大判例

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高松高等裁判所 昭和25年(う)1092号 判決

記録を精査し、量刑不当論旨を右答弁の要旨を参酌して考察すると、本件犯行の動機、その計画性、惨忍性犯行後の情況、被害者遺族及び社会に対する影響その他諸般の情状洵に所論の通りであつて、原審の科刑は軽きに失するものと認めざるを得ないから原判決は刑事訴訟法第三九七条第三八一条に則りこれを破棄する。而して本件は訴訟記録並びに原審及び当審において取り調べた証拠により直ちに判決することができるものと認めるから、同法条四〇〇条但書に則り更に次の通り判決する。

原判決が証拠により認定した事実を法律に照すと被告人の拳銃不法所持の点は銃砲等所持禁止令第一条第二条同令施行規則第一条第一号罰金等臨時措置法第二条第一項昭和二五年政令第三三四号附則第三項に、強盗殺人の点は刑法第二四〇条後段に当るから、前者につき所定の懲役刑を後者につき死刑を選択し、以上は同法第四五条前段の併合罪であるが、その一罪につき死刑に処すべき場合であるから、同法第四六条第一項に則り銃砲等所持禁止令違反罪の刑を科さず、被告人を死刑に処し、押収のモーゼル拳銃一挺(証第一〇号)は本件強盗殺人の供用物件で被告人以外の所有に属しないから同法第一九条第一項第二号第二項によりこれを没収し、訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項に従い全部被告人の負担とする。

(原審検察官の控訴趣意)

原判決は銃砲等所持禁止令違反、強盗殺人の事実を認定しこれに対し無期懲役に処する旨の判決をしたものであるが被告人の本件動機犯行状況その後の情状等各般の情況に徴しその量刑甚しく軽きに失するものと謂はざるを得ない即ち

一 被告人の犯行動機等に何等同情すべき情状が認められない。

被告人は巡査在職中既に拳銃を不正に入手して所持し(記録四〇六丁)昭和二十二年八月経済取締に関し証拠物件の処理に不正容疑があつて諭旨免官され(記録二九九丁)爾来衣料品等の闇ブローカをして生計をたてる内昭和二十四年三月頃川久保鋳頭実と結託巨利を得ようとして麻薬の密売買を計画し(記録五三二丁)中山敏子外一名に対し甘言を以て二十四万円を被告人の折衝で出資させて川久保が他で調達した二十万円と共に之を九州別府方面に携行右麻薬の入手に奔走したが遂に失敗したことから右中山敏子等より追求を受け刑事問題にまで発展する危険を感じたところより本件犯行を決意するに至つたもので巡査在職中より悪性を有し本件犯行の動機に於ても前記の通りで一点憫諒の余地がない。

二 本件犯行は計画的に最も執拗に行はれている。

即ち被告人が犯行を決定したのは犯行の約一ケ月前の昭和二十四年十月上旬頃であつて自已が木材伐採搬出の下請をしていた四国林業株式会社高籔出張所主任窪田貞太郎が事務員筒井政男(本件被害者伝六長男)を同伴し毎月新居浜の本社へ人夫賃等多額の金を引出しに赴き四国山脈三森峠越へて帰所する事実を承知して居るところから同月十二日頃本件の拳銃に実包を装填して右三森峠越への山道に右両人を待ち受け所持金を強取しようと企て同所に赴いて路傍に待つ内右窪田筒井の両人が大金を所持して戻りかかつたのであるがこの場合は機を失しその目的を遂げなかつた(記録六一七丁)事実に徴しても被告人の執拗な計画的犯行であることを如実に示しているもので偶然犯意を生じて為された犯罪とはその性質を異にしている。

