高松高等裁判所 平成8年(う)26号 判決 1997年3月27日
本店所在地
徳島市住吉四丁目一二番二〇号
株式会社大協ハウス工業
右代表者代表取締役
山田カヨ子
本籍
徳島市住吉四丁目三一六番地の五
住所
同市住吉五丁目六番六号
会社員(元会社役員)
山田孝
昭和二二年五月五日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、徳島地方裁判所が平成七年一二月八日言い渡した判決に対し、被告人両名から控訴の申立てがあったので、当裁判所は、検察官天野惠太出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
本件各控訴を棄却する。
理由
本件各控訴の趣意は、弁護人中田祐児作成の控訴趣意書及び控訴趣意書訂正申立書に記載のとおりであり、これに対する答弁は検察官井村立美作成の答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。
論旨は、事実誤認の主張であるが、要するに、原判決は、被告人株式会社大協ハウス工業の代表取締役であった被告人山田孝が、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、不動産取引に架空法人を介在させるなどして取得原価の水増しや売上除外を行うなどの方法により所得の一部を秘匿した上、平成元年三月一日から平成二年二月八日までの事業年度(以下、「平成二年二月期」という)の所得金額が四七八七万五〇五一円、その法人税額が二六八七万二一〇〇円であるのに、同事業年度の欠損金額は八万〇五四七円、納付すべき法人税額はない旨の虚偽の法人税確定申告書を提出して、正規の法人税額全額を免れ、平成二年三月一日から平成三年二月二八日までの事業年度(以下、「平成三年二月期」という)の所得金額が三六四一万九五四四円、その法人税額が一九〇七万九二〇〇円であるのに、同事業年度の所得金額は三四〇万二四五三円、納付すべき法人税額は九八万四七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出して、その差額一八〇九万四五〇〇円を免れ、平成三年三月一日から平成四年二月二九日までの事業年度(以下、「平成四年二月期」という)の所得金額が三五七六万五八〇五円、その法人税額が一六〇三万三一〇〇円であるのに、同事業年度の欠損金額は一一七二万二四四五円、納付すべき法人税額はない上、一万一四〇四円の還付を受けることとなる旨の虚偽の法人税確定申告書を提出して、その合計額一六〇四万四五〇〇円を免れた旨認定したが、右認定の被告会社の所得金額には誤りがあり、平成二年二月期は一一一〇万九〇〇〇円、平成三年二月期は一二三一万二〇〇〇円、平成四年二月期は一〇九七万二〇〇〇円、それぞれ所得金額が過大に認定されているから、この点において、原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。
よって、所論にかんがみ記録及び当審における事実取調べの結果を総合して検討するに、原判決挙示の関係各証拠によれば原判決の認定した所得金額は優に肯認でき、当審における事実取調べの結果によっても、この判断は動かし得ない。以下に、所論の指摘する点について順次説明する。
一 豊永宗雄及び稼勢一俊に支給した給料について
所論は、被告会社は、豊永に対し平成元年四月分の給料から月四〇万三〇〇〇円を、稼勢に対しては全期間にわたり月五〇万三〇〇〇円をそれぞれ公表額どおり支給していたものであり、原判決が、豊永に対して平成元年四月分から月二六万円、稼勢に対しては月二四万円の支給しか認めなかったのは事実を誤認したものであるというのである。
そこで、まず、豊永らの給料の実額を認定しうる確実で客観的な資料があるか否かを検討するに、所論は、徳島銀行助任支店の同人ら名義の口座に公表給料額から源泉徴収等を控除した額に相当する金額が振り込まれている点を指摘する。確かに、同支店作成のお取引照合表写し二通(原審弁護人請求証拠番号2、3)によれば、所論の指摘するような入金がされている事実が認められる(ただし、豊永については平成三年四月分から)が、右の口座の入出金状況をみると、所論指摘の入金と同日に同額の引出しがなされている以外にはなんらの入出金も記録されておらず、この点をもってしても、これらの口座が豊永らが現実に使用していた口座であるとは認め難いのみならず、原審証人山田カヨ子及び同稼勢一俊の各証言等の関係各証拠によれば、豊永らに対する給料支給は、被告会社の経理担当従業員である大谷真理子が各月の支給額を計算し、これに基き被告人山田の妻カヨ子が小切手を振出して被告会社の口座から右各口座に振り替え、さらにこれを前記支店の銀行員が引き出して被告会社に持参し、山田カヨ子が現金で給料を支給するという方法で行われていたことが認められるのであって、このような振込みの事実から公表額どおりの給料支給があったと認めることはもともとできないものであり、さらには、右のような振込みをする必要性は全く見出せないのであって、公表額どおりの給料支給を仮装するための処理であった疑いすらもたれるものである。