷判決・民集60巻8号2696頁,最高裁平成20年(行ツ)第209号同21年9月30日大法廷判決・民集63巻7号1520頁)。ただし,前記最高裁平成18年10月4日大法廷判決においては,投票価値の平等の重要性を考慮すると投票価値の不平等の是正について国会における不断の努力が望まれる旨の,前記最高裁平成21年9月30日大法廷判決(以下「平成21年大法廷判決」という。)においては,当時の較差が投票価値の平等という観点からはなお大きな不平等が存する状態であって,選挙区間における投票価値の較差の縮小を図ることが求められる状況にあり,最大較差の大幅な縮小を図るためには現行の選挙制度の仕組み自体の見直しが必要となる旨の指摘がそれぞれされた。

(3)  上掲最高裁平成16年1月14日大法廷判決を受けて,同年12月に参議院議長の諮問機関である参議院改革協議会の下に選挙制度に係る専門委員会が設置され,同専門委員会は,同17年10月に同協議会に報告書を提出し,これに基づき,同報告書の提案に係る前記4増4減の措置が採られた(平成18年改正)。また,平成20年6月に改めて参議院改革協議会の下に設置された専門委員会においては,同22年5月までの協議を経て,同25年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の見直しを行うことを合意し,これに向けた工程表が示されたものの,具体的な較差の是正が見送られた結果,同22年7月11日,選挙区間の最大較差が5.00倍に拡大した状況において,平成18年定数配分規定の下で2回目となる通常選挙が施行された(平成22年選挙)。(乙2,4)

平成22年選挙後,平成21年大法廷判決の指摘を踏まえた選挙制度の仕組みの見直しを含む制度改革に向けた検討のため,参議院に選挙制度の改革に関する検討会が発足し,その会議において参議院議長から上記改革の検討の基礎となる案が提案され,平成23年以降,各会派からも様々な改革案が発表されるなどしたが,上記改革の方向性に係る各会派の意見は区々に分かれて集約されない状況が続き,同年12月以降の同検討会及びその下に設置された選挙制度協議会における検討を経て,同24年8月に当面の較差の拡大を抑える措置として公職選挙法の一部を改正する法律案が国会に提出された。その内容は,同25年7月に施行される通常選挙に向けた改正として選挙区選出議員について4選挙区で定数を4増4減するものであり,その附則には,同28年に施行される通常選挙に向けて,選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。(乙2,5,7)

このような状況の下で,平成22年選挙につき平成24年大法廷判決は,結論において同選挙当時における平成18年定数配分規定が憲法に違反するに至っていたとはいえないとしたものの,長年にわたる制度及び社会状況の変化を踏まえ,都道府県を各選挙区の単位とする仕組みを維持しながら投票価値の平等の要求に応えていくことはもはや著しく困難な状況に至っていることなどに照らし,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が生じていた旨判示するとともに,都道府県を単位として各選挙区の定数を設定する現行の方式をしかるべき形で改めるなど,現行の選挙制度の仕組み自体の見直しを内容とする立法的措置を講じ,できるだけ速やかに違憲の問題が生ずる上記の不平等状態を解消する必要がある旨を指摘した。

(4)  平成24年大法廷判決の言渡し後,平成24年11月16日に上記の公職選挙法の一部を改正する法律案が平成24年法律第94号(以下「平成24年改正法」という。)として成立し,同月26日に施行された(平成22年国勢調査による人口に基づく選挙区間の最大較差は4.75倍であった。)。なお,平成24年改正法附則3項には,平成28年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,結論を得るものとする旨の規定が置かれていた。そして,平成25年7月21日,平成24年改正後の定数配分規定の下での通常選挙(平成25年選挙)が施行されたところ,平成25年選挙当時の選挙区間の最大較差は4.77倍であった。(乙2,4)

