大判例

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高松高等裁判所 昭和27年(う)1029号 判決 1953年4月27日

控訴人 検察官副検事 大野照雄

被告人 高岡藤重 弁護人 山本芳三郎

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年及び罰金五千円に処する。

但し本裁判確定の日より参年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金弐百円を壱日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

差押に係る雲助二個、一升壜十本、コップ大小二個(但し破損品)、蓋付かめ一個及び漏斗一個(以上大洲税務所保管)並に焼酎九升三合の換価代金三百四十二円はいずれもこれを没収する。

理由

検察官(松山地方検察庁大洲支部検察官事務取扱副検事大野照雄)の控訴趣意並に弁護人山本芳三郎の答弁は別紙記載の通りである。

論旨は原判決が原判示第一の罪についても懲役刑を科したのは法律の適用を誤つていると謂うのである。仍て原判決を検討するに原判決は第一事実として被告人が昭和二十三年四月より昭和二十四年四月三十日迄の間肩書自宅において密造焼酎並濁酒計一石一斗七升七合位を田村義孝外数十名の者に一升当り二百五十円乃至三百八十円位で販売し以て政府の免許を受けないで酒類の販売業を為した事実を認定し右所為に対し昭和二十四年法律第四十三号による改正前の酒税法第十七条第六十四条第一項第二号を適用した上併合罪の関係に立つ原判示第二乃至第四の各罪と共に被告人に対し懲役刑を科しているところ、前記昭和二十四年法律第四十四号(昭和二十四年五月一日施行)による改正前の酒税法第六十四条第一項に定むる刑は罰金刑のみであつて懲役刑を規定していないこと所論の通りである(尚その罰金額は昭和二十二年十一月三十日法律第百四十二号による改正後は五万円以下、昭和二十三年七月七日法律第百七号による改正後は十万円以下)。従て原判決が本件につき被告人に対し懲役刑のみを科したのは明かに法律の適用を誤つて居り右誤は判決に影響を及ぼすこと云う迄もない。この点についての弁護人の答弁は首肯し難く論旨は理由がある。

次に弁護人の答弁中原判示第一の罪については既に公訴の時効が完成しているとの主張につき考察するに、原判示第一の事実は被告人が昭和二十三年四月より昭和二十四年四月三十日迄の間政府の免訴を受けないで酒類の販売業をなしたとの事実であるところ、本件公訴提起の日は右犯罪行為より三年以上経過した昭和二十七年九月三十日であり、右の罪は前叙の如く罰金に該る罪であつてその公訴時効の期間は三年であること(刑事訴訟法第二百五十条第五号参照)所論の通りであるけれども、右酒税法違反については公訴時効完成前である昭和二十六年五月十六日被告人に対し大洲税務署長より通告処分がなされていること記録上明かであり、国税犯則取締法第十五条により公訴の時効は中断されたものと謂はなければならない。而して新刑事訴訟法は、公訴時効中断の制度を廃して公訴時効停止の制度のみを採用していること所論の通りであるけれども、新刑事訴訟法施行と同時に他の法律に規定せられた公訴時効中断の制度も当然廃止されたものと解することはできず、国税犯則取締法第十五条の規定は公訴時効の中断につき新刑事訴法の例外をなすものと謂はなければならない。

原判決が弁護人の公訴時効完成の主張を排斥したのは正当であり所論は採用できない。

仍て刑事訴訟法第三百八十条第三百九十七条により原判決を破棄し同法第四百条但書の規定に従い当裁判所において自判することとする。

罪となるべき事実及びこれを認める証拠は原判決の示す通りである。(但し原判決挙示の証拠中告発書、通告書案及び郵便物配達証明書を除く)。

(法令の適用)

原判示第一の所為につき昭和二十四年四月三十日法律第四十三号酒税法等の一部を改正する法律附則第二十一項同法律による改正前の酒税法第十七条第六十四条第一項第二号罰金等臨時措置法第二条

原判示第二及び第三の各所為につき昭和二十八年法律第六号附則第十四項、同法律による改正前の酒税法第五十三条第六十二条第一項第三号(各懲役刑選択)

原判示第四の所為につき昭和二十八年法律第六号附則第十四項、同法律による改正前の酒税法第十四条第六十条第一項(懲役刑選択)

刑法第四十五条前段第四十七条第十条(原判示第四の罪の刑に併合罪加重)第四十八条第一項

刑法第二十五条第十八条

酒税法第六十二条第二項第六十条第四項

仍て主文の通り判決する。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

検察官の控訴趣意

本件原審判決には法律の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすこと明かであるから当然破棄すべきものと思料する。

即ち原審判決は第一訴因につき被告人は政府の酒類の製造並に販売業等の免許がなく何等法定の除外事由がないのに昭和二十三年四月より昭和二十四年四月三十日迄の間喜多郡内子町大字内子甲一二六一番地の自宅に於て政府の免許を有しないものの製造した密造焼酎並濁酒一石一斗七升七合位を同郡内子町大字内子甲一二六九番地の田村義孝外数十名の者に一升当り二百五十円ないし三百八十円位で販売し以て無免許で販売業をなした、と認定し昭和二十四年法律第四十三号によつて改正された以前の酒税法第十七条第六十四条第一項第二号を適用しこれと第二訴因乃至第四訴因とは併合罪に該るものとし夫々懲役刑を選択して被告人に対して懲役一年六月三年間執行猶予の判決を言渡したものであるが昭和二十四年法律第四十三号による改正前の酒税法即ち昭和二十二年法律第百四十二号一部改正の酒税法第六十四条には五万円以下の罰金に処する旨規定されてあり懲役刑の定めがないので同訴因については当然罰金刑を科すべきに拘らず之に懲役刑を科したものであるから明かに法律の適用を誤つた違法がありその誤が判決に影響を及ぼすこと明白である。