次に、豊永らに対する給料支払明細書の控え(当庁平成八年押第六号の8)については、公表給料額を記載したものとその二分の一ないし三分の一程度のかなり少額の給料を記載したものとの二通があり、原審証人山田カヨ子及び同稼勢一俊は、少額のものは妻に見せるためのもので、公表額を記載したものが実際の支給額であると証言しているが、それにしては金額の差があまりに大きすぎることや前記のような不自然な口座振込みが行われていたことなどに照らすと、右公表給料額を記載した明細書写しの存在をもって豊永らの給料支給額を認定することはできない。
そうすると、豊永らに対する給料支給額については、これを認定すべき確実な客観的証拠は存在しないところ、山田カヨ子、豊永及び稼勢は、本件の調査において、豊永の給料は平成元年四月分から月二六万円、稼勢の給料は月二四万円であったと一致して供述し(山田カヨ子については、大蔵事務官作成の給料手当調査書(原審検察官請求証拠番号25)による。)、被告人山田も、具体的な水増しの額は山田カヨ子に任せていたので知らないとしながらも給料水増しの事実を認めており、これらの供述内容に特段の疑問はうかがわれないところからすると、右各供述はいずれも信用できるものと認められ、これに反する原審証人山田カヨ子及び同稼勢一俊の各証言はいずれも信用できない。
なお、当審における事実取調べの結果によると、豊永及び稼勢については、平成五年以降、平成二年二月期から平成四年二月期までの公表給料額に近い、あるいはこれを上回る所得があった旨の徳島市長と勝浦町長の所得証明がなされており、被告会社がこれに見合う源泉徴収をして納付しているものと推測されるが、このことは、被告会社が平成五年以降右所得証明にかかる金額を給料として実際に支給していたと認めるべき確実な資料とまではいえず、さらに進んで、このことから、被告会社が、平成二年二月期ないし平成四年二月期に、豊永らに対し、公表給料額を支給していたものと認めることはできない。所論は採用できない。
二 徳島県板野郡北島町江尻字松堂一七-四(以下、徳島市所在の土地以外はいずれも徳島県板野郡であり、その記載を略する。)ほかの取引について
所論は、この土地取引は、株式会社村上不動産と共同で行ったものであり、被告会社は右土地上の建物を売っただけで、土地売買の利益は全て村上不動産が取得したものであるから、これをも被告会社の所得と認定した原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、まず、この点については、原審では、弁護人が冒頭陳述及び弁論で概括的に主張するのみで、具体的な立証は全くなかったものであるが、当審において、被告人山田は右所論に沿う供述をしている。しかし、被告会社が脱税のために使用していたいわゆるダミー会社である大協開発株式会社名義で右土地を三好宏彦らから買い受けた旨の契約書や領収書が被告会社から発見押収され、右契約を仲介した大森亜紀も、被告会社が買主であると認識していた旨質問てん末書で供述しているところ、被告人山田も、調査の段階では、被告会社が本件土地を購入する際、村上不動産が先に交渉していたため同社と共同で買い受けることとし、その転売利益八六五万三〇〇〇円から仲介報酬等の諸経費を控除し、そのうちから四〇〇万円を同社に支払った旨取引の経過を具体的に供述しており、右供述内容に不自然な点はなく信用できるものと認められ、これに反し、土地の転売利益を全て村上不動産が取得したという被告人山田の前記当審供述は信用できない。所論は採用できない。
三 徳島市川内町平石若松一六三-一の取引について
所論は、この土地取引に関しては、仲介報酬として購入の際七〇万円、売却の際一〇三万円をそれぞれ支払っているのに、これを認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、この点についても、原審では、弁護人が冒頭陳述及び弁論で概括的に主張するのみで、具体的な立証は全くなかったものであるが、当審において、被告人山田は、右購入及び売却のいずれをも仲介した広瀬洋一郎に所論のとおりの仲介報酬を支払った旨供述している。確かに、これらの売買の契約書には広瀬が宅地建物取引業者及び取引主任者として署名押印しており、同人が仲介をしたことは認められるが、仲介報酬の支払いを裏付ける領収書等の確実な証拠はなく、被告人山田も、調査の段階では、被告会社は右土地の売却の際にいわゆるダミー会社として使用した有限会社百龍商事の関係者である大利忠弘に、いわゆる判つき料として五〇万円を支払ったが、それ以外の仲介報酬等の諸費用は支払っていない旨供述しているところからすると、被告会社は所論のような仲介報酬を支払っていないものと認められる。所論は採用できない。