最高裁判所は,平成26年大法廷判決において,①平成24年改正後の定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,平成22年選挙当時と同様に違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態にあったものというべきである,②平成24年大法廷判決の言渡しから平成25年選挙までの約9か月の間に,平成28年に施行される通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い結論を得るものとする旨を附則に定めた平成24年改正法が成立し,参議院の検討機関において,上記附則の定めに従い,その見直しの検討が行われてきているのであって,司法権と立法権との関係を踏まえて考慮すべき諸事情に照らすと,国会における是正の実現に向けた取組が平成24年大法廷判決の趣旨を踏まえた国会の裁量権の行使の在り方として相当なものでなかったということはできず,平成25年選挙までの間に更に上記の見直しを内容とする法改正がされなかったことをもって国会の裁量権の限界を超えるものということはできないと判示した。

(5)  平成25年9月,参議院において平成25年選挙後に改めて選挙制度の改革に関する検討会(以下「検討会」という。)が開かれて,その下に選挙制度協議会が設置され,同協議会において,同月以降おおむね月数回ずつ有識者等からの意見や説明の聴取をした上で協議が行われ,同26年4月には選挙制度の仕組みの見直しを内容とする具体的な改正案として座長案が示され,その後に座長調整案も示された。これらの案は,基本的には,人口の少ない一定数の選挙区を隣接区と合区してその定数を削減し,人口の多い一定数の選挙区の定数を増やして選挙区間の最大較差を大幅に縮小するというものであるところ,同協議会において,同年5月以降,上記の案や参議院の各会派の提案等をめぐり検討と協議が行われた(上記各会派の提案等の中には,上記の案を基礎として合区の範囲等に修正を加える提案のほか,都道府県に代えてより広域の選挙区の単位を新たに創設する提案等が含まれている。)が,各会派の意見は一致せず,同年12月26日の協議会において,各会派から示された改革案を併記する形で作成された「選挙制度協議会報告書」が了承され,同日,参議院議長に提出された。(乙7~10)

(6)  検討会は,平成27年2月25日,同年4月16日及び同年5月21日にも協議を行ったものの,各会派が一致する結論を得られなかったことから,同月29日,検討会での協議は一区切りをつけることとし,今後は委員会や本会議で結論を出していくこととなった。その後,各会派内及び各会派間における検討が進められ,次第に,参議院選挙区選出議員の選挙区に合区を導入することを内容とする,①「4県2合区を含む10増10減」の改正と,②「20県10合区による12増12減」の改正の2案に集約され,同年7月14日に上記②に基づく法律案が発議され,同月23日に上記①に基づく法律案が委員会審査省略要求を付して発議され,同月14日の法律案が撤回された上で,同月23日に改めて上記②に基づく法律案が委員会審査省略要求を付して発議された(なお,上記②に基づく法律案は,(a)秋田県及び山形県,石川県及び福井県,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県,佐賀県及び長崎県をそれぞれ合区し,合区後の選挙区の定数をいずれも2と定め,(b)富山県及び岐阜県,山梨県及び長野県,奈良県及び和歌山県,香川県及び愛媛県,大分県及び宮崎県をそれぞれ合区し,合区後の選挙区の定数をいずれも4と定め,(c)北海道選挙区,兵庫県選挙区及び福岡県選挙区の定数をいずれも4から6に,埼玉県選挙区及び愛知県選挙区の定数をいずれも6から8に,東京都選挙区の定数を10から12にそれぞれ増員することを骨子とするものであり,同案に基づく定数配分規定による選挙区間の最大較差は1.95倍となるものであった。)。そして,上記①に基づく法律案は,同月24日に参議院本会議で賛成多数により可決されて衆議院に送付され,同月28日に衆議院本会議において賛成多数により可決され,成立した(平成27年改正法。なお,上記②に基づく法律案は,同月24日の参議院本会議で上記①に基づく法律案が可決された結果,議決を要しないものとなった。)。平成27年改正法附則7条には,平成31年に行われる通常選挙に向けて,参議院の在り方を踏まえて,選挙区間における議員1人当たりの人口の較差の是正等を考慮しつつ選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討を行い,必ず結論を得るものとする旨の規定が置かれている。また,平成27年改正後の定数配分規定(本件定数配分規定)によれば,平成22年10月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.97倍であり,各選挙区における同人口,議員定数及び最小選挙区との較差は,別紙1の「改正後」の表記載のとおりである。(乙4,7,8)

