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高松高等裁判所 平成8年(ネ)239号 判決 1997年3月28日

愛媛県伊予三島市寒川町四二二七番地

控訴人

青木常雄

愛媛県伊予三島市寒川町四二二七番地

控訴人

株式会社トキワ工業

右代表者代表取締役

青木常雄

右両名訴訟代理人弁護士

高橋早百合

右両名輔佐人弁理士

小林茂雄

富崎元成

高知市縄手町四八番地

被控訴人

大三株式会社

右代表者代表取締役

合田耕三

右訴訟代理人弁護士

小松英雄

右輔佐人弁理士

辻本一義

主文

一  控訴人らの控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、原判決添付の別紙第一物件目録及び第二物件目録記載の各物件を製造し、又は販売してはならない。

3  被控訴人は、その本店、営業所及び工場に存する前項記載の各物件を廃棄せよ。

4  被控訴人は、控訴人青木常雄に対し、金七〇〇万円及びこれに対する平成七年一二月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え(請求を一部減縮)。

5  被控訴人は、控訴人株式会社トキワ工業に対し、金四二〇〇万円及びこれに対する平成七年一二月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え(請求を一部減縮)。

6  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件事案の概要は、次のとおり補正するほか、原判決事実及び理由「第二事案の概要」記載のとおりであるから、これを引用する。

二  当審における控訴人の主張

構成要件(4)の解釈につき、従前の主張を予備的とし、以下を主位的に主張する。

構成要件(4)は、その一部に経時的、方法的記載が含まれているところ、本来実用新案には方法的記載が認められないが、形態を表現するのに不便な場合に実務上その記載が認められているものであり、その解釈としては、その方法を実施した結果得られる特定の形態を方法の表現を借りて間接的に記載したものであると解されている。

これを構成要件(4)に当てはめれば、「前記袋体の薄片B側の上方左右隅角部C、Dを前記薄片B側の表面の内方に向かって三角形状に折り重ねられて前記開口部2が狭窄されており、前記薄片Aの折り畳み部イが前記薄片B側に折り返されて該開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被された」形状構造のものと解釈されることになる。

第三  証拠関係

証拠関係は、原審記録中の書証目録及び証人等目録並びに当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第四  当裁判所の判断

当裁判所は、控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないと判断するが、その理由は、次のとおり補正するほか、原判決事実及び理由「第三当裁判所の判断」に説示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決二七頁一〇行目の「原則として」を削除し、同二八頁三、四行目の「解すべき場合が多い、といわれている。」を「解すべきである。」と改める。

二  原判決三七頁末行目から四二頁四行目までを次のとおり改める。

「(2)右の点を考慮して、構成要件(4)を解釈すると、物品の形態以外の経時的要素を有する製造方法が構成要件(1)ないし(3)に記載されているように、構成要件(4)前段の「上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面の内方に向かって三角形状に折り重ねて開口部2を狭窄させた」旨の記載も、製造方法の記載をとって使用前の茶パツクの最終の形状構造を特定していると解するのが相当である。

なお、構成要件(4)後段の「薄片Aの折り畳み部イを薄片B側に折り返して開口部2と三角形状隅角部C、Dを包被した」旨の記載も、同様に製造方法の記載を含んで茶パツクの最終の形状構造を特定していると解されないではない。しかしながら、右解釈は、茶葉類を茶パツクに入れる際に一旦閉塞された袋体の開口部を開口して再度閉塞することを必要とすることとなり、考案の詳細な説明欄記載の目的(使用の簡易性)及び社会通念に照らし、実際的でも合理的でもないから、狭窄された開口部を有する茶パツクを使用して閉塞する方法を実施した結果得られる特定の形状構造を使用方法の表現を借りて間接的に記載したにすぎないものと解するのが相当である。

そうすると、構成要件(4)は、開口部が狭窄された形状構造に製造された茶パツクであって、かつ使用時に開口部が閉塞された形状構造によって間接的に特定されたものと解される。

控訴人らは、構成要件(4)前段の狭窄方法も使用方法の記載であって、その使用方法を実施した結果得られる特定の形状構造をその表現を借りて間接的に表現したものと解すべきである(別言すれば、右狭窄方法は、工場においてあらかじめ機械的、画一的に製造させておくものではなく、一般消費者が使用に際して形成するものである)旨主張する。

しかし、実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明欄の記載には、構成要件(4)前段の狭窄方法が使用方法であると指摘した箇所はなく(逆に、構成要件(4)を追加する前の明細書(乙一)、には、開口部を狭窄した一部切欠正面図等が使用状態を示す旨の記載があった。)、また、構成要件(4)後段の閉塞方法の如く使用方法であると解釈しなければ、実際的、合理的な解釈ができないという事情もないことに照らし、採用することができない。