四 徳島市南沖洲五丁目一五七の取引について
所論は、この土地取引に関しては、被告会社が売主の廣瀬博士らから購入した際の契約書等には、実際の売買金額よりも坪当たり六万円低い金額が記載されているにもかかわらず、右契約書等による取得金額しか認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、被告人山田は当審及び原審で所論に沿う供述をしているが、その裏付けとなる書証等の確実な証拠はなく、その仲介報酬三六万円は売買代金の三パーセントであるから契約書の売買代金額が坪当たり六万円圧縮されていることが分かるというのである。しかし、関係各証拠によれば、本件土地の契約書記載の売買代金は九三九万円であるが、これを手付一〇〇万円と残金八三九万円に分けて支払った旨の領収書があり、加えて売主の廣瀬らの預金口座にも同額の入金があること、原審証人廣瀬博士も契約書以外の金員は一切受け取っていない旨証言し、被告人山田も、調査の段階では契約書記載の売買代金額で取引をした旨供述し、所論のような事実は全く主張していないことからすると、右取引は契約書記載の売買代金額でなされたものと認められ、仲介報酬の点のみから所論のような代金額の圧縮がなされたものと認めることはできない。所論は採用できない。
五 北島町鯛浜字大西七三-一一ほかの取引について
所論は、この土地取引に関しても、被告会社が売主の中山和英から購入した契約書には、実際の売買金額よりも坪当たり六万円低い金額が記載されているにもかかわらず、右契約書による取得金額しか認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、被告人山田は当審及び原審で所論に沿う供述をしているが、その裏付けとなる書証等の確実な証拠はなく、その仲介報酬五九万六〇〇〇円は売買代金の三パーセントであるから契約書の売買代金額が坪当たり六万円圧縮されていることが分かるというのである。しかし、関係各証拠によれば、本件土地の契約書記載の売買代金額は一五二九万二〇〇〇円とされ、中山和英の妻中山珪子は、これを手付一五〇万円と残金一三七九万二〇〇〇円に分けて受け取った旨供述し、被告人山田も、調査の段階では契約書記載の売買代金額で取引をした旨供述し、所論のような事実は全く主張していないことからすると、右取引は契約書記載の売買代金額でなされたものと認められ、仲介報酬の点のみから所論のような代金額の圧縮がなされたものと認めることはできない。所論は採用できない。
六 徳島市八万町中津浦一二四-七の取引について
所論は、この土地取引に関しても、被告会社が売主の近藤博昭から購入した契約書等には、実際の売買金額よりも坪当たり一万円低い金額が記載されているにもかかわらず、右契約書等による取得金額しか認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、被告人山田は当審及び原審で所論に沿う供述をし、この土地は国土利用計画法の関係で坪当たり二七万五〇〇〇円を超える金額では売買できない土地であったが、売主がこれに不満であったため坪当たり一万円を別途支払ったというのである。しかし、その裏付けとなる書証等の確実な証拠はなく、関係各証拠によれば、本件土地の売買契約書上の売買代金額は一四六一万九〇〇〇円であって、これを手付一五〇万円と残金一三一一万九〇〇〇円に分けて支払った旨の領収書があり、近藤博昭の母近藤由子もこれに沿う供述をし、被告人山田も、調査の段階では契約書記載の売買代金額で取引をした旨供述し、所論のような事実は全く主張していないことからすると、右取引は契約書記載の売買代金額でなされたものと認められ、被告人山田の当審及び原審における前記供述は信用できない。所論は採用できない。
七 北島町鯛浜字川久保一七二-一の取引について
所論は、この土地取引に関しても、被告会社が売主の株式会社三恵不動産から購入した契約書等には、実際の売買金額よりも坪当たり四万円低い金額が記載されているにもかかわらず、右契約書等による取得金額しか認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、被告人山田は当審及び原審で所論に沿う供述をしているが、その裏付けとなる書証等の確実な証拠はなく、関係各証拠によれば、本件土地の契約書記載の売買代金額は二〇五四万円とされているが、契約書中に記載の手付二〇〇万円の支払いのほか、被告会社が残代金一八五七万二〇〇〇円を支払った旨の領収書があり、三恵不動産の帳簿にもこれらに沿う入金の記載があり、これ以外に所論がいうような入金の記載はなく、被告人山田も、調査の段階では右の合計額二〇五七万二〇〇〇円で取引をした旨供述し、所論のような事実は全く主張していないことからすると、右取引の売買代金は二〇五七万二〇〇〇円でなされたものと認められ、被告人山田の当審及び原審における前記供述は信用できない。所論は採用できない。
