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高松高等裁判所 昭和27年(う)856号 判決 1953年3月09日

控訴人 被告人 川西清

弁護人 阿河準一

検察官 大北正顕

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人阿河準一及び被告人の各控訴趣意は夫々別紙記載の通りである。

弁護人の控訴趣意について。

論旨は原判決が本件竹竿を竹ヤリと断定したのは不当であり、また被告人は本件竹竿そのものを隠して所持していたものではないから被告人の本件行為は軽犯罪法第一条第二号に該当しないと謂うのである。しかし、原判決挙示の各証拠に徴すれば被告人は原判示日時場所において竹棒二本(証第一号)をその尖端を含む上部約一尺位を新聞紙で包んで携帯していたこと及び右竹棒はいずれも長さ約一米五十糎大でその尖端を斜めに尖らせたものであること明らかである。仍て被告人の本件竹棒携帯が軽犯罪法第一条第二号に該当するや否やにつき考察するに、右の如き長さで且つその尖端を尖らせた竹棒は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具に該当するものと謂うべきであり、被告人がその尖端部分を新聞紙で包み尖端が尖つていることを隠して右竹棒を携帯していた以上竹棒そのものを隠していなくても右第二号にいわゆる「器具を隠して携帯していた者」に該当するものと謂わなければならない。蓋し本件竹棒が「人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具」と見られる主たる理由はその尖端部分が尖つている点にあるからである。仍て進んで本件竹棒の携帯につき正当な理由があつたか否かにつき考察するに、被告人は原審公判廷において本件竹棒は当日高松地方裁判所における刑事事件(所謂平和病院事件)の公判に傍聴人の気勢を挙げるため持参した赤旗の旗竿にするためこれを携行していたものであると主張しているところ、単に旗竿に使用する目的のみで被告人が本件竹棒を携帯していたものと認め難いことは原判決説示の通りであり、原審が取調べた各証拠を仔細に検討し記録上窺える諸般の情況を考慮に容れ健全な社会通念に照して判断するときは本件の場合尖端の尖つた竹棒を携帯するにつき正当な理由があつたものとは到底認められない。従つて被告人の本件行為は軽犯罪法第一条第二号に該当するものと謂うべきであり、原判決の事実認定並に法律の適用は相当であつて論旨は首肯し難い。

被告人の控訴趣意第一点について。

本件は拘留又は科料に該る罪であり所謂必要的弁護の事件でないのに拘らず(刑事訴訟法第二百八十九条参照)原裁判所は被告人に対し本件は弁護人がなければ開廷できない事件である旨の通知を発していること記録上明かである(記録第二丁、通知書控第三項参照)。従て右の通知は誤であること所論の通りであるけれども、被告人が右通知により本件を必要弁護の事件と誤解し弁護人依頼等につき不必要な出費をもたらしたとしても右の如き手続の過誤は何等判決に影響を及ぼすものではないから論旨は理由がない。

同第二点及び第三点について。

論旨は要するに本件竹棒携帯は人の生命を害し又は人の身体に重大た害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた場合に該当せず、また本件の如き行為を軽犯罪法違反に問擬するのは同法第四条の趣旨に反すると謂うのである。しかし被告人の本件竹棒携帯が軽犯罪法第一条第二号に該当することは前記判断において示した通りであり、小海村及び引田駅において巡査が本件竹棒を携帯している被告人に対し何等の警告を発せずまた検挙しなかつた事実、その竹は所論の如き「今年竹」であつた事実その他論旨主張の諸点を考慮に容れても原判決の認定が誤であるとは認められない。尚論旨は本件の如きが軽犯罪法違反となるとせば、団旗、校旗等の旗竿で尖端が槍の如く尖つたものを携帯することがすべて軽犯罪法の対象となるに至ると主張するけれども、本件は被告人が正当な理由がないのに先の尖つた竹棒をその尖端部分を隠して携帯していたがために軽犯罪法第一条第二号に該当するのであり所論の場合と同一に論ずることはできない。而して軽犯罪法の適用に当つては国民の権利を不当に侵害しないように留意しその濫用を十分戒むべきであること(同法第四条参照)は云う迄もないところであるが、原審が取調べた各証拠を精査し諸般の情況を考慮に容れても本件行為を軽犯罪法により処断することが同法第四条の趣旨に背反するものとは認められない。これを要するに原判決に事実誤認又は法律適用の誤はなく論旨は採用できない。

