高松高等裁判所 昭和24年(控)1380号 判決
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原審第一回公判調書に徴すれば審理の冒頭において裁判官が被告人両名に対し、氏名、年齢、職業、住居、本籍及び出生地等を質問した後刑事訴訟法第二百九十一条第二項所定の事項を告げた上被告人等及び弁護人に対し被告事件について陳述することがあるかどうかを尋ねた旨の記載があるのみで、検察官が起訴状の朗読をした旨の記載が存しないこと明らかである。而して右公判調書全体を精査するも裁判官が被告人両名に対し「この事実はどうか」とて起訴状記載の公訴事実を読聞かせた旨の記載が存するも、検察官が起訴状を朗読したことを窺うに足る記載は全然存しない。尚新刑事訴訟法第五十二条は旧刑事訴訟法第六十四条の規定と異り「公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されたものは公判調書のみによつてこれを証明することができる」と規定し、公判期日における訴訟手続で公判調書に記載されていない事項については公判調書以外の資料によつてこれを証明することを許しているのであるが、本件記録を精査するも検察官が起訴状を朗読した事実を認めるに足る資料が何も存しない。而して新刑事訴訟法の下においては起訴状の記載方式は頗る厳格となりその記載は裁判所を拘束し且つ被告人に防禦の目標を示すこととなるため、旧刑事訴訟法の如く検察官が被告事件の要旨を陳述するのみでは不充分なりとして新刑事訴訟法第二百九十一条第一項は検察官が必ず起訴状を朗読すべきことを要求し、右起訴状の朗読に対しては裁判長は釈明を求めることができるし、被告人又は弁護人は裁判長に対し釈明のための発問を求めることができるのである(刑事訴訟規則第二百八条参照)。従つて検察官による起訴状の朗読は当事者訴訟主義、公判中心主義の一段と強化した新刑事訴訟法の下においては公判審理の前提をなす極めて重要にして欠くべからざる手続であると謂わねばならない。今本件につき観るに前説示の如く検察官が起訴状を朗読したことを認めるに足る何等の資料が存しない以上結局原審は検察官の起訴状朗読なくして審理を進め判決をしたことに帰着し、かかる公判の審理は判決の基本となすことができないものであるから、右は判決に影響を及ぼす訴訟手続の法令の違反があるものと謂わなければならない。
(註) 起訴状朗読の有無につき控訴審において事実の取調をすることはもとより可能であり、原審の裁判官に照会をして事案を処理した例もある。