(7)  本件選挙当時の選挙区間の最大較差は3.08倍であり,本件選挙当日の選挙区別の有権者数,議員定数,議員1人当たりの有権者数及び較差は,別紙2記載のとおりである(乙1,4)。

2  判断枠組み

(1)  昭和58年大法廷判決以降の最高裁判例で示された基本的な判断枠組み

最高裁判所は,参議院議員(地方選出議員又は選挙区選出議員)選挙における,定数配分規定の憲法適合性について,昭和58年大法廷判決以降累次の大法廷判決によって,次のような基本的な判断枠組みを示している。

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば,議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等,すなわち投票価値の平等を要求していると解される。しかしながら,憲法は,国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるために選挙制度をどのような仕組みにするかの決定を国会の裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的又は理由との関連において調和的に実現されるべきものである。それゆえ,国会が具体的に定めたところがその裁量権の行使として合理性を有するものである限り,それによって投票価値の平等が一定の限度で譲歩を求められることになっても,憲法に違反するとはいえない。

憲法が二院制を採用し衆議院と参議院の権限及び議員の任期等に差異を設けている趣旨は,それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって,国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあると解される。前記1(1)で摘示した参議院議員の選挙制度の仕組みは,このような観点から,参議院議員について,全国選出議員(昭和57年法律第81号による改正後は比例代表選出議員)と地方選出議員(同改正後は選挙区選出議員)とに分け,前者については全国(全都道府県)の区域を通じて選挙するものとし,後者については都道府県を各選挙区の単位としたものである。昭和22年の参議院議員選挙法及び同25年の公職選挙法の各制定当時において,このような選挙制度の仕組みを定めたことが,国会の有する裁量権の合理的な行使の範囲を超えるものであったということはできない。しかしながら,社会的,経済的変化の激しい時代にあって不断に生ずる人口変動の結果,上記の仕組みの下で投票価値の著しい不平等状態が生じ,かつ,それが相当期間継続しているにもかかわらずこれを是正する措置を講じないことが,国会の裁量権の限界を超えると判断される場合には,当該定数配分規定が憲法に違反するに至るものと解するのが相当である。

(2)  当裁判所の採用する判断枠組み

当裁判所も,上記(1)で摘示した基本的な判断枠組みに従い,定数配分規定の憲法適合性を判断するのを相当と判断する。もっとも,平成26年大法廷判決は,平成16年,同18年及び同21年の前掲各大法廷判決においては,上記の判断枠組みは基本的に維持しつつも,選挙制度の仕組み自体の見直しが必要である旨の平成21年大法廷判決の指摘を含め,投票価値の平等の観点から実質的にはより厳格な評価がされるようになっていたと指摘しているところであり,当裁判所もこの点に留意した上で検討を進める。

(3)  原告らの主張について

この点,原告らは,憲法56条2項,1条及び前文によれば,憲法は厳格な人口比例選挙を保障している旨主張する。しかしながら,憲法43条2項,47条が,議員の定数,選挙区,投票の方法等選挙に関する事項を法律で定めるべきものとしており,その趣旨が,多種多様な国民の利害や意見を効果的に国政に反映させるために,その方法を国会の裁量に委ねたものと解されることなどに照らすと,憲法56条2項等をもって,国会が選挙制度の仕組みを定めるに当たり人口比例以外の要素を考慮することを許さない趣旨であると解することはできず,原告らの上記主張は容れることができない。

3  本件選挙時における投票価値の不平等状態の程度について

(1)  憲法は,二院制の下で,一定の事項について衆議院の優越を認める反面,参議院議員につき任期を6年と衆議院議員よりも長期とし,解散もなく,選挙は3年ごとにその半数について行うことを定めている(45条ただし書,46条,54条,59条~61条)。その趣旨は,立法を始めとする多くの事柄について参議院にも衆議院とほぼ等しい権限を与えつつ,参議院議員の任期をより長期とすることなどによって,多角的かつ長期的な視点からの民意を反映させ,衆議院との権限の抑制,均衡を図り,国政の運営の安定性,継続性を確保しようとしたものと解される。いかなる具体的な選挙制度によって,上記の憲法の趣旨を実現し,投票価値の平等の要請と調和させていくかは,二院制の下における参議院の性格や機能及び衆議院との異同をどのように位置付け,これをそれぞれの選挙制度にいかに反映させていくかという点を含め,国会の合理的な裁量に委ねられていると解すべきところであるが,その合理性を検討するに当たっては,参議院議員の選挙制度が設けられてから約70年にわたる制度及び社会状況の変化を考慮することが必要である。