八 徳島市川内町平石若松五八の取引について
所論は、この土地取引は、株式会社正幸不動産と共同で(出資割合は被告会社が三分の一)行ったものであるが、この土地を野口孝から買収した契約書には坪当たり五〇〇〇円低い金額が記載されており、被告会社は、正幸不動産と共同して右出資割合に応じてその差額を野口に支払っているにもかかわらず、これを認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、被告人山田は当審及び原審で所論に沿う供述をしているが、その裏付けとなる書証等の確実な証拠はなく、そもそも、本件取引にかかる被告会社の所得額の認定は、山田カヨ子が被告会社の裏金を管理するためにつけていたクレーム処理不満リストと表記のノート(当庁平成八年押第六号の7)の二、三頁に本件取引による被告会社の入出金状況が記載されていたことに基づくものであり、右ノートには所論のような支払いの記載はなく、右ノートはその性質上正確に記載されたものと認められるから、これに照らし被告人山田の前記供述は信用できず(被告人山田は、山田カヨ子が右の支払いを記載しなかっただけではないかというが、右ノートには仲介報酬の細かい支払いまで記載されており、所論のような支払いがあったとすれば、これが記載されないことは考えにくい。)、加えて、関係各証拠によれば、本件土地の契約書記載の売買代金額は一億〇三五〇万円とされており、野口も右金額を三回に分けて受け取った旨供述し、被告人山田も、調査の段階では、前記ノートに基づいて被告会社の所得額を詳細に供述し、所論のような事実は全く主張していないことからすれば、被告会社は所論のような支払いをしていないものと認められる。所論は採用できない。
九 徳島市川内町富吉五三-一ほかの取引について
所論は、この土地取引は、株式会社山村建設と共同で(出資割合は被告会社が二分の一)行ったものであるが、この土地を泉佳秀らから買収した契約書には坪当たり五〇〇〇円低い金額が記載されており、被告会社は、山村建設と共同して右出資割合に応じてその差額を泉らに支払っているにもかかわらず、これを認めなかった原判決は事実を誤認したものであるというのである。
そこで検討するに、被告人山田は当審及び原審で所論に沿う供述をしているが、その裏付けとなる書証等の確実な証拠はなく、そもそも、本件取引にかかる被告会社の所得額の認定は、被告人山田が本件取引に伴う被告会社と山村建設との利益分配状況を明らかにするために作成した書面(当庁平成八年押第六号の6)に基づくものであり、右書面には所論のような支払いの記載はなく、右書面はその作成の趣旨や記載内容からみて正確に記載されたものと認められるから、これに照らし被告人山田の前記供述は信用できず(これについても、被告人山田は、単に右の支払いを記載しなかっただけであるというが、これが不合理であることは前記ノートの場合と同様である。)、加えて、関係各証拠によれば、本件土地の契約書記載の売買代金額は三・三平方メートル当たり一二万六〇〇〇円とされ、泉は右契約による売買代金八三二〇万円を二回に分けて受け取った旨供述し、被告人山田も、調査の段階では、前記書面に基づいて被告会社の所得額を詳細に供述し、所論のような事実は全く主張していないことからすれば、被告会社は所論のような支払いをしていないものと認められる。所論は採用できない。
その他所論にかんがみ記録を調査し、当審における事実取調べの結果をあわせて検討しても、原判決に所論のいうような事実の誤認はない。論旨はいずれも理由がない。
なお、弁護人は、平成九年二月一七日付け事情説明書と題する書面において、徳島市名東町三丁目五六四-一ほかの取引についても、所得額の認定が過大である旨の主張をしているが、右は控訴趣意書差出期間経過後に提出されたものであって、これが当初の控訴趣意を補充するものでないことは、その内容から明らかであり、かつ、当審で調査してみても、記録によれば、この点は既に原審で争点とされていた事項であって、これを右差出期間内に提出できなかったことが、刑事訴訟規則二三八条所定の「やむを得ない事情」に基づくものとは認められないから、その主張を控訴趣意として取り上げることはできない。また、念のため、右の主張に関して職権により調査してみても、記録によれば、右土地については、被告会社が正幸不動産と共同で、平成三年四月一九日に山村建設から購入したが、平成四年二月までに転売することができなかったものであるから、これによる所得は本件公訴事実の対象とされている平成二年二月期ないし平成四年二月期までの所得として実現しておらず、原判決の認定もこれと同旨であるから、原判決に所論のような事実の誤認はない。