弁護人山本芳三郎の答弁

(一)控訴の趣意は原審が起訴第一訴因につき判示の如く事実を認定しながら昭和二十四年法律第四十三号によつて改正される前の酒税法第十七条第六十四条第一項第二号を適用し、これと第二乃至第四訴因とは併合罪に該るものとし、夫々懲役刑を選択して被告人に対し懲役刑のみの判決を言渡したのは昭和二十四年法律第四十三号による改正前の酒税法、即ち昭和二十二年法律第百四十二号一部改正の酒税法第六十四条には五万円以下の罰金に処する旨規定されてあつて懲役刑の定めがないので起訴第一訴因については当然罰金刑を科すべきに拘らず之に懲役刑を科したのは明かに法律の適用に誤があつて、その誤が判決に影響を及ぼすこと明白であるから原審判決破棄の判決を求めると言うにあるようであります。原審論告の際控訴人は第一訴因につき罰金五千円、第二乃至第四訴因につき懲役一年六月及び第二訴因につき各所為毎罰金千円宛合計金二十四万一千円、第三及第四訴因につき各罰金五千円宛を科するを相当とすとの求刑でありましたが以上の意見は併合罪の技術的一罪であることを知らない又は誤解せる意見であると思います。

(二)刑法第四十五条前段は併合罪を定義して確定裁判を経ざる数罪を併合罪とすと規定しており学説判例は併合罪を所謂連続犯とともに技術的一罪であると言つており数罪を合一して一個の刑を言渡すべきものであることは顕著であり御庁の判例とするところでありまして(昭和二十五年(う)第七八三号昭和二十六年三月二十二日第一部破棄自判判決)弁護人もその妥当を信ずるものであります。

(三)原審は一般原則に従い第一乃至第四訴因の数罪を合一して一罪とし諸般の事情を斟酌して刑法第四十五条前段及び同法第六十六条第二十五条を適用して懲役一年六月但し三年間執行猶予の判決を言渡されたのでありまして検察官の意見の如く第一訴因につき罰金刑を第二乃至第四訴因につき懲役刑を各選択の上二個の刑を合一して被告人を懲役及び罰金に処する旨の一罪の言渡をされなかつたことは全く原審の専権に属するところでありまして必らずしも法律の適用に誤がありその誤が判決に影響を及ぼすこと明白であるとの刑事訴訟法第三百八十条所定事案に該当するものではありません。

(四)原審判決刑の量定に不服があれば右判決に対し控訴申立のできることは刑事訴訟法第三百八十一条の明定するところでありますが、原審は前記の如く第一乃至第四訴因の数罪を合一して一罪とし之に罰金より重い懲役刑を選択し唯諸般の事情斟酌の結果執行猶予を言渡されたものでありまして本件控訴の趣意が懲役刑は重きに失し軽い罰金刑を科すべきを相当とすると言う意味の刑の量定に対する不服による控訴とは思いません。

(五)若し仮にそうでありましたら被告人は諸般の事情殊に金銭的に恵まれていない被告人の現境をよく御斟酌戴きまして実質的には最も軽い恩情溢るる原審判決に少しの不平もなく満服的に服罪したいのでありますから弁護人は特に御願いいたします。

被告人は貧困の家に生れ、小学校卒業とともに内子町森文醸造株式会社雑役夫に傭われ従事中、昭和十二年満洲事変勃発と同時に第一次に召集され直ちに満洲に出征し同年九月二十四日ラテンチンの戦闘で右前膊骨折破片創の重傷を受け軍病院に入院治療を受け翌十三年七月兵役免除となり除隊帰郷しましたが爾来小指及び薬指の使用全然不能のため前記森文醸造株式会社に従来通り雑役夫として傭われ就職はできましたが固より一人前の作業ができないので収入尠く被告人の収入だけでは家族四人の生計を維持することができず不本意ながら本件を犯したのでありますが昭和二十六年四月二十四日検挙以来改心謹慎して居て、この種犯罪を再行する虞は絶対にありません。又被告人の家族は現在子女出生のため六名に増加して生活は益々苦しく公的扶助を必要とする一歩手前であります。

殊に第一訴因の犯罪行為は元来なら罰金につき規定せる消滅時効三年を経過せる昭和二十三年四月乃至昭和二十四年四月末日までの古い行為であります。原審検察官は第一訴因につき所轄税務署長よりの通告処分により国税犯則取締法第十五条により時効中断の効力を生じておるとの意見でありましたが新刑事訴訟法には時効停止の規定はありますが時効中断の規定なく弁護人は諸法令中の時効中断に関する規定は総て刑事訴訟法改正と同時に昭和二十四年一月一日以降廃止されたと解釈すべきものと思います。

原審は是等諸般の事情を御斟酌戴きまして懲役刑のみを選択の上慈悲ある執行猶予の判決を言渡されたものでありまして御庁におかせられましても是等の点十分御賢察下さいまして控訴棄却の御判決を賜わり訴訟促進の叫ばれておる折柄速かに訴訟完結を願う次第であります。

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