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高松高等裁判所 平成8年(ネ)450号 判決 1997年5月30日

控訴人

高登産業有限会社

右代表者代表取締役

氏部直一

右訴訟代理人弁護士

立野省一

安藤誠基

被控訴人

宝工業有限会社

右代表者代表清算人

林昭方

右訴訟代理人弁護士

藤本邦人

被控訴人

濱中健一

主文

一  原判決を取り消す。

二  別紙物件目録記載の土地建物につき、被控訴人宝工業有限会社と被控訴人濱中健一との間において、別紙仮登記目録記載の趣旨をもって締結された賃貸借契約はこれを解除する。

三  前項の判決の確定を条件として、被控訴人濱中健一は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の土地及び建物についてなした別紙仮登記目録記載の仮登記の抹消登記手続をせよ。

四  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人

主文同旨

二  被控訴人宝工業有限会社

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

第二  事案の概要及び証拠関係

一  本件事案の概要は、次のとおり付加するほか、原判決事実及び理由「第二事案の概要」記載のとおりであり、証拠関係は、原審及び当審記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決三枚目表一〇行目の「本件建物及び訴外各土地」を「本件各不動産」と改める。

二  当審における争点の追加

抵当権者に対抗できない濫用的短期賃貸借契約を解除することの可否

第三  当裁判所の判断

一  本件各不動産の評価額と控訴人より上位の担保権者の被担保債権額とを比較すると、控訴人が本件競売手続において配当を受ける可能性があることについての認定判断は、原判決事実及び理由「第三 争点に対する判断一」に説示のとおりであるから、これを引用する。

ただし、原判決四枚目表四行目の「甲一ないし九」を「甲一ないし七」と同末行目の「極度額二五〇〇万円」を「極度額二三〇〇万円」と、同枚目裏五行目の「乙四」を「乙五」と、同七行目の「合計五三〇〇万円」を「合計五一〇〇万円」とそれぞれ改める。

二  そこで、さらに本件賃貸借契約が控訴人に損害を与えるかについて検討する。

1  控訴人が被担保債権の全額を回収できないことについて

証拠(甲一二ないし二七の各1、2)によれば、控訴人は、被控訴人会社に対し、本件根抵当権の被担保債権である手形債権三六〇八万八七六五円を有し、その全額が当審口頭弁論終結時において履行遅滞の状態にあることが認められる。

ところで、前記一認定の事実によれば、控訴人の先順位根抵当権者の四国貯蓄信用組合は、少なくとも一八五六万円(ただし元本)、香川県信用保証協会は極度額二三〇〇万円の限度で、株式会社東専クレジットは極度額三〇〇万円の限度で、被担保債権を本件競売手続により回収できることになる。

そうすると、右三社の回収可能債権の合計は、四四五六万円であるから、本件各不動産の評価額五三六〇万円と比較すると、本件各不動産の担保余力は九〇四万円しかなく、控訴人は右被担保債権三六〇八万八七六五円の全額を回収できないことは明らかである。

2  本件賃貸借契約による本件各不動産の減価について

(一) 証拠(甲一ないし七、乙四ないし六)によれば、次の事実を認めることができる。

被控訴人濱中は、被控訴人会社が平成七年七月二四日に倒産して間もなくの同年八月ころから、本件各不動産のうちの工場建物を賃借して占有を開始し、「東洋技研」の屋号で製材用の帯鋸の目立て業を営んでいるが、その従業員は被控訴人会社の代表者夫婦及びその両親らである。

本件各不動産のうち土地は、いずれも被控訴人会社が右工場建物を所有して占有している。本件賃貸借契約の賃料は本件各不動産の評価額と比較して低額であり、その賃料も現実に支払われておらず、被控訴人会社に対する被控訴人濱中の債権と相殺されている。本件賃借権は譲渡転貸自由という、通常の賃貸借契約には付けられることのない特約が付されている。

(二) 右認定事実によれば、本件賃貸借契約が抵当権者にとって有利な契約内容であると認められる特段の事情も認められないから、本件賃貸借契約は、本件各不動産の価額を下落させていると認めることができる。

3  まとめ

以上一、二1、2によれば、本件賃貸借契約は根抵当権者の控訴人に損害を及ぼすものと認められる。

三  抵当権者に対抗できない濫用的短期賃借契約を解除することの可否について

1  本件各不動産のうちの工場建物の賃貸借契約は、いわゆる債権回収型の短期賃貸借契約であって、民法三九五条で保護する用益を目的とする短期賃貸借契約ではないと解される。また、本件各不動産のうちの土地についての賃貸借契約は、被控訴人濱中の占有を伴わないものである。

したがって、被控訴人濱中の本件賃貸借は控訴人の根抵当権に対抗できないものと解するのが相当である。

2 しかし、抵当権者に対抗できないいわゆる債権回収型の賃貸借契約であっても、それが抵当権者に損害を及ぼすものと認められる限りは、抵当権設定者による抵当不動産の利用を合理的な限度においてのみ許容するという民法三九五条の趣旨に鑑み、裁判所は、抵当権者の解除請求により右賃貸借契約を解除できると解すべきである(最高裁判所平成八年九月一三日判決判例時報一五七九号七三頁以下参照)。正常な短期賃貸借契約ならば解除されることがあるのに、濫用にわたる短期賃貸借契約ならば解除されることがないとする解釈は、結果的に濫用された短期賃貸借契約が保護されることになり、その不合理は明らかであるから(当事者も濫用された短期賃貸借契約だから解除できない旨主張する訳でもないから)、当裁判所は採用しない。

右によれば、抵当権者は、競売前に短期賃貸借契約を解除してその登記を抹消し、競売物件をより高く売却してより多くの被担保債権を回収できる実益が期待できるものである。

第四  結論

以上によれば、控訴人の本件賃貸借契約解除請求、及びその判決の確定を条件として、条件付賃借権設定仮登記の抹消登記手続請求はいずれも理由がある。

右と異なる原判決は不当であるから、本件控訴に基づき原判決を取り消した上、控訴人の被控訴人らに対する本訴請求をいずれも認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 大石貢二 裁判官 馬渕勉 裁判官 重吉理美)

別紙物件目録<省略>

別紙仮登記目録<省略>

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