三 本件犯行は惨忍性を極め社会に及す影響頗る大なるものがある。

被告人は本件犯行当日雨中人通りの稀な好条件を利用し而も右三森越の峻路を撰び前記窪田等を殺害し所持金を強奪すべくモーゼル式拳銃に実包八発を装填携行して路傍で待つ内筒井伝六が雨傘をさして通り懸つたのを望見し窪田が大金を所持し単独で帰つたものと誤認し密林内の山道を尾行して行き同人の背後から一弾を狙撃し背部から臍下に貫通させ同人が倒れるやその左側面より連続四弾を胸部等に発射各命中させ更に顔面(込髪附近)に止めの一弾を発射即死せしめ(記録二六四丁同二七二丁同二八五丁同六一五丁同五五丁)たものであるが最後の一弾を発射する頃筒井伝六である事を感知したに拘らず敢えて止めをさすべく最後の一発を射込んだ上同人所持の雑魚等在中のリユツクサツクを強取したもので其の犯罪手段方法洵に惨忍を極めた稀に見る兇悪犯罪であつて著しく社会の耳目を衝動した事案である仮りに結果から観て本件強取の財物が軽微であつたとしても夫れは偶々目的の人物に人違いがあつた事によるものでその錯誤がなかつた場合は多額の金員強取の目的が遂げられていた筈であつて偶々奪取物が少なかつた事実は敢て情状酌量の資料とするに足りない。

四 犯行後の情状

抑々本件は被告人が巡査在職中の昭和二十二年五月六日頃泰村駐在転出に際し有志二、三名による送別宴の時山腹の松の木に拳銃の試射をした事実及退職当時右拳銃が私物であるのに何等の手続をして居らず現に所持する疑あるを探知し試射の現場を見分の結果該松の木に二発の拳銃弾が残存しているのを発見し内一弾を摘出し且右試射の打殼薬莢一個を当時有志に於て拾得所持していたので此の両者と本件被害者の屍体に盲貫されていた弾体及現場押収の弾丸並打殻薬莢を科学捜査研究所に送附鑑定の結果同一拳銃に依り発射されたもので而も拳銃はモーゼル式の物と判定されるに至つた(記録九〇丁同一三八丁)のみならず被告人が金に窮していた事実及犯行当日犯罪現場より約三粁下方の路傍の仕事場に行つた筈であるのに仕事に従事した事実が認められない等凡ゆる証拠が蒐集された上追及されたにも拘らず拳銃を氏名不詳の復員軍人より貰つて所持中川久保鋳頭実に売約していた折柄本件発生の四、五日前右川久保が売先が出来たとて取りに来たので渡したが犯行のあつた翌日又同人が売れなかつたと言つて返して来たと恰も本件犯行が川久保に拳統を渡してある間に行はれた如く罪責を転嫁する供述をしていた(記録五五六丁)のであるが川久保は本件発生当時東京都に在住し帰県の事実がなくアリバイが成立した為弁解の余地がなくなるや拳銃を武中四郎より貰い受け不正に所持中川久保等と麻薬密売買を計画し資金を調達して失敗した所から前記窪田等を殺害して所持金を強取しようと計画し犯行当日現場に待ち受けたが両人等は帰らず悲観の余り自殺をしようとして拳銃を自分の首に擬したところ伝六が通りかかり拳銃を押へられ制止されんとて奪い合う内拳銃の誤発が起り連続四、五発発射あり過失死に致したのであるがその過失死を蔽はんとして何人かが強盗殺人の罪を犯したかの如く装う為リユクサツクを持ち去つたと弁解し(記録五九七丁)たのであるが現場で銃声を聞いた曾我部徹の証言(記録二八五丁)に依り連続発射に非らざる事実及医師鑑定書(記録九二丁)等の証拠に基き追及の結果遂に本件公訴事実を自供するに至つた(記録六一五丁)ものであるに拘らず公判審理に於て再び前記誤殺事実を主張した次第であつて毫も改悛の情が認められない以上各般の情状に徴する時被告人に対して無期懲役刑を言渡したことは刑の量定甚だしく軽きに失するものと謂はざるを得ない。仍て刑事訴訟法第三百八十一条に則り控訴した次第である。

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