(3) 控訴人らは、予備的に、本件考案の技術的範囲は、構成要件(1)(2)(3)によって特定される有底袋体であって、隅角部C、Dが薄片B側に三角状に折り重なって開口部2を狭窄していると共に、形成された三角形状が薄片B側に折り返された折り畳み部イによって包被されている構造を取り得るように、全体が構成されている茶パツクと解すべきである旨主張する。

しかし、本件考案の出願の経過(構成要件(4)を追加することにより技術的範囲を狭く限定することで本件考案が登録された。)、及び登録請求の範囲の記載(控訴人らの右主張を前提にすれば右狭窄方法を登録請求の範囲に記載する必要はなく、単に考案の詳細な説明欄において説明すれば足りた。)に照らし、到底採用することができない。」

三  原判決四四頁三行目から五四頁八行目までを次のとおり改める。

「3 イ号・ロ号物件が本件考案を(直接に)侵害するか否か。

(一)  前記2で検討したところによると、本件考案に係る茶パツクは、構成要件(1)ないし(3)によって特定された有底袋体であり、かつ、構成要件(4)によつて開口部が狭窄された形状構造の茶パツクであって、使用時に開口部の閉塞された形状構造によって間接的に特定されたものである。

かかる観点から、イ号・ロ号物件が本件考案を侵害するか否かを検討すると、前記引用の原判決事実及び理由「第二の一2、3」のとおり、イ号・ロ号物件は、いずれも開口部が狭窄された形状、構造を有していない物品であるから、本件考案を(直接に)侵害するとは認められない。

二  間接侵害について

控訴人らは、イ号・ロ号物件が一般消費者に購入されて使用される際には、一般消費者によって構成要件(4)の操作が行われて本件考案の侵害品が製造され、イ号・ロ号物件をその他の実用的な用途に用いることはできないので、被控訴人が本件考案の実施品の生産にのみ使用する物を業として生産している旨主張する。

証拠(甲八ないし一二の各1、2、三三ないし三五、検甲三、四、六、原審における検証結果)及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、イ号・ロ号物件の使用方法の説明図(開口部を包被した際のできあがり図)において、その製造当初から、「上方左右隅角部C、D」が若干にせよ三角形状を呈した図をパツケージに表示していたこと、イ号・ロ号物件は、その融着部7、8が端縁から余裕を持って薄片1の両側端に形成されているので、融着部7と8との間隔が薄片1の幅より狭く、かつ隅角部C、Dが直角を成しているので、そのような構造において重畳部3を薄片B側にそのまま折り返すと、上方左右隅角部C、Dは、薄片B側の表面内方に向かって(明確な三角形ではないことがあるにしても)三角形状に折り重ねられて開口部Eが若干狭窄されることが多い(折り畳み部3が折り重ねられたため融着部7、8が内側に位置するけれども、それだけにとどまらず開口部Eを若干狭窄する)ことが認められる。

しかしながら、証拠(甲一三ないし一五の各1、2、乙一四、原審における検証結果)及び弁論の全趣旨によれば、イ号・ロ号物件は、上方左右隅角部C、Dを薄片B側の表面内方に向かって三角状に折り重ねないで、直角状のまま重畳部3を薄片B側に折り返して開口部Eを包被することが可能であること(開口部Eの狭窄は必然的なものではない。乙一四)、被控訴人は、本件訴訟係属中に、重畳部3を折り返した際「上方左右隅角部C、D」を直角になるように整える旨の使用方法をパツケージに表示し(以下「表示変更後の使用方法」という。)、その使用方法を一般消費者に推奨してイ号・ロ号物件を製造販売していること、一般消費者がイ号・ロ号物件を使用する際、上方左右隅角部C、Dを薄片(B側でなく)A側の表面内方に向かって三角状に折り重ねることもあり得ることが認められる。

そうすると、イ号・ロ号物件は、表示変更後の使用方法等に従って、一般消費者によって使用され得るものであり、本件考案の実施品「にのみ」使用する物とは認められない。

また、控訴人は、表示変更後の使用方法は、その使用方法によるメリツトがなく、一般消費者が必ずそのように使用するとは考えられず(余計な作業を付加し効果を減少させるだけであり)、商業的、実用的な意義を有しないので、イ号・ロ号物件は本件考案の実施品「にのみ」使用する物である旨主張する。

しかしながら、表示変更後の使用方法は、上方左右隅角部C、Dを直角に整えることによって閉塞状態が確実になり、茶葉が外に漏れにくいメリツトが考えられること、被控訴人が表示変更後の使用方法を推奨してイ号・ロ号物件を製造販売していることからして、イ号・ロ号物件は、本件考案の実施品以外にも商業的ないし実用的に使用されていると推認されるから、控訴人の右主張も採用できない。

よって、控訴人らの間接侵害の主張は採用できない。」

第五  結論

以上のとおり、原判決は相当であって本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 馬渕勉 裁判官 重吉理美)

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