大判例

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高松高等裁判所 昭和27年(う)939号 判決

よつて右山口君子に対する人工姙娠中絶の処置が弁護人所論のように母体の生命を保持するために為された応急の医療行為とみるべきものかどうかについて更に原審の掲げている証拠に依つて検討してみると山口君子は元々鎌田マツエの許で芸妓をしていたものであるが昭和二四年二月頃月経閉止しその後身体の変徴等起り姙娠の症候があつたので同年五月頃前後約一ケ月に亘り自ら通経剤を多量に服用していたが通経乃至流産するに至らなかつたので同年五月一六日頃居町吉田医院に於て山田医師の診察を受け更に同月一八日被告人の診察を受けるに至つたものであつて当時被告人の診断では姙娠四ケ月に該ると見られたが既に子宮口は小指大位に開いて出血があり且同時に君子は下腹部痛を訴へ所謂切迫流産の徴候がありしかも当時同女には十二指腸虫症の現症も認められたので被告人は母体の生命に危険を及ぼす虞れありと判断して即時人工姙娠中絶手術を決意し君子を同医院内に入院させ子宮内にフージ一個を挿入しよつて約二日後に胎児を排出せしめるに至つた事実を認めることができる、この場合即ち流産開始の徴候が認められた場合医師としては寧ろ流産防止の処置を試み一応経過を観察して而も尚出血が止らず流産進行の不可避に及んで初めて人工姙娠中絶乃至子宮内容除去術を施行するのが通常一般の処置と考へられるのであるが飜つて山口君子の既往症及び当時の現症について考へてみるに同人は前記の通り当時十二指腸虫症の現症があり又その後約半年後の診断に依り判明したところでは左側肺浸潤の病状があるところよりして本件当時にも何等かの身体的障碍があつたと見られるし被告人の診察当時既に子宮より相当の出血があり切迫流産の状態にもあつたのみならず元々山口君子はその姙娠の事情よりして出産を望まず前記の通り約一ケ月に亘り多量の通経剤を服用していた為相当の下腹痛を訴へて居たのであるから流産防止の処置をこうずるよりも寧ろ母体の生命の危険を虞り母体の生命をより重視して人工姙娠中絶手術を施すことは指定医師の治療行為としては一概にその非を責むべきではなく寧ろ妥当の処置と考へられる、優生保護法第一二条は所論の通りこの場合臨機の処置を一応指定医師の判断に委ねる法意と解せられるので結局被告人の前記人工姙娠中絶手術はその治療行為として適法なものと認定するのが相当であるから右被告人の行為を堕胎罪と認定したのはその事実認定に誤りがありこの違法は当然判決に影響するから論旨は結局理由がある。

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