高松高等裁判所 昭和26年(う)550号 判決
しかし原価の鑑定を為すに当つては常に必ずしも鑑定の対象たる現物を直接観察しなければ鑑定が出来ないと言うものではない。
特別の知識経験を有する者が信頼し得る資料を基礎として科学的に一定時におけるその物の通常の状態における価額を算出することは当然為し得るところである。殊にその価額鑑定の対象物が既に滅失したとか紛失したとか言う様な場合には所詮右の方法によらざるを得ないわけである。
今本件につき之を見るに、良友丸は愛媛県北宇和郡北難村小日堤の真島沖合に入港して密輸入を遂げた後所在不明となり遂に発見するに至らなかつたので、宇登鑑定人は最も信をおくに足る資料として曩に本件良友丸が他の密輸入に使用された際昭和二三年一〇月九日鑑定人齋藤徳雄によつて為された鑑定を基礎としてその当時から鑑定時に至る迄の間の減損価額を減価償却率によつて算定し以て昭和二四年八月当時の価額を鑑定したものであるから、右鑑定価額は右良友丸の通常の状態における価額として差支ない。右宇登鑑定人は原審に於て証人として出延した際被告人の質問に対し、若しあなたの言う様に荒波にあつたり或は難破したりしたのならばもつともつと原価償却をしなければならないと思う、実際に船を見ないことには、はつきりした鑑定は出来ない旨供述しているけれども、右は特殊の減損があつた場合を想定しての仮定の上に立つた供述であることは明らかであり而も記録を精査しても本件良友丸が難破したと言う様な特殊の損傷があつたことの証左もないのである(船は運航に供するものであり運航に使用して居ればそれに伴い当然老朽もし破損も生じ修繕を要する様になるのは必然でその様なことは通常の減損と言わなければならない)から左様な特別の価額減損原因がなかつたものと見なければならないのである。従つて宇登鑑定人が前記の様な供述をしていてもその鑑定の結果を証拠とする価値なきものとして排斥しなければならないものではない。よつて論旨は理由がない。