前記1で認定した参議院議員の選挙制度の変遷を衆議院議員の選挙制度の変遷と対比してみると,両議院とも,政党に重きを置いた選挙制度を旨とする改正が行われている上,都道府県(ただし,鳥取県及び島根県,徳島県及び高知県については,それぞれ2県を合せた地域)又はそれを細分化した地域を選挙区とする選挙と,より広範な地域を選挙の単位とする比例代表選挙との組合せという類似した選出方法が採られ,その結果として同質的な選挙制度となってきており,急速に変化する社会の情勢の下で,議員の長い任期を背景に国政の運営における参議院の役割がこれまでにも増して大きくなってきているといえることに加えて,衆議院については,この間の改正を通じて,投票価値の平等の要請に対する制度的な配慮として,選挙区間の人口較差が2倍未満となることを基本とする旨の区割りの基準が定められていることにも照らすと,参議院についても,二院制に係る上記の憲法の趣旨との調和の下に,更に適切に民意が反映されるよう投票価値の平等の要請について十分に配慮することが求められるところである。そして,さきに述べたような憲法の趣旨,参議院の役割等に照らすと,参議院は衆議院とともに国権の最高機関として適切に民意を国政に反映する機関としての責務を負っていることは明らかであり,二院制それ自体を根拠として直ちに参議院議員選挙の選挙区選挙における投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難い。

(2)  平成27年改正前の公職選挙法は,参議院議員の選挙区選挙につき都道府県を選挙区の単位としていたところ,都道府県が歴史的にも政治的,経済的,社会的にも独自の意義と実体を有し,政治的に一つのまとまりを有する単位として捉え得ることに照らし,都道府県を各選挙区の単位とすることによりこれを構成する住民の意思を集約的に反映させ得るという点で相応の合理性を有するものであった。確かに都道府県を参議院議員の各選挙区としなければならない憲法上の要請はなく,都道府県を各選挙区の単位として定めることによって数十年間にもわたり5倍前後の大きな較差が継続していたことからすれば,上記の都道府県の意義や実体等をもって,上記のような大きな較差を正当化するには足りないにせよ(平成26年大法廷判決参照),人口の少ない鳥取県,島根県,徳島県及び高知県の4県について合区を行うことなどを内容とする平成27年改正後の本件定数配分規定の下における最大較差が2.97倍にまで縮小していたことからすれば,上記の都道府県の意義や実体等を踏まえ,選挙区選出の参議院議員に地域代表的性格を持たせるべく,一部の選挙区を合区しつつも,基本的に都道府県を各選挙区の単位として定めることはなお相応の合理性を有するものと評価し得る。

そして,参議院議員の総定数を増やす方法を採ることには財政上の限界があると推認できる上に(全国知事会総合戦略・政権評価特別委員会のアドバイザー組織として設置された憲法と地方自治研究会〔同研究会は,合区は緊急避難的に設けられたものであり,今後抜本的見直しを図っていく必要があると結論付けている。〕が平成28年3月に公表した中間報告案においても,参議院議員の総定数を252に,選挙区選出議員の定数を180に増加させるにとどまっている〔乙14〕。),半数改選という憲法上の要請を踏まえて定められた偶数配分を前提とすると,投票価値の是正には一定の技術的制約があることは否定できない。もっとも,前記認定事実1(6)記載のとおり,20県10合区による12増12減案によれば,選挙区間の最大較差は1.95倍まで縮小させることも可能であったことからすると,参議院議員の総定数を増やすことに財政上の限界があることや,憲法の定める半数改選制に基づく偶数配分を前提とすることをもって,選挙区間の最大較差を2.97倍にまで縮小した平成27年改正を直ちに正当化し得るものではない。