よって、被告人両名に対し、刑事訴訟法三九六条により、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 田中明生 裁判官 西村則夫 裁判官 山本恵三)
控訴趣意書
被告人 株式会社 大協ハウス
被告人 山田孝
右の者に対する御庁平成八年(う)二六号法人税法違反被告事件について、弁護人は次のとおり控訴の趣旨を申し述べます。
平成八年四月一五日
右弁護人 中田祐児
高松高等裁判所第一部 御中
記
一、原判決は、豊永宗雄及び稼勢一俊に対する給与について被告人会社が平成元年度から平成三年度にかけて給与の水増しを行なっていた事実を認定し、水増し分を脱税したものと判断している。
すなわち、豊永宗雄については、月額四〇万三〇〇〇円を支給していたと申告しながら、実際に支給していたのは月額二六万円であり、その差額一五七万三〇〇〇円(平成元年度)もしくは一七一万六〇〇〇円(平成二年度及び平成三年度)を脱税したというのである。
また、稼勢一俊についても、月額五〇万三〇〇〇円を支給していたと申告しながら、実際に支給していたのは月額二四万円であり、その差額三一五万六〇〇〇円を平成元年度から平成三年度にかけて脱税したというのである。
しかしながら、右において実際に支給されたという豊永宗雄の月額二六万円、稼勢一俊の月額二四万円という金額は全く何の根拠もない数字なのである。すなわち、本件税務調査の過程において、調査官から被告会社に対し豊永及び稼勢について給与の支払明細書が二種類存在していたことから、給与の水増しがあると決めつけられ、会社において適当な金額を書いて出すよう示唆があり、その結果右金額を書き出したのものにすぎないのであって、この数字には何の根拠もない、被告会社において適当に考えたものである。調査官も右事実を知りながら、右金額を実際の支給額として考えて差額を水増し額として脱税額を計算しているのである。
豊永と稼勢のそれぞれについて給与の支払明細書が二種類作られているのは、同人らにおいて家族に見せるためのものをつくって欲しいとの申出によるものであり、被告会社の都合によるものではないのである。同人らは少なく記載された給与明細書を妻に見せ、実際の支給額との差額を自由に使える金額として留保していたものなのである。
豊永及び稼勢に対しては、徳島銀行助任支店の同人らの口座にそれぞれ現実に給与が振込まれているのであって、その額は申告額から健康保険料等を差引いた差額なのであり、前記の二六万円ないし二四万円を基準とするものではない。
以上の次第であるので、本件において豊永及び稼勢の給料について水増しがあるものと認定し、脱税額の存在を認めた原判決は事実を誤認するものである。
二、被告会社が平成元年から平成三年にかけて行なった不動産取引において圧縮がなされている。
その内容は別紙一覧表のとおりであり、その額は一八三八万円に及んでいる。この額は被告会社にとっては同額の経費を必要としたということになるはずであり、本件脱税額の減額要素となる。
原判決は、右の圧縮の事実を全く認めようとしなかったものであるが、これは被告会社に不動産を売却した者にとっては脱税行為であり、同人らが素直に圧縮の事実を認めるはずのないものであって、同人らの供述のみを一方的に信用すべきではないのである。
しかしながら、被告人山田孝が詳述する如く、本件において売買金額の中に圧縮分が存在することがあることは明らかであり、なお御庁において再度の御判断を求めるものであります。
以上
別紙圧縮額相違一覧表
<省略>
控訴趣意書訂正申立書
被告人 株式会社大協ハウス工業
被告人 山田孝
右の者らに対する御庁平成八年(う)二六号法人税法違反被告事件について、弁護人は次のとおり控訴趣旨書を訂正致します。
平成八年一〇月八日
右弁護人弁護士 中田祐児
高松高等裁判所第一部 御中
記
一、別紙圧縮額相違一覧表中、平成二年度の住所欄「南沖洲一丁目」とあるを「南沖洲五丁目」に訂正する。
二、右同一覧表、北島町鯛ノ浜字大西の土地の圧縮額「四万円」とあるを「六万円」に、これに伴って相違金額「三〇八」万円を「四六二」万円に訂正する。
以上
平成八年(う)二六号
答弁書
法人税法違反 株式会社 大協ハウス工業
山田孝
右被告人に対する頭書被告事件について、弁護人の控訴趣旨に対し、左記のとおり答弁する。
平成八年七月一五日