高松高等裁判所 昭和28年(う)257号 判決
論旨は被告人は殺意がなかつたにも拘らず、原判決が被告人の殺意を認定したのは誤認であると謂うのである。しかし被告人は谷岡秀忠の原判示の如き言辞及び態度に憤激して極めて至近距離において自宅より携えて来た鋭利な刺身庖丁で、右秀忠の胸部を相当強く突き刺したことは原判決挙示の各証拠に徴し明かであり、原判決が殺意の点についての証拠説明において説示する如く証拠上窺える諸般の状況より推して被告人は殺意を以つて右秀忠を刺した事実を十分肯認することができる。もとより本件の如く憤激の余り昂奮して相手方に対し攻撃を加える場合において当該兇器で相手の身体の重要な部位を刺せば相手が死ぬかも判らないと冷静に思考する余裕のないことは所論の通りであるけれども、鋭利な兇器で相手方の身体の重要な部分を強く突き刺すが如き行為に出た場合その行為者は相手方の貴重なるべき生命を全然無視しているものであり、刑法上殺意があつたものと謂はなければならない。