(3)  前記認定事実1(4)ないし(6)によれば,平成27年改正に至る経緯は,選挙区間の投票価値の不均衡は違憲の問題が生ずる程度の著しい不平等状態であると判断し,参議院議員の選挙制度の仕組み自体の見直しを促す平成24年大法廷判決及び平成26年大法廷判決を受け,また,平成24年改正法附則の検討条項を踏まえ,検討会や選挙制度協議会において同協議会の座長や各会派が様々な改革案を提示するなどして協議をしたものの,各会派が一致する結論は得られず,各会派内及び各会派間における検討を経て,4県2合区を含む10増10減案と,20県10合区による12増12減案とに集約され,最終的に前者が平成27年改正法として成立したものであると要約することができる。

上記2案や座長が提示した改革案は,いずれも人口の比較的少ない県を隣接する県と合区するという点で一致しているところ,全国町村会やこれらの案で合区の対象とされた県やその区域内の市町村等は,検討会及び選挙制度協議会における検討・協議が行われている時期から平成27年改正法の成立までの間に,地方の声が直接国政に反映されなくなるとして,合区に反対する意見を表明していた(乙13〔枝番を含む。〕)。特に,同協議会の座長案は,佐賀県と福岡県とを合区することを含む内容であったところ,佐賀県唐津市議会は,平成26年6月24日に,衆議院議長,参議院議長及び内閣総理大臣に対し,「福岡県の人口は佐賀県の6倍で,佐賀県から代表を参議院に送ることが極めて困難なことは明白である」などと指摘する意見書を提出していた(乙13の2)。また,平成27年改正法の発議者は,鳥取県,島根県,徳島県及び高知県以外の県を合区の対象としなかった理由として,徳島県の次に人口の少ない都道府県は福井県であるところ,福井県に隣接する府県のいずれも人口がそれほど少ないわけではなく,福井県との合区の対象となった府県と人口のより少ない県との間で不公平となる旨を説明していたほか,両案の発議者以外の議員は,20県10合区による12増12減案につき,社会的・地理的つながりがほとんどないような県が合区の対象になっているのではないかと質問した(乙11の1)。

これらの平成27年改正法の制定過程における状況に照らせば,立法府において違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態(いわゆる違憲状態)を早急に是正しなければならないという点においては一致していたものの,その事柄の性質上,その是正方法については政治的意見の対立が著しく,調整が著しく困難であったことがうかがわれる上に,合区という手法自体に対する反対意見が表明されていたことや,4県2合区を超えて合区の対象を拡大することの問題点(それほど人口の少なくない府県が合区の対象となった場合の不公平,人口に大きな差がある府県同士を合区することの当否等)が指摘されていたことをも踏まえると,国会が平成24年大法廷判決や平成26年大法廷判決の指摘を踏まえ,選挙区間の最大較差が5倍前後で推移していた違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を緊急に解消すべく,附則に平成31年の通常選挙に向けて選挙制度の抜本的な見直しについて引き続き検討し,必ず結論を得るものとする旨の検討条項を置くことを前提として,4県2合区を含む10増10減を内容とする平成27年改正法を成立させたことは,投票価値の平等の観点からはなお継続的な見直しと是正を要し,不十分な点が残るというべきであるものの,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態を早急に是正するための立法措置としてはやむを得なかったといわざるを得ない。

(4)  以上の検討結果に加え,参議院議員選挙法制定当時の定数配分規定(昭和21年の臨時国勢調査による人口に基づく選挙区間の最大較差は2.62倍)は憲法に適合するものであったところ(昭和58年大法廷判決),本件選挙時の選挙区間の最大較差3.08倍は上記2.62倍から大幅に乖離しているとまでは直ちにいえないことをも踏まえれば,本件選挙当時,本件定数配分規定の下での選挙区間における投票価値の不均衡は,投票価値の平等の重要性に照らして看過し得ない程度に達しているとまでは断定することができない。すなわち,本件選挙当時,違憲の問題が生ずる程度の投票価値の著しい不平等状態が存在したとまではいえない。

4  結論

そうすると,その余の点について論ずるまでもなく,本件定数配分規定が憲法に違反するとまではいえないから,本件選挙の選挙区選挙が無効であるともいえない。

よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田肇 裁判官 原司 裁判官 尾河吉久)

<以下省略>

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