仍て本件控訴は理由がないから刑事訴訟法第三百九十六条により主文の通り判決する。

(裁判長判事 坂本徹章 判事 塩田宇三郎 判事 浮田茂男)

弁護人阿河準一の控訴趣意

原判決は被告人が所持していた竹竿を竹ヤリと断定し又尖端を包み隠していたと認定しているが証拠物たる本件の竹竿を一見して判る通りこんなものを竹ヤリと断定することは常識に反する。又証人佐藤の証言でも判る様に被告人は何等この竹竿の先端をわざわざ隠そうとしていたのではなく汽車の中等で危いから新聞紙でくるんだと言つている通り別に竹竿その物を隠して持つていたのではない。

軽犯罪法第一条第二号の規定は人の身体に重大な害を加えるのに使用されるような器具を隠して携帯していた者とあつて法の要求する所は器具そのものを隠して携帯することが要件となつているのである。本件の竹竿は公然と所持していたことは明らかでありたまたま先を新聞紙でくるんでいたことは決してこの器具そのものを隠して所持していたことにはならない。原判決は法の適用を過つていると考えるので無罪の判決あらんことを求める次第である。

被告人の控訴趣意

一、公判手続について、(イ)本件は最初高松地方裁判所に公判が請求されたが手続相違のため却下され改めて高松簡易裁判所に廻され、同法廷で公判が開かれた。(ロ)高松簡易裁判所の公判に際し私宛の出廷通知状には本件に関して被告人が弁護人を選任するのは被告人の任意であるはずの処を「弁護人選任は必ずしなければならぬ」旨明記して被告人である私をまどわし、私に不必要な出費をもたらした。

二、事実について、(ハ)私が佐藤証人と大川郡小海村を出発する時小海村駐在の岡本巡査は私達両人が旗を持つて高松市へ行くということを充分知つていた。(ニ)引田駅に於ても三本松署の佐々木巡査は岡本巡査同様これを知つていた。(ホ)私と佐藤証人は人の生命を害したり人の身体に重大な害を加えるのに使用される器具を隠して携帯していなかつたからこそ右両巡査も私達両人に何の警告もせず検束もしなかつた。(ヘ)旗竿は当日朝切りとつた当年伸びたばかりのいわゆる「今年竹」でもし人を突き刺そうとすれば人の身体に重大な害を加える前に旗竿そのものが折れるか曲るというようなものであることは玩具の刀がいかに立派な鞘におさめられて本物の刀剣の如く見えていても人を切つたり、突く場合には人の身体に重大な傷害を与えるよりも玩具の刀そのものが曲つたり折れてこわれるのと同様であります。(ト)だからかかるものが鞘におさめられていようと、風呂敷に包まれていようと又紙にくるまれていようと兇器を隠して携帯していたと言われない。(チ)先がとがつているのは竹を切る時のならわしで先がとがつているから人の身体に害を加えるというのは当らない。先に金属性の槍の穂の如きとがつた物をつけた旗竿は校旗、団旗、組合旗などの常識である。

三、法の適用について、(リ)本件が軽犯罪法違反となるならば、今後さきにあげた校旗、団旗、組合旗など金属性にせよ他のものにせよ先のとがつた旗竿が槍として取扱われ、これを携帯することが軽犯罪法の対象とされるに至り国民の権利が不当に侵害されるおそれが多分にあるので軽犯罪法第四条の趣旨の立場からも控訴する次第です。

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